ユニバース戦士補ジュウ計画   作:壱肆陸

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オールスター最終作、中編です。
ここから一気に出演キャラが増えます!


レッドを超える!結集、ユニバース!

「51番目……? あぁ、確かに戦隊は50組確認されてたっけ。本当にそれで全部なんだ」

 

 51番目の戦隊になれ、龍郎は自分を取り込んだ謎の声にそう言われ、またも乾いた笑いが喉から漏れた。

 

 だってそうだろう、なれるはずがない。

 戦隊は英雄なのだ。その模造品である指輪の戦士ですら、総理大臣や凄腕検事、無限の情熱を持つ大学教授───そんな逸材にしか務まらない。

 

「本当に? 私が見せた世界では、指輪持ちは誰もがそんな天才ばかりではなかった。貴方に出来ない理由など一つも無いのでは」

 

 確かに、一理あると思ってしまう。

 龍郎が見た無数の並行世界。そこに映されていた指輪戦士は、短絡的に指輪に夢を見て、強者に敗れ去って力を失っていった者も多かった。

 

 いや、思いたいだけだ。この化物が言うように、そこに理屈があるのだと。

 人を愛する神にも見放された世界で一番惨めな自分でも、愚かな夢を見ていいのだと。

 

「……どんな戦隊になるかは、僕が決めるのか」

 

「えぇ。希望がなければこちらで決めましょうか?」

 

「仲間は」

 

「お好きなように選べばよろしい」

 

「ノーワンが出なくなった世界で、何と戦うんだ」

 

「貴方が望むのなら私は世界に現出できる。私が世界を脅かす悪となり、新たな戦隊の敵を務めようではありませんか」

 

 要は体よく龍郎を利用し、自由を得たいだけだ。

 怒りは湧いてこない。どうせそんなことだろうとは思って、期待していなかったから。正義の味方になるために悪を世に解き放つなんて本末転倒もいいところ。あり得ない話だ。

 

 でも、

 それでも、

 

「……そうか」

 

 わずかでも心が躍ってしまう自分が、どうしようもなく嫌だった。

 ここで首を縦に振れば、何の戦隊にも成れなかった過去にも、何者にも成れない未来にも、決別することができる。

 

「イメージが固まったのなら、この光に触れるのです。そうすればあらゆる並行世界は一つに収束し、貴方の望む世界が始まる。戦隊の歴史が再開するのです」

 

 邪な声は龍郎の前に赤い光の球を呼び出す。その安直で、短絡的な夢が、手を伸ばせば届く場所にある。

 

 これがどんなに卑劣な選択かなんて分かってる。

 悪いのは自分だ。世界が生きにくいのも、誰からも選ばれないのも、誰かに敗け続けるのも、自分を許せないのも全部全部全部自分が悪い。

 

 だから、この冷たい諦めを抱いたまま、新しい次元に逃げさせてくれ。

 

 ◇◇◇

 

 往歳巡命名『ユニバース戦士補ジュウ計画』が始動。

 とはいえ前回の指輪争奪戦では一度も他の戦士に遭遇できなかった者が大半で、それでいくと仲間探しも至難ということに。

 

 しかし、そこは頼みの神様だ。「オリジナルである俺様が大きく動くとヤツに勘付かれる」らしく直接手を貸してくれなかったが、重なり合う世界線の歪みから検出したという、各指輪戦士の居場所のヒントは置いて行ってくれた。

 

 そんなこんなで徐々に仲間は集い、現在。

 

「だーーーーっ!! やってられねぇ! もう辞め……じゃねぇな、休憩だ休憩!」

 

「そこを休憩で留めるのが正義感だなぁ。俺は正直心が折れそう……」

 

「ハードモードすぎるだろ。一応病み上がりなんだけどな、なんて仕打ちだよ」

 

 ぶつくさと毒づくこの3人の男子も、今回の作戦で集められた指輪の戦士。

 

 正道の運転手(ドライバー)、『ゴーオンレッド』木之実桜。

 ブレイブドラマー、『キョウリュウレッド』荒池ユウダイ。

 秀才ゲームクリエイター、『メガレッド』銀河心奇。

 

「いやー精が出るなぁ、まさに血と汗の猛特訓! 古き良き青春や!」

 

「ンなキレイなもんじゃないですって! 教習所の方が100倍マシだった」

「教授の頼みだから来ましたけどね、あの子が相手なら先に言ってください。話が違う」

「血が9割くらいありますよこの青春」

 

 揃って拠点の指令室に転がり込んだ3人は、傷だらけボロボロの満身創痍。そこに笑顔の往歳が顔を出すものだから非難囂々である。

 

「八人クンは特にヘトヘトやなぁ」

「ウス……」

 

 仲間入りを承諾してくれた戦士たちが何をしているかというと、それは往歳の言う通り『特訓』だ。特に一足早く逃げてきた瀧磐八人は、『超次元(ディメンジョン)』の指輪能力を使いこなすためハードなそれを強いられているようで、先陣を切って幾度目かの苦言を呈する。

 

「……これだけ指輪の戦士が集まって、まだ増えるんだろ? 普通に皆で一緒に突っ込むだけじゃ勝てないんですか?」

 

「言うたやろ、三龍ちゃんの『未来予知』によれば敵の力は凄まじい。なんの目的があるんか知らんが、戦隊の歴史そのものを吸収し……もはや一つの悪の結社、俺らで言うノーワンワールドそのものと同じくらいの力を得ているらしいからな」

 

「そうです! 戦隊の悪の組織を舐めてはいけません! マシン帝国バラノイア、宇宙幕府ジャークマターに、トジテンド王朝……実際に世界征服を成し遂げた組織もあるんです!」

 

「そうや、よく分かっとるなぁ! やっぱり真っ先に君に声をかけたんは正解やった!」

 

「こちらこそ光栄です! 戦隊考古学の識者で、あの『ジュウレンジャー』の指輪を持つ往歳教授と、また一緒に戦えるなんて!」

 

 往歳に奇妙なほど同調したテンションで話す男。

 戦隊の求道者、『ファイブレッド』星育数音文。その指輪能力で戦隊の歴史を全て習得した数音文は、この作戦の第2のブレインとして往歳にスカウトされたのだ。

 

「知識は力です。俺が『学習(ラーニング)』した戦いの歴史で戦隊がどうやって戦ったのか、どんな技を使ったのか、それを教えて指輪の力を引き出すサポートをします!」

 

「しかし知ることと鍛えることは別だ。だから、俺が叩き上げる。『知』に追いつく『技』と『体』をな」

 

 数音文の後ろでそう言った彼は敢えて項目から『心』を外した。若くとも指輪に選ばれし彼らなら、それはもう十分に育まれているはずだから。

 

 『ゲキレッド』外記十拳。

 二代目師範代として道場で武術を教える彼なら、コーチとして適任だ。

 

「でもなんぼなんでもやりすぎやわ、外記はん。ほら来よし。うちの『治癒(りかばぁ)』で治したるさかい」

 

「美月さん……!」

「天使、いや女神……!」

 

「鼻の下伸びてるぞ木之実、瀧磐」

「どうする心奇くん。橘さんに言いつけてやろうか」

 

 心奇とユウダイが顔をしかめるのを無視し、2人は京言葉の雅な美女のもとに駆け込んだ。

 

 『レッドファルコン』若宮美月。

 元は京都で舞子をやっていた彼女だが、今は都内のインストラクターで、『治癒』の指輪能力を操ることができる。

 

 十拳は吠に敗北し、美月は自身の意志で、すでに指輪を手放していた。

 だがその力は育成のためには余りに有用。だからなんとか口説き落とし、熊手が吠から一時的に借りた指輪でこうして助力してもらっているのだ。

 

「若者は世界の宝。青春で負った傷は時に勲章やけれど、下手すれば一生引きずるんよ? あくまで優しく愛でるように……!」

 

「違うんだ。誤解だ若宮。組手をしたのは俺ではなくて……」

 

「お疲れ様です」

「うわあああああああああっ!!??」

 

 遅れて入室してきた清冽な声に、男4人が野太い悲鳴を上げた。

 能力が暴発しないように指輪を机に置き、眼鏡を掛けなおして座る少女を、八人たちは露骨に避けるように蜘蛛の子を散らす。

 

「……彼女が」

 

 凍てつく暴君、『アバレッド』氷川華蓮。

 往歳と、そして龍郎と直接関わりのあった彼女も当然、仲間に引き入れられた。往歳も戦力として彼女に大いに期待していたが、どうやら想像を外れた暴れっぷりを発揮しているようだ。

 

「4人がかりでもボコされる。厄災より怖い」

「近距離強い代わりに遠距離が強いってサムスかよ」

「しかも異常な加速度で強くなる」

「相変わらず戦いで性格変わるし……」

 

「揃いも揃って人をバケモノみたいに。いいんですよ今すぐ続きやっても」

 

 八人、心奇、桜、ユウダイ、華蓮。この学生5人は年齢も近いため打ち解けるのも早く、こうして共に特訓を行っている。だが謎に戦闘の才能が異様に飛びぬけている華蓮が、普段は一般学生の男衆を千切っては投げで凹ませまくっていた。

 

 その様子を満足そうに眺めながらも、外記は大人として懸念を言葉にする。

 

「巨悪打倒のために仲間を鍛え上げる、それは俺の願いそのもの。まさに願ってもない機会、感謝は言い表しようも無い。だがこんなに悠長をしている暇はあるのか?」

 

「そうですよ。こんな立派な基地まで建てちゃって……てかなんで基地?」

 

「何言ってるんですかユウダイさん、戦隊といえば基地! キョウリュウジャーだってブラギガス内部のスピリットベースを───」

 

 疲れているときに数音文の熱弁はあまり聞かなくて良い。桜たちもいい加減に分かってきた。

 

 この基地は建設王、『ボウケンレッド』赤石建斗の指輪能力『建築(ビルド)』で作られたもの。修行で父の仕事を手伝っている都合上、作戦に常駐はできないようだが、非常に重要な仕事を果たしてくれた。

 

「それは大丈夫や。敵さんがおる次元とここでは時間の流れが違うらしいからな。それに……」

 

「……私の『未来予知』でタイムリミットは逆算できる。まだ猶予はある、はず……むしろ『その時』が来ない限り、攻め込んでも無駄になるみたい」

 

「深月ちゃん!」

 

「三龍ちゃん、またそないな無理して……」

 

 よろよろとした足取りで現れた三龍に、華蓮と美月が駆け寄る。

 運送役で出かけている一色せつなも含め、圧倒的に少数派の女性の指輪戦士は作戦以前にも顔見知りだったようで、既に仲は深まっていた。

 

 京美人と黒姫と氷のマドンナ、男性陣が近寄れないオーラを形成しているのは言うまでもない。そんな中、八人が『治癒』を受ける三龍に声をかけた。

 

「大丈夫か? 能力を使うのだって抵抗あるだろ。特に、今回はさ」

 

 未知の敵と戦う上で『未来予知』は作戦の要。刻一刻と分岐する未来を観測し、対策を立てて戦力を選択しなければ勝てない勝負なのだ。必然、その過程で彼女は無数の『敗北』の未来を直視しなければいけない。

 

 それはかつて、三龍が最も恐れていたことだ。

 

「……うん、平気。私が正確な未来を見られればそれだけ成功率は上がる。役に立ちたいの、皆の……瀧磐くんの」

 

「役立たずなんて思ったことねえよ」

 

「わかってる、これは私のワガママ。だから聞いてもらうよ」

 

 甘酸っぱいやり取りをニヤニヤと眺める美月に、ゲームのシナリオに使えそうだなと俯瞰する心奇。ユウダイはというとジトっとした視線で八人を睨みつけている。

 

「荒池さんって優しくてしっかりしてるし、彼女とかいないんスか?」

「いいか桜くん。大学生にある出会いはチャラついたサークルかバイト先だけ、あとギターはともかくドラムは全っ然モテない。ただただバンドマンはダメ男という謂れのないレッテルだけがついて回って……!」

「……サーセン」

 

「でも三龍ちゃんの騎士様やるんなら、華蓮ちゃんに泣かされてるようじゃあきまへんなぁ」

 

「全くですね。私より弱い軟弱者にウチの深月ちゃんは渡せません」

 

「なんか厄介な保護者が増えてる!?」

 

 こんなやり取りも、次元が重なったからこその奇跡だ。

 この仲間たちと悪に立ち向かう。こんなに心強いことは無いと、皆が思っていた。

 

 そして、今もさらなる仲間を集めている最中なのだ。

 鍛え直す必要もない、あらゆる世界線で確固たる意志のもと指輪に選ばれた、真の猛者たちが。

 

 ◇◇◇

 

 

 刀と刀がぶつかり合い、弾かれる。

 熱海常夏が変身したドンモモタロウに相対するは、忍ぶ気が無いとしか思えない真っ赤な忍び装束。

 

「まさか総理大臣がご来店とはね。正直ひっくり返りましたよ!」

 

「ひっくり返ったのはこちらもさ。それほどに君の作るピザは素晴らしかった! あれで修行中だというのだから、実に将来有望!」

 

「光栄だな。でも、それと勝負になんの関係が!?」

 

 五行風水皆伝、『アカニンジャー』向ヶ丘晴照。

 大阪の名店で修行する彼のもとに現れた常夏は、『ユニバース戦士補ジュウ計画』を説明すると同時に勝負を挑んできた。わざわざニンニンジャーの指輪を持ってきたうえで、だ。

 

 意図を読み取りたいところだが、率直に言って晴照にそんな余裕は無かった。常夏───ドンモモタロウの次の手を読み、敗北を紙一重で避ける。それだけに全神経を注がなければ勝負にならないからだ。

 

「……すごいな、これが熱海常夏。吠くんはこの人に勝ったのか……!」

 

 敵わないわけだ、と晴照はマスクの奥で笑う。

 

 『風水(フェンスイ)』の指輪能力で読み取れる彼の五行は、囂々と燃え上がる()の一色。まさに威風堂々たる、混じり気も小細工も無い、日ノ本の大将に相応しい姿勢だ。

 

 しかし、気を読んで局面をコントロールする晴照にとっては、これが極めて厄介。感情の機微が全く読めなかったガリュードとは真逆で、彼にあるのは感覚を全部塗りつぶすほど飽和した極端な喜び()。五トン忍シュリケンの『水』で相克を狙っても、文字通り焼け石に水だ。こうなってはもはや読みも何もあったものじゃない。

 

「『召喚(サモン)』!」

 

「っ!?」

 

 ごく僅か、刹那の直観にも等しいそれだった。炎の揺らめきを見抜いたアカニンジャーが瞬時に後退。次の瞬間、折紙の式神による嵐がドンモモタロウを包み込んだ。

 

「やるじゃないか。流石は吠くんの友なだけはある!」

 

「俺のこと、聞いてるんですか!?」

 

「もちろんさ。幼少期の学友らしいじゃないか。実に羨ましい……できることならば、私も吠くんともっと早くに出会いたかった」

 

「……そうですね、俺は幸運でした。あの時に吠くんと出会えてなければ今の俺は無い。でも、俺だって聞いてますよ! 孤独だった吠くんの心を救ったのは、熱海総理、貴方だって」

 

 晴照は『風水(フェンスイ)』で吠を探し、もし彼が苦しんでいるのなら救おうとした。でもその願いは叶わなかった。晴照が彼と再会できたのはすべてが終わった後。

 

 彼を救ったのはゴジュウジャーの仲間たちと、常夏だ。だからこそ、機会があれば伝えなければいけないと思っていた。

 

「ありがとうございました。吠くんを救ってくれて」

 

「礼には及ばない、為政者として当然のことをしたまで。それに、救ってもらったのは私の方さ。彼が手を差し伸べてくれたからこそ、私は今も国民を導く太陽であり続けられる! だからこそ、君と戦っておきたかった!」

 

 ドンモモタロウの気がさらに強まった。まだ力を抑えていたという事実に、晴照は戦慄を止められない。

 

「君と私は共に吠くんの友であり、ライバルだ! さぁ決着をつけようじゃないか! どちらが吠くんのサンシャインベストフレンド、ナンバーワンなのか!」

 

「俺と総理が、ライバル……! そうですか……じゃあ負けられませんね、絶対に! 先に吠くんと出会ったのは俺です!」

 

「あと私は揚げ物はヒタヒタ派だ!」

「それは分かり合えないですね!?」

 

 前は吠を救えず、自分のことばかりに終始してしまった。そんな情けない自分を、あの熱海常夏が好敵手と呼んでくれる。喜びと同時に闘争心が溢れてくる。今、晴照もまた『遠野吠の友人』として、対等な目線で常夏を見ていた。

 

 互いの喜びの炎が、加減も知らず猛り狂う。

 どちらも防御など考えない。攻勢一択、死線の直上で繰り広げられる抜き身の斬り合い。先刻よりも粗削りで、しかし遥かに白熱した戦いが繰り広げられた。

 

 忍者一番刀とザングラソードの鍔迫り合いが解け、両者に距離が生じた一瞬、ドンモモタロウが銃───ドンブラスターを抜く。だが、アカニンジャーは気の揺らぎからその不意打ちを読んでいた。

 

 晴照は喜びの火中でも己を見失わない。

 しかし、それは常夏も同じだった。

 

「『召喚(サモン)』」

「なっ……!?」

 

 アカニンジャーが躱した光弾、それは彼の背後で別次元への扉を作り出し、そこから飛び出すのは折紙の犬、猿、雉の大群。そして、常夏の力から分離したそれら全てには、生物と同様の『気』が宿っていた。

 

 視界と『風水(フェンスイ)』が折紙で埋め尽くされる。

 その隙間から見えたのは、あれだけ燃え上がっていた『火』を抑えて迫るドンモモタロウ。そして、それによって表面化されたのは巧妙に隠されていた、余りにも緻密な『土』───謀略の『黄』。

 

 折紙の行進が止まった頃、刀身がアカニンジャーの首筋に置かれ、勝敗は決した。

 

「実にいい勝負だった! 友の友は、もちろん友! またいつでも正々堂々、吠くんのベストフレンドナンバーワンを競おう!」

 

「……そうですね。俺の完敗です」

 

「あぁそうだった、晴照くん。君には一つ頼みたいことがあるんだが……」

 

 元より作戦には協力するつもりだった晴照だったが、常夏の口から特別な指令が告げられた。それは彼の『風水(フェンスイ)』でしか成しえない、作戦の裏面とも言える忍の任務だった。

 

 ◇◇◇

 

「……まさか、また君に会えるとはね」

 

「ウチもビックリだし! 美容師のおじさんが指輪持ってるなんて!」

 

 ここでの一幕もまた、奇しくも侍VS忍者。烈火のギャル姫、シンケンレッドの周囲を俊敏に舞うのは風を司る空忍。

 

 薫風の美容師、『ハリケンレッド』忍宮貴利矢。

 

「前におじさんにセットしてもらったお団子ヘア、皆にちょーウケてた!」

 

「そりゃ美容師冥利に尽きますね。でも、どうか次からは予約の上でご来店を……」

 

「?」

 

 あの日と同じように、緒乙は飛び入りで店に入って来た。そして彼女は忍宮に何かを説明しようとして───何がどうなってか変身して戦う羽目に。もちろんしっかり終業後だ。

 

「ギャルはコミュ力! でもウチはお姉ちゃんみたいに頭良くないから……そーゆー時は全力ぶつかるのみ! 魂と魂でドカンといけば、言葉なくても伝わるし!」

 

「魂か、やっぱり変わらないな……いいですよ。僕も知りたかった。お客さんが指輪の戦士として、どれだけの強さなのか!」

 

 風の噂によれば、彼女はあの後すぐに指輪を失ったという。

 戦いは無常、敗北は誰のもとにも唐突に訪れる。あの指輪の狩人が忍宮にそう刻み付けたように。

 

 それでも───

 

「とりゃっ!」

「せあっ!」

 

 ハリケンレッドの攻撃は芸術的なまでに正確無比。対して、それを迎え撃つシンケンレッドの動きは、正確どころか大振りで出鱈目で無駄も多く、時には気まぐれ。洗練からは程遠い。

 

 だが、美しかった。戦いだろうと変わらず自分らしく、好きを貫く姿勢。そして、貫き通したうえで彼女はハリケンレッドを圧倒している。彼女の心の強さが、類稀なるギャルマインドが、理屈を超えた強さを発揮しているのだ。

 

 戦いの最中だというのに、思わず忍宮は口角を上げてしまう。

 期待通りだった。そうだ、彼女が弱かったはずがない。

 

「君は僕に……俺に道を思い出させてくれた。カリスマ美容師になる、俺だけの伝説を描く! たとえ誰に敗けようとも貫くだけです!」

 

「そうそう! おじさんも立派にギャルじゃん♪」

 

「せっかくだから言わせてもらうけど、せめてお兄さんと呼んでくれません!?」

 

 その時、シンケンレッドがショドウフォンを出し、空に『色』を描いた。

 指輪の鼓動を感じたハリケンレッドもまた、同じ指輪の力で対抗する。

 

「『塗装(ペイント)』!」

「『回転(スピニング)』!」

 

 シンケンレッドが飛ばした灰色の波動を、ハリケンレッドは旋回する大気で巻き取って逸らした。

 

「それが何かは分からないけど、当たったらダメなやつでしょう。その手は食いませんよお客様。せっかく灰色ならもっと色を紛れさせないと!」

 

「げぇっ、説教くさい! やっぱおじさんじゃん!」

 

「トークは美容師の十八番なんでね! 超忍法”空駆け”ッ!」

 

 ハリケンジャーの指輪に宿る疾風流の極意。その力で空中を走り抜け、シンケンレッドを翻弄していく。隠れ、惑わせ、死角に潜り込み、虚を穿つ。それこそが忍者の正道。

 

「───超忍法”影の舞”!」

 

 影の空間を作り出して敵の知覚や反撃を封じ、必殺を叩き込む超忍法の奥義。

 獲った。そんなハリケンレッドの確信は一瞬で『塗り替えられた』。

 

「影でもキラキラにするのがギャルだし! 『塗装(ペイント)』!」

「マジか……!」

 

 影の空間、モノクロの世界をシンケンレッドの描く『赤色』が彩り、結界が解けた。本来は複数人で繰り出す術を一人で使った故の脇の甘さもあるだろうが、これもきっと理屈じゃない。

 

「烈火大斬刀! せーのっ!」

 

 シンケンマルが赤い炎を帯び、彼女の身の丈にも及ぶ大剣『烈火大斬刀』に変化。そして、シンケンレッドはそれを蹴り上げたかと思うと、力任せに振り回す。いや、振り回すというか『回って』いた。まるで巨大な独楽のように。

 

 最初から回っているものは『回転』で逸らせない。

 この質量は竜巻のバリアでも防げない。

 

 極重の一撃がハリケンレッドを彼方まで跳ね飛ばす。

 「やっば」と声を漏らし、変身を解いて駆け寄った緒乙を見て、忍宮も生身に戻った。勝負はここまでだ。

 

「こう言っちゃ失礼だけど、意外とクレバーですね」

 

「超リスペクトするウチのお姉ちゃんが言ってたし。戦いで大事なのは、観察力! ってかダイジョウブ!? ごめーんやりすぎた!」

 

「……ただ自分を貫くだけじゃなく、なりたい自分に変わっていく、か。伝説の幕開けはまだ遠いな」

 

 そんな彼女の計り知れない強さに感服しながら、忍宮は自分の力で腰を上げた。

 それはそうと緒乙の要件は何一つ伝わらなかったため、電話で往歳から事の仔細を聞き、忍宮は呆れつつも二つ返事で協力を承諾したのだった。

 

 ◇◇◇

 

「なるほど事情は分かった! だがその指輪は遠野にもう預けちまったもんだ、そう簡単には受け取れねぇな! どうしてもってんなら俺と勝負だ!」

 

 等々力凱亜が赴いた先の元・指輪戦士は、そんな風に勝負を挑んできた。

 

 それ自体に驚きは無かった。指輪に選ばれる者というのは闘争心や矜持が強い───要するに負けず嫌いの勝負狂いという習性は、等々力も把握していたからだ。

 

 だが、元『ギンガレッド』銀河セイジは、等々力が思っていたよりも少々難儀な男だった。

 

「……君の言い分を確認させてくれ、セイジ・ギンガ。勝負は本当にこれでいいんだな」

 

「あぁ、『野獣遣い勝負』だ! この森の生き物をどれだけ集められるか、それで勝負しろ。俺は遠野と戦った時に見たからな、あんたのその指輪」

 

 等々力の指輪、『ガオレンジャー』の指輪能力は『一獣一奏』。楽器を演奏することで対応する獣を操ることができる。この勝負内容ならば最強と言って差し支えないだろう。

 

「ライオンにはマラカスだろ? その力を突破した俺にはもう通用しねぇ。それに、もういっぺん同じ戦いってのも味気ないからな!」

 

「それなら普通に戦えば勝ち目は十分にあるはずだ。なぜわざわざ不利と分かっている戦いを」

 

「俺は今、ケーキ作りを練習している!」

 

 セイジの文脈の繋がらない発言に、等々力は表情を崩さないまま首を傾げる。

 

「指輪を失ってから考えたんだ。同じ戦いをやり直すだけの『リベンジ』じゃ、俺は前に進めねぇ! そいつの得意分野で勝ってこそ男として大きくなれるってもんじゃねーか!?」

 

 前にセイジを倒したのはケーキの化身のような怪人だったらしく、だから今度ケーキ作りでリベンジを挑む気らしい。少々安直な発想な気もするが、混じり気のない彼の向上心は等々力にも伝わっていた。

 

「そういうことなら承知した。俺は指輪を使わない勝負でも構わないが」

 

「相手に全力を使わせない戦いなんて、俺のアースが滾らねぇ!」

 

「アース?」

 

「俺の直観や魂……要は心のことだ!」

 

「なるほど、ならば俺もフェアな勝負がしたい。君にも指輪を使ってもらおう」

 

 等々力がギンガマンの指輪をセイジに返し、勝負が始まった。

 ギンガレッドにエンゲージしたセイジは、森で一番高い木に登り、周囲を俯瞰する。

 

 生物たちが発する熱、空間を巡る風、川を流れる水、僅かな電気のエネルギー、茂る木々や花々の息吹───森に宿る自然すべてを、全身で感じているのだ。

 

「……見えたぜ。『透明化(インビジブル)』!」

 

 ギンガレッドは指輪能力で姿を消した。ゴジュウウルフの嗅覚ですら察知できなかったこの力の正体は完全な隠密。存在そのものを自然に溶け込ませる能力だ。

 

 不可視・無音・無臭で森の隅々まで駆け抜ける。だが、ギンガレッドはその中で僅かな気配を発し、動物たちの足を誘導していく。まるで森そのものが動物たちに優しく語り掛けるように。

 

「見たか! これが俺のアースだ!」

 

 気付けば、森の生物の大群がそこには集まっていた。

 能力を十全に活かし、動物たちの意志を巧みに操って集まるように促した。その見事としか言えない手腕に等々力が感嘆するも、脱帽にはまだ早い。

 

 等々力はカウボーイハットを深く被り直す。

 鬼ごっこ対決の時のように、思わず血が沸いてしまう。等々力凱亜もまた、負けず嫌いの勝負狂いの一人なのだから。

 

「次は俺の番だな。見せてやる、『野獣遣いナンバー2』のやり方ってやつを」

 

 等々力はエンゲージしない。生身の方が、繊細な音を吹き奏でることができるからだ。各生物に対応した楽器で洗脳を行うのが『一獣一奏』だが、等々力が出した楽器は木製の『オカリナ』ただ一つ。

 

「こうしていると思い出してしまうな……あの頃のことを」

 

 かつて動物保護官として、恋人の瑠菜と共に自然の命を感じた、二度と戻ってくることのないあの日々。

 

 川辺で等々力が音楽を奏でる。その曲は『響の調べ』。

 瑠菜がよく口ずさんでいたこの歌に、指輪の力を乗せて森に響かせた。

 

 『一獣一奏』の本質は魂への共鳴。各々の楽器は、音色がその種の波長と近いものを使っているに過ぎない。

 

 指輪の力などなくとも、瑠菜は動物たちと心を通わせていた。百夜陸王も言葉の通じない獣と化した瑠菜に歌声を届けてみせた。それなら複数の楽器など必要ないはず。真に生命を愛する心さえあれば。

 

「すげぇな……」

 

 セイジは素直に感嘆を口に出してしまった。セイジの時よりも遥かに多く、鳥や獣はもちろん虫や爬虫類、魚に至るまで、等々力が奏でる音楽を聴きに集まってきていたのだ。

 

 野獣遣いの真髄は、巧みに操り、支配することじゃない。

 種も言葉も超えて愛を通じさせることだ。

 

「俺の負けだ」

 

「君も見事だった、セイジ・ギンガ。一つ聞かせてくれないか? 君の野獣遣いとしての才覚……思いつきの勝負とは思えないものだった」

 

「あー……遠野には誤魔化せたんだけどな。どうも昔っから俺は自然が好きで、テガソードにも『未知の動植物を発見して保護したい』って願ったんだ。ま、いざ争奪戦やるとバトルにハマっちまったんだけどな!」

 

 セイジは笑ってギンガマンのリングを改めて指に嵌めた。

 染まりやすく、正直で気まぐれな、まさに自然そのもののような男だ。

 だからこそ、等々力は最後に一つ忠告を残す。

 

「……どれだけ俺たちが自然を愛していたとしても、自然は時に残酷だ。何の脈絡もなく非情に牙を剝く。いつか、取り返しのつかないものを失うこともあるだろう」

 

「かもな。でも、俺のアースは曲げらんねぇ! いつかあんたにもリベンジして、もっとデカい男になって願いを叶えるぜ!」

 

「ふっ……楽しみに待っているよ、野獣遣いナンバー3さん」

 

 ◇◇◇

 

 なんでこんなことに。

 何度浮かんだか分からないこの文句を、彼女は肺に押し込んだ。

 

 『ユニバース戦士補ジュウ計画』のことは聞いた。怪人に取り込まれた人を救う作戦に、手を貸さない理由はない。彼女はそう返事をしようと思った。

 

 だが彼女の職場に現れた指輪の戦士、家守召子は有無を言わさずこの地獄を作り出した。

 

「『一時停止(ストップ)』! 配膳安全! 料理をそのように運ぶのは危険です! 転んでお客様に火傷させてしまうかもしれません!」 

 

「いきなり止める方が危ないと思うんですけどぉ……!」

 

 萌えるメイド魂、『ゴーレッド』九十九メグミ。

 指輪の戦士にして、メイド喫茶「アミアス」で働く人気店員の彼女だが、今は何故か召子のマナー訓練の餌食となっていた。

 

 メイド喫茶で働くのを観察されながら、僅かでも不手際があれば笛を吹かれ、問答無用で体を止められて説教される。一般的には奇妙に見られがちなメイド喫茶だが、常連客もこれには流石に困惑しかない様子だった。

 

「使用人として拠点に招かれる以上、他の指輪戦士の方々に失礼があってはなりません。この暴神家の家政婦筆頭、家守召子! 責任を持って貴女を指導いたします!」

 

「奉仕担当じゃなくて戦闘要員で行くつもりなんですけど……」

 

 メグミはそう言うが、嘘を吐いたかのような重苦しいものが、喉の奥にへばりつく。実を言えば、計画への協力の返事も、何故だかすぐに声に出せなかったのだ。

 

(分かってる……怖がってるのね、私)

 

 強さには自信があった。ブライダンの侵攻の被害でバラバラになった家族を一つにするため、どんな敵にも負けないという覚悟は確かにあったのだ。

 

 でも、現実は違った。金のアーイー『ゴーカイ・ゾック』を撃破して間もなく、メグミは易々と負けた。慈愛のブーケと名乗る、自分よりも年下に見える女の子にだ。彼女は十中八九人間ではないのだろう。そんな言い訳はいくらでもできるが、負けて指輪を失った事実は変わらない。

 

「はい『一時停止(ストップ)』! 上の空でしたよ。おもてなしとは誠心誠意、相手のことを考えて尽くすこと。悩みなどもってのほかです」

 

「……そりゃ召子さんは本職の家政婦さんです。メンタル管理もお手の物でしょうけど、私は所詮はアマチュアなんですよ。メイドも……戦いも」

 

「何を言っているのですか? これだけのお客様に愛される店で、メイドとして人気を集める貴女は紛れもなくプロでしょう。ただ自信の無さが接客に現れていたのが、私は同じプロとして放っておけなかっただけです」

 

 召子は背筋を伸ばし、客の前に出て自身の言葉を実践する。

 

 本物の家政婦の仕事はメイド喫茶のそれとは完全に異なるのは理解している。それでも、その事前にプログラムしたかのような精密な所作、意識しなければ記憶にも残らないほど流麗な作法は、あらゆる接客業に通じる理想形と言うべきものだった。

 

「マナーとは自信の表れです。そして自信とは失敗しないことではなく、読んで字のごとく自らを信じ、人を信じること。信じる心こそが、生きる導なのです!」

 

「信じる……自分を」

 

 指輪を失った後、母と再会して願いが叶うかもしれないと希望を抱いた。あとは家族を一つに戻すに足る資金を集めるだけだった。そこまで行っていながら、たった一度の敗北を引きずって夢を遠ざけていたのか。

 

 その時、地面が揺れた。今度はあの巨人たちの喧嘩ではなく、ただの地震のようだが、家が壊された瞬間を思い出しメグミは身を強張らせる。

 

「っ……!」

 

 体勢を崩したメイドの手から、客に向けてコーヒーが放られたのを見て、メグミはトラウマよりも先に体が動いた。足取りに迷いはなく、指輪を着けた左手を客へと伸ばす。

 

「『吸収(アブソーブ)』!」

 

 ぶちまけられた空中のコーヒーを指輪の能力で吸い取り、カップは落ちる前に全てキャッチし、トレーに置き直して何事もなかったかのようにメグミは姿勢を正した。

 

「お怪我はございませんか、ご主人様?」

 

 ぽかんと間が空いたかと思うと、堰を外されたように万雷の拍手が起こった。まるでスーパーマンを称えるような雰囲気にメグミが戸惑う中、『一時停止』で他の被害を防いでいた召子は微笑んで、添えるように言葉をかけた。

 

「素晴らしいです。お客様……いえ、ご主人様のご安全を第一とした、完璧な家政婦マナーでしたよ」

 

「無駄じゃなかった……メイドも戦いも、全部体が覚えてる」

 

 傷が消えることは無い。それなら、家族を引き裂いた厄災も、消えない敗北も、全部を自信の糧にして生きていけばいい。胸を張って生きる限り、その先には望む未来があるのだから。

 

 傷を経て強くなった自分だからこそ、また誰かの命を救うことができる。

 メグミの胸中から暗雲のような不安は消え去っていた。

 

「ですが! 紅茶の淹れ方はまだまだ未熟です! 完璧に身につくまで皆様に会わせるわけにはいきません。いいですね!?」

 

 自信とは別の部分で心が折れそうになり、メグミはまた営業スマイルを強張らせた。

 

 ◇◇◇

 

 宝石があしらわれた全く同じデザインのメット。

 道路を襷がけしたようなスーツも全く同じ。

 体の色が真っ赤……なのは皆がそうだ。

 

 2人の戦士が互いに姿を見合わせ、不思議そうに感嘆の声を漏らした。

 

「本当に一緒だ! 君って僕のドッペルゲンガー!?」

「いや違ぇって。だから並行世界が遍在してて……えっとなんだっけ?」

 

 2人の『キラメイレッド』。

 閃きの芸術家 加賀屋輝羅と、研鑽の努力師 漆原樹。

 

 言ってしまえば陽と陰。ユニバースノーワンの影響で同時に存在している対極的な2人は、助けを求めて同時に振り返った。

 

「二度は説明せん! 俺もよくは分かっていないからな!」

「じゃあどうすんだよこの状況……」

 

 しかし、彼らを呼んだ源治───リュウレンジャーも多くは語らない気質なもので話が進まない。ただこれだけは共通認識、エンゲージした指輪戦士が複数揃っているのなら、やることといえば勝負のみ。

 

「大事なことは2つだ。1つ! 俺が勝ったら貴様らは俺たちに力を貸す!」

 

「だから協力はするって」

「近頃はインスピ不足で暇だったしね!」

 

「2つ! 譲二と勝負したお前たちの力を、俺は確かめねばならん!」

 

 リュウレンジャーの言葉にはえらく(りき)が入っているが、譲二という名前に心当たりは無い。しかし「勝負」というワードで、2人の脳には同じ顔と名前が浮かんだ。

 

「禽次郎と言えば分かるか?」

 

「あぁやっぱり禽次郎のことか。偽名だったのか……?」

「へー、君も禽ちゃん知ってるんだ」

 

「馴れ馴れしく呼ぶな!」

 

「なんだこの人」

 

 並行世界の収束論のようなものだろうかと、樹はSF作品で聞いたような設定で納得した。同じような立ち位置の存在は、別の世界でも同じような運命を辿っているようだ。輝羅の言う「ドッペルゲンガー」もあながち間違ってなさそうである。

 

「二対一で構わん。どこからでも来い」

 

 樹も輝羅も戦いは素人で、指輪の力に補助されているに過ぎない。だが、そう言って構えるリュウレンジャーからは説明を要さない圧を感じた。2対1でも全く不足じゃない確信が肌を走る。

 

「よーしそういうことなら合作と行こうよ! じゃあ……僕がキラメイレッドα、君がキラメイレッドΩでどう!?」

 

「普通に樹とキラでいいだろ。色々と気になることがあるんだ、俺らが勝ったら教えてもらおうかな、源治さん」

 

 三人の戦士が地面を蹴り、ゴングが鳴り響いた気がした。

 正面からキラメイソードで斬りかかる樹と、その隙にキラメイショットを持って死角に潜り込むキラ。同じ力を持つだけあって、即興ながら連携は取れていた。

 

 しかし、リュウレンジャーは刃が備わった『ダイレンロッド』で樹の剣戟を捌きながら、空中を不規則に跳ねるキラの銃撃を反射で叩き落す。

 

「そんなものか! この程度で譲二のライバルを名乗るなど、笑止千万!!」

 

「名乗ってねぇ……けど、そう言われちゃ引き下がれないな!」

「だよね、いっちゃん!」

「だからそれパリピ界で流行ってんの!?」

 

 キラが投げ渡したキラメイショットを自身のキラメイソードと合体させ、樹は『キラメイバスター』を作り出してリュウレンジャーへと向ける。

 

《チェックメイジ!》

 

 剣から銃への一転、近距離からの砲撃。不可避だ。

 しかし、超人的な反射神経はその剛速球を捕捉した。ダイレンロッドの燃え盛る槍先は煌めくディスクの芯を捉えており、打ち返さんとしていた。

 

「僕は輝く閃きの星! 走れ僕の想像力! 『創描(スケッチ)』!」

 

 キラがスケッチブックに描いた『透明な箱』が、樹とリュウレンジャーを閉じ込める形で具現化した。それと同時にリュウレンジャーがロッドを振りぬき、キラメイバスターの銃弾が弾かれてしまう。

 

 だが、ディスクがその壁面に当たると、再び跳ね返ってリュウレンジャーへと飛んでいく。

 

「名付けて『キラキラ反射ダンスボックス』! 当たるまで無限に攻撃を跳ね返し続けるよ!」

 

「なるほどな、いくら打ち返しても無駄ということか。だがそれは俺と一緒に中にいる小僧も同じことだ」

 

「大丈夫! 僕はいっちゃんを信じてる! これは僕なりの、いっちゃんを輝かせる作品さ!」

 

「そうだな……天才だって陰で努力してんだ。人生とは諦めないことだって、禽次郎に教えてもらった! 何分でも何時間でも耐えてやるよ! 我慢比べと行こうか!」

 

 リュウレンジャーとキラメイレッドは銃弾を巧みに、紙一重で躱し続ける。だが、反射するたびにディスクは速度と威力を増していく。両者の気迫とは裏腹に限界が近づいているのは明白だった。

 

「中々に骨のある若僧じゃないか。だがな、貴様らは勘違いしている! 根性はもちろんのこと、閃きだろうと、人生の経験で勝る老兵こそが強いのだ! 『転身(チェインジ)』!」

 

 ダイレンジャーリングが輝き、その能力でリュウレンジャーの姿が変貌する。変化したのは赤い龍を模した丸っこいぬいぐるみ、いや───

 

「低反発で柔軟! 若者の間で流行りの『すくいーず』だ!」

「いやもうだいぶ前に終わったよそのブーム」

 

 呆れる樹を気にもせず、龍のスクイーズとなったリュウレンジャーは、加速しきったディスクをその柔らかなボディで受け止めた。

 

「気力だァァァァッ!!」

「嘘だろ……」

「すごい、なんてアイデアだ!」

 

 威力を完全に吸収されたディスクがポトリと落ちた。体を大きく歪ませながらも衝撃に耐えきったリュウレンジャーは、すぐさま姿を元に戻し、光の壁に向かって拳を突き出す。

 

「天火星秘技 流星閃光!!」

 

 天火星秘技 流星閃光とは、

 一呼吸の間に数百発の突きをただ一点に打ち込む必殺技である。

 

 あまりの猛勢に衝撃の反射が間に合わず、光の箱が砕け散る。

 まさに男の有言実行。キラの閃きと樹の努力、その両方を源治は真っ向から打ち破ってみせたのだ。

 

「───だからってここまでやらなくても」

「なんてこったい。あんまりだよ」

 

「何を言う。これしきのことで男児が情けない!」

 

 その後も3人は激戦を繰り広げたが、結果としてはキラメイレッド2人が必要以上にボコボコにやられた。

 

「しかし、流石は譲二が導いた若者か。思っていたよりもずっと気骨のある男たちだった。いいだろう、戦いの前に言っていた聞きたいこととやらに答えてやる」

 

「あー、それはいいや。前に禽次郎が孫とかなんとか言ってたし、これだけ会話してたら流石に分かるよ。あんたと禽次郎、本当はめっちゃお爺ちゃんなんだろ?」

 

「うむ、俺と譲二は幼稚園からの、かれこれ80年以上の腐れ縁だ」

 

「80!? え、でも変身前の君も禽ちゃんもどう見ても高校生……超アンチエイジングってコト!?」

 

「まぁそんなところだ。これからも精進しろ。その若い心を持ち続ければ、老いるほどに強くなれる」

 

 努力を重ね続け、今もなお輝くことを諦めない老星が、そこにはいた。

 人生の大先輩というのは、やはりどこまでも偉大だ。樹とキラは痛む体を起こして、そう思った。

 

「そういえばいっちゃん、スクイーズって再ブーム来てるらしいよ」

「マジで?」

 

 ◇◇◇

 

 そんなこんなで指輪の戦士は集っていった。

 赤石建斗が『建築(ビルド)』した拠点も手狭になるくらい、不思議と気の合う出会いや、奇妙な対峙、犬猿の邂逅までもが積もっていく。その中には、彼らの想像をもう一段階超える招聘もあった。

 

「こいつは驚きだ。まさかこんな子供が、俺たちよりも先に異星への〝冒険〟を成し遂げてたとはな!」

 

「僕はまだ何もしてないよ。バイオ星で父さんを救う科学を作る、僕の冒険はここからさ」

 

「ハハッ、とんでもねぇスケールだな。常夏──あの『首相(プライム・ミニスター)』の背中を見て育つ子供か……全く恐ろしいもんだ。異星間交流の冒険話、聞かせてくれよ兄弟」

 

「もちろん。こっちも科学の話を聞かせてほしいな、宇宙の先輩」

 

 厳つい外国軍人と少年が固い握手を交わしているのを、他の面子はポカンと眺めることしかできなかった。話の中身についていけるわけがないのだ。

 

 剛腕の冒険者、『ボウケンレッド』ブラッド・アームストロング。

 天才科学少年、『レッドワン』鮫山機龍。

 

 それぞれ米国とバイオ星からの招集。計画は遂に国境と大気圏すら超えてしまったのだ。

 

「とんだ無茶ぶりよ、あの熊野郎。いくらなんでも聞いたこともない星に繋げろだなんて……」

 

 そう毒づくのはユニバース戦士集めで『転移』を酷使させられている、一色せつな。しかし、彼女はどんな滅茶苦茶を言われても、最後には「あるわよ」「できるわよ」で仕事をこなす。熊手真白に並ぶ指輪争奪戦最古参は伊達ではない。

 

「それにしても貴方も大変ね。アレとどっこいどっこいに人使いの荒い教授さんに振り回されて」

「正義のためだからな。弱き者を救うこの計画、オレも何かを掴めるかもしれない」

 

 せつなの乾いた同情に、彼もまた淡々と答える。

 話によれば彼は人間ではなく、戦地だろうが宇宙だろうが構わず活動できるフィジカルがあるらしい。

 

 厄災の落とし子、『ニンジャレッド』石飛猴破。

 彼もまた計画の最重要人物の一人。

 

 正義を求めて往歳巡のもとを訪ねていた彼は、往歳にその素質を見出され、計画が始まる前から『戦隊復活』のための密偵として活動させられていた。今はブラッドや機龍のような、特殊な状況下の戦士の勧誘にこき使われている。

 

 尤も、往歳に悪気は無ければ猴破に被害意識も無い。そんな気味の悪いWINWINに、せつなはそっと目を逸らして口を閉じた。

 

 そして時は来る。三龍の『未来予知』による無数のシミュレーションが導き出した、運命の特異点。

 

 周到極まる『黒幕』の計画。それがほんの僅か、緩む一瞬が直に訪れる。

 並行世界を越えて集まった50を凌駕する願いの数。その全てを以て、全面戦争を仕掛ける時だ。

 

「……指輪の戦士ってこんなにいたんだな」

 

 何度も見ているはずなのに、決行を目前にして八人の口からそんな言葉が零れ落ちた。今さらすぎる台詞だが不思議と共感はあった。その隣で三龍が静かにうなずく。

 

「そうだね。こんなにいたのに、争奪戦の最中に私が会ったのは熱海総理だけ。あとは……『未来予知』で見たあの白い銃の死神……」

 

 三龍が出したキーワードで、指輪戦士の大半から「ゲッ」とか「うわ」とか、辟易と怯えの声が連鎖する。

 

「滅茶苦茶な強さだったな。強いというか、恐ろしいというか」

「わたしアイツに指輪取られた! あ゛ぁ思い出したらムカッ腹立ってきた!」

「わたしも久光さんにボコボコにやられました!」

「久光君というと、あの剣の……」

 

 遭遇情報が出てくる出てくる。噂に聞く『リングハンター・ガリュード』による被害は甚大らしい。

 

 それだけの数の戦士が、一人の死神の手によって何も成せぬまま敗北した。

 指輪争奪戦はそんな一部の強者のものだった。ここにいる者は皆、敗者だ。

 

「こう言っちゃなんだけど、俺たちはきっと特別じゃない。俺にとっての深月みたいに誰かが誰かの特別でも、世界からすれば誰だってよかったんだと思う」

 

 同じ結末を辿った無数の並行世界の存在が、それを証明している。

 

 八人は神に選ばれてすらいない。三龍に出会わなければ指輪を手に入れることも無く、きっと戦うことだって一生無かっただろう。そんな彼だからこそ、強くそう感じた。

 

「……でも、こうして遭ってみて、みんなすげぇってことが分かった」

 

「急に辛気臭いこと言い出したかと思ったら今さら? 私にとっては、私の仲間たちは特別で最高。それだけで十分でしょ? もちろん、ここにいる皆も悪くないけど」

 

「あぁ。この最強メンバーなら、負ける気がしねぇ!」

 

 指輪を握る八人に、せつなが並び立つ。

 

 時間の流れの中に消えて、交わることも無かったはずの敗者の物語。

 そこには一つ一つ輝いた願いがあって、叫んだ覚悟があった。

 意味のない負けなんて一つも無い。ここにいる全員が、願いのために戦った戦士だ。

 

「特別じゃない俺らでもやってやろうやないか。脇役上等! 脇役で束になって世界を……迎クンを救うんや!」

 

 往歳の飛ばした檄が開戦の狼煙となる。

 タイムファイヤー、ゼンカイジャー、ゴーカイジャーの指輪が同時に輝いた。

 

「『転移(トランスファー)』!」

「『超次元(ディメンション)』!」

 

 そこで前に出るのが猴破。

 厄災から生まれた存在である彼と、並行世界の住人であるサスケ(オリジナル)に使われたカクレンジャーの指輪もまた、次元を超えるファクターとしての条件は満たしている。

 

「『隠城(シークレット)』!」

 

 水と油、混じり合わない指輪の力が、カクレンジャーリングが持つ封印の力でゼンカイジャーリングに集約されていく。そしてそれらが完全に融和した瞬間、爆発的な反応を起こし封印さえ飲み込んで、異次元へ通じるゲートが完成した。

 

「エンゲージ!」

 

 ◇◇◇

 

 光の球に手を伸ばしても、触れることはできなかった。

 

 あれからどれだけ逡巡を続けたのだろう。

 この悪を野放しにする代わりに、自分が戦隊として選ばれた世界にする。こんな提案に頷くヤツは人間として救いようの無いクズだ。でも断ったところで助かるわけじゃない。断るほどの理由も、覚悟も無い。

 

 答えなんて出る訳が無いのに、こんな時でもいつものように、悩むふりで時間を浪費する。

 

「無駄ですよ。貴方の心は手に取るように分かる。特別になりたいでしょう、伝説になりたいでしょう!? その欲望には誰も抗うことなどできません。それとも……生まれた意味もなく、このまま消えるのをお望みですか?」

 

 本当だよ、何のために生きてきたんだ。

 幸せにもなれない。幸せにもできない。名前が欲しいんだ。みんなそうだと思っていたのに、自分だけが何も無かったから、(こいねが)うんだ。これが遅いというのか。

 

 あぁもういい。こんな奴が戦隊になってどうするんだ。

 せめてこのまま消えて、少しでもこの怪物の顔を曇らせられれば、それで───

 

 

 

「迎クン!」

 

 声が、聞こえた。

 一人暮らしで朝起きて大学行って、最初に聞く声だ。いつも無茶ぶりを言い出す、頭の痛くなる声だ。

 

 何も見えない。でも、そこにいるのを感じた。

 一人じゃない。数えきれないほどの指輪の光が、星空のように。

 

「助けに来たで! さぁ、レッツゴーや切込み恐竜隊!」

「待ちくたびれましたよ」

 

 ユニバース戦士たちが踏み入った異空間。そこに物体は無く、あるのは蠢く闇だった。アレが『黒幕』であり、未だ実体を持っていないようだ。だから自身の体の代わりに、闇は無数の兵隊を生み出していた。

 

 あの日、世界を埋め尽くした死の兵隊『モリス』のように見えるが、違う。その雑兵は『黒幕』の知識から生み出された限りなく本物(オリジナル)に近い存在。

 

 黒十字軍の『ゾルダー』、武装頭脳軍ボルトの『ジンマー』、妖怪軍団の『ドロドロ』、ゴードム文明の『カース』、宇宙帝国ザンギャックの『ゴーミン』、ギャングラーの『ポーダマン』、名前を挙げればキリが無い。数の力で戦隊を苦しめてきた、悪の組織の『戦闘兵』たちだ。

 

 途方もない軍勢を前に、誰よりも速く駆け出したのは、アバレッド──氷川華蓮。

 

「コレは挽き潰していいんだよな」

 

 笑いを帯びた声を発しながら振るわれたティラノロッドは、軌道上の全てを食い千切る。戦闘兵たちが肉の残骸になって散っていく中、本体に向かってアバレッドは疾走を続けた。

 

 ただ、この数は個でどうにかなるものじゃない。

 押し返されつつあった彼女の背中を受け止めたのは、同じ姿の赤き竜人。

 

「無茶しやがるなぁ。噂に違わぬお転婆レディだ」

 

 華麗(カレー)なる香りを纏う、もう一人の『アバレッド』杉中風斗。

 彼もまた戦闘兵を突破し、華蓮に並走してきていた。だが華蓮は風斗もろとも戦闘兵を薙ぎ倒す。

 

「痛ぇ!? っ……何すんだ!?」

「邪魔。火ィ点いてんだよこっちは。私の縄張りに入ってきたら殺す」

「怖っ!? 嘘だろ、反抗期ってこうなるのか……!?」

 

 自分の娘がこの態度になったら、想像するだけで余裕で泡吹いて卒倒できる。風斗は深く考えないことにして、華蓮とは背中を合わせて戦闘兵に向き合った。

 

「『暴走(バーサーク)』」

「『刺突(スティング)』!」

 

 世界線の違いからか、僅かに性質こそ異なるが、同じ指輪はその力の本質も同じ。全身に牙を備えた戦闘形態に姿を変えた2人のアバレッドは、滾る力の限りアバレ始めた。

 

 吹荒れる殺意の吹雪と、鋭利なる疾風。駆ける二頭の一騎当千に、戦闘兵はただ散るのみ。

 

「ほな俺も行くで! 『復元(リゲイン)』──大獣神!」

 

 負けじとティラノレンジャーが召喚した大獣神が、その圧倒的なサイズで文字通り戦闘兵を蹴散らしていく。それを見たキョウリュウレッド、荒池ユウダイ。唖然。

 

「やっぱそれズルくないですか?」

「はっはっは! 今日はお約束も全部無視や! 全員やりたい放題やったれ!」

 

 もうあの人ひとりで……なんて言えるほど簡単な戦況ではないのも、ユウダイは分かっていた。どういう絡繰りかは知らないが、あれだけ派手に暴れていても戦闘兵は無尽蔵に湧いて出てくる。本体との距離が中々縮まらない。

 

 三龍の『未来予知』が告げるタイミングまで猶予は無い。まずはあの闇から迎龍郎を引きずり出さねば、戦いは始まりすらしないというのに。

 

「迎さんって言ったら何回かTAで教授の講義に来てた。会ったことあるよな。顔見知りならなおさら、救けられなきゃ『ブレイブ』が廃る! ですよね!?」

 

 キョウリュウレッドが駆け出すのと同時に、他の戦士達も一気に進軍を始めた。

 

「行くぜキラ!」

「オーケーいっちゃん!」

 

 2人のキラメイレッドがキラメイソードを握り、息の合ったコンビネーションを発揮。煌めきが戦場を乱反射する。その輝きの影に隠れるように、ハリケンレッド──忍宮貴利矢の刃が閃いた。

 

「さぁさぁ上げていきますよ! 『回転(スピニング)』!」

 

 木っ端が多いのなら好都合。巻き起こった風は戦闘兵たちを飲み込んで勢いを増し、竜巻となって猛威を振るった。そして、空中に飛ばされた獲物は、不可視の獣が刈り取る。

 

「星獣剣! 自在剣・機刃! ハァッ!」

 

 『透明化』を解いたギンガレッド──銀河セイジの二刀。己が(アース)が赴くまま、求めるままにボルテージが上昇していく。

 

 しかし増殖を続ける敵も黙って葬られるだけじゃない。先に進むほど兵隊は強くなっていく。その中でも、宇宙幕府ジャークマターの強化兵『ツヨインダべー』がバズーカ砲撃を放った。

 

「ここはお任せを! 『吸収(アブゾーブ)』!」

 

 それを待っていたと言わんばかりに、ゴーレッド──九十九メグミの指輪が砲撃のエネルギーを吸い込んで無効化。そうして蓄えられた力は、そのまま彼女の反撃へと変換される。

 

「大サービスよ。ゴーブラスター ハイパーモード!」

 

 Vモードブレスを装填した大型銃『ゴーブラスター』に吸収したエネルギーが移動し、『818V』のコマンドと同時に放出。連射された光線の雨が眼前の敵を消し飛ばした。

 

「よし、じゃあ練習してたアレやりましょうか、杉中さん!」

「了解だ忍宮! 星育に教えてもらったアレだな! 手伝ってくれみんな!」

 

 アバレッドとハリケンレッド、2人が顕現させたのは両手では持ち切れない数の装備。指輪への理解を深めたことで拡張されたその力は、レッド以外の装備の召喚を可能にした。

 

 「戦隊は力を重ねることで進化する。これ即ちVSの極意です!」は数音文の言葉。

 合計9つの武器は戦隊の垣根を越え、空中で一つとなる。

 

「これで決まりだ!」

「九重連スーパーダイノビクトリー!」

「「ビクトリーダイノダイナマイト!」」

 

 到底2人では支えきれない巨大な武器は、近くで戦っていたギンガレッド、ゴーレッド、キラメイレッド2人の手を借りることで発動。9つの力が連結した究極合体武器が吼え、炎の鳥が前方一帯を焼き尽くした。

 

「うわぁとんでもねぇ」

「これがVSの極意か……」

 

 これを提案した数音文は「いやー理論上の十一重連まで行けたら激熱なんですけど」と残念そうにしていた。これ以上はもはや兵器どころか天変地異、人が持っていい力ではない。

 

 ともあれ、これによって敵の陣形に大きな穴が開いた。

 攻め込むなら今しかない、誰もがそう思った矢先に、『闇』は強引にその隙間を補完する。

 

 超巨大兵『クダイテスト』と『メガゾードα』。

 無造作に投入された2体の巨大戦力に、ユニバース戦士たちは怯まない。誰ひとり一歩たりとも後退することなく、闇の中心に向かって走り続ける。

 

「何が……起こってるんだ……!?」

「まさかユニバース戦士どもが決起するとは……ゴジュウジャーばかりを警戒していたのが仇となりましたか。ですが所詮は指輪の戦士、本物に比べれば恐るるに足らぬ雑魚でしょう」

 

 そんなこと言われなくても分かる。闇の中からその戦いは透けて見える。龍郎が理解できないのはそこじゃない。なぜ指輪の戦士が、自分のために戦う一般人が、ほとんど縁もゆかりも無い自分を助けるため戦っているんだ。

 

 たまたま指輪に選ばれただけじゃないか。

 お前たちも名前の無い敗者だったじゃないか。

 ただ自分のために生きればいいじゃないか。

 

 こんな惨めな人間のことなんて、放っておけばいいのに。

 

「彼らは貴方の邪魔をしに来ている。51番目の戦隊になるという願いを、今こそ叶えるのです! さぁ力を求めなさい! 願いを……!」

 

 闇が何か叫んでいる。

 そうか、『願い』だ。願いは己の生き様そのもの。願いを掲げた戦士は、己の生き様に恥じるような行いはしない。正義は、願いあるところ必ず生まれるのだ。

 

「貴方も彼らのように成れないはずがない! 力さえあれば、あんな偽物ではなく本物の戦隊になれるのです!」

 

 ようやく理解した。願いを言うことが恥ずかしいことだと思っていたから、あの日指輪は降りてこなかったんだ。願いを叫ぶことを躊躇ったから、力も、正義も、未来も、手に入らなかったのだ。

 

 押し留めていたモノが溢れてくる。

 あの日の赤い光景。いま目の前で繰り広げられる雄姿。誰にでも成れたというのなら、どうして、僕はそこにいないんだ。

 

 ───ふざけるな。

 

「ぶちかましたれ! 大獣神!」

 

 巨兵に立ち向かうのは当然、ティラノレンジャーと大獣神。しかし2対1の劣勢は明白。そこに、巨大な力を持たずとも牙を立てる戦士達がいた。

 

「ハーッハッハッハッ!! 先頭に立ち、高みに昇ってこそ! 民を導く太陽の在り方! 疾風怒桃・サンシャインマニフェスト!」

 

 『召喚』で呼び出した巨大折雉から跳び出したのはドンモモタロウ。その勢いのままクダイテストの鋼の巨体にザングラソードを叩きつける。

 

「気力があればなんでもできる! 『転身(チェインジ)』!」

 

 リュウレンジャーは指輪能力で釘の刺さったバットに変化。クダイテストに向かっていくそれを掴んだのは、レッドレーサー。釘バットを握った感触が呼び水となり、暴走の力がフラッシュバックする。

 

「なんだか分かりませんが……力が湧き上がって来んぞコラァァァァァァ!! 暴走安全注意!! 巨大ロボが暴れるのは危険だオラァ!!」

「喰らえい! 必殺、クルマジック気力ボンバー!」

 

 レッドレーサーとリュウレンジャーの合体技、炎を纏った釘バットのフルスイングがクダイテストの腕を弾き返した。あまりのパワーに巨大ロボに乗って暴れている往歳の背中にも悪寒が走る。

 

 その瞬間に『一時停止』が作用し、クダイテストの動きが止まった。その隙に、地上からあと2人──ガオレッドとシンケンレッドが両手で大剣を持ち上げ、構える。

 

「破邪百獣剣!」

「烈火大斬刀!」

 

 シンケンレッドは水色の『塗装』で身軽になり、ガオレッドは『一獣一奏』で操った戦闘兵たちを足場にすることで、クダイテストの顔前まで到達。そして漲る全力を以てして、その一撃を巨体へと刻み付けた。

 

「邪鬼、退散!」

「百火繚乱っ!」

 

 5人の猛攻を喰らったクダイテストの機体は遂に限界を迎え、大爆炎を吹いて崩壊した。これで1対1、こうなればもはや大獣神が手こずる要素すら存在しない。

 

「大獣神──『超伝説・雷光斬り』!」

 

 稲妻を帯びた『恐竜剣ゴッドホーン』が縦一閃に振り抜かれ、メガゾードαの体は左右に断裂。起こった大爆発さえも裂いて、大獣神から降りたティラノレンジャーは中心へと走り出す。

 

 闇までもうあと少し。しかし最後まで、悪意は抵抗をやめない。

 無数の戦闘員を融合させた異形の怪人。最終防衛ライン、『合体戦闘員』がティラノレンジャーの行く手を阻むが……

 

「行け、ケントロスパイカー!」

 

 キョウリュウレッド、荒池ユウダイが投げ放った合体武器『ケントロスパイカー』が、合体戦闘員を貫いた。さらに、暴走のまま最前線まで駆け上がって来ていたアバレッド、氷川華蓮がケントロスパイカーを掴み、合体戦闘員を斬り刻む。

 

「教授! 迎さんを!」

「さっさと進め!」

 

「あぁ……お前らほんまに、優秀な教え子たちや!」

 

 ティラノレンジャーを飲み込まんと膨張する闇を、テガソードの青く澄んだ刃が破る。抉じ開けられた隙間に手を伸べる。遂に到達した、そこには捕らわれた迎龍郎の姿が。

 

「迎クン!」

「往歳先生……!」

 

 ティラノレンジャーの右手が、目が潰れそうな光と共に差し込まれた。

 次元を超えて、こんなにも仲間を集めて、ついでに自分の願いまで叶えて、こんな自分を救いに来た。本当に何なんだこの人は。近くで見てきたはずなのに、何一つ訳が分からない。

 

 そうだった、僕は『戦隊』が好きだった。

 でも、きっと僕は、戦隊になりたかったんじゃない。

 この人のようになりたかった。

 

 この人たちのように、なりたかったんだ。

 

「やめるのです! 貴方は真に選ばれた人間、新たな時代を作ることができる! 私と共に、永遠の『戦隊』の時代を!」

「手を取れ迎クン! 何べん負けても、転んでも、誰だって立ち上がれる! 俺らが証明した! だから手を伸ばせ、叫べ!」

 

「「願いを!!」」

 

 前と後ろで光と闇が、同じ言葉で僕に語り掛ける。

 僕は前方の光に向かって手を伸ばした。

 

 たったひとり神様に見放され、こんなよく分からない悪者に捕らわれて、指輪戦士総出で助けに来られる、正義にも悪にも哀れまれる不遇という看板を持たされた悲劇のお姫様。

 

「───ふざけんな」

 

 僕は、そんな名前が欲しかったんじゃない。

 

 伸ばした右手が掴んだのはティラノレンジャーの右手。

 ただし、『銀のテガソード』。その神に選ばれた幸運の証を、龍郎の手が剝ぎ取った。

 

「「なっ……!?」」

 

 その瞬間に変身が解け、往歳は闇から弾き出された。

 それを見ていた全員の困惑の声の中心で、龍郎は叫ぶ。

 

「ふざけんなよ、どいつもこいつも! 何が願いだ……見せつけやがって! 僕だけ選ばなかったテガソードは何なんだ!? どんな邪神だよ! 大体指輪の戦士なんて全員どっかおかしい異常者だろうが!? 普通に生きててそんなに悪いか!!?」

 

 思ったより本音の髄に近い叫びが出て、困惑は深まった。そんなこともう龍郎は気にしない。

 

「先生だって何を今さらヒーロー面してるんだ!? それができるなら僕に迷惑をかけるな! 講義に出ろ、資料の添削しろ、学会をすっぽかすな! ムカつくんだよ、そうだよ僕はずっと……! 我慢してたんだ、怒ってたんだ!」

 

 言うことを聞かない先生にも、忙しい学生生活にも、窮屈なだけな就活にも、自分の憧れを否定して笑う世界にも、怒っていた。でもそんなことみんなが思っている。怒らないのが普通なら、そうあるべきだと。

 

 普通に幸せになりたかった。どこにでもいる名前の無い誰かになりたかった。でも、もう抑えることなんてできない。滾る怒りを、この褪せることの無い衝動を。

 

「間違ってた。もうやめてやる。新しい時代とか戦隊とか、世界も未来もどうでもいい! 伸べられた手に感謝して前を向く、そんな脇役の美談なんかいらない。僕は……!」

 

 掴んだ往歳のテガソードで、龍郎は背後にあった赤い光を貫いた。

 世界を作り替える力が龍郎の本当の願いに呼応する。

 

 『皆と同じようになりたい』

 

 腹の底から願いを叫び、どんな厄災も超えていく、

 そんな世界に遍く、宇宙でたった一人の戦士になりたい。

 

「俺は俺になる! それが俺の願いだ───テガソード!」

 

 龍郎は銀のテガソードを天に突き上げた。

 聞き届けられた願い。空から降り注ぐのは金色の『センタイリング』の雨。あの日と同じ光景、あの日と同じようにどの指輪も龍郎のもとに降りてこない。

 

「貴様ァァァァァァッ!!」

 

 計画が破綻し、逆上した『闇』が瘴気で龍郎を押し潰さんと迫る。

 遠い光の先から高次元の声が聞こえる。封じていた『感情』が溢れ出す。

 全ての指輪が通り過ぎた、その後に───次元を超えて飛来した赤き閃光がテガソードに宿った。

 

「”エンゲージ”ッ!」

 

 手を叩いた音が響く。瞬きの刹那、押し寄せていた瘴気が斬り裂かれた。

 幽閉されていた精神空間が崩壊し、外界の光と風がその生誕を祝福する。

 

 『エンゲージ』。それは指輪の戦士が(テガソード)と交わす契約の合図だ。

 

 拍手(クラップ)によって増幅したエネルギーが指輪に内包された『戦隊』の力を解放。僅か1ミリ秒で龍郎は変身を完了させた。そう、迎龍郎が契約したその指輪が冠する名は

 

《ユニバース!》

《ゲキドー!》

《アクティベート!》

 

「───『ギャバン・インフィニティ』、これが俺の願いの形だ!」

 

 無限の怒りを纏う次元超越者。超宇宙刑事 ギャバン・インフィニティ。

 

「はははっ、なんやアレ!」

「バカな。こんな戦隊、私は知らない!!」

 

 『黒幕』と往歳、2人の戦隊マニアが瞠目する。こんな事象は『未来予知』のどの分岐にも無かった。目の前にいるのは戦隊のようで決して戦隊ではない、全く未知の赤き戦士。

 

 いや、未知ではない。龍郎は一度、資料と称して見せられた物語の中で、指輪戦士のゴーカイレッドがこの姿に変身しているのを見た。つまりこの力にも本物(オリジナル)はいる。他の指輪戦士と何ら変わりはしない。

 

「望むところだよ。このスタートラインから、お前ら全員超えていく!」

 

 インフィニティの手元に転送された剣は、ギャバンの証『ギャバリオンブレード』。銀色の刀身に蒼き刃、テガソードと合わせたその二振りが『黒幕』の影を弾く。核である龍郎を失ったことで、存在を確保するために『黒幕』は闇を散らしながら暫定的な肉体を形成する。

 

「ようやく顔を見せたな。好き放題やってくれやがって、お前は俺がぶっ倒す」

 

「おのれェ……私を誰だと思っている! 私こそが誰よりも戦隊を愛し、戦隊を想う、宇宙一の戦隊マニアナンバーワン!」

 

 影は収縮し、人型に。黒い甲冑で翼を閉ざされた鳥人の赤い眼が怪しく輝いた。

 ノーワンでもない。厄災でもない。どのユニバースにも存在しない悪意。

 

「決して忘れることの無いあの日の敗北! その光栄と屈辱が私の愛を強くする、愛が故に私は滅ぼし作り替える! 私こそ……ゴジュウジャーの真の始まりの敵!」

 

 それは欲望のまま並行世界を渡る存在。かつてとある世界線で、彼は並行世界から4人の戦士を集めて洗脳し、自分以外の戦隊マニアを世界から消し去ろうとした。

 

『邪魔すんな! アイツは俺の獲物だーーーっ!』

『新戦隊に倒されるなんて、マニア冥利に尽きますぅぅぅぅ!』

 

 だが唯一知らなかった戦隊であるゴジュウジャーに敗北し、その世界線は因果律の中に消えた。そしていま蘇り、再びゴジュウジャーの世界に侵略の手を伸ばす。

 

「我が名はズカモトキセ! もはや人間の力などには頼らん! 本物に遠く及ばないユニバース戦士風情が、貴様らもあの世界の人間も全て滅ぼし、ゼロから新たな戦隊の歴史を作り上げてやる! 出でよ、ズカモトキセ軍団!」

 

 黒幕──ズカモトキセの周囲に複数の影が実体化する。

 それは戦闘兵など比較にもならない、有象無象とは一線を画する『怪人』たち。

 

 それぞれが確固たる強烈な悪意を持つ怪人達は、この不安定な次元においては劇薬。その存在ごとに時空間が分解され、再構築されていく。

 

「三龍ちゃんの『未来予知』通りや! 倒すべき敵は分かっとるな、全員飛び込め!」

 

 ユニバース戦士たちが往歳の号令で動き出した。すぐに次元が完全に分断され、それぞれの空間に怪人と数人の戦士たちが閉じ込められる。作戦は最終段階、黒幕ズカモトキセの分身体怪人の各個撃破に移行した。

 

「奴らは所詮借り物の力を使うだけの、ただの人間。私の力を帯びた分身に勝てるはずなど無い!」

 

「能書きなんてどうでもいい。ナンバーワンの前にいる奴は全部倒して進む、それが指輪の戦士だ!」

 

 元の空間に残されたズカモトキセとギャバン・インフィニティが対峙する。

 

 今、その『赤』の中にいる誇りと、喜びと、

 己の願いを突き動かす怒りを胸に。

 

 『ユニバース戦士補ジュウ計画』の最後の戦いが、ゴングを鳴らした。




ズカモトキセは、ゴジュウジャー制作発表会に出てきたアイツです(Youtubeで見れます)
あと、ここでもう一度表紙イラストを見ていただけると……実は……

明日更新分で本当に最後です!
よろしくお願いします!
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