最弱ヒーラーの激昂   作:勇(気無い)者

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7.廃業と転職

 あれから一年が経過した。

 サークルだった鏡次の等級は、ダブルへと━━上がらなかった。

 大抵の冒険者は、三ヶ月から半年ほどでダブルへと昇格するのだが、鏡次はサークルのままである。

 そんな彼が現在、何をして暮らしているのかといえば。

 

「鏡次君、プラクティスルームで怪我人が出ちゃったみたいだから、見に行ってもらえる?」

「分かりました!」

 

 女性のギルド職員に指示され、鏡次は小走りで現場に急ぐ。

 ……そう、鏡次は立派な冒険者━━ではなく、ギルド職員として勤めていた。

 なぜ冒険者ではなくギルド職員になったのか。

 それは、一年前に遡る。

 

 八雲兄妹とダンジョンアタックを行った後、鏡次は二人にパーティーを結成しないかと誘われたのだが。

 それは嬉しい誘いではあったものの、鏡次は二人との実力差をハッキリと感じ取っていた。

 故に、もっと力を付けて二人に追いつくまで待ってほしい。そう言ってその場は断ったのだ。

 実力差が開いた者同士が組むと、色々な問題が起こったりする。

 連携が上手くいかなかったり、弱い者のフォローをしなくてはいけなかったり。

 そういった問題が積み重なり、結局は解散になるというケースが多いのだ。

 それに、八雲兄妹は拠点を移すつもりだという話も聞いており、鏡次はまだこの町を離れられない理由があった。

 だからその場は断り、いつか実力が付いて問題が片付いたら一緒に戦おう、と約束した。

 

 そうして八雲兄妹と別れ、鏡次はダンジョンアタックを行うべく、パーティーの募集を掛けた。

 逆に他のパーティーの募集があった際に教えてもらえるよう、パーティー応募の登録もギルドにお願いした。

 これで鏡次のパーティーに応募があっても、他の実力が近いパーティーの募集があっても、スマホに連絡が来るのだ。

 しかし、連絡は全然来なかった。

 そもそもにして、T市にはあまりサークルの冒険者がいないのである。

 八雲兄妹と組めたのはたまたまであり、運が良かっただけだ。

 

 そうして一ヶ月ほど時間を無為に過ごし、蓄えが目に見えて減りはじめたのでバイトでもしようかと考えていた時だった。

 ついに鏡次のスマホへと連絡が入る。

 その内容とは、同じサークルの等級ではなく、一つ上のダブルのパーティーからの募集であった。

 八雲兄妹以上に実力の離れた冒険者である。

 それなのになぜ鏡次のスマホに連絡が入ったのかといえば、戦闘要員としての募集ではなかったからだ。

 ポーター……つまりは荷物持ちの募集である。

 募集要項には『ポーター募集、サークルでも可』と書かれていたので、ヒールを使えるうえに暇している鏡次に連絡が来たという訳だ。

 

 それから顔合わせをして、ダンジョンアタックが開始された。

 鏡次は食料などの荷物を運ぶポーター役なので、戦闘には一切加わらない。

 というか、ダブルの冒険者は強過ぎて、そもそも加勢の必要が全くない。

 鏡次を入れて四人パーティーなのだが、十階層に降りるまで誰一人として怪我をしなかった。

 まぁ、ダブルの基準がT市南ダンジョンの十階層到達ぐらいなので、当たり前といえば当たり前なのだが。

 それまでに倒したモンスターの魔石は全員で剥ぎ取り、鏡次が背負う巨大なバックパックに入れていた。

 十層以降も苦戦はしなかったものの、さすがに被弾するようになる。

 かすり傷程度だったので、それらはすぐに鏡次が治した。

 しかし、十三層で深めの傷を負う者が一人でてしまう。

 それも鏡次が治すこととなったが、それを見ていたパーティーリーダーが呟いた。

 

「……回復遅いな」

 

 たった一言。それだけだったが、鏡次の胸にグサリと突き刺さった。

 ギルドカードには、大まかな能力値の表示もされている。

 それぞれ冒険者のシンボルと同じように表記され、低いステータスにはサークルのシンボル、高いステータスにはダブルやスケエアといった具合に表記されるのだ。

 これはそのステータスがダブルやスクエアに匹敵するという意味ではなく、あくまでその等級内でどの程度の強さなのかを表すステータスであり、次の等級に上がれば表示は再びサークルやダブルに変わる。

 そして、鏡次のギルドカードにはサークルやダブルばかり表記されていたが、魔力の欄だけはフレームとなっていた。

 それはつまり、サークル等級の中でも鏡次は非常に魔力が高いという意味を持つ。

 だというのに、回復速度は同じサークル等級のヒーラーより倍以上遅い。何気に鏡次が気にしている事だった。

 

 再び探索が始まって、回復の度に冒険者たちはイライラを募らせていった。

 それでも鏡次はめげずにポーターとしての役割に徹し、回復が必要な時にはヒールで仲間の傷を治してゆく。

 しかし、仲間の一人が重傷を負ってしまい、鏡次のヒールではなかなか治せず、結局ポーションで治す事になってしまった。

 それもあってか探索を切り上げる事となり、一泊二日のダンジョンアタックは幕を閉じる。

 そして地上に出たあと、あの一言を浴びせられた。

 

「この役立たずのヒーラーが!」

 

 それからケチがつきはじめて、鏡次がパーティー募集に呼ばれる事はなくなった。というか、紹介されても顔合わせの段階で敬遠された。

 あの時の冒険者が、ポーション以下のヒーラーだの、役立たずどころか足を引っ張るだのと鏡次の悪評を吹聴したためだ。

 まぁ、彼らの行為はあまりに悪質だったので、ギルド側が厳重注意をしたうえに罰則をチラつかせてたら、逃げるように他の県へ拠点を移したが。

 しかし、火のないところに煙は立たぬとも言う。噂の真偽を確かめようという者はおらず、味方をしてくれそうな佐伯真央は一時的に他県へ移っており、鏡次は冒険者たちから避けられてしまう。

 それでも諦めずにギルドの受け付けに通い詰めていたら、ある時こう持ち掛けられた。

 

「ギルドの職員として働いてみませんか?」

 

 こうして鏡次の冒険者業は三ヶ月もしないうちに幕を閉じ、ギルド職員としての道を歩み始めるのだった。

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