現政奉還記 未来都市&宇宙編 作:セイントドラゴン・レジェンド
[異常犯罪者の実情]
無事にMrフェイクが放った刺客たちを撃破し、Mrフェイク本人も打倒する事に成功した聖龍隊。
だが、最後に疑問が残った。琴浦ファミリーにヨドとエイミー達をジャッジ・ザ・シティに招待した偽の招待状を拵えたのはMrフェイクではなかった。
一体、誰が偽の招待状で彼女らをジャッジ・ザ・シティに呼んだのか疑問に思う一同。
だが、そんな疑問に悩まされている暇はなかった。
なんとMrフェイクは、昨晩の戦いの様子をカメラで隠し撮りした映像をネットに投稿していたため、世界中に拡散されてしまってた。
聖龍隊の戦いぶりは毎度テレビで放映されているだけあって何の問題も無かったが、問題は人質にされながらも戦闘に乱入して己が実力を示してしまった新世代型二次元人。彼らの戦いぶりを見て、人々は改めて新世代型二次元人への脅威を思い返してしまうのだった。
「……タクッ、Mrフェイクの奴、最後にトンデモナイもんをネットに上げてくれやがったな」
「既に報道関係者が聖龍隊支部の前に押し掛けて来ている。朝早くから困ったもんだよ」
昨晩の戦いの疲労が残っている現状で、バーンズとジュニアは早朝からネットの映像を視てジャッジ・ザ・シティの聖龍隊支部に押し掛けてきているマスコミ関係者を、建物内部から視認してうんざりする。
一方、新世代型たちの方は、朝から共有感知で頭の中に入ってくる自分達への疑念の山に悩まされていた。
「……ああ、もうっ! 朝早くから何なのよ、もう!」
「朝から頭が痛いですわ! 新世代型は危ないんじゃないのとか、強すぎるって……全部、昨日のあなた達の戦いをネットで視た方々の思想ですわよ!!」
頭を抱えて、自分の脳内に入ってくる新世代型二次元人の危機性を強く示唆する思想に悩まされる琴浦久美子と花園まりえが指摘する先には、昨晩のMrフェイクが仕掛けた戦闘に乱入した纏流子や栗山未来たち戦闘タイプの新世代型二次元人達がいた。
「す、済まねえ……まさか、あのF野郎がカメラでアタイらの戦いぶりをネットに上げていたなんて思ってもみなくて……」
「本当に申し訳ありません……これで私たち新世代型への懸念が増してしまいまして……」
申し訳なさそうに頭を下げる流子と未来に対して、
「まあ、我々も軽率な行いをしてしまった点はあるが……それ以前に全ての元凶は我らの戦闘をカメラで隠し撮りしてネットに上げたMrフェイクだ! 奴の愚行さえなければ……!」
「まっ、もう過ぎた事だし仕方ないんじゃないの? ネットに上げられたんじゃ、簡単に消せるとは思えないし……ここは混乱が落ち着くのを待つしかないんじゃ……」
すると、この発言に妹の美月が告げた。
「もうっ、兄貴は呑気すぎるよ! せ、せめて……この共有感知だけでも何とかしないと、全員の気がどうにかなっちゃうわよ!」
せめて共有感知による思想の共有を抑えられれば気が落ち着くと唱える美月。
この美月の指摘を聞いて、真鍋義久は傍らでいつも以上に自身のテレパシー能力に苦しむ琴浦春香を気にしながら語った。
「こ、琴浦はいつも、こんな現象に悩まされているんだな……に、しても。こんな時にテレパシーの第一人者ともいうべきバーンズがいないのは何故だ!?」
「バーンズさんはバーンズさんで忙しいんだよ……さっき聖龍隊の隊士の人の思想が頭ん中に入って来たけど、朝早くからマスコミ関係者が支部の前にズラッと並んでいて、その対応に負われているみたいだからね……」
真鍋義久の疑問に、一つ上の先輩である室戸大智が答える。
と、そこにちょうど皆の疑問に浮かび上がっていた琴浦春香と斉木楠雄と同等のテレパシー使いバーンズが顔を覗かせに来た。
「お前ら、朝早くから大変だな」
「ば、バーンズ! ちょっと、これどうしたら良いんだい!? みんな今朝から頭の中が混乱して大変なんだよっ」
バーンズに親友の琴浦春香たちの看病をしていたプロト世代のギュービッドが問い詰める。
するとバーンズはテレパシー能力の副産物でもある共有感知を診断するために、一人一人の新世代型の頭に手を当てて己のテレパシー能力で個々の共有感知が如何な状態が判別していった。
そしてバーンズは一つの診断を下した。
「う~~む、共有感知っていうのは前々から安定していなくて、波が非常に激しい症状だ。特に、今は新世代型への脅威を人々が感じてしまっているから、なおさらその感情に感化されて共有感知が激しく波打っているって感じだな」
「どうにかなんないのか? 例えば琴浦春香や斉木のテレパシーを抑制するとか……」
新世代型の幸平創真が問うと、バーンズは難しい顔で言った。
「その抑制方法が未だに未解決なんだよね……」
すると、このバーンズの一言に琴浦久美子が言い放った。
「ば、B.A.B.E.Lの超能力抑制装置……そう、リミッターはどうなの!?」
「今さら娘の心配か、久美子……まあ、普通はリミッターを使えばいい話だが、あいにく新世代型の能力を抑制する技術は未だに開発されてないんだ」
今まで娘の春香を蔑にしてきた久美子に当て付けするバーンズだが、同時に新世代型二次元人の特殊能力を抑制する技術が開発されてない現状を皆に伝えると、同じ超能力者の斉木楠雄が納得した。
「なるほど、それで民間の超能力者に手渡される抑制装置リミッターも、僕ら新世代型二次元人には行き届いていない訳なんですね」
「そういう事だ。なんせ新世代型と今までの二次元人じゃ、体の構造自体が違うもんだからな」
「ど、どう違う訳なのよ……?」「………………」
斉木への説明を聞いて琴浦久美子が何が違うのかを訊ねるが、バーンズは黙り込んでしまう。
するとそんな時、唯一ミステリアスバカなために共有感知の影響を全く受けていない燃堂力が、答えに困ってしまうバーンズの空気を自然と察して皆に言った。
「み、みんな! バーンズさん、なんだか困っているみたいだし、それ聞くのやめようぜ」
「おお……っ、燃堂くん! 君は共有感知の影響を全く受けてないのに、オレ様の心中を察してくれてありがとう! オレだって答えてあげたいのは山々だけど、答えられないのが現状なんだよ……!」
涙ながらに燃堂に泣きつくバーンズの言動を前に、新世代型の出雲ハルキが真顔でバーンズに言った。
「要するに……結局のところ、僕たち新世代型二次元人がどんな存在かまでは知っているけど教えられないんですね?」
「あ…………」
ハルキからの問い掛けに、バーンズは口が滑ったとばかしに硬直してしまう。
と、ここで話題は再びテレパシー能力の抑制や自制について語られ始めた。
「……に、しても本当にこの能力はどうにかならない訳? 常に周囲の人間の思想が頭の中に入ってくるのは……!」
非常に困惑した表情で訴える薙切えりなの発言に、バーンズは真顔で返答した。
「そこは難しいところだ……超能力の中でも、テレパシー系統の能力が一番自制が難しい能力で、オレみたいに生まれ付き自制できる奴は極めて稀だ」
「貴方の種族って、確か全員が何かしらの特殊能力を持って生まれてくる種族だったのよね? 良いわよね、それじゃ偏見とか差別が生まれなくて……」
バーンズの返答を聞いて琴浦久美子が嫌味混じりの台詞を投げ付けてくるが、バーンズはそれに全く動じず堂々と語った。
「オレの場合、千年に一度の逸材として一族全員から崇め奉られたけどな。まあ、その分、教育の方も厳しかったが。教養やら、武術やら叩き込まれて……」
「……王族も大変なんですね」
「そういう事だ」
バーンズの場合、その複合能力の高さから一族総出で崇め奉られた経緯があったが、同時に王族として厳しい教育が待っていたと本人の口から聞かされる一同。するとプロト世代のチョコが王族ならではの大変さを説くとバーンズは静かに頷いた。
と、此処でバーンズは超能力とか新世代型二次元人への興味を逸らそうと、話題を昨晩死闘を繰り広げた犯罪者たちに振った。
「そ、そういえば……お前達、昨日の晩は大変だっただろ? なにせMrフェイクだけでなく、色んな犯罪者と死闘が展開された訳だかんな」
「まあ、大変といえば大変でしたわ……私たちを偽のスター・コマンドーを使って聖龍隊をおびき寄せる為の餌にするだなんて、趣向が悪いですわ」
「そう! その通りだ。Mrフェイクって、なんかこう趣向が悪いというか捻じ曲がっているというか……」
新世代型の名瀬美月の言い分にバーンズは強く同意の思考を示すが、話題は自然と昨晩戦い合った犯罪者たちへと移った。
「アイスフレイム……なんだか【ダイの大冒険】に出てくる氷炎将軍フレイザードみたいな容姿でしたな」
「奴の本名はジョン・スミスっていう普通の三次元人だった宝石強盗さ。元から宝石を専門に強奪する泥棒だったが、ジャッジ・ザ・デーモンに追われる道中で右半身が液体窒素の化合物を浴びてしまった事から、ああいう容姿に変貌しちまったんだ。かなりの実力者で、革命軍士の幹部まで上り詰めたんだが、結局のところ宝石に目がない性分は変わらなかったみたいだぜ」
「……三次元人が、あそこまで変異してしまうとは……」
新世代型の猿田学の言葉を聞いてバーンズがアイスフレイムについて説くと、プロト世代の海道ジンは三次元人が其処まで容姿や能力が一変してしまった現実に驚きを表す。
「あのドール・マスターというのは一体何者じゃ? 何だか、あんた達と顔馴染みみたいじゃったが……」
「ドール・マスター、九具津隆。奴は元々B.A.B.E.Lに潜入していたP.A.N.D.R.Aのスパイだった……だが、P.A.N.D.R.Aがスコーピオン同盟の傘下に降った事で愛想を尽かして離脱。それから革命軍士に拾われて、自身の複合能力を高める、あのマネキンみたいなパワードスーツを作ってもらってからドール・マスターと名乗るようになったんだ。確かに奴の複合能力、特に自身が造形した人形を遠隔操作する術は一級品だが……今じゃ何でもしちまう
「まったく、能力者にはロクなのがいないわ……!」
琴浦善三の質問にバーンズがドール・マスターに対して説明を説くと、自分の娘を棚に上げて能力者に対して鬱憤を吐き散らす琴浦久美子の台詞を聞いて周囲の人々は不快にさせられる。
「……そ、それと、グービンシーっていう傭兵の素顔には吃驚しましたね。まさか、あの小田原修司と瓜二つとは……!」
場の空気が悪くなったのを、どうにか変えようと室戸大智が聖龍隊初代総長小田原修司と同じ顔をしていたグービンシーについて語り始めると、バーンズはグービンシーの出生についても改めて説き始めた。
「グービンシー、中国語で鬼を表すグゥイと兵士を意味するビンシーを掛け合わせて生まれたコードネームだ。本名をインヤン・チャオという浮浪児だったが……昔、共産党の秘密警察に身体能力を見込まれてスパイや傭兵として鍛え上げられた過去を持つ。だが修司が表舞台で兵力として活躍し出した時期も相まって、中国政府はチャオを修司の代用品つまりコピー兵士として乱用しようと整形手術で修司そっくりに顔を変えちまったのよ。チャオ本人は生きる術として当時の中国政府に全面的に力を注いでいた訳だが、共産党が崩壊した後は単なる修司の代用品では物足りなくなって、修司との差別化を図る為に自ら顔を傷付けて裏の世界で暗躍する殺し屋や傭兵に成り下がったんだ。まあ、チャオも……グービンシーの存在も修司の影響で生まれちまった可愛そうな被害者ってところよ」
「確かに……誰かの代用品として扱われていただなんて、なんだか可愛そうですね」
改めてグービンシーの出生と経緯をバーンズから聞かされて、細野サクヤらその場の一同はグービンシーに対して淡い同情を感じた。
すると三人の異常犯罪者たちの話を聞いて、改めて琴浦久美子が物申した。
「それにしてもよ! なんで、あんなキチガイな犯罪者たちがのさばっている訳!?
この久美子の疑問にバーンズは即答した。
「昨日の晩も言っただろ。精神に異常を来している犯罪者は人権団体の圧力とかで処分を免れているんだっての。あのMrフェイクも、今まで本物偽物とお前さん達が出くわした犯罪者の全てが精神的に病んでいると診断を受けたからこそ処分を免れて精神病院に収容されるまでにしか至らないんだ。……気に食わないかもしれないが、これが社会の現状だ。言っておくが、人権団体だけを責めるのはやめとけ。その団体があってこそ、オレたち二次元人の人権も保守されている訳なんだからな」
危険極まりない犯罪者を精神疾患者として収容するまでに事態を収めている人権保護団体の存在があってこそ、二次元人の人権も保守されている現実を聞かされて納得いかない二次元人達。
と、皆に異常犯罪者の現状を唱えたバーンズは遅かれ早かれ、とある事に気付いた。
「……ん? おい、理樹たち【リトルバスターズ!】の面子が見えねえぞ?」
「ああ、彼らでしたら……」
バーンズの疑問に同じ新世代型の薙切えりなが返答してくれた。それによると……
「なにッ!? 【リトルバスターズ!】の連中は、朝早くから外出しちまったって!?」
「ええ、あの人たち朝早くに目が覚めて、マスコミが押し掛けてくる前に外出しましたわ」
「そんな……ぼくちゃん、もう泣きたい……っ」
えりなから直枝理樹たちが早朝より聖龍隊支部を出て外出していった経緯を聞いてバーンズは涙目になる。そんな彼に新世代型の瀬名アラタが不思議そうな顔で問い掛ける。
「なにか問題でも?」
「問題ありすぎるって! お前らも知っているだろ、昨日の戦闘がMrフェイクの仕掛けたカメラで、映像がそのままネットに配信された事は! そんな中で足正義輝の現政奉還で危険視されている新世代型が街をうろついていたんじゃ、格好の的だよ!」
「確かに……! 昨日の映像で、僕たちの顔もネットに配信されていますし、新世代型だとスグに認識されてしまうのは明白……!」
バーンズの説明を聞いてプロト世代の海道ジンが冷静に物事を分析する。
乱世である現政奉還を引き起こした足正義輝と同じ新世代型を敵視する者は数多い。そんな中、昨晩の映像で顔が認証されてしまった新世代型が街を徘徊すれば即座に人目に付きやすいのが現状。
自分たち新世代型が現状ではあまりよく見られていない事実をすっかり忘れていた一同は、事の重大さに気付いた。
「ああ……急がねえと……何だか嫌な予感がする……!」
バーンズがまごついていると、そこに一人の聖龍隊士が駆け込んできた。
「そ、総長大変です! 今テレビで報道されていますが、あのブラック・マンが仲間のブラック・ウーマンとブラック・ポッドを引き連れてジャッジ・ザ・シティを吹き飛ばす爆弾を設置したと報道関係者に通達があったらしくて……! しかも巨大爆弾の側には新世代型二次元人が捕縛されているのも確認されて、ブラック・マンは彼らごと街を吹き飛ばすつもりだと宣言しています!」
「なに!? その新世代型って、まさか【リトバス】の連中か……!?」
「はい、そうらしいです……」
「嫌な予感が的中しちまったな……」
隊士からの報告を受けて益々涙目になるバーンズを視認して、新世代型と共に朝を迎えた三次元人のシバ・カァチェンがバーンズに物静かに申した。
「バーンズ、直枝理樹殿らを救出するのであれば……このシバ・カァチェン、微弱ながら出陣する御手前……」
このカァチェンの申し出に、バーンズは気苦労に満ちた面差しで返答。
「そ、そうか……済まない、カァチェン……」
と、そのままカァチェンと共に【リトバス】の面々を救出する為に出撃しようとしたバーンズに、報告してきた聖龍隊士が引き続きバーンズに伝えた。
「あ、総長! それなんですが……既にマン・ヒールズのチームがブラック・マン一味の討伐に向けて出撃しております!」
「えっ? ミスティーハニー達が? ……ま、まあ、ブラック・マンこと九十九の事は、マン・ヒールズのイクトが一番周知しているし、討伐は奴らに任せても良いかもな……」
隊士から既にミスティーハニーを隊長にしている元悪役・敵役集団マン・ヒールズの出撃を聞いて、バーンズはメンバーのイクトがブラック・マンこと九十九を最も周知している理由から、そのままマン・ヒールズに全てを一任しようかと思い立った。
[黒い異常者]
その頃、テレビ局に流されている映像を配信している現場では直枝理樹たち【リトルバスターズ】の面々が縄で縛られ、巨大な爆弾の前に捕縛されているのが実況されていた。
その現場は周囲をビルに囲まれた狭い空き地で、周囲のビルの非常階段からはライフルを所持した狙撃手たちが爆弾に近付こうとする者を狙い撃ちしようと身構えていた。
そんな巨大な爆弾の前に、直枝理樹たちを縛り上げて挙句、抵抗した棗恭介や井ノ原真人に暴力を振るった黒い髑髏のマスクを被った通称ブラック・マンと呼ばれる犯罪者が拳銃を手に、仕事仲間のブラック・ウーマンとブラック・ポッドと共にカメラに向かって演説し始めた。
「この映像を見ているジャッジ・ザ・シティの市民よ! 今現在、世界を混乱に誘っている新世代型二次元人を捕らえる事に我々は成功した! 今日は彼ら、我々の生活を脅かす新世代型の抹消と俺達の人生を狂わせた三次元人への報復処置として、この爆弾を今から起動し、ジャッジ・ザ・シティを吹き飛ばす! 同時に、これは俺達の出世を阻む聖龍隊への挑戦状でもある!!」
部下にカメラを持たせて演説を続けるブラック・マンの背後では、理樹たちが早朝からの外出を後悔していた。
「うう……聖龍隊の支部から出るんじゃなかった」
「理樹が珍しく朝から早く目が覚めたからって、聖龍隊の人に黙って外出するなんてやるんじゃなかったぜ……」
「でも、バーンズやアッコさんへのお礼も内緒で買いたかったのも本音だし……」
互いに顔を見合わせてヒソヒソ話をする理樹に顔面を殴られた真人、そして棗鈴。彼らはタイでの騒動から常に自分達を庇護してくれている聖龍隊総長のバーンズと副長のアッコへお礼の意味合いを込めて何かしら見繕うと思って外出したのだ。
だが、外出先でブラック・マンの部下に見つかってしまい、そのまま拉致されて爆弾の前まで強制的に連れて来られてしまったのだ。
しかし、そんな理樹たちの内緒話を小耳に入れたブラック・マンは、脅しとばかしに理樹の足元に向けて発砲。
「っ!」
銃弾は理樹の足元に着弾し、脅え切る理樹たちにブラック・マンはこけおどしの髑髏のマスクで言葉を投げ付ける。
「黙ってろ! 薄汚い劣等種め……貴様ら新世代型のせいで、俺達の商売もあがったりなんだよ……!」
完全に新世代型二次元人を敵視する眼差しを向けるブラック・マンの台詞に、直枝理樹たちは命の危険を感じ取る。
と、その時だった。
「九十九……! いや、今はブラック・マンだったよな?」
その声にブラック・マンが振り返ると、そこには聖龍隊マン・ヒールズの一人、月詠イクトの姿があった。
「イクト……貴様……!」
イクトの姿を視認して、ブラック・マンは怒りに満ちた声色でイクトを睨み付ける。と、同時に側近のブラック・ウーマンとブラック・ポッドの両名もイクトを睨み付け、更に爆破予告の現況を撮影している部下のカメラもイクトに向けられた。
皆の視線が一気に月詠イクトに向けられた途端、対峙したイクトとブラック・マンの両者は鋭い眼光を放ちながら語り合い始めた。
「九十九、あれから大分経つが未だにギャングごっこが過ぎる様だな」
「黙れ! 俺達が落ちぶれたのは、そもそも貴様たちのせいだ……! 貴様や三次元人のせいで、俺達はここまで落ちぶれたんだ……!!」
「それで、今度はMrフェイクの真似事で爆弾騒動か? 挙句の果てに非力な新世代型二次元人までも巻き込みやがって……」
「コイツ等は非力ではない……! 昨晩の事件を、お前も知っているだろ。コイツ等の潜在能力は極めて高く、俺たち旧世代の二次元人よりも高等な連中だ……そんな新世代型、足正義輝の現政奉還でどれだけ俺らの商売が侭ならない事か……貴様に分かるものか!!」
「ふぅ、確かに足正義輝の現政奉還は俺たち聖龍隊も困らせられている。だけど、それだからって一般の新世代型をどうにかするのは可笑しな話だぜ。それに……所詮、お前さん達の商売は非合法な製造法で造った違法武器の売買。現政奉還じゃなくても商売できないのが普通だ」
「ウルサイ! 貴様は特別だ……この特性の爆弾で吹き飛ばすのではなく、俺自身の手で葬ってやる……」
そういうと、ブラック・マンは拳銃をイクトに向けた。
するとイクトは真面目な顔でブラック・マンに告げた。
「……フッ、おい九十九。お前さん達自慢の部下……狙撃手は、どうしてる?」
「なに……ハッ、まさか……!」
イクトに指摘されて、ブラック・マンは周囲を取り囲む狙撃手の存在を思い出して辺りを見渡した。
すると周囲のビルその非常階段に配置されていた狙撃手が既に何者かの手によって全員が気絶されているのがブラック・マン達の目に飛び込んできた。
「クソ……ッ」
手下の狙撃手を全員倒されて、困惑するブラック・マンたち三人。
と、そこにイクトの傍らに素早く複数の影が。それはイクトと同じマン・ヒールズの隊士であるリーダーのミスティーハニー、デューイ、芹沢ルリ子、ブラック・ラヴァーズの面々、森あいにプラス、本郷唯に穴戸レナ、ハルカ・ヘップバーンにジェラール・フェルナンデス達だった。
ビルの非常階段に配置されていた狙撃手たちは、既にイクトがブラック・マンと対峙している間に全員マン・ヒールズの面々によって気絶させられていたのだ。
この現状に追い詰められたブラック・マンたち三人に、イクトが迫る。
「観念するんだな……九十九! 万田! 千々丸!」
完全に追い詰められた三人だったが、目の前に立ちはだかるイクト達マン・ヒールズに九十九ことブラック・マンの頭に血が上った。
「……くそ、くそ、クソっ! なんでだ! なんで元悪役である貴様らが認められて、俺たちは世間からはじかれる!! こんな……こんな理不尽な事があって良いのか!!」
完全に怒り狂ったブラック・マンはそのまま前進しながら目の前のイクト達マン・ヒールズに向けて拳銃を連射し出した。
「この、この、この……ッ!」
ブラック・マンが連射すると同時にイクト以外のマン・ヒールズは散り散りに分散して射撃を回避するが、イクトだけは微動だにせず、直立したままブラック・マンと対峙する。
そしてブラック・マンが撃ってくる銃撃が顔を掠めながらも、イクトは自分の目の前まで到達したブラック・マンと対峙し続ける。
一方のブラック・マンも連射していた自動拳銃の弾倉が空になりながらも狂った様に引き金を引き続ける。
「ハァ、ハァ……」
ブラック・マンの荒い呼吸音だけが虚しく辺りに響き渡ったその時、イクトが拳を振り上げてブラック・マンに一発お見舞いする。
「グハッ……!」
顔面を強打されたブラック・マンこと九十九は吹き飛ばされ、後方に転倒する。
そんな地面に倒れる九十九にイクトは言い放った。
「どんな理不尽な現実でも……真正面から生き抜かなきゃならないんだ!」
どんなに理不尽な現実であろうと、人は罪を背負いながら懸命に前を向いて生きていかなければならないと説くイクト。
するとボスのブラック・マンが倒された事で、側近のブラック・ウーマンとブラック・ポッドも逃げ出そうとする。が、そんな二人の前に先ほど散り散りになったマン・ヒールズの面子が再び出現し、二人を殴り倒して気絶させてしまう。
すると今度は最後に残ったカメラマンの手下が逃げ出そうと走り出すが、いち早くマン・ヒールズの面々に取り囲まれてしまう。
「クソっ」
するとカメラを操作していた手下は装備していた機関銃を連射してマン・ヒールズを牽制。だが即座にマン・ヒールズがリーダー、ミスティーハニーに機関銃を切断されて使用不能に陥る手下に、ガイトが厳しい一発を打ち込んで気絶させる。
こうしてブラック・マン一味の爆弾事件はマン・ヒールズの介入により呆気なく終わり、人質として捕らえられていた直枝理樹たち【リトバス】の面々は中には顔を殴打された者も含まれていたが、命に別状はないまま保護された。
[変異する異常者]
ブラック・マン/ブラック・ウーマン/ブラック・ポッドである九十九/万田/千々丸の三名を拘束したマン・ヒールズの活躍は、手下が動かしていたカメラによって瞬く間に各報道陣により取り上げられた。
だが、殴打されて意識を失ったブラック・マンたち三人の容態が急変。急ぎ、救急治療室へと搬送される事となった。
同時に、三人が搬送される病院にはブラック・マンたちによって捕らえられた理樹たち【リトバス】の面々も、負わされた怪我の治療のために搬送された。
「……大丈夫か、怪我の方は?」
「ッ……どうにかね」
表情を痛感で歪ませる井ノ原真人に騒ぎを聞き付けて病院に駆け付けてきたバーンズが声をかける。
診断の結果、真人や恭介といった一部の【リトバス】の面々にだけ暴力が振るわれており、他の者たちは幸いなことに無傷の状態であった。しかも怪我を負わせられた面子も軽傷で済んでいた。
「……まっ、全員命に別状なくて良かったよ。だけど、もう聖龍隊士に黙って外出しないでくれよな」
「………………………………」
「解ってるって。オレたち聖龍隊の監視下に置かれるのは、もうシンドイんだろ? オレだって解放したけりゃしてやりたいさ。だけどな、お前さん達は今では泣く子が黙るほど有名著名になっちまった新世代型だって事を忘れるな。それに例の共有感知の事もあるだろ? オレはお前達の今後の事も考えた末にアニメタウンへの帰還を先延ばししている訳なんだ……まぁ、その、なんていうか……」
「い、良いんです、バーンズさん。僕たち、もう十分に分かっていますから……」
「そ、そっか……それなら良いんだけどよ……」
気まずい空気になる現状で黙り込む面々を前に、釈明を述べるバーンズに直枝理樹は自分達もよくよく理解していると釈明を返す。これにはバーンズも気まずい空気の中で返事する。
すると、そんな気まずい空気を断裁するように朱鷺戸沙耶がバーンズに鋭い眼光で訊ねた。
「ところでさ……あの三人はどうなった訳? 急に容態が変わったって聞いたけど……」
「ブラック・マン達の事か……あいつ等は今、救急治療室で治療を受けている。何故だか解らないが、突然心肺停止状態に陥ったみたいだ。まあ、ジャッジ・ザ・シティは技術が整った最先端の医療が揃っている都市だし、どうにかなるだろう」
「
「ま、まぁ、
朱鷺戸沙耶の質問に対し、戸惑いながらも懸命に答え返していくバーンズ。
沙耶たち【リトバス】の面々が、世間の
「そ、そうだ! お前ら、のど乾いただろ? オレが一っ走り行って買ってきてやるけど、どうだ……?」
「……別に、今は欲しくないっす」
「そ、そうか……ま、まあ、医師から全員帰っていいって言われたら、聖龍隊支部から迎えの車が来るから、帰りはそれに乗って一緒に帰ろうぜ。なあ……」
「………………」
「そ、それじゃ……オレはお前達のケガを看た先生と話してっから…………」
何とか場の空気を和ませようと景気よく飲み物を奢ろうとするバーンズだったが井ノ原真人にすっきりしない顔で断られた上に一層と場の空気が淀む中、バーンズは居た堪れない心境で診察に対応した医師の元へと向かうのだった。
一方、突如として容態が急変したブラック・マンら三人は救急治療室に搬送され、処置を施されていた。
しかし、三人とも突然心肺停止状態に陥り、心臓が完全に止まってしまった。これに対応していた医者は急いで電気ショックによる療法を用いる。
「三、二、一……はいっ!」
電気ショック治療を心肺停止に陥ったブラック・マンに施す医師。この時、ブラック・マンこと九十九たちは着用していた髑髏のマスクが外せない事から、そのまま緊急処置を施されていた。
二度、三度と電気ショック治療で停止した心臓を活性化させようと奮闘する医師。しかし上手く事が進まず、焦りが現場の医療班に募るばかり。
それでも医師は再度の電気ショックをブラック・マンの胸部に押し当てて蘇生させようと試みた。
「はぁ……いくぞ!」
医師が電気ショックを胸部に押し当てようと、道具を持つ両手を押し込んだ瞬間、ブラック・マンの胸部が縦に口を開いて鋭利な牙を光らせる。そしてその鋭利な牙で電気ショックを押し当てようとした医師の両腕を無残にも噛み千切った。
「うわあああああ、あああぁぁ……!!」
両腕を噛み千切られた医師は悶絶し、そのまま床に倒れ込んだ。
するとどうだろうか。医師の両腕を噛み千切った胸部の巨大な開口に皆が目を向けてみると、途端にその開口から無数の黒い触手が拡散し、付近の医療関係者を片っ端から捕縛し始めた。
「きゃあああっ!」「うわあッ!」
男女関係なく次々と捕らえては辺りに血飛沫で朱色に染めていく触手。すると触手は付近の医療関係者を捕縛して惨殺するだけでなく、共に治療を行われていたブラック・ウーマンとブラック・ポッドの三名の体を獲り込みはじめた。
一瞬にして救急治療室が地獄と化して数分後、救急治療室の異変に外部の者が気付いたのか病院全体に緊急警報が鳴り響いた。
この警報に病院内にいた【リトバス】の面々を含んだ大勢が慌てふためき、一気に病院は混乱した。
医師や看護師たちは慌てふためく患者たちを誘導しつつ、自分達も急いで病院外へと逃げて行った。
「
何処から嗅ぎ付けたのか、一人が騒ぎ始めたのと同時に大勢の人々が
この騒動に、【リトバス】の面々も急いで看護師や患者に紛れ込んで院外へと退出しようと駆け出す。しかし誰もが無我夢中で逃げ惑う中、時には押され、時には弾かれて思う様に院外へと脱出する事が侭ならなかった。
「きゃっ」「く、クド、しっかり……!」
大きな体躯の患者に押されて転んでしまう能美クドリャフカに皆が立ち止まり彼女を立ち上がらせてから再度避難に移ろうかと駆け出す。
だが、この時の僅かな時間消費が彼らの運命を狂わせてしまう。
なんと病院設備のシャッターが降下して、全ての退路を塞いでしまった。これは
しかし、この緊急封鎖に【リトバス】の面々は出遅れてしまい、全員が院内に取り残されてしまったのだ。
「お、おーーい! 俺達はまだ中にいるぞ! おーーい……ッ!」
必死に外部に自分達の存在を気付かせようと声を荒げる井ノ原真人たち。だが既にシャッターの向こう側には誰もおらず、彼らの声が届く事はなかった。
一方、院外には警報を聞いて慌てて院外に脱出した患者や医者たち医療関係者が溢れ返っていた。
「な、なんてこった! えらいこっちゃ、えらいこっちゃ……」
院内で担当医と話をしていたバーンズも、警報を聞いて慌てて外へと飛び出していた。
すると其処に、警報を聞き付けて病院に駆け付けてきたミラーガール達がバーンズに訴えかける。
「バーンズ!」
「お、おう、アッコか。えらいこった……どうも、例の三人……ブラック・マン達が異質化したみたく、院内で暴れ回っているらしい」
「い、異質化って何なんだ!?」
バーンズの異質化の言葉に、友人の【リトバス】の面々が心配になり、ミラーガールと同行してきた真鍋義久がバーンズに問い詰める。
するとバーンズは二次元人の異質化に対して説明し出した。
「前にも話したが……オレたち二次元人は三次元人の思想概念から生れ出ている。そんなオレ達に外部からの異質な思想概念……つまりは嫉妬や嫌悪感だな、そういった思想が体内に蓄積されると肉体が異常反応を引き起こして変異しちまうんだ! ブラック・マン達も、長年に渡って犯罪行為を引き起こしていた事から、体内の思想概念が暴走して怪物に変異しちまったんだろう」
「に、二次元人って……体内の思想概念が暴走すると、怪物に変わっちゃう訳なんですか……!?」
バーンズの説明を聞いて、真鍋や琴浦春香たちと同行してきた無二の親友である黒鳥千代子が震える口調で思わず問い返してしまう。
と、その時。辺りを見渡していたミラーガールがバーンズに訊ねた。
「ば、バーンズ! 理樹くんたち……【リトルバスターズ!】のみんなは!?」
「! しまった……身動きできない患者たちを誘導してばかりで頭が行ってたもんで、気付くのが遅れちまった……!」
「そ、そんな……!」
ミラーガールの質問にようやく自らの失態に気付いたバーンズ。そんな彼の失態に失然とする衝撃を隠せない琴浦春香。
するとその時、琴浦春香の脳内に謎の映像が。映像は閉鎖された病院内を隈なく駆け回る直枝理樹たち【リトバス】の面々の姿が映し出された。
「あ! み、みんなが……!」
「なんだって!? おい、琴浦! 理樹たちが今どこにいるのか解るのか!?」
琴浦春香の反応に同行してきたギュービッドが問い詰める中、バーンズは人知れず思い耽っていた。
(し、新世代型の共有感知……! 同じ種族間の危機を、共有感知で感じ取ったのか……!)
バーンズは同種族の新世代型同士が共有感知で今ある自らの危機を相手に伝える傾向に愕然とした。
一方で琴浦春香のテレパシー能力で、院内の何処に現在【リトバス】の面々がいるのかとミラーガールが問い詰める。
「は、春香ちゃん! 理樹くん達は今どこにいるの!? 教えて!」
「え、ええっと……」
琴浦春香は戸惑いながらも、自分の脳内に入り込んできた映像を元手に、ミラーガールに身振り手振りで教え伝えた。
そして粗方ながらも言い伝えた琴浦春香に、ミラーガールは笑顔でお礼を返した。
「ありがとう、琴浦さん」「!」
その満面の笑みから放たれる心を揺さぶる衝撃に、琴浦春香も真鍋義久たちも轟いた。
するとミラーガールは左手首に装着しているコンパクトを前に突き出す形で身構えると、技名を口から出した。
「ミラー・ゲート」
すると、どうだろうか。ミラーガールの目前に鏡の出入り口が空中に展開された。
ミラーガールが展開したミラー・ゲートは鏡の出入り口を空中に作り特定の場所に移動できる移動技であり、主に鏡から鏡へと出入り移動が可能となっている。
そしてミラーガールが展開したミラー・ゲートには、人々が逃げ惑い、殺伐とした院内に設けられた鏡から写る光景が確認された。
ミラーガールは間髪入れず、院内の鏡へと通じるミラー・ゲートへと踏み込んだ。
「お、おいアッコ!」
バーンズが単身、暴走した
このミラーガールの単独突入に、ギュービッドがバーンズに言い放つ。
「ば、バーンズ! アッコさんだけに任せるのは危険だっての! アンタも病院に突入しなって!」
「い、いや、ここは慎重に行動しないと却って事態を深刻化させちまうかもしれねえ。オレも折を見て行動に移す……」
「なに言ってんだ! それじゃ【リトバス】の連中はどうなるんだ! アンタ、アッコさんや理樹たちがどうなっても良いって言うのか!?」
ギュービッドに迫られるバーンズは、戸惑いながらも慎重に事を薦めて良いのかどうか焦燥に駆られていた。
[変異した異常者の性質]
その頃、ミラーガールは単身【リトバス】の面々が取り残された病院内へとミラーゲートを用いて突入していた。
既に院内は突然変異した
そんな状況下でも、ミラーガールは全神経を研ぎ澄ませて気配を探そうと行動に移る。
同じ頃、院内に不運にも取り残された【リトバス】の面々は物音を立てず、静かに静かにと移動していた。
自分たちと同じく、院内には突然変異した
すると院内を静かに移動している直枝理樹たちの目の前に、巨大な黒い物体が飛び込んできた。理樹たちはそれを視認すると忽ち物陰に隠れてやり過ごそうとする。
その巨大な物体は、全身を黒一色に変色させ、人間の骨格をうつ伏せ状態にしながらも無数の手足を生やして移動し、頭部は三つも備えている何とも不気味な容姿の姿だった。
これは突然変異したブラック・マンが体内の触手を用いて近場に在ったブラック・ウーマンとブラック・ポッドの肉体を吸収して一体化した姿であった。その為、手足も頭部も三人分確認できた。これを俗称トリプル・ヘッドと名称しよう。
トリプル・ヘッドは無数の手足を器用に使い、無人と化した院内を徘徊していた。そのトリプル・ヘッドを認識して理樹たちは静かに口を閉ざして息を殺し続ける。
一方、院内の各所に設置されている鏡から院内の様子を視認していたミラーガールがようやくトリプル・ヘッドと【リトバス】の面々の現在地を把握して駆け付ける。
ミラーガールが駆け付けた時には、既にトリプル・ヘッドは【リトバス】の面々の目前まで迫ろうとしている寸前だった。
(いけない……! このままじゃ、あの子達が……)
ミラーガールは焦った。このままではトリプル・ヘッドに理樹たちの存在が気付かれてしまい【リトバス】の面々に危害が及ぶ可能性があったからだ。
焦るミラーガールだったが、まずは突然変異したトリプル・ヘッドの習性を知ろうとミラーガールは考えを模索した。
(まずは……)
ミラーガールは左手首に装着しているコンパクトからネズミの幻を出現させて、徘徊しているトリプル・ヘッドへと忍ばせた。
トリプル・ヘッドの足元まで辿り着いたネズミの幻。だが、トリプル・ヘッドは視界に入っている筈のネズミに何の反応も示さず、動き回る。
(これは……どういう事? ……ハッ、まさか……!)
何かを閃いたのか、ミラーガールはコンパクトを弄って遠隔操作しているネズミの幻に指示を出した。
するとミラーガールからの操作でネズミの幻は「チュウ」と一声鳴いた、その瞬間。「ぐおぉっ」とトリプル・ヘッドが足元にいたネズミの幻に気付いて踏み付けて粉々にした。
この一連の流れを観察して、ミラーガールはある一つの答えに辿り着いた。
(そうか、やっぱりそうなのね……アレは視覚が完全に失われていて、聴覚つまり音でしか標的を定められないタイプの様ね……)
ネズミの幻に一声鳴かせた事で、ミラーガールはトリプル・ヘッドが視覚を完全に失い聴覚のみで活動するタイプの突然変異種である事を認識する。
と、ミラーガールがトリプル・ヘッドの習性に気付いたその時。
「こ、このヤローーッ!」
なんと目前まで迫ってきたトリプル・ヘッドに焦ったのか、新世代型の井ノ原真人が医療用のガスタンクを鈍器にしてトリプル・ヘッドに殴りにかかってしまった。
「ギュオオオッ」
殴打されると同時に奇怪な鳴き声を発するトリプル・ヘッド。だが、それでも真人は怯まず、果敢にトリプル・ヘッドを連打していく。全ては理樹たち仲間を守る為。
しかし、そんな攻撃が何度もトリプル・ヘッドに効く訳もなく、トリプル・ヘッドは自分に向かって殴りかかって来た真人たち【リトバス】の面々に不気味な面立ちへと変貌した三つの頭部を差し向けて、反撃に移ろうとした。
「っ!」
その変異した不気味な面差しを向けられ、蒼然となる【リトバス】の面々。
すると彼らの危機を目前に、ミラーガールは焦りながらもトリプル・ヘッドの標的を自分に向け返させようとミラーシールドから光の砲撃を放った。
ミラーガールが放った砲撃はトリプル・ヘッドに直撃し、トリプル・ヘッドも【リトバス】の面々もようやくミラーガールの存在に気付く。
「み、ミラーガール!」
ミラーガールの姿を目視して棗鈴が叫んだ。
そして砲撃を喰らわせたミラーガールは大声でトリプル・ヘッドを誘発する。
「コッチよ! さあ、来なさい!」
さらに同時に院内に設けられている手すりにミラーソードを叩きつけて金属音を発生させて自らを囮にしていくミラーガール。
ミラーガールの大声と金属音で、目の見えないトリプル・ヘッドは標的を真人たち【リトバス】の面々からミラーガールに標的を移す。
「ミラーガール!」
「あなた達はその場にいて! あとで必ず助けが来るはずだから!」
自分達に代わって囮に成ってくれたミラーガールに声をかける能美クドリャフカに、ミラーガールは必ず助けが来るはずと【リトバス】の面々をその場に待機させる助言を言い残して颯爽と院内を駆け抜けていく。
「グハアアアアアア……!」
無事に【リトバス】の面々からトリプル・ヘッドを遠ざける事に成功したミラーガールは、奇怪な鳴き声を発するトリプル・ヘッドの追跡を一任して無人の院内を駆け巡る。
そして院内の階段を駆け上ると同時に、ミラーガールは無線で外部の仲間と連絡を取る。
「こちらミラーガール!」
「アッコか、今どこだ!?」
「バーンズ、いま私は突然変異した
「な、なに!? 分かった、それで今お前は病院の何処に向かっている!」
「病院の屋上! 階段を駆け上って、屋外にまで誘うのまでは考えているんだけど……」
「そうか分かった! それなら後はオレに任せてくれ! お前は何とか無事に屋上に、屋外に出るまで耐え忍んでくれ!」
「了解!」
聖龍隊総長バーンズとの通信を終えたミラーガールは階段を駆け上がり続ける。
[変異した異常者の末路]
屋上の扉まで辿り着いたミラーガールは、扉を蹴破って屋上へと退出する。
「はぁ、はぁ……」
一気に階段を駆け上がったゆえに呼吸が乱れるミラーガール。
しかし一方で、ミラーガールからの連絡を受けたバーンズの命により、病院の一階と外部を塞ぐシャッターが強引に開かれ、院内に取り残されていた【リトバス】の面々の救出が始められてた。
この様子を屋上から眺めていたミラーガールは、理樹たちが無事に保護されていくのを見てホッと胸を撫で下ろす。
だがその時。屋上と院内を結ぶ扉が内部から突破され、無数の瓦礫が宙に舞う。そして瓦礫と砂埃の中から現れたトリプル・ヘッドがその不気味な全貌を現す。
トリプル・ヘッドに追い詰められたミラーガールは、何とか現状を打破しようとトリプル・ヘッドと対峙する。
と、その時だった。トリプル・ヘッドと対峙するミラーガールの背後、金網の向こうから透明な何かが静かに接近してきた。
背後の気配に気付いてミラーガールが後ろを振り返ると、その透明な物体は同時にその全貌を露にした。
銀色の光沢一色に全体を輝かせる、バーンズことメタルバードの愛機シルバー・ウィングだった。
「ば、バーンズ!」
「アッコ! あとはオレに任せて、お前は屋上から逃げろ!!」
無線越しで名を呼び合う二人だが、メタルバードはミラーガールに急ぎ屋上からの脱出を呼びかける。
すると背後のシルバー・ウィングに気を取られていたミラーガールにトリプル・ヘッドが迫ってきた。
ミラーガールはメタルバードに言われるがままに、屋上から脱出しようと左手首のコンパクトに手をかけて呪文を唱える。
「テクマクマヤコン!」
するとミラーガールの姿が一変、白い鳩へと変わってそのまま上空へと飛び去っていった。
ミラーガールが鳩に変身して屋上から出たのを認識したメタルバードは、操縦桿を握り締めて呟いた。
「済まないな。だが、こうするしかねえんだ……!」
そう悔しそうに呟いたメタルバードは操縦桿を操作して病院屋上のトリプル・ヘッドに向けて砲撃を放った。
「グオオオオオッ、ギュオオオオ……」
爆撃を浴びるトリプル・ヘッドは激痛に悶絶しているかのように声を荒げる。
爆炎の中で苦しみ続けるトリプル・ヘッドを直視して、メタルバードは打ちひしがれる。
元々、彼らは何の無害もなかった二次元人。だが、些細な事で精神を病んでしまい
するとトリプル・ヘッドに苦渋の砲撃を浴びせていたシルバー・ウィングの後方から猛スピードで接近する二体の飛行物体が。
それはアメリカ空軍の爆撃機であった。「チッ、アメリカ軍め。たかが
すると二体の爆撃機は問答無用でミサイルを発射して屋上のトリプル・ヘッドを狙い撃った。
「グオオオオオッ」
ミサイルの爆撃をマトモに受けたトリプル・ヘッドは更に悶絶する。
「く、クソッ。オレが射程内にいるって言うのに撃ち込みやがって……!」
爆撃機の射程内に滞空しているのにも関わらず、ミサイルを撃ち込んでくる砲撃にメタルバードも焦ってその場から離脱する。
そしてメタルバードが操縦するシルバー・ウィングが不在となった上空からは、トリプル・ヘッドに変異した
「グオオオオオオ……」
燃え盛る爆炎の中、意識を失っていくトリプル・ヘッド。
すると其処に別の飛行物体が屋上に接近して特殊装備に身を纏った兵士を投下してきた。
屋上に投下された兵士は、小銃を構えてジワリジワリとトリプル・ヘッドに歩み寄る。
そしてトリプル・ヘッドの肉体が完全に炭化しているのを確認すると、無線で「対象、死亡確認」と報告。
こうして突然変異した
[異常者判定]
ブラック・マン、ブラック・ウーマン、ブラック・ポッドの三名が突然変異を起こして変貌した通称トリプル・ヘッドが撃破され、無残にも処分された現場を目視して複雑な胸中を抱くメタルバードとミラーガール。
しかし院内に取り残されてしまった【リトバス】の面々は無事に聖龍隊士により救い出され、全員の安否が確認された。
だが、事件が無事に幕引きに治まるかと思われた矢先、三次元政府から聖龍隊に指令が下された。
それはなんと、ブラック・マンたち【しゅごキャラ!】のキャラクター達が全員、
元々【しゅごキャラ!】のキャラクターには傲慢なキャラも多数確認されており、三次元政府は厳重な体制で彼らの精密検査を行うようにと申し付けてきた。
これを断れば、たちまち聖龍隊だけでなく全二次元人の自由も危ういと認識した聖龍HEADは複雑な心境の中、ジャッジ・ザ・シティに急きょ日奈森あむ達【しゅごキャラ!】のキャラクター達を召集。納得がいかない彼女達を宥めつつも、三次元政府の精密検査を受けさせた。
二次元人であり、三次元人とは体の構造が全く違う【しゅごキャラ!】の面々は遠距離からでも物資を運べる転送装置でジャッジ・ザ・シティまで移動されてきた。
「これはこれで凄い……人一人運べる転送装置など、SFの物語でしか見たことありませぬ」
「まあな、だがこれは二次元人にしか使えない。三次元人だと細胞に何らかの異常が見られると判断した政府は、まず二次元人で移送のテストを行っている段階なんだ」
「そ、それでは……まるでモルモットみたいではありませぬか……」
「……そういうことだ」
転送装置で太平洋を分け隔てたアニメタウンより瞬間的に転送されてくる【しゅごキャラ】の面々を見て、転送装置の技術の高さに驚くカァチェンにバーンズが現状を語り明かす。
一方の【しゅごキャラ】の面々は、エンブリオ事件の後に全員がしゅごキャラの存在を周知され、同時にイースター社が行っていた事件の数々を知る事となる。
しかしそんな彼らも今では分別なく、三次元政府から機関銃を向けられて検査室へと移動されていく。
当然、これにはかつて敵役として暗躍していた現マン・ヒールズの月詠イクトも検査を受ける事と相成った。
しかし大勢の【しゅごキャラ!】キャラクター達が検査を受ける中、元イースター社の元専務である星名一臣の姿だけは無かった。
それはエンブリオ事件終焉後、当時の聖龍隊総長にしてアニメタウン市長小田原修司がイースター社に対して厳罰的な業務停止命令を布いた為、イースター社の株価は大暴落を引き起こし、事実上イースター社は倒産した。こうして行き場のなくなったイースター社関係者の多くが救済される中、Mrフェイクの謀で全員が罠に嵌ってしまった事件後、一臣は海外へ逃亡。行方を晦ましているからである。
「息を整えて、落ち着いてください 常に平常心で……」
「これで平常にいられる方が異常よ……!」
検査が全て終わるまで用意されていた待合室で待機させられる【しゅごキャラ!】の面々にアナウンスが静かに呼び掛けるが、辺里瑞恵は待合室の並々ならぬ物々しい武装状態に難癖を付ける。
それもそうだ。彼女らが待機されている部屋はもちろん、全ての検査を行う部屋には監視カメラと同時に天井に機関銃が設置されており、少しでも怪しい動きを見せた二次元人は容赦なく銃殺される仕組みになっていたからだ。
そんな日奈森あむ達【しゅごキャラ!】のキャラクター達が理不尽な精密検査を受けさせる現状を、別室でバーンズと共に見守るシバ・カァチェンがガラス向こうのあむ達を見て問い掛ける。
「バーンズよ、彼女達は何処をどう見ても
「カァチェン、いい機会だから教えてやるよ。オレたち二次元人は常に三次元人から恐れられているのが現状だ。お前さんやアニメファンみたいにオレら二次元人を好意に思ってくれている三次元人は、極まれに過ぎない……」
「おそれ、ですか……。敬意を評する畏れとは、違うのですか?」
「まあ、おそれにも色んな意味があるけどな……修司やMrフェイクなど一部の三次元人はオレらに畏怖の念を抱いてくれた事も多々あるが、ほとんどがいつ
「なるほど……確かに、いつ強力な能力を持った二次元人が
「ああ、それになカァチェン……」
メタルバードはガラス越しに、一人一人精密検査を受ける【しゅごキャラ!】のキャラクター達を見守りながら隣のカァチェンに告げた。
「オレたち二次元人は……いつ如何なる存在に変わってもおかしくない存在。それを忘れるな」
「いつ変わっても可笑しくない……それが二次元人……」
自分たち二次元人をいつ如何なる存在に変わっても可笑しくないと説くメタルバードの力説に、カァチェンは凄然と目を見開く。
そんな二人の会話など全く聞こえず、日奈森あむたち【しゅごキャラ!】のキャラクター達は理不尽な精密検査を受けさせられ続けるのだった。
[オリジナルヴィラン:ブラック・マン]
本名:九十九
エンブリオ事件後、当時の聖龍隊総長にしてアニメタウン市長である小田原修司はイースター社に対して厳罰的な「業務停止命令」を発令。これに対し修司は「何かしらの罰を与えなければ、真の平等ではない」と発言し、日奈森あむ達の制止も聞かず敢行。その結果、イースター社の株価は大暴落し、イースター社は事実上の倒産・崩壊に至った。一連の事件や騒動とは無関係のイースター社関係者には、小田原修司特例の待遇により、イースター社の解体後、聖龍隊と協力関係にある組織へと移転。しかし九十九など、エンブリオ事件に絡んだ社員は簡単に採用させなかった事で、九十九とその部下である千々丸と万田は精神を病んでしまい、黒い髑髏のマスクを被る