ポケットモンスターというゲームはそれなりの歴史がある人気シリーズである。
トキワの森は、そんな老舗シリーズの第一作目に登場するある意味で最初のダンジョンだ。
通り抜け禁止の樹木と、歩いていると一定確率で野生のポケモンに襲われる草むら、そして視界内に囚われると強制的にポケモンバトルが始まるトレーナーが待ち構えている。
かくいう僕もプレイ当時はトレーナーを避けようとすると草むらを歩かざるを得ず、かといって避けようとしても避けられない位置に陣取るトレーナーもいて、疲弊したポケモンを連れて何度ポケモンセンターで回復をしたことか。
名前通りカントーは日本の関東地方をモデルにデザインされており、トキワの森は常磐線が名前の由来であることは間違いないものの、関東南西の山間部の何処かは明言されてはいない。
断じて、港区にあっていいものではない。海どこに行ったんだよ海は。
「要救助者の生存は絶望的。それどころか建造物、地形、ライフラインに至るまでのことごとくが上書きで綺麗さっぱりなくなってるか。」
「ああ。一帯を包む光の中からたった一人が飛び出してくるのが監視カメラに映っているが今のところ他に生き残った者は確認されていない」
よく生き残れたなそいつ。という感想が出てしまうくらいには荒唐無稽な内容だった。
23区内で発生した大惨事に官僚も大混乱。報道規制もくそもなく、今も範囲外から各社のヘリがバンバン映像を流している。
「死体を含めて一切残らないとは、このアプリ開発者は鬼畜かよ。頭お花畑の環境テロリストは喜びそうだがな。」
「幸いと言っていいのかどうかは分からんが、港区内のギリギリで効果が途切れている。関東一円がいきなり別なものに置き換わる、という最悪の事態は避けられたわけだ。」
ホワイトボードに貼られた23区内の拡大地図に、暫定的に変化した土地の境界線が描かれる。
「我々の任務は外部からの侵入も内部からの脱出も阻むことだ。対アプリ装備の他に通常の火器の使用も許可されている。」
「既に具現化した生物、仮称ポケモンとの戦闘が何度か行われている。そのへんの野良犬くらいあるネズミや全長が布団くらいある虫が街に繰り出しているそうだ」
そりゃ、ラッタやバタフリーだね。僕は頭の中でつっこんだ。
やばすぎる。ポケモンの技って洒落にならない威力してるんだよな。
「モンスターボールがあれば晴れて我々もポケモントレーナーって事ですかね。」
「我々が自力でポケモンを手に入れたのではなく、ポケモンが実在する世界に置き換わったたけなんだ。ゲーム気分だと足元をすくわれるぞ。」
冗談めいた口調の同僚に釘を刺す中年男性。この人は警察庁警備局の課長である。この人にとってはいつだって真剣勝負なのだろう。
「正直な話、あれはポケモンの姿をした害獣だ。すべて屠殺すべきだと思っているが、世論を考えるとそうもいかない。そこでだ」
対策部隊長が何やら段ボールを机の上に乗せる。おいおい、まさか、まさかなのか?
「特別に警戒線の担当者にはこのマスターボールをいくつか支給する。投擲に自信がないものも必ず一つは持つように。」
紫色のにくいやつ。ゲーム内では一つしか手に入らない貴重品。効果は相手野生ポケモンを状態に関わらず捕獲するという破格のアイテムだ。
まさか具現化するとは。
「いきなりマスターボールですか。」
呆れて呟くと、部隊長から鋭い視線が飛んできて首をすくめる。
「我々はゲームをしているのではない。市民の安全を守るのが警察の役目だ。
まあ正直、もはやここまで来ると自衛隊の仕事のような気もするがな。問題はアプリの不正使用者も同じ事ができると言う点だが。」
「現実にロケット団作られたらたまったもんじゃないですね。」
いや、これからやることを考えると我々こそロケット団みたいだが、流石に口にはしなかった。
正直スパイ天国とも呼ばれる防諜に弱い我が国の事だ、既に国内のスパイがポケモンを捕まえてそうな気もするが。
特に港区に基地のあったアメリカは自国の軍人に被害が出た以上もう止まらないだろう。軍事介入してきてあの一帯を自国の管理下に置くと言い始めかねない。
「内部で何が起きてるかもわからん。だが、我々にできるのは一帯を閉鎖し続け外に出るポケモンを捕まえる事くらいだ。」
「捕らえたポケモンはどうすればいいんですか?」
他の隊員からも質問が飛ぶ。
「現段階ではとりあえず確保して隔離しろとの通達だ。あとは上が決めるだろう。
詳細は追って通達する。」
「じゃあ野生のポケモンは無抵抗なら放置ですか?」
この質問をしたガタイのいいあんちゃんは確かSATからの出向だったか。
「いや。街に現れたら確実に捕獲するように指示が出ている。一歩も外に出すな。」
まあ過激な熊やイノシシみたいなもんだ。人間を襲う可能性がある以上は妥当な判断だろう。
何より、外で繁殖されたら目も当てられない。
その後も様々な質疑応答があったが割愛する。
「よし、以上だ。警戒を怠るなよ」
定刻を大幅に過ぎたが、隊員のこの言葉でひとまず会議は解散となった。
皆渡されるマスターボールを、これまた一緒に渡せれたホルダーにセットして肩から下げたり腰に巻いたりしているが、コスプレ感は否めない。
ポケモン世界の生物は現実の世界と物理法則が異なるのか、もしくはゲームの世界を現実に具現化させる過程で何か不思議な事象が起こっているのか。
とにかく既存の物理法則や化学法則がやつらには通用せず、人間側に不利な事が既にいくつも確認されている。
そもそもバタフリーとかあの図体でひらひら飛ぶんだぜ?頭がおかしくなりそうだ。
「ゲームデータ具現化アプリは不正利用者の手に渡った時点で厄介すぎるな」
「ばらまいた犯人が分からん以上、ネットを寸断したところでな。」
捜査部長は要救助者の生存を度外視するような発言をしていたが、当時内部にいた人員の一部にはハーモナイザーを使っていた人間がいくらかいたはずだ。
彼らをどうにか救出したいというのは人として間違っていないと思いたい。自力で外に出てこれればよいが。
「まともな神経してるなら、港区の惨事をみて第二第三の大規模変換なんてしないと信じたいところだが、祈るしかないな」
しかし……特別対策部隊ジプスね。縁起でもない部隊名だよ。
港区被災状況レポート
港区の市街を飲み込んで出現した森の進行は出現後10分ほどでその浸食を停止した。
範囲内にあった建築物は勿論、上下水道、ガス、電線網などの地下にあった施設や港に停泊していた船舶や海水も変換対象になったものと推測される。
おおよその測定によると、JR田町駅近郊を爆心地として半径3キロが変換された模様。
現在観測された中では最大規模の変換半径。何らかの方法でゲームデータ具現化アプリを改造し、出力を大幅に増幅したものと思われる。至急解析の要あり。
内部にあった基地局も消滅しているため、通常の携帯電話などでは通信不可能だと思われる。
調査する場合遠距離通信可能な無線装置が必須。
芝浦水再生センターも被災しているため、渋谷区、新宿区、千代田区、中央区、目黒区、品川区からの排水を至急止められたし。
補遺
海に面した側の森が徐々に沈んでいるとの報告あり。
おそらくは円形に変換された土地が自重を支えきれず徐々に海へと沈下しているものと思われる。
土壌による深刻な水質汚染が懸念される。
合わせて、森から逃げるように未知の鳥類が飛び立ったのが確認されている。周辺地域に住処を移した可能性があるため留意されたし。
※作者はデビルサバイバーは1だけしかやったことのないニワカです。