魔法少女まどか☆マギカ -Kaleidoscope- 実績「時をかける魔女」獲得実況プレイ   作:Hotpepper_N

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【お知らせ】
今後、完結まで毎日投稿する予定です。
少し長くなりますが、ぜひ最後までお付き合いいただければと思います。


Part6(3/n)

烏くんによると、二人は病棟の裏手まで避難したようです。

暗示がちゃんと効いてますね、マミさんの胸像(生身)なんて一般人に見られたら大惨事なので、これは助かる。

 

お、いましたいました。

お待たせ、待った?(アンジュ並感)

 

>「あ、ほむらちゃ……っッッ!!!……ぇ、ぁ……」

>「それっ……て……マミ……さ……」

>まどかが絶句し、さやかは目の前の光景に戦慄を隠せない。

 

ショッキングですまんな。

これからちゃんと説明するからよーく聞いとけよ?

あ、淫獣は居てもいいけど黙っといてな。

 


 

 

ほむらはマミを抱きかかえたまま、時を止めてまどか達のいる方向へ駆け出した。

 

二人の姿を視界に捉えると、ほむらは静かに魔法を解く。

そして、二人の前に歩み寄った。

 

「……よかった。二人とも、無事ね」

 

「あ、ほむらちゃ――っッッ!! ……ぇ、ぁ……」

 

「それっ……て……マミ……さ……」

 

まどかの声は震え、さやかは言葉にならない息を漏らす。

 

目に飛び込んできた光景――身体の大半を失ったマミ――

その衝撃に、二人は立ち尽くすしかなかった。

 

「これはいけない、早く処置を――」

 

QBが口を開くが、ほむらは静かな威圧とともに言葉を遮った。

 

「……私が話すから、黙ってて」

 

そのままほむらは、マミの身体をそっと地面に横たえると、一呼吸おいてから二人の前に一歩だけ進み出た。

その表情には、意図的に作られた自責の色が滲んでいる。

 

「……ごめんなさい」

 

そして、拳を握りしめて俯き。

声を震わせて、謝罪の言葉を紡いだ。

 

「……想定外のことだったとはいえ……私がもっと早く対処できていれば……」

「……こんな事態になる前に、間に合ったはずなのに……私のせいで、マミさんを……」

 

ほむらはそこで言葉を途切れさせた。

重い静寂が場を支配する。

 

まどかは、ほむらの悲痛な表情を前に息を呑む。

 

「っ……そんな……こと……」

 

言葉の欠片が、喉の奥でほどけて消える。

 

“悪くない”

 

そう伝えたいのに、どうしても形にならない。

ただ、潤んだ瞳でほむらを見つめることしかできなかった。

 

さやかもまた、感情の置き場を失っていた。

マミの無残な姿への衝撃。

ほむらの悔恨に満ちた表情へのざわつき。

 

“あんたが遅かったせいで”

“なんでマミさんがこんな”

“でも……付いていったのはあたし達で……”

 

矛盾する思考が胸の中でぐちゃぐちゃに絡み合い、言葉になる寸前で形を崩してしまう。

 

「……っ……」

 

かけるべき言葉も、責めたい怒りも。

どちらも決めきれず、立ち尽くしたまま拳を握りしめることしかできなかった。

 

「っ……その……マミ、さんは……」

 

まどかがなんとか絞り出したのは、震えた声による問いだった。

 

どう見ても助かる状態ではない。

胸から下がほとんど失われ、血の気の引いた顔で横たわるマミ。

 

だが、その現実を受け入れる余裕はなかった。

わずかでも希望があるのなら。 そう思わずにはいられなかった。

 

まどかの問いに、ほむらは気を引き締め、慎重に言葉を選ぶ。

 

「……結論から言うわね。 マミさんは"助かる"わ」

 

「「っ!」」

 

その言葉に、二人の肩が震え、息が微かに漏れた。

目元に、ほんの少しだけ安堵の色が差す。

 

ほむらはその反応を確認すると、小さく息を吸い、言葉を続けた。

 

「魔法少女は、普通の人間なら助からない怪我でも……魔力さえあれば、回復が不可能ではないの」

 

「……じゃあ……じゃあ……」

 

まどかが、か細い声で縋るように言葉を紡ぐ。

 

「ええ。 でも……ここまでの重傷だと、相当な時間が必要になるわ」

「それに……胸から下をほとんど失っている以上、しばらくは戦うどころか、動くこともできない」

 

「……マミさんの治療と看病は、全部私が請け負うわ」

「この事態を防ぎ切れなかった、せめてもの償いとして」

 

ほむらが伏し目がちに伝える。

その言葉を受け入れようとしていたまどかだったが。

 

「で……でも、こんな状態から治せるもんなの……? 本当に……??」

 

ここで、さやかの声が震え混じりに割って入った。

困惑、恐怖、疑念が混ざり合った複雑な表情だった。

 

(……やっぱり、引っかかるわよね)

 

いずれは向き合わなければならない真実。

さやかを戦力として保ち、精神の崩壊を避けるためにも、長く隠し通すのは得策ではない。

まして今回は、彼女自身が疑問を口にした。

 

(……このタイミングを逃す方が、むしろ危険ね)

 

ほむらは、ここで真実の一端を明かす判断を下した。

 

そして、視線を落とし、表情に深い陰を落とす。

声のトーンを一段低くし、慎重に、言葉を置くように吐き出した。

 

「……本当は、言うべきか迷ったけれど」

「なぜ、こんな状態でも回復できるのか。 それは……魔法少女が、普通の人間とは"構造が違う"から」

 

「……えっ? それって、どういう……?」

 

さやかが思わず問い返す。

ほむらは少しだけ俯き、言葉を続ける。

 

「……私たちは、身体そのものが本体じゃないの。 ソウルジェム――あれが、私たちの“命そのもの”」

 

二人の喉が同時に鳴った。

 

「肉体は……外付けのハードウェアみたいなものよ。 ソウルジェムさえ無事なら、魔力が残っている限り……心臓が破裂しても、頭を潰されても、再生できてしまう」

「だって……魂が、肉体の外にあるんだから」

 

ほむらは横たわるマミに視線を落としながら、重苦しい声で続けた。

その視線の先――血に濡れた髪の間で、マミの髪飾り状のソウルジェムが、鈍く微光を漏らしている。

 

「……ひどい、よ……そんなの……なんで、キュゥべえは……」

 

明かされた真実に、まどかは胸を押し潰されるような声を漏らした。

 

「それはね――」「喋らないで」

 

それを質問と解釈したQBが口を開きかけるが、ほむらが即座に割って入った。

 

押し黙るQBに目を向けることもなく、ほむらは静かに言葉を紡いだ。

 

「……ごめんなさい。 本当は、こんな話……あなた達には聞かせたくなかった」

「でも……マミさんがこんな状態になってしまった今、どうしても伝えておくべきだと思ったの」

 

「たったひとつの願いの代償に、身体を改造されて……魔女との、生死ぎりぎりの戦いに放り込まれる」

 

そして短く息を吸い、ふたりをまっすぐ見つめた。

 

「――それが、魔法少女」

 

「……そして、私があなた達に契約を勧めない理由でもあるわ」

 

二人は沈痛な表情のまま、ただ押し黙っていた。

しかし、やがてさやかが唇を震わせながら、言葉を絞り出す。

 

「……そんなの、どうやって知ったのさ」

「それに……なんで、今まで黙ってたの?」

 

その問いは責めるというより、ただ事実を求めるような声音だった。

 

それを受けたほむらは、一瞬の思索の後、拳を握りしめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「……前に、別の街でコンビを組んで活動していた、というのは伝えたわよね」

「これを知ったのは……その子が、魔女の攻撃で首から上を失った時」

「咄嗟に、身体を抱えて逃げたわ。 ……助からないって、普通は思うわよね」

 

「でも、魔力も、ソウルジェムの光も、まだ残っていた」

「………どう考えても、生きている方がおかしい。 キュゥべえを問い詰めて……その時に、全部を聞かされた」

 

「……本当に、ショックだった。 自分が"人の形をしたナニカ"でしかなかったなんて」

「正直、今でも受け入れきれてはいない。 こんな真実……知らない方が幸せだったとすら思ってる」

「…………ずっと、言えなかった。 口にした瞬間、自分が崩れてしまう気がして」

 

かすかに呼吸を震わせ、声を押し出すように弱く絞り出す。

 

「本当に……ごめんなさい。 それでも……もっと早く伝えておくべきだった」

 

そして、苦しみに耐えるように目を伏せ、深く頭を垂れた。

 

沈黙が落ちる。

その中で、まどかは胸に手を当て、震える声で呟く。

 

「……ほむらちゃん……」

 

責める色はない。

ただ、ほむらの言葉を必死に受け止めようとする、悲痛な優しさが滲んでいた。

 

さやかは唇を噛みしめたまま俯き、ただ黙って拳を握る。

 

「……今さら、許してほしいなんて言わない。 でも、これだけは信じてほしい」

 

ほむらはゆっくり顔を上げ、二人を正面から見つめた。

 

「マミさんは、死んでなんかいない。私が責任を持って、必ず戻れるようにする」

 

 


 

空気が重いぜ。

 

淫獣はいつの間にかいなくなってますね。 おおかた危害を加えられると思ってこっそり逃げたんでしょう。

まぁ位置は烏くんで把握してるのでモーマンタイですが。

 

にしても、ほむほむの演技力が凄まじい。 完璧に騙されてますよお二人。

 

まぁ、こうでもしないと理解させるのは難しいんですよね。

原作だと二人がこれを知るのはだいぶ後ですが、契約したあとに「実はお前、もうゾンビなんやで」なんて突きつけられたら、そりゃあさやかもメンタルぶっ壊れます。

 

今回は、事前に伝える形になりましたが……

それでも最終的には、散々迷った挙句に契約しちゃうんですけどね(ネタバレ)。

 

さて、ここからは前回同様、マミさんの看病フェーズに入るわけですが……

 

その前に。

なぜ彼女をわざと戦線離脱させたのか、順を追って説明していきましょう。

視聴者の皆さんも「何考えてんだお前」って思ってるはずなので。

 

まず、シャルロッテがあそこで出てくるのは想定外でした。

本来のチャートでは二人で迎え撃って、マミさんが五体満足のままワルプル戦に臨む予定だったので。

 

んで、なんとかマミる寸前に駆けつけられたわけですが……

ここで思いついたのが、オリチャー「協力者マミさんチャート」です。

 

具体的な流れはこう。

①シャルロッテに「首以外を」喰わせ、マミさんを戦線離脱させる

②①の状況を利用して、まどさやに魔法少女の真実(一部)を開示

③マミさんをほむホームに匿い、治療と並行して《イツワリノハナヨメ》で精神ダイブ。 さらに自分の正体と目的も開示し、上手く言いくるめて“裏の協力者”に仕立て上げる

④回復後もしばらく雲隠れしてもらい、杏子に「マミが死亡した」という誤情報を流し、見滝原に釣り出す

 

一見すると強引に見えるかもしれませんが、実はこちらの方が事故率が低いんです。

なぜかというと、本来のチャートには、運ゲー要素がいくつも存在していました。

 

それがこちら。

・正体と目的を全員に開示するタイミングで、誰も敵対フラグを立てない

・マミさんが真実を聞いたとき錯乱しない

・マミさんが生きている場合に杏子が来るかどうか

 

ワルプル戦では、まどか以外の全員を参戦させる予定です。

つまり、ほむほむは魔女姿を晒した上で、全員を味方として動かさなきゃいけない。

 

そのためには、十分な好感度を積んだうえでCOが必要なんですが……

どれだけ積んでも、確率で敵対フラグは立ちます。

これまで「魔女=敵」という前提で戦ってきたんですから、疑われても仕方ないです。

 

特にマミさんは、状況次第で真っ先に引き金を引きかねない。

実際、ほむほむは以前、身バレからの敵対コンボ喰らってますからね。

 

それに、ワルプルを倒す大義名分が要るんですよ。

それが"まどかが最悪の魔女になりうる"ことです。

要は、「ワルプルのせいでこの子が契約しちゃったら世界滅びるかもだよ、こっちも死にたくないしそうなる前に協力オナシャス!」って言うわけです。

 

それに合わせて、最後の真実(魔女=魔法少女の成れの果て)も開示するわけですね。

 

んで、そこでマミさんがヘラっちゃう可能性があると。

原作見てた人ならどうなるかは想像つきますね。

 

杏子に関しても、マミさんが生きてるとなれば、自分から見滝原に来る理由はほぼないに等しい。

別のやり方で呼び出すつもりでしたが、それも運次第。

 

という感じで、下手したら数リセは覚悟しないといけないレベルで地雷まみれなんです。

 

ところがこのオリチャーでは、最大の運ゲーポイントであるマミさんを事前に動けなくすることで、強引に味方に付けられるんですね。

しかもそれを餌に杏子が釣れるおまけつき。

 

さらに、マミさん離脱のどさくさに紛れてまどさやに真実の一部を開示することで、クッションを挟んで敵対フラグを潰します。

 

これらを一挙に圧縮できて、なおかつ低リスクという一石n鳥のオリチャーというわけです。

 

 

話が長くなりました。いいかげん進めましょう。

 

二人と別れたあと、ほむホームにマミさんを抱えて戻ります。

で、マミさんをどうするかですが……

まずは床にマットを敷きます。その上にバスタオル何枚か。

 

ベッドに寝かせてもいいんですが、

魔法で止血してるとはいえ、血は血。

後処理が大変すぎるので却下でございます。

包帯も不要、患部を保護する意味がないので。

 

基本的には前回同様、本人の魔力で肉体を修復、ジェムが濁ってきたらグリーフシードを当てます。

 

いまから精神ダイブでOHANASHIタイムに入るので、その前に最大限まで回復させておきます。

 

>グリーフシードをマミに使った。

>ソウルジェムの濁りがほぼ完全に消えた。

 

よしできた。

あとは保険として、ジェムの近くにグリーフシードもう一つ置いときます。

OHANASHI中にメンタル悪化して濁るかもなので。

 

そんじゃさっそくマミさんの精神世界にレッツゴー。

今は意識ないので簡単に入れちゃいます。

はいちょっと瞼開けますよー。

 

>《イツワリノハナヨメ》

 


 

一連の処置を終えると、ほむらはそっとマミの瞼を指で押し上げ、花嫁の魔法を発動させた。

 

淡い光がマミの瞳孔の奥へと吸い込まれ、ほむらは静かに意識を集中させる。

視界が反転し──彼女の精神世界へと沈んでいった。

 

(……これが、巴マミの……)

 

精神世界(スノードーム)の中に映されていたのは、灰色で塗り潰された空間。

地面には、割れたティーカップの破片のようなものが散乱し、こぼれた紅茶が乾いた跡だけが黒く残っている。

 

その中心に、膝を抱え、頭を垂れて座り込むマミの姿。

どうやら、眠っているらしい。意識がない状態の現れだろうか。

 

そして、彼女の手足には無数のリボンが巻きついていた。

リボンは彼女を中心に放射状に伸び、その何本かは途中で千切れている。

 

繋がっている先は、ぐるぐるにリボンが絡まった黒い影。

QB、まどか、さやか、ほむら……様々な姿のシルエットが、ノイズがかったようにちらついている。

 

(……孤独。 そして、繋がりへの執着……そんなところかしら)

(でも、今それは重要じゃない)

 

彼女を味方につけること、それが最優先事項。

 

ほむらはそっと足を踏み入れ、マミの側へと歩み寄った。

座り込む彼女の肩へ手を添え、優しく身体を揺する。

 

「……起きて」

 

わずかに呼吸が変わり、長い睫毛が微かに揺れた。

同時に、彼女に巻き付いていたリボンと、黒い影が薄らぎ始める。

 

「…………ぅ、ぅん……?」

 

やがて、マミの意識が薄闇の中へ浮上してくる。

ゆっくりと顔を上げた彼女は、ぼんやりとほむらを見つめ、瞬きをした。

 

「……ほむら、さん……? ここは……いったい……?」

 

マミはまだ状況を飲み込めていないのか、不安そうに周囲をきょろきょろと見渡した。

 

「ここは、あなたの精神世界。 今のあなたは、魔女との戦闘で大怪我を負って、意識を失っている状態よ」

 

「……!?」

 

その言葉にマミははっと息を呑み、記憶を辿り始める。

 

──結界の反応を追い、そこで発見したのは、小さな魔女(シャルロッテ)

そのまま、迷うことなく戦闘に突入した。

 

油断はしていなかった。 否、していないつもりだった。

いつも通り、着実に倒せばいい。 それだけの話だったはずだ。

 

しかし、戦闘中。 マミは不思議な高揚感に包まれていた。

 

この街に現れた、久しく会っていなかった同業者──暁美ほむら。

そして、自分を慕い、後を追ってきてくれた候補生たち──まどかとさやか。

 

ここ数日の間に起こった多くの出会い。

それらが、知らず知らずのうちに彼女の心を浮き立たせていたのかもしれない。

 

──ゆえに、突如として姿を変えて飛びかかってきた魔女に対し、反応がほんの一瞬だけ遅れた。

 

視界いっぱいに広がった、魔女の大きく裂けた口。

次の瞬間、衝撃音とともにそれが下方向へと歪んだ。

その中心に見えたのは、魔女の頭上から飛び込み、蹴りを叩き込むほむらの姿。

 

だが、それを認識した直後。

腹部に、未だかつて感じたことのない強い衝撃が走り──

 

マミの意識は、そこで途切れた。

 

 

「……っっ!!!」

 

息を詰めるような声とともに、マミは跳ね起きるように立ち上がり、反射的に自分の身体へと視線を落とす。

 

胸から下。 そこから先が、白黒写真のように色を失っていた。

現実での自分の状態を、そのまま映し出しているかのように。

 

「こ、これって……!?」

 

視線を上げ、周囲を見渡す。

 

「それに……魔女は……みんなは、どうなって……!!?」

「精神世界って、どういう……いえ、それより……」

「なぜ、ほむらさんが……こんなところに___」

 

次から次へと溢れ出す疑問。

マミは混乱したまま、ほむらに矢継ぎ早に言葉を投げかけた。

 

その様子を見て、ほむらはまず説明よりも鎮静が先だと判断する。

一歩踏み出し、両手でマミの手を包み込むようにして、しっかりと握った。

 

「──順番に答えるわ。 だから、まずは落ち着いて」

 

「……ご、ごめんなさい……」

 

マミは一度、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

呼吸が整ったのを確認してから、ほむらは改めて、落ち着いた声音で語り始めた。

 

「……まず、魔女は私が倒したわ」

「それから、あの二人も安全な場所まで避難させた。 今はもう、無事に家に帰っているはずよ」

 

「……っ! よかった……」

 

強張っていたマミの表情が、その言葉でほっと緩む。

ほむらはその反応を見て、間を置かずに次の説明へと進む。

 

「次に、今のあなたの状態だけれど……さっきも言った通り、現実のあなたは意識を失っている」

「今、こうして話ができているのは、私があなたを治療のために匿っているから」

「私の魔法で、精神の奥底まで直接入り込んでいるの。 言わば、ここはあなたの精神が反映された仮想空間のようなもの」

 

「……そういうこと、だったのね」

「……何から何まで、本当にありがとう。 私が……私が、ふがいないばっかりに……」

 

しばしの沈黙の後、マミが静かにそう呟いた。

言葉の端々に、悔恨の色が滲む。

 

ほむらはそれを遮ることなく受け止め、一拍置いてから、話題を本筋へと戻した。

 

「……そして、ここからが本題よ。 なぜ、私が直接治療に当たる必要があるのか」

「お察しの通り、現実のあなたの身体は──胸から下が、ほとんど失われている」

 

「……っっ!!」

 

マミは反射的に自分の身体を見下ろした。

 

「この状態では、普通の治療は意味をなさない。 魔力で、時間をかけて肉体を修復していくしかないの」

「……それに、これはすぐに駆けつけられなかった私のミスでもあるわ」

 

一瞬だけ、言葉を選ぶような間。

 

「あの時は、咄嗟に魔女の攻撃を逸らすのが精一杯だった」

「だから……せめてもの償いとして、私が責任を持って、あなたの治療に当たっている」

 

「……ほむらさん……」

 

(……でも、その話が本当なら)

(どうして私は……こんな状態でも、生きていられるの……?)

 

その疑問を、彼女は口にはしなかった。

だが、ここは精神世界。

浮かんだ思念は、言葉になるよりも早く、そのままほむらへと伝わっていく。

 

それを受け取ったほむらは、一瞬だけ視線を伏せ、慎重に言葉を選んでから口を開いた。

 

「……その理由を、今から話すわ」

「どうか、落ち着いて聞いてほしい。 ここから先は……あなたの価値観を、根底から揺るがしかねない話だから」

 

そして、言い聞かせるのではなく、マミ自身が“答え”へと辿り着くよう、ほむらは言葉を組み立てていく。

 

「……魔法少女は、キュゥべえと契約した時、ソウルジェムがつくられる。 ここまではいいわね?」

 

「……ええ」

 

「役割については、今は置いておくわ。 ただ……あなた自身、疑問に思ったことはない?」

 

「グリーフシードで浄化しない限り、どれだけ休んでも、身体を癒やしても……ソウルジェムの濁りだけは、消えなかったことに」

「もし、魔力の源が肉体にあるのだとしたら……これは、少し不自然だと思わない?」

 

「怪我をしても、お腹が空いていても、魔法は使えるのに」

「逆に、ソウルジェムが濁れば……身体は無事でも、立っていられなくなる」

 

ほむらは、そこで一拍置いた。

 

「……そして、今のあなたよ」

「胸から下の肉体は、ほとんど失われている。 それでも、あなたは“ここにいる”」

「──考えてみて。 それでも、意識がある理由は……どこにあると思う?」

 

「……それは……」

 

マミは言葉を探し、自分の胸元へ、無意識に手を伸ばす。

 

「私の意識が……魂が……」

「……身体の、外に、ある……?」

 

そこまで口にして、 言葉が止まった。

胸の奥に、氷柱をねじ込まれるような悪寒が走る。

 

「っ……まさか……!?」

 

そのまま弾かれるように顔を上げ、ほむらを見据える。

 

「──ええ。 ソウルジェムは、ただの道具じゃない」

「契約した瞬間に、契約者(魔法少女)の魂そのものが、あそこに移されているの」

 

「つまり肉体は、器に過ぎなくなる」

「そして、器が壊れても……魔力さえあれば、修復できてしまう」

 

「……そん、な……」

 

マミの唇から、かすれた声が零れ落ちる。

 

(……なんで。 キュゥべえは、そんなこと、一言も)

 

思考が追いつかず、感情が行き場を失う。

 

(どうして……魂を……ソウルジェムに、閉じ込めたりなんか……)

 

脳裏に浮かぶ、白い小動物の姿。

あの穏やかな声と、理解者のような態度。

 

(……キュゥべえは……)

(私たちを……騙して、いたの……?)

 

問いは、疑念へ。

疑念は、恐怖へと姿を変えていく。

 

(……こんなことをして……)

(何がしたいの……キュゥべえ……?)

 

真実の一端に触れたマミは、それ以上、言葉を紡ぐことができなかった。

 

しかし、湧き上がる疑念は止まらず、そのすべてが思念となって溢れ出し、

精神世界の空気を、静かに震わせていく。

 

(……やはり、刺激が強かったようね)

 

わなわなと震えるマミの姿を見て、ほむらは即座に判断する。

今は疑念を解くよりも、鎮めることが先。

 

一歩踏み出し、真正面から彼女を抱き締めた。

そして、意識的に声のトーンを落とし、耳元で、ゆっくりと囁く。

 

「──だから……“治せる”。 あなたをまた、元に戻してあげられる」

「……そこだけは、分かってほしい」

 

「っ……! はぁっ……ふぅ……!」

 

突然の抱擁に、マミは一瞬身を強張らせたが、すぐに意識して呼吸を整え始める。

深く吸い、ゆっくりと吐く。

それを何度か繰り返すうちに、荒れていた呼吸は、次第に平常へと戻っていった。

 

それを確認してから、ほむらはゆっくりと腕を緩め、静かに距離を取る。

 

マミは一瞬だけ、何かを引き留めるような表情を浮かべたが、すぐにそれを飲み込んだ。

少なくとも、先ほどまで見られた身体の震えはなくなっている。

 

そして、ほむらは何も言わず、 マミが口を開くのを待った。

 

やがて平静を取り戻したマミは、 胸の奥に渦巻く疑念を一つひとつ整理し、言葉を絞り出す。

 

「…………みっともないところを見せてしまって、ごめんなさい」

「……今、知ったことが本当だなんて……認めたくない、そう思ってしまったわ」

「今まで信じてきたものが……音を立てて崩れてしまうような気がして」

 

一度、言葉を切る。

 

「…………でも」

「あなたの言葉も、 私が辿り着いた“答え”も……きっと、嘘じゃない」

「根拠はないけれど……そんな気がしているの」

 

視線を上げ、まっすぐにほむらを見る。

 

「……だから、“確かめたい”」

「きっと、もう後戻りはできない。 でも……自分の気持ちに、嘘はつきたくないの」

 

「……だから」

 

「──ほむらさん。 あなたの知っていること……話してくれる?」

 

(…………)

 

マミの言葉を聞き終えたほむらは、一瞬思索するように間を置き、静かに口を開く。

 

「……分かった。 あなたの言葉を“信じる”わ」

「これから私が話すことは、すべて真実よ。 重ねて言うけれど……どうか、落ち着いて聞いてほしい」

 

マミが無言で頷くのを確認し、本題へと入る。

 

「まず……キュゥべえが、なぜソウルジェムなんて仕組みを作ったのか」

「端的に言うと……彼らの目的は、“魔法少女の支援”じゃないから」

 

「それは……どういう……?」

 

マミの疑問に、ほむらは淀みなく答える。

 

「魔法少女は、その目的を果たすための手段に過ぎない」

「彼らの本当の目的は、“エネルギーの回収”よ」

 

「エネルギー……?」

 

「ええ。 詳しい仕組みまでは、私にも分からないけれど……」

「願いを対価に、魂をソウルジェムに閉じ込めて、“ある条件”で発生するエネルギーを回収する。 そういうシステムらしいわ」

 

「……それは……何のために……?」

 

「彼らの言い分では……“宇宙が滅ぶのを防ぐため”だそうよ」

「そのために、莫大なエネルギーが必要なんだとか」

 

「……は? 宇宙……?」

 

あまりにも突拍子のない言葉に、マミの声がわずかに裏返る。

だが、ほむらはそこで止まらない。

 

「……そして、ここからが本命よ」

 

重い声色で、核心に切り込む。

 

「さっき言った“ある条件”。 それは、ソウルジェムの濁りが限界を迎えた時を指す」

「……キュゥべえから、濁りを放置すると、どうなるのか ……聞いたことはあるかしら?」

 

「えっと……たしか…… “魔法が使えなくなる”と、言っていたような……」

 

その返答に、ほむらは小さく息を吐いた。

 

「……あいつら……まぁ、間違ってはいないわ」

「より正確に言うなら、“魔法少女ではいられなくなる”だけれど」

 

「えっ……?」

 

マミの声がわずかに揺れる。

 

「……ソウルジェムの濁りが限界に達すると……それは“浄化できない状態”になる」

「その時、ソウルジェムは“変質”を起こすの」

 

ほむらは、そこで言葉を切った。

そして、息を吸い込み、はっきりと告げる。

 

「私たちは……その変質したものを」

 

「──グリーフシードと、呼んでいるわ」

 

 

「──ッッッッッッ!!!!!」

 

その一言で、マミはすべてを察した。

 

これまでに見てきた光景。

討伐してきた魔女たち。 グリーフシードに吸い取られる穢れ。

魔女に反応する、自らのソウルジェム()──

 

断片的な記憶が、一つの流れとなって一気に脳裏を駆け巡る。

 

「……ッ、ぅ゛……え゛……」

 

感情の濁流に耐えきれず、強烈な吐き気が込み上げる。

だが、ここは実体のない精神世界。

何かを吐き出すことすら叶わない。

 

同時に、精神世界そのものが軋み始める。

空間のあちこちに、黒い霧のようなものが滲み出し、渦を巻くように広がっていく。

 

しかし、それは周囲を覆い尽くすことはなかった。

まるで、“外にある何か”へと吸い寄せられるように、次々と引き抜かれていく。

 

(……保険を用意しておいて、正解だったわね)

 

ほむらは蹲るマミの背をさすりながらも、冷静に状況を把握する。

ここに潜り込む前、マミのソウルジェムのすぐ側に置いておいたグリーフシードが、きちんと役目を果たしているようだった。

 

 

「ゲホッ……! ハァッ……ハァッ……」

 

荒い呼吸の合間に、マミは喉を押さえるようにして咳き込む。

 

「……落ち着いたかしら」

 

ほむらの問いかけに、マミは小さく、何度か深呼吸を繰り返した。

 

やがて、周囲に滲んでいた黒い霧はすっかり消え、軋んでいた空間も、静かに元の形を取り戻していく。

 

呼吸こそまだ荒いものの、マミの表情には、先ほどまでの切迫した色はない。

 

「……ごめんなさい……」

「どんな真実も……受け止めるって、決めてた、のに……」

 

途切れ途切れの言葉に、ほむらはすぐさま首を振った。

 

「……大丈夫よ」

「こんなにも残酷な真実を知って……それでも平然としていられる方が、よほどおかしいわ」

 

「……ありがとう」

 

そう言って、マミはゆっくりと立ち上がった。

そして、迷いとも失望ともつかない複雑な色を宿した瞳で、ほむらを見据える。

 

「……キュゥべえは……私たちが魔女になった時に生じるエネルギーが欲しくて、契約を持ちかけてくるのね」

 

「その通りよ」

 

ほむらが即座に肯定する。

 

「だからこそ、こういった“知られたら都合の悪いこと”は、聞かれない限り一切伝えない」

 

「……キュゥべえって……何者なの?」

「こんなことをして……良心が痛まないの……?」

 

マミの声には、怒りよりも困惑が混じっていた。

 

「……端的に言えば、地球外生命体。 いわゆる、エイリアンね」

「それに加えて……あいつらは、感情という機能を持っていない」

「あいつらに言わせれば、感情というのは“極めて稀な精神疾患”だそうよ」

 

「……なに、それ。 意味がわからないわ」

 

「あいつらが話す言葉も、感情も、全て見せかけのもの」

「根本的な思考回路が違う。 私達とは到底相容れない存在よ」

 

「………………」

 

その言葉を受け、マミは何も言わず、ゆっくりと俯いた。

拳を強く握りしめたまま。

 

長い沈黙ののち、彼女は顔を上げ、静かに問いを投げかけた。

 

「……じゃあ、ほむらさんは……どうして、そこまで知っているの?」

 

その問いを受けて、ほむらは一度、静かに目を閉じた。

短く息を整え、 再び目を開く。

 

「……その質問に答える前に。 まず一つ、謝らせてほしい」

「今まで話してきた私の経歴は、真っ赤な嘘」

 

「……!」

 

マミの目がわずかに見開かれる。

 

「……でも、全てを言葉で説明しようとすると、とても時間が足りない」

「何より、私は自分の過去を、正確に語れる自信がないの」

 

「──だから、"見せる"わ。 私の記憶を」

 

「……それは……」

 

どうやって、とマミが口に出すよりも早く、ほむらが答える。

 

「ここは、あなたの精神世界」

「そして、今私が使っている魔法は、他人の精神に干渉するもの」

「記憶を見せることもできる。 ……手を貸してもらえる?」

 

ほむらは静かに歩み寄り、おそるおそる差し出されたマミの手を取り、自らの胸元へと導いた。

 

「……信じてほしい、とは言わない」

「あなた自身の目で見て、判断してほしい」

 

「──"流す"わ。 目を閉じて」

 

言われるがまま、マミが目を閉じた瞬間。

瞼の裏に、走馬灯のようなビジョンが流れ込んできた。

 

病院。 天井を見つめる日々。

出口の見えない鬱屈。

 

たった一人の親友との出会い。

魔法少女を知った日。

強大な魔女。 親友の死。

 

そして、契約。

 

 

時間が巻き戻る。

 

悲劇を避けようと藻掻く。

しかし結果は変わらない。

 

失敗、後悔、絶望。

 

何度も。

何度も。

何度も繰り返される、終わりのないループ(地獄)

 

やがてあるループで、怨敵の魔女に敗れ、ソウルジェムに罅が──

 

光景は、そこで途切れた。

 

「──!? ぷはぁっ!!?」

 

ビジョンが解かれた瞬間、マミは体勢を崩し、その場に尻もちをつく。

荒い呼吸を繰り返しながら、現実へと引き戻された。

 

「……これが、私の“魔法少女として”過ごしてきた、すべて」

 

ほむらが静かにそう告げると、マミはまだ息を整えきれないまま、見せられた記憶を反芻する。

 

──惨い。

そうとしか、言いようがない。

 

いったい、何度絶望したのだろう。

何度、心が折れそうになったのだろう。

 

「……こんなの……耐えられるはずが……」

 

マミはそう呟きかけて、言葉を飲み込む。

 

「……いえ……なぜ、あなたは……ここまでして…………」

 

その問いに、ほむらは迷いなく答えた。

 

「……まどかは、私を救ってくれた」

「だから、今度は私が、あの子を救うの」

「まどかに課せられた、残酷な運命から」

 

そして、静かに言い切る。

 

「まどかに……笑っていてほしい。 ……それだけが、私の望みよ」

 

「………………」

 

ほむらの覚悟にマミは圧倒され、言葉を失う。

しかし、胸の奥に、小さな引っ掛かりが残った。

 

(……“魔法少女として”……?)

(それに……“記憶”の中で見たほむらさんは……)

 

(使っていたのは、時間を操る魔法だけ)

(それに……最後に見た、ソウルジェムの罅……)

 

記憶の中のほむらと、今、目の前にいる彼女。

その間にある、埋めがたい違和感。

まるで“魔法少女ではない”かのような言い回し。

 

「……ほむらさん」

 

マミは静かに顔を上げる。

 

「あなたは……“何者”なの?」

 

その問いに、ほむらは一瞬だけ目を伏せ、感情を切り離した声色で、答えを告げた。

 

「……私はかつて、魔法少女“だったもの”」

 

「私のソウルジェムは、すでに"変質"している」

「……ここまで言えば、分かるわね?」

 

「……ッ、まさか……!」

 

マミの表情が驚愕に凍りつく。 

 

その直後、ほむらの姿が揺らいだ。

 

黒い炎が髪の先から滲み出し、瞬く間に全身を包み込んでいく。

人の姿は焔の中で崩れ、やがて漆黒の不死鳥へと変じた。

 

その姿のまま、ほむら(魔女)は静かに言葉を続ける。

 

「──私は、魔女」

「正確には、“魔女化したまま理性を保っている存在”よ」

 

「___」

 

その姿を視認した瞬間、マミは半ば反射的に身構え、臨戦態勢を取ろうとする。

 

「……!? どうして……!」

 

だが、ここは精神世界。

現実と同じように力を振るうことはかなわない。

 

狼狽するマミを前に、ほむらは変身を解き、人の姿へと戻る。

 

「……落ち着いて。 あなたに危害を加えるつもりはない」

 

「……何が、目的なの……!?」

 

マミは警戒を解かないまま、ほむらを見据える。

そしてほむらは静かに言い切った。

 

「私の目的は、変わらない」

「まどかを、魔法少女にさせないこと。 それだけよ」

 

「それに……これは、あなたにも無関係な話じゃない」

「なぜなら、あの子は凄まじい“素質”を持っている」

 

ほんの一瞬、間を置く。

 

「仮に……あの子が魔女と化すことがあれば」

「おそらく、この星は滅びるでしょうね」

 

「……!!」

 

マミの脳裏に、先ほど見せられた記憶の一場面が、ふと掠める。

 

魔法少女の姿をしたまどか。

力尽き、変質していくソウルジェム。

 

やがてその身は、天を覆うほどの巨大な魔女へと変貌し──

 

「……」

 

ほむらは、わずかに目を細めて言った。

 

「……私のエゴで済む話なら、どんなに良かったか」

「でも……あの魔女(ワルプルギス)をどうにかしない限り、人類に未来はない」

 

「だから、私が――」

「……いえ、“私達が”止めなければならないの」

 

マミは、しばらく考え込んでいた。

直感だが、ほむらの言葉に嘘が混じっているとは思えない。

それでも、彼女を信じ切るにはまだ判断材料が足りなかった。

 

「……あなたを、疑っているわけじゃないわ」

 

視線を逸らさず、慎重に言葉を選ぶ。

 

「ただ……確かめさせてほしいの」

「なぜ、私たちの協力が必要なのかしら。 あなた一人では……駄目なの?」

 

その問いに、ほむらは否定せず、正直に答える。

 

「私がいろんな魔法を使えるのは、魔女を取り込んできたから」

「力を付けて、あの魔女(ワルプルギス)に対抗するためにね」

 

「でも……それでも、私一人で奴を倒せる保証なんてない」

「それに……」

 

一拍置く。

 

「何も知らされないまま、私が魔女として奴と戦えば……」

「あなたたちは、私を敵と見なすはずよ」

 

「…………」

 

マミは何も言わず、ただ続きを促すように、ほむらを見つめた。

 

「だから私は、友好的に“味方”として振る舞ってきた。 不測の事態を、一つでも減らすために」

「万全の体勢で、奴を迎え撃つために」

 

そして、少しだけ声を落とす。

 

「……何より、まどかが戦わなくてもいいようにね」

 

「……巴マミ。 ……いえ、マミさん」

 

名を呼び直し、ほむらはまっすぐに告げる。

 

「私の味方になれ、とは言わない」

「ただ、私の目的を理解してくれるだけでいい」

「……あなたがどんな選択肢を取ろうとも。 治療は私が責任を持って行うわ」

 

「それに、重ねて言うけれど」

「私はあなた達にも、一般人にも、危害を加えるつもりはない」

 

「私は“まどかを脅かす存在の敵”であって、“魔法少女の敵”じゃない」

「今までも、これからも」

 

「………………」

 

マミは長い間、言葉を発さなかった。

視線を落とし、 思考の海に浸る。

 

──魔法少女の真実。

目の前の少女(ほむら)が歩んできた、凄惨な道のり。

そして、彼女の目的──

 

一度に受け止めるには、あまりにも衝撃的な情報の数々。

堂々巡りの思考の果てに、やがて一つの自問自答に辿り着く。

 

(……私、は…………)

 

自分は、何のために魔法少女になったのか。

 

強くなりたかったから?

誰かを守りたかったから?

それとも――一人でいるのが、怖かったから?

 

思い返せば、いつだって答えは一つだった。

 

「…………」

 

そしてマミは、静かに顔を上げる。

 

「……私はね」

「こんな真実を知って……見なかったことにする、なんて……できないわ」

 

ほむらをまっすぐに見据える。

 

「あなたのやり方が、正しいかどうかは……まだ分からない」

「でも……こんな運命、あなた一人が背負うには、あまりにも重すぎると私は思うの」

 

そして、彼女なりの結論を述べた。

 

「……あなたの味方でいられると、断言はできない」

 

「でも――あなたの隣に立つことはできるわ」

 

その言葉を受けて、ほむらはほんの一瞬だけ、表情に安堵の色を浮かべた。

が、すぐにそれを消す。

 

「……ありがとう。 これでひとまず、関係成立ね」

 

そう言って、ほむらは片手を差し出す。

マミもわずかに固い表情のまま、同じように片手を伸ばした。

 

短い握手。そこに感傷の入り込む隙間はなかった。

 

 

そしてマミは、ほむらがここ(精神世界)に来た理由へと、思考を切り替える。

 

「……こうして、わざわざ私と対話しに来たということは」

「私にやってもらいたいことがある。 違うかしら?」

 

その問いに、ほむらは自身のプランを開示する。

 

「……ええ」

「あなたには、しばらく表舞台から消えてもらいたい」

 

「……どういうこと?」

 

「治療が終わって動けるようになっても、"ある時"までは、姿を隠してもらう」

「それは、奴を倒すための戦力が揃ったタイミング」

 

「その段階で、魔法少女の真実を伝える必要がある。 私の正体を明かさなければいけないから」

「説得させる最後のピースとして、あなたに出てきてもらうわ」

 

「……待って。“戦力”というのは……?」

 

マミの問いに、ほむらは感情を交えず淡々と答える。

 

「具体的には、二人」

「まず一人は、美樹さやか」

 

「“記憶”を見て、もう察していると思うけれど……」

「彼女は、想い人の怪我を治すために、ほぼ確実に契約する選択を取る」

 

マミが何かを言う前に、ほむらは続けた。

 

「そして、もう一人が」

「かつての、あなたの相棒よ」

 

「っ……杏、子……」

 

その名を口にした瞬間、マミの脳裏に、かつての苦い記憶が蘇る。

 

ほむらはあえてそれに触れようとはせず、淡々と作戦の骨子を語り始めた。

 

「第一段階として、まずは、今のあなたの状態を利用する」

「“巴マミは死んだ”という偽情報を、意図的に流すわ」

 

「それを杏子が知れば、彼女はほぼ確実に動く。 縄張りを求めて、見滝原に現れるはずよ」

 

「……なぜなら、あなたがいなくなった後、この街に残るのは――」

「強くない魔法少女()と、未熟な新人(さやか)だけだから」

 

「……つまり」

 

マミはゆっくりと言葉を選ぶ。

 

「私は、戦力を揃えるための呼び水」

「そういうことなのね?」

 

「ええ。 言ってしまえば、そうなるわ」

 

ほむらは否定せず、そのまま続けた。

 

「……でも、これはあなたのためでもある」

 

「今の状態から完全に回復するには、どうしても時間がかかる」

「それに、仮に回復しても、すぐに前線へ戻れるとは限らない。 ある程度のリハビリが必要になるはずよ」

 

「とどのつまり、これは、あなたが復帰するまでの時間稼ぎと」

「同時に、戦力を整えるための準備期間でもあるわ」

 

「……それに」

 

目を細め、わずかに声のトーンを落とす。

 

「仮に、すぐに前線へ戻れたとして」

「今のあなたが、キュゥべえを前にして、平静でいられるかしら」

 

「っ……!」

 

マミの表情が強張る。

 

「だからこそ、心を整理する時間が必要なの」

「あなたが再び表舞台に出てくる時、一芝居打ってもらうことになるから」

 

「……なるほど」

 

マミは短く息を吐く。

 

「確かに……今、あの子を目の前にしたら……銃を抜いてしまうかも……」

 

苦虫を噛み潰したような表情で呟く。

怒りに思考が塗り潰されていく感覚に、慌てて意識を切り替えた。

 

「っ……いけない」

 

そして、改めてほむらを見る。

 

「……それで、このあと私は、どうすればいいの?」

 

「ひとまず、回復に専念してもらうだけでいいわ」

「その間の、まどかたちのケアと情報工作は、こちらで引き受ける」

 

「……分かったわ」

 

「回復後もしばらくは、私の家で過ごしてもらう」

「外に出るのは、前線復帰までのリハビリとして、私と一緒に戦闘に出る時だけ」

「あなたが外に出られない間に起きたことは、逐一、私から報告するわ」

 

「……ありがとう。まずは、この身体を元に戻すことが先決ね……」

 

そう言って、マミはへたりと床に座り込んだ。

長く対話を続けたことによる疲労か、それとも、信じていたものが音を立てて崩れ去った反動によるものか。

 

「……今日一日で、今までの価値観が、全部ひっくり返った気がするわ」

「……これで、私も共犯者ね」

 

マミは額に手を当て、乾いた笑みを浮かべながら、自嘲気味にそう呟いた。

 

「…………」

 

ほむらは何も言わず、その様子を見つめていた。

そしてふいに、精神世界の外――現実の時間へと意識を向ける。

 

「感傷に浸っているところ、悪いけれど」

「……もう、夜明けが近いわ」

 

「一旦、ここから離れる。 私はこのまま学校に行って、二人のケアを行う」

 

その言葉を前に、マミは

 

――一人にしないで

 

喉元までせり上がった言葉を、すんでのところで飲み込んだ。

 

「っ……また、来てくれる……?」

 

縋るような眼差しを受けて、ほむらは小さく微笑み、マミに答えた。

 

「ええ、もちろん」

「だから……今は、ゆっくり休んで」

 

そう言って、座り込んだままのマミを、そっと抱きしめる。

そしてマミは、安心したかのように小さく息を吐き、ゆっくりと目を閉じた。

 

やがて、再び眠りに落ちたことを確かめると。

ほむらは静かに魔法を解き、現実の世界へと意識を戻していった。

 

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