(X:@tokusatukyou)
担当していただいたのは「ゴーグルファイブ」です。
以下、作者様のまえがきです。
「大戦隊ゴーグルファイブ」をテーマに書く……と考えた時、頭を抱えました。
ただ、ゴーグルファイブって見てみた感じ、あんまり新体操について書いた話ってないんですよね。
科学がメインという感じなので。
なので、新体操と戦隊の冠についている言葉であり、同時に子どもたちと共にある戦隊ということで作品に通底していた「未来」を合わせた作品が書けないかなと思って、こういう話にしてみました。
自分の書きたい話に自分の描写力が追いついていない気もしますが……こういう考えもあるのか、程度の感じで読んでいただけたら嬉しいです。
①
その炎は禍々しいほどに赤く、底の見えない深い闇のように黒く、何もかもを飲み込もうとしていた。
ここは駅前にあるとある雑居ビル。
取り残された人々が消防隊の救助を待っているが、一カ所しかない入口が延焼で被害を受け、隊員たちの突入を妨げていた。
ビルの周囲では、事故の気配に引き寄せられた人々が、人だかりを作って事の成り行きを見守っている。周囲が騒然となる中、一本の赤いロープがビルに届いた。
それを伝って赤い影がビルの中に飛び込んでいくのに気づいた人は少ない。火災に巻き込まれた3人の要救助者がビルから救い出されたのは、それからまもなくのことだった。
彼らは口々に語る。銀のベル頭の怪人がいたことを。彼らに行く手を阻まれ、襲われたことを。
そして、ビルに飛び込んできた赤い戦士が、それを蹴散らし、自分たちを救ってくれたことを。
美しい動きで人々を救った赤い戦士は、全てが終わった後、ようやく飛び込んできた消防隊員に三人を託して、呼び止める動きに答えることもなくその場を後にした。
②
火は夜のうちに消し止められ、翌朝には、周囲は落ち着きを取り戻していた。
現場には規制線が張られ、消防と警察による現場検証がはじまっている。
通りがかる人波には、ビルを気にする人もいるが、多くはそのまま通り過ぎていった。大学生の大西洋子と文明あかりもその中にいた。「昨日の火事、すごかったみたいだね」とあかり。
「うん…」と答える洋子は、歩きながら横目にビルを眺める。何かに気を取られたような返事に、あかりは洋子の顔を見るが、何も尋ねず前を向いて洋子に問いかけた。
「ねえ、聞いた?火事の時、逃げ遅れた人を助けた赤い人がいたって」
ふぅ、と息を吐いて洋子は答える。
「ウワサでしょ。ネットにでてた写真もぼやけてたし、今はフェイク写真も簡単に作れるじゃん」
「そうかなあ。ウワサの中にも真実はあると思うよ。町で暴れたおっきなロボットとか、ベルみたいな頭のオバケとか。かなり信憑性は高いと思うんだ」
あかりのトークが乗ってきた。こういう時のあかりは、いつも以上に生き生きしている。
「あかり、そういうの好きだよね」
「ロマンだもん」
「ロマンねえ……」
呆れたように笑う洋子。洋子はそんなあかりが嫌いではなかった。はじめて出会った高校生の頃からいつもこうだ。自分とは正反対の彼女といる時間が心地よかった。
「ねえねえ。そういえばさ、この前学校の近くに出来たお店、知ってる?」
「もしかして、あの店?」
「そうそう。今度行ってみようよ。おごるよ~」
他愛もない会話をしながら、2人はいつもの道を歩いていく。
洋子の指には、金色の指輪が光っていた。
③
二人のにぎやかな交流は夜まで続いた。
「どうだった?」
「やっぱいいね。あそこのラーメン……」
「でしょ?罪な味だけど、そこがまた最高なんだよ~また行こうね」
学校にほど近い女子寮に二人は住んでいる。
人気のない道だが、お互いの存在を意識すればそこまでの恐怖はない。悲鳴が聞こえたのはその時だった。
絹を裂くような悲鳴とはまさにこのこと、切羽詰まった状況に置かれた女性がいるとすぐに分かった。途端、洋子の顔は険しくなる。声のするほうを見据える瞳は鋭くなった。
「あかり、できるだけ遠くに離れて、警察と救急車呼んで」
いきなりの洋子の言葉に思わず顔を見上げるあかり。
しかし、すぐに頷き、スマホを取り出した。
「洋子」
走り出そうとした足が止まる。背中を向けたまま、洋子は足を止めた。
あかりは何かを言いかけるが、その言葉を飲み込んで、一言だけ伝えた。
「気をつけて」
あかりの言葉に頷き、洋子は走り出す。
④
どんなときでも、やることは一つだ。
異変の裏には銀色のベル頭がいる。まずはこいつらを叩く。
「エンゲージ!」
それが開幕の合図だった。額の黄金のレリーフにはめられたルビーが赤く輝く。赤いマスクに白いマフラー、赤いスーツの超人「ゴーグルレッド」の登場だ。この姿こそ、洋子の今のもう一つの姿だった。走り、跳ぶ。
襲われている女性と銀色のベル頭=アーイーたちの間に割り込んだレッドは、飛び込むと同時に赤いロープを取り出し、アーイーを絡め取り、ベーゴマのように回す。たちまち目を回す一体のアーイー。
「あぶない!」
後ろから襲いかかってきた別のアーイーから身を守るために、リボンを取り出したレッドは女性にリボンを巻き付け、自分の方向に引き寄せる。
「あなたは?」
「誰でもいい。今は逃げて!」
逃げるべき方向を指し示し、理解した女性は走り出す。
追いかけて来たアーイーの攻撃を受け流し、柔軟な動きで身をかわしたあと、レッドはクラブを取り出し、踊るような動きでアーイーに打ち付ける。その打撃で戦う力を失ったのを見届けるが、すぐに悲鳴があがる。
レッドは女性の方向を見る。別のアーイーが女性に襲いかかろうとしていたのだ。
「伏せて!」
フープを出したレッドは、それを投げつけ、回転に巻き込まれたアーイーはたちまち目を回して動くことが出来なくなる。これで全てのアーイーは退治された。
女性に駆け寄るレッド。
「大丈夫?」
「なんとか……」
拍手の音が聞こえたのは、レッドが女性の状態を確認しているその時だった。
⑤
拍手は鳴り止まない。
レッドは女性を庇いながら、マスクのゴーグルの奥から音のする方向を見据えていた。
やがて音は小さくなり、暗闇から現れた金色の影が完全にその異様を現わすと完全に鳴り止んだ。
それが拍手の主であることは、すぐに分かった。
「見事だな。ゴーグルレッド」
「お前は……!」
金のベル頭。今まで相手をしてきた銀のアーイーとは違う。彼らが使わなかった人間の言葉を使う。
何かが違う。そう感じられる迫力があった。
「俺はブライダン伝説の新体操選手、クラブロ・フープ。お前と会うためにここまで来た」
「ブライダン……?それに新体操って……」
「知らないのも無理はない。お前は今までアーイーとだけ戦ってきた。俺はヤツらのまとめ役。そして、俺たちが属する組織がブライダンだ」
クラブロと名乗った金のアーイーは、両手にクラブを装備して身構える。
「それは……クラブ!?」
「そうだ。たった今言ったとおり、俺は新体操選手だ。そして、俺はお前と同じように戦士である。お前の実力を見極めるためにあれこれとお膳立てしてきたが……それも今日までだ。お前の指輪をもらう」
クラブロの背後で、殺気がじわじわと膨れ上がっている。それが風船が割れるように爆発した、そう感じられた時、クラブロは地面を蹴って洋子に向かって走り込んできた。
「逃げて!」
洋子は突き飛ばすようにして、反射的に女性と距離を取る。彼女を守ったまま戦うことはできない。標的が指輪の戦士である自分だけなら、女性が狙われることはないはずだ。
開幕の合図は腹に響く打撃からはじまった。
打撃は止まない。クラブから拳へ、回転から繋がる全身の体重を乗せたキックへ。
美しく、そして力強い。レッドは必死に攻撃をかわそうとするが、その勢いを相手は完全に上回っていた。
「お前の技は美しかったよ!」
レッドはロープでクラブをからめとろうとするが、躊躇うことなくクラブロはクラブを上空へ放り捨てる。
その時に生じた隙を突いてロープで洋子を拘束して動きを封じると、落ちてきたクラブを掴み直して叩きつける。
「ううっ!?」
「橋の崩落から車を救い出した時!火にまかれたビルでの戦い!夜道で襲われた人間を救い出した時!」
体勢を崩した洋子の胸にキックを叩き込む。それは、今までにない衝撃だった。
叩きつけられたレッドは、その衝撃で変身を解除した。
「ひとつとして例外なく美しかった。だが……それだけだ」
倒れたレッド=洋子を静かに見下ろすクラブロ。
そのまま指輪を奪い取ることもできたはずだった。だが、そうはしなかった。
踵を返し、背中を向ける。
「このまま指輪を取り上げ、献上することもできるが……それは容易い結論だ。隊長たちはもちろん、ましてやあの死神になどもってのほかだ。お前に再演の機会をやる。3日後の午後5時、赤城山へ来い。そこで決着をつけよう」
地面に倒れ伏したまま、顔をあげてクラブロを見上げる洋子。
そこに駆け寄るのは先ほどの女性だった。助けようと体を抱き起こし、その顔を見て女性は言葉を失う。
「洋子、どうして……」
「1年半ぶりかな、操、久しぶり」
打ちのめされた洋子は、力なく笑っていた。
⑥
それからのことは、あまり覚えていない。警察と救急隊が駆けつけて、事情を説明し、手当を受けたこと。
助けられた操より自分の方が重傷で、追いかけて来たあかりにも付き添われて病院で手当を受けたこと。記憶がハッキリしているのは、帰り道からだ。
「ねえ。あなたに何があったの」と操。
「どこから話せばいいのか……正直、わかんない」と洋子は答える。
操と切磋琢磨した新体操選手時代の話なのか、それとも、彼女と会っていない時期、あかりにも伝えていない戦士としての日々の話なのか。
戸惑う洋子に「私は、あなたのこと、ずっと待ってた」と操は切り出す。
あかりが見つめる中、操は続けた。
「あなたが怪我で引退したことはもちろん知ってる。選手として活動を続けるのは不可能だって」
「でも、あなたほどの才能があれば、きっとその力を活かす道は新体操の世界にまだ残ってるはずだよ。帰っておいでよ。洋子」と。
洋子は答えることなく、黙って聞いている。いつの間にか二人よりも先に出て、背中を向けたまま。
しばらく間をおいて「ごめん。今は……」その言葉だけが返ってきた。その背中を見つめて、言葉を聞いて、操は静かに頷き、言葉を返した。「待ってる」洋子は歩き出す。
「ごめんね」と操に一言言って、あかりも洋子を追いかけて歩き出す。
二人が見えなくなるまで、操はその場から見送っていた。
⑦
金に輝く指輪には、失われた古代の文明と新体操の手具が映っている。
最初にそれを見た時、運命だと思った。
翌日、練習場。洋子の目の前では、新体操の後輩たちが練習を続けていた。
「ホント、素直じゃないよねえ」
あかりの声が後ろから聞こえ、洋子は振り返る。
それが、洋子が続けたかったこと。彼女が望んだ本当の戦いだった。
練習に励む新体操部員たちの目は明るい。苦しい時はあっても曇り無き瞳で前を見つめている。
洋子はあかりと目を合わせられなかった。あかりもそれを望まなかった。一緒の列に並んで、同じ景色を見る。
「隣、いい?」
何も答えない洋子を見て、ふぅ、と息を吐いて、隣に座る。
「ホントは、続けたかったんでしょ。新体操」
「それは……そうだよ」
「だよねえ」
洋子が思わず吹き出した。どんなつもりで見ていたんだろうとおかしくなった。
笑い声に、あかりも笑って洋子を見る。洋子が見返して、二人の視線が重なった。
「洋子に何があったのかは、私は知らない。何をしようとしてるのかも。でもね、私は、その隣で、なんでもない話ができる友だちでいたいって思ってるよ」
あかりの言葉を洋子は静かに聴いていた。
「それに、夢を見る方法って、ひとつじゃないと思う」
立ち上がり、あかりは静かに席を後にする。
そのあとに残された一冊のパンフレットを見つけ、洋子は手に取った。
⑧
三日後。
町を代表する山である赤城山に、洋子の姿はあった。約束どおり、午後5時、夕陽の沈む時刻だ。
「待っていたぞ。ゴーグルレッド」
視界を遮るものが何もないひらけた場所に、両腕を組んで大樹のようにクラブロは立ち、待っていた。
「覚えておいて」
指輪を外し、銀色のテガソードにセットする。
「私は大西洋子。それが私の名前」
手拍子を打つように、一拍、洋子はときの声を上げる。
「エンゲージ!」
「ほう……」
瞬時に姿を変え、赤い戦士=ゴーグルレッドとなった洋子を見て、クラブロは腕組みを解く。
「変わったな。覚悟を決めたか」
クラブロは両手にクラブを装備して身構える。
レッドは、洋子は何も装備せずに身構える。
「行くよ!」
洋子は空中高く飛び上がる。全身をかけめぐる熱いものは、戦士としてのエネルギーであり、戦いに震える心の高揚だ。
だが、今ひとつ加わるものがある。それは「今」ではなく、「未来」のために生きる心だ。
自分の心をここに繋ぎ止めてくれる二人の友だちの顔が脳裏によぎる。
今も戦い続ける新体操の後輩達の顔が。
自分が願った「新体操をもう一度すること」は、自分だけでは叶わない。
だが、彼女たちがいてくれれば、叶えることができる。
「だから……!」
額のルビーが赤く輝く。前方宙返りの姿勢で、車輪のように回転する。その姿勢から繋がる洋子のキックがクラブロに向けて炸裂する。
「私は負けない!!」
「ぬぅっ!!」
クラブを交差させ、防御の姿勢を作るクラブロ。衝撃に耐え、踏みとどまろうとするその足が、地面をえぐった。後方宙返りで距離を取った洋子はそのまま着地して身構える。
すぐに体勢を立て直したクラブロは、距離のある洋子に向かってフープをブーメランのように投擲するが、すぐにジャンプで体をひねって回避する。その動きは、まるで鳥のように優美だった。
「その姿、まるで……!」
夕陽を背に飛び上がった洋子は、ボールを取り出し、それを体の一部のようにして足先へ伝わせ、空中高くからクラブロめがけて蹴り込んだ。
一瞬うまれた隙を突くように胸にボールの直撃を受け、姿勢を大きく崩したクラブロだったが、すぐにクラブを使ってそのボールを打ち返す。
洋子は同じくクラブを使ってそれを受け止め、体を回転させるとフープに持ち替え、体ごと勢いよく回転する。
フープと一体となったかのような動きは、じりじりとクラブロの体を傷つけていった。
立ち上がり、反撃を試みようと体勢を立て直すが、それを許さない洋子のリボンがクラブロの体を絡め取る。
「私は、もう迷わない!」
洋子はロープを構え、そこにエネルギーを注ぎ込むように赤いルビーが光り輝いた。
ロープはムチのようにしなり、必殺の一撃がクラブロをとらえる。「私は、私の未来を見つけたから!」それが決着の合図だった。
「見事だ……」
まっすぐに洋子を見つめ、クラブロは呟く。
「最期に最高の演技が見られて、俺は満足だ」
火花が体から吹き上がる。
「これからは、お前たちの時代だ……!」
それが、クラブロの最期の言葉になった。夕陽の沈む赤城山の山頂で、ひとつの戦いが終わった。
勝者はゴーグルレッド。大西洋子。
⑨
黒い死神が現れたことを洋子は覚えている。
それが、ブライダン第四の幹部、リングハンター・ガリュードだ。
彼が持つテガジューンから放たれた凶弾は、戦い疲れた洋子の体を捉え、その力は失われた。
だが、指輪を失っても夢はまだ心の中で生きている。
一歩踏み出したその「夢」は、その「未来」は誰も奪えない。3ヶ月後。
洋子は練習場にいた。目の前には新体操部の選手たちと操がいる。
しかし、今までのように観客席にいるのではない。選手たちと同じ場所で、同じ視点で、新体操部の活動を見つめていた。洋子は今、新体操部に参加している。選手としてではなく、サポーターとして。
将来的に指導者となるために資格の勉強も重ねていた。
そこに指輪は無くても洋子の「夢」は続いている。「願い」が叶う「未来」に向かって。
「よかったね。洋子」
観客席からあかりはその姿を見つめる。
洋子が戦いから離れた時、隣でいられる「友」でいるために、あかりの日々もまた続いていく。三人の日々が語られることはもうない。
しかし、輝く未来に向かって、三人の物語が終わることはない。
〇戦士の設定
ゴーグルレッド
指輪/センタイリング ゴーグルファイブ
契約者/大西洋子
職業/女子大生(怪我で引退を余儀なくされた元新体操学生日本代表)
願い/もう一度新体操がやりたい
ブライダンの幹部に指輪を献上するために暗躍していた金アーイー「クラブロ・フープ」の一味と戦い、勝利する。ガリュードの襲撃で指輪は奪われたが「次世代に夢を託す」指導者になるという願いを見つけ、彼女の新しい戦いがはじまった。
以下、作者様のあとがきです。
どうでしょうか?
自分としては、精一杯書いたつもりです。
最終的な結末として、指輪を必要とせずとも夢は追えるという結論があったので、こういうお話になりました。
自分の中ではもっとああしたらよかった、こうすれば……という後悔はありますが、精一杯書いた彼女たちの物語は、これからも残っていくと思います。
目を通していただいて、ありがとうございました。