男は度胸。女は愛嬌。そして、   作:チキンうまうま

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① 赤ずきんちゃんとありあわせシチュー

 

「アンタ難儀な生き方してるわねぇ。」

 

 浮遊城《アインクラッド》の第一層にある鬱蒼とした森の中で、焚き火を囲んだ2人が座っていた。2人のうち背の高い方は中性的なととのった顔に肩までかかる黒髪を蓄えており、背の低い方は赤いフードを目深に被っている。そのせいで顔はよく見えなかったが、フードの隙間から美しい茶色の髪が溢れていた。

 

 2人の間でパチパチと燃える薪の上には鍋が載せられており、時折蓋の隙間から小さな泡が吹きこぼれている。その鍋の蓋を取り、中身をクルクルとお玉で混ぜながら2人のうち背の高い方が苦笑いをしながらそう言った。

 

「…余計なお世話よ。」

 

 その言葉にフードを被った背の低い方がフン、と顔を背けた。その様子はまるで懐いていない子猫が意地を張っているようにも見えた。とはいえフードの方が倒れていたのをどうにか安全なこのエリアまで運んできたのは目の前の人物なのだから、それに恩を感じていないわけではない。無愛想ではあるが、受け答え自体はしていた。

 

「そうねえ。確かに余計なお世話。アタシにアンタの生き方についてどうこう言う権利はないもの。」

「だったら、もういいでしょ?私、またレベリングしに行くから。」

「だめよ。さっき倒れたのに、疲労はまだ抜けてないでしょう?行くなとは言わないけど、せめてちゃんと休んでから行きなさいな。」

 

 その言葉にフードの方が不機嫌そうな顔をしたが、背の高い方はその整った眉根を困ったように寄せるだけだった。まったくもう、と呟きながら手元を動かし、ウィンドウから取り出したお椀に鍋の中身を注いでいく。

 

「食べなさい。味は…まあ保証できないけど、多分空腹よりはマシなはずよ。」

 

 そう言って背の高い方はお椀に装ったシチュー、らしき何かを差し出した。ほかほかと湯気をあげるそれは、実に空腹を刺激する匂いを放っている。それはアイテム屋で購入した幾らかの材料と近くの牧場で受注できるクエストをクリアした際の報酬である牛乳を使用した、現段階でできる中で最も料理らしい料理であった。

 

「…いらない。」

「あら。お腹減ってなかった?」

「食事に興味がないだけ。このゲームの中の料理なんて所詮はデータじゃない。だから別に、食べなくても平気…」

 

 と言った瞬間、背の低い方のお腹がぐう、と鳴った。あまりにも完璧すぎるタイミングに2人の間に一瞬沈黙が生まれて、そして背の高い方が手の甲で口元を覆った。よく見るとその口元がくつくつと小さな笑みを堪えている。

 

「なんで、なんでこんな時に鳴るのよ…!!」

 

 そして背の低い方はフードからわずかに覗く顔を真っ赤にして俯いた。このゲームの中は感情表現が豊かになる傾向があるが、それを抜きにしても相当恥ずかしかったと見える。両手でお腹を押さえ、音を抑えようとしたが無情にも彼女のお腹は再びぐうぐうと激しく空腹を訴えた。

 

「もう、なんで…!」

「…ひー!もうダメ!アンタ面白すぎよほんと!最初は小生意気な娘だなんて思ってたけどアンタいいじゃない!アタシすっかりアンタのこと気にいっちゃった!」

「うるさい!」

 

 ついに声を抑えようともせず笑い始めた相手に、背の低い方は声を荒げて怒鳴った。だがそれを意にも介さず背の高い方は笑いながら再びお椀を差し出した。

 

「ふふっ…ごめんなさいね。でも実際、お腹減ってんのなら食べてくれたら嬉しいわ。ちょっと多く作りすぎちゃったから、アタシ1人じゃ食べきれないの。」

「…なら、貰うわ。」

「はい。お上がんなさい。」

 

 その言葉に不承不承、と言った様子を装いながら背の低い方はお椀を受け取った。実際のところ、彼女の胃は久しぶりに嗅いだ料理の香りにもう我慢ができなくなっていた。ここでこの料理を断って仕舞えば、街のレストランに向けて駆け出していたであろうほどに。

 久しぶりの温かい料理に若干戸惑いながら、スプーンでシチューを掬う。湯気をあげるそれを、少し息で覚ましてから口に運んだ。ただそれだけで、フードの方が目を丸くした。

 

「…美味しい。」

「あら、そう?それはよかったわ。」

 

 美味しい、と素直にそう思えた。所詮この世界の食事はデータの集合体で、いくら食べても胃の中には食べ物の一片も、栄養の欠片も肉体には還元されない。そう思っていたし、このデスゲームを終わらせるにはこんなもの不要だと思っていた。だが、それをひっくり返すほどの魅力がこのシチューにはあった。

 

「…あら美味しい。これは間違いなくうまく行ったパターン。アタシの料理スキルも熟練度上がってきたってことかしら。」

「…料理スキル?」

「そうよ。この世界だと料理するのにそれが必要なの。」

 

 背の高い方も忙しなくスプーンを口に運びながら応えた。少しだけ肩をすくめて、背の低い方の方に目線を向ける。

 

「…料理なんて、無駄じゃない。」

「そうね、アンタの思ってる通り、料理スキル(これ)は戦闘に直接役にたつわけじゃないわ。いくら料理ができたって、モンスターに1でもダメージを与えられるわけじゃない。でもね、」

 

 お椀に銀色のスプーンを置いた。固いもの同士が触れた音が夜の森に響く。

 

「『万全のメンタルを維持しやすくなる』。それだけでもこのスキルには意味があるわ。今のアタシたちは肉体(からだ)がない。だからこそ、精神(メンタル)の維持が大事なの。その手っ取り早い手段が、これよ。」

 

 そう言って行儀悪くスプーンでお椀を軽く何度か叩いた。その様子を、背の低い方はじっと見つめていた。

 

「今のアンタみたいに、疲れてる時はとりあえずあったかい物を食べるの。それだけで心ってのは落ち着くものよ。」

「…そんな時間なんて」

「なくても作るのよ。いい?アタシたちがしてるのは短距離走じゃない。いつ終わるのかも、どれだけつづいているのかもわからないマラソンよ。そのために必要なのは適度な休息と補給。食事はそのために必要な時間と割り切りなさい。」

「……。」

 

 その言葉にフードの方は黙ってスプーンを動かした。その様子を見た背の高い方は一つため息をつくと、システムウィンドウを呼び出して何やら操作をし始める。

 

「…ねえ、アンタ名前は?」

「え?」

「名前、あ、本名じゃなくてユーザーネームよ。」

 

 あーでもないこーでもないとシステムをいじりながら続ける。その様子にフードの方が怪訝な顔をした後、小さく呟いた。

 

「…アスナ。」

「そ、アスナね。いい名前じゃない。アタシはフロウ。(flower)の最初の四文字のフロウ(flow)よ。」

「…『流れる』じゃなくて?」

「そんな意味があるの?初めて知ったわ。アタシ、英語苦手なのよねえ。」

 

 そう言った直後、アスナにピコンと音がして一件の通知が来た。─そこには『パーティメンバーに勧誘されました』の文字。

 

「なに、これ。」

「読んで字の通りよ。アンタほっとけないし、それにアタシがアンタのこと気に入っちゃったもの。見たところお互い独り身(ソロ)みたいだし、ちょうどいいじゃない。」

 

 そう言ってフロウは微笑んだ。その様は女性であるアスナから見ても美しく、魅力的なものであった。そこには何の悪意も敵意もない含まれていないのが見て取れて、アスナは恐る恐る承認のボタンを押した。

 

「…ん。これでパーティ結成ね。どこまで続くかはわからないけど、よろしく頼むわね、アスナ。」

「…足だけは引っ張らないでよね。」

「あら生意気。まあそこが気に入ったのだけど。」

 

 コロコロと笑ってフロウは再びシチューに手を伸ばした。おかわり、いる?何て聞いてくるのに首を縦に振ったアスナがお椀を差し出すのに合わせて、それを何でもないことのように口を開いた。

 

「にしてもアンタ、女の子なんだからこれから男とパーティ組む時は気をつけなさいよ?変なコト考えてる奴だっていないわけじゃないんだから。…まあ誘った男としては言いづらいんだけど。」

 

 聞こえてきたフロウのその言葉に、アスナは一瞬動きを止めた。だがそれもほんの一瞬で、すぐにスプーンを動かす手を再開した。

 

「…別に、関係ないでしょ。」

「関係あるわよぉ!アタシたち、もうお友達じゃなぁい!」

 

 そう言って男は、フロウは大きな声をあげて笑った。その声の大きさにモンスターが寄ってくるじゃない、と不満を言いながらもアスナがそれを止めることはなかった。

 

 





アスナ
 アインクラッド第一層でレベリング中に過労で倒れた女剣士

フロウ
 倒れていた女剣士を拾った謎のオカマ。ゴツイよりかは綺麗系寄り。
 好きなものは美味しいものと綺麗なものと可愛いもの。
 持ち武器は両手剣。
 
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