(X:@iwanomoSandoro)
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「キュウレンジャー」と「ゴセイジャー」のユニバース戦士の物語です。
1
季節に色をつけるとしたら春はきっと黄色だろう。花粉は黄色い感じがする。
ハンバーガー店でのバイトの帰り、朝から気が重く、動きが遅いと怒られ俯いていた帰り道でスマホをいじって待っていたのが青蘭だった。身長は九月と同じくらい、栗毛色のボブヘアにエメラルドグリーンのメッシュを入れ、同色のカーディガンに薄茶色のフレアスカートを花のように舞わせていた。
顔がいいな、とは思った。声もよかった、ビジュ通りの声だった。
だが右手の薬指に金色で縁取られた指輪をつけ、自身気に笑う青蘭を見た九月が絶望した事は説明するまでもない。
「あーた指輪持ちね、わたしと勝負なさい!」
指輪持ち、それはある日テガソードというロボットなのかなんなのか分からないものからセンタイリングという指輪を渡された人間の事だ。指輪持ちは銀色の手甲のようなもの……これもテガソードというらしい、ややこしい……に指輪をはめる事で赤いヒーローの姿に変身できる。
この姿で他の指輪持ちと指輪を奪いあい、全ての指輪を集めたものはどんな願いも叶えられるという。それが指輪持ちの宿命だった。
九月もそのひとりだった、例に漏れず家でソシャゲのデイリーイベントを周回していた時に突然指輪持ちとなったのだ。
迷惑な話だった、なにせ願いを言えと言われても思いつかない、ただ漠然と幸せに生きたいと願っただけだ。だから争奪戦にも消極的だったし、このまま何も巻き込まれないまま過ぎてほしいとさえ願っていた。
聞けば東京の五十狛市ではテガソードがついに現実に現れて空から降ってきた謎の巨大ロボたちと戦っていると言う。ますます意味が分からない、だから尚更だ、何も起きるな巻き込むな。だが九月の指輪、キュウレンジャーリングはそれを許してくれなかった。
「エンゲージ!」
指輪をテガソードにはめ、青蘭は踊るようにクラップを刻み両腕を回すと最後に胸の前で両手を重ねる。
背中から天使のような翼が現れ、綺麗……九月が呆然としている間に、青蘭は赤い天使のような姿、ゴセイレッドに変身していた。
《ゴセイジャー!》
青蘭は変身完了と同時にベルトの銃、ゴセイブラスターを撃ってきた。これ決闘罪にならないのかな、などと思いながら九月は慌てて逃げる。
これまでも、おそらくこれからも、九月はこうして逃げる事で争奪戦を回避してきた、コンクリートを踏みしめ、息を吸って胸を押さえ、
九月は子供の頃から運が良かった。アイスを買えば必ず当たりが出たし、商店街のくじ引きでハワイ旅行を当て、家族で行ったこともあった。
人生、どんなピンチでも気づいたら周りが解決してくれていた、九月の自己肯定感は低い、それは認める、だが唯一そんな運の良さだけは信じていた。
今日も逃げれば解放される、また何もない日常に戻れるはず、だが今回ばかりはどうやら違ったようだ。
スーパーマーケットの裏口、撒いたと思い息をついた九月の目に白い羽が舞い落ちるのが見えたかと思うと、首に赤い大剣、スカイックソードの切っ先が突きつけられた、目の前にゴセイレッドがいたのだ。
ツンとした青果の臭いが鼻を撫でて気持ち悪い、唾を飲み込んだタイミングでまた逃げようとするも、ゴセイブラスターで積み重ねられたカゴを撃ち落とされ逃げ道を塞がれた。
「どう?わたしの"
「待って!」
綺麗な土下座である。
「指輪が欲しいんでしょ!?だったらあげる!だから許して!お願いします!」
「はぁ!?信じらんない!あーた願いとか無いの!?」
「ごめんなさい!願いとか言っても無くってぇ……ほら、俺、テガソードに無理矢理指輪を渡されたタチでさ、だから、その」
「でも指輪持ちになった、何か願った事があるんじゃない?」
「そう言うあなたはどうなんですか?」
「そりゃあもちろん!あ、わたし配信者やってるんだけど!配信者としてナンバーワンになって!オリソンとか作って!ファンアートとかいっぱい書いてもらって!とにかくいっぱいあるの!だから指輪を全部集めたい、はい言った、それであーたは?」
「幸せに生きたい」
「え?」
「だってなりたいじゃん……ストレスなく生きたいじゃん……でもそれって他に何も浮かばなかったから言っただけで……ごめんなさい……」
「はぁ〜」
変身を解いた青蘭は人差し指を九月の首元に突きつけた。
「呆れた、何そのみみっちい願い、たく、あーたみたいなやつから指輪奪って何が楽しいのよ、ムカつく、倒す価値もないじゃない」
「それって見逃してくれるって事!?」
「勘違いしないで!あーたの指輪はもらう!だから……ねぇ、何か好きなこととかないの?趣味とか特技とか」
「えっ!?それって何の関係が……」
「いいから!吐きなさい!」
「絵……」
「声ちっさ」
「絵!趣味で絵を描いてます!見ますか……?」
そう言いながらも九月の指は早かった。スマホで投稿サイトを開くと印籠を突きつけるように見せる。青蘭はスマホを奪ってスクロールすると鼻を大きくした。
「え、うまっ」
淡い幻のような絵だった、まず目を引くのは砂埃のような茶色い空に浮かぶ巨大な風見鶏である、その目は虹色に光り、まるで絵の向こうにいるこちらに気づいているようだ。
その下には四角い豆腐のような建物が等間隔に並び、ピンクや青や黄緑の屋根が花畑のように咲いている。輪郭をぼかした画風のために砂で作られたように見えた。
青蘭はしばらく固まっていた、体の奥底から何かが湧き上がるような、そんな衝動を感じる。
「タイトルは砂のお城って言って……って、ああ!ごめんなさい!下手、ですよね?俺、昔は絵画教室とか通ってたんですけど、やってくうちになんか違うなってなって、それで辞めたんですよ、あはは、だからそれは、その、ほぼ独学っつーか、だから汚い絵ですし、でもなんか閉まっとくのもアレで投稿したんですけど、あ、自分語りごめんなさい、やっぱり下手ですよね、消しま」
とスマホを奪い返そうとした九月は青蘭にデコピンを食らわせられる。
「あーたほんとにムカつく!何その自己肯定感の低さ?イヤミ?こんな上手いのに自分を見下して、それ、あーたより下手な人が聞いたら傷つくんですけど、バカにしてんの?」
「え……いや、その、でもネットを見ればこれより上手い人なんて……へぐっ」
デコピン2発目、1発目よりダメージがきた。
「黙れクズ、ふぅ、決めた、わたし、あーたの願いを決めてやる、いい?宇宙イチのイラストレーターになること、今からそれが願いだから」
「んな勝手な!」
「あーたウチどこ?」
「なんて?」
「わたしがあーたを本気にさせてやるって言ってるの、そんで立派な願いを持てたら指輪も奪うから。おら、吐け」
普通なら通報ものの不審者だろう、だが悲しいかな、九月は押しに弱かった。面倒ごとが嫌いだったのだ。歯向かって面倒なことになるくらいなら流されるまま生きていればいい。
それに、つまりビジュである、この時、九月は完全に青蘭のビジュに惚れていた。
九月も男だ、しかも28歳になっても一度たりとも恋人ができたことのないタイプの。それが同年代か下くらいの女性に話しかけられ、しかも自分の家に来てくれると言われれば断れないのがサガだった。
美人局という言葉は浮かんだ、怖い人の罠かもしれない、変な宗教に入信させられるかもしれない、どっちにしろとりあえずお金は無くなるだろうな。
いろいろ考えは浮かんだが、それでも人間は性欲には勝てないのだ。どんなに取り繕うと所詮は人間、性欲の入れ物。そうして諦めて自分を正当化させた。
それが四葉九月だった。
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2
一瞬だった。
大きめのリュックに配信に使うためのカメラとパソコンとマイク、最低限の衣服と生理用品、それだけが全てだったようで、青蘭はそのまま身ひとつで九月のアパートに入り込んできたのである。
何があったかは知らないがもともとネットカフェを転々として生きていたらしく、単発のバイトで稼いではいたものも最近は案件もなく、ちょうどお金も尽きかけていた頃に出会ったのが九月だった。そして願いを見つけるために協力する代償として言い渡されたのは屋根とメシと風呂、つまり九月は体よく寄生された、ということだ。
九月もフリーターである、ゆえに彼も決して裕福なわけではなかったのだが、性欲のなせる技か、不快感どころか奇妙な優越感が胸の中にあった。男の独り暮らしだったむさ苦しい部屋に女の子特有の甘い匂いが広がっている。根無し草の美少女がウチに転がり込んできたのである、ドキドキして当たり前だろう、だが悲しいかな、九月はヘタレだ、手出しする勇気はなかった。
不思議と九月と青蘭の生活リズムは共存していた、青蘭はリスナーに男と同棲しているとバレたくはないらしい、が、昼間は九月もバイトで忙しく、その間に配信をつけれたので文句はなかった、リスナーには、女友達の家にしばらく泊まれることになった、という事になり、元から九月も夜はアテもなく動画を見るか絵を描く以外に予定はなかったので誰も青蘭を止めることはできなかった。
宇宙イチのイラストレーターという願いに本気にさせる、というのは寄生するための方便ではなかったようで、青蘭は自分の配信でちょくちょく九月の絵を宣伝した。配信の背景、動画のためのサムネイル、その他、宣伝などに使うミニキャラなど、青蘭はさまざまな絵を九月に描かせた。そのこともあって九月の名前は青蘭を中心に広がっていき、半月後に九月は人生ではじめて依頼を受けた。他の配信者からのミニキャラの依頼だった。
九月に友達はいない、欲しいとも思わなかったし自分から何かに飛び込もうともしないのでネットの繋がりすらない、だから今の状況は人生初の絶頂期だった、顔も知らない誰かが誉めてくれる、自分の好きなことで誰かの役に立っている、あぶくのように湧き上がる承認欲求を抑える方が大変だった。
その頃には九月も青蘭の配信を手伝うようになっていた。
変な自信が渦巻いていた。
動画を出せばその編集を手伝い、大きな収入が入れば申告に追われた。大変だと思ったがこれもまた楽しかった。とはいえこれを仮に1人でやれと言われたら耐えられなかった、青蘭がいる、彼女を手伝っている、それが何より楽しいのだ。
自分のことを本気で可愛いと思ってるあの自信が好きだった、実際可愛かったので文句の言いようがない、テンションが上がるとぴょんぴょんと子供のように飛び跳ねるところも好き、それでいて何にでも真っ直ぐで、ときどき見せるクスッと笑う顔が何より好きだった。声がいい、と言うと、そっちも声いいでしょ、と言われたことがあったけど、どう考えてもそっちの方がいい声だと思う。だけど誉められたのは嬉しかった。
絵が出来上がった時に頭を撫でてくれた、化粧でもしたら?と人生で初めて化粧をしてくれた、可愛いじゃんと言ってくれた……あの手のひらの、ぷにぷにしてあったかい感触はもう絶対に忘れられない。キモいと自覚はある、でも童貞だから許してほしい。
もちろん全部指輪争奪戦のためだとは忘れていない、だがそれでもこのままこの時間が続けてばいいなと思っていた、むしろこのままずっとダラダラ続いていけば、いつか争奪戦のことも忘れてくれるんじゃないかと期待してもいた。
だが彼女は決して争奪戦のことを忘れていなかった。
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3
昔から怒られることばっかだった、ふと思ったことをそのまま言って、友達を怒らせて絶交されたり、喧嘩を止めようとしたつもりが油を注いでしまったり、配信だってリスナーの言葉にどう返せばいいか分からず、傷つけて二度と来なくなった人もいる。
直そうと思ったけど上手くいかなかった、気をつければ気をつけるほど何も言えなくなる、ロボットみたいに人に同調するのは一番嫌いなことだった。
親と喧嘩したのは21歳の頃だった。とりあえず流されるまま大学に入ったものも、何も面白いこともないし、人間関係にも馴染めず、気づけば2年の終わり頃から不登校になっていた。そうして実家でニートをしていたところで親にこの先どう生きていくのとか毎日うるさく言われたのが嫌になって家出をした。
わたしだってなりたくてそうなったわけじゃない!
分かってほしかったけど言葉が通じないと思って諦めた。青蘭は自分が間違ってると思ったことは一度も無かった。
1年の頃から単発バイトに登録していたのでそれで生きて来られた、バイトで稼いだ金をその日の食事とネカフェ代に使うその日暮らし生活も思ったより悪くない。
それにわたしには配信という暇つぶしがあった、つけるといろんな人がウチの枠を見に来て構ってくれる、たぶんほとんどは男の人だけど、話してくれる事は大体面白かったし、ガチ恋って言ってくれるのは嬉しい。たまに投げ銭もしてくれて、そのおかげでそこから当分は生きられた。よほど面白くない限り男性の配信にあまり人が来ないことを思うと、わたしは見た目も声も可愛い女の子に生まれて本当に良かったと思う。イヤミに聞こえたらアレだけどさ、でも可愛いんだから仕方なくない?
テガソードが話しかけて来たのは22歳の誕生日配信が終わった時だった、長時間配信をやり切って周りの音を聞きながら横になってとろーんとしていると、気づいたら真っ黒な空間に金ピカのロボットみたいなのがいた。不思議と怖いと思わなかった、むしろずっとここにいたくなるような安心感があった。
「ナンバーワンだ、さあ、願いを言え」
思ったよりイケボだったテガソードに流されて願いを言うと、なんかゴセイジャーっていう名前の指輪が渡された、なんでも他のこういう指輪の持ち主と戦って指輪を全部集めたらなんでも願いが叶うらしい。
何それ、よくアニメで見るデスゲームってやつ?死んじゃったりする系のアレ?
そう思ったけど、テガソードを見てると愛されてるみたいな?そういう悪い事は絶対に無いぞって何故か思えた。むしろ願いのためにやったるぞーみたいな気持ちがメラメラ湧いてきて気持ちよかった。
もっとチヤホヤされたい!好きなことして暮らしたい!目指せ!有名配信者!
指輪の力を手に入れてわたしの人生に新しいスパイスができた、
もちろん指輪持ちに戦いを挑んだこともあった、相手は地下アイドルの赤メッシュ髪の女の子で、頭に宝石がついたベネチアンマスクをつけたやつに変身してきたけど、能力をうまく使って勝つことができた。指輪を奪われて相手の子は泣いちゃったけど知った事じゃない、負けたら奪われる、弱いから悪いのだ。嫌なら強くなればいい、もしくは逃げるか、簡単な事なのにどうして分からないんだろう?
青蘭には人の気持ちが分からなかった。
「タイトルは砂のお城って言って……って、ああ!ごめんなさい!下手、ですよね?」
バカにしてんのか、青蘭はスマホの中に広がる絵を見て久しぶりにムカついた。
綺麗な絵だった、巨大な風見鶏の下に砂で作られたみたいな家が並んでいる、屋根はカラフルでまるでお花畑みたい、見てるとなんだか落ち着いてくる絵だった。もっとも描いた本人が自分から下手とか否定するせいで一瞬で乱されたけど。
なんだこの煮え切らない気持ちは。
弱そうだから……
指輪持ちなのに戦おうとしないやつがいる、九月だけではないが、指輪持ちには一定数そういった臆病者がいるらしい。
青蘭にはそういう連中の気持ちが全く分からなかった、せっかく叶わない願いを叶えられるチャンスなのに何をしているんだろう、きっとそういうやつは普段から逃げ続けてるんだ、人生、強くならなきゃ生きやすくならないのに、そんな努力すらしない人間が青藍は気に食わなかった。たぶん指輪も簡単に手に入れられるだろう。
決めた、わたしがこいつから指輪を奪って現実を突きつけてやる。
だが実際に会った相手は思ったよりもさらに情けないやつだった。変身した途端に逃げるし、追い詰めれば指輪を渡そうとしてくるし、最低でも持っててほしかった願いすら持ってないなんて言う。こんなやつに指輪をテガソードが不思議でならない。
神よ、なぜこのような試練を?
と、思った途端に絵を見せられてフリーズしてしまった青蘭である。気に食わない相手の絵を見て綺麗とか思って落ち着いた自分がムカついた、だけど一度見た絵は目から心のずっと深いところに刺さって小さな花のように咲いている。このぬるま湯に浸かったような気持ちが心地よかった。
だからこんな思いをさせておいて自分を否定して止まらない九月は説教しなきゃ気が済まない、いやそれじゃ足りない、悔しいけどこいつは天才だ、わたしが言うんだから間違いない、だからわたしがこいつを売り出してやる、そうしてこいつが自分に自信を持った時に指輪を奪ってやるんだ、そしたら気持ちよく勝つ事になる。
九月がどう思っているか知らないが、青藍にとって九月はいなくちゃ落ち着かない存在になっていた。強制的に家に泊まり込んで、絵の依頼をやらせて、配信でそれを使ったり宣伝したりと、自分が売り出してやってる感覚が心地よかった。
九月は男だ、普通なら女の子が男の家に上がるなんて恋人でもなきゃしない、だけど絶対にわたしに手を出さないっていう自信がある、わたしには分かる、こいつはビビリだ、まるで自分のものにしたみたいな気持ちだった。
このままこの時間が続けてばいいなと思っていた。九月が指輪持ちじゃなくなってもわたしはずっと側にいてやる、有名配信者になって足りない分は養ってあげてもいい、その代わり死ぬまでわたしの事を満足させ続けてほしい。新しい願いができた、九月を強くしたい、わたしが育てた九月をこの宇宙で1番にして、その隣に宇宙イチの配信者になったわたしがいる。ダブルナンバーワンだ。だから願いを叶えるために他の指輪も集めなきゃいけない。
3月の夜は生温かな昼間とかわってこんにゃくをほっぺに当てられてるような空気が漂っている、夜だと言うのにどこかからハトの鳴き声がするのが不気味だ。その夜、SNSでの情報を頼りに指輪持ちのいる場所を特定した青蘭は今は撮影スタジオとして使われている廃倉庫にやってきた。なんでもこの倉庫に無断で寝泊まりしているホームレスが指輪持ちらしい、確か
ああ、なんでこんな変なところに来ちゃったんだろう、思えば見間違いとかデマだったってこともあり得る、くそ、騙された、早く帰りたい、帰って九月の声を聞きたい。
「よくないなぁ、ここはクオンAIコンツェルンの貸しスタジオなんだけど」
そんな事を思いながら歩いていると不意に後ろから声をかけられた、振り向くとそこには長髪のコートの男が立っていて、どこかで見たような、と思った青蘭である。とはいえ見つかったのはまずい、面倒になる前にかわいこぶって乗り切ろう。
「え〜!そ〜なんですかぁ〜!?ごめんなさ〜い!わたしぃ、ここが私有地だって知らなくて……」
ハテ、ふと気づく、男の右手には白い何かがあった、よく見るとテガソードに似ている、でもそれはテガソードと違って水色の剣の部分が銃のようになっていて
「まあ呼んだのは僕なんだけどね〜、はは、不法侵入者にはバツを与えなきゃ」
男は両手の人差し指でバツを作って青蘭に向けた。何こいつやばい、何かやばい事になったのは分かる、テガソードに指輪をはめて変身する、戦うのはフリ、あくまで
《ガ!リュード!》
あえ?
気づくと男は消えて頭に銃がついた黒い甲冑のやつがいた、違う、黒甲冑の手についてるのは白いテガソードだ、この男も指輪持ち?でも確か指輪持ちはみんな赤い姿をしているはず、じゃあこいつは?
《ジャッカー!》
《デンジマン!》
びっくりしているうちに白いテガソードに指輪がはめられて、銃口から顔に大きなスペードマークがあるやつと頭にピカピカする機械みたいのがついたやつが出てきた。
そいつらはまるでロボットみたいに黙ってこっちに向かってくる。プレッシャーが強くて身動きが取れない。
「おまえは僕の、獲物だ」
あ、わたし死ぬんだ、
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4
天宮さんが帰ってこない。
なぜか深夜に目が覚めてから九月はずっと天井を見続けていた。指輪持ちを探しに行くと言って夜の8時過ぎに出て行ってそれっきりだ。夜は思ったより青く明るくて、かといって何かする気もない。布団の熱が暑苦しく、背中から汗が流れていくのを感じていた。ただ単調に聞こえる時計の針の音を聞いてるといろいろ頭が勝手に考えてしまう。
九月は極めて普通の人間だった、両親は健在で、特に喧嘩をすることもなく育ってきた。ひとつぶつかったのは大学を中退してフリーターになった時くらいだったが、それでも特に実家に連れ戻されるとかはなく、安アパートを転々とする生活を続けられた。周りが毒親だかなんだか言ってるのを思うと恵まれた人生だったと思う、これも運が良かったって事だったんだろう。
独り暮らしは気楽だ、誰にも邪魔される事もなく、金銭面以外は何をしても自由。だから実家に帰るつもりはないが、この前、正月に帰った時に両親の髪が半分白髪になっていたのは少し驚いた。いや真面目に考えれば年齢的に当たり前だ、60代後半、顔にシワができてたし、たびたび足が痛くなって動けなくなると言う、仕事も辞めて年金暮らしだ。
でも少なくても10年前までの両親はまだ若いイメージがあった。
何より驚いたのは母の手だった、子供の頃、家で編み物をやっていた母の手は皺ひとつ無くスベスベしてたが、この前、車を運転していた母のハンドルを握る手はミイラかと思うほどにシワシワだった。
それを見た時の、どこか胸が掻きむしられてるような感覚が、まだ心の中にある。70になったら免許を返納するらしい、大学に行くまでの間、休みの日に車で九月をドライブに連れて行っていた両親はもうすぐいなくなる。
九月は天井に向かって手を伸ばした、大丈夫、まだ手に皺はない、だけど考えてみればもう28だ、小学生の頃にオジサンの基準と決めていた30代にあと2年で届いてしまう。ずっと逃げてきたが、就職だって難しくなるだろう。
大学に入学してからの10年、中学高校の3年が永遠のように感じたのはなんだったのかと思うくらいにあっという間に過ぎていった。寝て起きて働いてニートして、気づけば年が終わっている、それを繰り返して10年だ。焦燥感が胸を握る。
俺は果たして正しい道を進んでいるのだろうか?
ダメだ、何もしていないから変なことを考える。大丈夫だ、天宮さんのおかげで最近は絵でお金を稼げるようになったんだ、生活費には足りないけど、それでも地道に楽しんで続けていけば、きっとイラストレーターを名乗ってもいいはず。そうだ、次に帰ったら親にこの事を言おう、褒めてはくれないかもだけど自慢にはなる。
……天宮さん、遅いな
ちょっとムカついてくる、指輪が欲しいならあげるのにどうして戦いに行ったんだろう、俺はこのまま天宮さんと一緒に過ごせればそれでいい、俺に願いを見つけて欲しい天宮さんには悪いけど、願いはまだ無いままだし、むしろ逆に天宮さんのおかげで満足してしまった。だからそれ以上何も願うことなんてない。
空が深い青色に変わっていた、もうすぐ日が昇る、窓を開けてベランダに出た、今のアパートは高いところにあり、行き帰りは大変だが街を見下ろすことができる。九月はここからの景色が好きだった、特に冷たくて綺麗な空気に包まれながら街が朝焼けに染まっていく光景は、寂しいような気持ちに優しく寄り添ってくれるような感じがした。
ホットミルクでも飲もうかな、そう思って暖かい冷蔵庫に手をかけた瞬間である。
ドアがノックされた、この時間にだ。
昔ネットで見た未解決事件の概要を見て思わず身動きが止まる、大丈夫、男の一人暮らしだ、金もないし、変なこともしてないから狙われる理由はない、大丈夫だ、きっと、そう言い聞かせてドアのスコープを覗く。
そこには血まみれになった青蘭の姿があった。
空いた窓の外から小学生たちの声が聞こえる、すっかり日が昇って、アパートの前の道は近くにある小学校の通学路だった、綺麗な空気が部屋中に充満して肌寒い、それなのにわたしは毛布で巻かれていて、九月はテーブルの上で何もかけずに寝ていた。
テーブルの上にはバウムクーヘンみたいな包帯と消毒液が置かれていて、動くと痛みがあるが、腕や足には包帯が雑に巻かれていた。毛布から男の人のちょっとスパイシーな匂いがする。バカ九月、そこまでするなら窓くらい閉めなさいよ。
「あ……起きた……?おはよぉ」
しばらくボーッとしてると九月が起きてこっちを見た、寝ぼけてるのかカピバラみたいな顔で見てくる、28の男にかわいいなとか、認めたくなかった。
「窓開いてるんだけど、寒い」
「あ……?ごめん」
「これは……?」
「変だったかな?ごめんね、俺、こういうの初めてで、間違ってるよね」
「そっちじゃなくて、これ、臭いんだけど」
「毛布?……あ、ごめん、暖かくしなきゃと思って、分かんなくて、俺が寝てた毛布使っちゃった、嫌だったよね、こんな臭いの、本当にごめん」
そう言って毛布を受け取ろうとした九月だったが、青蘭は取られないように毛布でさらに自分の体を包んだ。
「え?」
「窓が空いてたらそら寒いだろっつーの……」
「ごめんなさ」
「さっきからあーたウザい、謝るな」
「はい……」
「もぅ最悪……」
はぁ、青蘭はため息をつく、毛布は悔しいほど暖かかった、廃墟を歩いてた時からずっとこれを求めてた気がする、てか怖い思いをしたんだから、これがありがとうって事ぐらい察してほしかった。九月は仕方なさそうに窓を閉めた。
もういいや、うん、知ってた、こいつはそういうやつだ、わたしの事を理解なんてしてくれない、でも親と違って否定もしてこない、それだけで嬉しかった。だからこれ以上空気読めないことされる前に聞きたいだろうこと全部言ってやる。
「指輪持ちを探しに街外れの廃墟に行ったの、そしたらそこにいたのは指輪持ちじゃなかった、黒い甲冑着たみたいなやつがいて、そいつ、他の指輪持ちを召喚して、わたし」
言葉が詰まる、ボロボロになって帰ってる時は実感がわかなかったのに、今、こうやって言葉にすると、中指に親しんだ感覚がない事に気づいて、にがいものが胸の奥をギュッと掴んで喉の奥からせり上がってくる。
もう、わたしには、
「……そいつに指輪、取られちゃった……!」
もう二度と願いを叶える手段はない、
少しでも思うともう無理だった、にがさが溢れ出て、涙が止められなくて、しゃっくりが傷を広げていった。
頭も口も、もう全部ダメだった、自分を空っぽだと思いたくなかった。
いつかこうなる日は来ると思っていた。
九月は眠さが残る頭で不思議なくらい冷静に青蘭のことを見ていた。
もちろん本当なら泣いている青蘭に寄り添うべきかもしれない、つらかったねと声をかけてあげるべきかもしれない。でも頭も心も全く動かなかった。
九月の願いは今の青蘭との暮らしが続くこと、それには指輪はひとつも関係ない、むしろ、これで良かったんじゃないか、とも思っていた。青蘭が指輪争奪戦から目を覚ますなら、それでも。泣いてる青蘭を見て、ふとこの人は負けず嫌いなんだと分かった。
脳みそを冷たい手が撫でたみたいだ。負けるのが死ぬより嫌なんだ、自分が何より1番でいたい、思い通りにありたい、勝たなきゃ自分が自分でいられなくなる、ナンバーワン、なんてテガソードの通りの人なんだろう。
とても可哀想だ、だけど余計な事を考えないで、そんなにひとつのことに熱中できるなんて俺には無理で、そうなれたらきっと人生が楽しく生きれたのかもしれない、そう思うととても羨ましい。
九月はビビリだ、傷つけたくなかった、青蘭が争奪戦に燃えていたのも知ってる。だから思ったことも言えない、言ってはいけない。
「……ホットミルク飲む?」
青蘭は小さく頷いた、今はそれが2人にとっての限界のような気がした。
時間は進む。
ずっと泣いていた声も午後に近づくにつれて小さくなっていき、お風呂に入りたい、と言い出したのは11時ごろの事だった、別にこっちの許可とかはいらないらしい、1時間くらいで出てきて椅子にどっかり座るとドライヤーで髪を流しながら声をかけてくる。
「それで、あーた、どうするの」
「どうするのって言われても」
「決まってるでしょ、もうわたしといる理由はないの、指輪の持ち主じゃなくなった以上、あーたとの同盟もおしまい、悔しいけど、もう、あーたの指輪を狙う必要は無くなったわけだし……」
「このままじゃダメなの?」
「ダメ!」
青蘭は目を真っ赤にしていた。やっぱり取り繕うとしていたらしい。
「これは!願いがないとか!腑抜けたこと言ってたあーたから気持ちよく指輪を奪うためにやってたことなの!てかさ、あーたなんなの!?なんで願いも自己肯定感もないあーたが生き残って、わたしが奪われなきゃいけないの!?もっとやりたいこととかいっぱいあったのに!」
「……じゃあ、俺の指輪をあげたら満足?」
「そんなわけないじゃない!まだあーたの変身した姿だって見てないし!テガソードも無くなって、たとえもらったとしても変身できなきゃ意味がないって分かってるでしょ!?舐めないでよ!!」
「……何をそんなに焦ってるの?」
「え?焦ってる?わたしが?」
「そうでしょ、悔しいのは分かる、つらいのも分かる、でも今の天宮さんは精一杯強がって、まるで何か隠そうとしてるみたいだ、ねえ、天宮さんは指輪と一緒に何を無くしたの?何が天宮さんをそこまで追い込んでるの?」
「うるさい……うるさいうるさい!!」
襟首を掴まれて九月は壁にぶつけられる、青蘭のツバが顔いっぱいに飛んだ。
「気に入らない!気に入らない!気に入らない!!どうして!?ねえ!どうしてあーたはそんなに冷静でいられるの!?わたしが指輪を奪われたんだよ!?かわいそうだと思わないの!?ねえ!!」
「……逆に俺にどうしろって言うの?指輪もいらないなら何をしたら満足なの?」
「うるさい!知らない!聞きたくない!そんくらい察しろ!」
「じゃあ質問を変えるよ、争奪戦もそうだし、配信もだけど、なんで天宮さんはいつもそんなに真っ直ぐなの?俺、どうしても自己肯定感とか、持てないからさ、いつも気がつくと暗いことばっか考えてしまって、だから羨ましいんだ、天宮さんのこと、だから聞かせて?」
「それは……!」
目をそらす、九月の視線がとても痛い。
「そうでなきゃわたしじゃないの、わたしは可愛くて、声もよくて、歌もうまくて、みんなから褒められて、可愛がられて、それを楽しいと思ってなきゃいけない!それが……」
「そんなの関係ないじゃん、天宮さんは天宮さんでしょ?人にどう思われるとか関係ないじゃんって自分で配信で言ってたよね?違うの?」
「じゃあ!あーたがわたしに居場所をちょうだいよ!」
「居場所?」
どうして分からないの、青蘭は一瞬そんな表情を見せるとまた泣き崩れた。あーあ、面倒くさい女って思われた、重いって思われた、何やってるんだろ、八つ当たりしてもどうにもならないって分かってるのに、わたし、こんなキャラじゃないのに
「……九月はなんで働いてるの?」
「え?」
「いいから聞かせてよ」
「だって生きてけないじゃん、このアパートも追い出されたくないし、天宮さんもそうじゃないの?」
「いいじゃん追い出されても、住所不定でも……わたし、それでずっとやって来れたし……お金に呪いみたいに縛られてさ、バカみたいって思うよ」
「やっぱ強いよ、天宮さんは」
「強くない!ほんとはずっと寂しいし、強くてかわいいわたしだから大丈夫だって思ってないとやってけない……ほんとはそんな弱い子なんだ……だからあーたのその変な余裕がムカつくの!わたしもそう生きたかったって……羨ましいから……どうせ奪われるならあーたと戦って……!」
「天宮さんが俺のことが羨ましい?」
泣き疲れたのか途端に全部が面倒くさくなった、もう全部終わらせたい、青蘭は九月から手を離すとサンダルを履いて部屋から出て行ってしまう。九月は何もできなかった、そしてその場に座り込むと頭の中に青蘭の言葉が反響していく。
「そっか、ナンバーワンの配信者になりたいってそう言うことだったんだ……ナンバーワンでいれば自分で自分に嘘をつけるから、本当の自分を隠せるから……俺は……」
ふと視界が暗転する、すると九月の目の前にはテガソードが巨大な顔で見つめていた。
「四葉九月、ひとつ聞く、お前の願いはなんだ」
「……指輪争奪戦って敗者復活戦とかないの?一度脱落した人が復活するみたいな」
「悪いがそれはできない、優勝者が決まり次の争奪戦がはじまるまでは脱落すればそれで終わりだ、残念だが……」
「じゃあさ、俺のテガソードと指輪を天宮さんにあげたりすることは?」
「それも無理だ、お前にはお前の願いがある、それを叶えるのが指輪争奪戦だ……ただひとつだけ、方法はなくはない」
「それって?」
「お前の持つ特殊能力だ、四葉九月、お前の
改めてテガソードはその青い瞳で九月を見つめた。
「
「俺の願いは……」
九月は拳を握る、キュウレンジャーのリングがカチャリと音を立てた。
雨が降りはじめた、平日の昼間、誰もいない公園で、ブランコに座りながら青蘭はひとり泣いていた。涙は雨と混じりぬかるんでいく地面に溶けていく。
そんな中、ひとつの羽が雨を弾きながら舞い落ちて、青蘭の指を暖かく包み込んだ。
「えっ……!?」
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5
数日後、テガソードの力によって展開された採石場フィールド、この日、その中心で九月と青蘭がそれぞれ向かい合っていた。青蘭の指にはなんとゴセイジャーのリングが光っていた。
「テガソードから聞いた、あーたバッカじゃないの?自分の能力を全部使ってわたしの力を甦らせるなんて、この先不利になってもいいの?」
「俺は天宮さんと戦いたいって願った、戦って天宮さんの全部を理解したい、俺は俺の願いを叶えるために戦う!」
その言葉に青蘭はキョトンとした顔を見せるが、すぐに笑いテガソードを構える。
「……ああ、そう、あーた随分変わったじゃない、いいわ!どっからでもかかって来なさい!」
「エンゲージ!」
「エンゲージ!」
《センタイリング!》
互いにテガソードに指輪をはめ、流れる狼煙のリズムにノってクラップをしていく。九月は顔の右で2回クラップすると次に左、大きく腕を回して腰の前でも2回クラップし、最後に顔の前に持ってきて勢いよく叩いた。
《キュウレンジャー!》
《ゴセイジャー!》
青蘭は背中から出た天使の羽に、九月は前方に出た巨大な星に飲み込まれ、それぞれゴセイレッド、シシレッドへと変身。
スカイックソードとキューソード、それぞれ巨大な大剣を手にすると睨み合って動かなかったが、やがて風が採石場の砂利を転がしたのを合図に走り出した。
大剣と大剣がぶつかり火花が飛ぶ、右へ振えば左へ、左へ振えば右へ。足と足、テガソードとテガソードがぶつかり、2人は相手の攻撃を受け止めて顔を近づけた。
「ご都合主義って言われてもいい、俺はハッピーエンドが見たい!俺の願いは幸せに生きること、ストレスなく、面倒な事とかもなく、幸せな気持ちのまま生きたい!そのためにみんなに幸せになってほしい!」
「そういうところ大ッ嫌い!どうしてそんなに真っ直ぐなの!?わたしを!わたしをバカにしないでよ!」
互いに剣を握る腕に力を入れ胸に傷を負わせる、その傷を押さえながら2人は大剣を支えに立ち上がる。
「……わたしは間違ってない!だって……今のわたしを否定したら、家出からの3年間が間違ってるって事になる!間違ってるって思いたくない!信じたくない!だから!わたしはあーたとは違う!追い出される家なんていらない、居場所は自分の中にだけあればいい、そんなわたしが好き!自分を嫌うあーたなんかに……負けたくない!」
「間違ってるって心のどっかで思ってるなら認めなよ!居場所とか考えたことなかった、確かに自分のことはずっと嫌だったし、今でも嫌いだと思うよ!親に恵まれてるならもっとちゃんとした生き方があったと思うし……だけどね、そんな自分だから今の自分になったって思ってる!もしかしたらいつか今を後悔するかもしれない、でも、今が間違いだったとしても意味がなかったって思わない!全部ひっくるめて俺の人生だ!!」
シシレッドの腕に銃型ガントレッド、セイザブラスターが現れ、真横へジャンプしながら光弾を撃ち込む、ゴセイレッドも慌ててホルスターに入ったままゴセイブラスターを撃とうとするが間に合わず膝をついてしまった。
「……いつか俺の居場所はなくなる、身近のように考えるし多分すぐ来ることでもあると思う、そうなったら俺はどうなるのか分からないし怖いよ!でも、それは今はまだ先の話なんだ。ねぇ天宮さん、本当は家を出たこと後悔してるんでしょ?帰れる場所があるなら帰れるうちに帰って欲しいって、俺は思うよ」
「……うるさい!うるさいうるさい!」
ゴセイレッドは砂利を投げつけた、一瞬、視界が塞がれた隙を狙い、スカイックソードの刃が煌めく。
「わたしの幸せはわたしが決める!ナンバーワンになって!みんなが好きになってくれて!親なんていらない!それがわたしの幸せなの!!」
「それでも……俺は!!」
暗転、2人は黒の空間で戦いのリングの中におり、現れた応援団が高らかに叫んだ。
「いざ掴め!ナンバー!ワアアアアン!!!!」
ゴー!ゴー!
ナンバーワン!
はじまるエールの応報、ゴセイレッドはリングの中心に向かって歩いて高らかに名乗る。
「わたしはかわいい!わたしは正しい!ゴセイレッドは天宮青蘭!認めるか、この生き方は……変えられない!」
レディーッ!
次はシシレッドである、リングの中心に向かい、その手を強く握りしめた。
「自分の幸せ願うなら、きみの幸せ叶えたい!四葉九月シシレッド!自分の間違い、信じてみなよ!」
打ち上がる花火、応援団の強いエール、ゴセイレッドは羽を広げてシシレッドに向かって飛び上がり、シシレッドもゴーグルの中の宇宙を巡らせるとキューソードの刃を輝かせる。
《ナンバーワンバトル!レディィ……ゴーッ!!》
空間が消え、火花が弾けた。拮抗していたふたつの大剣だったが、シシレッドが腕を回したことでスカイックソードはキューソードによって弾かれ、ゴセイレッドの胸に横一閃が走る。ソードの刃には星の光がまたたきはじめ、マスクの中で九月は叫ぶ。
《ギャラクシー!》
「レグルスッ!インパクトッ!!」
キューソードのトリガーを引く、刃はゴセイレッドの体を赤く縦一閃し、その残像に星の光がまたたいた。羽は切り落とされ、羽毛が舞う。スカイックソードを落としたゴセイレッドは力なく倒れて爆発。シシレッドは傷だらけの体をキューソードを杖のようにして踏ん張ると、青空に向かって人差し指を立てた。
「俺こそが!幸せナンバーワン!!」
《WINNER!YOTSUBA KOKONOTSU!》
バトルボイスが高らかに叫び、消えていく採石場エリアの中、青蘭の腕からテガソードと指輪が光となって消えていった。
東から朝の光が差し込む中、アパートの古びた階段を厚底ブーツが踏んで軽やかな音を鳴らしていた。その姿に九月は声をかける。
「天宮さん!」
振り向く、青蘭だった、彼女は九月の顔を見ると笑いかけた。
「わたし家に帰るよ、パパもママも、分かってもらえないかもだけど、それでも自分から逃げない事にする。だから九月も折れんなよ?イラスト、楽しみにしてるから!」
「うん、自分なりに頑張るよ、天宮さんも元気でね」
しれっと言う九月に思わず青蘭は息をついた、そして「あーもうっ!」と言うと近づき唇にキスをしたのだった。
「……はい?」
「ニブチン、好きだったよ、そんじゃ」
青蘭は再び階段を駆け降りると下から大きく手を振って笑いながら去っていった、フリーズしていた九月は考えがまとまると思わず大声が出そうになるも、今が朝早い事を思い出して必死に抑えた。
「……これ、今日のバイト集中できるかなァ……」
ふと右手の中指のキュウレンジャーリングを見ると指輪に描かれたシシレッドは元気付けるようにサムズアップをしており、九月は思わず笑ってしまう。
「うん、そうだね、今日も1日がんばるぞい!っと」
部屋に戻っていく九月を、道を歩く青蘭を見送るように小鳥が鳴いている。
今日もまた、朝が来た。
指輪/センタイリング キュウレンジャー
契約者/四葉九月
職業/フリーター
願い/幸せに生きたい
「祝願(ウィッシュ)」の能力で身近な幸運を引き寄せることができ、たった一度きり、力を全て消費することで因果律を超えた大きな願いを叶えることができる。天宮青蘭が失ったゴセイジャーのセンタイリングを能力で一時的に蘇らせ、彼女との意地を張った戦いに勝利する。
その後、具島玲の厄災の力によって指輪を奪われ脱落するが、遠野吠が願った争奪戦のやり直しによって指輪の戦士に戻り、青蘭とのちゃんとした争奪戦が叶った話を遠野吠に聞かせたという。
センタイリング キュウレンジャー
・シシレッドにエンゲージすることができるセンタイリング。宇宙戦隊キュウレンジャーのパワーが込められている。
指輪/センタイリング ゴセイジャー
契約者/天宮青蘭
職業/配信者
願い/宇宙イチのナンバーワン配信者
「転送(トランス)」の能力で舞い散る羽とともに一瞬でワープすることができる。指輪争奪戦に興味を持たない四葉九月と出会い、彼の絵の才能を見込んでサポートするが、リングハンター・ガリュードに襲われ指輪争奪戦から脱落してしまう。だが九月の「祝願(ウィッシュ)」の力によって一時的に力が戻り、九月との戦いの果てに敗れ、改めて脱落した。
センタイリング ゴセイジャー
・ゴセイレッドにエンゲージすることができるセンタイリング。天装戦隊ゴセイジャーのパワーが込められている。