ユニバース戦士補ジュウ計画   作:壱肆陸

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本日は明の星さんの作品。
(X:@hosi_akeno)

担当していただいた指輪は『ハリケンジャー』です。


巻き起こせ伝説!ギャルと美容師

 ビルとビルの狭間。狭い路地で俺は目の前にいる赤い鳥の戦士と剣を交わしていた。

まあ、かくいう俺にも赤いし、鳥の意匠は少しあるんだが…俺が変身した姿はアイツよりも“忍者寄り”といって良いだろう。

 

 

「“回転(スピニング)”!」

 

 

 あらゆる物体・現象を風車のように回転させる指輪の能力を発動した。身体をぐるんと回転させれば、俺の周囲に竜巻が発生する。赤い突風の流れに乗って俺の身体も宙に浮いた。目線を下げると、あまりの風圧に鳥戦士も身動きが取れないようだ。絶好のチャンスだ。

 

 

「───超忍法“空駆け”ッ!!」

 

 

 硬い壁を蹴り上げ、足場がない筈の空中を駆けて赤い戦士に接近する。

 度肝を抜いた相手の隙を突き、忍刀・ハヤテ丸を一閃、二閃と振るえば鳥戦士は膝を付いて倒れた。ダメージの許容量に耐えられなかったのか、火花を散らしながら変身が解除されると奴が持つ指輪が俺の手中に収まる。

俺が勝利した勲章だ。

 

 

「ライブマン、か…確かに指輪は貰ったぜ。今度からはお客様として対応してやるよ」

 

 

***

 

 

「ハイ、こちらご確認下さい」

「わぁ〜!良い、めっちゃ良いです!前より髪質もサラサラで…!」

 

 

「やっぱヘアカットするなら忍宮さんだなあ」

「お客様が求める美しさをこの手で実現させる。俺の美容師人生のモットーですからね」

 

 

「今日はありがとうございました〜!」

「またのご利用をお待ちしております!」

 

 

 美容師として更なる信頼と知名度を会得しつつあることへの高揚を隠しつつ、笑顔で店を出る客に営業スマイルを向ける。

 客が店を出た瞬間を見計らい、胸元にある【忍宮(しのみや)貴利矢(きりや)】と記載されたネームプレートのズレを修正して、業務に戻った。

 最寄りの駅から近い美容室・Cut Club_HUM(ハム)。それが俺が働いてる職場だ。

 

 

「いらっしゃいませ〜」

「ハイどうも。忍宮ちゃんも元気そうで」

「あ、岩野さんじゃないですか!お久しぶりです!」

 

 

 ギランと際立つサングラスを掛けて入店してきたのは、お得意様の岩野さん。

 この店の常連で、俺が下積みを重ねてきた頃からの顔見知りだ。

 

 

「最近オニューのグラサン手に入れてねえ。髪型もこいつにベストマッチしたもんに仕上げて貰おうかな〜なんて来てみたわけよ」

「良いですね〜イケてる男の勲章!って感じで!」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの〜♪で、ぜひ忍宮ちゃんにお願いしたいんだけどさ」

「任せて下さい!カットも良いんスけど…」

「?」

 

 

 店内にあるメニューブックを岩野さんにも見せる。

 

 

「ツーブロックに刈り上げて先端だけ染める…ってのもイケてません?」

「いいね〜!やっぱ忍宮ちゃんだわ!じゃあ今日はそれでお願いね」

「畏まりました!」

 

 

 こうしてご贔屓にしてくれる常連には手厚いサービスとアドバイスを与える。

 美容師としての名声を得るために必要な営業の一環だ。シャンプーで頭髪の汚れを落としながら、岩野さんとの雑談にも応じていく。

 

 

「しっかし忍宮ちゃんもさ。この店で働いてから大分経つよねえ。6年ぐらい?」

「そうですね……10年前に実家飛び出してから、都会のこの店で研修の日々でしたし。カット任せてくれるようになってから大分経ったというか、俺も一人前になれたんだなぁ〜って常々感じますよ」

「努力の成果ってヤツだねえ」

 

 

 髪に付着した水分を拭き取りつつ、シザーでオーダーに沿った髪に整えていく。洗髪という儀式を終えた後は、俺の培われた腕前が試される、いわば芸術の時間の幕開けだ。

 

 

「まだこんなモンじゃ終わりませんよ……いつか独り立ちして、将来は俺だけの美容院を持つんです。都内一の敏腕カリスマ美容師として有名になるのが俺の夢ですから」

「『俺だけのカリスマ美容師伝説!』って張り切ってたねえ」

 

 

 そう、カリスマ美容師。

 明治時代から続く老舗の床屋が俺の実家だが、そんな古臭いものよりも上京して美容師として働く道を選んだ。

 爺ちゃんの代から続く伝統なんぞ、はっきり言って知ったこっちゃない。

 人生ってのは一度きりだ。誰かが築いたブランドにあやかるんじゃなく、自分だけの足跡を遺して生涯を全うする。それこそが一番美しい生き方。

 俺だけの、俺にしか創れない“伝説”として名を馳せること。それが唯一無二の願いだった。

 

 

 

 

 そんな俺の願いが天にでも届いたのか。

 数ヶ月前、金色の巨人が目の前に現れ、手の形をした銀のガントレットと指輪を託してきた。

 

 

“忍宮貴利矢、契約だ”

“我が名はテガソード。全ての指輪を集めた者の願いを叶える。それが指輪の契約”

“お前の願いを言え”

 

 

“指輪が齎すあらゆる闘いで頂点を目指せ”

“さすればお前の願いは叶えられる”

“ナンバーワンになれ…!”

 

 

 ガキの頃、『天は二物を与えず』なんて言葉を亡くなった爺ちゃんから聞いたが、全然そんな事ないじゃないか。これはまさにカリスマ美容師に最短で到達できる片道切符。……尤も業務優先である以上、指輪争奪戦には中々参加できないし、収穫もライブマンの指輪1個だけだ。

 どんな強豪が敵だろうが、必ず勝ち上がってみせるさ。

 

 

「そういや岩野さん、最近サングラス屋空けてるって聞きましたけど、なんかあったんです?」

「あ〜…まあ色々と野暮用がね。……二人掛かりじゃなかったら、倒せたんだろうなあ。なんでいきなり乱入してきて…」

「?」

「いやいや、コッチの話!」

 

 

 指輪の戦士・ハリケンレッド。

 我流の伝説を志す美容師。

 二つの顔を持つのが、この俺だ。

 

 

***

 

 

 一日におけるカットやヘアアレンジの予約件数は多い。結婚式にデート前のお洒落、人生初のイメチェンとその客層は幅広い。

 

 

「フフフ、将来検事界ナンバーワンになる私に相応しい髪型ですね…」

 

 

「やっぱ染めて正解だった…!この色も髪型も、滅茶苦茶格好良いです!これでマキちゃんも推し活辞めて俺に見惚れてくれるかなぁ……」

 

 

「散髪ありがとうございました。今度、広場でちょっとした路上ライブをするので、良かったら忍宮さんも来てくださいね」

 

 

信頼できる美容師としての名声。

 それを必要としている身としては嬉しい悲鳴なのだが、指輪争奪戦に参戦する時間が作りづらいのはやはり歯痒かった。

 そんな中、客との雑談で興味深い情報をよく耳にする。

 

 

 近頃、「のーわん」とかいう輩とカラフルな指輪の戦士による“ナンバーワンバトル”なる試合が勃発しているらしい。

 それも指輪争奪戦そっちのけで、だ。

 肝心の試合内容はおせっかいだの、昭和だの、どれも俺が目指すモノとは関係ないジャンル。

 こっちが目指すべきナンバーワンは、カリスマ美容師一択だ。だからこそ、周りの連中が困っていようが俺は静観を貫いた。戦うなら指輪の戦士同士の戦いに限定すればいいんだから。

 

 

***

 

 

 客足が落ち着いている時間はいつでも接客対応できるように、この店で愛用してる道具、もとい俺の手足たちの手入れだ。

 シザーとヘアダイの劣化確認、スプレイヤーの補充とやる事は多い。

 完璧な道具を整えてこそ、芸術(ヘアセット)というものは成り立つんだ。

 チリン、と鈴の音が店内に響く。お客様のお参りだ。既にヘアカットを済ませた店長と同時に接客に入る。

 

 

「「いらっしゃいませ〜」」

「なるほど、ここが今巷で有名な…」

「…ッ!」

 

 

 足を踏み入れた男の顔を視て、俺は目を見開いた。

 近年、人工知能を搭載した設備機器開発を軸に企業展開しているクオンAIコンツェルン。その代表取締役である“クオン社長”だ。

 

 

「事前予約無しで申し訳ないが、トリートメントをお願いしても良いかな?」

「ええ、勿論構いませんよ。こちらでご案内します」

「ああ、君じゃなくて。忍宮貴利矢くんだったかな……そこの彼にお願いしたいんだ」

「え、お……僕に、ですか?」

 

 

 朗らかな笑みを浮かべながら、社長は数ある美容師の中から俺を指名してきた。あの大手企業を率いる大御所からの名指しで内心舞い上がるのを抑えつつ、スタイリングチェアに案内する。

 腰を下ろすついでに後ろで結ったヘアゴムを外してくれると、絹のように艶がある黒髪が俺の目の前に広がる。僅かながら染めている白いメッシュカラーが夜の闇を彷彿させる黒髪を際立てているように見えた。やり慣れているクロス掛けも、この時ばかりは緊張で手が震えてしまう。

 

 

「じゃあ、よろしくね」

「ハイ。…付かぬことをお聞きしますが」

「ん?」

「お客様とは今日初めてお会いした筈なのですが、どこで僕の事を…?」

「ああ、その事か」

 

 

 くすり、と笑いながら鏡に映ってる俺の顔を見て語る。

 

 

「ウチの女性社員の間で『今イチ押しのカリスマ美容師』『メイクアップするならHUM(ハム)のイケメン店員』と話題になっていてね」

「ッ!カリスマ……僕が、ですか」

「更に調べていくと、イカしたヘアアレンジなら男女問わない、なんて口コミもあってね。是非僕も利用しようとここに来た次第さ」

「……ありがとうございますッ…!」

 

 

 客が求める美しさを実現させる。

 カリスマ美容師としての名声を得るために培った技術とモットーが“信頼”という形で世間に届き始めている事実に胸の内が歓喜で満たされていく。伝説が築かれる一歩をやっと踏み出せたのではないか?そんな期待まで湧き上がる。

 

 

「そして何より…」

 

 

 そう言いながら、社長はクロスから右手を上げる。次の称賛の言葉を期待する俺の目に現れたのは……その手の甲にすっぽり収まる白い手形の銃。

 

 

「指輪の戦士・ハリケンレッド」

「……ッ?!」

「業務中は指輪を外してるみたいだね」

「まさか、アナタもテガソードから……」

「僕の使命は君たち指輪の戦士を狩ること。今日の獲物は君だ。……どうする?今ここで仕事を放りだして逃げるか?」

 

 

 鏡に映る社長の圧に俺は物怖じしてしまう。周囲にはまだヘアカットやヘッドスパに応じてる同僚と店長。そして、この店を信頼して足を運んでくれた客がまだ残っている。

 

 

「……逃げはしない。それに注文のトリートメントは最後までする」

「ほう?」

「美容師として一度受けた注文は最後まで完遂する。職場で争うのは無しだ。終業時間になればアンタと戦ってやる」

「職人だねえ」

 

 

 

 

 終業後、路地裏でクオン社長と対峙する。

 指輪の戦士と違い、奴は白い手形の銃で変身するらしい。短剣としての役割も持つ俺の銀の手とは対照的だ。

 

 

<ガリュード>

 

 

顔と胸の✕が際立つ不気味な容姿……形によっては十字にも観えるから、十字男とでも呼んでおこう。

愛用の指輪を180°回転させると、3色の唐傘から赤い忍者の絵柄に変わった。

指輪を銀の手に嵌める。

 

 

「エンゲージッ!」

<センタイリング!>

 

 

 頭の中に流れ込んだリズムに合わせて、銀の手の平を叩く。

 ……忍者っぽいから一度印の字を結ぶポーズを挟むのは俺のちょっとした拘りだ。拍手を終えると周囲に赤い嵐が吹き荒れ、鎖帷子と赤い忍び装束が俺の全身に装着された。

 

 

<ハリケンジャー!>

 

 

 

 

 

 

\いざ掴め、ナンバーワーン!!!/

 

 

\Go!Go!Go!ユニバース!/

 

 

「実家の伝統なんて知った事じゃない。作ってやるさ、俺だけの花道!」

「カリスマ美容師・ハリケンレッド!」

「俺の伝説の1ページにしてやるよ…!」

 

 

\Go!Go!Go!ブライダン!/

 

 

「お前の全てを奪い尽くす」

「揺らめく赤と黒の激情」

「リングハンター・ガリュード」

「お前達に罰を下す…」

 

 

\ナンバーワンバトル!レディ・ゴー!/

 

 

 どこからか聴こえる男と応援団らしき声援により、火蓋が切られる。

 お得意の剣術や竜巻で制圧しようとするが、まるで歯が立たない。

 ハヤテ丸による剣戟も的確に受け止められ、回転(スピニング)による竜巻も白い銃からの発砲で封殺される。

 以前戦った赤い戦士とは明らかに格が違った。

 

 

「あまり使いたくねえけど…ドライガンッ!」

 

 

 指輪からドライヤー型の銃を召喚し、十字男めがけて発砲する。客の髪を乾かすか、髪質を整えるのが本来の機能であるドライヤーを戦いの道具にするのはやはり気が引けるし、美容師的には使いたくない。しかし、こちらの手札を全て使い切らないと奴には勝てないし、出し惜しみしてる余裕はもう無い、と俺は確信していた。

 高温の熱波が命中する寸前、奴がマントを翻すと俺の竜巻をも上回る突風が周囲に巻き起こる。

 熱波は掻き消されてしまった。

 

 

「こちとら伝説のカリスマ美容師になる男だぞ……こんな所で終われるかよッ!」

<センタイリング!>

<ライブマン!>

 

 

 勝ち取った指輪の力で新たな剣を召喚する

 手に持った瞬間、“ファルコンセイバー”というワードが俺の脳裏によぎった

 

 

「ファルコンブレイクッ!!」

 

 

 エネルギーを纏わせた刀身を我武者羅に振るうが、十字男はまるで動じず、白い銃を嵌めた右手で全て受け止めていく。

 終いには奴が振るった手刀で、刀身が折れてしまった。

 

 

「そんな…!」

「同じ忍者同士遊んであげな」

<ニンニンジャー>

 

 

 白い銃から現れたのは、顔面にデカい手裏剣を張り付けた赤い忍者。

 幾分か俺よりも忍者っぽさを感じた。

 そいつはガマガエルのような銃を構えると、銃口から舌が伸びて俺の身体に巻き付かれた。前言撤回する。コイツより俺の方がよっぽど忍者らしい。

 

 

「これでまた1人…」

 

 

 両手を塞がれ、身動きが出来ない状態で白い銃からの連射を浴びる。絶えることのない銃弾の雨を受け続けるしかなく、誰の目にも届かない路地に俺の悲鳴は響いた。

 過度なダメージに耐えられなかったのであろう。

 膝から崩れ落ちると、赤い忍装束が解かれ、指輪の戦士の証である銀の手まで俺の元から離れる。

 俺の願いを叶える切符たる指輪は、あの十字男の手に握られていた。

 

 

\WINNER!ガリュード!!/

 

 

「歯応えないねえ」

 

 

 微塵も興味のないような声色で十字男は姿を消した。

 “敗北”。“脱落”。

 受け入れ難い現実を目の前に突き付けられる。

 

 

「……クッソオォォォォ!!!」

 

 

 屈辱と後悔。

 胸の中にごちゃごちゃと煮えたぎる想いを目の前に広がっている空にぶつける。

風も吹かない、澄んだ空一つ見えやしない、濁った曇り空だった。

 

 

***

 

 

 美容師という肩書きだけが残された俺は、Club_HUMでの業務を続けた。

 元より美容師としての手腕で客からの名声を築いていた中で、指輪争奪戦の選手に選ばれたのだ。脱落したショックで引き篭もるなんて、ダサいことはしない。

 最速で到達する切符を紛失しただけの話なのだ。

 いつも通り、美容師としての腕で俺の名声を上げ続けていけばいい。

 

 

「忍宮くん、このシザー、君のだよね?休憩室に置き忘れてたよ。ハイ。」

「え!?…ホントだ、ケースに入ってない…!すいません店長」

「それと、お願いしてた床の清掃。さっきのお客さんの髪、まだ掃けてなかったでしょ」

「あ、わ、忘れてた……すぐ取り掛かります…」

「大丈夫?ここ最近、カットしてる時もお客さんと話してる時も暗い顔だし、体調悪いんじゃない?具合悪いんだったら、早めにあがっても…」

「いや!俺……僕が気を抜いていたのが悪いので…!ちゃんと気を引き締めて専念します!」

 

 

 あの戦い以降、普段愛用してる道具を持ち忘れたり、勤務態度に乱れが生じたりと、どうにも本調子になれない。普段のカットやヘアセットも成り上がる野心と私的な拘りがじわりと薄れ、半ば義務的に応じているように感じてきた。

 気が滅入るほど争奪戦に熱くなってたとでもいうのか。戦う事よりもメインはこっちの筈なのに。

 勝ち上がれない。成り上がる事もできない。

 伝説も築けれなくなるようなら、俺には何が残るというのだ。

 自問自答をしながら掃き掃除を終えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「───おっじゃましま〜す!」

 

 

 チリリリリン、と入口の扉が開く鈴の音。快活な少女の声。それらは同時に店内に響き、店内の誰もが入口に目を向けた。

 

 パフスリーブタイプのブラウス。

 首元できらきらと輝くネックレス。

 長くスラッとした脚を目立たせる事を意識したであろうミニスカとストッキング。

まだ成熟しきってない幼さを残しつつも、理想とする大人らしさを追求したであろうその容姿から“ギャル”という単語が俺の脳裏によぎった。

 

 

「いらっしゃいませ〜」

「ここ、都内で一番人気な美容院なんだよね。ウチもヘアセットして欲しいんだけど♪」

「畏まりました。お客様ご予約の方は…?」

「??今日初めて来たし?」

 

 

 十字男といい、やたら予約しない客と会うな俺。

 営業スマイルを崩さず胸の奥でボヤいていると、少女の指に嵌められてるモノに気付く。

それは指輪争奪戦に参加した証でもあるユニバースリング。燃え盛る炎と家紋が描かれたのぼり旗が描かれた絵柄が際立っていた。

 

 

「指輪持ち…!」

「お兄さん、この指輪知ってる感じ?」

「あ、いえいえ。め、珍しい形で綺麗だなあ〜なんて想いましてね」

「でしょ〜♪ウチのギャルマインドの象徴ってやつ?“いっしんどーたい”なんだよね」

 

 

 既に退場した身でありながら、指輪持ちとの対峙に身構えるなんて、我ながら情けなく感じる。自身の醜態に気が滅入る中、ギャルマインドというワードが気になり尋ねてみた。

 

 

「ギャルマインドってのはね。自分を貫くこと」

「自分を貫く…」

「そ。この格好、周りからしたら近寄り難いイメージぷんぷん丸らしいんだけどさ。それでも自分が好きな事や誇りにしているものを貫いて生きていくこと。それがウチのマインドってやつ♪」

「……ある意味、似たもの同士か」

「?」

「注文内容はヘアセットでしたね。でしたら俺……いや僕が承りますよ」

「マジ!?おじさんめっちゃしごできじゃ〜ん♪」

 

 

 目の前の少女から感じた“魂”。

 俺の中に灯っていた炎と同じ熱さに惹かれたのだと想う。彼女のヘアセットは俺が引き受けなければならないような気がした。

……それはそれとして、おじさん呼びは凹んだ。

 

 

 ストレートアイロンで彼女───一河緒乙さまの髪を巻きながら、鏡越しに彼女と話す。

 

 

「ウチってズッ友から姫なんて呼ばれてめ〜ちゃ慕われてるからさ、皆にとって頼れるカリスマにもなりたいんだよね」

「カリスマ、か。僕もお客様から頼られるカリスマ美容師を目指して腕を磨いているので、お互い目指してる方向性は似てるのかもしれませんね」

「超イケてんじゃん!ってかウチここ来て良かったかも」

「というと?」

 

 

 ふふん、と鏡越しに俺の目を見て彼女は告げる。

 

 

「ウチ、まだまだギャルとしては“はってんとじょー”ってやつ?イケてる髪型とかまだあんま分かってないんだけど……カリスマ目指してるおじさんがヘアしてくれるなら絶対安心だし、ウチもカリスマギャルになれそう!!」

「……そこまで期待してくれてるなら、応えないわけにはいきませんね…!!」

「おじさん、超ぶち上げじゃん♪」

 

 

 カリスマギャルとしてナンバーワンを目指してる彼女の願いを、無性に叶えたくなってきてる自分が居た。

 指輪争奪戦での敗退は未だに悔しいし、願いを叶えられるチャンスがまだ残ってる目の前のこの娘は正直羨ましい。

 だがそんな鬱屈した想いを払拭するように、一河緒乙の髪に俺は夢中になっていたのだ。

 この娘が志すギャル道を、俺の美容師人生で培われた手腕でより一層輝かせてみたい。

心の底からそう思った。

 

 

 

 

 無事、ヘアセットを終えて会計まで済ませた後も少女は俺が手掛けた髪型に興奮していた。

 

 

「すっご〜!超イケてる!こんなお団子ヘア全然知らなかった〜」

「今のトレンドを取り入れて、ギャルらしさを追求した結果です。可愛いですよ」

「ありがと!おじさん!」

「───あ、居た!おとぷんさま〜!!」

 

 

 入口から新たに入店してきたのは金髪の制服ギャルとガングロの制服ギャル。

彼女たちがこの娘のズッ友らしいが、後者は絶滅危惧種じゃなかったのかアレ?

 

 

「向こうでギャルの化け物が町の人たちに迷惑かけてるみたいで…!」

「しかもそいつ、姫差し置いてギャルナンバーワン!だなんて名乗ってるんですよ」

「はぁ〜?!マジぷんぷん丸なんだけど!人様に迷惑かけるギャルなんて許さないんだから!」

 

 

 おそらく巷を騒がす、のーわんとかいう連中の一人なんだろう。

 ギャルナンバーワンまで居る辺り、ジャンルに事欠かないなあの集団。

 

 

「じゃあおじさん、同じカリスマ目指す者同士、頑張ってこ〜ね!」

「ハイ!ご来店いただき、ありがとうございました!」

 

 

 “お互い頑張ろうな”

 ほんの小さな声で囁き、彼女の背中を見送った。

 俺が手掛けた髪型を携え、自らの生き様を貫いて行こうとする彼女の姿は輝かしい。遠目からでもよく分かった。いつもの意図的な営業スマイルと違い、自然と口角が上がった気がした。

 

 

「伝説の序章は、これからだっ…てな」

 

 

 指輪の有無は関係ない。

 カリスマ美容師ナンバーワンに俺はなるんだ。

 心機一転する俺を祝福するかのように、どこからか吹いたそよ風が頬を撫でた。

 

 

<了>

 




忍宮貴利矢(しのみや きりや)
センタイリング/ハリケンジャー
職業/都内の美容師
願い/カリスマ美容師になる
能力/回転(スピニング)
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