ここまで読んでくださり心より感謝申し上げます。
本日からは最終三部作。私、主催者の壱肆陸が今まで登場したユニバース戦士たちをお借りして、春映画的なオールスター最終決戦をお送りします。
今まで投稿された作品を振り返りながら、最後まで楽しんでいただけますと幸いです。
『戦隊』が好きだった。
古文書に記され、各所から痕跡だけが発掘される、超神秘や超科学や超生物を操り悪の組織と戦った正義の戦士たち。謎めいていて、カッコよくて───荒唐無稽で余りにも空想じみていた。
憧れていた。そこに願いはあった。
でもこの世界には人が多すぎて、皆が夢を叶えられるわけじゃない。だから中途半端に出た杭や馬鹿な願いを持つ者に世界は容赦をしない。はぐれ者になるのは怖いから、人は願うのだ。
『皆と同じようになりたい』
ありふれた苦難を越えて、当たり前に手に入る幸せが欲しい。
そんな世界に遍く、名前の無い敗者になりたい。
それでいい。憧れは掲げるものじゃなくて、日々を生きるための遠い光であればいい。
手が届かないと分かっていても、ただ『戦隊』が好きだった。
あの日までは、確かにそう言えていたはずなんだ。
『人類よ、私は……お前たちを愛しているぞ!
どうしようもなく、愛しているぞ!』
ある夏の日、神の声が世界中に届けられた。
世界を蝕む『疫病』。蔓延し地球を埋め尽くす『死』の兵隊。
神は立ち向かう力を与えた。その日、全人類は『レッド』となって、己の手で厄災に抗った。名前の無い人間から英雄になったのだ。
「……どうして」
僕以外が。
僕の指には何の輝きも宿らなかった。
人生を否定された気持ちになった。
子供から老人まで『戦隊』に選ばれ戦う中で、僕だけが死に怯えて、逃げた。僕は世界の誰よりも劣っているのだと、世界で僕だけが名前の無い敗者なのだと、そう思い知ってから、
もう、全部がどうでもよくなったんだ。
「ここは、どこだ?」
気付けば真っ暗などこかにいた。
夢の中にしては感触が具体的で、現実にしては不自由。
頭が痛い。あの絶望の日の記憶に、知らない物語の記憶が積み重なっている。
『山崎拓人! ゴーカイレッド!
俺のがむしゃら、見せてやるよ!』
『君たちの胸に、レッドホーク!
共に飛び立とう、さらなる高みへ!』
『キブン壮快、ゴーオンレッド!
咲かせてやるよ、平和の花を!』
『スペードエース……
この憎しみは、消せやしない!』
『レッドマスク、須賀田タケ!
さあ!いっちょやってみっか!』
『喧嘩上等、アバレッド!
もうどうなっても知らねぇぞ!』
フラッシュバックする記憶が猛スピードで巻き戻されていき、その記憶へと辿り着いた。そして自分が何者だったのかを、ようやく思い出す。
「そうか、僕は……!」
「目を覚ましたようですね」
明確に僕へと向けられた声が聞こえた。
姿は見えない。空間そのものが語りかけているように感じた。
でも、少なくとも善の存在の声色じゃないのは分かる。
「あんたは一体……」
「私は君の願いを叶える者。私の同士たる君には、新たなる歴史を作ってもらいたいのですよ……
そうだ、僕は迎龍郎。
往歳研究室の修士学生で、先生と一緒にアバレッドを探しに行った、ただの一般人。
戦隊に憧れて、戦隊に選ばれなかった、
それだけのつまらない人間だ。
◇◇◇
喫茶店「未来」。SNSで店員のダンス動画が話題になったことが記憶に新しいこの店だが、今日だけはやけに閑散としていた。貸し切り状態の店で一つの卓に座る4人、今日の客はそれだけだった。
「……この珈琲、素晴らしい味です。これは是非坊ちゃまにも飲んでいただきたいですね。淹れ方を聞いておかなくては」
「珈琲も良いがハニーミルクも中々だ。やはり喫茶はこれに限る。貴方もどうだ」
「コーヒーだのハニーだのハイカラなものは好かん。日本男児たるもの緑茶に……肝油ドロップ! これ以外は認めん」
「かんゆ? 何それチョーエモい! ねぇ1個ちょーだい源じい!」
家政婦、カウボーイ、古風な口調の青年、そしてギャル。たった4人で満員の客さえも上回る情報量。個性が爆発する彼らの共通点はただ一つ、その手に金色の指輪を輝かせていること。
暴神家の使用人、『レッドレーサー』家守召子。
さすらいの野獣遣い、『ガオレッド』等々力凱亜。
若返りし老星、『リュウレンジャー』嘉挧源治。
烈火のギャル姫、『シンケンレッド』一河緒乙。
「よぉ集まってくれた。5つの指輪が一堂に……壮観ってやつやな」
そこに合流したのは、戦隊考古学の権威、『ティラノレンジャー』往歳巡。
『戦隊の復活』を目指し、指輪の持ち主たちと交流を重ねていた往歳のコネクションで、彼らはここに集められたのだ。
「お久しぶりです往歳先生。しかし理由も言わずに招集はいかがなものでしょうか」
「勝負のつもりなら望むところだ。若い奴らには負けん、全員まとめて掛かって来い」
「まぁ待ちぃや。詳しい話は全員揃った後で……」
「ハーッハッハッハッハッハッハッ!!」
腹から響く笑い声を上げ、両手を大きく広げての入店。一人で店の室温とデシベル値を跳ね上げたこの男は、名を聞くまでもない大物中の大物。
「やぁやぁ皆さん! 件の決戦以来ですね、そこの彼女は初めましてかな!?」
「えぇウソウソ!? マジバビった! 熱海常夏じゃん! テレビで見たことあるし!」
「いつも応援ありがとう! それじゃあ一緒に叫ぼうじゃないか、ハッピー……サンシャイーン!!」
「さんしゃいーん!」
若き日本総大将、『ドンモモタロウ』熱海常夏。
まさかの総理大臣の登場に盛り上がる緒乙だが、他の面子はそれよりもわざわざ彼まで呼びつけたその意図に興味が……否、警戒心が向いているようだった。
「ほな、本題に入ろうか。ここに呼んだのは前回の指輪争奪戦で、指折りの猛者と俺が判断した選抜選手たちや。改めて自己紹介になるが、俺は往歳巡。大学で戦隊考古学を教えとる。ここに来た皆には……俺が受け持つ学生、迎龍郎クンを助けるため力を貸してほしい」
普段は軽率な口調の往歳が、神妙に語り始める。
指輪争奪戦の覇者、遠野吠の願いによって新たな指輪争奪戦が始まった直後のこと。迎龍郎が突然行方をくらませたのだ。
『全人類レッド化』の一件から彼の様子はおかしくなっていった。それでも彼は研究活動やゼミの出席を欠かさなかった。そんな彼が何も言わず失踪するのは不自然だとしか思えず、往歳は独自に調査を始め、そして一つの結論に辿り着いた。
「人間が突如姿を消す、その現象には皆心当たりあるやろ」
「……一本角の獣! ノーワンか……!」
等々力が口を開き、往歳が頷く。
ブライダンは以前の戦いで人類と和解し、一部例外を除いてノーワンはもう人を取り込まないはず。だが、それに近しい『何か』が関与している可能性は非常に高い。
「未知の敵に対抗するため強者を集めたというなら、少々解せない。ここにいる者たちは皆、一度敗北を認めたはずです」
「熱海総理の仰る通りです。あまり言いたくはないですが、些か重荷かと」
「悔しいが俺も同意見だ。頼るべき相手は別にいる」
「そーそー、こういうのはやっぱり……!」
話を理解したうえで、常夏はハツラツと疑問を発声した。力を借りるのなら自分ではないと、我の強そうな面々も口を揃え、心から認めるその名前を口に出す。
「吠くん以外に考えられない!」
「リクオ・ビャクヤに任せるべきだろう」
「坊ちゃまのお力を借りるのが得策かと」
「お姉ちゃんでしょ!」
「譲二だ!」
見事に意見が割れた。その時、5人の指輪戦士の視線が衝突した。
「吠くんこそがナンバーワンだ! 指輪争奪戦を勝ち抜いた、この私のサンシャインベストフレンド! 手を借りるのであれば吠くんが相応しい!」
「未知なる野獣を狩るのなら、野獣遣いナンバーワンのリクオ・ビャクヤが適任だ。何より彼の歌声に救えない人間などいない」
「いいえ! 私に信じる心を説いてくださったように、坊ちゃまならどのような闇からでも迎様を救い出すことができます!」
「何言ってんの!? ウチのお姉ちゃんはハイクラス&ラグジュアリー名探偵だし、お姉ちゃんしか勝たんし!」
「いいから黙って俺と譲二に任せておけ!」
「あーストップストップ、落ち着き! それはもちろん俺も考えた。なにせ前回の指輪争奪戦のファイナリスト達やからな。せやけど……」
「ゴジュウジャーじゃ『ヤツ』には勝てねぇ。俺様の有難い神託だ、聞いて損はねぇぜ?」
それは文字通りの神の一声。扉も明けず、店内の虚空から現れたのは白いローブを羽織った『神様』。厄災を倒し世界を救った英雄、『ゴジュウポーラー』熊手真白。転生し人間を超えた彼は、ふよふよと浮かんで指輪戦士たちに視線を配る。
「お前がマシロ・クマデか。神様というくらいだ、事情には通じていそうだな」
「ほぉ……そのミルク、ハチミツつゆだくか。分かってんなぁお前。
さて、元々全能だった俺様だが、神になってから見えるもんが増えてな。『ヤツ』の存在もそれで感知できた。確かに『ヤツ』は一度、ある並行世界で二代目たち……ゴジュウジャーに敗れている」
並行世界、という単語に一同は要領を得ない。特に緒乙は。熊手は構わず話を続ける。
「『ヤツ』は理解を力に変える。二代目たちが勝てたのは、まだ知られてなかったからだ。だが『ヤツ』の思念は敗れた後も『ゴジュウジャー』を観測し続けた。もはや二代目も、アイドルくんも、お坊ちゃんも、お嬢ちゃんも、爺さんも、『ヤツ』には通じねぇだろう……俺様もな」
「神だかなんだか知らんが、譲二への侮りは許さんぞ。勿体ぶらずに早く言え。『ヤツ』とは何者だ」
「異次元の存在。ブライダンでも厄災でもない、異物ってとこだ。次元の狭間で消滅を待っていたソイツは、ユニバースノーワンが次元を融合させた影響で爆発的に力を取り戻し、龍郎とかいう学生を介して、遂にこの世界に干渉してきやがった」
ユニバースノーワン。あらゆる
「ゴジュウジャーはこの次元における『オリジナル』。世界の中心と言っていい。俺様達のことは隅々まで知られちまっている」
「だが俺らユニバース戦士は違う。分かるか? ヤツを倒せるのは……迎クンを救えるのは俺らしかおらん。だから……頼む! 力を貸してくれ!」
往歳が帽子を取り、深々と頭を下げる。
指輪の戦士が戦うのは己の願いのため。古文書に記されているような、力を合わせて悪と戦う『戦隊』とは違う。それでも往歳は知っている。指輪が選んだ者たちには必ず、戦隊に通じる魂が宿っている。
それを見せてやらなければいけないのだ。
戦隊に絶望してしまった、彼に。
「……そういう話なら、断る理由など絶無でしょう! 私は総理大臣、熱海常夏。国民を守るのが私の務め!」
「それなー! 困ってる人は見捨てないのが真のギャル! みんなでハッピー以外ありえんし!」
「そのような危険な存在、坊ちゃまの……いえ、人々の安全のためにも放ってはおけません。微力ながら助太刀いたします」
「譲二に狼の若造、控える大試合の前に肩慣らしをしたかったところだ。ブルペン代わりには丁度いい」
「……必ず救うと約束しよう、獣に呑まれた貴方の教え子を。元・野獣遣いナンバーワンとしてな」
常夏が5人を代表し、往歳に手を差し出す。
例え力が借り物でも、彼らには彼ら自身の、オリジナルの正義がある。やはり彼らもまた『戦隊』なのだ。
「そうと決まれば思い立ったが吉日だ。さっさとその妖魔退治に行くぞ」
「まぁ待てリュウレンジャーの爺さん。ヤツを倒すにはあと2つ、問題があるんだ」
血気に逸る源治を諫め、熊手が指を二本立てた。
「1つ。『ヤツ』は今、次元の狭間に姿を隠してやがる。正確な場所は俺様にすら分からねぇ」
「ええっ、それじゃあテクって行けないじゃん!」
「テク……? だが殴り込む方法が一つだけある」
「そ、だから私が呼ばれたってわけ。この人使いの荒い神様にね」
店の奥から現れた女性は、ため息交じりにそう言った。常夏たちは彼女を知らないようだが、彼女が何者であるのかは、その指輪が物語っていた。
「そう言えば一つ伝え忘れてたな。『ヤツ』とユニバースノーワンの影響で、いま世界は様々な時間軸や世界線が重なってやがる」
「俺も神様から聞いた話で仰天したわ。だが俺も、君らも、複数の指輪争奪戦の記憶があるはずや。それは今、複数の世界の俺らが融合しとる証拠らしいが……まぁ今はえぇ。要するに無数の
「つまり私は無数の指輪争奪戦の中で、『ゼンカイジャー』の指輪に選ばれた戦士の一人。一色せつな、よろしくね」
喫茶『すけるとん』の店主、今日だけは喫茶『未来』の臨時店員。
全並行世界の中でも稀有な指輪争奪戦皆勤賞にして、イレギュラーな指輪を巡って宇宙犯罪結社ネオマクーと戦いを繰り広げる女性。『ゼンカイザー』一色せつな。
「お仲間はどうした? 万全は尽くして来いって伝えたはずだが」
「こう見えて私たちって色々忙しいのよ。当時まだこーんな子供だった私を叩きのめした事といい、ほんと20年前から変わらないね。その傲慢不遜」
「あの頃の俺様は尖ってたからなぁ。悪いとは思ってるよ」
「……ま、その言葉が出るだけ、良い出会いをしたって言ってもいいのかもね」
せつなと熊手は第一回の争奪戦からの知り合い。本来、ユニバース大戦の影響で最初の指輪争奪戦の記憶は消えているのだが、これもユニバースノーワンの影響か、せつなだけが偶発的に前の世界線の記憶を維持しているのだ。
熊手と親しげに会話をしながら、せつなは遅れてきた常夏の分のピーチティーを机に置いた。
「ふむ、素晴らしく芳醇な香りだ。これは是非とも茶菓子と……そうだ、キビダンゴと合わせたい。追加注文を頼めるかな?」
「それってさ、パフェにしたらもっと映えじゃん!」
「む……これは困ったぞ。肝油ドロップが切れてしまった」
「スイーツにハチミツは欠かせねぇ。というわけでキビダンゴ肝油ドロップパフェ、ハチミツマシマシを頼む。おっと、ハチミツは北海道産のキハダでな」
「あるわよ。
「ねえよ! 人の店で適当言うな!」
あまりの無茶ぶりに厨房から首を出し、少年が怒号を飛ばす。
その少年の指にも指輪が嵌められていた。ただし、見覚えのない色調───黒い指輪が。
「脱線しすぎですって。敵の親玉ん所に殴り込むっていう話だったでしょう、俺とせつなさんの指輪能力でさ」
「やはり貴方も指輪の戦士だったんですね。しかし、その黒色……本当に安全なのでしょうか」
「ん、あぁ。まぁ出自がヤバいのは否定できないけどな。俺は
一度指輪を暴走させた経験のある召子が怪訝な視線を送るが、少年は誇らしげに指輪を見せ、笑って答えた。彼もまた熊手と往歳によって見出された、この作戦の要の一人。
炎の番人、『タイムファイヤー』瀧磐八人。
厄災の残滓から生まれた彼の指輪にこそ、次元の壁を打破する可能性が宿っているのだ。
「私の指輪能力は『
「だからそれを俺の指輪能力『
「神である俺様に言わせれば、それで可能性に小指一本かかるくらいってとこだ。だからコイツでダメ押しする。『ヤツ』と同じ異次元の侵略者の介入で次元を渡った、この『ゴーカイジャー』の指輪でな」
熊手が取り出したのは、戦隊が番組として放送されているという並行世界から飛ばされた青年、三海鍵五がこの世界に置いて行った指輪だ。宇宙の破壊者『キャプラス・ジャーカイ』との決戦。その発端となったこの指輪は、見た目は同じでも他の指輪とは全く異なる。
前の争奪戦で熊手が晩堂深也から受け取ったものでも、ユニバースノーワンの一件で
『バンガイリング』『厄災の黒き指輪』『異次元からの来訪者』
それらは龍郎を取り込んだ敵と同じで、並行世界が重なった余波によって生じた世界の歪み。その影響を強く浴びた指輪の能力を束ねれば、因果を手繰って敵の元まで辿り着けるはず。それが熊手と往歳の見解だった。
「……で、俺の考えたこのドリームチームで親玉をぶっ叩く! そのつもりやった。そこで2つ目の問題発生や」
「あーそれはウチの黒姫が……」
「いいよ瀧盤くん。そこからは私が話す」
話に耽る店員たちに代わって珈琲を運んできたのは、この店の看板娘。八人と共に厄災の指輪を狩る時の監視者、『タイムレッド』
三龍は誰にも注文されていない珈琲を全員の前に一杯ずつ置くと、冷たい無言と圧のある視線で全員の疑問を鎮めた。
「いやぁしかし助かったわ。特に三龍を通じて総理を呼べたのはデカい。こうして喫茶で美味い珈琲も囲めるしな」
「その口ぶりだと夏の一件のあの人たちも呼んだ感じっすよね。いや人助けなら手伝いますけどね……はいよ、お姫様。慣れないうちはこれを───いででででででっ!」
珈琲を不思議そうに眺める緒乙に、八人が気遣いでミルクと砂糖を持ってくるが、三龍は瞳孔を開いたまま1秒で没収。そのまま極めて自然な動きで八人の耳を引っ張った。
「お姫様……?」
「いや『烈火のギャル姫おとぷん』は有名だろ! 痛い痛い! 耳が千切れる!」
「青春ねぇ」
「まさに若人だな」
せつなと源治が呟くのを咳払いで区切り、三龍は語り始めた。指輪が告げた、この机上論の果てにある光景を。
「『
「つまり敵の力は俺の想定の遥か上やったというわけや」
「なるほど……それは実に吉報だ!」
三龍の言葉で漂いかけていた不安は、常夏の声で蒸発して消え去った。政治とは武力を禁じられた過酷な戦。そのための天賦の才を生まれ持った常夏だけは、誰よりも早く往歳の真意を読み取っていた。
「それはつまり! 敵の強さ、数、戦術、そして我々の敗因が既に分かっているということ! 戦いにおいてこんなに有利なことは無いでしょう!」
「そう、足りない分は足せばええ。俺らがやるべきことは、とにかく対策しまくって、絶対に勝てるくらいに戦力を集めまくることや!」
「しかし、それほどまでに強大な相手……果たしてどれだけの方々の力を借りられるのか」
そう言う召子は決して弱気なのではない。危険を想定し、最悪に先回りするのが家政婦としての彼女の流儀なのだ。かくいう三龍も、少し前ならそんな未来に足が竦み、一歩も動けなかっただろう。でも、今はもう知っている。
「きっと大丈夫。みんな分かってくれるはず。どんな最悪な明日でも、必ず変えられるって」
「そういうこっちゃ! ほな、作戦をまとめるで!」
①常夏たち5人は無数の世界線の中から、指輪の戦士たちを探して仲間にする。
②三龍は可能な限り詳細な未来を探り、それを元に往歳が戦略を組み立てる。
③せつなの『ゼンカイジャー』の指輪に八人の『タイムファイヤー』、異世界から来た『ゴーカイジャー』の指輪の力を合わせ、敵の居場所に乗り込む。
④全員の力で黒幕をぶっ倒す!!
「これぞまさに! 数多の戦士が手を結ぶ『戦隊の復活』ッ! うおおおお最高や! 本物の戦隊には足りない分を
この人、教え子のこと忘れてない?
浮かんだその言葉を皆が飲み込み、次元を超越するための計画が幕を開けたのだった。
◇◇◇
「……新しい歴史、か。人選ミスだよ残念ながら」
何やら大層なことを言った邪な声に、龍郎は笑いを含んだ声で返した。強がっているわけじゃない。見当外れな理由で人生を終えるかもしれない、そんな行くとこまで行った自身の不運に、もう笑うしかないだけだ。
「それで、今までずっと見せられてたのは何。いじめのつもりならセンスあるよ」
現実世界から隔絶されてから今に至るまで、龍郎の意識に流し込まれ続けたのは指輪争奪戦の光景だった。様々に分岐して展開していく、指輪に選ばれた者たちによる願いのドラマ。それは今、龍郎が最も見たくないものだった。自分がなれなかった、なれないと叩きつけられた絵空事を延々と脳味噌に焼き付けられる。下手な拷問よりずっと残酷だ。
「馴染みのある言葉を選べば、参考資料というやつですよ。これから貴方に作ってもらう、新しい物語のね」
ようやく声が答えた。大学院生に参考資料と来たか、いよいよもって性格が悪いと見える。
「貴方を苦しめているのは、疫病のペスティスが討たれたあの戦い。そうでしょう? あの時、貴方は指輪に選ばれず戦隊に変身できなかったのですから」
「知ってるならなんで……」
「だからこそですよ。あの時、人々に舞い降りた指輪はその者の素質に共鳴した指輪。もし仮にテガソードと契約すれば手に入るはずの指輪なのです」
龍郎が見せられた物語の中には、同じ戦隊の指輪戦士が出てきた。そうかつまり、あの時に変身できた人々は皆、どこかの並行世界でその戦隊に選ばれた指輪の戦士だったというわけだ。
「じゃあ僕は……どんな世界でも指輪に選ばれなかった。全部の戦隊にそっぽを向かれたってことか。徹底的だな、世界ってのは、出来ないヤツには」
自分でも恐ろしいくらいに感情が揺れなかった。そういうものだと納得してしまったのだ。傷ついた自分を直視できなくて、ずっと諦め続けてきたから、自嘲のやり方以外を忘れてしまった。
「それは大いなる勘違いですよ。まずあの時、貴方以外にも変身できなかった者はいた。その中でも貴方だけが、戦隊を愛し、戦隊に憧れを抱いていた! 戦隊になりたくて、どの戦隊にも馴染まない魂だからこそ……貴方はオンリーワンになる可能性を手に入れたのです」
「オンリーワン……?」
「私は貴方と同じ、心から戦隊を愛する者。戦隊を愛し、戦隊の終わりを憂う者」
戦隊が終わる。邪な声は、そう告げた。
「ゴジュウジャーが厄災とブライダンを制し、指輪争奪戦が終了すると同時に、戦隊の歴史は幕を閉じる。ゴジュウジャーが戦隊を終わらせるのですよ! 私はそんなことを許さない!」
何の話をしているかが分からず、龍郎は身動きが取れないまま混乱で意識を搔き乱す。そんな彼に寄り添うことはなく、熱狂者は自身の願いを独り善がりに吐き掛けた。
「私が貴方の願いを叶えましょう。貴方が51番目のスーパー戦隊になるのです」
次回に続く!