(X:@HEROdaisuki918)
「マスクマン」の指輪の物語になります。
「よし、それじゃあ今日の稽古はこれまで!」
稽古場に劇団曼荼羅主催――
「
光から声を掛けられ、荷物を纏めていた人物――
「はい。本番までにもっと身体も仕上げておきたいですから」
「真面目だな輝は。今だってしっかりできていると思うぞ?」
団員の
「でも、ベストにはまだまだです。失礼します」
輝は団員達へ頭を下げ、稽古場を出ていった。
「いやあ、相変わらずストイックだなあ」
「ここ最近は、身体もですけど演技も磨きがかかりましたもんね」
団員は口々に輝を称賛する。輝がこの劇団に入ったのは一番最近ではあったが、今では劇団で一番の花形といえる目覚ましい活躍を見せていた。
元々凛々しい顔立ちに加え170を超える身長のスタイルの良さ、それに加えて演技や役への向き合い方、それに伴う演技力の高さは見に来たものを魅了し、「劇団曼荼羅の神藤 輝」といえば演劇界の中では中々の知名度となっていた。
劇団員からの称賛を受け、光は改めて自分の勘が間違っていなかったことを痛感する。というのも、輝を劇団に誘ったのは光自身なのだ。
光は輝を誘った時の事を思い出していた。
光が輝と出会ったのは、母校の大学で行われた学園祭の時であった。
旧友から久々に会わないか、と声を掛けられ向かった大学の雰囲気は自分がいた頃に比べて建物も綺麗になっているものの、端々に自分たちがいた時の面影を残しており、旧友との思い出話にも華が咲いた。
歩いていると光はステージでは開催されている男装コンテストなるものに目が行った。女装コンテストのようなものは自分たちの時にもやっていたが男装というのは珍しいな、とステージの方で歩いていくと丁度最後の出場者が登壇するところだった。
光はその登壇した人物を見て目を奪われた。その立ち振る舞い、表情含めて脇にいた他の登壇者とはオーラが違っていた。会場も同様だったようで、ひとたび姿を現すと会場は大きな歓声に包まれた。もはや優勝は言うまでもなかった。
イベントが終わると、光はステージの方へと歩を進めていた。先ほどの歓声で人は多く集まっていて、人波をかき分けて進むのは時間を要した。ようやくステージの近くまでたどり着くと目的の人物は丁度友人との会話を終えて、一人になったタイミングだった。
「君、少し話をいいかな?」
突然声を掛けられ、振り向くと同時に警戒のまなざしを向けられる。無理もないだろう、一人になったタイミングで声をかけてくる見知らぬ人物など不審者でしかない。
光は出来る限り安心させようと、少しぎこちなくなりながらも明るい笑顔で話かける。
「良かったら、うちの劇団に参加してくれないか?」
それこそ、光と輝の初めての出会いであった。
輝と光は大学から場所を移し、ラーメン屋のテーブルで向かい合っていた。
ここは光の友人の
大学で声をかけて、落ち着けるところで話をしようと言ってラーメン屋に連れてくるのは我ながらどうなのかと光は思っていたが、他に人がいたらそれはそれで怪しまれそうなので、稲津に甘えてこの場を借りていた。
「それで、どうして僕を誘ったんですか」
輝が先に口を開く。光は改めて輝を見据える。今は男装を解いているがそのきりっとした眼に短く切り揃えた髪、座っていてもすっと伸びた姿勢はやはり目を奪われる。光は確信をもって輝へ答える。
「……一目見て、目を奪われた。君の佇まいは普通とは違うオーラがある」
光は素直に思いを伝えていく。
「良い芝居を作るのは勿論演出やホン、観客だってもちろんだ。でも、その前にはまず良い役者がいないと成り立たない。君にはそんな素質を感じたんだ」
輝は口を挟むことなく、光の言葉に耳を傾ける。
「君のその才能を是非、うちの劇団に欲しいんだ」
二人の間に沈黙が流れる。光はここにきて状況を振り返り、後悔し始めていた。自分が感じた気持ちに嘘はない。目の前の彼女には人を惹きつける、魅せるオーラがある。だが、初対面の人間からいきなり劇団に入らないか、と言われて一方的に思いを伝えられて、場合によっては通報されてもおかしくないだろう。実を言えば今までにもこうして劇団へ誘った経験は幾度かあった。しかし、大体の場合には断られており、稲津からも唐突な声掛けはやめた方が良いんじゃないかと言われたこともあった。だから最近ではそうした声をかけるのも留まっていたのだ。
だが、今日見た彼女の姿はそんな思いすらも止められないほどのオーラがあった。そう思わせるほどのものを彼女に感じたのは間違いなかった。
「……本当に」
輝は恐る恐る尋ねる。
「本当に、僕にそんなオーラがあるのかな?」
輝も今までにモデルなどの誘いを受けた事があった。だがそのどれにも感じるものはなかったのだが、今目の前で劇団の主宰と名乗っていたこの人物の誘いには何か心動かされるものがあった。
「勿論だ」
光は自信をもって答える。光の迷いのない目を見て輝は、本当に目の前の光が自分に感じたオーラ、というものがあるのだろうと思わされる。
光の言葉を聞いて、輝は答えた。
「分かった。やってみる」
「ほ、本当か!?」
光はもう断られるだろう、という思いでいたのでこの答えには少々面食らい思わず立ち上がってしまう。
「本当にって……誘ったのはそっちだろう」
いきなり立ち上がった光に驚きつつも、輝は突っ込む。
「い、いやすまない……。ありがとう」
光は頭をかきつつ、また座る。とにもかくにも、こうして輝は光の劇団に参加することになった。
「良かったねえ、光ちゃん」
仕込みをしていた稲津が声をかける。これまでにも同じように劇団に誘っては断られて、落ち込む光を見てきたこともあっただけに、こうして彼女が誘いを受けてくれたことは稲津にとっても嬉しかったのだ。
「ああ、ありがとう!」
稲津に向き合い、光は改めて礼を述べる。
「よし、それじゃあ今日は俺がごちそうだ。輝ちゃん、良かったらうちの味噌ラーメン、食べていってよ」
稲津はそう言うと早速二人分のラーメンの準備を始める。祝いの席がラーメン屋とは何とも不思議だな、と輝はふっと笑う。
これが、輝と光、そして劇団曼荼羅との出会いであった。
輝は稽古の後に向かったスポーツジムでルーティンのトレーニングを終え、最後のストレッチを行う。汗で湿り、肌に張り付くウェアもしっかりとトレーニングを行えた証拠であると実感しながら身体をほぐしていく。もうそろそろ日も変わろうという時間のジムには人もまばらで、ストレッチをする自分の息遣いもはっきりと感じられた。
ストレッチを終え、更衣室へと戻りロッカーを開ける。すると輝は周りに人がいないかと辺りを見回す。トレーニングの場所にも人はまばらで、こちらに入っていく人もいなかったが輝は改めて人がいないことを確認してカバンの中から一つの指輪――マスクマンのセンタイリングを取り出した。
輝が指輪を手にしたのは劇団曼荼羅での最初の公演を終えたその日だった。
公演の打ち上げを終えて、家に帰った輝は荷物を置こうとすると家を出る前には何も置いていなかったはずの机の上にポツンと置かれた何かが目についた。それは、指輪の様であったが、指輪というには中々に奇怪な見た目であった。指を通すリングの上には大きな丸い金の装飾が付いており、その表面には一つの画が描かれていた。両手の親指と人差し指の間で三角形を形作った手の絵の奥には赤い戦士が宙を舞っているようなのだが、一体これは何を描いた絵なのだろうか。
指輪を見ていると、輝の周りはいきなり闇に包まれた。停電か、と思ったがそのようなものではなく世界で輝だけが一人取り残されたかのように、周りには何もない真っ暗闇であった。輝は何が起きたのかと辺りを見回していると、どこからともなく厳かな声が響いた。
「……願いを言え、神藤輝」
声は聞こえるが、その声の主はどこにも見えない。
「誰だ! ここはどこだ!」
声の主に問いかける。
すると、輝の目の前で光が集まり、声の主――テガソードの姿を形作る。
「我が名はテガソード。全ての指輪を揃えた者の願いを叶える。それが、指輪の契約。お前の願いを言え」
テガソードは輝に問いかける。
「指輪の、契約?」
「お前が手にした指輪だ。指輪がもたらすあらゆる戦いで、頂点を目指せ」
すると、輝の脳内には指輪の戦士たちが繰り広げる戦いのイメージが流れ込んできた。
莫大なる元気にて戦う恐竜の戦士、正義を全開にして戦う車の戦士……。姿は異なれどもその誰もが赤いスーツに身を包み、それぞれが輝の持つものと同じような指輪を持って己の願いの為に戦っていた。
輝はその流れ込む戦いを見ても決して嫌なものは感じていなかった。その戦いはもっと暖かな、それぞれの願いと願い、もとい信念をぶつけ、互いを知る戦いであるように思えた。思いをぶつけ、相手を知る。この戦いはただ戦うだけのものではなかった。
「願い……」
輝の中には劇団の事が思い浮かび、ある日の事が脳裏を駆け巡った。
輝が劇団に加入して少しした頃。輝は光と一緒に「スタジオあんぐら」に来ていた。スタジオは最寄りの駅から少し歩いた建物の地下に位置しており、スタジオまでは二人並んで歩けば狭く感じるほどの狭い階段を降りていかなければならなかった。
「どうだ、輝。ここが今度の公演の会場だ」
実際にはステージとなる場所に光が立つ。輝は光と向かい合う形で客席となる場所に立つ。客席、といっても今は階段状の床になっていて光の説明によればここに当日は椅子を置いて客席とするらしい。光の立つステージとは距離も近く、輝が想像していたステージとは随分違っていた。
「でも、どうしてここに?」
輝は光に尋ねる。今日は光から連れていきたい場所がある、と言われてこのスタジオに来ていた。
「輝は今度の公演が初めてだろ? だからその前にどんな場所かってのを知ってほしかったんだ」
「……思っていたよりも小さいんだな」
「ははっ、まだまだここを埋めるのが精いっぱいでな」
そういって光はスタジオを見渡す。このスタジオは劇団曼荼羅の公演を初めて行った場所であり、ここは光にとっても初心を思い出す場所でもあった。
「今はまだこの地下の小さい会場だけども、もっともっと大きな会場で芝居をして、俺たちの芝居をもっと多くの人に見てもらいたい。それが俺の願いだ」
光がそういう顔は、未来への願いを胸にして晴れ晴れとした顔であった。
「……決めた、テガソード」
輝はテガソードへ答える。
「僕の願いは、演劇界ナンバーワンだ」
輝の頭には光、そして劇団の仲間たちの姿が思い浮かんでいた。今日の公演を終えて、初めて舞台に立った輝を温かく迎え入れてくれた団員達、そしてあの日に見た光の顔。輝は少しでも劇団の、そして光の力になりたいと思ったのだ。あの願いに応えられるのなら、自分が戦いたい。それが今の輝の気持ちだった。そのために、輝はテガソードへ演劇界ナンバーワンを願うのだ。
「契約、成立だ」
テガソードがそう言うと辺りは一瞬閃光に包まれ、晴れると輝は自分の部屋の机の前に、帰ってきた時の姿で立っていた。夢でも見ていたのか、そう思った輝だったが手にした指輪と右手には銀色の右手を模した武器――テガソードが握られていた。
結果として、輝が指輪を手にしてからテガソードのいう指輪の戦士たちとの戦いが身に降りかかることはなかった。熱海常夏総理が指輪の戦士の一人――ドンモモタロウである事や、度々街で起こる騒動の解決に指輪の戦士が関わっていることは分かっていたがそこに赴くことはなく、輝は劇団での稽古に向き合う日々を送っていた。
演劇界ナンバーワンを願っていても、それに見合う実力がまだまだ輝には足りていなかった。いくら光が言う自分のオーラで魅せてやるんだ、と思ってもそれだけではまだまだ及ばない。だから今は指輪の戦士と戦う事よりも劇団の稽古や日々のトレーニングを通じて自身を鍛え上げていた。ただ、いつどこで指輪の戦士と戦う事になるかは分からない。そのような考えから常に指輪を持ち歩くことにしていた。
ロッカーで指輪がまた手元にある事を確認し、輝は汗を流すためシャワールームへと向かった。
スポーツジムからの帰り道。トレーニングを始める前に出ていた夜空の月は雲に隠れ、少しどんよりとした空だ。これは明日には雨だろうか、輝は思いながらいつも通りの家までの道を歩きはじめる。
歩いていると輝は怪しい視線を感じていた。遅い時間に歩いているので、それがただのファンからの視線などではないと思っていたが、それ以上に輝は冷たい視線が突き刺さっているのを感じていた。その視線はまるで狩りの前のハンターが獲物の油断する隙を今か今かと待ち構えているような視線であり、ただならぬ気配を感じさせた。
遂にその時が来たか、輝はカバンの中の指輪を握りしめて、相手を誘い出そうと家へと向かう道を外して歩き始めた。道を変えても視線は変わらず輝に突き刺さっておりどこまでもついてきた。
歩き続け、輝は誰もいない公園へとたどり着く。ここならば、と輝は歩く速度を緩めて公園中央のポールライトの下で立ち止まり、視線の主へと声をあげる。
「隠れてないで、姿を見せたらどうだ?」
視線の主は応えない。
ならば直接確かめてやる、輝は振り返ると激しい音と共に光弾が飛んでくる。すかさず輝は右手に銀のテガソードを出現させて光弾を跳ね返す。跳ね返した光弾はポールライトを砕き、辺りは闇に包まれる。
「いきなり命を狙ってくるなんて、穏やかじゃないな。誰だ?」
問いかけには答えない。が、視線の主はここに来て物陰から姿を見せた。瞬間、雲に隠れていた月が顔を覗かせ相手を照らし出す。
月の光に照らし出され、相手の右手に掲げられた純白のテガソードのような武器が輝く。その武器は薄暗い公園の中で不釣り合いなほどに白く輝き、相手を照らし出す。身体を覆う漆黒のスーツに纏う鈍く輝く装甲、そして胸元に大きく刻まれたバツ印は血のような赤で彩られているのが見て取れた。彼こそ輝を狙った人物――リングハンター・ガリュードであった。
ガリュードは姿を見せるとすかさず二つのセンタイリングを取り出し、純白の武器――テガジューンへと装填しトリガーを押す。
『ダイナマン!』『ライブマン!』
ガリュードが放った二つの光弾は人の形を成し、やがて二人の赤き戦士――ダイナレッドとレッドファルコンへと姿を変える。ガリュードが呼び出した二人の戦士に意志はなく、ただガリュードに従って各々手に持った剣を構えて輝へと距離を詰めていく。
輝は戦いへの決意を固め、指輪をテガソードへと装填して叫ぶ。
「エンゲージ!」
輝は叫び、手拍子を重ねる。その音は己を鼓舞するかのように響き、戦いの舞台へと輝を導いていく。トリガーを引き、輝は指輪にある絵と同じように両手の親指と人差し指の間で三角形を形作る。
『マスクマン!!』
テガソードの声が響き、輝はマスクマンのセンタイリングが力を宿す戦士――レッドマスクへと姿を変えた。
輝は目の前のダイナレッド、レッドファルコンへと向かっていく。それを迎え撃とうと二人はそれぞれ剣を輝へと振り下ろすが輝はその間をすり抜けて攻撃をかわす。攻撃をすり抜けた先で輝の手にあったテガソードはマスクマンのセンタイリングに込められた力でレッドマスクの専用剣――マスキーブレードへと姿を変える。
マスキーブレードを構え、改めて輝は二人の戦士と向き合う。
「……
輝は呟き、指輪の力――
輝はこの能力で聴覚を研ぎ澄まし目の前の二人の息遣いを確かめようとする。劇団の稽古においても目の前の相手の息遣いや所作などから、相手の動きを予測して自身の演技につなげることがあった。それを今この戦いの場においてもそれをやろうと聴覚を研ぎ澄ますが目の前の二人からは普通の人間であればあるはずのそれがなかった。目の前の二人はガリュードによって生み出された傀儡、エネルギー体のようなものであり人間のそれではない。普段のそれを活かすことは出来ず、輝は目の前の相手とただ向き合うしかなかった。
対峙していたレッドファルコンが先に輝へと向かっていき、手にした武器――ファルコンセイバーを振り下ろす。輝は片手で構えたマスキーブレードでそれを受け止めて、片方の拳を相手へ叩き込む。
「ゴッドハンド!」
指輪の力で強化されるのは五感だけではなく、身体能力もまた強化される。強化された身体で叩き込まれた正拳突きは、通常のそれ以上の威力を発揮し、まともにそれを受けたレッドファルコンを吹き飛ばした。許容量以上のダメージを受けたレッドファルコンは光に包まれて消滅し、元のセンタイリングへと戻った。後ろに構えたダイナレッドはそれを見て警戒し、輝と距離を取る。
ここまで静観していたガリュードも、これ以上は時間の無駄と思ったかテガジューンから光弾を放ちダイナレッドを撃ち抜く。するとダイナレッドは光に包まれて二振りの剣――ダイナ剣へと変えた。彼にとって呼び出した指輪の戦士は仲間などでなく、ただのしもべでしかない。ダイナレッドが姿を変えたダイナ剣を構えてガリュードは輝へと向かっていく。
しばらくはガリュードとレッドマスク、二人の剣戟が誰もいない公園で繰り広げられる。ガリュードは二振りの剣を巧みに使いこなし、レッドマスクのマスキーブレードを受け流しつつ攻撃の機会を伺っている。輝は指輪の能力を使って相手の動きを読み、マスキーブレードを振るう。戦いの経験値でいえば多くの指輪の戦士と戦い、指輪をハントしてきたガリュードが上であったがマスクマンの指輪の力はその差を幾分か埋めていた。
ガリュードは決着を付けようと、二振りの剣を合体させ内部のエネルギーを光弾にしてレッドマスクへと撃ち放つ。輝は強化した視覚で光弾を見据え、マスキーブレードで光弾を真正面から切る。真上から切られた光弾は輝へと当たる事はなく、輝の両脇で爆発した。
「レーザーアロー!」
輝はマスキーブレードの剣先をガリュードへと振るい、剣先から細く凝縮されたエネルギー弾を放つ。ガリュードはすかさずダイナ剣を交差させ受け止めるが、その勢いを受け止めきれず後ろへと転がりこむ。ダイナ剣も先ほど消滅したレッドファルコンと同じように許容量以上のダメージを受けたと見え、光に包まれて消えてしまう。
「はああああああ!」
今が勝機だ、と輝はガリュードへ向かいマスキーブレードを振り下ろす。しかし、ガリュードは右手に出現させたテガジューンでマスキーブレードを受け止めた。輝は受け止められてもなお、マスキーブレードを押し込もうと力を込める。
しばらくこの鍔迫り合いが続くかと思われた瞬間。
「うっ……!?」
輝は悶絶する。腹部を刺す、強烈な痛みが走りマスキーブレードを持つ力を緩める。腹部を見ると、ガリュードは左手に出現させた短刀――ダークウルフデカリバー50を輝の脇腹に突き刺していた。
指輪の力で増幅される感覚は痛覚も否応なしに増幅させる。幾分かは感覚を制御できるようになったといってもそれは平常な状態でのみ発揮されるものであった。今この状況ではそうしたコントロールも叶わず、輝の身体に脇腹に刺さった刃の感触までも細かに感じさせており、輝はその傷が想像以上に深い事が感じ取れていた。
ガリュードは低く笑い、輝の脇腹から刃を引き抜くと同時に踵を傷口へと叩き込んだ。
「うああっ!!」
踵を打ち込まれ、輝はなすすべもなく身体を転がされる。もはや決着は目に見えていた。
『
ガリュードは短刀の刃に集めたエネルギーをその場でうずくまるレッドマスクへと放つ。レッドマスクは防御することも叶わず届いたエネルギーの刃は爆発を起こし、辺りは炎に包まれた。
煙が晴れると、その中心にはレッドマスクの姿を解かれた輝が横たわっていた。脇腹の傷にあてた手の間からは止まることなく血が流れ落ち、輝の凛々しい顔は血と砂で彩られている。
輝の指から指輪は抜け落ち、傍らに落ちていたがそれをガリュードは拾い上げる。
「……リングハント、完了」
輝の聞いたガリュードの声は、勝利に対する喜びといった感情は何もなく、ただ淡々と言葉を発しているようだった。指輪を拾うと、傍らに倒れた輝へは目もくれず、ガリュードは去っていく。
「待、て……」
輝は最後の力を振り絞って、手を伸ばすが届くことはない。
輝の意識は、そこで途切れた。
次に輝が意識を取り戻したのは3日後の事だった。
輝がガリュードと繰り広げた戦いによる爆発で近隣から通報が入り、輝は駆け付けたものにより発見されて救急搬送された。強化された痛覚で感じた傷は輝へ著しいショックを与え、意識を奪っていた。目を覚ましてもしばらくはその感覚に怯え、動くことが出来ないでいた。
ある程度落ち着くと精密検査や問診等が行われた。運び込まれた際に手術で腹部の傷は縫われていた。幸い、内臓などへの深いダメージは免れて、腹部の傷も落ち着けば日常生活を送るのに必要な身体的な機能には問題がないだろうとのことだった。
ただ一つ、前と違い輝は声が出なくなっていた。
医者によればストレスなどによる一時的な失声症であろうとの事であるが根本的な治療は難しいようで、要因となったことと向き合い解決するしかないとの事であった。
輝は要因と言われて一番に考えたのはあの夜の事であった。しかし、だとしたらどうすればよいのか。願いをかけて戦ってそれでけがをした、といってもあの指輪やテガソードの事など、信じる人間がどれくらいいるだろうか。見舞いに来た光などに聞かれても、輝は答えることが出来なかった。
輝は病室のベッドに横たわり、右手を掲げて見つめる。今までであれば右手の人差し指にはあの指輪があったはずだが今そこには何もない。
指輪を奪われ、指輪の契約も終わり願いを叶えることは出来なくなった。テガソードが見せた指輪の戦士との戦いは戦う事で相手を知る、もっと暖かなものであると思っていた。
しかし、あの夜対峙した相手は対話することなく、こちらを撃破した。指輪だけが目的であったために命があるが、もしかすると今こうして生きてすらいなかったかもしれない。
命あればまた演劇と向き合う事もできると思っても、声も失った輝には今その希望すら打ち砕かれた。声が出ないのは一時的なものといってもそれは明日か、一週間後か、それとも一年後か、いつになるか分からないのだ。
改めて輝は自分が敗れた事を痛感し、静かに涙を流す。声を、そして願いを奪ったあの敵を、二度と忘れることはない。
レッドマスク
指輪/センタイリング マスクマン
契約者/神藤 輝(しんどう あきら)
職業/劇団曼荼羅・劇団員
願い/演劇界ナンバーワン
「
己を信じる強い心でマスキーブレードを振るい、リングハンター・ガリュードと戦った。しかし、ガリュードとの戦闘の末マスクマンリングを奪われ、指輪争奪戦から脱落した。