魔法少女まどか☆マギカ -Kaleidoscope- 実績「時をかける魔女」獲得実況プレイ 作:Hotpepper_N
第一幕(監視潰し~遮断まで)の内容になります。
「まどか、あかり。準備はいいわね?」
『うん。いつでもいけるよ』
『こっちも準備完了。本体の座標は特定できた』
通信端末を通して二人の声が返ってくる。
ほむらは手にした懐中時計へ視線を落とした。秒針が、規則正しく文字盤の上を進んでいく。
予定時刻まで――三秒。
二秒。
一秒。
「――作戦を開始するわ」
パチン、と乾いた音を立てて、ほむらは懐中時計の蓋を閉じた。
同時刻――あかりのラボ。
ほむらからの合図を受け、二人はすぐさま動き出した。
あかりの周囲には複数のホログラムが展開され、その一つには、先ほどまで追跡していたQB本体への通信経路が、複雑に絡み合う光の網として映し出されている。
「座標は捕捉済み。ここから通信経路を逆算して、中枢側へ潜るよ。女神サマはあたしのナビゲートに合わせて進んで。末端個体同士の同期回線に入ると余計なところまで巻き込む可能性があるから、そこだけ気をつけて」
「うん、分かった。あかりちゃんの指示通りに進めばいいんだね」
まどかが静かに目を閉じる。次の瞬間、その意識の一部が肉体を離れ、情報の奔流へと沈み込んだ。
眼前に広がるのは、電脳とも霊子ともつかない仮想的な空間。
果ての見えない暗闇の中を、無数の光線と粒子が縦横無尽に駆け抜けている。QBという種族が保有する膨大な情報網を、まどかにも認識可能な形へ置き換えた光景なのだろう。
程なくして、まどかはその膨大な情報の中から、本体側へ繋がる一本の経路を見出した。
『そのまま直進。三つ先の分岐を下へ進んで。……そう、そこ。今見えてる太い経路が本体側へ繋がってる。そこからもう一段深い層へ入れるはず』
「あ、こっちだね。さっきまで通ってきたところより、ずっと情報量が多い」
『そこが本体側の通信制御領域。正確には、現地個体と中枢とのやり取りをまとめて処理してる場所ね。入口の認証はこっちで偽装済みだから、そのまま入って大丈夫。こっちから見てる限り、まだ警戒系統にも引っかかってない』
まどかは光の境界へ触れ、その奥へと滑り込む。
彼女自身が持つ因果への干渉力と、あかりが事前に用意していた認証情報。その二つが噛み合い、まどかという異物を正規の通信処理の一部として通過させたことで、警告一つ鳴らすことなく内部へ踏み込むことができた。
「入れたよ。……でも、ここって通信だけじゃないね。いくつか別のノードも繋がってるみたい」
『やっぱりね。ちょっと待って、こっちでも解析する』
あかりが別のホログラムを引き寄せ、流れてくる情報を高速で追っていく。
『現地フィールドの補正系統も、同じ同期情報を参照してる。通信制御と完全に一体化してるわけじゃないけど、基準になる更新信号は共有してるみたい。なら予定通り、ここを止めれば現地の認識阻害にも遅延が出るはず。でも、全部落とす必要はないよ』
「いちおう確認だけど、システムそのものを壊すわけじゃないんだよね?」
『うん。再送要求の行き先を少しずらして、閉じた処理系の中で循環させる感じ。回線は生きてるし、通信処理も動いてる。でも、何度試しても接続だけが成立しない――そういう状態にする』
つまり、システムそのものを破壊するのではなく、拠点間の通信だけを機能不全に陥らせる。
「なるほど。外から見れば、回線は正常なのにPingが返ってこない……みたいな状態にするんだね」
『ざっくり言えばそんな感じ。正確には、接続処理そのものが永遠に終わらなくなる状態かな。それに伴って同期情報の更新も止まるから、認識阻害の補正も少しずつズレていくはず』
「急に全部止めるんじゃなくて、わざと不安定な状態にするんだ」
『そう。いきなり全部落としたら、さすがに露骨すぎるでしょ。向こうに“何かがおかしい”って判断してもらうくらいがちょうどいい』
あかりはそう言って、別のホログラムへ指を滑らせた。新たに表示されたのは、本体側に蓄積される監査ログの一覧。
『それと、本体側のログは全部消さない。通信異常そのものは残すけど、こっちの侵入経路や認証偽装まで辿れる記録だけ遮断する。現地側の観測記録には手をつけないよ。下手に綺麗に消すと、逆に誰かが掃除した証拠になるから』
「全部隠すんじゃなくて、異常が起こったことだけを見せるんだね」
『そういうこと。こっち側の干渉は匂わせる。でも確証までは残さない。あとは向こうが、自分で都合のいい理由を考えてくれる』
まどかは小さく頷き、再び情報空間へ意識を向けた。目の前を走る無数の経路。その中から現地との通信を担うものだけを選び出し、慎重に処理を書き換えていく。
「じゃあ、始めるね」
『お願い。こっちはずっと監視してるね。少しでも想定外の反応が出たらすぐに止めるから』
まどかが手を伸ばすと、一本の光が緩やかに湾曲した。続いて二本目、三本目。本来なら外へ向かうはずだった通信経路が互いに接続され、やがて閉じた輪を形作っていく。
送信要求そのものは正常に発生している。その先へ進もうとする情報だけが終わりのない認証と再送処理の中へ吸い込まれ、同じ場所を巡り続けていた。
数秒後、あかりの画面に並んでいた通信状態の表示が一斉に停滞した。異常切断を示す警告は出ていない。システム上、回線そのものは依然として正常と判定されている。
「……よし。通信は止まった。次はフィールド側」
あかりは続けて補正値へ視線を移す。基準値の上を安定していたグラフが、わずかに揺らぎ始めていた。通信系から供給されていた同期情報を失い、現地の認識阻害系統にも少しずつズレが生じ始めている。
それを確認すると、あかりは作戦参加者全員の通信端末へ回線を開いた。
『第一段階、完了。現地との通信は実質遮断。認識阻害系統も予定通り不安定化を始めてる。今のところ、警戒系統にも目立った反応はなし』
あかりからの報告を受けた瞬間、ほむらは間を置かず通信回線を切り替えた。
「聞こえたわね、あすか、あすみ。予定通り外周へ、配置についたら報告を」
『了解』『はいはい、言われなくてもわかってますよっと』
同時刻――円環。
無数の世界を映し出す光景の一角で、待機していた二人の足元に転送陣が浮かび上がる。
淡い光が幾重にも重なり、現世側の座標が固定されると同時に、二人の姿が光に包まれた。
次の瞬間、空間に開いたワームホールを抜け、あすかとあすみは現世の高台へ降り立つ。
眼下に広がるのは、QBが実験施設を隠しているフィールドの外周部。
予定通りの地点へ転送されたことを確認すると、あすかは耳元の通信端末へ手を添えた。
「こちら監視班、予定地点に到着」
『了解。そのまま監視網を展開して』
「――みんな、おいで」
あすかが両手を地面へ触れさせた瞬間、背後の影が大きく膨れ上がった。
直後、響いたのは羽音。
一羽や二羽ではない。黒い濁流が地面から空へ噴き上がるように、数百羽もの烏が一斉に飛び立つ。
大小さまざまな使い魔たちは頭上を旋回すると、そのまま四方八方へ散開していった。
その中から、ひときわ巨大な一羽が翼を広げて降下する。あすかは慣れた様子でその背へ飛び乗り、そのまま飛び立とうとして――
「はぁ? あたしは歩いて行けっての?」
「あ……ごめん、気が回らなかった。もう一羽呼ぶね」
背後から飛んできた声に、あすかが振り返った。
嫌味にもまるで気を悪くした様子はなく、あすかは素直にもう一羽を呼び寄せる。
「ほんっと、そういうとこがさあ……」
あすみは小さく吐き捨てながらも、降り立った烏の背へぶっきらぼうに跨った。
二羽の巨鳥が同時に羽ばたき、高度を上げていく。
「まず外周一帯を埋めるね。人、車、それから魔力反応。何か引っかかったら、すぐ位置情報を送る」
「はいはい。そしたらあたしがそこまで飛んでって、適当に追い返せばいいわけね」
「お願い。ただ、なるべく騒ぎにはしないでね」
「イヤミですかあ??」「何が?」「……聞いたあたしがバカだった」「???」
短いやり取りの間にも、烏たちは広範囲へ散開していた。
木々の枝。電柱。ビルの屋上。高架の鉄骨。
何気なく街を飛び交う鳥の群れに紛れながら、数百もの視線が実験施設を中心とした一帯を包囲していく。
そして、その一羽一羽には、ごく淡い金色の印が宿っていた。
先ほどマミがあすかへ刻んだマーカーが、彼女から生み出された使い魔たちにも伝播しているのだ。
――そして、ほぼ同時刻、実験施設内部。
被験体を監視していた白い獣たちが、わずかに首を傾けた。
通信要求そのものは正常に送信され、回線や中継系統にも明確な異常は検出されていない。それにもかかわらず、本体側との通信だけが成立していなかった。
異常を検知したシステムは、即座に予備経路への切り替えを開始する。
数秒後。再接続処理、失敗。
別経路へ移行。認証情報を更新し、再接続――これも失敗。
その間にも、新たな異常が検出された。施設周辺を覆う認識阻害フィールド。その補正値に、ごく小さな揺らぎが生じている。
『……不可解だね』
QBが、感情の見えない声で呟いた。
通信系統そのものに物理的な異常はなく、認証情報にも瑕疵は見当たらない。
それにもかかわらず通信は成立せず、さらにフィールドの認識阻害系統まで、同期情報の欠落による補正遅延を起こし始めている。
偶発的な障害としては、条件が重なりすぎていた。
そして彼らには、一つ心当たりがあった。
魔法少女たちの間で囁かれ、その消失に関与していると推測される正体不明の存在。
『……“円環”とやらの仕業か?』
その名を口にした直後、再び別経路からの接続試行が失敗した。
『監視密度を上げるかい? 予備の観測ノードをこちらへ回すことはできる』
『推奨しない。ただでさえ認識阻害系統が不安定化している。今の状態で観測系統を強化しても、得られる情報の信頼性は低い。それに余計な処理を挟めば、実験そのものへ影響を与える可能性もある』
『ならば現状維持か』
『これが例の存在による干渉なら、いずれ被験体そのものへ接触してくるはずだ。その時に異常が生じれば、アンカー側の監視系統が反応する』
QBたちは無言のまま、五つのソウルジェムへ視線を戻した。
いずれも濁りは深く、予測臨界まではそう遠くない。
ならば――少なくとも、実験そのものはまだ継続できる。
そう判断した彼らは、本体側の復旧を待ちながら、被験体の監視を続行した。
というわけで、ついにやってきました本チャンです。
クラッキングは無事成功、通信遮断もフィールドへの嫌がらせもつつがなく進行中。
裏では淫獣本体が必死こいて復旧作業してるでしょうが、そっちは女神サマ&あかり先生に任せておきましょう。たぶん今頃、直したそばから別のところを塞がれる地獄のいたちごっこをやってます。
にしても、さっきのクラッキング演出がもろ攻殻っぽくて笑っちゃうんすよね。
このあと電子戦(?)までやるし。スタッフが怒られてないことを祈るばかりです。
さて、こちらでは粛々とドンパチの下準備が進んでおります。
あすあすコンビの監視網はどんな感じかな。
>視点切り替え:あすか
>外周監視網:展開率 85%
お、いいですね。烏が現在進行形でフィールド外周へ広がってます。
主要なポイントはもうだいたい押さえてるかな。残りは隙間を埋めていくだけ、といったところ。
>視点切り替え:あすみ
>「…………」
>あすみは烏に背中を預け、両手を頭の後ろで組んだまま目を閉じている……
あすみん寝てて草。
勤務態度がよろしくないことで。これ後でマミさんあたりに怒られるやつでは?
まあ、やることさえやってくれれば多少は目をつぶりましょう。お邪魔虫が引っかかった瞬間に叩き起こされるでしょうし。
>外周監視網:展開率 100%
>『こちら監視班、展開完了。フィールド外周はぜんぶ烏の視界に収まったよ』
と、展開が完了したようです。次へまいりましょう。
ここからが今回の作戦の第一幕。
――役者の皆さんに、入場していただきます。
「演出班、準備はいいわね?」
ほむらが通信越しに問いかけると、間を置かずいくつもの返答が重なった。
『いつでも』『問題ないわ』『お、オッケーよ……!』『ばっちこいなのです』『ようやくか、待ちくたびれたねぇ』
最後に、少し遅れて千景の声が入る。
『ふふっ、良い序幕だったわ。フックは上々――いよいよ
どこか楽しげな響きに、ほむらはわずかに眉を動かした。
「……わかってると思うけど、気を引き締めて」
『もちろん。
ほむらは小さくため息を吐き、視線を手元の座標表示へ移す。
外周監視網は展開済み、認識阻害にも予定通り揺らぎが生じている。あすかの烏からも、周辺に第三者の姿はないとの報告が上がっていた。
「転送後は予定通り行動を開始して。千景、緋鞠さんは第二地点へ。縁、愛理、奏、なぎさは第一地点へ。合流はしないこと。あくまで、“追う側”と“追われる側”として動いて」
『了解』
ほむらが転送座標を確定する。
円環側で待機していた六人の足元に、それぞれ淡い光が灯った。光は瞬く間に全身を包み込み、次の瞬間、その姿は跡形もなく掻き消える。
そして六人は、二つの異なる地点へと降り立った。
これより始まるのは、偶然を装った
誤った
第一幕、開演です。
まずは演技班に、いい感じでフィールドへ入ってもらいましょう。
>四人が一斉に地面を蹴る。
>しかし、その走りにはまるで統一感がない。先頭を走る者、遅れて追いすがる者、何度も背後を振り返る者。時折足をもつれさせるようによろめきながら、互いの間隔すら保たず、ただ目の前へ逃げ続けている。
>進行方向に何があるのかを確かめる余裕すらない素振り。そのまま四人は、そこに境界が存在することにも気づかぬように、フィールド内部へと踏み込んでいった。
>その表情はいずれも恐怖に染まっていた。明らかに“自分たちでは歯が立たない何か”に追い立てられている者の動きだった。
>よく見れば、それぞれの姿も無傷ではない。裾や袖はところどころ焦げ付き、布地には引き裂かれたような跡が走っている。露出した肌にも火傷や擦過傷を思わせる痕が浮かび、つい先ほどまで激しい戦闘を繰り広げていたかのような有様だ。
おお、助監督の指導がバッチリ効いてますね。
傍から見れば、強敵にボコボコにされて命からがら逃げてたら、たまたま妙な場所へ迷い込んでしまったようにしか見えません。ちゃんと各々でパニクり方まで変えてるあたりが芸コマです。
カモフラージュもいい感じです。さすがに全員無傷だと必死感が出ないですからね。
にしても凝った特殊メイクですこと。
火傷の模様から傷の位置、衣装の破れ方まで一人ひとり変えてあります。遠目でそれっぽく見えれば十分なはずなのに、無駄に細かい。
神は細部に宿る、とは千景ちゃんの言。
では、逃げる側の仕込みも済んだところで、今度は追う側の準備といきましょう。第二地点に注目。
ちなみに位置関係としては、第一地点がフィールド外周のすぐ近く、第二地点はそこからさらに少し離れた場所です。
要するに、第二地点から追跡開始→第一地点を通過→そのままフィールドへ雪崩れ込む、というルートですね。
>「よっ、っと。準備はいいな?」
>千景を背負ったホムラが、肩越しに確認するように声をかける。
>「ええ。いつでも始められるわ」
>千景はホムラの背にぴたりと身を寄せたまま、周囲へ視線を巡らせる。
>「じゃあ、予定通りいくよ。うっかり焼け死ぬんじゃないよ?」
>「誰に言っているのかしら。あなたこそ、派手にやりすぎないでちょうだい」
>「へいへい。分かってますよっと」
>ホムラがそう答えた直後、その足元から紅蓮の炎が噴き上がった。
>熱風に二人の輪郭が揺らぐ。燃え盛る焔がその周囲を渦巻き、巨大な人型を形作っていく。
というわけで変身シーン見てみましょう。まずホムラから魔女形態へ移行。
ここまでは普通かもですが、ここからがマグマなんです。
>その背にぴたりと身を寄せていた千景が、静かに目を細める。次の瞬間、千景の輪郭が揺らいだ。
>《WITCHFICAT░▒▓▓▓【MASKING STARTED】》
お、始まりました。こっから面白いですよ。
>千景の姿が霧のようにほどけ、そのままホムラを包む炎の中へと沈み込んでいく。
>二つの魔力反応が重なり合い、本来なら別々に存在するはずの二体の魔女の境界が曖昧になっていった。
>《MAGICAL SIGNATURE MERGING……》
>二人分の魔力波形が、観測上ひとつへと収束していく。
今回やってるのはいわゆるフュージョンみたいなもんです。
中身というか、実際に暴れる担当がホムラ。
その上から千景ちゃんが「こう見えてますよ」という偽の観測情報を被せます。
>ホムラの炎が腕となり、脚となり、胴となる。
>燃え盛る人型はさらに巨大化し、その表面では赤黒い炎と煤けた影が絶え間なく蠢いていた。
>そして――頭部に変化が起こる。何もなかった炎の顔、その正面に、白い何かが浮かび上がった。
>滑らかで無機質な白い面。それでいて人面とも鬼面ともつかない、どこか悍ましさを感じさせる意匠。
うわ怖っ。実際動いてるの見ると予想以上に迫力あるなこれ。
見た目はこれで完成、あとは観測情報の上書きですね。
>《OBSERVATION DATA REWRITING……》
>《TYPE:WIT░▒▓▓
>《TYPE:WRAITH》
>【MASKING COMPLETE】
はい、偽装完了。偽魔獣のかーんせーい。
>激しく燃え盛る巨大な人型。その顔には異様なほど白い仮面が張り付き、赤黒い炎の中でそこだけが不自然なほど鮮明に浮かび上がっている。
>しかし、それは魔女ではない。魔獣――少なくとも、観測上では。
それじゃあ、さっそくフィールドに凸してもらいましょう。
四人がフィールドに入り込んだ、ほぼ同時刻。
施設外周の監視系に、短いアラートが響いた。
『……誰かがフィールドに侵入したようだ。認識阻害が揺らいだ影響がもう出てしまったらしい』
QBはそう言って、手元に浮かぶホログラムパネルへ視線を移した。
表示された映像には、四人の少女が映し出されている。
衣服のあちこちが焼け焦げ、肌には火傷や擦過傷らしき痕。互いに声を掛け合う余裕すらないのか、何度も背後を振り返りながら、困惑と恐怖を浮かべて走り続けている。
『魔法少女が四人か。行動を見る限り、意図的に侵入したようには見えないね』
『認識阻害の不調で、偶然迷い込んだと考えるのが妥当だろう。それに――何かから逃げているようだ』
『局所的に認識阻害をかけ直して、外へ誘導するべきじゃないかい? このままこちらまで来れば、実験を妨害される可能性がある』
『通信と同期が復旧していない現状では、補正処理へ割けるリソースが不足している。それに、現在の進行方向から考えても、彼女たちがこちらへ到達する可能性は低い』
『なら、監視だけを継続するかい?』
『それで十分だ。実験が正常終了すれば、僕たちが機能不全になったとしても記録は後から回収できる。むしろ彼女たちが何らかの形で被験体へ干渉し、アンカーに異常が発生するなら――』
一体のQBが、五つのソウルジェムを示す表示へ視線を移した。
『その時こそ、高精度監視へ移行できる。“円環”が関与しているなら、痕跡を捕捉できる可能性もある』
『なるほど。なら今は、余計な干渉をしない方が合理的ということか』
侵入者は想定外ではあったが、現時点では実験を中断するほどの異常ではない。
そう判断したQBたちは、少女たちの動向を監視しながら、引き続き被験体へ意識を向けた。
その直後、観測区画に甲高い警告音が響き渡った。
ホログラム上に赤い警告表示がいくつも立ち上がる。QBの一体が監視画面を切り替えると、そこには大きく歪んだフィールド外縁部が映し出されていた。
『なんだい、この反応は』
ただでさえ不安定になっていた認識阻害フィールドの境界が、外側から押し込まれるように大きく撓んでいる。
次の瞬間、莫大な魔力を伴った何かが強引に境界へ干渉し、その一部が黒い亀裂のように裂けた。
裂け目の向こうから、巨大な腕が伸びる。
赤黒く燃え盛る、炎の腕。続いてもう片方が境界を掴み、そのまま力任せに押し広げていく。やがて、裂け目の奥から白い仮面をつけた頭部が覗いた。
そして一気に、その全身が躍り出る。
燃え盛る巨大な人型が、フィールドを突き破るように内部へと侵入した。
着地と同時に炎が吹き荒れ、周囲の景色が赤く照らし出される。
『……なんだ、これは?』
QBたちの視線が、一斉に監視映像へ集中した。
魔力波形、構造、活動パターン。複数の解析処理が同時に走り、ほどなくひとつの分類結果を返す。
『魔獣……には違いないようだね』
『だが、このようなタイプは記録にない。それに反応値も異常に高い。通常個体とは比較にならない』
一体のQBが、別画面へ視線を移す。そこでは先ほど侵入した四人の魔法少女が、なおも必死に走り続けていた。
そしてその背後では、今しがた現れた巨大な魔獣が、彼女たちを追うようにゆっくりと身体を起こしている。
『……なるほど。彼女たちはこれに追われていたのか』
『しかし、ここまで異常が重なっている。高精度監視へ切り替えるべきじゃないかい?』
『現時点では非効率だ。アンカーには異常がなく、被験体も予定通り臨界へ向かっている。観測リソースを全面的に振り替えれば、かえって実験条件そのものを乱しかねない』
『だが、もしこれらすべてが意図的な干渉だったなら?』
『その場合でも、被験体へ直接干渉が起きればアンカーが検知する。今からこちらで余計な処理を加える必要はない』
『……なら、リスクとして受容するしかないということか』
『そうなるね。それに、被験体はいずれも臨界直前だ。現時点であの魔獣が彼女たち以外へ関心を向けている様子もない。実験を中断するより、このまま推移を観測する方が期待値は高い』
『仮にこちらへ来て、被験体に影響が出たとしても?』
『その場合は失敗例として記録すればいい。条件を改めて、別の形で実験そのものを仕切り直せば済む』
だそうです。いやあ、予想通りの反応ありがとうございます。
そうなんですよね。
ただ実験をぶっ壊しただけじゃ、こいつら普通に二回目やるんですよ。今回はミスリードさせるのがキモなんで。
で、演技班の様子はどうかな?
>視点切り替え:演技班
>「……!? あ……ぁあ……っ……!」「ぇ?……っと、クソが……っ!!」
>「ちょ、ここまでなんて聞いてな――」
>「やだ……やだよぉ……死にたくないよぉ……!!」(どうせそんなことだろうと思ったのです……)
>愛理と縁は、偽魔獣の予想外の姿に本気で息を呑みながらも、なんとか恐怖を芝居へと繋げている。なぎさに至っては、内心では冷静なまま迫真の演技を続けていた。
>そして奏だけが、危うく素の反応を漏らしかける。
おい奏ちゃん、演技。
>その瞬間、偽魔獣を構成している千景から、奏へ直接テレパシーが飛んだ。
>『……奏、今は本番なのよ。NGは出せないと言ったでしょう?』
>『あ……ご、ごめんなさい……!!』
実は四人とも、千景ちゃんたちのリハーサルには立ち会ってません。
どんな姿になるのかも、事前には一切知らされてませんでした。
彼女曰く「演者には伏せておいた方が、素晴らしい表情が撮れるでしょう?」とのこと。
さすが元一流女優。ちなみにまどか曰く、絢子ママがファンだったそうです。
それはそうと役者がそろったので、予定通り盛大に暴れていただきましょう。
>『――死ぬ気で避けろよ? 当たったらどうなっても知らないよ!』
>今度はホムラから、四人へテレパシーが飛んだ。
>偽魔獣が大きく上体を反らす。白い仮面の奥で赤光が膨れ上がり、直後、巨大な炎弾が吐き出された。
>四人は悲鳴を上げながら左右へ散開する。
無茶言いますねえ、緋鞠のアネゴ。
さあ始まりました、迫真の追いかけっこ。傍から見たら完全に殺しに来てます。
ドゴォォォォン!!!
>着弾点で大爆発が巻き起こり、四人は散開した勢いのまま爆風に煽られ、さらに大きく散り散りとなる。
>偽魔獣は間髪入れず巨大な腕を振りかぶると、今度は先ほどより小型の炎弾を、彼女たちめがけて放射状にばら撒いた。
>周囲の構造物や各所に仕込まれた監視設備が、着弾するそばから炎に呑まれ、次々と破壊されていく。
うわあ派手にやりますなあ。味方なんだぜ、これで。
>偽魔獣は炎弾を繰り出しながら、最も近くにいた愛理めがけて巨体を動かす。
>「いやああ!! 来ないでぇぇ!!!」
>《壱懐のテンソル》《モード:制御》
>《⇖Diffuse-Reflection⇗》
>愛理が金切り声を上げ、咄嗟に腕を振るう。迫っていた炎弾はその軌道を大きく捻じ曲げ――奏のいる方向へ飛んでいった。
おお、フレンドリーファイアまで。制御も完璧、さすが愛理ちゃん。
>「きゃああ゛!? ふざけないでよッ、あたしを殺す気ッッ!?!?」
>直前の目配せで意図を察していた奏は、炎弾を紙一重で躱す。そのまま勢いよく振り返り、愛理へ向かって怒鳴りつけた。
ヒスってる演技上手いな奏ちゃん。
>奏が炎弾を躱した直後、背後の構造物が爆炎に呑まれた。壁面に埋め込まれていた監視装置のいくつかが火花を散らし、そのまま沈黙する。
ついでにお目々も何個か潰れましたね。
とはいえ、この段階では全部壊す必要はありません。偽魔獣と四人の姿は最低限記録してもらわないと。
>偽魔獣は奏を追うでもなく、今度は横手へ逃げていた縁へ身体を向けた。
>「ヒッ、こっち来んなよ……!」
>縁が頭上へ鎖を撃ち出す。先端が高所の鉄骨へ絡みつき、そのまま身体を大きく宙へと持ち上げた。
お、縁ちゃんかっこいい。スパイディみたい。
>鎖を支点に振り子のように加速し、距離を取ろうとする。だが、巨体はそれを黙って見送らなかった。
>燃え盛る腕が足元の瓦礫を掴み上げ、そのまま縁めがけて投げつける。
>「はぁ!? おいふざけんなッ!!」
>縁は咄嗟に鎖を手放し、別の支点へ打ち直す。身体が急角度で横へ振られ、巨大な瓦礫がそのすぐ脇を通過した。
>直後、鈍い轟音。
>外れた瓦礫が高所の連絡通路へ激突し、鉄骨と外壁をまとめて薙ぎ崩す。破片が雨のように降り注ぎ、四人は再び散り散りに逃げ惑った。
ナイス回避。なお、そのせいで施設の一部が消し飛びましたが事故です(すっとぼけ)
「■■■■■■■■!!!!」
>偽魔獣が唸り声を上げ、その巨体を乱暴に振り回す。燃え盛る腕が近くの構造物をまとめて薙ぎ払い、砕けた外壁や鉄骨が大量の瓦礫となって周囲へ降り注いだ。
>そして、その真下にいたのは――なぎさ。
>「あっ、あっ、どうしよう……」
>なぎさは頭上を見上げ、迫り来る瓦礫を前に狼狽えたように後ずさる。やがて逃げ切れないと悟ったように、慌てた素振りでモベホーンを構えた。
なぎさちゃん大ピンチ。さてどうする?
>『ちょっとここらへん吹っ飛ばすから、いい感じに避けるのです』
>なぎさが三人へテレパシーを飛ばした。
>「なんとかなれーーーッ!!!」
>半ば悲鳴のような声とともに、モベホーンから無数のシャボン玉が吐き出された。大小さまざまな泡がなぎさの頭上へ広がり、降り注ぐ瓦礫の群れへと向かっていく。
ボンッ!!
>そのひとつへ、最初の瓦礫が触れた。
>爆風で弾かれた破片が別の泡へぶつかり、さらに爆発。その衝撃がまた別の泡へ伝わり、空中に広がっていたシャボン玉が次々と連鎖的に炸裂していく。
ドドドドドドドドドッ!!!
>瞬く間に周囲一帯が爆炎と白煙に包まれた。瓦礫は空中で粉々に吹き飛び、爆風はそのまま周囲の構造物へ襲いかかる。壁面が剥がれ、鉄骨が歪み、巻き込まれた監視装置のいくつかが火花を散らして沈黙した。
>「いやああああ!!! ちょっと、どういうつもりよ!?!?」
>「ふざけんなよテメェッ!!! 頭イカれてんじゃねぇの!!?」
>「ひっ……ご、ごめんなさ……そんなつもりじゃ……」
>愛理と縁が怒鳴りつけ、なぎさが怯えたように身を縮める。一見、仲間割れを始めたようにしか見えない。
素晴らしいアドリブ。千景助監督の指導が実を結んでますな。
さて、内側はいい感じに大混乱ですが――外はどんな感じかな?
――フィールド外周。
内部で爆音が響き続ける一方、その外側は不気味なほど静かだった。
上空を旋回していた一羽の烏が、ふいに首を巡らせる。
視界の先。荒野を駆ける、一つの人影。魔力反応――あり。
「……ん」
使い魔から流れ込んできた情報に、あすかがぴくりと反応した。こめかみに指を添え、そのままあすみへテレパシーを飛ばす。
『南東側、座標3B。魔法少女が一人、こっちへ近づいてる』
『はぁ……あーあ、サボれると思ったんだけどなあ』
少し離れた上空で烏に乗っていたあすみが、気怠そうに片目を開いた。
『たぶん、緋鞠さんたちの偽の魔獣反応を追ってきたんだと思う。今の速度なら、あと二分くらいで外縁まで来るよ』
『はいはい。じゃ、ちょっくら追い返してきますか』
むくりとあすみが身体を起こすと、その全身が淡い金色の光に包まれた。
同時に、あすかが使い魔の群れから一羽を選び、意識を集中させる。
遠く離れたその烏に刻まれた金色の印が、強く発光した。
次の瞬間、あすみと烏の間を繋ぐように一本の細い金糸が虚空へ浮かび上がる。
『送るね。3、2、1……』
『よっ、と!』
バシュン!!
張り詰めた金糸が一気に縮む。あすみの身体が烏の背から勢いよく引き上げられ、そのまま弧を描いて空を駆け抜けた。
風を切る音だけを残し、数キロ先で待つ烏めがけて凄まじい速度で飛んでいく。
程なくして目標地点が近づくと、あすみは空中でくるりと身を翻した。そのまま勢いを殺し、フィールドへ向かって駆けている少女の死角へ着地する。
「……うっぷ……っと」
想像以上の感覚に若干青い顔をしながらも、すぐに体勢を整えた。
そして何食わぬ顔で少女へ近づき、その横へ並ぶように駆け始める。
「なにしてんのー?」
「……!? 誰――」
少女が驚いて顔を向ける。
その視線とあすみの目が重なった瞬間――あすみの魔法が発動する。
「――こっちには何もないよ。さっき感じた魔力反応、反対側だったでしょ?」
その言葉は少女の意識へするりと入り込み、認識を書き換えていく。
少女の表情から警戒心がすっと抜け落ちた。走っていた脚を慌てて止め、今来た方角を振り返る。
「……あ」
「ほら、急がないと見失うよ」
「……そう、だった。ごめん、ありがとう」
「いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振り、逆方向へ駆け出した少女を見送る。
程なくして、先ほどまであすみが乗っていた烏が上空から舞い降り、その傍らへ着地した。
『ありがとう、そっちに送っといたよ』「お、気が利くねえ」
――同時刻、あかりのラボ。
「おっと、認証情報そのものを再生成してきたか。経路を切り替えるだけじゃ埒が明かないって判断したらしいね」
あかりの周囲に浮かぶホログラムの一角で、通信経路の構造が大きく組み替わる。古い認証情報が次々と破棄され、新たな識別情報と接続要求が立ち上がっていった。
『女神サマ、今までの偽装認証はもう使えない。新しい接続要求が来るよ』
「うん。見えてる」
情報空間の中で、まどかが新たに生まれた光の経路へ視線を向ける。先ほどまでとは違い、複数の通信路が同時に伸び、そのいくつかは互いに交差しながら複雑な網を形成し始めていた。
「二本……いや、三本。どれ?」
『待って。たぶん二本は囮。本命は――』
あかりが言葉を止めた。ホログラム上に新たな反応が走る。
今度のそれは、本体側からこちらへ向かって伸びてきていた。
『……なるほど、そう来たか。こっちの正体を探りに来てる』
まどかの表情がわずかに強張った。
QB本体は、通信経路そのものを逆探知し始めていた。どこで処理が歪められ、どの段階から異常が生じているのか。
接続要求に紛れ込ませるように観測情報を送り、その反応を辿って干渉元を逆算しようとしている。
「これ、このまま通したら……」
『最悪、あたしたちが外から触ってることくらいは割れるね』
あかりはすぐさま別のホログラムを引き寄せた。
『だから、返す情報を変える』
「遮断するんじゃなくて?」
『それは犯人はあたしたちですって教えるようなもんでしょ。だったらダミーを掴ませないと』
あかりの指が走る。探査信号が辿ろうとしていた経路が、わずかに捻じ曲げられた。本来ならまどかたちの侵入経路へ辿り着くはずだった観測は、途中から閉じた偽装領域へと誘導されていく。
そこに用意されているのは、通信障害によって生じた残留ノイズと、認識阻害フィールドの揺らぎに起因する断片化されたデータだけ。
「……これなら、向こうからは?」
『“誰が侵入しているか”までは見えないはず。少なくとも、こっちまで辿る材料は渡さないよ』
まどかが安堵したように息を吐く。だが、その直後。
『……って、もう次来た。今度は新しい経路を丸ごと立ち上げてきたか』
「また?」
『そりゃ諦めないでしょ。向こうだって必死なんだから』
あかりは苦笑しながら、再びホログラムへ向き直った。
『復旧妨害は女神サマ、逆探知はあたしが見る。二正面作戦といこう』
「うん、わかった」
情報空間の中で、まどかが新たな通信経路へ踏み込む。
繋ごうとする。まどかがその直前で行き先をずらす。
探ろうとする。あかりが偽りの情報へ誘導する。
水面下での攻防は、なおも続いていた。
さてさて。
外周監視はつつがなく、電子戦も継続中。裏方組は今のところ問題なし。
では、そろそろ現場に戻りましょうか。
>視点切り替え:演出班
>現在位置更新……
>奏:実験施設接続通路
>愛理/縁/なぎさ:実験施設・外縁接近中
>偽魔獣:追撃継続中
よし、奏ちゃんは予定通り一人だけはぐれて、実験施設へ続く通路に入り込めたようです。
残り三人も、逃げ回りながらじわじわ実験区域へ寄せてますね。
>「どこ……ここ……!?」
>奏は息を切らしながら、薄暗い通路を走り続ける。背後を何度も振り返り、手当たり次第に周囲へ視線を巡らせている。
もちろん道は事前に知ってますが、戸惑いながら進む演技もぬかりなく。
>背後の遠くから、鈍い轟音が響く。
>奏はびくりと肩を震わせ、さらに速度を上げた。
>「やだ……来ないで……っ。誰か、誰かいないの……!?」
>やがて通路の先に、一枚の扉が見えてくる。
お、目的地が見えてきましたね。
>(あそこね……!)「し、閉まってる……!! 開いてよぉ……!!」
>奏はロックされた扉を何度も叩く。しかし、当然ながらびくともしない。
>追い詰められたように背後を振り返ると、大きく息を吸い込んだ。
>「_____!!!!」
>放たれた声が空気を震わせる。扉全体が激しく共振し、内側のロック機構から甲高い金属音が響いた。
バキンッ!!
>耐えきれなくなった固定部が弾け飛び、扉が勢いよく開く。
すげぇ、共振で無理やりロックこじ開けやがった。
>奏はそのまま転がり込むように内部へ飛び込み、足を止めた。
>そこには、複数のQBと、無数のホログラムが並んでいた。
>「キュ、キュゥべえ……!?」
よしきた、それでは偽魔獣にこいつらごとぶっ潰してもらいましょう。
>「な、なにここ!? なんでこんなところに――」
>『落ち着いて。ここは周辺の魔力反応を観測するために設置している施設だよ』
>「観測する……施設……?」
>『それより、君を追っている魔獣はまだ近くにいる。ここに留まるのは危険だ。右側の通路から――』
ピピッ。
>言葉の途中で、監視画面の一つに警告表示が走った。
>先ほどまで地表付近を移動していた巨大な魔力反応が、突如として表示上から消失する。
>『……反応が消えた?』
>直後、別のQBが観測軸を切り替える。高度を示す数値が、異常な勢いで跳ね上がっていた。
>その瞬間、施設直上に巨大な魔力反応が出現する。
>『違う。真上――!?』
>『走れ』
>偽魔獣――ホムラからのテレパシーに、奏は即座に反応した。身を翻し、先ほど入ってきた通路めがけて全力で床を蹴る。
>天井の向こうから、空気そのものを震わせるような轟音が迫ってくる。次の瞬間――
ドゴォォォォォォォォン!!!!!!
>轟音とともに、観測区画の天井が内側へ爆ぜた。無数の破片が瓦礫の雨となって降り注ぐ。
>その中心を突き破るように、赤黒い炎を纏った巨体が落下してきた。
>偽魔獣の両脚と片手が、観測区画の床面へ叩きつけられる。
ゴァァァァァァッ!!!!
>瞬間、着地点を中心に床が蜘蛛の巣状にひび割れた。膨大な衝撃が地面を伝い、続いて爆発するような炎と衝撃波が円状に広がっていく。
>ホログラムが一斉に乱れ、観測機器が壁面ごと吹き飛ぶ。設備の残骸が宙を舞い、灼熱の炎が観測区画を端から端まで一息に薙ぎ払った。
>『――』
>そこにいたQBたちも例外ではない。逃げる暇すら与えられず、白い身体が次々と炎に呑まれ、瞬く間にすべてが消し炭となった。
出ましたスーパーチャクチ(殺意MAX)。
こんなド派手に暴れて大丈夫かって思うかもですが――
>衝撃波に弾き飛ばされた瓦礫の群れが、空間を隔ててぽつりと浮かぶ中央実験区画へ殺到する。
>その瞬間、無数の鎖が走った。
>「っらぁ!!」
>中央区画の外縁で待ち構えていた縁が、その周囲へ網を張るように鎖を展開する。飛来した鉄骨や外壁の破片が次々と絡め取られ、激しい金属音を響かせながら宙で軌道を逸らされていった。
>だが、その間にも観測区画を呑み込んだ炎が爆風に乗り、巨大な火炎の奔流となって空間を飛び越えてくる。
>《壱壊のテンソル》《モード:拡散》
>《⇖Spread⇗》
>愛理が両腕を振り抜く。中央区画へ向かう炎の流れが瞬時に左右へ分かれ、小島の周囲へと逸れていった。
>火炎は区画の縁を掠め、その周囲を赤く染めながら通り過ぎていく。五基のチェンバーと観測アンカーには一切届かない。
>《観測アンカー:5/5 正常稼働》
>《実験ステータス:継続中》
パーフェクト。対象とアンカーは無傷。これで、救出の邪魔になる目は全部ぶっ壊しました。
>偽魔獣の顔を覆う白い仮面。その表面には黒い焦げ跡が広がり、細かな罅が幾筋も走っている。
あ、千景ちゃん限界っぽいな。ですがそろそろ、あれが来るはず。
>その時だった。荒れ果てた実験施設の遥か上空を、巨大な“白”が覆い始める。
>白地に走るのは、紫色の木目を思わせる奇妙な文様。端から端まで見渡すことすら困難なほど巨大な幕が、空そのものを覆い隠すように広がっていた。
>一枚ではない。二枚、三枚――幾重もの幕が、施設一帯を取り囲むように展開する。
>そして次の瞬間、一斉に落下した。
バサァッ――!!
>凄まじい勢いで降りてきた白い幕が、観測区画を、そこにいる者たちすべてを丸ごと呑み込んでいく。
よし、隔離完了。いいタイミングで神楽ちゃんがやってくれました。
というわけで、長くなりましたが、これにて第一幕、閉幕。
舞台は整いました。あとは
次回、第二幕(被験体との戦闘)。