魔法少女まどか☆マギカ -Kaleidoscope- 実績「時をかける魔女」獲得実況プレイ 作:Hotpepper_N
恋愛パート、終了です。
結果としては……全員が少しずつ心に傷を残す、ほろ苦い結末になりました。
さやかは勇気を振り絞って告白したのに、返事は保留。
仁美も想いを伝えはしたものの、親友と恋心の間で複雑な感情を抱え。
そして恭介も、二人の想いを受け止めきれず思い悩んでいる。
誰も完全には報われていません。
ですが、致命的なすれ違いだけは避けることができました。
さやかが闇落ちすることもなく、仁美が暴走することもなく、恭介との関係も破綻していない。
正直、めっちゃ悩んだんですけど……ここら辺が落としどころですね。
全員がハッピーエンドってのは、現実的じゃないですから。
さて、三人の恋路は一段落しました。
というわけで、ここからは最終決戦へ向けた準備フェーズに入ります。
次の目標はほむほむの正体をまどか・杏子・さやかに明かすことです。
手順はこう。
①ほむほむ単独で魔女狩りを開始
適当な理由をつけて、一人で魔女狩りに行く機会を増やします。
不自然にならないように、それっぽい言い訳は用意しておきます。
②杏子が後をつけてくる
すでにこちらに疑念を抱いている杏子は、こっそり後をつけてくるはず。
ここで重要なのは、「魔女を倒す瞬間だけ見られないように」調整すること。
魔女の反応は感じさせるけど、決定的な証拠だけは見せない。
そうすることで、疑念だけをさらに積み重ねていきます。
③魔女形態を目撃させる
疑念が十分に膨らんだところで、最後の一押しです。
杏子には魔女形態だけを目撃させます。
そして、最終的に杏子の方から接触してくるのを待つ。
という流れです。
これ、実はPart4でマミさんに身バレした時と同じプロセスなんですよね。
今回はあれの応用です。
>ロケーション:見滝原市内
はい、というわけで数日ほど経過しました。
この間はこちらの作戦通り、理由をつけて単独で魔女狩りへ向かう回数を増やしています。
名目としては、グリーフシードの偏りを防ぐためにローテーション制にしましょうという感じですね。
一応、戦力配分としては筋が通ってますし、さやか達も特に不自然には思っていません。
……ただし、杏子だけはこちらを疑ってます。
案の定単独行動に違和感を覚えたらしく、すでに当番の時二回ほど尾行してきてます。
で、こっちは気づかないふりをしてうまーく決定的なところだけは誤魔化してます。
杏子に結界に入られる前に倒して、素知らぬ顔で出てきたりとか。
たぶん今ごろ、頭の中は「???」だらけでしょうね。
いい感じです。 狙い通り、疑心は順調に育っています。
>情報:さやかが一人で下校中のところ、杏子が接触。
お、さやかにも情報を共有し始めました。
杏子一人では埒が明かないと判断して、協力者を増やすつもりですね。
この流れなら、今夜は二人で尾行してくるはずです。
もちろん大歓迎。その展開を待っていましたから。
杏子とさやかは、十分な距離を保ちながらほむらの後を追っていた。
物陰から様子を窺い、気配を殺して歩く。
「……あそこだ」
杏子が顎で前方を示した。
人気のない路地裏。
その空間がゆらりと歪み、魔女の結界への入り口が開いている。
そして、その前には一人の少女。
ほむらは周囲を一瞥すると、結界の中へと姿を消した。
「……いいか、よく見てろ」
そう言って杏子は、自身のソウルジェムを指さす。
さやかも緊張した面持ちで頷いた。
二人は結界から少し離れた場所で身を潜め、その時を待つ。
ほどなくして、二人のソウルジェムが新たに光を放つ。
「……!」
さやかが小さく息を漏らし、杏子が眉をひそめる。
間違いなく、もう一体の魔女反応。
発生源は、ほむらが入った結界の内部。
「……!? これって……!」
「……そら来た」
杏子の目が鋭く細められる。
あの時と、まったく同じ状況。 杏子は即座に踵を返す。
「急ぐぞ!」
「うん!」
二人はほぼ同時に駆け出し、魔女の結界へ飛び込んだ。
反応を頼りに、二人は結界の奥へと駆け抜ける。
使い魔の姿はほとんど見当たらない。
代わりに聞こえてくるのは、激しく何かがぶつかり合う轟音。
「……こっちだ!」
杏子が先頭に立ち、さやかもその背を追う。
やがて二人は、最も反応の強い最奥部へとたどり着いた。
そして――
「……なっ……!?」
二人は、思わずその場で立ち竦んだ。
目の前に広がっていた光景が、あまりにも常識外れだったからだ。
魔女が、二体。
一体は、この結界の主。 そしてもう一体は、全身が漆黒に燃える、巨大な鳥を思わせる異形。
だが、二人の目を奪ったのは、その姿だけではない。
「魔女が……魔女を、襲ってる……!?」
さやかが震える声を漏らす。
黒い鳥の魔女が、同族であるはずの魔女へ容赦なく襲い掛かっていた。
鋭い爪が外殻を切り裂き、魔法が放たれる。
「同士討ち……?」
杏子が呆然と呟く。
魔女は人間を襲う存在のはずだ。 同類で殺し合うなど聞いたことがない。
それが今、目の前で起きている。
「っ……!」
ブシュッ!!
「■■■■■■■■!!!!」
鉤爪が、その身を深々と貫く。
魔女は血飛沫を撒き散らしながら、力なく崩れ落ちた。
黒い鳥の魔女は、倒れた魔女をしばらく見下ろしていた。
そして、ゆっくりと首だけを動かす。
無機質な瞳が、杏子とさやかを捉えた。
二人の背筋を、強烈な悪寒が駆け抜ける。
「……ッ!」
杏子が反射的に槍を構える。 その隣で、さやかも剣を抜き放った。
張り詰めた空気が周囲を支配する。
だが、魔女は翼を静かに畳み、ただじっと二人を見つめていた。
まるで値踏みするように。 あるいは何かを確かめるように。
数秒の沈黙。そして――
フッ…
突如、黒い羽根の残滓を残し、霧のようにかき消えた。
「……消えた……!?」
さやかが思わず声を上げ、急いで周囲へ視線を走らせる。
先ほどまで確かに感じていた反応は、完全に消失していた。
杏子は舌打ちすると、すぐに周囲を見回す。
「おい、ほむらは!?」
その一言で、さやかも我に返る。
そうだ。 元々追っていたのは、ほむらの方だった。
結界へ入ってきたはずの彼女の姿が、どこにもない。
手あたり次第に周囲を探し回るが、目的の少女の姿は見当たらなかった。
「……いない」
さやかが呆然と呟く。 杏子も険しい表情のまま立ち尽くしていた。
「……どういうことだよ……」
魔女が、魔女を襲っていた。
その異形の魔女は、自分たちには一切攻撃せずに姿を消した。
そして、ここへ入ってきたはずのほむらも、忽然と姿を消している。
目の前には、数多の謎が積み重なっていた。
杏子とさやかは、ただ顔を見合わせることしかできなかった。
さて、予定通り魔女形態を目撃させることには成功しました。
二人とも、だいぶ疑念が膨らんできた頃でしょう。
とはいえ、まだ決定的な証拠を掴めてませんからね。
杏子も、同じ手を繰り返しても埒が明かないことくらいは分かっているはずです。
となれば次は、直接こちらへ探りを入れてくるでしょう。
もっとも、それも想定済みですが。
では、その様子を見てみましょう。翌日までスキップ。
>ロケーション:見滝原中学校・校門前
というわけで放課後。これからいつものようにパトロールへ向かうんですが……
>さやかは、こちらを密かに監視するような視線。
>気づかないとでも思っているのだろうか。
……うん、露骨ですね。 まったく疑心を隠せていません。
>着信:佐倉杏子
おっと、噂をすればですね。
>『今夜、一緒に魔女退治しねぇか?』
>珍しく電話してきた杏子の声は、妙にわざとらしい。
やっぱりな(レ)
おおかた、こちらを誘い出して逃げられないタイミングで問い詰めるつもりなんでしょう。
ここはわざと引っかかってあげます。 特に断る理由もないんでね。
>素直に承諾する。
>『よし、じゃあ集合場所は――』
>二言三言交わし、通話を切った。
それじゃあ向かいましょう。
あ、パトロールは特に見所さんがないので倍速で。
魔女倍速中……
で、魔女退治も終わったところでそろそろ解散、と思いきや。
本番はここからです。
烏くんを通じて、マミさんをこっそり呼び出して待機させておきましょう。
>結界が晴れ、帰路に就こうとした、その時。
>突如、杏子がこちらへ槍を向けた。
「待ちな」
鋭い声とともに、一本の槍がほむらの喉元へ突きつけられる。
杏子だった。
その表情からはいつもの軽薄さは消え失せ、鋭い眼差しがほむらを射抜いている。
「杏子……!?」
さやかが慌てたように声を漏らす。
しかし、その場を止めようとはしなかった。
彼女自身もまた、ほむらへの疑念が尽きていないからだ。
ほむらは槍先へ視線を落とし、困惑したように眉を寄せる。
「……え? ちょっと、どういうつもり?」
「とぼけんな」
ジャララッ!!
吐き捨てるように言うと同時に、槍が振動する。
次の瞬間、柄は三節棍へと姿を変え、生き物のようにしなりながらほむらの腕と胴へ巻き付いた。
「っ……!」
鎖のように締め上げられ、ほむらの身体がわずかによろめく。
しかし、彼女は抵抗しようとはしなかった。
「前から怪しいと思ってたんだよ。 お前の当番の日だけ、決まってもう一体、魔女の反応が同じ場所に現れる」
「アタシが知ってるお前は、一人で二体も相手にできるようなタマじゃねぇ」
「それに昨日――」
杏子の視線がさらに鋭くなる。
「その反応を追ってみれば、そこにいたのは同士討ちしてるもう一体の魔女」
「なのに、お前はどこにもいなかった」
短い沈黙。 杏子はゆっくりと、自身のソウルジェムを指差した。
「そして極めつけだ」
「アタシたちは、お前のソウルジェムを見たことがねぇ。 一度も、だ」
「魔法少女にとっちゃ、文字通り命綱だ。 そんなもんを、いつも隠し通せるわけがねぇ」
「……それは、お前自身が証明してたよな」
三節棍がさらに軋み、ほむらの身体をきつく拘束する。
「答えろ。 ……お前、何者だ?」
ほむらは観念したように目を伏せ、小さく息を吐いた。
「……ええ、その通りよ。 私のソウルジェムは……すでに失われている」
「私はもう、魔法少女でも、人間でもない」
「つまり、テメェは魔女ってことだな?」
杏子が間髪入れずに言い放つ。
三節棍が軋みを上げ、ほむらの身体をさらに強く締め上げた。
「何が目的かは知らねぇ。だが、さすがに放っておくわけにはいかねぇな」
「勝手に魔女を減らされちゃ、アタシたちの取り分も減っちまう」
そう言うと、杏子は空いた左手にもう一本の槍を生み出し、切っ先をほむらへ向ける。
「え……?」
か細い声を漏らしたのは、まどかだった。
「ほむらちゃんが……なんで……どういうこと……?」
困惑と恐怖が入り混じった表情で、拘束されたほむらを見つめることしかできない。
一方、さやかは唇を強く噛み締め、二人のやり取りを固唾を呑んで見守っていた。
やがて杏子が槍を振り上げようとした、その時。
「――待って。 一つだけ、聞いてもいいかな」
「あぁ?」
杏子が鬱陶しそうに振り返る。
「おい。こいつはアタシたちを騙してたんだぞ。耳を貸すな」
「……それでも」
さやかは視線をほむらから逸らさず、首を横へ振る。
「まだ、魔女だって決まったわけじゃない」
「それに、なんであたしたちと関わってきたのかも分からないままじゃ……あたしは納得できない」
「だからそれが甘ぇって――」
「分かったわ」
ほむらの静かな声が、杏子の言葉を遮る。
杏子とさやかが、同時にほむらを見た。
「この状況で、私が何を話したところで……きっと信じてはもらえないでしょう」
ほむらはゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、覚悟とも、開き直りとも、あるいはすべてが予定通りだと言わんばかりの静かな色が宿っていた。
「だから――証人を呼ぶわ」
そう言うと、ほむらは拘束されたまま、かろうじて動かせる首だけをゆっくりと横へ向ける。
そして、その名を静かに呼んだ。
「――マミさん」
その名が告げられた瞬間。
三人の視線が集まる先へ、一人の少女が静かに歩み出る。
夜風に金色の髪を揺らし、魔法少女の姿のまま――
巴マミが、そこに立っていた。
「……っ!?」
杏子の目が大きく見開かれる。
その表情は、まるで亡霊を目にしたかのような。
さやかとまどかもまた、言葉を失う。
だが二人の瞳に浮かんでいたのは、驚愕だけではない。
「マミさん……!」
思わず漏れたまどかの声には、再会への安堵が滲んでいた。
「……は?」
一人だけ現実を受け止めきれない杏子が、掠れた声を絞り出す。
「お、おい……話が違ぇぞ! マミは死んだんじゃなかったのかよ!?」
「私が、彼女は"死んだ"なんて一言でも言ったかしら」
拘束されたまま、ほむらは静かに答える。
その口調は、どこまでも落ち着いていた。
「テメェ……!」
杏子が歯噛みする。
三節棍がぎり、と軋み、ほむらの身体をさらに締め上げる。
「久しぶりね、佐倉さん」
張り詰めた空気を和らげるように、マミが穏やかな声で口を開いた。
その優しい微笑みは、以前と何一つ変わっていない。
「……それに、まどかさん、さやかさんも」
「騙すような形になってしまって、本当にごめんなさい」
「マミ、さん……元気に、なったんだ……」
さやかは安堵したように呟く。
だが、すぐにその表情に疑念の色が差した。
「いや、でも……なんで、ほむらに……?」
マミはその問いを受け止めるように、静かに目を伏せた。
「ほむらさんに治療してもらっている間に、すべてを聞いたわ」
「彼女の目的も、過去も……魔法少女にまつわる真実も」
さやかの目が鋭く細められ、拘束されたほむらを睨みつけた。
疑念、戸惑い。 いくつもの感情がその瞳の奥で渦巻いている。
マミはそれを察したように、言葉を続けた。
「その上で、私は自分の意思で彼女に協力することを選んだの」
「誓って、彼女に絆されたわけでも、洗脳されたわけでもないわ」
一拍置き、はっきりと告げる。
そうして協力に至った経緯を語ろうとした――その時だった。
「待てよ」
苛立ちを隠そうともせず、杏子が割って入る。
「お前が生きてることと、こいつの正体に何の関係がある」
「それじゃ、お前までこいつの側について、アタシらを裏切ってたのと変わらねぇじゃ――」
「そうね。 まずは、そこから話しましょう」
マミが静かに杏子の言葉を遮った。
そして、一度深く息を吸い込み、ゆっくりと口を開く。
「彼女の正体は、あなたたちの考えている通り――魔女よ」
「……っ!」
まどかとさやかが、同時に息を吐く。
杏子の眼差しが、さらに険しくなった。
「理性こそ残っているけれど、その本質は変わらない」
マミは淡々と、事実だけを告げる。
「なら、なぜ彼女は魔女になってしまったのか」
そして三人を順に見渡し、静かに続ける。
「その理由が、
「……正体、って……」
さやかの声が、かすかに震える。
「ソウルジェムが魂だってこと……だけじゃないの……?」
マミは一度目を伏せ、言葉を選ぶように息を整える。
「ええ。それだけではないわ」
「私たちの身体が、ソウルジェムを動かすための器にすぎないこと。 そして、どれだけ傷ついても、ソウルジェムさえ無事なら戦い続けられること」
「そこまでは、もう知っているわね」
「けれど、ソウルジェムは魔法を使えば、心が傷つけば、濁る」
「そして、その濁りを浄化しきれなくなった時――」
マミの唇が、わずかに震えた。
「ソウルジェムは、グリーフシードへと変わる」
「……え?」
さやかの口から、掠れた声が漏れる。
「魔女は、私たち魔法少女が、絶望に呑まれたなれの果ての姿なの」
「ソウルジェムが濁りきった時――私たちは、魔女になるのよ」
その言葉が落ちた瞬間。空気そのものが凍りついた。
誰一人、息をすることすら忘れたように。
「……そんな」
まどかの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「じゃあ……今まで戦ってきた魔女も……みんな……」
そこから先を、口にすることができない。
さやかは一歩、後ずさった。
「嘘……だよね?」
握り締めた剣の柄が、かすかに震えている。
「だって、そんなの……おかしいじゃん」
「人を守るために戦って、それで最後は……人を襲う化け物になるなんて」
声が次第に上ずっていく。
「……嘘じゃないわ」
「私も最初は信じられなかった……信じたく、なかったけれど」
マミの声には、かつて同じ真実を突きつけられた者だけが持つ痛みが滲んでいた。
「……ふざけんな」
低い声が、地を這うように響く。
杏子だった。 俯いたまま、槍を握る手に力を込めている。
「テメェ……こいつに何を吹き込まれた?」
ゆっくりと顔を上げた杏子の目には、怒りが宿っていた。
拘束されたほむらを睨みつけ、吐き捨てる。
「洗脳でもされたのか? それとも、弱ってるところにつけ込まれたか?」
「どっちでもいい。 早く正気に戻れよ!」
怒鳴り声が、夜の静寂を切り裂いた。
それは非難というより、聞かされた真実への拒絶だった。
「私は、正気よ」
マミは静かに答える。
声こそ穏やかだが、その声色に迷いは見られない。
「けれど……あなたが信じられないのも、無理はないわ」
「言葉だけで受け入れろという方が、無理な話よね」
杏子は、敵意と恐怖が入り混じった目でマミを睨み続けている。
マミはそんな彼女を見つめた後、ふと視線を遠くへ向けた。
そして、静かに告げる。
「なら――証人を、もう一人呼びましょう」
「――キュゥべえ」
その名が呼ばれた瞬間。
ひょこり、と。
まるで最初からそこにいたかのように、白い生き物が五人の前へ姿を現した。
『やあ、みんな。 久しぶりだね』
QBは、いつもと変わらぬ調子で告げる。
その無機質な声に、反応するものはない。
そしてマミはただ、無感情な目でQBを見下ろしている。
「キュゥべえ。 今から私が言うことが事実かどうか、答えなさい」
『……やれやれ、仕方がないね』
QBは小さくため息をつくように首を振った。
「魔法少女は、ソウルジェムが濁りきると魔女になる。 これは事実?」
『その通りだよ』
即答だった。
さも、知っていて当然のことを確認されたかのように。
「……っ」
さやかの喉が小さく鳴る。 握り締めた剣が、かすかに震えた。
マミは表情を変えないまま、問いを重ねる。
「あなたたちの目的は、魔法少女が魔女へ変わる瞬間に発生するエネルギーを回収すること。 これも事実?」
『正確には、感情エネルギーの相転移によって生じる、エントロピーを凌駕するエネルギーを回収しているんだ』
『でも、大筋では間違っていないよ』
躊躇も、罪悪感も、この生物には存在しない。
ただ、事実を説明するように淀みなく答えた。
「つまり――私たちがいずれ魔女になることを想定した上で、契約させていたということね」
マミの声が、わずかに低くなる。
『そうとも言えるね』
『君たちにとっては不本意なのかもしれない。けれど、宇宙の延命には必要なことなんだ』
QBは悪びれる様子もなく、尻尾を揺らす。
「テメェェェッ!!!!」
次の瞬間、杏子の怒号が響いた。
振り上げられた槍が、QB目がけて振り下ろされる。
「待ちなさい」
しかし、鋭い声と同時に、金色のリボンが宙を走った。
杏子の槍へ絡みつき、その軌道を寸前で止める。
「マミ!? 何しやがる!!」
「聞きたいことはこれで全部よ。 もう下がりなさい」
マミは杏子を一瞥すらしなかった。
その視線は、目の前の白い生き物だけを冷たく射抜いている。
声には怒りすらなく、拒絶の意思だけがはっきりと見て取れた。
QBはしばしマミを見上げていたが、やがてその赤い瞳をまどかへ向ける。
『そうそう、鹿目まどか。 君が契約する気になったのなら、いつでも呼んでくれて構わない』
『君ほどの素質があれば、宇宙の熱量死を補って余りあるほどの――』
カチリ、と。
乾いた音が言葉を断ち切った。
マミのマスケット銃が、QBの額へ向けられていた。
「聞こえなかったかしら?」
その瞳は、氷のように冷え切っている。
敵意も、嫌悪も、もはや隠そうとはしていなかった。
ほむらから聞かされた話を、疑っていたわけではない。
それでも今、当人の口から何の躊躇もなく肯定されたことで、残されていた最後の余地まで完全に潰えたのだ。
「下がりなさい。 今、すぐに」
銃口がわずかに持ち上がる。
『……やれやれ』
QBはそれ以上何も言わなかった。
白い身体は踵を返し、そのまま夜の闇へ溶け込むように消えていった。
マミはしばらく、QBが消えていった闇を見つめていたが。
やがて、ゆっくりとマスケット銃を下ろす。
「……マミ、お前……」
杏子が、震えの混じった声で呟いた。
さやかも、まどかも、言葉を失ったまま立ち尽くしている。
彼女たちが知る穏やかで優しい彼女とは、まるで別人のようだった。
その背中から滲み出ていたのは、凍てつくような拒絶と、揺るぎない決意。
三人の視線に気づいたマミは、静かに振り返った。
「……ごめんなさい。 怖がらせてしまったわね」
張り詰めていた表情を、わずかに緩める。
いつもの柔らかな面差しが、ほんの少しだけ戻る。
しかしその瞳の奥には、消しきれない冷たい光が残っていた。
「けれど、私から話せるのはここまでよ」
「ここから先は、ほむらさん本人から説明してもらうわ」
マミはそう告げると、拘束されたほむらへ視線を向けた。
杏子の三節棍は、いまだ彼女の身体へ巻き付いたままだ。
しかしほむらは、抵抗する素振りを見せず。
まどか、さやか、杏子――三人の顔を順に見つめる。
そして、一度だけ目を閉じ、静かに口を開く。
「……話しましょう」
「私が何者なのか。そして――何のために、あなたたちへ近づいたのかを」