最弱ヒーラーの激昂   作:勇(気無い)者

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2.プラクティスルーム

 翌日━━少し遅くに就寝した割に、鏡次はバッチリと目覚めた。

 遅くと言っても一時間程度だったからか、冒険者の肉体になった事で少し強化されたおかげで疲労が残らなかったのかは分からないが。

 ともかく、鏡次の体調はバッチリだった。

 

 朝食を摂った後に支度を整え、早速ギルドへと向かう。

 家からは徒歩三十分程度の距離だが、鏡次は終始小走りで移動し、半分程度の時間で到着した。

 しかも、それほど息を乱していない。

 以前の鏡次であれば肩で息をしていたであろうが、冒険者の肉体は体力も向上するようだ。

 

「すぅー…………ふぅー……よし」

 

 多少はあった呼吸の乱れを整えると、鏡次は改めて中へと入る。

 二回目ともなれば、さすがの鏡次も勝手知ったるとばかりに、昨日と同じカウンターへと向かう。

 そこに座っていたのは、昨日と同じく茅野唯だった。

 

「こんにちは、茅野さん」

「ええ、こんにちは。十六夜さんでしたね、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「パーティー募集を見させてもらいにきました」

 

 パーティー募集とは。

 そもそもだが、冒険者は大抵複数人でダンジョンアタックを行う。攻撃する者、撹乱する者、回復する者など、それぞれが役割を担うことで戦闘を有利に進められるからだ。

 また、敵も複数で襲いかかってくる事の方が多いので、数の暴力に対抗するためという側面もある。

 

 ……一部の冒険者は、ソロ━━たった一人でダンジョンアタックを行なっているが、それは相応の実力を身につけているからこそ出来る芸当である。

 一般的な冒険者……ましてや、鏡次のような成り立てのヘナチョコに出来るわけがないので、パーティーを組むのだ。

 そして、募集する者がギルドに条件を出し、それを満たす者を応募者から選別、ギルドで顔合わせという形になる。

 唯はギルドカードの提示を促し、鏡次からそれを受け取って確認すると、引き出しから一枚の紙を取り出した。

 

「十六夜さんは『サークル』の等級ですので、ご案内出来る募集はこちらのみとなります」

 

 サークルの等級━━それは冒険者としての『ランクと強さ』表すものである。

 このランクは、冒険者の胸元にあるタトゥーのようなマークによって決まる。

 最初は必ず丸印一つの『サークル』の等級から始まり、次のランクに昇格するとマークが二重丸になる。

 その次は、外側の丸に重なるように四角形が追加され、そのまた次は斜めに傾いた四角形が重なり、一筆書きでない八芒星が出来上がる。

 

 ここまでが下位の等級。

 その次以降が特殊で、円の中に五芒星〈ペンタグラム〉が刻まれ、更にランクが上がると五芒星〈ペンタグラム〉が消えて六芒星〈ヘキサグラム〉が刻まれるのだ。

 下位の等級をまとめると、

 

 ◯━━サークル、円一つである事からその名が付いた始まりの等級。

 ◎━━ダブル、丸が二つに増えた事からその名が付いた二番目の等級。

 □━━スクエア、四角が足された事からその名が付いた三番目の等級。

 ◇━━フレーム、枠が全て揃った事からその名が付いた四番目の等級。

 

 ……となる。

 これ以降は上位の冒険者として扱われ、その数は世界中で千人程度しか存在しない。

 世界の国の数がおよそ二百として、平均すると五人も居ない計算になる。

 無論、一つの国に十人以上の上位等級持ちが存在する国もあるので、本当に各国五人以下という訳ではなく、少なかったり多かったりはするが。

 つまり、昨日ギルドにいたバニーガールの女性は上位等級の冒険者であり、相当な経験を積んだ冒険者だったのだ。……例え、あのようにふざけた格好をしていたとしても。

 

 閑話休題。

 

 鏡次は差し出された募集案内によく目を通す。

 募集を掛けたリーダーは、八雲零〈やくもれい〉というらしい。同行メンバーは一人だけで、八雲梨沙。名字が同じなので、家族や親戚なのかもしれない。

 武器種は剣と槍で前衛希望、報酬は人数割りであるなどの項目も読み進めてゆき、紙を唯に返して。

 

「……パーティー参加でお願いします」

「承りました。先方にも伝えておきますね。向こうで確認が取れ次第、十六夜さんのスマホに連絡が来ますので、確認をお願いします」

「はい、分かりました」

 

 そうして、鏡次はカウンターを離れ。

 

「……しまったな、すぐにダンジョンに潜れるわけじゃないんだ」

 

 当然の事に今さら気づくのだった。

 エントランスの椅子に腰掛けて、パーティーに入ってくれそうな人を待っている場合もあるが、少なくとも周囲にそれっぽい人物は見当たらない。

 どうするか考え込んでいると。

 

「あれ? 昨日のおにーさんじゃーん!」

 

 背後からの声に振り返ってみれば、昨日のバニーガールがそこに居た。

 

「昨日のお姉さん」

「そ、昨日の美人な案内係のお姉さん!」

 

 などと言っているが、唯が昨日言っていた通り案内係などそもそも居ないし、彼女はギルドの職人ですらないが。

 というか、自分で自分のことを美人とのたまうのはいかがものかと思うが、客観的に見ても事実ではあった。

 

「そう言えば名乗ってなかったね。私は佐伯真央〈さえきまお〉。よろしくね」

「あ、はい。十六夜鏡次です、よろしくお願いします」

「鏡次君ね。ねえねえ、この後どうするの? 何か用事ある?」

「あ、いえ……ダンジョンに行こうと思ってたんですが、パーティーの事を考えてなくて……」

「ははーん、さてはギルドに来ればすぐにパーティー組めると思ってたクチだな?」

「うっ……そうです……」

 

 大きな声で笑う真央と、情けなくて肩を落とす鏡次。

 真央はひとしきり笑うと、こんな提案をしてきた。

 

「じゃあさ、今時間あるんだよね? 上の階にあるプラクティスルームで、スキル練習でもしに行こうよ」

「プラクティスルーム、ですか?」

「そっ。まぁ百聞は一見に如かずだよ。私が連れてってあげるね。さぁ行こ行こ」

「あわわっ」

 

 昨日と同じように引っ張られてゆく鏡次。

 階段を登って二階に着き、しばらく廊下を歩いた先の扉を真央が開け、そのまま連れ込まれた。

 そこは、エントランスに勝るとも劣らないほど広い空間だった。

 左手には銃の射撃場のようなスペースがあり、それぞれ魔法の試し撃ちを行なっている。その隣には、対人用のスペースと思しきコロシアムのような場所。

 他にもドッグランを思わせる広い芝生や、機械仕掛けだと思われるゴーレム相手に戦いを繰り広げていたりなど、それぞれがネットに囲まれる形で存在していた。

 圧倒され、ポカンと口を開けてアホ面を晒していた鏡次に、真央が声を掛ける。

 

「このプラクティスルームでは、魔法やスキルの試し撃ちとか、色々できる施設がそろってるのよ。さ、こっちこっち」

 

 そう言って、真央は再び鏡次を引っ張ってゆく。

 その間も、鏡次はおのぼりさんのように各施設に目を奪われていた。

 そして、冒険者同士の手合わせをしている場所に目が留まる。

 何やら一対一で、エネルギー状の光の剣を手に斬り合っており、鏡次の目には何が起こっているのか分からないほど、両者は高速で動いていた。

 

 しかし、その瞬間だけはハッキリと見えた。

 時々、両者が光の玉のようなものを撃ち出していたのだが、その内の一つが剣で弾かれ、鏡次の方へ飛んできたのだ。

 凄まじい速度だったが、このままだと直撃すると鏡次は分かっていた。……分かってはいたが、反応できる速さではない。

 ネットの向こうから飛んでくるそれを前に、鏡次は顔を伏せるしかなかった。

 バチィッという音が鳴り、鏡次は恐る恐る顔をあげてみたが、何も起こってはいない。

 そして、真央がジッと見つめてきているのに気がついた。

 

「……どうかしたの? 急に体を震わせたりして」

 

 顔を伏せた時に体を揺らしたので、何事かと振り返ったのだろう。

 

「あ、いえ……向こうで戦ってる流れ弾がこっちに飛んできたので……」

「あー、それぞれの施設を囲ってるネットには結界魔法の技術が使われてるから、基本的に安全だよ。それこそ、トップランカーの冒険者が全力出しても平気なくらいにね」

 

 それだけ言うと、再び鏡次を引っ張って歩き出した。

 トップランカーの冒険者とは、基本的に六芒星〈ヘキサグラム〉の冒険者の事である。

 世界に五十人とおらず、第一線で活躍する実力者たちだ。

 ……一応、その上の七芒星〈ヘプタグラム〉の冒険者もいるが、こちらは現在二人しかいない。

 最高峰の冒険者ではあるが、その希少性から別枠として国から大事にされている。

 故に、トップランカーの冒険者と言えば、六芒星〈ヘキサグラム〉の冒険者を指すのだ。

 もっと数が増えれば、七芒星〈ヘプタグラム〉がトップランカーと言われるようになるだろう。

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