魔法少女まどか☆マギカ -Kaleidoscope- 実績「時をかける魔女」獲得実況プレイ   作:Hotpepper_N

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Part6(8/18)(杏子合流〜マミさん復帰)

「さやかちゃん……!」

 

肩で息をしながら、一直線にさやかのもとへ駆け寄る。

少し顔色の悪いさやかを見て、まどかの表情が不安に染まった。

 

「さやかちゃん、大丈夫……?」

 

「あ、うん……平気。 平気だから」

 

そう言って笑ってみせるものの、その笑顔はどこかぎこちない。

 

「いやー、はは……マミさんの件で分かってたつもりだったけどさ……」

「……ほんとにこの中に入っちゃってるんだ、あたしの魂……」

 

さやかは自嘲気味に笑い、自らのソウルジェムを指先でつまみ上げた。

小さく揺れる宝石を見つめるその瞳には、まだ現実を受け止め切れない戸惑いが滲んでいる。

その様子を、まどかはただ何も言えず見守ることしかできなかった。

 

一方で、そのやり取りを終始黙って見ていた杏子は、俯いたまま拳を強く握り締めていた。

 

「……チッ」

 

やがて堪えきれなくなったように舌打ちを漏らすと、手すりへ背中を預け、大きく息を吐く。

そして、空を仰いだままぽつりと呟いた。

 

「……ゾンビ、ね」

 

乾いた笑みが口元に浮かぶ。

 

「よーくわかったぜ……あいつがとんでもねぇペテン師だってことはな」

 

誰を指しているのかなど、言うまでもない。

苛立たし気に歯を軋ませる音だけが響いた。

 

しばらく、誰も口を開かなかった。

歩道橋を吹き抜ける風が、重苦しい沈黙を揺らしていく。

 

やがて、ほむらが静かに口を開いた。

 

「……それでも、あなたの考え方は変わらないの?」

 

杏子の肩が、ぴくりと揺れる。 振り返ることなく、短く答えた。

 

「……変わらねぇよ」

「魂がどうだろうが、生きてる以上、食わなきゃ死ぬ。 それだけは変わらねぇ」

 

杏子は空を見上げたまま、吐き捨てるように続ける。

 

「だったら、自分のために生きるしかねぇだろ」

「誰かのためだとか、正義だとか……そんなもん信じたって、腹は膨れねぇ」

 

「綺麗ごとで誤魔化したって、事実は変わらねぇんだ」

「アタシらはもう、普通の人間としては生きられねぇ。 そういう契約をしちまったんだからな」

 

「っ……」

 

さやかは何か言い返そうとして、言葉を失う。

ソウルジェムを握り締めた手に、自然と力が入った。

 

その隣で、まどかも俯いたまま唇を噛み締めている。

ほむらはそんな二人を一瞥すると、再び杏子へ視線を戻した。

 

「……ひとつ、聞かせて」

 

杏子がわずかに眉を動かす。

 

「……あん?」

 

「あなたは、最初からそんな考え方だったわけじゃないでしょう?」

「誰かのために魔法を使って――そして、その結果、何かを失った」

 

「……」

 

「そうでなければ、そこまで強く否定する理由がないもの」

 

責めるでも否定するでもなく、事実を確かめるようなほむらの声色。

杏子の表情がわずかに強張る。

 

「……ハッ」

 

鼻で笑うように息を漏らし、肩をすくめた。

 

「面白ぇ当てずっぽうだな。 探偵にでもなったらどうだ?」

 

「そうかもしれないわね」

 

ほむらは皮肉を受け流し、静かに続ける。

 

「でも、あなたの考え方の根本は知っておきたい。 お互いを理解するためにも」

 

杏子は口を堅く結び、視線だけが落ち着きなく宙を彷徨う。

その沈黙を破るように、さやかが小さく口を開いた。

 

「……あたしも、聞きたい」

 

杏子の視線がゆっくりと向く。

 

「さっき、『マミはそんなことも教えなかったのか』って言ってたよね」

「まるで、誰かに教えられた……いや、自分で決意したみたいに」

 

一度言葉を切り、意を決したように問い掛ける。

 

「……昔、何があったの?」

 

「…………」

 

杏子は何も答えない。 二人から視線を逸らし、唇をきつく結ぶ。

 

長い沈黙が流れる。

やがて、観念したように小さく息を吐く。

 

「……チッ。 しつこいな、お前ら」

 

そうぼやきながらポケットへ手を突っ込み、一粒の飴玉を取り出す。

包装紙を乱暴に剥がし、口へ放り込む。

 

ガリッ、と飴を噛み砕く音が静かに響いた。

しばらく無言のままそれを噛み締めると、杏子はぽつりと口を開く。

 

「……見せたい場所がある」

 

そう言い残し、くるりと踵を返して歩道橋の階段へ向かう。

数歩進んだところで立ち止まり、背を向けたまま言った。

 

「ついてこい。 そこで……全部、話してやる」

 

三人は互いに顔を見合わせて頷き合い、黙って杏子の後を追う。

 

 

杏子が連れてきたのは、街外れにひっそりと佇む廃墟だった。

鬱蒼と生い茂る草木に飲み込まれるように、一棟の古びた建物が静かに建っている。

 

屋根の上には、風雨に晒され色褪せた十字架。

窓ガラスは砕け、壁は至る所が崩れ落ち、長い年月の中で人の気配を失っていた。

 

「……ここは……?」

 

まどかが小さく声を漏らす。

杏子はその建物を見上げたまま、じっと立ち尽くしていた。

 

表情は見えない。

だがその背中には、言い表せない重さが滲んでいた。

 

「……アタシの、家だった場所だ」

 

ぽつりと零れた声は、どこか遠い記憶をなぞるような静けさ。

そして、杏子は敷地へ足を踏み入れる。

錆びついた門扉を軋ませながら押し開け、膝の高さまで伸びた雑草を踏み分けて進んでいく。

 

三人も無言のまま、その後ろを歩いた。

教会の扉は半ば朽ち落ち、蝶番だけで辛うじて形を保っている。

杏子が軽く押すと、鈍く軋む音を立てながらゆっくりと開いた。

 

中は、外観以上に荒れ果てていた。

朽ちた長椅子には厚く埃が積もり、壁には幾筋もの亀裂が走る。

しかし、かつてここが祈りの場だったことは、辛うじて見て取れた。

 

杏子はゆっくりと祭壇の前まで歩み寄る。

そこで足を止めると、しばらく何も言わず。

 

背を向けたまま、小さく息を吐く。

そして静かに、自らの過去を語り始めた。

 

「……アタシの親父は、この教会の神父だった」

「真面目で、優しくて……誰よりも、人を救いてぇって本気で思ってる人だった」

「でも、親父が説く教えは……普通の教義とは、少し違ってた」

 

杏子は祭壇を見つめたまま、静かに語り続ける。

 

「『新しい時代には、新しい教えが必要だ』――親父は、いつもそう言ってた」

 

「難しい教典の話なんかじゃねぇ。もっと当たり前のことだよ」

「人を思いやれ、とか、嘘をつくな、とか。 困ってる奴がいたら手を差し伸べろ、とか……」

「そんな、誰にでも分かるようなことを、親父は自分の言葉で話してた」

 

その口調には、ほんのわずかに誇らしさが滲んでいた。

 

「最初はな……みんな、ちゃんと耳を傾けてくれたんだ」

「ここにみんなが集まって、笑う奴がいて、泣きながら相談に来る奴がいて……」

 

ふと目を細める。 まるで、輝かしい日々を噛み締めるかのように。

 

「……でも、それは長く続かなかった」

 

杏子の拳が、ゆっくりと握り締められる。

 

「本部が、親父の教えは異端だって言い出してさ」

「信者は一人、また一人と離れていって……最後には教会ごと破門だ」

「親父は収入を失って、アタシら家族は食うにも困る生活になった」

 

まどかが小さく息を呑む。

さやかも、ただ黙って杏子の背中を見つめていた。

 

「……それでも親父は諦めなかった。 毎日、毎日、街角に立って説教を続けて」

「いつかまた、誰かが耳を貸してくれるって信じてな」

 

杏子は自嘲するように小さく笑う。

 

「……でも、誰も聞いちゃくれなかった」

 

教会の中に、重い沈黙が落ちる。

杏子はゆっくりと目を閉じた。

 

「アタシは……それが何よりも辛かった」

「親父は、何も間違ったことなんか言ってなかった。 誰かを傷つけたわけでも、騙したわけでもない」

 

「それなのに、なんで誰も話を聞いてくれないんだって……」

「ガキだったアタシは、それが悔しくて仕方なかった」

 

そして――

 

「だから、アタシは契約した」

 

その言葉に、まどか、さやかの表情が強張る。

 

「『みんなが、父さんの話を真面目に聞いてくれますように』――それがアタシの願いだった」

 

杏子の声がかすかに震えた。

 

「……そしたら、本当にそうなったんだ。 親父の周りには、また人が集まるようになって」

「みんな熱心に話を聞いてくれて、離れていった信者も戻ってきた」

 

「教会には、もう一度笑顔が戻ったんだ」

 

その言葉には、まだ純粋だったころの自身に対する、複雑な感情が宿っていた。

 

「アタシ、嬉しかったんだ」

「やっと親父が報われたって。これで、みんなまた幸せになれるって……本気で思ってた」

 

「……でも」

 

握り締めた拳に、ぎり、と力がこもる。

 

「ある日……親父に知られた。 アタシが魔法を使って、人の心を操ってたってことを」

「親父は……狂ったみたいに怒った。『お前は人の心を惑わせる魔女だ』って」

「……それから、親父は壊れちまった」

 

握られた拳がかすかに震え始めた。

 

「ある夜さ。 アタシが魔女退治から帰ってきたら――」

 

言葉が止まる。

杏子は唇を強く噛み締め、一度だけ目を閉じた。

そして、絞り出すように続ける。

 

「……全員、死んでた」

「母さんも、妹も。 ………親父も」

 

「………っ!!」

 

さやかが息を呑む。

まどかは思わず両手で口元を押さえ、その場に立ち尽くした。

そんな中、杏子はなおも淡々と続ける。

 

「無理心中、だったらしい」

「全部、アタシのせいだ」

 

幾度も反芻され、擦り切れてしまった言葉のようだった。

 

静かに振り返る。

その瞳にあるのは涙はなく、自責の果てに湛えた虚無。

 

「アタシは、親父のためを思って願った」

「親父に、みんなに、また笑ってほしかった……それだけでよかったのに」

 

杏子は静かに目を伏せた。

 

「でも、その願い(魔法)が――親父から全部、奪っちまった」

「みんなを幸せにするどころか、それ以上の絶望を生んだんだ」

 

割れた窓から吹き込む風が、朽ちた長椅子を軋ませる。

 

「だから決めたんだ」

 

杏子はゆっくりと顔を上げる。

 

「もう二度と、他人のために魔法は使わねぇ」

「誰かのためなんて考えねぇ、自分のためだけに生きる」

 

「それが、アタシなりの償いだ」

 

言葉が途切れ、再び静寂が戻る。

彼女が背負い続けてきた痛みの残滓だけが、その場に重く横たわっている。

 

誰も、何も言えなかった。

杏子もまた、それ以上は何も語ろうとしない。

 

やがて、小さく息を吐くと、ポケットへ手を入れた。

取り出したのは、一つの赤いリンゴだった。

杏子はそれを軽く弄ぶように眺めると、何でもないことのように口を開く。

 

「……食うかい?」

 

そう言って、さやかへ放り投げる。

 

「えっ――」

 

突然のことに、さやかは反射的に手を伸ばした。だが、その手が一瞬だけ止まる。

 

(これ……もしかして、盗んだやつじゃ……)

 

頭をよぎった考えに、思わず躊躇する。

でも、受け取らなければ、それはそれで杏子を拒絶するような気がして……

 

「あっ、と、と!」

 

慌てて飛びつき、どうにかリンゴは掴んだものの、勢い余って足をもつれさせ――

 

「うわっ! いったたた……」

 

そのまま尻餅をついた。 情けない声が教会に響く。

 

「……ぷっ」

 

杏子の口から、小さな笑いが漏れた。 肩を震わせながら、呆れたように笑う。

 

「お前、ドジだなぁ」

 

「う、うるさいっ! 急に投げる方が悪いでしょ!」

 

さやかは頬を赤く染めながら立ち上がる。

抗議しながらも、その手にはリンゴがしっかりと抱えられていた。

 

杏子はそんな様子を見て、もう一度だけ小さく笑う。

先ほどまで教会を覆っていた重苦しい空気が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。

 

そして肩をすくめると、小さく息を吐いた。

その表情には、いつもの不敵な笑みが少しだけ戻っている。

 

「……いいか、さやか」

 

真っ直ぐに、さやかを見据える。

その眼差しに、からかいや皮肉の色はなかった。

自分と同じ轍は踏んでほしくないという、ただその一念。

 

「アタシみたいに"誰かのため"なんて言葉で、自分の気持ちをごまかして……全部失うようなバカにはなるなよ」

 

「……杏子……」

 

さやかはリンゴを抱えたまま、小さくその名を呼ぶ。 杏子は構わず続けた。

 

「お前が本当に欲しいもんがあるなら、自分で掴みにいけ」

「やりたいことがあるなら、すぐにでもやっとけ」

 

そして、自分自身に言い聞かせるように、小さく呟く。

 

「……二度とできなくなる前に、な」

 

その言葉が、さやかの胸に静かに落ちていく。

本当に欲しいもの。 本当にやりたいこと。

 

考えた瞬間、不意に一人の姿が脳裏へ浮かんだ。

――恭介。

 

「っ……」

 

さやかの頬が、みるみるうちに赤く染まる。

その反応を見た杏子は、ただ小さく笑って踵を返した。

 

「さて」

 

教会の出口へ向かって歩き出しながら、いつもの調子で肩越しに言う。

 

「湿っぽい話は終わりだ。 帰るぞ」

 

彼女の背中に、もう先ほどまでの脆さはない。

傷も後悔も抱えたまま歩いていく、いつもの力強い佐倉杏子がそこにいた。

 


 

はい、というわけで杏子の過去イベント終了です。 かなり重たいシーンでしたね。

 

ですが、これで杏子は考え方こそ変わらないものの、周囲に対する態度は軟化します。

結果として、さやかとのギスギス状態も解消。 ようやく本格的な共闘体制が整いました。

 

そしてもう一つ。

さやかが恭介へ魔法少女のことを打ち明け、告白へ踏み出すフラグも立ちます。

きっかけになったのは、最後の杏子の一言ですね。

「やりたいことはすぐにでも~」ってやつです。

 

あの言葉を受けて、さやかもようやく自分の気持ちと向き合う決心がつきます。

このルートでは闇落ちの要因を一つずつ潰してるので、ここまで来れば精神的にもかなり安定してくるはずです。

 

さて、ここからは別の作業に移ります。 ほむホームに戻りましょう。

 

>ロケーション:ほむらの家

 

はい到着。相変わらず殺風景ですね、この部屋。

 

そういえばマミさん、もうそろそろ回復してる頃じゃないでしょうか。

ちょっと様子を見てみましょう。

 

>寝室に向かった。

 

おっ。

どうやら完全に治ったようですね。

それでは、眠らせていた魔法を解除しましょう。

 

>スキル解除:《護符・通仙散》

 

これで目を覚ますはずです。

それではお待ちかね、マミさん復活シーンでございます。

 


 

ほむらは、ベッドに横たわるマミの傍らへ静かに腰を下ろした。

 

寝息は穏やかで、血の気を失っていた頬にも健康的な色が戻っている。

呼吸も安定し、傷も完全に塞がっていた。

 

「……そろそろ、頃合いね」

 

ほむらは眠るマミを見つめ、小さく呟く。

そして胸元に貼られた札へ、そっと手をかざした。

 

短く詠唱すると、札は淡い光となって音もなく霧散する。

同時に、マミの身体を包んでいた魔力の膜も、静かに消えていった。

 

部屋を静寂が満たす。 やがて――

 

「……ん……」

 

小さな吐息が漏れる。マミの指先がかすかに動いた。

ゆっくりと、まぶたが震える。

 

「……ここ、は……」

 

かすれた声。ぼやけた視界に映るのは、見慣れない天井だった。

焦点の合わない瞳がゆっくりと彷徨う。

 

「……気がついたかしら」

 

静かな声が耳に届く。

聞き覚えのあるその声に導かれるように、マミはゆっくりと首を動かした。

 

「……ほむら、さん……?」

 

「ええ。 おかえりなさい、マミさん」

 

ほむらは穏やかに微笑み、頷いた。

その一言に、マミの瞳がわずかに細められる。

 

「――ただいま。 待たせてしまって、ごめんなさい」

 

そして、少し照れたように微笑みを返す。

ふたたび現実で相まみえたことに、嬉しさを滲ませながら。

 

「ぁ……っと」

 

身を起こそうとした瞬間、まだ慣れない身体がよろめく。

ほむらがすかさず肩を支える。

 

「無理しないで」「ありがとう……」

 

その手を借りながら、マミはゆっくりと上体を起こす。

まだ少し力は入りにくいものの、身体に痛みはない。

 

「……あれから、どのくらい……?」

 

「おおよそ一週間弱、ってところかしら。 ようやくあなたの治療が終わったところよ」

 

マミは静かに自分の身体へ視線を落とす。

胸元へ手を添え、腕を動かし、ゆっくりと脚を動かしてみる。

失われたはずの身体は、完全な状態を取り戻していた。

 

「……本当に、治ったのね」

 

その一言とともに、瞳が潤む。

感覚がある。 呼吸ができる。 身体を動かせる。

その当たり前が、今は何よりも愛おしかった。

 

「……ありがとう」

 

ぽつりと零れた感謝に、ほむらは小さく首を振る。

 

「当然のことをしたまでよ」

 

それだけ言うと立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。

カーテンの隙間から差し込む陽の光を一瞥し、静かに切り出した。

 

「……落ち着いたところで、状況報告と今後の方針を説明するわ。 少し、長くなるけれど」

 

「ええ」

 

マミは背筋を伸ばし、小さく頷く。その表情は、魔法少女(共犯者)のそれへと戻っていた。

 

「まず、予定通り杏子がこちらに加わったわ」

「最初は私たちを排除して縄張りを広げるつもりだったみたいだけど……交渉の末、ワルプルギスを倒すまでの一時的な協力を取り付けてある」

 

「そう……"どこまで"話したの?」

 

マミは静かに頷き、一拍置いてから確認するように尋ねた。

自分がこれから、どこまでを念頭に置いて振る舞うべきなのか。

その線引きを確かめるための問いだった。

 

ほむらはその意図を正確に汲み取り、淀みなく答えた。

 

「端的に言えば、奴の到来が近いことと、ソウルジェム=魂であることまでよ」

「それから、奴を倒した後は私がこの街を去るという条件で、一時的な協力を取り付けたわ」

 

一拍置いて、小さく付け加える。

 

「……もっとも、それは表向きの話だけれど」

 

マミは納得したように微笑む。

 

「ええ。 最終的にはあなたの正体を明かさなければならないものね。 その時のための建前、ということかしら」

 

「その通りよ」

 

ほむらは静かに頷いた。

 

「それに、奴さえ倒してしまえば、私自身がこの街に留まる必要はなくなるわ」

「インキュベーターの干渉なら、私が街の外にいても防ぐ方法はいくらでもあるもの」

 

そう言って、ほむらは足元へ視線を落とした。

影が静かに揺らぐ。 その中から、一羽の烏が羽ばたきながら姿を現した。

烏はほむらの指先へ舞い降りると、小さく首を傾げてマミを一瞥する。

 

「例えば、こういう方法でね」

 

ほむらが魔法を解くと、烏は音もなく羽根の残滓へと崩れ、そのまま空気へ溶けるように消えていった。

 

「……なるほど」

「あの子たちには、まだワルプルギスのことは話していないの?」

 

「まだよ」

 

ほむらは首を横に振った。

 

「杏子だけに伝えたのは、交渉材料という意味もあるけれど……それ以上に、今の段階でさやかたちを余計に混乱させたくなかったから」

「特に、さやかにはね。 彼女には、決戦の前にどうしても済ませておいてもらいたいことがあるの。 あとで詳しく説明するわ」

 

マミはそれ以上は尋ねず、小さく頷いた。

ほむらも話を一区切りつけると、改めて今後の方針を切り出す。

 

「まずは当初の計画通りよ。 時が来るまでは、あなたには身を隠してもらう」

 

ほむらは窓辺から離れ、静かにマミへ向き直る。

 

「ただし、身を隠してもらうとは言っても、何もしないわけじゃない」

「明日以降、深夜は私と一緒に魔女退治へ出てもらうわ。 リハビリを兼ねて、実戦の勘を取り戻してほしいの」

「決戦当日までには、万全の状態になってもらわないと困るから」

 

マミは自分の手を見つめ、小さく握ったり開いたりする。

 

「……そうね」

 

自嘲するように、小さく笑う。

 

「今の私は、身体こそ治っていても、戦える状態とは言えないもの」

「こんなままでは、足手まといになってしまうわ」

 

「そんなことはないわ」

 

ほむらは穏やかに首を横へ振った。

 

「ずっと眠っていたのだもの、勘が鈍るのは当然よ」

「だからこそ、決戦までの時間を使って取り戻すの。 焦る必要はないわ」

 

その落ち着いた口調に、マミの表情からわずかに力みが抜ける。

 

「……ええ。任せてちょうだい」

 

ほむらは小さく頷き、話題を切り替えるように口を開く。

 

「それと、もう一つ」

「明日から、私はさやかの心残りを解消するために動く。 上条恭介に接触する予定よ」

 

「……彼に、魔法少女のことを伝えるの?」

 

「最終的にはそうなるでしょうね。 ただし、段階を踏んで」

 

ほむらは腕を組む。

 

「最終的な目標は、さやかが自分の口で全てを打ち明けたうえで、彼に想いを伝えること」

「そこまで導くには、私が仲介役になる必要があるの」

 

「……ずいぶん細かいところまで考えているのね」

 

マミは感心したように微笑む。

 

「必要なことよ。 心残りを抱えたまま、奴と戦わせるわけにはいかないもの」

「少しでも迷いが残れば、それは戦いの最中に必ず隙になる」

 

ほむらは淡々と答える。

マミは静かに頷く。 理屈としては、十分理解できた。

 

「……ねえ、暁美さん」

 

不意に、何か思いついたようにマミが口を開く。

 

「上条君に接触するって言っていたけれど」「ええ」

 

ほむらが頷くと、マミは少しだけ考え込むような表情を浮かべた。

 

「一つ、アドバイスしてもいいかしら」「……?」

 

ほむらは首をかしげる。

マミはそんな彼女の顔を、改めてまじまじと見つめた。

そして、小さく息をつく。

 

「あなたの顔は……魅力的すぎるわ」

 

「……えっ?」

 

珍しく、ほむらが目を瞬かせた。

意表を突かれたような反応に、マミは真面目な表情のまま頷く。

 

「だから、上条君と接触するなら、何かしらカモフラージュをした方がいいと思うの」

「美樹さんの恋路を応援するつもりなのに、そこで万が一、彼があなたに目を向けてしまったら本末転倒でしょう?」

 

「……そんな、大げさな」

 

「大げさじゃないわ。あなた、自分では気づいていないみたいだけれど……とても人目を引く容姿をしているもの」

「特に、年頃の男の子ならなおさらよ。余計な誤解や勘違いは、可能なら避けておくべきだと思うわ」

 

「……」

 

ほむらは少しだけ視線を落とし、考え込んだ。

確かに、万が一彼に惚れられてしまえば、これまでの工作がご破算になりかねない。

 

「……分かったわ。対策を講じることにする」

 

「ええ、それがいいわ」

 

マミは満足そうに頷いた。

 

 

「……ひとまず、伝えたかったことは以上よ」

「今日はゆっくり休んでいて。本格的なリハビリは、明日の夜から始めましょう」

 

ほむらは静かに話を締めくくると、マミは穏やかに微笑む。

 

「ええ。ありがとう、ほむらさん。 明日からよろしくね」

 

ほむらはその言葉に短く頷く。

 

そしてマミは、ゆっくりとベッドへ身体を横たえる。

まだ体力は戻り切っていない。 今は何より、身体を休めることが先決だった。

 

「おやすみなさい」「ええ」

 

静かな挨拶を交わし、マミはそっと目を閉じる。

ほむらはベッド脇を離れると、そっと部屋を後にした。

 

扉が小さな音を立てて閉まる。 廊下を歩きながら、ふと先ほどの会話を思い返した。

 

「……カモフラージュ、ね」

 

小さく、言葉が漏れる。

そのまま自室へ戻りながら、ほむらは早くも明日の段取りを頭の中で組み立て始めていた。

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