Hunting!~ユクモへの旅路と狩人娘と、時々オトモ~   作:Yuzuki0613

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第2話-2 渓谷への試練

村の一番頂上に、一際大きな赤い屋根瓦のユクモ村村営ハンターズギルドは在った。このギルドの最大の特徴は、一番規模の大きな共同浴場が併設されている所にある。湯屋を思わせる建物の雰囲気、入り口にかけられた大きな暖簾を潜り、テルはギルド内をきょろきょろと見回した。

 ユクモ村所属のハンターになれば浴場は誰でも利用出来るらしい。豊かな湯量を誇る村の温泉を引き込んだ露天風呂は、狩りの疲れが癒せると専らの評判だ。この温泉目当てでユクモ村を拠点にするハンターも少なくはないとか何だとか、テルは事前に街で噂を耳にしていた。

背に見上げる程の大剣や太刀を背負ったハンターや、大型生物撃退用の最新式のボウガンを背負ったガンナーが、湯に続く暖簾を潜り脱衣所に入ってゆく。

「邪魔だよ、どきな」

「わ、すみません…」

 露天風呂に興味があり、浴場が見えないだろうかとぴょんと飛び上がっていた彼女を屈強な男性ハンターが押しのけた。鋼の板を無数に打ち付けた重そうな鎧は今狩りから帰ってきたばかりのように埃まみれで、そこからのぞく二の腕も丸太のように太く日焼けしている。野太い声で怒鳴られ、テルはすくみあがった。

「見ねえ顔だな…新入りか?」

 目深に被った兜のバイザーを上げ、彼はテルを上から下まで見回す。

「そうなんです、あの、わたし…」

「ああ、受付嬢ね。あっちがカウンターな、そこ行きゃ判るだろ。人出が足りないってぼやいてたからな。まあこれからよろしく頼まあ」

 男性ハンターは一人で納得し、唇の端をにやっと吊り上げると彼女の背中をばんと叩いてさっさと暖簾を潜り脱衣所へ向かった。見かけによらず気さくな性分のようだが、多少早合点の傾向があるらしい。彼女は否定の隙すら与えてもらえず、まごまごと口を開きかけてがっくりと肩を落とした。

「やっぱり、わたしハンターに見えないんだ…」

 一度くじかれた心を頬を叩くことで取り返し(一体、今日は何度頬を叩いているのだろうか!)彼女は先のハンターに教えてもらったギルドカウンターへと向かった。

「こんにちは、ユクモ村にようこそ」

 巨大なアイルー型のだるまが鎮座し、ぼんぼりのような東洋風の灯りが幾つも下がるカウンターの奥で、鮮やかな秋桜色をした装束を身に纏った少女が微笑んだ。花の蕾のように袖口が絞られた「撫子」という装束に、顎の下で切りそろえられた黒髪がさらさらと愛らしい。つぶらで形の良い瞳がにっこりと細められる。

「受付嬢の募集を見てくださったんですね。面接についてご説明しますのでこちらへどうぞ」

 ここでもか、と再びテルは小さなため息をついた。

「あの!お気持ちは嬉しいんですけど…わたし、これでもハンターなんです。ちゃんとハンターの証も持っています。ユクモ村の専属試験を受けにきたので手続きをお願いできますか?」

 受付嬢の微笑みの形はそのままえっ!という形でしばし固まる。しかしテルの突きつけたハンター証を引ったくり、ためつすがめつ見た後で確かに本物ですねとつぶやいた。

「それにしても、あなたみたいな女の子がハンターだなんて初めて見ました。何ていうか、細いし小さいし、大丈夫ですか?今からでも受付嬢の募集に応募できますよ」

 可愛い顔をして随分はっきりと物を言う性格らしい。

「それでもハンターに挑戦されるんですね…。解りました、受付票は確かに受理しましたので!それでは、簡単にハンター試験について説明しますね」

 ユクモ村の専属ハンター試験は、一週間の猶予が与えられる。その中で採取クエストと討伐クエストという、2つの依頼を村から受ける形になる。

採取クエストとは、村に必要な物資やユクモ村と周辺都市の交易に使用する鉱石や特産物などを、自然界のフィールドから一定量を採取する依頼を指す。人間の気配が濃い村周辺であれば大型のモンスターが出没しないため村の人々でも採取や栽培が可能だが、量を求めて渓谷の未開の地に入る際はモンスターとの接触は避けられない。その場合は、採取クエストとしてギルドに依頼し、専門職であるハンターが採取に向かうのである。

 対し、討伐クエストとは村周辺に縄張りを作った大型モンスターや、増えすぎた小型モンスターを討伐してくる依頼の事を指す。当然、討伐クエストの方がモンスターとの接触機会も戦闘機会も多いため危険度は高い。

しかし実入りがそれだけ多いのも事実であり、倒したモンスターの素材も手に入る為、ハンターの活躍の機会といえばこの討伐クエストとも言えた。

「今回の採取クエストは特産タケノコの納品。討伐クエストは、青熊獣アオアシラの討伐となります。期限は明日から一週間。その間は、村が提供しているハンター専用の住居を格安で手配致します。温泉も利用出来ますし、食事も食堂兼酒場のミールクーポンをお渡し出来るので、自由に利用してくださいね。

ただし!期限を過ぎますと、住居や食事の特別手当は利用出来なくなりますので、通常料金を実費でご負担頂く形になります。クエストも一度失敗となり、その後の再挑戦はクエスト受注料金がかかります。なので出来るだけ一発で合格しちゃって下さい!」

 明るく言い放ち、受付嬢はぐっと親指をつきだした。しかし対するテルは改めて厳しい条件が並んだ規約を前に生唾を飲み込む。一週間で合格出来なければ、正式なハンターへの道は遠のいてしまう。路銀も心もとない今、試験を延長してまでユクモ村に滞在できる可能性は薄そうだった。

「ああっと!肝心な事を忘れてました。討伐クエストに関しては、初心者が渓谷に入山する事もありますし、危険が伴うので必ずユクモのハンターと二人一組で参加してください。先輩ハンターのチョイスはお任せ致しますので、酒場とかで声をかけるなり、お知り合いにお願いするなりして手配してくださいね。ええっと、こんなものかな…何か他に質問ありますか?」

「先輩ハンター…あの!こちらに、サヤカさんっていうハンターさんはいますか?わたし、彼女を探してるんです。討伐クエストの相棒をお願いできないかと思って」

「サヤカさん…ですか?あ、ああ!あの太刀使いのサヤカさんですね!確かにユクモ村にハンター登録されてます」

 専属ハンターの名簿らしきものをめくりながら、受付嬢は頷いた。

 彼女が活躍している。改めてテルはサヤカという名の懐かしさに胸が厚くなるのを感じていた。

 彼女と別れたのは十年以上も前のことだ。おぼろげな記憶に残る、懐かしい好ましさ。やりとりしていた手紙の文面の暖かさ。サヤカがこの場に居る、その事を思うだけで心は逸る。

「サヤカさんは今丁度クエスト受注中ですね。でもラッキーですよ!クエストを終えて帰ってきています。そろそろ村に着く頃だと思いますよ」

「本当ですか!サヤカさん、すごく久しぶりで…優しくて、お淑やかで、会えるのが楽しみなんです」

 満面の笑顔になるテルに対し、受付嬢は驚きとぎこちない笑みを返す。

「サヤカさんが…優しい…お淑やか?」

 その時だった。

「人の名前を何度も言わないで。私に何の用?」

 流麗な声が聞こえ、ギルドの奥の扉から青い鎧に身を包んだ細見の女剣士が姿を表した。

 しなやかな身のこなしに、雷狼竜の鱗で作られた上級の鎧が煌めく。腰まで届く艶のある黒髪を払い、険のある眼差しをこちら側に向けた。切れ長の瞳の色は印象的な月色。戦乙女という言葉が似合う、凛とした少女に成長した、サヤカその人が立っていた。

「サヤカさん…サヤカさんっ!お久しぶりです!わたし、テルです!」

 彼女の姿を認め、テルが駈け出した。かつての大親友はきっとその凛とした表情を崩して微笑むだろうと信じて。

「テル…!?貴女、まさか…どうして」

 サヤカの表情に現れたのは、驚愕。テルに抱きつかれ、彼女の身体が揺れる。

「わたし、ハンターになったんです!だからこれからはユクモ村でずっと」

 その時、満面の笑みを浮かべるテルの頬に、バチィィィン、と大きな衝撃が走った。目から火花が出るような痛みに驚き、テルは耐え切れず床にへたりこむ。少し遅れて認識した。サヤカに振りほどかれ、強烈な平手打ちを見舞われた、という事実を。

「え…?」

「テル。どうして、来たの」

 自分を見下ろすサヤカの瞳が前髪に隠れて見えない。

 感情を押し殺したような、冷たい瞳。

「手紙で書いたわよね。…ハンターになんて絶対なるなって」

「サヤカ…さん?」

「貴女に話す事なんて何も無いわ。…帰りなさい。貴女にハンターなんて似合わない。そして、絶対になれない」

 サヤカが背に負う太刀のような、峻烈にして鋭利な一言が胸に突き刺さる。

 ユクモに着くまで感じていた胸の高鳴りも、すべてが音を立てて崩れていく。

 テルは床に座り込んだまま、呆然と自分を顧みず歩いてゆくサヤカの足音を聞いていた。

 

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