「シンケンジャー」の指輪の物語になります。
以下、作者様のまえがきです。
今回EXTRA ROUNDにてシンケンジャーの物語を書かせて頂きました。
先に言わせてもらいますと長いです。2話構成です。前後編合わせて八万文字くらいあります。なので余裕がある時にゆっくり楽しんでもらえたらなと思ったり。
ちなみにタイトルは《とがさむらいきわみたつ》と読みます。
前回、前々回以上にやりたいことをやりまくりました。
是非、お楽しみ下さい。
とある岬。男はそこから海を眺めていた。
季節は秋の終わり頃。冷たい風が吹き薄着の身体に刺さるが、彼は構わず波立つ海を見つめる。彼は1年半以上前からこの近くにある診療所に昏睡状態で入院しており、5ヶ月前に漸く目を覚ましたのだ。それからリハビリを続けて今では昏睡する前と同じ様に活動出来るまで回復し、明日には退院する予定だ。
ふと、男はポケットからある物を取り出して掌に乗せ、今度はそれに目を向ける。
彼の掌の上にあるのは指輪だ。赤く絡繰の様な獣、そして幟旗と陣幕が描かれた和の雰囲気を感じさせる絵柄。看護師に曰くこの指輪は8ヶ月程前にいつの間にか彼の右手の指に付けられていたらしく、試しに取ろうとしても取れかったとのこと。彼が目覚めたことで漸く取り外しが可能になった。
「何で俺の所に来た……?」
ポツリと呟く。自分はこれを持つには相応しくない罪を犯し続けて来た男。真に相応しい者がいるのに、何故かこの指輪は自分の元に来た。何度か海に投げ捨てたが指輪はその度に必ず戻って来る。
どうしたものかと空を仰いだ時、背後から声を掛けられた。
「見つけたぜ、シンケンジャーの指輪の戦士」
振り返った先に居たのは鋭い眼光を飛ばす青年。首から掛けられた鎖が、その青年の荒々しさを表現してる。
「君は……?」
男がそう聞くと、青年は右手の人差し指に付けられた赤い指輪を見せ付けた。
「そうか、君が」
「まさか角乃の妹じゃない奴が持ってたとはなぁ。とにかく始めようぜ……指輪を賭けた戦いを!」
彼らの持つ指輪。それはセンタイリングと呼ばれる物であり、50以上あるその指輪を全て集めた時、どんな願いも叶うのだ。だから指輪の戦士である彼らは指輪を賭けた争奪戦に身を投じているのである。指輪争奪戦は過去にも行われており、今回はこの青年・遠野 吠が変身するゴジュウウルフとの総当たり戦となっている。その為彼は男に会いに来たのだ。
右人差し指にあるゴジュウウルフの指輪を抜く吠。戦う準備は万全。獲物を見据え、彼は「エンゲージ!」と叫ぼうとする。だが……。
「やるよ」
それよりも早く、男は指輪を吠へと投げ渡した。
「うおっ!? どういうつもりだ!?」
まさかの事に驚きながらも吠は指輪をキャッチ。そして目を丸くしながらそう叫んだ。
「どうもこうも、俺に指輪は必要無い。それだけだ」
「何……?」
男は肩の荷が降りたとばかりに息を吐いた。そして診療所に戻ろうと歩き出したが、その前に吠が立つ。
「待てよ! アンタ、願いがあるんじゃないのかよ?」
これまで出会った指輪の戦士達は、それぞれが叶えたい願いを持っていた。自分の為、誰かの為、皆が譲れない想いを燃やしており、今回の指輪争奪戦でそんな者達と戦うことで吠はその想いを感じ受け止めていた。
だからこうもあっさり、指輪を手放してしまう男のことが彼には信じられなかった。
「…………必要無いってのは傲慢だったな。俺にはこの指輪を持ってる資格が無いんだ」
「資格って、どういうことだよ? だったら何で指輪はアンタの所に来た?」
吠のその問いに男はまた空を見る。
「本当に……」
───君が助かって良かったよ。
───俺達の仲間になれよ!
───絶対に……殺してやる!!
───お兄さんの、願いは何?
忘れられない過去が、彼の……御影 椿の脳内で廻る。渇いた笑いが漏れ、消せない愚かな罪を彼は語り出すのであった。
「何でだろうな……」
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2024年10月。
2人の赤い戦士が争っていた。片方の顔には「火」の文字、もう片方の顔にはタイヤが貼り付けられており、どちらも異様な存在であった。
火の戦士の名はシンケンレッド。
タイヤの戦士の名はブンレッド。
どちらも指輪争奪戦を戦う戦士だ。
《ブンブンブーン!!》
ブンレッドが背部に二つのタイヤ型エネルギーを背負いながら加速。手にしたロッドでシンケンレッドへと殴り掛かる。日本刀型の武器で受け止めたシンケンレッドだが、ブンレッドは構わず押していき彼を後退させた。
鍔迫り合いになる2人。推進力を得てるブンレッドが有利で押しているが、シンケンレッドはローキックで彼の体勢を崩し、ロッドを払ってから刀の柄底を顔面へと叩き付けた。退がるブンレッドに、更に容赦無く刃を振るう。
「くっ、やってくれるな……!
刃を躱し、ブンレッドは近くの手摺を掴んだ。すると手摺が分解され剣にへと再構築される。これが爆上戦隊ブンブンジャーの指輪能力・
ブンレッドがロッドを銃へと変化させて弾丸を連射、更に剣をシンケンレッドへと投げた。それらを彼は刀で斬り落とし弾く。その隙に、ブンレッドは付近にあった屋外消火栓に触れてそれを銃の形にへと変化させた。銃口をシンケンレッドに向け、そこから強烈な水圧弾を放つ。回避は出来たが、水圧弾が当たった壁には大きな穴が開く事になった。
「“火”何だろ? これで消火してやる!」
勢い良く放たれる水流。それをシンケンレッドは走りながら回避。立ち止まれば水流をまともに喰らい、ただでは済まないだろう。走りながらシンケンレッドは携帯を変形させた筆を取り出し、赤い文字で“獅子”と書いて戦いの余波によって散らばっていた瓦礫に飛ばした。
すると瓦礫は赤く燃える獅子となり、ブンレッドへと突進する。侍戦隊シンケンジャーの指輪能力である
「チィ……!?」
振られる刀をブンレッドはどうにか躱すが、どんどん追い詰められていく。そして放たれた蹴りが彼の胸に刺さり大きく吹っ飛ばされてしまう。
地を転がったブンレッド。そこへ鋒を向けたシンケンレッドが迫っていく。
「俺はまだ、負ける訳にはいかない……願いの為にも!」
ブンレッド……人間としての名前を
その時、ブンレッドは銃をハンドルの様に構えてそれを切った。すると躱した筈の光弾が、反転してシンケンレッドの背後へと迫る。咄嗟に気付いた彼は反転して光弾を防いだ。その隙を、ブンレッドは見逃さない。
「はあああッ!!」
《バクアゲフィニッシュ!!》
エネルギーを纏ったロッドを、シンケンレッドの背中へと突き出した。背部への一撃。当たれば一溜りもないだろう。
だがしかし、シンケンレッドは腰を曲げ、体勢を低くして回避。そして身体を捻りながら回って刀を振るいブンレッドを斬った。
「ぐはああッ!?」
斬り飛ばされたブンレッドは倒れる。トドメを刺す為、シンケンレッドは彼へと歩いていく。
「待てぇぇぇ!!」
そこへ、鷲の様な赤い戦士が割って入って来た。
「素晴らしい剣の腕だな……是非私と手合わせ願いたい!」
バルイーグル・
その間、これ以上ここに居るのは時間の無駄と考え、ブンレッドは逃走する。
シンケンレッドへと駆け出す。ため息を吐いてから、彼は筆で“花吹雪”という文字を桜色で書いてから地に飛ばし、猛烈な花吹雪を発生させてバルイーグルの突進を妨害した。
「何!?」
驚き日本刀を振り回して花吹雪を払おうとするがなかなかに振り払えない。苦戦してる彼を、シンケンレッドが背後から奇襲。それをギリギリでバルイーグルは受け止める。
「猪口才な……ならば!
触れてる物から眩い光を放つ太陽戦隊サンバルカンの指輪能力・
歪んだ景色が元に戻って目を向けると、バルイーグルが霞の構えと呼ばれる体勢でシンケンレッドのことを待ち構えていた。閃光で怯んでる間に攻めるなんてことは、彼のポリシーに反する。本来の実力を発揮出来てる状態のシンケンレッドと、正面からぶつかり相対したいと考えてるのだ。
「さあ、いくぞ!」
また駆け出すバルイーグル。接近し、鋭い剣技をシンケンレッドに振るう。それを引きながら躱していくものの、突きが肩口に当たり後退させられてしまった。好気と捉えたバルイーグルは、気迫の声と共に一気に迫って刀を振る。刀で受け止めるが、その重い一撃によってシンケンレッドは吹っ飛ばされてしまった。
地面を転がっていくシンケンレッドは、バルイーグルに背を向ける形で横向きに止まる。
「立ちたまえ。まだ勝負は終わってないぞ」
鋒を向けて歩くバルイーグル。彼となら、まだまだ素晴らしい剣の交わり合いを成す事が出来る筈。そんな期待を抱きながら、刀の柄を握り締めてシンケンレッドへとゆっくりと迫る。
彼がとある文字を、見えない位置で書いてることなどバルイーグルは気付いてなかった……。
寝返りをうちながら、水色で書いた“氷”の文字を飛ばす。突然のことに反応が遅れたバルイーグルの足下に文字は飛び、右足を凍り付かせて動きを止めた。
「な、何!?」
どうにか動こうとして足を引っ張ったりするが上手く行かず、彼が苦戦してる間にシンケンレッドは立ち上がり、刀の鍔を回転させて2メートルを巨大な大剣・烈火大斬刀に変化させた。そしてその剣に火炎を纏わせて、バルイーグルへ近付いていく。
「き、貴様、卑怯だぞ!? 正々堂々と剣の勝負を───」
「一つだけ教えてやろう」
大剣を振り被り、そのまま一気に振り下ろす。バルイーグルは日本刀で防ごうとしたが、それごと纏めて叩き潰されてしまう。
「俺は剣など、どうでも良い」
変身が解除され、苦しみ倒れている岩海。そんな彼からサンバルカンの指輪を、シンケンレッドは御影 椿の姿に戻ってから取った。
「おの……れ……! 待、て……!?」
岩海が右手に持っていた刃を備えた銀色の手甲・テガソードが消滅した。これは彼が指輪の戦士としての資格を消失したことを意味する。御影へと手を伸ばすが、彼は全く気に留めず去っていく。
「へー……。アイツが噂の、ねぇ……」
近くにあった建物の屋上から、数人の男がその様子を見下ろしていた。
「確かに強えなぁ」
「既に3人……いや、これで4人ですね。彼に負けて指輪を取られてます」
「ひゅー、やるねぇ」
白いパーカーを着た男がケラケラと笑う。一方、顔付きに幼さの残る1人の青年は拳を握り締めて御影のことを強く睨んでいる。
「アイツが……アイツが真凜姉を……!」
彼ら全員の指にはセンタイリングが付けられていた。
「シンケンレッド……。攻撃能力といいあの筆を使った能力といい、戦うとなるとかなり厄介でしょうね。貴方の望む通り仲間に出来たら、高い戦力にはなるでしょう」
「はあ!? 仲間だと!?」
スーツの男性の言葉に青年が目を見開いた。
「ふざけんな!! アイツは……アイツは真凜姉を傷付けた! 許されて良い筈が無い!! アイツは絶対に、俺が倒す!!」
声を荒げる青年に他の男達が眉を顰める中、白パーカーの男は「まあまあ」と笑いながら宥める。
「殺すなら俺にやらせろよ」
そう言うのは赤髪オールバックの荒々しさを感じさせる男。彼はニヤニヤしながら柵に前のめりで寄り掛かり御影を見下ろす。
「アイツとの殺し合いは面白そうだ……! 考えるだけで、胸が躍るぜ……!」
「アンタ達とは手を組んだけど、アイツを倒すのは俺だ!!」
「ハッ、言ってろ。いいか坊主、こういうのは早いもん勝ちなんだよ」
「ふ、ふざけんな!? お前の勝手にはさせないぞ!」
赤髪の男に吠え、青年が指輪を人差し指から抜き取る。それを見た男も凶悪な笑みを浮かべながら指輪に手を掛けた。
そんな2人の間に、白パーカーの男が手を叩きながら割って入る。
「はいはい喧嘩すんなっての。俺達せっかく一緒に戦う仲間なんだ。仲良くやってこうぜ。な?」
2人の肩に手を置いて彼は笑う。青年は「誰がこんな奴と……!」と吐き捨てるがそれ以上は何も言わず、赤髪の男も相手を鼻で笑って終わらせた。
「
金髪碧眼の男がそう聞き、隣りでレザージャケットを着た男も眉を顰めている。
「とりあえず会ってみるさ。面合わせて、そっからアイツがどんなやつか見るのも悪くないだろ? つーことで、いくぜお前ら」
彼の言葉に従い男達は続く。
それぞれ持つリングを輝かせながら、それぞれの想いを胸に歩くのであった。
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「戻りました……」
自身の拠点と云うべき場所に戻って来た御影。少し薄暗いその部屋の壁には、至る所に遺伝子図や何かの検査結果など多くの資料が貼られていた。御影は扉を開き、別の部屋へ行く。そこには、10個の大きな高気圧酸素カプセルの様な物が並べられていた。それぞれに年齢、性別の様々な人が入れられており、全員眠りについている。入口付近にあるモニターにはこの人達のバイタルが表示されていた。
ここにいる全員の命が管理されているのだ。
御影は一つのカプセルの前に行く。そこに横たわり眠っているのはまだ十代と思われる少女。そのカプセルに手を伸ばし────
「おかえり、御影さん」
御影の背後から男性が声を掛け、彼の手が止まり振り向く。そこには不敵な笑み浮かべる男がいた。濁った灰色の瞳が、その男の不気味さを更に引き立てている。
「先生……」
伸ばそうとした手を引いて御影は頭を下げる。それを見て、先生と呼ばれた男・具島 玲は彼の肩に手を置いた。
御影と具島の出会いは9年程前に遡る。
元々彼は有名なプロ野球選手だった。ドラフト1位で入団後、走攻守の全てで優秀な成績を残しいくつもの賞を獲得している。
彼のことを見に多くのファンが球場に駆け付け、サインボールやホームランボールはそれ一つで家が買える、暫くは遊んで暮らせるなんて言われ程の値が付いていた。日本のみならず海外でも話題になっておりメジャーからのオファーも殺到。同時期に大活躍していた選手と合わせて野球界で、いや日本で知らない人間は居ないと言われるくらいには名声を轟かせた人物であった。
しかし9年前の8月、バスで試合のある球場へ移動していた時だった。そのバスに居眠り運転をした大型トラックが突っ込み、死者こそ出なかったものの乗っていた選手の7人が重傷を負うという大惨事となった。御影も大怪我を負い、生死を彷徨い、例え助かったとしても選手としての復帰は不可能だろうと言われる程の重傷。誰もが彼の人としての死、そして選手としての死に落胆した。
「そのオペ、俺に任せて下さい」
そう言ったのは当時御影が搬送された爆神病院で医師として働いていた具島だ。彼の素晴らしい腕前により御影は一命を取り留め、更にリハビリさえすれば選手として復帰出来る状態にまで回復した。
目が覚めた後、それを聞いた御影は彼に心から感謝し、具島もそんな御影がまた野球界で活躍出来ることを心から祈ってくれていた。リハビリは具島が直接指導をしてくれており、その中で2人は互いのことをよく話した。本当は野球選手よりもコックになりたかったが普通な料理しか作れず諦めたこと、自分を慕ってくれている幼馴染が最近アイドルを始めたこと。気付けば彼らは、医師と患者以上に深く信頼し合う関係になっていた。
御影にとって、具島は家族に匹敵する程に大切な存在であり、心の底から慕うことになる。
そして御影は約9ヶ月のリハビリの果てに復帰。復帰戦では特大ホームランを放ってチームを勝利に導き、日本中を大歓喜させた。そしてその年チームを日本一に輝かせ、世界大会でも大活躍し優勝へと導く。彼は世界中にその名を轟かせた。
メジャーからの声も掛かり、まさに順風満帆の人生であったが、ある日具島が病院を辞めたことを知る。連絡も取れず、医院長である爆神 竜登に辞めた理由を聞いても一身上の都合で医者を続けられなくなったからとしか教えられなかった。他の先生達に聞いても返答は変わらず、彼とコンタクトを取る手はゼロ。
彼がどこで何をしているのか。御影はメジャーに渡って活躍する傍ら、知人などを通じてその行方を追った。
具島が医師を辞めてから約2年後のとある日。何と彼から御影宛に連絡が来た。驚きと喜びの中御影はすぐさま日本に戻り、久しぶりの再会に歓喜。それから御影は、この日迄の具島の経緯を聞く。
幼馴染のアイドルを庇った腕を刺され、それが原因で医師免許を剥奪かれたこと。更にその後、不治の病を患ってしまったこと。病を治す為に独自に研究していたが、限界を感じ御影に助けを求めて連絡をしたのだと。
それを聞いた御影は迷わず彼に手を貸した。と言っても資金面での援助くらいしか出来なかったが、それでも具島は喜んでくれた。
以前助けてくれた人を、今度は自分が助けることが出来る。その事実だけで御影は嬉しく思えていた。メジャーで活躍しながら金を稼ぎ、その一部……と言ってもかなりの額をだが日本の具島へと支援金として送る。そんな日々は4年程続けられた。時折り帰国した際には彼に会い、その現状を聞く。重篤な病ではあるが、御影の支援もあって進行を遅らせることが出来ているという報告を聞き、彼は心の底から喜んだ。
しかしある日、彼は知ることになる。具島の行っていた事を……。
「成果はどうだい?」
具島にそう聞かれ、御影はポケットから二つの指輪を取り出して机に置いた。一つは先程手に入れたサンバルカンの指輪。もう一つはそれより前に戦いに勝利して奪っていた騎士竜戦隊リュウソウジャーの指輪だ。
「流石……」
具島は口角を上げながらそれらを手にし、他の指輪が置いてある場所に並べる。そこにあったのは魔法戦隊マジレンジャーと超電子バイオマンの指輪。これらも御影が争奪戦の中で入手した物である。
「貴方に指輪を託して良かったよ」
今御影が使っているシンケンジャーの指輪は元々具島がとある筋から手に入れた物であり、それを彼に与え使わせていたのだ。高い運動神経と優れた判断能力を持つ御影は、指輪のちからを十全に使い熟して敵を倒して来ていた。
「先生、お身体は……?」
「ああ、問題無いよ。寧ろ、最近は調子が良い方だね」
そう言って具島は笑う。御影は何とも言えない表情をしている。
去年、日本に帰国した際に御影は衝撃的なものを見た。
10個のカプセル。その中に入れられた10人の人間。老若男女、様々な人間がカプセル内には眠っており、余りにも異様な光景だった。一体何なのかと困惑していた彼の元に具島が現れて肩に手を置く。
「見つかっちゃったか」
彼は自身の病を治す為に、複数の人間を拉致して実験を行っていたのだ。最初に拉致したのは病院を追放され、病の判明してからすぐ、まだ10歳程の年齢だった少女……あのカプセルに入っている少女だ。それから具島は一人、また一人と誘拐していき、その人間達を自身の糧にする計画を進めてく。更に彼は計画を進める中でテガソードの伝説、センタイリング、厄災の存在を知り、それらも利用出来ると考えて調査を進めた。
しかし個人でやっていく中で限界が来た。人間の拉致、それらの生命を維持しながら昏睡状態にして保管する設備、厄災等の調査、そして現状の自身を延命していく為の薬の開発……人手も足りず、莫大な資金も必要になる。そこで具島は、以前助けたことのある者達に声を掛けていった。彼に恩のある者達は喜んで支援し、躊躇うことなく資金援助や優秀な人材の派遣を行ってくれた。御影もその一人なのである。彼らを利用して、具島は更なるサンプルとして人々を拉致し、それらを保管する為の設備も完備した。だが、具島の行いを知った時、それを非難する者が殆どだった。「こんなことは良くない」、「これ以上は協力出来ない」。そう言った者達は……。
御影は衝撃で動けなかった。自分の命の恩人が、誰よりも素晴らしいと思っていた人が余りにも恐ろしい事をしていたのだから。
立ち竦む御影に、具島が語り掛ける。
「御影さん、聞いて欲しい。俺はこのままじゃ死んでしまう……でもそんなのはゴメンだ。俺が生きる為には、貴方の力がどうしても必要なんだ。だから俺に力を、貸してくれないか……? 貴方に俺を救って欲しい。あの日貴方を救った、俺の様に……」
具島が伸ばした手。それを振り払うべきだった。でも出来なかった。
手を掴む。それが外道に堕ちる行為と理解した上で。
彼は具島の為に、戦い続けることを余儀無くされた……いや、自分でそれ以外の道を絶ってしまった。
具島はマジレンジャーの指輪をまじまじと眺める。
「指輪には相性というものが有るらしい。どうやら俺は、このマジレンジャーの指輪とのそれが良いそうだ。多分御影さんも、そのシンケンジャーの指輪と良い相性なんじゃない?」
軽く話し掛けられ、御影も指輪を見る。そう言われても正直どう思えば良いか分からなかった。ただただ、「そう、でしょうか……?」と返すしかない。
「まあ何でも良いさ。とりあえずこれは俺が持ってるから、残りは御影さんが自由に使ってくれ」
サンバルカン、バイオマン、リュウソウジャーの指輪を渡され手に取った。
「貴方には心から感謝してる。あの日貴方を救ったのは間違いじゃなかった。…………俺の為に、本当にありがとう」
笑みを浮かべながら礼を言った後、彼は去っていく。与えられた三つの指輪をポケットに入れ、彼は先程手を伸ばそうとした少女の入っているカプセルに目を向けた。そしてボタンを操作してカプセルを開かせ、シンケンジャーの指輪を外してから少女の指に付けた。すると……。
「っ…………お兄……さん……?」
少女は目を覚まし御影を見つめる。そんな彼女に、彼は笑いかけた。
「おはよう、緒乙ちゃん」
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2人の指輪の戦士が戦っている。片方は赤く、もう片方は……何故か白い。ゴジュウジャー以外で唯一赤く無い戦士。機界戦隊ゼンカイジャーの指輪で変身したゼンカイザーだ。戦う相手は未来戦隊タイムレンジャーのタイムレッド。
タイムレッドが短長二刀の剣を振るって攻撃するが、ゼンカイザーは軽快なステップを踏みながら余裕で回避していた。
「はああッ!!」
二刀を同時に突き出す。しかしその瞬間、ゼンカイザーと彼の間に穴が開いた。剣はその中を通り、そしてタイムレッドの右横に現れた穴の中から飛び出て来て彼を襲う。
「ぐはっ!?」
転がった彼に対してゼンカイザーは「ひゅーっ」と口笛を吹く。これがゼンカイジャーの指輪能力「
「クソッ!」
「どうよ、俺のこの能力? 因みにぃ……」
真横に作った穴に左拳を突き出す。と同時にタイムレッドの前にも穴が現れて拳が飛んで来た。彼は横に転がって躱すが、また眼前な穴が現れて銃口が現れてそこから弾丸が放たれる。タイムレッドは咄嗟に腕をクロスして顔面への直撃は避けるが、痛烈な一撃を受けてしまった。
「ぐううッ……!?」
「穴は自由自在に出せる。大きさも距離も思うがまま。凄いっしょ?」
「舐めるなよ……!
タイムレッドの全身が燃え上がった。赤い身体は更に深く赤に染まり、白かった箇所も煤の如く黒くなる。そして頭部のゴーグルと胸のマークが炎を連想させる攻撃的な物に変わった。
これが
「おー」
「いくぞ!」
剣を手に突っ込むタイムレッド。
「うお、やばッ!」
ストレートキックが直撃。ゼンカイザーは堪らず吹っ飛ばされた。地面を転がった彼に、タイムレッドは剣を構って突進。
「はああああああああッ!!」
起き上がったゼンカイザー。首をぐるりと回した後、彼は一言呟いた。
「
すると彼の白い身体は瞬時に赤くなった。そして剣と盾を手にし、その盾でタイムレッドの剣を受け止める。
「何!?」
驚くタイムレッド。赤いゼンカイザーは彼を笑いながら剣で斬り払った。
火花を散らして大きく後退させれたタイムレッドは、赤くなった彼を見て目を見開く。どう見てもあれは指輪の能力。だがゼンカイジャーの指輪能力は
困惑している彼に、ゼンカイザーは剣を肩に担ぎ仮面の下で和かな笑みを浮かべる。
「これは
「能力が二つ……!? 馬鹿な、有り得ない!?」
「有り得ないことなんて有り得ないさ。世界初、複数の指輪能力を持つ指輪ってところだ」
「凄いだろ?」と笑うゼンカイザー。
そんな彼に対して剣を銃に変形させてから連射しながらタイムレッドは突っ込んでいく。盾で防がれていくが構わず接近し、回し蹴りで盾を弾いた。そしてまた剣に素早く変形させ、炎を纏いながら振り下ろす。
しかし剣が当たる寸前ゼンカイザーは青色になる。燃え盛る刃は、彼の身体に弾かれてしまった。
「なッ……!?」
「赤は攻撃強化。青は防御」
タイムレッドは再度剣を振るうが、ゼンカイザーは左腕でそれを防いでから右ストレートを叩き込む。後退していくタイムレッド。そんな中、彼の色がまた変わる。今度は黄色だ。目にも止まらぬ速さでタイムレッドの背後に周り、手にした鉤爪を振るう。
「がッ!?」
「黄色はスピード」
振り向いて剣を振るが、ゼンカイザーは後ろに跳んで回避。そして次は体色を桃色に変えた。
「DVバルカン!!」
バルカンモードにした銃からパルスビームを連射。無数の光弾がゼンカイザーに向かう中、彼は手にした龍の尾の様な杖を突き出した。すると光弾は停止し消滅。想定外のことにタイムレッドはまた驚愕する。
「ピンクだと魔法が使える。凄いっしょ?」
「無茶苦茶な……!?」
「良いじゃん無茶苦茶。人生も戦いも、そのくらいが面白ぇ」
彼が杖を振ると空中にいくつもの光弾が現れ、それらがタイムレッドへと飛来していく。剣で弾き、躱し、何とか防ぎ切ったが、そこへ白い本来の姿になったゼンカイザーが肉薄して来て右の拳を叩き付けた。
「ぐほっ!?」
後退するタイムレッド。その時、まるで何かを奪われた様に感じた。見てみるとゼンカイザーの右拳の中は光っており、手を開くとそこには歯車の様な物が乗せられていた。
「まさか……!?」
「そのまさか」
ゼンカイザーはその歯車を取り出した銃に装填。右手でハンドルを回してからトリガーを引く。
《24バーン!》
《バババーン! タァーイムレンジャー!》
「なッ!?」
彼の前にタイムレッド、更に彼とは別の色のタイムレンジャー達の幻影4人が並び、そしてゼンカイザーに重なった。
何が起こったのかよく分からないが、とりあえず突っ込むしかない。タイムレッドは身体を燃え盛らせながら駆け出した。それに対してゼンカイザーが手を突き出すと、時計型のエフェクトが放たれて向かって来たタイムレッドに当たる。すると、燃え盛っていた炎はどんどん収まっていった。
「こ、これは!?」
身体が本来のタイムレッドの姿に戻り力も抜けていく。困惑する彼に、ゼンカイザーは腕を広げて笑う。
「
「反則過ぎるだろ……!」
「アハハハッ、だよなぁー。だから使えるのは短時間だけ」
やれやれ、とでも言いたげなポーズを取る。
今回は未来戦隊タイムレンジャーにある時間のイメージを利用し、彼を強化前の状態に逆行させたのだ。
「さて、一つ教えてくれよ」
「………何をだ?」
「お前の望みだよ」
その言葉にタイムレッドは仮面の下で眉を顰める。
「俺はさ! この戦いに挑む奴らの願いを全部知りたいんだ! どんな願いを持ち、どんな情熱を燃やしているのか! そしてそいつらの願いを、俺は叶えてぇんだ!」
自分のではなくて他人の願いを叶えたい。訳の分からないことを言うゼンカイザーにタイムレッドは困惑。
「願いを叶えるだと……? なら、その指輪をとっとと俺に寄越せ」
「いやいやそれはダメだ。そしたら俺の願いが叶わなくなるだろ? だからとりま、お前の願いを言ってみ? 叶えられる願いなら即行で叶えてやっからよ」
おそらく善意全開で彼は言っているのだろう。しかしそれはタイムレッドの神経を逆撫ですることになる。
「百合……」
1年前から行方不明になっている妻。彼女を見つける為に
「ふざけるなよ……お前なんかが、俺の願いに土足で入り込むな!!」
大型キャノン砲を手にしてエネルギーをチャージ。その砲門を拒否されてがっくしと言わんばかりに肩を落としているゼンカイザーに向ける。チャージが終わって強烈なエネルギー弾が放たれた。砲弾は真っ直ぐにゼンカイザーへと向かっていく。小さな山程度なら吹き飛ばす程の威力を持つ一撃。喰らえばいくら彼でも一溜まりも無いだろう。
だがしかし、ゼンカイザーの前に赤いニつの影が立ち、それぞれの武器を振るって砲弾を防ぎ打ち消してしまった。
「何!?」
「お、あざーすっ」
海賊戦隊ゴーカイジャー、ゴーカイレッド。
動物戦隊ジュウオウジャー、ジュウオウイーグル。
新たに現れた2人の指輪の戦士。ゼンカイザーの仲間であろう彼らは、タイムレッドに構える。そこへ更に、3人の赤い戦士が歩いて来た。
烈車戦隊トッキュウジャー、トッキュウ1号。
宇宙戦隊キュウレンジャー、シシレッド。
魔進戦隊キラメイジャー、キラメイレッド。
6対1という完全に不利な状況になってしまったタイムレッドは少したじろぐ。
「それでさ、一応さっきの続きにはなるんだけどよ。お前、俺らの仲間にならね?」
「は?」
「俺の願いが叶えば、お前らの願いも叶う。だからコイツらは俺に力貸してくれてんだ」
「どういう意味だ……?」
「そのままの意味さ。俺の願いは────」
ゼンカイザーの願い。それを聞いた彼は驚愕した。
「………本気で叶うと思ってるのか?」
「叶うさ! てか嫌でも叶えさせてやる。──どうする、乗るか?」
彼のこと試す様に聞く。複数人で囲んで脅してる様な状況だが、「コイツらには手出しさせねえよ」と付け足しておいた。だが1人、シシレッドだけからは今にも襲って来そうな殺気が放たれていた。
「…………断る。俺は自分の手で妻を見つけ出す。信用し難い、お前らの力は借りない」
「そうかい。それはがっかり」
タイムレッドは背を向けて歩いていった。シシレッドが背後から襲おうとするが、その前にゴーカイレッドが躍り出てサーベルの刃先を向けて止める。
「邪魔だどけ」
「
「ならテメェが、俺と遊んでくれるか……?」
睨み合う2人。そこへゼンカイザーが変身解除して駆け寄り、シシレッドと肩を組む。現れたのはあの白いパーカーを着た男だ。彼の名は、
「はいはいストップストーップっと。フランも有流真も落ち着けっての」
五代儀にそう言われてゴーカイレッド=フランシス・ロバーツはサーベルを下ろしてから変身を解き、それを見たシシレッド=
他の3人も変身を解除して彼らに近付く。
「にしても残念だなぁーーーっ。アイツも仲間に出来ると思ったのによぉ」
「貴方のその誰にでも誘いを掛ける癖、やめた方が良いと思いますよ」
呆れながらそう言うのはスーツに身を包むキラメイジャーの指輪を持つ男性・
「えーーーっ、良いだろ? 仲間ってのは多い方が楽しからよ」
五代儀は相変わらずケラケラと笑っていた。兎にも角にも楽しいことを求めているのが彼なのだ。
「だからって、あの男も仲間にする気なのか……?」
怒気の込められた瞳で五代儀を睨む幼顔の青年。彼の名は
「アイツだけは……御影 椿だけは許さない!! 俺は絶対にアイツを倒す!!」
「はいはい、分ぁーってるって。でもその前に少しアイツと話させてくれって、な?」
旭の肩を叩く。彼のその態度に旭は眉間に皺を寄せた。そんな中、有流真が赤髪を掻き上げながら笑った。
「俺に殺らせろ……奴となら、楽しい殺し合いが出来そうだ……」
邪悪な笑みとでも言うべきか、そんな恐ろしい表情を彼は見せていた。それを聞いて旭は歯を食い縛る。
「アイツを倒すのは俺だ!! 絶対に邪魔はさせない!!」
思いっきり吠える旭を見て有流真は鼻で笑い、五代儀以外の男達は呆れた様な顔をしていた。五代儀は彼に近付いて肩に手を置く。
「と・に・か・く、楽しみじゃねぇか。アイツがどんな願いを持ってるかがなぁ……」
満面の笑みを浮かべる五代儀。そんな彼に追従しながらも、5人はそれぞれ己の望みの為に思考を巡らせるのであった。
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彼女、一河 緒乙が指輪を付けることで目を覚ますというのを知ったのは8ヶ月程前。具島に頼まれて彼女の伸びてしまっていた爪を切っていた時のことだ。
被験者達はカプセルや点滴を利用することでその健康状態は最低限保たれているが、どうしても人間の手が必要となる場合もある。その為具島や、具島に頼まれて御影がそれを行なっていた。金で雇った人間にさせていたこともあったが、その多くが罪悪感に苛まれて去っていった。
そうした者達がどうなったかは、言うまでもあるまい……。
あの日御影は、何となく指輪を緒乙の指に付けた。どうしてそんなことをしたのかは正直自分でも分からない。この役を押し付けたかったのか、これを付ければ何かが起きると思ったのか。何を思ったのかは分からないが、指輪を付けたその時彼女の瞼は開いた。
目覚めてすぐの頃は大変だった。何せ彼女がここに連れて来られたのは10歳の時であり、具島が付けていた記録を見る限り約7年振りに目を覚ましたのだから。知らない場所、精神と肉体の年齢の乖離、更に長年眠っていた影響からか記憶を失って自分が誰なのか分からなくなっていた。そんな状態故に緒乙はパニックになり、御影は指輪を取ることでどうにか収めた。それから短時間だけ指輪を付け、彼女を落ち着かせながら状況を説明して落ち着かせるというのを繰り返す。
今、君は原因不明の病に罹っている。それを治す為に具島という医師がその病の研究を長年続けており、自分はその手伝いをしている。この指輪を付けてる時だけ、意識を取り戻すことが出来る。指輪は一つしか無く、君と同じ病状の患者が他にもいるから付けていられる時間は限られてくる、と。
勿論これらは真っ赤な嘘だ。具島が研究してるのは自分の病の事であるし、彼女以外はこの指輪を付けても目覚めはしない。だが緒乙は御影の言葉を信じ、彼を慕ってくれた。
「わあぁ!? これって前に私が欲しいって言ってたトップスだよね!? 買って来てくれたの!?」
「うん。女性向けの店に入るの、結構緊張したよ……」
「えー、嘘だぁー! お兄さんなら彼女バンバンいただろうし、絶対馴れてるでしょぉ?」
彼女の言葉に「そんなこと無いさ」と御影は笑いながら答える。
目を覚ました緒乙に、御影は若い女性向けのファッション雑誌などを調達していた。スマホやパソコン等はSNSで彼女が今どういう状況なのかを知られてしまう可能性が高いので渡すことが出来ず、雑誌も念の為に全て閲覧した上で渡していた。
ふと、緒乙はデジタル時計の日付に目を向ける。
「前に起きてた日から、二週間経ってるんだね」
「ああ……いろいろと、忙しかったりしてね。ごめんね、本当はもっと短い期間で定期的に起こせたら良いんだけど……」
彼女を起こすことが出来るのは具島が出払い、尚且つ戻って来るが長時間後だと確定してる時のみ。もしこれが具島にバレれば、自分や彼女がどうなるか分からないからだ。
「大丈夫だよ! こうしてお兄さんと話せる時間、私すごく楽しいし!」
笑顔で答えてくれた緒乙。その純粋な表情に心が締め付けられる。
「そうだ! 私ね、最近これに興味あるの!」
そう言いながら彼女は雑誌のとあるページを見せて来た。ギャル特集、と書かれたページだ。
「ギャル?」
「うん! なんかここに書かれてる、他人から理解されなくても自分を貫くとか、敬語は使わないけど目の前の人には手を差し伸べるとか、それと今を楽しむとか、すっごい私の胸に刺さったの! ギャル良いなー。私もなってみたい!」
ギャルのことを語る彼女の表情は本当に楽しそうだった。そんな緒乙の言葉を、御影は虚ろになりながら聞いていた。彼女は満面の笑みでページを捲り目を輝かせながら読んでおり、その姿を見て更に胸が抉られる。それでも彼は緒乙から目を逸らさず、その話を聞き続けた。
自分の罪を意識する様に。
時間が過ぎて行く。そして……。
「緒乙ちゃん、そろそろ……」
具島が戻ってくるまであと僅かとなっていた。
「あ……そっかぁ……」
もう眠らなければならない。そう報されて緒乙の表情が少し沈む。
「ごめんね……。もっと長い時間起きていられる様にしたいんだけど……」
「ううん、大丈夫! お兄さんと先生が病気治してくれるの待ってるから!」
「……俺は何も出来てないさ」
自分は医者でも何でも無い。そもそも具島は緒乙を治す為に動いてるのでは無い。ただ彼女を利用しているだけ。真実を知らない彼女から「そんなことないよ!」と言われるが、それが逆に自身の罪を突き付けられてる様。何とか出した「ありがとう……」の言葉には、様々な意味が込められていた。
「そうだ! 今度起きた時はギャルの雑誌読みたいんだけどぉ……」
「ああ、わかったよ。用意しとく」
「ほんと!? ありがとうお兄さん!」
大輪の花の様な笑顔が咲く。
それからカプセルに横たわった緒乙の指からシンケンジャーの指輪を抜いた。すると彼女は瞬時に眠りにつく。カプセルの蓋を閉じ、それから何事も無かった様に場を片付ける。
部屋には備えられている装置からの音だけが響く。先程までは全然聴こえなかった音。
「…………」
御影は指輪を自身の指に付けた。
何故この指輪は自分に力を与えてくれるのか?
何故緒乙だけを目覚めさせるのか?
考えても答えは出なかった。
「ふーん……。楽しそうじゃん」
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数日後。御影は書店で買った雑誌を入れた袋を片手に歩いていた。中に入っているのは緒乙から頼まれていたギャル関連の雑誌。
あまりよく分からないので店員に尋ねることになり、少し恥ずかしい思いをした。店員が自分のことを知らなかったのはある意味救いだった。
これがあれば彼女は喜んでくれる。
こんな物で彼女を喜ばせても意味が無い。
そもそも、自分に彼女を喜ばせられる様な資格は無い。
様々な思いを抱えながらも彼は歩く。そしてある場所に辿り着いて足を止めた。東京ドーム。過去にはここで試合をしたこともある場所。具島に命を救われてからの日本でゲームで、初めてホームランを打ったのはこの球場だった。あの時は何も知らずただ彼に感謝してるだけであり、幸せな時間だったと思う。あの頃に戻れたら……なんて考えるのは緒乙や他の実験台にされてる人達のことを考えればあまりにも無責任なことだろう。
「想い出に浸ってる?」
背後から声を掛けられた。振り返った先に居たのは白いパーカーを着た男。御影は怪訝な表情で男を見る。
「お? 俺が誰だって思ってる顔だな?」
いきなり声を掛けられればそうもなるだろう。
「俺は五代儀 凛九。分かりやすく言うとこれな」
「ッ…………そうか」
そう言って五代儀は指に付けてるゼンカイジャーの指輪を見せつけた。指輪持ち……つまりは敵。御影は迷う事なくシンケンジャーの指輪を回転させてから取り外し、そして銀のテガソードに装填する。
《センタイリング!》
「ちょい待ちちょい待ち! その前に俺の話聞いてくんない?」
一度止まる御影。だが敵の言う事など聞く必要は無い。彼は迷わず無言で、炎を纏った刃を振るっていった。
「あ、そりゃそうだよな。おっ、よっと」
刃を躱していく五代儀。斬撃は燃える軌跡を残している。
「俺はッ、お前にッ、仲間になってッ、欲しいんだけどぉー…………この感じダメっぽい?」
無有言わず振るう剣が答えになる。それを残念がりながら、五代儀は御影の刃を後方に大きく跳んで避けた。そして着地点に
「ワープ出来る穴を作れるって訳だ。凄いっしょ?」
そう言う五代儀を見上げながら御影はクラップ。すると残っていた斬撃の軌跡が彼の前で“火”の文字の形となり、それから重なる。
《シンケンジャー!》
御影は赤き侍、シンケンレッドへと変身。刀型の武器・シンケンマルを腰から抜いて構えた。
「ひゅーっ、かッッこいねぇ……。なら」
彼の横に複数のゲートが開かれ、その中から5人の男達が現れて横に並ぶ。五代儀の仲間達だ。予想外の展開にシンケンレッドは少し驚く。
「紹介するぜ。俺の仲間達、フランに武蔵、リアノと旭に有流真だ」
「勝手に紹介しないで下さい……」
ポケットに入れていたキラメイジャーの指輪を付けながらそう言うリアノに五代儀は「良いだろう別に?」と笑いながら言う。
一方旭はシンケンレッドを憎しみに満ちた表情で睨み、もう一方で有流真が獲物を見つけた獣の様に口角を上げながら見ていた。
「シンケンレッド、御影 椿……!! 俺はお前を倒す! エンゲージ!」
「遊びの時間だァァ……エンゲェェェジ……!」
「……エンゲージ」
「ほら、遅れますよ。エンゲージ」
「おっと。ハハッ、どいつもこいつも足並み合わねえなぁ! エンゲージ!」
《センタイリング!!!》
旭が真っ先にトッキュウジャーの指輪を回転させ、有流真もすぐにテガソードにキュウレンジャーの指輪を装填。フランことフランシスもゴーカイジャーの指輪を回転させてから装填し、武蔵は無言でジュウオウジャーの指輪を取る。
そしてリアノがキラメイジャーの指輪を回転させた時に彼らの協調性の無さを笑いながら、五代儀がゼンカイジャーの指輪をテガソードに装填した。
彼らはテガソードをクラップ。タイミングは全員バラバラで一切合わない。
腕を大きく回したり、回転したりして勢いよくクラップする旭。
笑いながら、何度も適当に手を叩く有流真。
テガソードを高く掲げて一度叩くフランシス。
無言でクラップしていく武蔵。
コンパクトな動きで手を的確に叩いていくリアノ。
そして誰よりもド派手に、激しく、ダイナミックに、何よりも楽しそうにクラップする五代儀。
それぞれが変わる。指輪に選ばれた戦士へと。
《トッキュウジャー!》
《トッキュウ1号〜、トッキュウ1号〜》
《SAY・THE・CHANGE!》
《キュウレンジャー!》
《ゴーカイジャー!》
《ゴォォーーカイジャァーーッ!》
《アーアーアァーッ!》
《ジュウオウジャー!》
《キラメイ……GO!》
《キラメイジャー!》
《ババン!ババン!ババン!ババン!
ババババーンッ!!》
《ゼンカイジャー!》
《ゼェェェェンカイザーーッ!》
並び立つ6人の指輪戦士。トッキュウ1号とシシレッドが、我先にと跳躍してシンケンレッドに向かう。だが彼らが跳んだ先にゼンカイザーが
「なッ!? 何すんだよ!?」
「おい……?」
どちらも不満を表に出す。
「お前らー、言っただろ? 全員で変身した時は必ず名乗りやるってよ」
「そんなこと一々やってやれるか!」
「だーめだ。やらないと何度でも穴の中くるくるすることになるぜ?」
「ふ、ふざけるな!!」
「チッ……」
声を荒げるトッキュウ1号と舌打ちをするシシレッド。
「大人しく従った方が良いですよ。でないと終わりませんし」
「はいはい……やりゃあ良いんだろやりゃあ」
「クッ……! さっさと終わらせるぞ!」
キラメイレッドに言われて渋々2人は了承する。それを見てゼンカイザーは仮面の下で満足気な表情になり、ゴーカイレッドとジュウオウイーグルが見合ってから呆れる。
彼らへ、シンケンレッドは階段を駆け登って斬り掛かろうとするが、ゴーカイレッドとキラメイレッドが銃を手にして足下に弾丸を放って止めた。
「
「お付き合いして頂きますよ」
手を挙げて天を指差すゼンカイザー。彼の「いくぜ?」の言葉から、6人の戦士による名乗りが始まった。
「全力全開全部任せろ!
最高のリーダー、ゼンカイザー!!
俺に秘密は何もねえ!!」
「ゴーカイレッド……。
「…………」
「ジュウオウイーグル、だそうです。
さて、私はキラメイレッド。
華麗なスケーティング、お見せしましょう」
「トッキュウ1号!!
俺が必ず、お前を倒す!!」
「シシレッドォォォ……!!
楽しい戦いを始めようぜぇぇ!!」
見栄を切る6人。訳の分からないことをされたシンケンレッドは再度刀を構える。
「どうだ? お前もやらないか?」
「何……?」
「名乗りだよ、なぁーのぉーりっ。戦隊なら常識だぜ?」
「くだらん」
「ええぇーー……ノリ悪いなぁ……。ま、取り敢えず良っか。そんじゃあ始めようぜ」
トッキュウ1号が線路を模した刀身を持つ両刃剣・レールスラッシャーを手に跳び掛かる。振り下ろされる刃を回避したシンケンレッドだが、トッキュウ1号は止まらず剣を振るっていく。シンケンレッドも対抗し、シンケン丸とレールスラッシャーがぶつかり合い火花を散らした。
ガンガン攻めていくトッキュウ1号。その勢いは凄まじいが、シンケンレッドはそれを後退しながら防ぐ。
「真凜姉の指輪を、返せ!!」
足下を斬り払う様にレールスラッシャーを振るう。シンケンレッドは後方に跳んでそれを回避した。
「知らないとは言わせないぞ! お前が真凜姉を傷付けて奪った、マジレンジャーの指輪のことだ!!」
「お前の所為で真凜姉の願いは失われた……それに……! 指輪を取り戻して、もう一度真凜姉の笑顔を見るんだ!!」
仮面の下で苦虫を噛み潰した様な顔をした後、彼は叫びながらシンケンレッドへと再び突貫。そこへ更に、キューザウェポンを大剣・キューソードにしたシシレッドが、それを滅多矢鱈に振り回しながら突っ込んで来た。一応シンケンレッドを狙ってはいるが、トッキュウ1号にも当たりそうになっている。
「うお!? あ、危ないだろ!?」
「知るか。ハハハァーッ!」
その斬撃を喰らえば一溜りもないだろう。的確に回避していくシンケンレッド。シシレッドは止まらず剣を振り回し、彼を斬り裂こうとする。
するとシンケンレッドは携帯と筆の役割を持つアイテム・ショドウフォンを取り出し、
「ぐうっ……!? やるじゃねぇか……!」
並大抵の相手ならこれで地に伏せるが奴は無理矢理立っている。恐ろしい肉体と精神力だ。だが数秒は動くことが出来ないのは確か。シンケンレッドはその隙にシシレッドを斬ろうとした。しかしジュウオウイーグルとゴーカイレッドがその前に立ち塞がった。ゴーカイガンとジュウオウバスターからの銃撃がシンケンレッドを襲う。
「チッ……!」
どうにかシンケンマルで弾いて防いだ。2人は追撃の為にそれぞれ剣を手にして駆け出そうとするが、彼らの間を回復したシシレッドが割って入り押し退けてから突っ込む。
「退けぇ!!」
振り下ろされた大剣をシンケンマルで受け止めて鍔迫り合い。シシレッドがこの戦いを楽しんでいるのが、嫌でも伝わって来た。
前蹴りが叩き込まれて後退するシンケンレッド。そこへ更にゴーカイレッドとジュウオウイーグルの2人も剣で斬り掛かって来た。数が多いこともあり防戦の状態になってしまっているシンケンレッドだが、状況を打破するべく刀を振るう。
ぶつかり合う4人。そして獲物を奪われた様な状態になったトッキュウ1号は憤り、指輪の能力を発動させた。
「
《乗り換えて〜ブルー!》
トッキュウ1号の全身が青くなり、彼はプラットホームを模した銃を手にする。二つある銃口からビーム光弾を乱射。彼の指輪能力・
「チィッ……!? このクソガキがァ!」
「ッ……」
「お前ら邪魔なんだよ!」
そんな彼らを見てゼンカイザーが腕を組み考え込む。
「あれ? もしかして俺達って、協調性あんま無い?」
「今更気付いたんですか……?」
「あはは、まあ良いや。俺らも行くぜ」
笑いながらギアトリンガーを手に階段を降りていく。キラメイレッドは呆れながらも、その後に続いた。
《乗り換えて〜イエロー》
パワー特化の黄色になり、信号機の形をしたハンマーを接近して振るう。周りのことなどお構い無しだ。シンケン丸でそれを受け止めたが、強烈なパワーでの一撃により後退させられてしまう。
そこへジュウオウイーグルがイーグライザーを鞭にして伸ばした。シンケンマルに巻き付かせ、それを奪い取ろうと引く。抵抗するシンケンレッドだったが、更にゴーカイレッドがサーベルで斬り掛かって来た。咄嗟に刀を手放してその刃を躱したが、奴はまた踏み込んでサーベルを振る。
「
「
後方に大きく跳んだ後、ショドウフォンで“木槍”と緑色の文字で書いて近くに落ちてたコーンバーに飛ばす。コーンバーは彼の手元に飛来して収まり、先端部分に“木”の字型のパーツが付けられそこから矛の伸びた槍にへと変化した。
「へぇー、そんな使い方も出来んだな」
「面白え!!」
感心するゼンカイザー。槍を構えたシンケンレッドに、キューザウェポンを鎌に組み換えたシシレッドが襲い掛かった。互いに振るう矛がぶつかり合って火花を散らしていき、更に赤い姿に戻ったトッキュウ1号も剣を手に突っ込む。
ジュウオウイーグルが指輪能力・
「これは……?」
「
そう語ったのはキラメイレッドだ。地面をまるで氷上の様にし、他の指輪戦士やジュウオウイーグルが召喚した猛獣達も上手く動けなくなっている。
「ちょー滑んじゃん、あはははッ」
「クソッ、おいコレやめろ!!」
背中で滑って遊ぶゼンカイザーとキレ散らかすトッキュウ1号。2人を無視してキラメイレッドはスケートの様に滑りながらシンケンレッドに迫り
どうにか立ち上がったシンケンレッド。キラメイレッドの動きを見る限り、スケートの要領で動けばこちらも動ける。ならばと彼は足を前に出して前進した。二つに分かれた槍を杖の様に扱いながらどうにか慣れて来て、キラメイレッドに対抗していった。
「流石はメジャーリーガー。恐ろしい運動神経ですね……ッ!?」
彼らへ、空から複数の小型隕石が飛来する。シシレッドが指輪能力の
「がッ!? この野郎!!」
「チッ……」
「くっ、滅茶苦茶してくれますね……」
「うおうおうお。有流真ー、あぶねーだろー?」
「ハハハァッ、知るかよ!!」
地面のあちこちが穴ボコになり
「死にやがれ!!」
《SAY・THE・ATTACK!》
左腕のセイザブラスターから光弾を乱射しシンケンレッドへと突っ込むシシレッド。それを回避しながら、彼は指輪をテガソードに装填。その能力を解放した。
《センタイリング!》
《リュウソウジャー!》
シンケンレッドの身体が赤い鎧に纏われる。それは本来のリュウソウジャーの世界で不屈の騎士と呼ばれた者が纏っていた鎧に酷似していた。これがリュウソウジャーの指輪の能力・竜騎鎧装。竜騎士の鎧を装備して強化するものだ。
突き出されたシシレッドの大型ナイフを盾で防ぎ、新たに装備された剣を振るった。斬られたシシレッドは火花を散らして後退。ゼンカイザー以外が迫って攻撃して来るが、強固な装甲と剣で対抗する。
「やっぱ強いなぁー……」
ゼンカイザーは予め用意しておいたトッキュウジャーのギアをギアトリンガーに装填。その力を解放。
《38バーン!》
《ババババーンッ! トォーッキュウジャー!》
「イマジネーション見せてやるよ!」
想像力こそ本家トッキュウジャーの力。ゼンカイザーが想像した赤い列車がシンケンレッドへと進む。
「お前ら白線まで下がんなぁ!」
「クソが!」
「言うのが遅いですよ!」
5人は跳躍して彼から離れる。シンケンレッドも横へと飛び込んで転がり回避した。しかし列車は旋回して再び彼を狙う。
「止めてみろよ!」
シンケンレッドは転がった先でジュウオウイーグルが奪い投げ捨ててたシンケン丸を見つけ拾い二刀流となり構える。突撃して来た列車を二刀で受け止めた。鎧で強化されたこともあり、どうにか止めるがどんどん押されていく。しかし力を込め、踏み込んで二刀をクロス字に振り下ろして列車を斬り裂いた。
「フゥーッ! やるじゃん!」
「
「なんと……」
凄まじいことを成したが、鎧が砕け散り肩で息をしてる。ゼンカイザー、ゴーカイレッド、ジュウオウイーグル、キラメイレッドが驚いて声を上げたり息を飲んだりする中、トッキュウ1号とシシレッドがまた突っ込んで行った。
「邪魔だ!」
「ぐあッ!?」
トッキュウ1号を蹴り飛ばして大剣で襲い掛かるシシレッド。シンケンマルで受け止めはしたが、押されて壁に押し付けられた。
「お前との殺し合い、面白くて仕方ねえ! もっともっと楽しもうぜぇ!」
更に力を込めて押していくシシレッド。しかしそんな2人の横から、轟音を立てながら何かが突っ込んで来た。ジュウオウイーグルが呼び出してた犀が壁を抉りながら向かって来たのだ。強烈な突進が2人を纏めて突き飛ばす。
「ぐうぅ……!?」
「がああッ!? この口無しがァァ!!」
ジュウオウイーグルは翼を生やしてシンケンレッドに接近。掴み掛かってそのまま上昇した。
波郷 武蔵は歌を録音してネットで配信する、所謂歌い手と呼ばれる活動をしていた。人気もそこそこあり、いつかはこれだけで食っていける様な大物になることが彼の夢であった。
しかしある日、彼は病によって声を失ってしまう。夢を奪われ、絶望の淵に堕ちていた時に彼は指輪の力を手に入れた。これがあれば声を取り戻し、また歌うことが出来る……その為に彼は戦っているのだ。
上空でシンケンレッドの首を絞める。このまま上昇し続け、その後地面へと叩き落とす算段だ。地上では、邪魔され獲物を奪われて激昂したシシレッドが光弾を彼らに向かって連射している。
「飛べるて良いねぇ〜」
呑気にそう言うゼンカイザーの隣りでゴーカイレッドがある物を取り出した。ジュウオウイーグルの小さな人形の様な物でありそれを鍵型へと変形させ、携帯型アイテムのモバイレーツに装填した。
《ジュゥーオウジャァーッ!》
ゴーカイレッドの姿がジュウオウイーグルに変わる。
手を離し、蹴り剥がしてシンケンレッドを突き落とす。落下しながら、彼は“天扇”の文字をモモ色でシンケン丸に書いた。するとシンケンマルは大型の鉄扇に変化。それを仰いで風を起こし、その勢いで彼は近くの高層ホテルの屋上まで飛んで着地した。それを見たジュウオウイーグルも着地し、更に飛んで来たゴーカイレッドも降りて本来の姿に戻る。
3人はそれぞれ剣を構え駆け出す。伸ばされたイーグライザーを掻い潜り、向かって来たゴーカイレッドにシンケンマルを振り下ろすが、彼がそれをサーベルで受け止めたことにより火花が散った。三者共譲らず、刃を振るい激突する。
「おー、やるねぇ」
地上では、ゼンカイザーが
「何やってんだよ!? 早く穴作って俺をアイツのいる場所に送れよ!!」
トッキュウ1号がゼンカイザーの肩を激しく揺らしてそう言うが、彼は適当に笑うだけ。送るつもりは無さそうだ。
「だったら自力で上がれば良いだけだろがァァァ!!」
シンケンレッド達が戦っているホテルへと走り出す。彼がエントランスに突っ込むことでパニックが起こるのはもうすぐだろう。
叫びながら走るシシレッド、呑気に観戦してるゼンカイザー、そして彼を揺さ振るトッキュウ1号を見てキラメイレッドが溜め息を吐いた。
ゴーカイガンとジュウオウバスターから弾丸が連射されていく。シンケンレッドは走ってそれらを躱していき、テガソードに指輪を装填。
《センタイリング!》
《バイオマン!》
弾丸が当たる瞬間、シンケンレッドの肉体が粒子化してすり抜けた。バイオマンの指輪能力・
シンケンレッドはゴーカイレッドの背後に現れて背を
シンケンマルで斬った。
「
痛烈な一撃を受けて倒れ転がっていくゴーカイレッド。ジュウオウイーグルは現れたシンケンレッドに向かってイーグライザーを伸ばした。しかし彼は再び粒子となりジュウオウイーグルへと向かう。
咄嗟に鷲や鷹、梟などの複数の鳥類を召喚。これらによる羽撃きや突撃を利用して突風を起こさせ、粒子化してる彼を吹き飛ばしてしまおうという算段だ。目論見通り強烈な風を受けて粒子は飛ばされ、シンケンレッドは実体化して床を転がる。そこへジュウオウイーグルは、バイザーを掻き上げて剛腕を誇るジュウオウゴリラとなり一気に接近。その拳を彼へと振り下ろした。寸前で躱されたが、床に大きな穴を開けホテルを揺るがす程の威力だった。
ジュウオウゴリラの拳が再び唸る。シンケンマルで防いだが、その猛烈な威力により彼はフェンスまで吹っ飛ばされてしまった。思わず膝を付くシンケンマルレッド。ジュウオウゴリラはその拳でトドメを刺すべく駆け出し、そして彼の胸を拳で貫く。
これで終わった……。ゴーカイレッドも、穴から覗いていたゼンカイザーも、そして何よりジュウオウゴリラ自身がそう思った。しかしシンケンレッドの肉体は、ポンッという音と共に消滅。そこにはこの屋上の何処かにあったのであろうカラーコーンがぐしゃぐしゃになって置かれていた。一瞬コーンから浮き出た“分身”の文字。これを分身として利用したのだろう。
まさかこれを身代わりに……?
だとしたら一体何時から?
そんなことを考えていると、側面に彼は姿を現した。ジュウオウゴリラは腕を振るうがそれを掻い潜り、腹部に刃の鋒を突き立てる。
「ッ……!?」
動きの止まるジュウオウゴリラ。シンケンレッドはそのままシンケンマルの鍔にある秘伝ディスクを回転させ、巨大な刀・烈火大斬刀にへと変化させた。こんな状態で変化させたことにより、ジュウオウゴリラは強烈な勢いで、火花を大量に散らしながら大刀に突き飛ばされて床に叩き付けられた。
変身が解除され、指輪がシンケンレッドの元に飛びテガソードが消滅。腹から血を流して気を失い倒れる。波郷 武蔵は、指輪の戦士としての資格を喪失したのだ。
《斬りまーす!》
指輪をキャッチしたシンケンレッド。そこへ、
「御影 椿ィィィィイイッ!!」
江ノ島 旭には憧れの人が居た。それがマジレンジャーの指輪の持ち主であった星羅 真凜。彼女は旭の近所に住んでいた女性で心優しく、よく彼の面倒を見てくれており、彼はそんな真凜のことが大好きであった。そんな彼女に似合う男になりたいと旭は常々思っていた。
真凜はピアニストであり、指輪に願った望みはピアニストナンバーワン。願いの為に、彼女はマジレッドとなって争奪戦に参加していた。
だが彼女は御影に敗れて指輪を奪われることになる。彼の強さと容赦無い戦い振りに圧倒され、勝負にもならなかった。
しかし本当の不幸はここからだった。御影の攻撃により真凜は左腕を傷付けられ、その結果指の動きに支障が出て以前の様な演奏をすることが出来なくなってしまったのだ。ピアニストナンバーワンになる為に戦いに参加したのに、ピアニストとして大切な指が使えなくなってしまう。真凜は実力ではなく指輪なんかに頼った罰だろうと自嘲したが、それを聞いた旭は激昂した。
大切な人の夢を奪った御影を決して許さない。そう決意した旭は偶然にもトッキュウジャーの指輪を手にし、御影に復讐して真凜から認めらる様な男になる為にこの戦いに身を投じのだ。
滅多矢鱈に振られる剣を後退しながら躱していく。そして一瞬の隙を突いて蹴りを叩き込んだ。退がっていくトッキュウ1号に、シンケンレッドは踏み込んで炎を纏った烈火大斬刀を横薙ぎに振るう。
「ぐああああああああああッ!!?」
吹っ飛ばされたトッキュウ1号。トドメを刺す為に烈火大斬刀を構え駆け出す。だがその時、トッキュウ1号の変身が解除される。そして姿を見せたのは、先程の青年としての旭では無く小学生くらいの子ども。これが彼の本来の姿なのだ。
「ッ!?」
それを見てシンケンレッドが止まる。まだ子どもである彼の姿が、緒乙と重なってしまったのだ……。
そこへホテルの階段を駆け上がって来たシシレッドが扉をぶち破ってから乱入し、シンケンレッドに大剣で斬り掛かった。突然の不意打ちを受けて火花を散らし退がるシンケンレッドに、シシレッドは更に剣を振るう。痛烈な斬撃を受けていき、その際にバイオマンの指輪を落としてしまった。
「オラオラオラァァ!!」
烈火大斬刀を手放してしまい、フェンスまで追い詰められてピンチに陥る。
「ここで死ねえええええッ!!」
振り下ろされる大剣。しかしシンケンレッドはそれを寸前で回避。そしてシシレッドに組み付く。
「テメェッ……!? 何ッ!?」
シンケンレッドはそのまま彼をフェンスの外にへと投げた。150メートル以上あるホテルの屋上から、シシレッドは悲鳴を発しながら落下していった。
膝を付くシンケンレッド。体力を大きく消耗しており、これ以上の戦闘続行は困難な状態だ。
「マジで強いなぁ、お前」
そんな彼の元にゼンカイザーとキラメイレッドが歩いて行き、更にバイオマンの指輪を拾ったゴーカイレッドも近付いて来る。
「なあ、お前の願いって何だ?」
ゼンカイザーがそんなことを聞いて来た。シンケンレッドは答えず、立ち上がってテガソードを構える。
「あ、もう戦うつもりはねえよ」
「な、何で!?」
「江ノ島さん。そんな状態じゃ貴方はもう戦えないでしょう。少し黙っていて下さい」
「俺はお前の願いが知りたい。教えろよ、お前が何を望んでその指輪を手にしたのか」
キラメイレッドに黙らせられる旭。それを横目にゼンカイザーはシンケンレッドへ問い続ける。その瞳が輝いてるのが、仮面の下からでも分かった。
「答える義理は……無い」
《センタイリング!》
《ジュウオウジャー!》
先程奪ったジュウオウジャーの指輪の力を発動。翼を生やしてそのままホテルから飛び降りた。これ以上の戦闘は難しい故に、ここは逃げるしかない。
「あーあ、行っちまった」
「追いますか?」
「いや、いいや。とりあえず武蔵を回収して、落っこちた有流真を探しにいくぜ」
「…………アイツ、まさか他人の為ってタイプか? しかも良くない方の」
フッ、と笑いを漏らす。
「だとしたら心底つまんねえタイプだがぁ……それもそれで良いか」
ケラケラと笑いながら、彼も穴を潜って行くのだった。
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後日。御影は具島に頭を下げていた。
「すいません。指輪を一つ、奪われてしまいました……」
ゼンカイザー達との戦いの中でバイオマンの指輪を失ってしまったことを謝罪。奥歯を噛み締める彼に対し、具島は柔和に笑った。
「気にしなくて良いさ。代わりに新しい指輪を手に入れてるんだし」
「しかし……」
「それに、最終的には御影さんが俺の為に全ての指輪を集めてくれるんだろ? だったら今他の指輪が何処にあろうと問題無いさ」
そう言って彼は御影の肩に手を置いた。全ての指輪を手に入れる……それは修羅の道ではあるが、具島の為にもやらなければならない。
拳を握り締める彼の肩を具島は嬉しそうに叩く。
「俺を裏切って離れた奴はたくさんいる。だから、そうやって思ってくれること素直に嬉しいよ。………俺を見捨てて、今ものうのうと生きてる人間だっているのに……」
少し寂しそうな目をした具島。彼は続けて語り出す。
「百夜 陸王。前に話した幼馴染のアイドルさ。俺はアイツの所為で、全てを失ったんだ……。しかもこアイツ、最近指輪を手に入れたらしい。きっとそれでアイドルとして返り咲くつもりなんだろう……。俺を見捨てて、さ」
それを聞いて御影は息を呑む。
「俺はアイツを庇ったのに、アイツは俺を救ってくれなかった。だから今こうして苦しむことになっている……。御影さん……君は俺を、見捨てないよね?」
手を差し出す具島。灰色の瞳の奥からはドス黒いものが感じられる。絶対に手を取るべきではない。だがそれでも、もう御影は具島を否定出来なかった。ただただ、その手を握るしかない。そんな彼を見て、具島はまた笑った。
「ありがとう。やっぱり御影さんは、俺の唯一の理解者だよ」
尊敬する人にそう言われ嬉しい気持ちと、彼の本性を知るからこその複雑な感情。それらがぐちゃぐちゃに混ざるのを感じなからも、御影は具島の為に戦うしかなかった。
具島がまた外出した後、御影は緒乙にシンケンジャーの指輪を付けて起こした。前回からかなり短いスパンで起こされたことに少し驚いた緒乙だったが、すぐにまた彼と会えたのを喜んだ。
彼女に頼まれていたギャル関連の雑誌を渡すと、更に喜ぶ。
「わあぁ! ありがとうお兄さん!」
嬉々としながら雑誌を読む緒乙を、御影は椅子に座って微笑みながら見る。彼女が笑顔を嬉しく思うが、同時に本当だったらもっと楽しいことだって出来ている筈の彼女の自由を奪っていることを思い胸が締め付けられる。尤も、そんなこと思う資格は自分には無いのだろうが。
「ギャルメイクにヘアセット、それにネイル……! ねえ、お兄さん……メイクとかは、流石にやっちゃダメかな……?」
上目遣いになりながら聞いてくる緒乙。入院してる身であることを理解しているので質問したのだろう。
御影としては彼女の要望には応えたいのだが、万が一髪型を変えたりメイクをしたことで具島から気付かれる可能性を思うと簡単に許可は出せなかった。
「うん……難しい、だろうね」
「そっかぁー……まあ、仕方ないよね」
「でも、ネイルくらいだったら! 寝る前にちゃんと落とすって約束出来るなら、やっても大丈夫だよ」
「ほんと!? やったぁー! ありがとうお兄さん!」
大喜びした緒乙は勢い良く御影に抱き付いた。驚き、困惑しながらも彼女を受け止めた御影。その身体は10代の女性にしては少し軽く、それがまた彼に罪の重さとしてのしかかって来た。
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2024年11月。
御影はひたすらに戦い続けていた。具島に言われるがままに。
科学戦隊ダイナマン。
「
光球が投げられる。それはダイナレッドの意思で変幻自在に動き、シンケンレッドを狙う。見切ってからシンケンマルで斬るが光球は爆発。爆風を受けて彼は吹っ飛ばされてしまった。
「どう! これがダイナマンの力よ! 私の最高の球を何度もお見舞いしてあげるわ!」
ダイナレッドに変身する
「御影選手、貴方は私の憧れ! だからこそ、全力で貴方にぶつかって倒すわ! 女性初のメジャーリーガーの夢を叶える為に!!」
再度
「嘘!?」
光球はダイナレッドに直撃して爆発。彼女のことを後退させる。
「くうっ、流石ね……! でも、負けない!」
複数の
ダイナレッドは飛び上がり、エネルギーの塊となってシンケンレッドへと突っ込んでいた。
「アタック! 爆発! スーパーダイナマイト!!」
突撃して大爆発。シンケンは大きく吹き飛ばされてしまう。
「さあ、どんどん行くわよ!」
着地したダイナレッドはダイナ剣を手に駆ける。シンケンレッドも立ち上がり、烈火大斬刀を大きく振り被って走り出した────
超力戦隊オーレンジャー。
岩野が変身したオーレッドが剣・スターライザーで斬り掛かった。シンケンレッドはシンケンマルでそれを受け止め、その後2人は何度も刀と剣で打ち合う。
「サングラス界ナンバーワンになる為、お前には負けられん!」
突き出された剣をシンケンレッドは躱す。そして刀を振り上げて斬った。下がっていくオーレッドに、彼は踏み込んで更に追撃を目論む。
「ぐううッ、ならば……
オーレッドが叫び手を前に突き出すとシンケンレッドの身体が止まる。サイコキネシスで物体を触れずに吹き飛ばしたり動かしたり出来る能力だ。それによりシンケンレッドを吹っ飛ばした。
転がったシンケンレッドにオーレッドは接近して剣を振り下ろす。それを刀で受け止め、蹴りを腹部に叩き込んで後退させた。彼は立ち上がりシンケンマルを構える。
「やるな……! ならば、これならどうだ!?」
2024年12月。
超新星フラッシュマン。
青で“水弓”という文字を書いてシンケンマルに付与すると、刀から弓にへと変化。水の矢を、
究極の激辛料理を産み出して激辛ナンバーワンになるのが彼の目標。その為に気合いの叫びと共に剣を突き出した。シンケンレッドはそれを避けていく。
「
複数の宝石が、剣を掲げたレッドフラッシュの周りに現れて浮いている。彼が剣を振り下ろすと、それらがシンケンレッドへと襲い掛かった。宝石を操り、それらを流星の如く降らせて攻撃したり宝石を集約させて防御に利用したりするのが彼の指輪能力なのだ。
避けながら矢を放って宝石を撃ち落としていくが、数が多くかなり厄介。手こずってる所へレッドフラッシュがプリズム聖剣を手に接近する。
「ファイヤーサンダー!!」
炎と雷を纏った斬撃。当たれば一溜りも無いが、シンケンレッドは跳躍してこれを回避。そして水の矢を連射した。矢を受けてレッドフラッシュは後退。
「くっ!? 激辛ナンバーワンの為に、俺は勝つんだああああああ!!」
諦めずに再度駆けるレッドフラッシュ。それに対してシンケンレッドはただひたすらに矢を放つのであった───
高速戦隊ターボレンジャー。
「フンッ!」
レッドターボのGTソードがシンケンレッドを襲う。
「ドラゴンバズーカ!」
電撃戦隊チェンジマン。
チェンジドラゴンである
2人はテニスプレイヤーでありダブルスのバディ。テニスのダブルスナンバーワンになることが2人の夢だ。長年共に戦って来た彼らの連携は抜群であり、シンケンレッドを追い詰めていく。
「
チェンジドラゴンは赤い竜に変身。稲妻を纏いながらシンケンレッドに体当たりして吹っ飛ばした。壁に叩き付けられた彼に、2人の戦士は剣を手に接近する。
「GTクラッシュ!!」
「ドラゴンソード!!」
二刀による斬撃を受け、背にしていた壁を破壊しながら彼はまた吹っ飛ばされてしまう。地面を転がり、苦悶の声が漏れた。2人は剣を手に迫って来ており、シンケンレッドは痛みに耐えながら立ち上がった。
負ける訳にはいかない。具島の為にも。自分の為にも。
具島の為……何故?
彼の所為で緒乙や他の人達は目覚められないのに。
彼の身勝手で消された人が多く居るのに。
自分の為……これは自分のエゴ。でも本当に自分はこれを望んでいるのか?
分からない。解らない。判らない。ワカラナイ。
「俺は……俺は………」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
自分の願いが、自分の存在が、どんどん不透明に澱んでいく。
「行くぞ!!」
「はああああああッ!!」
叫びながら突っ込んで来るレッドターボとチェンジドラゴン。今はとにかく戦うしかない。例え意味を見出せないとしても……。自分を鼓舞する為に彼らの様に叫ぼうとするが、声が喉で
だが、それでも戦わなければならない。呪われてる様な感覚に身を委ねながら、シンケンレッドは刀を振るった───
最近では戦ってる時も余計な事を考えてしまう。戦ってない時は尚更だ。今の自分が何をしてるのか、何がしたいのか。それを考えて悩むがすぐに答えは浮かぶ。
自分がやってるのは最悪な存在の手助けで、自分はそれを救おうとしてる最低の人間……。
分かってる……解ってる……判ってる……ワカッテルんだ。
自分が過ちを犯していることを。
それでも、彼を救わなければという思いが御影を戦場へと誘い、罪を重ねさせていた。
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目を覚ました獅子中 有流真の瞳に映ったのは知らない天井。自分が病院のベッドの上に寝かされていると気付き、身体を起こして繋がってる点滴を抜こうとするが上手く動かない。右手の指に付けられてた筈のキュウレンジャーの指輪も無いことに気付く。
自分の最後の記憶を辿る。シンケンレッドと戦い、奴から投げ飛ばされ、そのまま高層ホテルの屋上から落下して……。
「目が覚めた様ですね」
彼が居る病室に赤石 リアノとフランシス・ロバーツが入って来た。
「テメェら……」
「端的に説明しましょう。貴方、半身不随になりました」
リアノの言葉に有流真は「は?」と漏らす。
「変身した状態だったとはいえ150メートル以上の地点から落下したのです。100パーセント死ぬ状況でそれだけで済んで、生きているのが奇跡でしょう。自身の悪運に感謝することですね」
淡々と説明したするリアノ。有流真は落下の衝撃で脊髄を損傷し、下半身が不随になってしまったのだ。更にその際に頭部を強く打ったことで今まで昏睡状態に陥っていた。
「ふざけんな、俺は……!?」
腕で無理矢理身体を起こすが、バランスを崩してベッドから落ちてしまう。彼は何とか立ち上がろうとベッドやカーテンを掴んで引っ張るが、下半身の動かない人間にそんなことが出来る筈も無い。
怒りで歯を食い縛る有流真。そこへ五代儀もやって来た。
「おいおい、大丈夫かぁ有流真?」
「触んじゃねえ!!」
五代儀は有流真を抱えてベッドに戻そうと近付くが、有流真はそんな彼のことを腕で押し退けた。
「
「黙れクソが……!」
どうしようも無くイライラする。しかしもうどうにもならない。だが彼はふとあることを思う。指輪の力が有れば何とかなるのでないのかと。
「指輪……俺の指輪は何処だ!?」
「ここですよ」
リアノがポケットから出して見せる。それを求める様に有流真は手を伸ばした。
「返せ!! 俺のだ!!」
「残念ながらもう戦えない貴方に、これを持つ資格はありません」
「それがあれば動ける!! 俺はまだ戦えるんだよ!!」
「そんな保証はありませんし、持たせるだけ無駄です」
「クソがァァ……!!」
どうにかしてリアノから指輪を取り戻そうともがく有流真だが、動かない下半身が邪魔で何も出来ない。
「落ち着けって有流真。……リアノ、寄越せ」
「しかし……」
「良いから良いから」
不満気ながらキュウレンジャーの指輪を五代儀に渡し、それを五代儀が有流真に渡した。
これで……!
と意気込んだ有流真だが、その脚が動くことは無かった。額に青筋を立てながら、彼は指輪を回転させる。かなり硬く、まるで指輪から拒絶されている様だったが無理矢理回し、そしてテガソードに装填。床を何度も何度も叩いてエンゲージを遂げた。これなら今度こそは……。
「な、何故だ!!?」
しかし身体は動かない。指輪があれば、変身したら、身体が元に戻るというのは有流真の幻想でしかなかった。何としても立ち上がろとするが叶わないシシレッドを、五代儀はじっと見つめていた。
「やれやれ……」
リアノはキラメイレッドにエンゲージ。そしてキラメイショットの銃口を向ける。
「有流真、お前の願いは俺が叶う様にするし、その足も治す。だから安心して眠ってろ」
「ふざけんな!!! 俺の願いは───」
「うるさい」
《チェックメイジ!》
撃ち抜かれたシシレッドは倒れ、指輪はキラメイレッドの手に渡る。意識を失った有流真の手から銀のテガソードが消滅し、彼の資格は完全に失われた。キラメイレッドは変身を解き、キュウレンジャーの指輪を五代儀に渡す。
有流真を抱えてベッドの上に置く五代儀。それから彼は溜め息を吐いた。
「戦隊組むってのも難しいもんだなぁ。武蔵は脱落、有流真はこの様、そんで旭はどっか行っちまったしよ」
「貴方の見る目が無いだけでしょう。そもそも私はこんな人殺し、最初から仲間にするのは反対でしたし」
フランシスもリアノのその言葉に頷き、五代儀は顰めっ面になる。
「ま、しゃーねえか。切り替えてこ」
五代儀は病室を後にし、リアノとフランシスもそれに続いた。
「そういやもうすぐクリスマスだなぁ。どうするよ?」
「何で貴方と過ごす前提なのですか……?」
「えー、良いだろ? な、フランも良いよな?」
「…………」
「沈黙は肯定だな」
「否定でしょう、この場合は」
「そんなぁー……」と項垂れる五代儀。そしてふと彼は立ち止まる。
「…………なぁ、もう一度アイツに会わねえか?」
「アイツ?」
「ツバキ・ミカゲ……」
フランシスに言われて「いえーす」と答えた。
「やっぱ気になるんだよなぁー、椿のこと」
「ここ最近、また様々な指輪保持者に戦いを挑んでいると聞きます。そこまでして叶えたい望みがあるのでしょう」
「だろうな。だからそれを、今度こそ確かめてやるよ」
ニヤリと笑いまた歩き出す五代儀。それを見てリアノとフランシスはもう何度目になるか分からない溜め息を吐くのであった。
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2025年1月。
彼の戦いは終わらない。具島を助ける為に、ただひたすらに刃を振るっていた。
獣電戦隊キョウリュウジャー。
「やぁーッ!」
ガブリボルバーを連射するキョウリュウレッド=ヨン・チョンギ。彼の願いはメイクアップアーティストナンバーワン。その為に荒れ狂う竜の力を纏う。
「ガブティラファング!」
右腕にティラノサウルスの頭部を模したナックル型の武器を装備し、それで殴り掛かる。連続で放たれるパンチをシンケンレッドは躱し、シンケンマルで受け止めた。
互いに離れて一度距離を開く。キョウリュウレッドはガブティラファングをシンケンレッドへ向けて投げた。刀でそれを防ぐが、その隙に彼は指輪能力を発動する。
「
《オォーリャーッ!》
右腕に青い盾、左腕に桃色のドリルを装備。腕に様々な武装を自在に纏うことが出来るのがこの能力だ。駆け出して接近し、ドリルを突き出したキョウリュウレッド。シンケンレッドも走り振るった刀とドリルがぶつかり合って火花を散らした。
どちらも武器を振り合う中、キョウリュウレッドは新たな装備に換装。
《イーハーッ!》
右腕をビームガン。左腕を剣にし、至近距離でビームを連発する。横に転がってビームを回避、そして再度刀を振り上げる。キョウリュウレッドも剣を振り、二つの刃が鎬を削った───
大戦隊ゴーグルファイブ。
ゴーグルレッドが伸ばしたレッドロープがシンケンレッドに巻き付けられる。更に指輪能力である
「いくぞ!」
ゴーグルレッドに変身するのは
「レッド風車!」
ジャンプして大の字になり回転。エネルギーの奔流が、シンケンレッドへと放たれる。彼は刀に力を込め、それを斬り裂いた。
「何!?」
驚いたゴーグルレッドに、彼は駆け出してその刃を振り下ろす───
電子戦隊デンジマン。
「
格闘界ナンバーワンを目指す男・
ジャブ、フック、ストレート、アッパー。次々と繰り出されるパンチ。どうにか避けていくが全てを避けることは出来ず、痛烈な打撃を受けて後退してしまった。更なる追撃のパンチがシンケンを襲う。
「お前をKOするのに、10カウントは要らねえ!!」
放たれる右ストレート。シンケンレッドはそれをシンケンマルで受け止めた。
「何ッ!?」
驚いたデンジレッドのその拳を払い、刀を斜めに振り上げて彼を斬った。吹っ飛んで地面を転がっていったデンジレッド。そこへシンケンレッドはシンケンマルのディスクを回転させて燃え上がらせ、炎の斬撃を飛ばした。
「ぐあああああッ!?」
起き上がろとしてたデンジレッドに直撃。彼を更に後方へと飛ばしてしまう。しかし彼は諦めず、再び立ち上がる。
「俺が目指すのはあの伝説の格闘チャンピオン、黄虎 直斗の様な最強の男!! だから、負けやしない!!」
拳同士を勢いよく合わせて火花を散らし、それからデンジレッドは駆け出す。それに合わせて、シンケンレッドを刀を握り締め走った───
2025年2月。
「これを、私に?」
御影はある男と会っていた。その名は桜庭。検事であり、正義の為なら強引な手も厭わない人物だ。その仕事ぶりから脳筋、蛮族、バーサーカー等と揶揄されてるが、当人はそれも良しとしてる。
そんな人物に、御影はリュウソウジャーの指輪を渡した。
「センタイリング……あの常夏総理も所持している指輪がこうして手に入ろうとは……。しかし何故私に? それに、どうしても元メジャーリーガーである貴方がこれを?」
「理由は色々とあります。しかしそんなことよりも、貴方がこれを手に入れたことで貴方の望みに近付いたことな大事ではないでしょうか?」
そう言われて、桜庭はその理知的な風貌とは不似合いな凶悪とも取れる笑みを浮かべた。
「その通り、ですね。これがあれば検事界ナンバーワンを目指すことが出来る……! 感謝しますよ御影さん……私は限界を超えて正義の刃で悪を断ちます!」
桜庭はリュウソウジャーの指輪を付け、自身のギラッと光る検事としての更なる道を夢見るのであった。
後日。御影は更に2人の人物に指輪を渡していた。百夜 陸王被害者の会と呼ばれるものに所属している男性、川島と岩下である。川島は彼女が陸王のファンになったことがきっかけで振られ、岩下は婚約者が結婚資金を陸王のグッズに使い込んでしまったとのこと。
後者はともかく、前者は逆恨みな気もするが、彼らはとにかく陸王の所為で人生を滅茶苦茶にされたとして強い憎しみを抱いていた。
川島にサンバルカン、岩下にジュウオウジャーの指輪を渡す。受け取った彼らは感動で震えている。
「こ、これが噂に聞く指輪か!?」
「コイツさえ有れば、百夜 陸王に復讐出来る!!」
喜ぶ2人。
これまでの戦いで、1人で戦い続けるのは不毛であると感じた御影。しかし誰かと組むつもりは無い。ならば自身の指輪を他者に渡し、他の者達にぶつけて削っていこうと考えたのだ。桜庭は好戦的で積極的に戦いを挑むだろうし、この2人は陸王を襲うだろう。特に陸王は、具島にとって許し難い存在。あわよくば彼を倒せれば……なんてことも考えていた。
「アンタも、百夜 陸王に恨みがあるのか!?」
「まあ……そんなところだ」
「おお、そうなのか!」
「ならアンタも“百夜 陸王被害者の会”の仲間になろう!!」
手を握って来る川島に愛想笑いで返す。利用はするが、仲間になる気は無い。
彼らは勇みながら指輪を付けて歩いていく。彼らが負ければ他の参加者にみすみす指輪を渡すことになる訳であり、こんなやり方はもう考えても愚策だろう。具島が以前言っていた様に、最終的に自分が全て手に入れれば問題無いと頭の隅で思って自分を納得させるが、そんなのただの言い訳に過ぎない。それでもこのやり方を強行した。まるで指輪を手離すことを正当化する様に……。
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2025年3月。
病院の中庭。車椅子に座った有流真は虚な目で地面を見つめていた。その焦点は合っていない。
下半身付随になり、もう二度と歩けなくなった。更に指輪を失い、戦う手段の無いことが彼を徹底的に絶望の淵へと叩き込んだ。
獅子中 有流真の両親は心優しい人達だった。父は国境なき医師団の1人であり、母は有名なバイオリニスト。2人は中東などの戦地に赴き、そこで苦しんでいる人々の命と心を救う為に活動していた。
幼かった有流真も連れて行かれており、みんなの為に頑張る両親を、彼は幼いながら誇りに思っていた。
しかしある日、有流真達が居た場所が武装集団に襲撃された。母は凌辱されてから殺され、父は妻が無惨に犯させる様子を見せ付けられながら殺された。有流真は少年兵として利用され地獄様な日々を過ごすことになる。
殴られ、蹴られ、水攻め、タバコの火を当てられ、酒を無理矢理飲まされ……とにかくひたすらに弄ばれながら兵士として銃を握らされ、人を殺すことを強制させられた。
誰も助けてくれない。
殺るか殺られるかの戦場。
最初は恐怖し、もう居ない父と母に助けを求めた。次第に自分がこうなったのはあの2人の所為だと思う様になり、強く憎んだ。そうして生きる為に人を殺していく内に、それが快楽へと変わっていった。弾丸が頭部に当たることに喜びを感じ、刃物で相手を引き裂く感覚に酔い痴れる。
気付けば彼は戦い、殺すことこそが自分の生き甲斐であると確信し、傭兵となって人を殺し続けた。敵を殺しまくって戦いを終わらせたら、今度は味方を全て殺す。そして次の戦場へと行きそれを繰り返す……まさに悪魔の様な存在と成り果ててしまったのだ。
彼はある時、日本での指輪争奪戦のことを知った。
その力を使えば、きっともっと楽しい戦いが出来る……!
そう確信した有流真は日本へと飛び、そして本来のキュウレンジャーの指輪の資格者を殺して、無理矢理奪い取ったのだった。最高の戦場で、最高の戦いと殺しを楽しむ為に。
しかしもうそれは叶わない。
指輪は無い。立つことも出来ない。
「クソがァァ……!!」
怒りと憎しみに突き動かされて無理矢理立とうとしたが、前のめりに倒れるしかなかった。車椅子も横倒しになって車輪が回る。
拳を地面に何度も叩き付ける。脳の血管全てが千切れてしまいそうなくらい頭に血が昇っているが、何の意味も無かった。
───戦いたいか?
そんな声が響き手を止めた。
戦いたいか?
当たり前だ。俺はひたすらに戦いたい!
そう答えるよりも前に、車椅子の車輪に有流真の身体が吸い込まれていった。そして彼を利用して、実体を持たない異世界の住人が受肉する。
───
《戦い》
《武器》
《破壊》
《人間》
《ナンバー1》
車椅子の車輪から飛び出たのは黒く鎧を纏った怪物。腰には剣や銃が備えられ、腕や背にも武装が付けられている。背中のマントを拡げると蝙蝠の様になり、奴は飛び上がった。
「我こそはノーワンワールド、バトルNo. 1! さあ、この俺と戦え!」
奴がそう言うと、中庭に居た医師や患者、見舞客の手に剣や銃などの武器が握られた。全員が困惑する中、この怪物、バトルノーワンは剣を振り翳して人々へと襲い掛かるのであった。
以下、作者様のあとがきです。
ここまでお付き合いありがとうございます。
引き続き後編をお楽しみ下さい。