魔法少女まどか☆マギカ -Kaleidoscope- 実績「時をかける魔女」獲得実況プレイ 作:Hotpepper_N
というわけで、契約は明日までお預けです。
ちなみに、なぜこうしたかというと、ちゃんと理由があります。
まず前提として、仁美が車で見舞いに行った場合、その日はハコの魔女出現フラグが立ちません。
さらに、その状況でさやかがその日のうちに契約してしまうと、腕が治ったという情報が翌朝には仁美に届きます。
結果、仁美のメンタルが超回復します。
そうなると何が起きるかというと、結界に巻き込まれず魔法少女認知フラグが立たない、という流れですね。
え? 勝手にさやかが契約しないのかって?
問題ナッシング。 さやか達はマミさんの件で淫獣に不信感持ってるので、基本的に自分から呼び出したりはしません。
それに、最悪烏くんで妨害できますからね。
明日からさやかの契約〜初戦までやるので、翌朝までスキップします。
というわけで翌朝。
モーニングルーティン(マミさんのお手当て)からの登校。
>朝礼前の教室。
>さやかは俯いたまま一言も発しない。
>まどかは、その様子にかける言葉が見当たらないようだ。
まどか、不安よな。 ほむほむ動きます(松本人志並感)
>まどかに話しかける。
>「……さやかのことは、あとで私から話すわ」
>「う、うん……」
これでよし。 こうやってこまめにケアしてあげないとすぐ暴走するんでこの子。
んで、仁美の様子はっと。
>授業中。 ちらりと、横目で仁美の様子を伺う。
>やはり、昨日の件を引きずっているらしい。 いつもの明るい様子は見る影もない。
順調にメンタルやられてますね(他人事)
皆さんお察しの通り、さやかの初陣はハコの魔女です。
ここはおおむね原作通りですね。
>昼休み。
>まどかに昨日の顛末を伝えた。 一部を伏せ、"さやかが悩んでいる"という体で。
>「……そんな……」
そりゃあショックだよねえ。
恭介のことも、さやかが契約悩んでることも初耳ですから。
でも、ここでまどかが動くと確実に拗れます。
なので、余計なお節介を焼かないように、やんわり釘を刺しておきます。
>「……心配なのは、分かるけど」
>「さやかも、あなたに心配をかけたくなくて、何も言えなかったんだと思うわ」
>「だから、どうか、今はただ見守っていてほしい。 彼女が、どんな選択を取ろうとも」
>「……それに、私でよければ、いつでも相談に乗るわ」
よしOK。 まどかもほんの少し気が晴れたようです。
と言っても、結界に巻き込まれるのは変わりませんが。
あとは放課後までスキップ。
放課後になりました。 さっそく待ち合わせ場所に向かいましょう。
>ロケーション:見滝原高台
>遠目にさやかが歩いてくるのが見えた。
ちょうど来たみたいですね。
足取りは若干重いですが、迷っている感じはもうありません。
それでは契約イベントどうぞ。
昨日と同じ場所で、二人は向き合っていた。
「……心は、決まっているのね?」
確かめるような問いに、さやかは一瞬だけ視線を伏せ、
それからまっすぐに顔を上げる。
「――うん。 あたし、魔法少女になる」
迷いのない声だった。 少なくとも、そう聞こえる程度には。
「…………そう。 分かったわ」
ほむらは一瞬わざと複雑そうな表情を浮かべ、ほんのわずかな間を置いてから続ける。
そして、誰もいない方向へと視線を向け、名前だけを投げかけた。
「――キュゥべえ」
すると、何処からともなく白い獣が姿を現した。
「……やれやれ、また君か。 契約ぐらい自由にさせ――」
「無駄口はやめて」
ほむらがQBの言葉を遮り、本題へ強引に促す。
QBは肩をすくめるような仕草を見せると、さやかに視線を向けた。
「……君は、契約を望んでいるんだね?」
「……うん」
さやかははっきりと頷き、短く答える。
「あたしの願いが叶うなら……どんな対価だって、払ってもいい」
そして、まっすぐにQBを見てそう言った。
「なるほど、覚悟はできているというわけだね」
その言葉を受け、白い獣は改めて彼女に向き直る。
「では、聞かせてもらうよ」
「君の願い事は、なんだい?」
さやかは一度だけ目を閉じ、ゆっくりと、深く息を吸い込み――
そして、はっきりと告げた。
「――恭介の腕を、元に戻して」
「もう一度、バイオリンが弾けるようにして」
「――その願い、確かに受け取ったよ」
そうQBが告げた直後。
眩い光が、さやかを包み込み。
彼女の
「……これが、あたしの……!?」
そして、その姿は。
ほむらがよく知る、青い剣士そのものだった。
はい、魔法少女さやかちゃん爆誕シーンでした。
んで、本来なら、ここから戦い方とか、注意点とか、いろいろレクチャーを始めたいところなんですが……
タイミング的に、そろそろですね。
>突如、さやかのソウルジェムが、何かに反応するように明滅する。
>「……! なにこれ……!?」
はい来ました、ハコの魔女。 案の定、まどかと仁美が巻き込まれてます。
というわけで現場に向かいましょう。 のんびり講習してる暇はありません。
>「さっそく、お出ましのようね」
>「これって……魔女の……!?」
>「……時間がない。 説明は移動しながらするわ。 ついてきて」
魔女&魔法少女移動中……
結界が見えてきました。
中にまどか達が入り込んだのは烏くんで確認済みですが、知らないふりをして二人で突入します。
>ロケーション:結界内部
>「早く倒しに行かないと――」
>「待って。 まずは一般人の確認が先よ」
まぁそう、焦んないで。
まずは巻き込まれた一般人の安全確保が最優先でしょ。
原作だと速攻で本体を叩きに行って、その後でまどか達を助けてましたが……
言うまでもなく、めちゃくちゃ危険なムーブです。
今回は一箇所に集まってるはずなので、そこの対処から。
>二人で内部を走っていると、一般人の集団が見えた。
>明らかに正常な様子ではなく、バケツに洗剤のような容器を運び込もうとしている。
はい出ました集団自決イベント。
ここは説明不要、さやかに指示してバケツと洗剤を物理的に排除しましょう。
>「そぉりゃぁっ!!」
>さやかが、バケツと洗剤を遠くに放り投げた!
ナイス遠投。 そんじゃ次は……
>「えっ……!? さやか、ちゃん……!?」
お、ちょうどまどかが居合わせたようです。
>「……まどかっ!?」
>その声にさやかが驚くが。
「「「ジャマ……スルナ……!!」」」
>暴徒と化した一般人がこちらに向かってきた……!
ぽまいら、もちつけ。
>《V.V.V.F.》《STUN》*1
ジジジジ……バチッ!
>微細な電撃が空間を縫い、次々と暴徒が崩れ落ちていく。
>「ちょ、あんた、何やって……!?」
>「一時的に失神させただけよ。 人体に影響はほぼない」
>「こちらを襲ってくるなんて想定外だったの。 手段は選んでいられなかった」
>「あなたは先に魔女の所へ向かって。 私はここの安全を確保してから向かうわ」
>「っ……オッケー! あとでね!」
>さやかはすぐさま踵を返し、魔女のいる方向へ駆け出していった。
ま、想定外なんて嘘なんですけどね。
ともかく、これでほぼ無力化できました。
あとは仁美を叩き起こして、まどかも連れて合流。
>「ほむらちゃん、さやかちゃんの格好って……!?」
まどか、今ちょっと時間ないねん。 後でゆっくり話すから待っててな。
んで、仁美の様子はっと。
>仁美は倒れた一般人に重なるように、仰向けに倒れている。
>先ほどの電撃で失神しているようだ。
ちゃんと伸びてますね。
魔力干渉で魔女の口づけを取って、目を覚まさせましょう。
>仁美に駆け寄り、首筋の印に手を当てる。
>《V.V.V.F.》《CRACK》
>ビクン、と仁美の身体が跳ねる。
>印は稲妻状にひび割れ、形を崩しながら消えていく。
>やがて印が完全に消えると、彼女はゆっくりと瞼を開けた。
これでよし。 おはよう仁美、目覚めはいかが?
>「……ぅ……ここ、は……? 私は、いったい何を……??」
>「……暁美、さん? その、格好は……?」
混乱してるでしょうが、説明は後回し。
今は連れて行った方が早いので、まどかと一緒に保護して、さやかの元へ向かいましょう。
>結界最深部。 さやかが魔女と交戦していた。
>四方八方に飛び回り、使い魔も周囲の障害物もまとめて、青い剣閃でズタズタに切り裂いていく。
やるやん、これは手出し不要かな?
>「ぇ……? さやか、さん……??」
>「……さやか、ちゃん、やっぱり……」
>仁美は状況が理解できず、言葉を失う。
>まどかは、薄々気づいていながらも見ない振りをしていた答えを、正面から叩きつけられたような表情。
仁美が宇宙猫になってて草。
とりあえず、ここはさやかにトドメを任せましょう。
>「でぇりゃあああああぁぁぁぁぁッ!!!」
>さやかが飛び上がり、満身創痍の魔女に向かって急降下する。
ズドォォォォン……!!
>急降下の加速を乗せた刺突が、本体を貫く。
>地面に縫い付けられた魔女は、血飛沫を噴き出しながら痙攣した。
これでフィニッシュと。
いつ見ても演出がド派手で気持ちいいですね、スタッフの本気度が伺えます。
>さやかは魔女が動かなくなったのを確認すると、突き立てた剣を引き抜き、血を払うようにひと振りする。
>同時に、結界がノイズのように崩れ始めた。
というわけで、さやかの初陣が終わりました。
おおむね原作通りでしたね、大きな違いは仁美が起きてたことぐらい。
で、仁美をわざわざ起こした理由ですが……例の認知フラグを立てるためです。
というのも、魔女の口づけが付いている間は、基本的に記憶が残りません。
なのでさっきみたいに解除しないと、魔法少女の「ま」の字も知らないまま終わります。
んで、仁美が何も知らない状態だと……
告白宣言→実行→恭介とのカップル成立
という10割コンボを決めてくる可能性があり、そうなると案の定さやかが闇堕ちします。
こちらの工作でお互いの牽制が働いてはいますが、完全には防げません。
ですがここで認知させておくと、さやかが置かれた環境の過酷さや覚悟の重さを知ることで、仁美から告白することはまずなくなります。
だから巻き込む必要があったんですね。
解説はこれくらいにして、魔法少女さやかちゃんの身バレイベント見てみましょう。
等速でお送りします。
一般人の保護と、警察による簡単な事情聴取が終わり。
ほむら達は、人気のない寂れた公園へと場所を移していた。
日も落ちた暗がりの中を、沈黙が支配する。
やがて、沈黙に耐えかねたまどかが、そっと口を開く。
「……さやかちゃん」
「……キュゥべえと、契約、したの……?」
その声色には、嘘であってほしい、という願いが滲んでいた。
しかし。
「――うん、した」
「っ……!!」
短く、迷いのない返答。
まどかの淡い期待は、さやか自身の言葉によって打ち砕かれた。
「……どうして……?」
まどかは唇を噛みしめるようにして続ける。
「ほむらちゃんも、危ないって、ずっと言ってて」
「マミさんが……あんなことになって」
「それで……契約したら、身体が、ひどいことになるって、分かってた、はずなのに……」
途切れ途切れで、整理のついていない、震えた言葉。
「……それは」「いい、あたしが話す」
見かねたほむらが、自らが泥を被るつもりで口を開きかけるが。
さやかが、ほむらの言葉を遮った。
「……どうして、って質問の答えだけど」
「……簡単に言うと、恭介に……元気になってほしかったから」
言葉を選んでいるのが、はっきりと分かる話し方だった。
「……恭介の腕が、もう治せないっていうのは、みんな知ってるよね」
「それ聞いたとき、目の前が真っ暗になってさ」
「なんであたしは、こんなに無力なんだろうって」
「………………」
まどかは押し黙ったまま、続きの言葉を待つ。
「何より、落ち込んでる恭介を見るのが辛かった」
「……きっと、恭介は、またバイオリンが弾けるようにならなきゃ、心から笑えることなんてない。 それぐらい、バイオリンに命賭けてたから」
「だから、あたしが奇跡を起こしてあげたかった。 また、笑ってほしくて」
「っ……」
小さく、息を呑む音がした。 仁美のものだと、すぐに分かった。
そしてさやかは、ちらりとほむらを見る。
「……それに、今の状況を見ててさ」
「ほむらはマミさんの治療にかかりっきりで、はっきり言って、魔女退治どころじゃないと思う」
「それでも、こうやって助けに来てくれたりしてるけど……」
「すっごく、辛そうだもん。 いつか、倒れるんじゃないかってぐらい」
(…………)
ほむらは、自身の演技が十分すぎるほど効果を上げていることを悟りながらも、それを表情に出すことはなかった。
「でも、魔法少女って、街を守らなきゃいけないじゃん」
「だったらせめて、その部分だけでも、あたしが助けになれたらって思ったんだ」
そう言って、さやかは少し視線を泳がせた後、軽く拳を握る。
「……要するにさ」
「目の前に辛そうな人がいるのに、何もできずに見てるだけなんて」
「あたしには、どうしても耐えられなかった」
「……それが、あたしが契約した理由」
「ッッ……そう、なん、だ……」
まどかは必死に、さやかが語った覚悟を飲み込もうとする。
しかし、どうしても自分の心だけは、納得してくれそうになかった。
沈黙の中で、今度は、仁美が小さく息を吸い込む。
「……待ってください。 その……“魔法少女の契約”というのは……?」
ここまで静観に徹していた仁美は、自分が致命的に前提を知らないことを悟ったのだろう。
慎重に、言葉を選びながら問いかけた。
「……そっか、そこから話さないとだよね。 えっとね――」「それについては、私が説明するわ」
さやかが答えようとするが、ほむらは自身が説明した方が良いと判断し、一歩踏み出す。
「契約について知る前に、まず"魔法少女とは何か"というのを理解する必要があるわ」
「魔法少女というのは――」
そう前置きしてから、一部の真実は伏せたまま、ほむらは順を追って説明を重ねていった。
「…………」
やがて、ほむらの説明がひと通り終わると。
仁美は、しばらく言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
「――そんなの」
「そんなの、巫山戯てますわ」
最初に零れ落ちたその言葉には、抑えきれない激情が滲んでいた。
「……夜、満足に眠ることも、友人と笑って過ごすことも」
「当たり前の明日を思い描くことさえ、ままならない」
ひとつひとつ言葉を選ぶように、区切りながら続ける。
「日夜、いつ現れるかも分からない魔女と戦い続け」
「傷ついても、恐ろしくても、それを誰かに打ち明けることすら許されない」
「……そんな過酷な運命を」
「たった一つの願いの代償として、一生涯、背負わされる……?」
ぎりっ、と歯を軋ませる音。
「……そんなもの」
「私達のような年端もいかない子供が、背負っていいものでは到底ありませんわ……!」
「………………」
真っ当すぎる憤りを前にして、さやかは視線を伏せ、ほむらはわずかに目を細める。
「それなのに、なぜ、さやかさんは……!」
仁美は思わずそう問いかけ。
責める声色になっていると気づき、はっと息を呑み、言葉を飲み込んだ。
「……責めるつもりはありませんの」
「ただ……どうしても、その道を選ぶしか、なかったのでしょうか」
「…………」
しばらく視線を伏せていたさやかは、ゆっくりと顔を上げて答えた。
「……少なくとも、あたしはそう思ってるよ」
「っ……!」
「“前任”の人が倒れて、ほむらはその人の治療にかかりっきりで」
「今、この街を守れる魔法少女が、ほとんどいない」
「誰もいなかったら、誰もやらなかったら。 その間に、罪もない人が死んじゃうかもしれない」
一瞬、拳を握りしめる。
「四の五の言ってらんない状況なんだよ、今」
「……わかってるでしょ? あたしの性格」
「っ……でも、それは……」
恭介の腕を治すという願いと、関係があるのか――
喉元まで出かかった仁美の疑念を、さやかは正確に汲み取る。
「……エゴって言うんだっけ、こういうの」
自嘲するように、視線を逸らし。
「……腕を、治して、あげれば……」
「……ごめん。 これ以上は、今は言えそうにないや」
そこまで言いかけて、言葉が途切れてしまう。
一拍置いて、絞り出すように続けた。
「……ちゃんと、整理がついたら」
「その時は、ちゃんと言わせて」
仁美が予想以上にキレてました。
まぁ、親友が知らぬ間にこんな鉄火場にぶち込まれてたんだからさもありなん。
ともかく、これで認知フラグ成立。
さやか闇堕ち回避ルートへの道筋が見えてきました。
>「私にもできる限りのことは協力させてください、家の力も使えますから」
>「えっ……!? いや、そこまでしてもらわなくても……!!?」
>予想以上に仁美が協力的だ……
仁美もちつけ、さやかが泡食ってるぞ。
ほむほむもちょっと引いてて草。
何はともあれ、これで認知フラグ成立。
さやか闇堕ち回避ルートへの道筋が見えてきました。
ともかく、これで恭介は本人には理由もわからないまま腕が治りました。
これをきっかけに、ほむほむが恭介と接点を持ち、最終的にはさやかが彼に全部ぶちまけて告白するところまで持っていけるようになります。
こうして、さやか・仁美・恭介三人のわだかまりをできる限り解消しておかないと、
さやか闇堕ちのフラグは全部消えてくれないんですよね。
……めんどくせぇなマジで。
でも、そこがさやからしくもあり、可愛いところでもあるので、致し方なし。
さて、次のフェーズに参りましょう。 いよいよ杏子を呼び寄せます。
原作だと、どこで知ったのか勝手に見滝原にやってきますが……おそらく、淫獣が知らせたんでしょう。
今回は、烏くんで奴の動きを制限しているおかげで、まだ彼女はマミさんの情報を知りません。
この状況を利用して、工作を行います。
具体的には、淫獣が情報を持ってきたように見せかけて、こちらは何も知らないふりをしながら、杏子を誘導する算段ですね。
と、その前に。
ちょっとしたおまけですが、イベントシーンを一つ挟みましょう。
原作にもあった、恭介が再びバイオリンを手に取るあの場面です。
今回は、ほんの少しだけ変化があります。
翌日、放課後。
恭介は、見舞いに来たさやかに促され、病院の屋上へと足を運んでいた。
そこには、彼の両親と、数名の病院スタッフの姿があった。
「……どうしたの、これ」
戸惑う恭介に、母親が静かに微笑み、一本のバイオリンを差し出す。
それは、彼がかつて何よりも大切にしていたものだった。
恭介は、躊躇いがちにそれを受け取る。
壊れそうなものに触れるように、かすかに手を震わせながら。
そして、染みついた所作のまま、半ば無意識に楽器を肩へと構える。
顎を乗せ、弓を持つ指先に、意識を集中させる。
(……いける)
確信にも似た感覚が、胸の奥に灯った。
恭介は目を閉じ、かつての記憶をなぞるように、静かに弓を走らせる。
響き始めたのは、シャルル・グノーの《アヴェ・マリア》。
澄み切った祈りのような旋律が、屋上の空気をゆっくりと満たしていく。
恭介は、無我夢中で弓を動かし続けた。
指先は迷いなく弦を捉え、かつての感覚を取り戻していく。
やがて、自分でも気づかないうちに。
彼の顔には、心からの笑顔が浮かんでいた。
「……ッ……!」
その音色に、表情に、さやかは視界が滲むのを感じる。
自身の選択が間違っていなかったのだと、確信しながら。
やがて、最後の一音が空に溶けていく。
恭介は、しばしその余韻に耳を澄ませた後、無言のまま静かに一礼した。
パチ……パチ……パチパチ……
控えめな拍手が、屋上に広がっていく。
彼は、再び演奏者としての人生を歩み始めた。
一人の少女の、祈りと犠牲を対価に。
その事実を彼自身が知ることはない。
今は、まだ。
演奏を終えた後、恭介は病室へと戻り、他愛もない話に花を咲かせていた。
笑顔も、声の調子も、前より明るい。
その様子を見つめながら、さやかはふと思い出したように鞄へと手を伸ばす。
「……あ、そうだ。 これ、渡しとくね」
差し出されたその手には、昨日渡せなかったCDが握られていた。
「……これって……?」
「……プレゼント。 元気出してほしいなって思って、前から買ってたんだけどさ」
「……もしかしたら、迷惑かなって思って、なかなか渡せなくて」
「……さやか……」
恭介は彼女の心遣いに、礼を言おうと口を開くが。
「ストップ。 お礼はいらないよ」
その言葉が出るより早く、さやかは軽い調子で遮った。
「代わりにさ。 また、いっぱい演奏聴かせてほしいなって」
それだけで十分だと言わんばかりに。
そして、独り言のようにぽつりと付け加える。
「……それに、"これ"はあたしの、わがままだから」
「……それは、どういう……?」
戸惑いを含んだ恭介の問いに、さやかは一瞬だけ視線を伏せ、曖昧な笑みを浮かべ。
「……ごめん。 今は、ナイショ」
自らの本心を胸の奥に呑み込みながら、そう答えた。