「……どういうこと? 私の個人的な推測であって根拠のない話なのに、ギルドに報告しても相手にされないと思うわ」
「レッドヴァンウルフの異常個体が出たのは充分な根拠になりえると思いますが」
鏡次の言葉に、真央は少し考えた後に答える。
「……それはどうかしらね。今回の件で、結果的に人的被害が出てないのよ。それに、レッドヴァンウルフの死体は鏡次くんが跡形もなく粉々にしてしまったから、異常個体の存在を完全に証明する手立てがないわ」
「演習に参加した数十人と、真央さんの証言があれば充分ではないのですか?」
「うーん……」
頭をポリポリとかきながら言いよどむ真央に変わって、今度は唯が口を開いた。
「十六夜さん、私も世界中のギルドで共有するのは難しいと思います。ギルドは利己的な側面も多少はありますので、明確な問題が起こらない限りは……数十人程度の意見は相手にされない可能性が高く、今回の場合だとT市南ダンジョンを閉鎖して因果関係の調査に留まると思います。ウチのギルドではしっかり調査すると思いますが、世界中のギルドでというのは……」
「……そうですか」
唯の言葉に考え込む鏡次。
そこで真央が疑問を呈する。
「そもそもなんだけど、鏡次くんはなんで世界中のギルドに報告すべきだと思ったの? 今回の異常個体の件なら、ここのギルドが調べてくれるって唯も言ってたでしょ?」
「……さっき、真央さんはダンジョンのオーバーフローがA、今回の件が Bと言いましたね?」
「まぁ、それはただの例え話だったんだけど……それがどうかしたの?」
「いえ、それでふと思ったんです。Aと Bが起こった場合に異常個体が発生するなら、まだ確認されていないCやDの異変が起こった場合にも異常個体が発生するんじゃないかと……」
「っ!」
唯と真央の表情が途端に鋭くなる。
だが、数秒ほど考え込んだ後、唯は首を振った。
「……いえ、やっぱり難しいです。そもそもの話なのですが、真央が言った B……三件の異変についてですが、それぞれ期間が空きすぎています。関連を疑っているのは私たちだけで、それらが起こった直後に異常個体が出現したのならともかく、数ヶ月ごとに起こった後に異常個体の出現ですから、疑いはしても証明は難しいと思います」
「やっぱりそうですか……」
人命が掛かっている件だけに、鏡次と唯はギルドに調査をしてほしいと思案しているが、現実はなかなか上手くいかないものである。
ちなみに、三人が話し合い始めてから一言も喋っていない愛だが、話について行けないと判断したのか、背もたれのないキャスター付き回転イスに座ってグルグル回っていた。
あれだけの怖い目に遭った割には呑気である。三日も経ったので恐怖心は薄れたのだろうか。
話し合いに集中していたので放置していた唯だったが、ふと愛の行動に気づいて注意した。
「愛ちゃん、はしたないからやめなさい。そもそもお姉ちゃんたちは真面目な話をしているのよ」
「だって、私には難しいんだもん。何の話なのか、イマイチよく分からないし」
「分からなくても聞いておいた方がいいわ。愛ちゃんも冒険者になったんだから、そうやって人任せに考えてたら命に関わるのよ」
「うーん、そうだけどぉ……」
「人任せ……そうだ!」
唯の言葉がヒントになったらしく、鏡次が何か思いついたようだ。
その反応に真央が首を傾げる。
「鏡次くん、どうかしたの?」
「ギルドを当てにするのはやめて、冒険者に頼りましょう」
「……どゆこと?」
更に真央が首を傾げる。
「ネットにこの情報を拡散するんです。コレコレこういう件があって疑わしい、みたいな感じで」
「……すると、どうなるの?」
「恐らく『有志たち』が動いてくれると思います」
有志たち。冒険者やダンジョンに関連する事柄の究明を目的に、自然と集まった冒険者の集団だ。
その腕前と実績を買われて、国から調査依頼を受けることもある。
が、彼らは明確な組織として構成されているわけではなく、一般の冒険者たちが勝手に集まってダンジョン等の調査を行っているのだ。
なので、その時々によって調査に参加する冒険者も違うのだが、明確なリーダーだけは存在する。
その男の名前は伊集院聡明〈いじゅういんさとあき〉。
ダンジョン黎明期から活躍する、現在では六芒星〈ヘキサグラム〉となった冒険者である。
「彼らはネットで気になる噂を聞きつけては、その調査を行うこともあると聞いたことがあります。だから、今回の件もネットで匂わせておけば━━」
「━━有志たちが勝手に調査を行なってくれるってことね!」
真央は得心がいったように鏡次の言わんとすることを続けた。
「その通りです。彼らはネットでダンジョンや冒険者の謎があれば究明しないと気が済まない、変態集団とか言われてますからね。俺たちは噂を流すだけで、あとは彼らが勝手にやってくれるでしょう」
「……そんなに上手くいくでしょうか?」
「まぁ唯の疑問も分かるけど、やるだけやってみればいいと思うわ。彼らの耳に入らなくても私たちに被害はないんだし」
「……それもそうね」
考えるだけ無駄かと、唯は思考を打ち切った。
そして、疑問が解消されたところで鏡次はふと思う。
「そういえば、俺ってこれからどうなるんですかね……三日間寝てたってことは、ここに入院してたってことで、入院費とか……そんなにお金ないんですけど……」
顔を青ざめさせる鏡次の表情に、真央はブフッと吹き出す。
代わりに、微笑ましいものを見るように唯が答えた。
「今回の件はギルドが主導の催しでしたから、演習中に巻き込まれた十六夜さんが負担することはありません。ギルドの経費として申請しておきましたから、安心してください」
「あ、そうなんですね……えっと、じゃあ俺の意識が戻ったので、これで退院ですかね?」
「それは分かりませんが……話を始める前に十六夜さんが目覚めたことを伝えておいたので、その内ここの医師が来ると思います」
そう唯が言った直後、部屋のドアがノックされて医師が入室した。
★
それから鏡次は診察と軽い検査を受け、ギルド内の医療機関を退院。
時刻は昼過ぎであり、四人は昼食を摂った後、再びギルドに戻ってきた。
その切っ掛けとなったのは、真央の一言である。
「鏡次くん、昇格受けに行かない?」
その言葉に鏡次がなぜかと聞き返せば、彼女が言うにはあれだけのモンスターをほぼ一人で倒したのだから、ダブルになっているはずとのこと。
もし本当なら是非受けたいということで、四人は現在ギルドの計測室にいる。
愛と真央は完全に部外者なので本来は入れないのだが、鏡次が許可したことと計測機を使うのが唯だったので一緒にいた。
「それでは、機械に腰掛けて楽にしてください」
鏡次は指示に従い、酸素カプセルのような機械の座席に腰掛ける。
一年前、冒険者になったことを鏡次は思い返していた。
全く同じ部屋の、全く同じ機械で彼は冒険者になったのだ。
あの日と同じように真っ暗な状態で手足は拘束され、全身のスキャンが行われた後に胸元が緑の光で照らされる。
その工程を終えた後、視界は次第に明るくなってゆき、拘束が解かれて扉が開く。
「お疲れ様でした。こちらが更新されたギルドカード……えっ!?」
手渡そうとしたギルドカードを見て、唯が驚いたような声をあげる。
「唯、どうしたの?」
「……スクエアになってる」
唯がそう言うと、真央と愛はギルドカードをのぞき込んだ。
名前の横には、二重丸の外側の丸に四角が重なったシンボルが印字されている。
それを確認した真央は、足早に鏡次へ近付くと、シャツを首元まで乱暴にめくり上げた。
胸部に刻まれたシンボルは、確かにスクエアのものだった。
「……一階級飛ばして昇格してる」
真央の一言が無音の部屋内に響く。
未だかつてなかった階級を飛ばしての昇格をした鏡次は、前代未聞の冒険者として一躍有名になるのだが、この場の誰もが知る由もなかった。
応募の条件を満たすために一ヶ月もない中、頑張って書きはしましたが、やっぱりプロットも組まずに見切り発車したのが良くなかったですね
とりあえず5話くらいまで勢いで書いた時点で「これおもんないな……」と思ってました
しかも暴れるところまんま金獅子……
とはいえ、ランクの設定とかは気に入ってるので、続きを書くことはないとおもいますが、いつかリメイクして書き直したいと思ってます
読んでいただいて申し訳ありませんが、次回作にご期待ください