ユニバース戦士補ジュウ計画   作:壱肆陸

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閲覧いただきありがとうございます。
本企画の主催を務めさせていただきました、壱肆陸と申します。

この企画はゴジュウジャーが好きな創作者たちによる、ユニバース戦士をテーマとした作品の合同企画となっております。計約50作にも及ぶユニバース戦士の物語を、お楽しみいただけましたら幸いです。

トップバッターは私、壱肆陸による、
往歳教授に敗れて未登場のまま終わった『アバレッド』の物語となります。
よろしくお願いいたします。


戦隊万歳‼︎荒ぶれ無限大のガッツ!

 かつて、世界に破滅をもたらさんとする『厄災』に立ち向かうべく、あらゆるユニバースから機械仕掛けの巨人たちが集結した戦いがあった。

 

 歴史に名を残す巨人たちでさえ『厄災』を祓う事はできず、世界が闇に覆われていく。そんな時、誰かの祈りの声が、最後の巨神───『テガソード』の力を呼び覚ました。

 

 巨人たちがテガソードの指輪に力を注ぐ。

 そして、テガソードが深紅に輝いた時、

 その光は全てを救い、全てを滅ぼしたのだった。

 

 それが『ユニバース大戦』。そして現在、神話を成した『スーパー戦隊』の力を宿した指輪を巡って『願い』を懸けた新たな戦いが始まり───終わった。

 

『厄災を受け入れ、それでも生きる。そんな世界を……俺様は守る!』

 

『熊手……真白オォォォォォッッ!!』

 

『これが俺様の世直しだああぁぁぁぁッ!!』

 

 支配の厄災レクスは、『ユニバース大戦』の英雄───熊手真白と相討ちの形で永き眠りについた。そして全ての指輪を集め、願いを叶える権利を得たのは、ゴジュウウルフこと遠野吠。

 

『テガソード、願いを言うぜ』

『俺の願いは指輪争奪戦をやり直すこと。アイツらとちゃんと戦いてぇんだ、一緒に生きるために』

 

 そして、テガソードはその願いを叶えた。

 

『仲間も世界も、この勝負以外何もいらねぇ! 孤高の武人、ファイヤキャンドル! 俺の炎で浄化してやる……!』

 

『俺は所詮この世のはぐれ者、それでも手にしたこの絆! はぐれ一匹、ゴジュウウルフ!』

 

『僕はみんなの、ゴジュウレオン!』

 

『怪力伝道師、ゴジュウティラノ!』

 

『チャララっといこうよ、ゴジュウイーグル!』

 

『ハイクラス&ラグジュアリー、ゴジュウユニコーン!』

 

『我ら、ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー!』

 

 復活した仲間たちと、駆け付けてくれた指輪の戦士たち、神となった熊手真白。全ての力を一つに合わせて、最後の敵ファイヤキャンドルを打倒し、その歴史は一つの区切りを迎えたのだった。

 

「すごい戦いだった……願い、ちゃんと見つけられたんですね。吠さん!」

 

 次元の狭間で戦いを見届けていた彼は、その結末に拍手を送る。彼はオリガレッド。とある世界で戦う、赤き折り紙の折リジナル戦隊。

 

 以前、ゴジュウジャーの世界に訪れたオリガレッドは、遠野吠から『レッドの在り方』を学んだ。そして彼はその『らしさ』を貫き、物語を素晴らしい結末へ導いてみせた。心から尊敬に値する、真のレッドに相応しい人だ。

 

「折り目正しくなくてもいい。折り紙のように、色とりどりで色んな形のレッドがいていいんだ。指輪争奪戦か……もしかしたら、堤さんや吠さんのようなレッドが、他にもいたのかもしれないな」

 

 指輪争奪戦。オリジナルの模倣品(コピー)で変身した一般人が、私利私欲のために繰り広げる醜い争い。そう信じ込んでいたオリガレッドは、そんな世界を正しく矯正しようと、レッドに相応しい人物を探した。

 

 そうして見つけることができたクワガタオージャーこと堤なつめさえも、指輪を捨てることを選んだ。

 

「僕は堤さんのような人はもういるはずが無いと思い込み、吠さんもレッド失格と決めつけた。そして、自分があの世界のレッドとして、正しい世界を折り上げようとした……」

 

 今思うとなんて傲慢で、不勉強の極みだったのだろう。

 

 オリガレッドは深く知ろうともしなかったのだ。彼らが指輪に頼った理由も、そこに懸けた願いの重さも。彼ら一人一人が素晴らしいレッドだったかもしれないのに。

 

「……これは!?」

 

 その時、ゴジュウジャーの世界から亀裂が入るように、世界の狭間が新たに開いた。

 

 こんなことは今までに無かった。恐る恐るオリガレッドがその中を覗くと、そこから感じるのは無数の戦いの気配。この亀裂は、分岐した指輪争奪戦の世界線───あったかもしれない過去、あるいは未来に繋がっている。

 

 意識が、体が吸い込まれていく。

 49の指輪が織り成す、その無数の並行世界(ユニバース)に───

 

 

 

「ユニバース戦士補ジュウ計画」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「っ……! 冗談じゃない! アレも指輪の戦士だというのか!?」

 

 人も獣も眠り、電灯だけが存在感を放つ、真夜中。

 右手には青き刃と銀色に輝く手甲。その姿は『ユニバース大戦』で失われた力の一つ、『リュウソウジャー』の指輪で変身した、ユニバース戦士『リュウソウレッド』。

 

「ふ……ふはははっ! 面白い、この私は99.9%の正義に仕える検事ナンバーワン! 勝てるものなら───」

 

 そんな威勢をも噛み砕かれたように、暗闇の奥にいる存在の威圧感に、リュウソウレッドの両足が後方に退く。

 

 爆速で迫り轟く、大地を震わすような足音。

 獣の───否、『竜』の咆哮が夜の街に響いた。

 

__________

 

 ここはとある大学の考古学研究室。

 ロマン溢れる文系研究職。と言えば聞こえはいいが、ここはただの考古学研究室ではない。

 

 僕がいるのは恐らくこの国で最もマニアックであり、最も熱意の喧しい研究室だ。

 

「おはようございまーす」

 

「噓やろ……まさかとは思うとったが、こんなことがありえるとは! 世紀の大発見や!」

 

 朝からうるさい。他に学生もいる研究室で大声で騒ぐ男は、残念ながら我らが研究室の教授である。

 

「おぉ、迎クン。えらい久々やな。修士学生たるもの、もっと研究室に顔出すべきなんちゃうか?」

 

「こんな時期なのに内定貰ってないんです、就活で忙しいんですよ。ゼミには出席しますし、単位も足りてます。ていうか随分前に学会資料出しましたよね。添削まだですか」

 

「あー……歳のせいか物忘れがなぁ。て、そんなことより迎クン! この間の発掘調査の結果から、なんと『獣電竜』と『シュゴッド』の共通点が……!」

 

 この男、学生の大問題を『そんなこと』で済ませやがった。

 

 この蝶ネクタイ浪花男は往歳巡。若くして教授の称号と研究室を持つ、『戦隊考古学』の権威。それで、僕はその往歳研究室の修士学生、(むかえ)龍郎(たつろう)

 

 『戦隊考古学』。それは超常的な伝説『ユニバース大戦』と、それに深い関わりを持つらしい『戦隊』という存在を専門とした考古学である。

 

「そもそも呼び出したの先生ですよね。こんな早朝から。学会のことかと思ったら違うし、何の要件ですか」

 

「お、そうやったそうやった。来てくれたってことは空いとるんやろ。今から出張で調査行くから、ついてきてくれ迎クン」

 

「はい!?」

 

 考古学だってのにいつもの古文書を引っ張り出し、お気に入りのハットを被って準備万端。こうなったらもう、この和製インディ・ジョーンズは誰にも止められない。

 

 これがウチの怪物教授、往歳巡なのだ。

 

 ◇◇◇

 

「おはよう! おぉ、おはよう! しっかり勉強せぇよ!」

 

 早朝から県外まで出て朝の8時ごろ。とある高校の前に陣取り、先生は登校してくる学生に片っ端から挨拶をしていた。

 

「発掘調査じゃなかったんですか? なんで学校なんかに」

 

「発掘なんて一言も言うてへん。調査は調査でも、潜入調査や」

 

 まためちゃくちゃなことを言い出した。

 

「この間、桜庭サンがエラい目に会ったらしくてなぁ」

 

「桜庭って……あの『リュウソウジャー』の指輪に選ばれた検事ですよね。裁判ではやたら好戦的。とにかく行動量と証拠の数、言葉の強さに物を言わせるから、世間で『脳筋』だの『蛮族』だの呼ばれてる」

 

「詳しいなぁ」

 

「こんなもんじゃないですか?」

 

 『指輪争奪戦』。ユニバース大戦の記録に存在する『戦隊』の力を持った『ユニバース指輪(リング)』に選ばれた者たちが、戦士となって指輪を奪い合う戦いだ。

 

 そして、指輪を全て集めた者は、なんでも一つ願いが叶えられる───と言われている。真偽の程はわからないが、指輪に選ばれた人たちが本気で戦っているのは確か。

 

 そんな話が市民の中で信憑性を持っている大きな要因は、まぁ総理大臣の熱海常夏だろう。支持率は驚天動地の5000%、史上最年少の総理大臣にして、『ドンブラザーズ』の指輪に選ばれたことを堂々と公言して国民のために戦う、まさに完璧英雄超人。

 

 『戦隊』の力を受け継いだ、甦りし伝説に相応しいのは、そんな新たな歴史となるような人間であるべきということなのだろう。僕のような普通の人間には想像もできないスケールだ。

 

「で、その桜庭サンがこの辺で指輪戦士に襲われたらしいんや。なんとか逃げ切ったらしいケド、とんでもない強さだったらしくてな」

 

 言い忘れていたが、往歳先生は桜庭検事を始めとした一部の指輪の戦士と連絡を取り合っている。

 三食よりも寝食よりも戦隊が大好き。そんな戦隊狂いの先生は『本物の戦隊の復活』を目的に活動しているのだ。日々の研究や教員の業務をほっぽらかして。

 

『戦隊に選ばれたのなら、チームを組んで戦うべきや!』

 

 これが先生の口癖。だから先生は各地に赴き、指輪戦士たちを仲間に誘うという、RPGじみた活動を行っている。なるほど、今回もその一環で、その謎の指輪戦士と話をしたいのだろう。それなら一人で勝手にやってほしい。

 

 しかし、指輪争奪戦の勝者はたった一人。

 チームなんて成立するわけがないと思うのが普通だが、言ったところで聞いてくれるなら苦労は無い。

 

「その指輪の戦士が、この学校にいるって言いたいわけですか」

 

「俺の推理によれば、まァ間違いない。ここ最近の夜中、この学校の周りで暴れ回る謎の獣がいるって噂になっとる」

 

「それが指輪の戦士じゃないかと……」

 

 しかし、だとすれば行動が意味不明だ。他の指輪戦士を誘い込んでいるのだとすれば今の状況はまさに思う壺。手を出さないのが安全なのだろうが、もちろん先生にそんな思考回路は無い。

 

「分かるやろ迎クン。考古学者は僅かな手掛かりから歴史を紐解く、いわばナンバーワンの探偵や! 必ず謎の指輪戦士を探し出したる。そう、じっちゃんの名に───」

 

「オイ」

 

 戦隊熱に浮かされている先生の背後に、不意に大きな影が立ち止まった。ぶつかった───ようには見えなかったが、この手の人種は存在しない因縁を押し付けてくるものだ。

 

 改造した制服に、確実に校則からはみ出ているであろう髪色とアクセサリー類。何より恫喝や怒号が染み付いたような、その人相。ステレオタイプのヤンキーだ。

 

「誰の許可でここに突っ立ってるんだ? あぁ?」

 

「おぉ、おはよう。キミもここの生徒か! でっかい図体やなぁ、いっぱい食っていっぱい寝とる証拠や!」

 

「何勝手に俺の前に立ってんだって聞いてんだオッサン!」

 

 ヤンキーがそう叫んで先生の服を掴む。当の先生はオッサン呼びが不本意そうに顔をしかめているが、あんたは立派なオッサンだ。

 

 というか喧嘩はマズい。止めに入るべきだろうか、でも僕が行ったところでだ。ていうかそもそも先生は……

 

「そこまで。間もなく始業時間です。教室に行ってください、3年2組 新山(にいやま)生吹(いぶき)君」

 

 その時、校門の騒動に冷たい声が割り込んだ。

 眼鏡をかけ、きっちりと制服を着込んだ、まさに模範的な女子生徒。

 

「なんだ? 俺は部外者の不審なオッサンを追い出そうとしただけだ。2年が3年に偉そうな口叩くもんじゃねぇぞ」

 

「私は風紀委員長、学年に関わらず生徒を指導する立場にあります」

 

 いかにもなルックスからそうじゃないかと思ったが、やっぱり風紀委員だった。そして残念ながら我々が不審であることには一切言い返せない。

 

「この方は本日の特別講義で講師としてお越しくださった、往歳巡先生です。ご来校に正当な手続きを踏んでおられます。理解したのならその手を離してください」

 

「……不法侵入したわけじゃなかったんですね」

 

「当たり前やろ。ここの校長とは仲良しでな、頼んでみたら二つ返事や。講義のテーマは『戦隊考古学と古生物学の関係性』、是非とも聞いてってな〜」

 

「ご心配に及ばずとも全校生徒が聴講しますので。あなたもですよ新山君。よく授業をサボっているようですが、特別講義は卒業用件に関わることをお忘れなく」

 

「チッ……」

 

 新山というヤンキー生徒は、面白くなさそうに先生から手を離した。

 高校生らしい、といえばそうなのかもしれない。エネルギーが有り余っているのに窮屈で退屈、目の前が不安で塗り潰された毎日。

 

 荒れなければやっていけない気持ちも、分からなくは無い。社会人に近づく上で、捨てなければいけない選択肢なのも事実だが。

 

「というわけで、講義終わるまで待機しとってな、迎クン。ほな俺の講義は……CMの後で!」

 

 マジで僕は何のために来たんだ。

 

 ◇◇◇

 

 その後、本当に放課後まで待たされた。一応付き添いとして、往歳先生の講義も聞いた。

 

「発掘された戦隊の痕跡には、比較的近代のもんが混じっとる。忍者だったり、ケータイやったりな。時代の配列がメチャクチャになっとるんや。逆にとんでもなく古代の……例えば恐竜との関わりが示唆されとる戦隊は特に多い。『守護獣』に『騎士竜』に『獣電竜』……そんで『爆竜』。これは恐竜の進化論を覆しうる───」

 

 正直めちゃくちゃ面白かった。

 往歳先生は腐っても教授、それもかなりの実力派。普段からこれを大学で発揮してくれれば、学務も何も言わないだろうに。

 

 しかし、あの新山とかいう生徒は無理矢理出席させられたのか、あからさまに退屈そうにしていた。腹は立つが暴れ出されなかっただけマシとするか。

 

「で、なんでこんな所に」

 

「たくさん働いた後は、美味しいご飯と可愛い女の子に決まっとるやろ!」

 

 放課後、何故か僕たちはメイド喫茶に来ていた。

 しかも一番人気の子を指名までしてノリノリだ。恥ずかしいとまでは言わないが、この人が何を考えているのかは相変わらずさっぱり分からない。

 

「このまま夜中まで待つつもりですか。そもそも指輪を使って暴れ回るような危ないやつ、仲間にできると思えませんけど」

 

 往歳先生の話には違和感がある。あのプライドの高い桜庭検事のことだ、逃げ切ったよりも『見逃された』くらいが現実に即している気がする。

 

 圧倒的な強さを持ちながら指輪を奪わない。ただやみくもに荒れ狂うだけ。それはまるで、鬱憤を晴らしているような……どちらにしろ放ってはおけない。まだ帰れなさそうで溜息が出る。

 

「お待たせしましたご主人様! ご注文は何になさいますか?」

 

「おぉ来た来た。せやなぁ、お待ちかねや。注文は『花咲ける萌え萌えピンクオムライス』と……あんたの指輪や、風紀委員長さん」

 

「はぁ!?」

 

 一番人気というメイドを、先生の眼光が貫いた。雰囲気が違いすぎて一瞬気づかなかったが、確かに彼女は朝の風紀委員。

 

 彼女は笑顔を保ったまま、目の奥で鋭く敵意を向けているようだった。それは『暴力』が選択肢にある者特有の挙動。

 

 ていうか、指輪って……えぇ……!?

 

 ◇◇◇

 

「クソっ! 気に食わねぇ……何が戦隊考古学だ! 生徒会長も、先公も、親父も! どいつもこいつも気に食わねぇ!」

 

 新山はゴミ捨て場を蹴散らして叫ぶ。

 あんな学校に入るんじゃなかった。父の言う通りに勉強して、努力して、その結果がこの空虚な毎日だ。

 

 昔は何かできるだけでチヤホヤされた。誰からも認められた。でも、今は目指すべき崇高な何かがあるのが当たり前で、それが無い自分は誰からも見下される。

 

 どいつも大人の自覚を求める癖に、反抗しても子供の戯言と笑うだけ。だったら無茶苦茶にしてやりたいと思って何が悪い。壊してやりたいと思って何が悪い。

 

『───メチャクチャに荒れ狂いてぇか?』

 

「だからそう言って……! なんだ今の声、うわあっ!?」

 

 脳の奥から声が聞こえたかと思うと、倒れたゴミバケツの『円』が新山を吸い込んだ。繋がってしまった先は人工の異界、その住人が願いと人間の体を使って受肉する。

 

【荒くれ者】

【不良】

【反骨精神】

【人間】

【ナンバー1】

 

生成(ジェネレイティブ)ゥ!」

 

 彼らもまた指輪を狙う勢力、ノーワンワールド ブライダン。

 そのバックルが誇示するように、彼らは一人一人が自身の世界での『ナンバー1』。身勝手な欲望とプライドを以て再誕した彼は、人間世界に侵攻を始めた。

 

 ◇◇◇

 

「お姉ちゃんおかえり〜」

 

「このオジサンとお兄さんだれ〜?」

 

「お姉ちゃんのカレシだ!」

 

「違うよー、学校の先生と……行き倒れの人。ほら挨拶して」

 

「「「こんばんは〜!」」」

 

 六百歩くらい譲歩した上で行き倒れの人にされた。

 あの場で話を聞くつもりだったが、時間が無いとのことで家まで着いてくる羽目になってしまった。

 

 そこには小さい男の子が2人、女の子が1人。歳は離れているが彼女の弟と妹だろう。そりゃ待たせるわけにいかないのも納得だ。

 

 弟と妹たちを別室に行かせると、彼女はポケットからソレを出した。金色に輝く『センタイリング』───それも『爆竜ティラノサウルス』が描かれている。

 

 古文書にも爆竜を従える戦隊の名はあった。

 彼女は『アバレンジャー』の指輪を持つ戦士だ。

 

「なんで分かったんですか、私が指輪持ちだって」

 

「講義をえらい興味津々に聞いとったからな。特に『爆竜』の話題で反応を変えたのは、全校生徒であんただけやった。桜庭サンの話でアバレンジャーだって目星はついとったし」

 

 指輪の特定を情報から推理し、講義をしながら全校生徒を観察……先生は時折計り知れない力を見せる。でもそれなら先に言えと思った僕は間違っているのだろうか。

 

「そうですか。ですが夕食の支度をするので、話の続きはまた後ほど」

 

「折角の縁や、ご馳走になってもええか? モチロンお代は出す」

 

「ご自由にどうぞ」

 

 そう言って、彼女は声色も表情も変えないまま部屋を出た。僕と先生は応接間に残され、出された茶を啜る。

 

「講義までの時間、暇だったのであの学校の生徒のことは色々調べておきました。彼女は氷川(ひかわ)華蓮(かれん)。進学校の中でも成績はトップ、スポーツ万能、清廉潔白、容姿端麗、性格天使、猫派の、非の打ち所がない高嶺の花で学園のマドンナ。校内にファンクラブも存在する、まさに完璧JKです」

 

「めちゃめちゃ調べとるな。迎クン、刑事とか向いとるんちゃう?」

 

「……あとアルバイトをいくつも掛け持っていると。新聞配達、コールセンター、ファミレスにコンビニ、本屋、遊園地の着ぐるみetc……まさかメイド喫茶にいるとは思いませんでしたけど」

 

「それは校長先生に聞いてな、友人って言うたやろ? 放課後にあの子がどこ行くか教えてもろたんや」

 

 仮にも教職の人間が生徒のプライバシーで取引するなよ。

 とはいえ、その校長も往歳先生なら悪用しないと判断してのことだろう。

 

 あれだけの人気があって彼女は生徒会長ではない。それがアルバイトや家事の時間を優先してのことだと考えると、色々と事情が察せられた。先生に縋る気持ちが出るのも頷ける。

 

「どうぞ」

 

「ほな、手と手を合わせて……」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

 話しているうちに氷川家の夕飯が出来たらしく、家族団欒に邪魔をする形で僕と先生も席につかせてもらった。先生は目の前に置かれたカレーを一口、そして……

 

「う、美味いっっ!! 積み重なって眠っていた食材たちの旨味が、口に入れた瞬間に目覚めよった! これはまさに太古より目覚めしカレー。伝説のカレーファンタジーや!!」

 

「すみませんウチの先生が。これ、一回カレーを冷凍してるんですね。冷凍すれば具の野菜の細胞が壊れる。でもそれによって野菜のエキスはルーに流れ、ルーの旨味は野菜に移って更に寝かしも入る……いやよく出来てるなぁ」

 

「作り置きできて便利なので。随分お詳しいんですね」

 

「あ、いえ。別にそういうわけじゃ……」

 

 料理の腕は一人前。そもそもバイトの掛け持ちだって、それだけ多彩な能力が無いとできないことだ。恵まれた才能もあるだろうが、彼女はそうならなければいけなかったのだろう。

 

「ヤングケアラー、っていうらしいな。君みたいな子のこと」

 

 いつの間にかカレーを完食していた先生がぶっ込んだ。

 それは僕も思っていたことだ。無理なバイトの掛け持ち、慣れすぎている家事、そして親が出入りしている気配が無い家の様子。

 

 彼女は高校2年生にして、幼い兄弟3人を養う立場にある。

 

「……私が小学生の頃、妙な集団が家に来たのを覚えています。父が仕事で知り合った、隕石に宿る宇宙神を信仰する宗教団体です。そいつらが父を騙し、家の財産を搾り尽くすまで時間はかかりませんでした」

 

 氷川さんは語り出した。テレビの出来事でも伝えるように、淡々と。

 

「代表が逮捕されて団体は解体されましたが、騙し取られた金は返ってこなかった。母は真っ先に逃げました。父はなんとか借金を返しましたが、その無理が祟って今も病院で寝たきりです」

 

「そうか、それで……指輪を全部集めれば、この生活から抜け出せるから」

 

「話聞いてましたか? 私は(テガソード)も人も信じない。私の学校には、極めて優秀な生徒にだけ認められる特別奨学生制度があります。私は私の力で一流大学に行き、一流企業に入ってお金を稼ぎ、この子たちを幸せにします」

 

「だったら何故、その指輪を捨てへんねや」

 

「捨てられないんですよ。捨ててもいつの間にか手元に戻ってくる。私はこの厄介な呪いを切り離せない」

 

「真夜中の竜。自分の意思とは関係なく暴れてしまう……それが君の言う呪い───『指輪能力』。そうやろ?」

 

 指輪能力。戦隊の力を宿した指輪にはそれぞれ一つずつ、特殊な能力が備わっている。一般人が戦士として戦うための救済措置のようなものだと思う。

 

 しかし、何の能力が手に入るかは、まさに(テガソード)のみぞ知る。こんな風に好ましくない能力が身についてしまうケースもあるのか。

 

「指輪が欲しいなら持って行ってください。私はこの子たちのために、優等生ナンバーワンじゃなきゃいけない。制御できない力なんて迷惑なだけです」

 

「ホンマにそうか? それなら君は───その指輪に何を願った?」

 

「願いなんかありません。私は、私の人生を誰にも委ねない」

 

 目線と目線で火花を散らしているとこ悪いけど、まだ僕も子供たちも食事中だ。ほら見ろ無邪気な子供も険悪なムードに閉口してる。気まずい。

 

「えっ、と……これ! 凄いねこれ。県大会優勝……バスケ大会のトロフィーだ」

 

「それお姉ちゃんのやつだよ!」

 

「お姉ちゃん超バスケ強かったんだよ」

 

「あとケンカも超強かった。下僕がたくさんいたんだから!」

 

 オイどこで覚えたそんな言葉。

 しかし、さっきから少し語気が強い気がしたが、そういうことか。桜庭検事を下した腕っぷしも納得だ。

 

「バスケ、今もやってるんですか?」

 

「辞めました。勉強とアルバイトで時間が無いので」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 家族のために好きなことを辞め、就労しながら勉学で頂点を極める。才能も、努力量も、並の人間を超越している。彼女もまた指輪に選ばれるのに相応しい超人ということか。

 

 しかし会話が終わった。気まずい。さっさと食べてしまおう。

 

 ◇◇◇

 

「まぁ仕方ないですよ。仲間になるとか、それどころじゃなかったし。指輪を一つ貰えたんです、良しとしましょうよ」

 

 氷川家を後にした僕と先生。先生の手には、アバレンジャーの指輪が乗せられていた。制御の効かない指輪能力なんて危険すぎるということで、先生も教職として預からないわけにはいかなかったのだ。

 

 氷川さんの家庭事情もそうだが、現実というものは往々につまらなく理不尽なものだ。往歳先生が望むなんとかクエストみたいなRPGな展開にはなり得ない。指輪というファンタジーを以てしても、依然そこにあるのは退屈と閉塞感。非情だなと、他人事として思ってしまう。

 

「いいや、俺は諦めん! その呪いってのが本物なら、この指輪はあの子のもとに戻るはずや」

 

「そんなことありますか……?」

 

「指輪ってのは意思を持つんや。宿した戦隊の魂に共鳴する心! 願い! そいつが消えん限り、指輪は必ず……!」

 

 その時、近くで沢山の悲鳴が聞こえた。

 

 僕らが駆け出すまでもなく、凄い速度で破壊音がこちらに向かってくる。障害物を全部力尽くで突破し、不必要に周囲を荒らしながら、目的地も無いような足取りで、そいつは街を蹂躙していた。

 

「アイツは、もしかして噂の……!」

 

 指輪戦士のコミュニティを広げる活動の中で、こんな情報が耳に入った。人間を取り込んだ体で、この世界を侵略しようとする異世界の怪物がいると。

 

「オゥオゥオゥ!! 俺っちこそは、ノーワンワールド荒くれ者ナンバーワン! 悪い奴ら大体親友(マブダチ)、平和なヤツらは全員絶殺(ゼッコロ)だァ!!」

 

 外国産カブトムシの角のような、鋭く突き出たリーゼント。風貌は多分上裸の上に硬そうな学ランを羽織って、そこから鎖と肩アーマー。世紀末というか暴走族というかヤクザというか、反社会な要素をゴチャゴチャに詰め込んだような存在だ。

 

 彼らは『ノーワン』と名乗る。ならばあの怪物は、さしずめ『荒くれ者ノーワン』と言ったところだろう。そんな事を言ってる場合じゃない。

 

「先生!! おわぁっ!?」

 

 荒くれ者ノーワンが振るった釘バットで、アスファルトが捲れ上がって僕らは吹き飛ばされた。目に入ったものを適当に壊してるみたいだが、それはもう荒くれ者じゃなくてただの災害だ!

 

「お? オゥオゥ俺っちのバットを受けて立ってるとはなぁ、気に入ったぜ!」

 

「気が合うなぁ、俺もや。えぇタイミングで来てくれた」

 

 受け身を取って立ち上がった先生が何か言ってる。

 しかも笑っている。嫌な予感しかしないが、今はこの人に頼るしか無い。

 

 そういえば、言ってなかったっけ。

 

 先生は指輪を取り出して、エンブレム部分を回転させた。浮かび上がるのは生命の守護神『守護獣ティラノザウルス』と、その力に選ばれし戦士の姿。

 

「エンゲージ!」

 

《センタイリング!》

 

 先生の右手に銀色の手甲───テガソードが出現した。

 その中指に指輪を嵌め込むと、意思なきテガソードが叫ぶ。柏手を以て戦士の再誕を祝えと。

 

 先生が頭の上で手を叩く。次は顔の横で2回。

 そして、腰元で溜めるように手を叩くと、そのまま両手を突き出して天地を反転させ、2度の拍手で締め括った。

 

 溢れ出す力が金色に光り、先生の姿を染め上げる。

 

《ジュウレンジャー!》

 

 白亜紀の肉食恐竜ティラノサウルスを思わせるヘルムと、牙を模ったシンプルな紋様の赤い強化服。これこそが『ユニバース大戦』の伝説から現代に甦りし戦士の一人。

 

 そう、往歳先生もまた、『ジュウレンジャー』の指輪に選ばれた指輪の戦士。赤き勇姿、ティラノレンジャーなのだ。

 

「!? テメェ、指輪の戦士だったのか! オゥオゥオゥそれならよォ! テメェを倒せば女王様の乗り手はこの俺っちだぜ!」

 

「オゥオゥオゥオゥやかましわ! オットセイか!」

 

 走り出した荒くれ者ノーワンに、ティラノレンジャーは目を向けない。ただテガソードを天に掲げて、それを『ダイノバックラー』へと変化させた。

 

 先生が何を考えているか分かった。正気じゃない。

 

「『復元(リゲイン)』───大獣神!」

 

 ジュウレンジャーの指輪能力『復元(リゲイン)』は、読んで字の如く。先生が発掘した『大獣神』の残骸を元の姿に復元させ、意のままに操ることができる。

 

 全長40mはあるマントを羽織った巨神が雷鳴と共に現れ、荒くれ者ノーワンを踏み潰した。

 

 ◇◇◇

 

「何……!?」

 

「おぉ、来たな!」

 

 先生が大獣神を呼び出してから数分後、息を切らして氷川さんが現れた。それもそうだ、近所でこんなデカブツが暴れてたら眠れない。

 

「ッッてオイ、バカ野郎コノ野郎!!! オマエ頭おかしいんじゃねぇか!?!? 死ぬかと思ったわ!!!」

 

「アホか、戦隊が巨人で踏み潰して終わりって、そんなんお前……おもんないやろ」

 

「じゃあさっきのは何だったんだよ!!」

 

 あまりの暴挙にノーワンが正論で訴える始末。

 荒くれ者ノーワンは存命。先生も中に人が入っていることを考慮したのだろう、あれでも。

 

「わーーーー大変やーーーー!! バケモンがデカい仲間と一緒に暴れとるでーーーー!! はよ逃げな踏み潰されるぞーーーー!!」

 

「!?」

 

 ティラノレンジャーは大獣神の肩の上から街の人々に呼びかける。どちらかといえば先生が魔王の絵面だが、地面を踏んで揺らす大獣神も市民から見れば十分に怪獣。言われなくても、周囲の人たちは逃げ始めていた。

 

 そしてそれを全部ノーワンのせいにした。心中お察しして余りある。

 

 僕が呆れた目線を送るのにも気づかない様子で、先生は大獣神の肩から降りて氷川さんに語りかけた。

 

「君の心はあのカレーとおんなじや。無理矢理凍らせて中身はボロボロ、見てられん」

 

「だからあの指輪は捨てたんです。私には時間も余裕もないのに、勝手に暴れるだけの力なんて迷惑だから」

 

「そういうことやない。暴れるってのは、悪いことか?」

 

「……は?」

 

「本当は思いっきり暴れたいんやろ? それが君の願いや」

 

 先生の言葉に、氷川さんは黙り込んで指輪の無い手元に視線を落とす。

 彼女の言葉には少し違和感があった。中身じゃなく、声色に。高校生ならもっと自分を出してもいいのに、氷川さんの言葉はどれも凍りついたように閉ざされ、不自然に熱が無かった。

 

「指輪は正直や、能力は君の本心そのもの。でもそんな事言えへんわな。その願いを肯定して今が不幸だと認めてしまえば、それはあの子らのせいってことになる」

 

 自分で稼ぐ術を持たない兄弟たちを育て、兄弟たちを自分と同じ目に遭わせない。彼女はそんな『優等生』でいるために心を閉ざしていたんだ。

 

 抑制した本当の自分、やりたいことへの我慢、高すぎる理想へのストレス、日々の疲労に摩耗する精神……それら全部が指輪の力で表に出たのが『真夜中の竜』。

 

 先生の言葉で、彼女の心が動いているのが見て取れる。

 だが、理性がそれを拒絶している。今まで感情を全て押し留めていた、強烈な呪いのような理性が。

 

「私は……自分で選んで今を生きてます。悪いのはクソ親父とクソババアで、こんな理不尽な社会で生きるには何にも頼れない! 自分の力で、生き抜くしか……!」

 

「その通り! 講義しろ、学会に顔出せ、論文の査読……しかもやりたいことやれば大体文句を言われる。現実ってのはつまらんもんや」

 

 それはほとんどアンタが悪いだろ。

 

「君にはこんな社会を耐えて生き抜く、凄いガッツがある。でもな、今の時代はガマンだけじゃアカン。凍らせたカレーは中身がボロボロ、それでも……とんでもない旨味を秘めとる」

 

 先生の手から黄金色の輝きが放物線を描き、吸い寄せられたように氷川さんの手に収まった。それは、アバレンジャーの指輪。

 

「たまには暴れたったらええんや! 周りのことなんか考えず、何もかんも忘れて、思いのままに!」

 

 そうか、だから先生は大獣神で人払いをしたんだ。

 そして今、目の前には殴っても壊れないノーワンと、自分を煽る指輪の戦士。

 

 理性が、外れる音がした。

 

「……やってやるよ」

 

 深い呼吸の後、氷川さんの目つきが変わる。見るだけで背筋が凍るようだった。心に纏わりついていた冷たさを自分以外の全てに押し付け、初めてその声に熱が灯った。

 

「エンゲージ!」

 

《センタイリング!》

 

 氷川さんが眼鏡を放り投げ、指輪を回転させる。そして、銀のテガソードに指輪を叩き込んだ。

 

 まるで社交ダンスのように、優雅な1クラップ。美しく長髪を靡かせてターンし、2クラップ。その瞬間───大きく踏み出した雄々しい一歩が大地を震わせる。空気が、塗り変わった。

 

 獰猛な柏手が街に響く。

 最後に、左手を前に突き出し、顔の横で荒々しく2回の拍手。

 

 氷川さんの体が光に包まれた。体を、腕を、頭部を、順に書き換えるように戦士の姿が形成されていく。そして、彼女の全身が赤き竜人と化した時、ティラノサウルスは頭部が歪むほどに大きく、吼えた。

 

《アバレンジャー!》

 

 荒くれ者ノーワンが2人目の指輪戦士を見て立ち上がる。

 

 相剋する両者。荒くれ者と荒くれ者。

 『頂点』が並び立つことは無い、それなら───今こそ雌雄を決する時。

 

 いざ掴め!

 

「ナンバァァァァァワァァァァン!!!」

 

 GO!GO!

 ユニバース!

 

「立てば芍薬? 座れば牡丹? アバレた数だけ踏み荒らせ! 喧嘩上等、アバレッド! もうどうなっても知らねぇぞ!!」

 

 GO!GO!

 ユニバース!

 

「どけェ!! オラオラオラオラァ! 俺っちこそが───」

「はいっ、ドーン!!」

「!? どわァッ!??」

 

 ……名乗りを上げようとしたノーワンを、ティラノレンジャーが蹴り飛ばした。メチャクチャだ、あの人。

 

「戦隊探して一万年! ティラノレンジャー、往歳巡! 学会のアバレ王子(プリンス)とは俺のことや!」

 

 No.1 Battle!

 Ready──GO!

 

 FIGHT!

 

「オゥオゥオゥ! 汚物は消毒だぜェーーッ!!」

 

 三つ巴の戦いで、最初に動いたのは荒くれ者ノーワン。その肩から凄まじい火炎が放射された。そこにティラノレンジャーが剣を携えて果敢に突っ込んで行く。

 

「龍撃剣! ハァっ!」

 

 伝説の武器『龍撃剣』が、炎を横一閃に切り裂いた。恐れを知らない2人が死闘を演じる後ろで、アバレッドは重心を前に傾けて機を伺い───遂に動く。

 

「『暴走(バーサーク)』」

 

 それが恐らく、彼女を苦しめていた指輪の能力。

 その力を自身の意思で解き放ち、身を委ねた。するとアバレッドの全身に備わった白い爪のような部位が隆起し、鋭い牙となる。

 

「ウガアアアアアアアアッッ!!」

 

 理性を完全に捨て去り、唸りを上げるその様相はまさに暴君竜。

 そして、目覚めてしまった暴君は、アスファルトが弾け飛ぶ音と共に一般人(ぼく)の感覚を置き去りにした。

 

 視界を貫く赤い闘志と白亜の残像。気付けば、荒くれ者ノーワンの体が壁に叩きつけられていた。

 

「おおおおぉ! それはまさしくアバレンジャーが感情を昂らせた時に見せるという古文書にあったアバレモ───」

 

 そして、暴走するアバレッドの回し蹴りが、ティラノレンジャーの姿を遥か彼方に消し去った。

 

「往歳先生ェェェェェェ!!」

 

 本当に綺麗に飛んで行ったな……焚き付けたのは先生だから、自業自得ではあるのだが。しかし彼女からすれば標的が減っただけ。つまり、その溢れんばかりの暴威は全て、自称荒くれ者ナンバーワンに向けられる。

 

「あ……上等だコラァ! 臆病(ビビ)ってるわけねェ、かかって……!」

 

 今度は目を凝らせ。瞬きもするな。そうでなければ、僕は傍観者でいることすら許されない。

 

 ノーワンを黙らせるようにアバレッドは頬と顎を掴み、地面に叩きつけた。さらにアスファルトをゴリゴリと削りながら、そのままノーワンを引き摺って全力で直進。

 

 障害物なんて関係ない。例え壁があろうが木があろうが建物があろうが、アバレッドの勢いは止まらない。

 

「カ……ま、おい待てええええぇぇ!!??」

 

 闇夜を切り裂く正義の刃が、閃く。

 

 放り投げられた荒くれ者ノーワンを、アバレッドは腕の牙とテガソードで切り刻んだ。そして、ビルの壁にその体を押し付け、今度は逃げ場のない拳の連撃を叩き込む。

 

「うおおッ……がぁッ! ナメてんじゃねェぞ、コラァ!!」

 

 だが、荒くれ者ノーワンは見た目相応にタフなようで、アバレッドの猛攻を受けても倒れず、拳を握って反撃に転じた。

 

 アバレッドとノーワンが、迸る激情のままに拳を撃ち合っている。だが、分厚そうな甲殻を持つ荒くれ者ノーワンに対し、アバレッドは明らかに防御が薄い。互いにノーガードなインファイトの末、ノーワンの拳がアバレッドの頭を突いた。

 

「───ははっ」

 

 その時、マスクの奥───吼える爆竜の口腔の内側で、狂気を帯びた声が響く。

 

 殴られた分だけ殴り返す。痛みを知るほど、その笑い声が強くなる。

 拳、蹴り、頭突き。怯むノーワンを置いて、アバレッドの暴力はどこまでも加速を続ける。硬い鎧に打ち付けられる体が悲鳴を上げようとも止まらない。止まることなどできない。

 

 『暴走』の渦に溺れて消えていくように見えた。彼女の中にある、喜び以外のすべてが。

 

「ティラノロッド」

 

 アバレッドがその手に出現させた棍棒は『ティラノロッド』。先端にティラノサウルスの頭部が付いた珍妙な武器に見えるが、そこから放たれる殺気は只事じゃない。

 

「バット勝負なら負けねぇ! 俺っちの相棒、『特攻伝説絶対撲殺釘バット』で……アレ?」

 

 ティラノロッドは武器の形になった竜そのもの。そのなんとか釘バットは、ティラノロッドの食欲のままに噛み千切られ、持ち手より上の部分が消失していた。

 

虚像(ウソ)ぉ……」

 

 唖然とする荒くれ者ノーワンの首を、アバレッドが掴んだ。

 

 重力や常識で彼女は止められない。アバレッドはビルの壁面を駆け上がり、宙空に満身創痍の荒くれ者ノーワンを放る。ここから墜落するだけでも大ダメージだ。

 

 だが、アバレッドの眼光は依然、ノーワンを捉えている。

 「ヒィっ」と短い怯え声が聞こえた気がした。次の瞬間、学ランの下から羽を展開したノーワンは、反射的にアバレッドから背を向けた。

 

 ヒュンと闇空を裂く斬撃。ビルの壁に張り付いたアバレッドが投擲した、剣形態の『アバレイザー』が、ノーワンの羽を切断して飛行を中断させる。

 

 その時にはもう、戦いは一方的な狩りへと変貌していた。

 

「逃げんなよ」

 

 衝撃で窓ガラスが爆ぜ散る。発射された矢の如く、ビルの壁から跳躍したアバレッドは、ノーワンを掴んで向こう側のビルに激突。

 

 激しすぎる場面転換に、息を切らして必死に追いかけた先で僕が見たのは、建物の反対側まで掘り進み飛び出したアバレッドと、廃棄寸前の掘削機と化したノーワンだった。

 

 余力に差はあれど両者は宙で自由となった。瓦礫と足並みを揃えて落下する中、アバレッドは空中で体勢を変え、躍動する。ティラノロッドが噛み掴んだノーワンを、四方八方にぶん回して壁、街灯、信号なんかにぶつけ回す。破壊に伴って街から一つずつ光が消えていく。

 

 辺りがすっかり暗闇に様変わりした頃。地上に叩き付けられようやく解放されたノーワンは、ヨロヨロと立ち上がった。

 

「……ッな!?」

 

 今日は天気が悪く、空には雲がかかっている。星の光も届かない。しかしその時確かに、電灯を失った地上を光が包んだ。

 

「ぶっ飛べ───」

「ちょ待っ……!?」

 

 空中のアバレッドがロッドで円を描く。そうして生み出された輝くエネルギーの球体。それはまさしく、地に堕ちた月という名の、災害。

 

「ティラノロッド・サークルムーン!」

 

 まるで鉄槌のように叩き付けられたエネルギー球は、激しい電撃を帯びながら荒くれ者ノーワンに衝突。雲さえも揺らすような衝撃が、ノーワンごと周囲の空間を粉砕した。

 

「すっげぇ」

 

 僕はと言うと、こんな稚拙な感想しか声に出せない。指輪能力込みとはいえ、噂を遥かに上回る異次元の強さだ。

 

「はははははっ! あっははははははははは!」

 

 今、氷川さんは笑っていた。所業は完全に悪役のそれなのだが、笑い声は年相応以下の女の子そのものだった。

 

 自分の全てを曝け出して暴れる彼女は、心の底から楽しそうだった。少し羨ましくも感じてしまうほどに……って感傷に浸ってる場合じゃない!

 

「氷川さん!! その怪人の中には人が入ってる! 殺さず中身だけ取り出して!」

 

 ……聞こえてるのかアレ。このまま中の人間ごと殺されると最悪だ。だからって僕に何ができるわけでもないけど……っていうか本当にヤバい。アバレッドがロッドを構えてノーワンに飛び掛かっている。

 

「氷川さん!!」

 

 ティラノロッドが荒くれ者ノーワンを食らう。

 だが、齧り取ったのはその外骨格だけ。抉られた傷跡から人間が───あの不良生徒、新山の姿が手を伸ばす。

 

 思い出した。学校で『真夜中の竜』の話を調べていた時、噂になるほど暴れていたのにそれで怪我をした人の話は、桜庭さん以外に一人も聞かなかった。

 

「そうか……何かを壊すのは何かの目的のため。真の荒くれ者は、暴れる理由を見失わない! 意味のない暴走はしないんだ!」

 

「なッ……!? そんな荒くれ方があったなんて……!」

 

 暴れるのは今日を忘れるためじゃなく、明日も懸命に生きるため。

 

 荒くれ者ノーワンは、その志の違いに打ちのめされている様子だった。変に律儀な怪物だ。

 

 アバレッドが新山の腕を掴んで引っこ抜き、雑に放り捨てた。いま彼がすごく嫌な音を立てて白目を剥いた気がしたが、巻き添え死するよりマシだと思ってもらおう。

 

 これでもうノーワンの中に人間はいない。あとはトドメを刺すだけ……!

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 この声は、というか完全に忘れていた。

 早々に吹き飛ばされた往歳先生───ティラノレンジャーが、赤いバイク『ロードザウラー1』に乗って復帰し、アバレッドのトドメの一撃を龍撃剣で受け止めた。

 

「……っ!?」

「さぁ、これで終いや!」

 

 そして、ティラノレンジャーの大木を薙ぎ倒すようなダイナミックな回し蹴りが、荒くれ者ノーワンに炸裂。核を失い、限界のダメージを負い、それが臨界点だったのは僕からも一目瞭然。

 

「こんな強ぇヤツらにやられるなんざ……我が荒くれに、一片の悔い無しィィィィィィィィ!!」

 

「俺こそが荒くれ者ナンバーワン!」

 

 WINNER!

 TYRANNO RANGER!

 

 荒くれ者ノーワン、大爆発。

 もういいか、これで。この暴れん坊にツッコむのは色々疲れた。

 

 ◇◇◇

 

 ノーワンとの戦いが終わり、飲み込まれていた新山も意識は戻らないが無事。全ては一件落着。

 

 ───この、派手にぶっ壊れた街並みを除けば。

 

「だから嫌だって言ったんです。私が好きにやると、他の誰かを不幸にする。優等生ナンバーワンもこれで終わりですね」

 

「でも、おもろかったやろ? たまには迷惑かけたればええんや。学校の奴らも、あの子たちも、ちょっとくらいアバレたって大目に見てくれるわ」

 

 でもこれは流石にやりすぎだと、言いたくはないが言わざるを得ない。それは本当に大怪獣が行進した後のような惨状だった。

 

 すると、先生はおもむろに壊れた建物の方を向き、ジュウレンジャーの指輪を掲げる。

 

「『復元(リゲイン)』!」

 

 開いた口が塞がらない。目の前で起こっていることが信じられない。確かに先生の指輪能力の用途は物質の復元だが、いくらなんでもだろう。

 

 気付けば、時が巻き戻ったように、壊れされた街は元通りになっていた。

 

「まぁざっとこんなもんや。君が壊したもんは俺がなんぼでも直したる! これからも好きなだけアバレればええ。だから氷川華蓮クン、俺と一緒に『戦隊』を……!」

 

「はい、やっぱりこの指輪は先生にお渡しします」

 

「そうその返事が……ってなんでやねん!!」

 

 おぉ、空に響く見事なツッコミ。関西人の本領だ。

 

「復元はありがとうございます。でも、直せるからといって壊していいわけじゃありません。私がやったことは本来許されざることです」

 

 そりゃそうだ。

 

「あースッキリした! 暴れるのは楽しかったけど、ここまでなのはこれっきりにします。私はこれからも、私の生き方を変えるわけにはいかないから」

 

 なるほどそうか。先生は氷川さんのストレス解消の場を与え、『好きに暴れたい』という願いを叶えてしまったのだ。願いへの潜在的な執着が消えたから、氷川さんはもう指輪を手放せる。

 

「これからの日々も変わらず苦しいかもしれない。でも、これからは現実と自分の両方に向き合って、もう少しだけ好きに……正しく暴れることにします」

 

 空に叫んだまま固まった先生にアバレンジャーの指輪を押し付け、氷川さんはお辞儀をして去って行ってしまった。去り際に何かお礼の言葉を言っていたようだが、先生には絶対聞こえていない。

 

「……教育者としては正しいことしたと思いますよ、往歳先生」

 

 とりあえず、この風情の無い置き物と化した先生を抱え、僕は帰りの電車に向かうことになった。

 

 ◇◇◇

 

 アバレンジャーの指輪の一件からしばらく経った。

 あれから一度、氷川さんから連絡が来た。今はバスケ部に入り、ブランクをものともしない実力で大暴れしているらしい。

 

 これを先生にも教えたのだが、心ここに在らず。

 というのも、あれから『戦隊復活計画』は進展どころか瓦解する一方。指輪の戦士は誰も聞く耳を持ってくれないし、そうこうしているうちに先生は『キョウリュウジャー』の指輪まで手に入れ、争奪戦の勝者にまた一歩近付いてしまった。

 

「どこや……本物の戦隊はどこにおるんやー!!」

 

 ほとんど毎日こう叫んでいる。

 このままだと先生が全部の指輪を揃える方が早いんじゃ……などと考え始めた辺りで、先生が研究室から姿を消した。たった1枚、書き置きを残して。

 

『金のテガソードが現れた! ゴジュウジャーの復活や!』

 

 先日、街を襲う炎のロボットを、古文書と同じ姿───最後の巨神テガソードが撃退した。戦隊考古学的知見に基けば、それは現存する最後の戦隊『ゴジュウジャー』が現れたことを意味する。

 

「っ……! はぁ、もういいや」

 

 本人がいないのに怒っても仕方ない。調査に向かってしまったら、もうしばらくは帰ってこないだろう。頭が痛くなる。本当に荒くれ者ナンバーワンだよあの人は。

 

 『本物の戦隊の復活』、それが先生の願い。

 ゴジュウジャーと出会うことで、その願いは今度こそ叶うのだろうか。無数の願いが渦巻くこの戦いは、どこへ向かっていくのだろう。

 

 ……僕が考えてもしょうがないことだ。

 荒唐無稽な物語のことは忘れて、僕は再び就活のエントリーシートに視線を落とした。

 




氷川華蓮/アバレッド
職業:ナンバーワン優等生
願い:暴れて日々の鬱憤を晴らすこと
指輪能力:暴走(バーサーク)
17歳。学校では文武両道、容姿端麗の風紀委員長として知られるが、家は親が残した借金でかなり貧乏であり、幼い弟と妹を育てるためバイトを掛け持ちし、バスケ部も辞めた。優等生でいるのは特待生で大学に入り、良い会社に入ってお金を稼ぐため。勝手に発動する『暴走』の指輪能力を発散するため、夜な夜な指輪の戦士やブライダンを狩る「真夜中の竜」として都市伝説になっていた。

荒くれ者ノーワン
秘技/特攻伝説絶対撲殺釘バット
生成ワード/荒くれ者、不良、反骨精神、人間、ナンバー1
不良学生・新山の「気に入らないものをぶっ壊したい」という願いを元にジェネレイティブされたノーワン怪人。混じってしまったヘラクレスオオカブトのように世界級のツッパリで目に付く全てを喧嘩でぶっ飛ばす。本来は手下のアーイーを統率する戦いが強みだが、何も考えず単身人間界に特攻した。
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