最弱ヒーラーの激昂   作:勇(気無い)者

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3.スキルと魔法

「さ、着いたよ〜」

 

 案内された場所は、色々な事ができそうな場所であった。

 二メートルはある縦置きの丸太らしき物に剣で斬りつける人や、先ほど見た射撃場(距離はかなり短い)に似た場所で魔法の試し撃ちをする人。

 機械から撃ち出される光の玉を受けたり弾いたりする人や、鍵付きの宝箱の前でガチャガチャやっている人など。

 鏡次はそれらを見ただけで、何となくこの施設の意味が理解できた。

 

「ここでは、色んな事が試せるの。ビギナーには特に重要な場所でね」

「重要、ですか?」

「そ。時に鏡次君、得意なスキルは何かな?」

「えっ、と……分かんないです」

 

 真央がガクッと肩を落とす。

 

「おいおい鏡次君、そんなんでパーティー組むなんてまだまだ早いぞ〜? 最低限、自分は何をできるのか〜とかの確認はしておかないと」

「うっ、すいません……」

 

 言われてみれば当たり前の事である。

 ゲームだったら戦いながら確認すれば良いが、これは現実で命が掛かっているのだ。真央の言っている事は正しい。

 

「とりあえず、ギルドカード出してくれる?」

「あ、はい」

 

 言われるまま取り出すと、真央がカードに指差した。

 

「ほら、ここにスキルって書いてあるでしょ? この欄にある『ヒール』ってのが、今の鏡次君が使えるスキルだよ」

「ヒールって事は、回復ですね」

「そ、傷を癒す魔法ね。ヒーラー適正なんだね」

 

 ヒーラーは傷を癒す魔法を使う者の事である。メンバーに一人は必ず居た方が良いといわれるポジションだ。

 ポーションというアイテムで傷を癒す事もできるが、持ち物を圧迫するのでヒーラーを連れていった方が断然良い。

 

「じゃ、試しに回復魔法を使ってみようか。こっち来て」

 

 言われるまま着いて行くと、そこには奇妙な物があった。

 人の腕ぐらいの長さ(手首から肘)と太さであり、真ん中の辺りの表面が裂けている。

 かといって人の腕という訳ではなく、見た目は樹皮でゴムのように少しだけ伸びている、とでも言えばいいのか。

 

「な、何です……? この、ちょっとキモいの……」

「トレント種の魔物って知ってる?」

「樹木のモンスターでしたっけ? 木のまま擬態して、のこのこ近づいてきた冒険者を攻撃するっていう……」

「そうそう、それの素材を使って作られたのが、この回復練習用無限自壊装置って訳」

「か、かいふく……むげんじかい……?」

「回復練習用無限自壊装置。要は回復魔法の練習をする為の装置って事ね。回復魔法が作用する物質を、魔物の素材から作ったものなのよ」

 

 この装置が作られたのは五年前であり、無かった時代は自傷してから自分に回復魔法を使う事でしか練習できなかったのだ。当時はなかなかの革命品だったらしい。

 

「ま、とりあえず練習してみよっか」

「はい。でも、回復魔法なんてどうやって使えばいいんでしょう?」

「んー、口で説明するよりやった方が早いかな。とりあえず、裂けてる部分に手をかざして」

「分かりました……けど、どうすれば━━」

「こうやって使うのよ」

 

 ポン、と真央は鏡次の背中に手を当てる。

 瞬間、鏡次は自分の体内から腕に向かって、何か温かいものが流れてゆくのを感じた。

 そして、その手から緑色のオーラがあふれ出し、回復練習用無限自壊装置の裂けた部分へとオーラが注がれてゆく。

 すると、みるみる内に裂けていた部分が修復され、数秒で塞がってしまった。

 

「す、すごい……今のは何ですか?」

「私が鏡次君の体を介してヒールを使ったんだよ。イメージ的には……あー、鏡次君を杖として装備して、そこに魔力を注ぎ込んだ感じかな」

 

 魔法職全般に言えることだが、魔力の込められた杖を装備する事で、使う魔法の威力を底上げする事ができる。

 無論、杖が無くとも魔法自体は使えるが、威力の底上げをすれば攻撃にしろ回復にしろ、使用する魔力は少なく済むので、装備するのが一般的だ。

 そして先ほど真央が行ったのは、鏡次を杖に見立ててヒールの魔力を流し込み、鏡次にヒールを『使わせる』という荒技である。

 こうする事によって初心者は感覚を掴み、即座に魔法が使えるようになるのだ。

 

「多分、もうヒールのやり方は分かるんじゃないかな。もう一度やってみて」

「は、はい。でもコレ、さっきと違って裂けては━━」

 

 ブチィッ!

 装置からの音に視線を落とせば、塞がったはずの裂け目が復活していた。

 

「えー……」

「あはは、初めて見るとそういう反応になるよね」

 

 そう、無限自壊装置という名前の秘密はそこにある。

 回復魔法は傷に対してのみ効果を発揮し、無傷の人間に使っても何の意味もない。

 故に、回復魔法で塞がっても、勝手に自壊して何度も回復魔法を使えるようにしよう、というコンセプトの元に生まれたのがこの装置であった。

 これでヒーラーの素質がある冒険者は、心置きなく回復魔法の練習ができるようになるのだ。

 ……しかし、見ていてあまり気分のいいものではない。というか、ハッキリ言って気持ち悪い絵面である。

 

「ま、でも実用的な事に変わりはないからさ。気軽に練習していいよ。フリー施設だからお金も掛からないしね」

「はい、いろいろ教えて頂いてありがとうございます。……でも、なんでギルドカードには、使えるスキルが載ってるんですかね?」

 

 ついでに気になった疑問を口にする鏡次。真央は快く答えてくれた。

 

「そりゃあ、鑑定機に入ったからだよ」

「鑑定機……?」

「昨日、鏡次君が入った機械だよ。胸にシンボルを刻印するやつ」

 

 そう言いながら、真央は自分の胸元の等級を表すマークを指差す。

 ……このマークだが、呼び方が定まっていない。

 日本でも等級と呼ぶ地域や、証とか印と呼ぶ地域など、割と呼びたいように呼ぶ人たちが多かったりする。

 海外でもマークだったりシンボルだったりするが、基本的には冒険者を表す『象徴』である事から、シンボルと呼ばれる事が多い。

 故に公式でもしっかりと定まっておらず、鏡次も今知ったところだった。

 また、真央の言う鑑定機とは、昨日鏡次が入った酸素カプセルみたいな装置の事である。

 

「あの鑑定機で、その人が持つ資質を読み取って何が得意なのかとか、身体能力や魔力はどれくらいなのかとかを測るんだよ」

「そうなんですね……あ、じゃあスキルや魔法もその時に?」

「そういう事。で、その情報を元にギルドカードが作成されるって訳」

「へぇー……」

 

 真央の話を聞き、鏡次はもう一度ギルドカードを出した。

 改めてよく見れば、力とか体などと書かれた文字の横にそれぞれ◯や◎の記号が割り振られている。

 詳しくは割愛するが、これがゲームとかで言うところの『ステータス』と同じ役割を持っている。

 鑑定機に掛かれば、こういった事も算出できてしまうらしい。

 

「そういえば、ヒールの他にもう一つスキル欄に書いてあったね」

「あぁ、はい。強化って書いてますね」

「どれどれ……ほんとだ、強化って書いてあるね……」

「これはどういうスキルなんでしょう?」

「あー……多分、自分の肉体を強化するスキル? じゃないかな?」

 

 珍しく疑問系で答える真央。

 なぜかというと、普通なら何々強化と表記されるからだ。

 具体例を挙げると、肉体強化や魔力強化、回復強化などのスキルがある。

 強化としか書いてないスキルなど、真央は見た事がなかった。

 そして、彼女はギルドカードに書かれた強化の文字をまじまじと見つめている。

 

「あの……佐伯さん?」

「え? ああ、ごめんごめん。なんでもないよ。てか、下の名前で呼んでくれていいよ〜」

「あ、はい。じゃあ、真央さん?」

「真央ちゃんでもいいよ? 年近そうだし」

「え、いえ、それはさすがに……」

 

 サークル、ダブル、スクエア、フレームの上の上位冒険者である五芒星〈ペンタグラム〉の等級相手に、そこまで馴れ馴れしくするのは気が引けた。

 ……バニーガールというふざけた服装の相手であっても。

 

「別に気にしなくてもいいんだけどな〜。ま、いいや。とりあえず説明しなきゃいけない事は大体説明したと思うし、私はもう行くね」

「あ、はい! 色々教えて頂いて、ありがとうございました!」

「いいのよ〜。それが私の役目だからね〜」

 

 そう言い残すと、真央はその場を去ってゆく。

 彼女の背中をしばらく見送っていた鏡次だったが、回復魔法をもう少し練習しておこうと、再び装置に向き直るのだった。

 

 

 真央はプラクティスルームを出た後、一階へと戻っていった。

 そして、一番カウンターに人が居ないことを確認すると、そこに近づいてゆく。

 それに気づいた唯が声をかけた。

 

「……あら、真央じゃない。どうだったの?」

「どうって、何が?」

「さっき十六夜さんを連行していったでしょ」

「連行って、人聞き悪いな〜」

「いつもの事でしょ。で、どうだったの?」

「あー、うん……まだ分かんないけど、特別な何かを持ってるかもしれないね」

「そう。……早くあなたの目的を達成できるといいわね」

「……うん」

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