魔法少女まどか☆マギカ -Kaleidoscope- 実績「時をかける魔女」獲得実況プレイ 作:Hotpepper_N
その、瞬間だった。
「……っ、あ」
ほむらの動きが、止まった。
とどめの光線を放つため、眼前に展開していた分体。
その輪郭が激しく明滅し、乾いた音を立てて砕け散った。
「……ぐ、っ……」
喉の奥から、押し殺した呻きが漏れる。
視界が、歪んだ。
天地が反転し、ワルプルギスの姿が幾重にもぶれる。
胸の奥から、何かがせり上がってくる。
これまで喰らい、押さえ込み、己の一部として従えてきたものたちが――内側から、ほむらを喰い返そうとしていた。
「あ……ぐ、あぁ……っ!?」
翼が大きく痙攣する。
羽ばたこうとしても、動かない。
意思とは無関係に黒い翼が折れ曲がり、鉤爪が空を掻く。
高度を失った巨体が、ぐらりと傾いだ。
「な……っ、ほむらさん……!?」
異変に気づいたマミが振り返る。
『来なiで……!』
ほむらは叫んだつもりだった。
三人の頭へ届いた声は、ひどく掠れ、途中からいくつもの声が混ざった異様な響きへ変わっていた。
『離re……て……ワたシ、kaら……!』
だが、それより早く――ほむらは墜ちた。
激しく痙攣しながら瓦礫の山へ叩きつけられ、轟音とともに地面が陥没した。
「……っ、う、あああ……!!」
ビキッ……ミシッ……!
黒い炎の表皮へ、細い罅が走った。
一本だった亀裂は枝分かれし、翼へ、胸へ、腹部へと瞬く間に広がっていく。
罅の奥にあったのは、底の見えない闇。
その暗がりの中で、無数の眼が開いた。
「いや……やめて……っ」
黒い翼が、自らの胸元へ食い込む。
割れ広がる亀裂を押さえ込もうと、必死に体を掻き抱く。
「まだ……今は、駄目……!」
あと少しだった。あと一撃で、すべてが終わるはずだった。
しかし内側から響く声は、ほむらの願いを嘲笑うように、次第に大きくなっていく。
「い、や……やめ……っ、抑えられ……!」
亀裂から、黒い靄が噴き出す。
それは地面を這い、瓦礫に触れた瞬間、表面を腐食させるように黒く染め上げた。
瘴気の中に、いくつもの輪郭が浮かび上がる。
嘴。仮面。ボロボロのドレス。目玉。電球。鎖――
ほむらの中へ取り込まれ、形を失ったはずの魔女たちの残滓。
それらが互いに押し合い、絡み合いながら、狭い亀裂の向こうから這い出そうとしていた。
びきり、と。ひときわ大きな音が響いた。
ほむらの腹部を走っていた亀裂が、内側から押し広げられる。
「――あ」
一瞬だけ。ほむらの瞳に、はっきりとした恐怖が浮かんだ。
そして。
裂けた。
黒い外殻が、内側から爆ぜるように砕け散る。
その傷口から、堰を切ったように瘴気と影が噴き上がった。
「い、や……イ゛ヤ゛ぁあアァァァあ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――ッ!!!!!!!!」
彼女が長い時間をかけて喰らい、服従させ、慎重に封じ込めてきたものたちが。
産み落とされるように、吐き出されるように。
ほむらの裂けた体から、次々と溢れ出していった。
同時に――
ギギッ……!
ワルプルギスの夜を縛っていた黒い鎖が、大きく軋んだ。
一本。また一本。
支えを失ったように力を失い、虚空へ溶けていく。
その足元。
巨体を覆っていた巨大な術式も、外縁から崩れ始めた。
旋回していた赤と黒の円環が乱れ。
幾重にも重なった紋様が消え。
ワルプルギスへ絡みついていた無数の呪印が、赤い火花となって霧散していく。
ほむらが維持していた魔法のすべてが。
彼女自身の崩壊とともに、失われていった。
そして。
炎と瓦礫と、魔女たちの瘴気が。
すべてをまとめて呑み込んだ。
轟音。爆炎。衝撃。
ほんの数秒前まで完璧に噛み合っていた四人の陣形は、跡形もなく崩れ去った。
「マミさん!」
さやかが叫ぶ。
視界を埋め尽くす黒い靄と、形の定まらない魔女の残滓。
それらが三人の間へ入り込み、互いの姿さえ覆い隠していた。
「さやか、後ろ!」
杏子が割り込み、迫る異形を槍で薙ぎ払う。
斬り裂かれた影は霧散せず、黒い泥となって槍へ絡みついた。
「気色悪ぃんだよ!」
杏子が槍を切り離した、その隙を別の影が襲う。
さやかが剣で受け止めるが、衝撃で刀身ごと吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
地面へ叩きつけられ、脇腹が大きく裂ける。
青い光が傷を塞ごうとする。
だが、再生が追いつくより早く、次の攻撃が肩と脚を抉った。
「治すの止めろ! もうグリーフシードはほとんど使っちまったぞ!」
「止めたら動けないでしょ……!!」
杏子が腕を掴み、さやかを無理やり引き起こす。
その時。銃声が、黒い靄を貫いた。
「二人とも!」
マミの指輪から金色の光が伸びる。
だが、二人を引き寄せるはずの光は、渦巻く瘴気に呑まれて大きく歪んだ。
「そんな……!」
次の瞬間。
「ア゛ッハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
頭上から、哄笑が降り注いだ。
最後まで残っていた呪印が、赤い火花となって弾け飛ぶ。
鎖も。封印も。もはや存在しない。
ワルプルギスの夜は、その身を縛るものすべてから解き放たれていた。
――カチリ。
小さな音が、響いた。
「……え?」
マミが顔を上げる。
ギ……ギギギギギギ……!
巨体を構成する歯車が、一斉に軋み始めた。
噛み合った無数の歯が、互いを押し、引き、重々しく回転していく。
それまで逆さまに浮かんでいた巨体が――ゆっくりと傾いた。
ギギギ……ギギギッ……!
歯車が、巨体が回転していく。
天地を逆さにしていたその姿が、少しずつ起き上がっていく。
「まさか……」
マミの顔から、血の気が引いた。
やがて。
ワルプルギスの夜は――正位置へと立った。
一瞬、戦場へ奇妙な静寂が落ちる。
そして。
ワルプルギスの全身から、膨大な魔力が解放された。
ガ オ ン ッ!!!!!!
空間そのものが、破裂した。
炎でもない。魔法弾でもない。
解き放たれた魔力そのものが衝撃波となり、ワルプルギスを中心に全方位へ爆発的に広がっていく。
最初に呑み込まれたのは、周囲に残っていた使い魔たちだった。
人形も。影も。宙を舞っていた異形の群れも。
抵抗する暇すらなく、まとめて宙へ巻き上げられ、彼方へと弾き飛ばされる。
ほむらから溢れ出した魔女たちも例外ではない。
仮面が、機械仕掛けの異形が、花嫁が、炎の人型が。
黒い瘴気を引きながら瓦礫の向こうへ吹き飛んでいく。
そして――
地面が、剥がれた。
アスファルト。折れた鉄骨。崩れ落ちた外壁。
車両。標識。無数の瓦礫。
戦場に散乱していたありとあらゆるものが衝撃波にさらわれ、凶器となって四方八方へ飛散する。
「――伏せて!!」
マミが反射的に両手を突き出した。
金色のリボンが幾重にも編み上がり、三人の前へ壁を作る。
杏子も、さやかの身体を強引に引き寄せ、その前へ身を滑り込ませた。
直後。
衝撃波が、三人を呑み込んだ。
バヂンッ!!
金色の壁が、一瞬で弾け飛ぶ。
「――っ!?」
防ぎきれない。
魔力の奔流だけではなかった。その中を、巻き上げられた無数の瓦礫が飛び交っている。
鉄骨が。コンクリートが。ガラス片が。
暴力的な速度で、三人へ叩きつけられた。
「ぐっ――!!」
マミの身体が宙を舞う。
杏子は咄嗟にさやかを抱え込む。
だが、二人まとめて凄まじい勢いで吹き飛ばされ、何度も地面を跳ねた。
最後に。
ズガァァァァンッ!!
瓦礫の山へ叩きつけられる。
遅れて、大量の粉塵が舞い上がった。
「……杏、子……」
「動くな……!!」
杏子はさやかを庇ったまま、身を起こそうとする。
だが、片腕が潰れていた。
槍を握ろうとしても、指に力が入らない。
少し離れた場所では、マミも崩れた壁にもたれかかるように倒れていた。
「う……っ……」
震える手を持ち上げる。
銃を作ろうと金色の魔力を集めるが――形になる前に光が散った。
意識が定まらない。
魔力を練ろうとしても、思考が形になる前に霧散していく。
さやかも、残った剣を杖代わりに立ち上がろうとする。
「……っ」
膝が崩れた。
たった一度、魔力を解放しただけで。
ほんの数秒前まで戦線を維持していた三人は、誰一人として立ち上がれなくなっていた。
少し離れた瓦礫の中では、ほむらも横たわったまま動けない。
砕けた身体が痙攣しながら、魔女のかたちを維持できなくなっていく。
戦場そのものも、様変わりしてしまった。
使い魔は四方へ吹き散らされ。
ほむらから溢れ出した魔女たちも、黒い瘴気を引きながら瓦礫の彼方へ転がっている。
その中心。
正位置となったワルプルギスの夜だけが、悠然と浮かんでいた。
ゆっくりと、その頭部が、満身創痍の三人へ向けられる。
巨大な影が、抵抗する力を失った彼女たちを覆い尽くした。
…………え?
……えっ???
――ちょ、ちょ、ちょっと待って。
>PAUSE
いや、待って。 待ってください。 なんですかこれ。
……暴走。 これ、暴走してます。 完全に。
ええと、落ち着け。 状況を整理しましょう。
>警告:MPが暴走ラインを下回りました。
>ステータス異常:《暴走》
……そう、これなんですよ。
今のほむほむって、取り込んだ魔女たちを、魔力――つまりMPで無理やり押さえ込んでいる状態なんですね。
で、そのMPが一定値を下回るとこうして抑えが利かなくなって、中の魔女が一斉に暴れ出します。
暴走そのものは分かる。分かるんですけど。
……おかしい。 絶対おかしい。
計算上は、ギリギリ暴走ラインの上に収まるはずだったんですよ。
マージンは削れたとはいえ、それを加味しても。
なのに、なんで――なんで、足りてないんだ???
(攻略Wikiを開く音)
ちょっと待ってくださいね、消費MPのデータもう一回確認します……
……あれ。
……えっ。
>パッチノート ver.2.14.0
>・一部スキルの消費MPを調整しました。
>・魔女スキル(光属性)の消費MPが10%増加。
……。
…………。
――あ゛ーーーーーーーッ!!!!
やられた。 やられました。 アプデだ。
最近のアップデートで、レイヨンの消費MPが増えてる!!
あろうことか私、これを完全に見落としてました。
アプデ前の消費MPを参照して、そのままチャートを組んでたんです。
……やっちまった。 痛恨のガバです。 これはもう、言い訳できない。
これで、ワルプルを倒し切るチャートは完全に、破綻しました。
……終わった。 いや、まだだ。 まだ手はある。
時間さえ稼げば……時間経過でまどかが契約するから……まだ詰みじゃないはず。
……とりあえず、再開します。
>ワルプルギスの夜:正位置モード
>
>ワルプルギスの夜:魔法発動
>《Magieabsorptions-Tentakel》
>ワルプルギスの夜の巨体が、びくりと震える。
>幾重にも重なった歯車の隙間から、暗紫色の魔力が噴き出した。
>魔力は宙を這い、細長く伸びながら、無数の触手へと形を変えていく。
……え、待って、なにこれ?
>マミ、杏子、さやかは抵抗する間もなく触手に巻き取られ、そのまま地面から引き剥がされた。
え、待って、待って。
見たことないぞ、こんな技!?
>三人を拘束した触手が、脈打つように明滅する。
>巴マミ
>《MP残量:21%》
>《MP残量:18%》
>《MP残量:14%》
>佐倉杏子
>《MP残量:26%》
>《MP残量:20%》
>《MP残量:15%》
>美樹さやか
>《MP残量:19%》
>《MP残量:13%》
>《MP残量:8%》
うわMP吸ってる!これ、魔力吸収か!
え、こんな技持ってたっけこいつ!? Wiki書いてあった!? 検証勢情報求ム!!
>さらに別の触手が、ほむらから溢れ出した魔女たちへ伸びる。
>烏の翼を絡め取り、機械仕掛けの異形を貫き。
>仮面の影も、炎の輪郭も、黒い瘴気ごと次々と捕縛していく。
>捕らえられた魔女たちの輪郭が崩れ、魔力の奔流となって触手の中を逆流していく。
おいおいおいおい、三人だけじゃないのかよ。
飛び出した魔女までまとめて吸収してやがる……!
████████████████████████
Oh……HP、回復してる。
>ワルプルギスの夜
>《ATK上昇》
>《DEF上昇》
>《MAG上昇》
>《SPD上昇》
ちょっと待ってくれよステータスまで上がってるじゃんか。
これ、まさか――
魔力を吸い尽くした相手を、そのまま取り込む技……?
>警告:巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか――MP枯渇。
>ソウルジェム濁度、限界値に到達。
「「「ビ キ ッ」」」
>《WITCHFICATION》
>巴マミの姿が、黄金の光に包まれる。
>その輪郭が膨れ上がり、人の形を失っていく。
……え。
>佐倉杏子の全身から、赤黒い炎が噴き上がる。
>砕けた槍が無数の影へ分かれ、その体を覆い尽くした。
ちょ……
>美樹さやかの体が、青い魔力の奔流へ呑み込まれる。
>周囲に巨大な車輪と、錆びついた剣が浮かび上がった。
……は????
>三人は次々と魔女へ姿を変えていく。だが、結界を展開する間すら与えられない。
>触手が新たに生まれた魔女たちへ食い込み、その輪郭を内側から崩していく。
>三体の魔女は魔力の奔流へと変わり、ワルプルギスの中へ取り込まれていった。
████████████████████████████████████████████████
>Phönix
>HP:1
>MP:0
>ステータス異常:行動不能
……あー。
……もう、だめだぁ……。
こんなん、リセットするしか……ないじゃん……。
……ん?
――あれ……画面、暗くなった?
……ああ、そうか。 そうだよ。 そうだった。
そうですよ。 忘れてました。
>Now Loading...
よっしゃあああああああッ!!!
待ってたぞ、まどかァ――――ッ!!!!
次回、最終話です。