ベリルさんの作品です!
(X:@yokohamaotaku)
某空港・国際線到着口、大荷物を背負う青年がいた。
「今回も俺が……カンフーナンバーワンだッ!」
マスコミの前で立てた人差し指には金のリングを。首には金のメダルを提げていた。
「神風選手、世界選手権連覇おめでとうございます!」
「今後の目標は?」
口々に賞賛や質問を投げかける記者たちのマイクをかわしながらカメラに近づく。
「みんな! カンフーで仲間になろうぜ!」
一言だけ言い残し、逃げるようにタクシーへ乗り込んだ。
「……どちらへ」
「スクラッチ本社で!」
運転手の機械的な質問への答えは、彼と契約している大手スポーツ用品メーカー、スクラッチ社である。提供された製品のフィードバックを行うため、到着後すぐ向かう必要があるのだ。
数週間ぶりの日本の街並みをぼんやりと見つめながら数十分、前方に放り出されんばかりの勢いで急停止した。
「ちょっと運転手さん! 危ねぇっすよ!」
神風が身を乗り出すと、運転手が不敵に微笑んだ。
「到着ですよ、お客さん」
半ば無理矢理に降ろされたそこは、スクラッチ本社ではなかった。
「クオンAIコンツェルン……? ンだここ、全然違ェじゃねぇか」
神風が訳もわからず立っていると、長髪の男が一人、黒いロングコートを靡かせて歩いてきた。社長のクオンである。
「不敗の神風選手がまんまと釣れるなんてなぁ……さぁ、指輪を頂こうか」
コートを翻し、クオンは銃声とともに✕をあしらったリングハンター・ガリュードへと変わる。
「悪いが俺の願いは邪魔させねぇ! カゲキに行くぜッ!」
銃撃を躱しながら、神風も銀のテガソードに指輪を装填して姿を変える。虎のように激しい気を纏った拳士、ゲキレッドである。
「イキナリ不意打ちってのはゾワゾワするぜ……」
不満そうに呟きながら、ゲキレッドが駆け出す。
「ゲキトンファー・ロングバトン!」
長い棒状の武器を装備し、力強く繊細な棒術でガリュードの銃撃を弾きながら徐々に接近していく。忙しなく左右に持ち替えることで、一切の隙もない攻防一体の型が完成する。
「
先端に焔を灯すと、ロングバトンを高速回転させた。自由自在に操られるバトンが突風を巻き起こし、燃える竜巻がガリュードを宙に打ち上げる。
「俺はなァ……このバトルで勝って、世界中のヤツと拳を交えてダチになんだよ! もちろんアンタともな!」
「熱苦しいバカめ……消えろ!」
空中で姿勢を立て直したガリュードの銃撃が炎を纏い、ゲキレッドに襲いかかった。避けることはもはや不可能に近い。
「俺の炎は消えねぇ! 咆咆弾!」
現れたエネルギー体の虎も同様に燃え上がり、迎え撃った。瞬間爆ぜるようにぶつかり合い、赤い閃光に空が染まる。
大地に深く刻み込むような衝撃が響いた後、風が流す爆煙の中立っていたのはガリュード……クオンだった。
仰向けに倒れた神風は、敗北したにも関わらず笑っていた。
「クッソ〜! 負けたぜ!」
勢いよく跳ね起きながら、クオンに向かって力強く手を伸ばす。
「だがいい戦いだったぜ! これでお前もダチだな!」
「ダチ……? これだからアタマまで煮えてるような熱血バカは嫌いなんだ」
クオンは踵を返し、早歩きでビルの中へと姿を消した。
「これで"一敗の神風"かぁ〜……あっ!」
本来の目的地を思い出したが、今日ぐらいはゆっくり歩いてみようと思えた。焦らなくても、急がなくても、いつか世界中の皆と戦い、打ち解けられるのだから。
指輪を失ってから2年ほど経った頃、神風は再びカンフー世界選手権の優勝者となっていた。一度本気でぶつかり合えばダチ。空港ロビーで熱く語る彼の手には金色の指輪が光っている。
「総当たり戦、やっと俺の番かァ?」
神風が指差した大きな柱の背から、前回の指輪争奪戦王者である遠野吠が現れた。
「あぁ……お前の指輪も、俺の獲物だ」
「やっとお前と戦えて、俺ァ最高の気分だぜ!」
「「エンゲージ!」」
正面で一拍、流れるように一回転して二拍、左手の爪を地面に突き立て、腕に一拍。大きく溜め、腕を突き上げながらとどめの一拍で全身を赤い繊維が覆う。
「いざ掴め! ナンバー……ワ────ン!!!」
ユニバースを讃える応援団の声を背に、高らかに名乗りをあげる。
「心に点火、掴むぜ天下! カンフーチャンピオン・ゲキレッド! さぁ、お前もダチになろうぜ」
「VS!!」
ゴジュウジャーへのエールを一身に受けたウルフも、負けじと名乗り上げる。
「狙った獲物は逃さねぇ! はぐれ一匹 ゴジュウウルフ! お前の顔、誰かさんを思い出すぜ」
斯くして、ナンバーワンバトルの火蓋が切って落とされた。
「かかって来い! ゲキヌンチャク!」
召喚したヌンチャクに指輪の能力で点火し振り回す。ゴジュウウルフは怯むことなくゲキレッドの間合いに入り込み、ヌンチャクを弾き飛ばした。
「お前とよく似たダチがいるから言わせてもらうが……あいつはそんなヤワじゃねぇぞ!」
発破をかけるゴジュウウルフの胸を蹴り、ゲキレッドが宙を舞う。
「言ってくれるじゃねぇか! ゲキトンファー・ロングバトン! ……こっちの方が手に馴染むぜ」
またも両端に点火し、縦横にビュンビュンと振り回す。
「ふっ…… やっぱアイツそっくりだ」
突きや薙ぎ払いを駆使して躙り寄るゲキレッドの姿に、吠のケンカ友達ナンバーワン、ファイヤキャンドルが重なって見えた。
それもそのはず。かつての指輪争奪戦で神風と戦ったクオンは、テガジューンにその戦闘データを献上していた。彼はファイヤキャンドルの学習元と言っても過言ではない存在なのだ。
「お前みたいな奴の倒し方はなァ、俺が一番よく知ってんだ!」
ゴジュウウルフのテガソードが炎の輪をすり抜け、ゲキレッドの肩口に触れる。張り詰めた空気のまま二人の動きが止まると、神風が小さく息を吐いた。
「はぁ……完敗だぜ」
両者同時にスーツが消えた後、からっと笑う神風の手には金の指輪が握られていた。
「お前の勝ちだ! 俺の願い、ダチのお前に託した!」
吠の掌に指輪が舞い落ちる瞬間の輝きは、燃えたぎる炎のように辺りを照らした。
「じゃあな親友! 迷わず、進めよ」
一言伝えて満足そうに去る神風の背中は、少しだけ大きく見えた。