「マジでに何もかもなくなっちまった……」
目の前の光景に、心が折れる音がする。
本庁に設置された大出力のエネミーソナーにより感知された、今までにない大規模反応に、車で緊急出動したのは覚えている。
たまたま別件出動の現場近くにいたため、ハーモナイザーを装備していたのが幸いしたのだろう。爆心地からの変換作用に巻き込まれなかったようだ。
そう、自分だけは。
街が消滅していた。
光に襲われる前までいた港区のビルが立ち並ぶ光景は消えうせ、気づけば深い森の中にいた。
「獅童巡査……?立花さん……?」
節々が痛む体を何とか動かし、一緒に車に乗っていた同僚がいないか辺りを見回す。
あの瞬間、カーブに差し掛かっていて速度が落ちていたとは言え、物質変換で消えゆく車から投げ出されたのだろう。
滅茶苦茶に転がり、何かしらにぶつかった衝撃があった。どこか折れていてもおかしくはない。
いや、本当は気づいていた。
突入用にと近年になって配布されたハーモナイザーの作用範囲は、その限られた電力リソースを活かすため自身を中心に半径1メートルもない。
車から投げ出されたあと、ただでさえ狭い効果の範囲外にでた2人が何の対抗策もなくアプリの物質変換に抗えるわけがないのだ。
「おい!誰か生きてるか!」
呼びかけに答えたのは鳥の鳴き声だけだった。恐らくは鳥も具現化アプリで放たれたものだろう。既存の生命とは違うゲームデータから生まれた何かだ。
「くそ……なんで俺が……こんな目に……」
誰も答えない。乗っていた車も、走っていた道路の痕跡すらない。
「なんで俺だけ」
誰も答えない。辺りには森が広がり、嗅ぎ慣れた排気ガスの悪臭すら消え去っている。
「俺が何したってんだ」
誰も答えない。獣道すらない、画一的な不自然な草むらが地面を覆っている。
「俺は……」
誰も答えない。
「あぁ……そうか……」
木々が鬱蒼と茂り、先の様子を伺い知ることすら出来ない。あるいはこのまま森の中のモンスターに襲われ餌とされるのか。
「俺は死にたくない。死なずに生きていたい」
誰も答えない。必死に立ち上がり、歩き出す。
「誰か助けてくれ。生きたいんだ。死にたくないんだ」
誰も答えない。血が滴り、目眩がする。
「誰か俺を……」
そんな時だった。
「大丈夫ですか?」
後にして思えば、あるいは、その時彼女と出会わず森の中で野垂れ死んでいれば彼女も俺も血みどろの戦いに足を踏み入れずに済んだのかもしれない。
「ひどいケガ。しっかりして!すぐにレンジャーさんを呼ぶから!!」
この、港区を生贄にして誕生したポケモン世界。
カントーのトキワの森で、俺は彼女と出会った。