これで本当の本当に最後です!
企画参加者の皆様、読者の皆様のおかげで辿り着けた終着点。
どうぞお楽しみください!
ユニバースノーワンの能力の残滓で並行時間軸が重なり合っている、ゴジュウジャーの世界。普通の人間には知覚すらされないその次元の断層から『死』の兵隊が侵攻する。疫病の厄災が神を殺した、あの日と同じように。
異次元人『ズカモトキセ』の意志のまま、
「……往歳さんに聞いていた通りだ。ここは必ず、ボクたちが守り抜く」
戦闘兵から逃げ惑う人々。悲鳴の中を逆行し、彼女はテガソードと再び契約を果たす。
「エンゲージ!」
《キングオージャー!》
『クワガタオージャー』、深山希燐。
熊手真白の計らいによって指輪を取り戻した彼女は、ユニバース戦士たちが異次元に攻め込む間の防衛線として抜擢された。
あの戦いでは何一つ叶えることはできなかった。この力を傷つけることにしか使えなかった。だから今度こそ、警察官として、あの日々で追いかけた背中を覚えている者として、彼女は人々を守る反逆の剣となる。
「この私が後方支援とは……聞けば熱海常夏は前線に出ているというではないか! おのれ熱海常夏!」
『レッドホーク』、藤鷹与一は再び一般市民に戦いを強いる現状に憤慨しながら、長剣『ブリンガーソード』を振るう。しかし国民を守るのは政治家の務め。人々に見えるように体を張ることが支持の獲得に繋がり、日本キビダンゴ党の打倒へとつながるはずだ。
そう、大事なのは地に足付いた地道な努力。
『
そうやって空を舞うレッドホークの前方。
藤鷹は鏡でも迫ってきたかのような錯覚に陥った。何せ、自分と全く同じ姿が激突してきたのだから。
「そこのレッドホークさん! 僕のユウキを知りませんか!?」
「人にぶつかったらまず第一声は謝罪だろう!?」
「幼馴染の浮戸ユウキという、この世で最も素敵な女性なんです! 見れば分かります! なんで僕を置いていくんだ、しかも知らない男なんかのために……ユウキぃぃぃぃ!!」
こっちの情けない声を出している方も『レッドホーク』、結城翼。うんぬんかんぬんあって彼は突入作戦に置いて行かれた。理由は察していただきたい。
しかし嘆いて喚いているだけで攻撃を躱し、藤鷹に泣きつく勢いで敵兵を跳ね飛ばしていく。不思議な力に操られているように、謎に強い。強いのだが、これと共闘しなければいけない事実に藤鷹は冷や汗を流すのだった。
「『
「あ、『
熱血高校生『メガレッド』才葉源太郎と、歌舞伎役者『ゴーグルレッド』大谷朱衛門。2人の指輪能力は、それぞれ分身の生成と縄による拘束。どちらも多数を相手取る際に真価を発揮する力だ。
「うおおおおお! 体を張って人を守る盾になる、なんと漢らしい戦いか! 俺はこういうのを求めていたんじゃ!」
「兄ちゃん若ぇのにいい気骨じゃねぇの。俺ぁ好きだぜ、そういう堅くて熱ぃ昭和気質ってやつさぁ」
完成度が妙に高いコンビネーションで、2人は破竹の勢いで敵兵を制圧していき、救助や避難誘導も欠かさない。年齢にこそ差はあるが古き良きの気質が合っているのだろう。オールドファッションが繋いだ絆だ。
「はっ……生徒会長には晩堂校長という師匠がいる。つまり俺に足りんのは……! 頼む大谷さん、俺を弟子にしてくれぇぇぇぇっ!!」
「待て待て待てぃ! そう何人も面倒見れるかってぇんだ!」
それとこれとは話が別である。こんな頑固で厄介な弟子がこれ以上増えてたまるか。
今、時空の向こうで戦っているという愛弟子たちを頭に浮かべ、朱右衛門は源太郎を引き剝がしながら褌を締め直した。
「……チッ、ちょっと目を放せばすぐこれだ。やってられるか」
避難しようとビルの屋上まで来た者たちは多い。だが、戦闘兵は人がいる場所に発生する。逃げ場が無いことを察したその男は、人ごみの中で重い腰を上げた。
元・指輪の商人、『ブンレッド』黒羽ハイド。
「死にてぇヤツだけ逃げな」
ハイドが放った弾丸は群衆を避ける軌道でうねり、戦闘兵だけを撃ち抜く。さらに空に向けた発砲はビルの屋上から虹のような弧を描き、加速して地上の敵へと降り注いだ。
目立つのは避けたいし人助けなんて反吐が出るが、振りかかる火の粉を払わない理由も無い。舐めた敵意には制裁が裏世界の常識だ。
「こんな時に面倒な仕事押し付けやがって」
ハイドは託された『それ』に視線を落とし、心底気だるげに騒ぎの中心へと進みだした。
この事態も『未来予知』によって予期されていたもの。現実世界に残された指輪戦士によって怪人たちに対応できるよう、往歳は指輪戦士たちを予め配置しておいた。その采配通り持ち堪えてはいるが……
「数が……多い……っ! 長くは保たない……!」
クワガタオージャーが肩で息をしながら、揺らぐ体勢を剣で支える。その周囲には無尽蔵に湧き出す戦闘兵が。あの時とは異なり、被害の規模が小さい代わりに戦士の数はさらに少ない。希燐たちにできるのは、あくまでも時間稼ぎだ。
作戦の本隊、並行世界の狭間で戦う彼らが『ズカモトキセ』を倒さない限り、この侵攻は止まらない。
◇◇◇
次元が歪んでいる。存在するはずの無いその戦士と、体に収まらないほど漲る怒りの熱が、悪の企てなど塗り潰さんと迸っているのだ。
「ギャバリオンブレード!」
歴史の向こう側から飛来した新たなユニバース戦士、迎龍郎がエンゲージした『ギャバン・インフィニティ』。その刃は光の残像を描き、ズカモトキセの鎧を斬りつけた。
ギャバンは戦隊ではない。全身を覆うパワースーツではない『アーマー』は、無謀を現実にする機構と、無謀に身を投げ出せるだけの硬度と、無謀を叩き潰す火力を意味する。
腕のブースターで加速したインフィニティは重力を無視したような体捌きで、次々と斬撃を繰り出した。振り抜いた右腕の後には間髪入れず『ギャバリオントリガー』で、追撃の弾丸を撃ち込む。
「馬鹿にしやがって……!」
「当然でしょう。まさかただの一般人が、私を倒せると本気で思っていたのですか?」
だが、インフィニティがいくら攻撃しようと、ズカモトキセには傷一つ付かなかった。防御力の話ではなく、ダメージそのものを否定しているように。だからズカモトキセは侮りを見せつけるように防御も反撃もしないのだ。
「そいつは自分の力を分割して切り離しとる! さっき出した怪人がそうや! つまり、あいつらを倒さん限りは不死身っちゅうこっちゃ」
「いたのですか。僅かな痕跡からしか戦隊を知ることができない、似非の戦隊マニアが」
「俺から言わせればアンタの方が似非の落第生や。戦隊っちゅうもんを何も分かってへん」
往歳は先ほどの次元分離に巻き込まれず、この空間に留まっていた。しかし、そう啖呵を切る往歳は生身の状態。彼のテガソードは今、インフィニティが使用している。
「この私が落第だとォ……!? 私はあらゆる戦隊を知り尽くしている。貴様も、奴らも、指輪の戦士など本物の戦隊には遠く及ばない!」
「アンタは知識で敵を攻略するらしいな、よく知る相手なら洗脳もできるくらいに。逆に言えばよく知らん相手には弱い。俺ら指輪の戦士みたいにな」
だから当初の計画では、分身を討伐してから、最後にズカモトキセを数で制圧するつもりだった。それだと現実世界の状況や僅かな戦力計算のブレで危険な賭けにならざるを得なかったが、今は違う。
「今アンタの前にいる迎クンは、アンタが舐めて知ろうともしなかった指輪の戦士で、俺らのよく知る戦隊じゃない。そう……アンタの天敵や!」
「やかましい! 何を言おうがコイツの攻撃は私には効かない! それは事実です!」
「うるせぇんだよ、お前も先生も! いま集中して殴ってんだから黙ってろ!」
無敵は継続中だ。痛くも痒くもない。ただ、その猛勢は徐々にズカモトキセの余裕を削り取っていく。ただ勢い任せの、洗練も何もない、凡人のゴリ押しに、足が後退する。
「馬鹿な……!」
「遠く及ばないなんて言われなくたって分かってる。そんなことどうだっていいんだ。誰かに劣ってることが、自分の願いを引っ込める理由になるかよ!」
効かないのなら、効くようになるまで叩くだけだ。
龍郎は願いのために、怒りのままに戦うのみ。他の指輪戦士もそれは同じで、いつか必ず彼らの願いの力がこの不死身を剥ぎ取ると、龍郎は知っているのだから。
◇◇◇
ズカモトキセの力を分割させ、生成された怪人たちは、その性質を隔離空間に反映させた。つまり怪人たちは自身の力を120%発揮できる有利な地形に、ユニバース戦士達を引き摺りこんだのだ。
太古より神の怒りとして恐れられ、一説によれば恐竜を滅ぼす要因にもなったという厄災──大噴火。その源流、ここは超高温の溶岩地帯。そして、そこを縄張りとするのは三種の物質を掛け合わせて創造された『トリノイド』の第24号。
「ゲーッコッコッコッ! ズカモトキセ様のお力で蘇ったッコ! 今度こそ持続可能なネオエヴォリアンの創生を叶えるんだッコ!」
中国産の植物『蓮華』と爬虫類『
「ふざけた見た目なのに強い……けど、それ以上に……!」
「暑……い……」
「お姉ちゃん!」
それに対抗するのは3人……いや、4人の女性ユニバース戦士。
『ゴーグルレッド』大西洋子、『レッドマスク』神藤輝、そして歌舞伎姉妹 宇上日刈と宇上火狩、2人で1人の『ハリケンレッド』。
彼女たちを苦しめているのはこの珍妙な異形ではなく、足元から高熱が襲い来る過酷な環境だ。
特に宇上姉妹は、姉の日刈が派手な姿で敵を惑わし、真の契約者である妹の火狩が『
日刈の『絢爛ハリケンレッド』の姿は見た目だけ。生身同然ではこの高温環境に適応できず、火狩──『黒子ハリケンレッド』に抱えられ、もはや戦える状態ではなかった。姉が倒れた現状に火狩は声を荒げる。
「ていうか、あんたトカゲでしょ!?」
「ヤモリだと思う」
「ヤモリです」
「どのみち変温動物っ! あんたの方が熱には弱いはずだ、学校で習った!」
「知らんのかぁ? 蓮華には解熱作用とお肌のキューティクルに良い成分があるのだ! どんな猛暑日だろうが俺様にとっては快適快温うるおいボディ~! 苦しむのはお前らだけッコ!」
「なんだその微妙に納得できない理屈はぁ~!」
「あ、師匠……」
「違うよ日刈。私は洋子の方」
日刈が洋子を見て、同じゴーグルレッドである師匠の朱右衛門を幻視し始めた。この暑さではもはや喋る時間すら命取りになりかねない。そんな中、ただ一人弱音を吐かず、レッドマスクが走り出す。
オーラパワーで熱をある程度遮断しているのか、その動きに淀みは無い。アバレンゲッコーの尾から伸びる蓮華が放つ稲妻も避け、力を込めた右拳をアバレンゲッコーへと叩き込む構えを見せた。
しかし、短い期間だが鍛錬を共にした洋子たちは知っている。
彼女は弱音を吐かないんじゃない。吐くこともできないのだ。
「なぁんだそのへっぴり腰は! そんなパンチ当たるかッコ!」
敵を眼前にして一瞬、レッドマスクは、輝は動きを止めてしまった。
命を物としか見ない冷たい眼光に貫かれた。それと同時に思い出す、血の通っていない、あの激痛を。
「輝さん!」
アバレンゲッコーの殴打を受けたレッドマスクを、ゴーグルレッドが受け止める。地を転がった体が焼けるようだ。だが、それ以上に、輝は情けなかった。
再び指輪を手にしたというのに、ガリュードの姿が網膜から消えてくれない。怖くて指輪の能力を使えないどころか、声すらも喉から先に出てこない。突入前にガリュードの名前を聞いただけでも怯える自分がいた。
「この……よくもお姉ちゃんと輝さんを!」
「行くよ火狩ちゃん!」
黒子ハリケンレッドとゴーグルレッドがアバレンゲッコーへと果敢に攻め立てる。輝は倒れ込んだ日刈を抱えながら、拳を握りしめることしかできない。
この2人もそうであるように、ガリュードに負けた戦士は多数を占めた。それなのに、どうして殺意を前に立ち向かえる。どうして自分だけがいつまでも立ち上がれない。
「お遊びは終わりッコ! スーパー蓮華ビーム! ニョーイ……ドォーン!」
煮えを切らしたアバレンゲッコーが、尻尾の蓮華から緑色の雫のような光弾を発射。跳ね回る弾道が気持ち悪いが弾速は遅く、避けるのは容易だった。ただ、その光弾は彼女たちの足元の溶岩に浸透する。
その瞬間、大地が震えた。そして雫が落ちた地点から真っ赤な激流が、マグマの間欠泉が噴き出た。それは言うまでもなく超必殺級の大災害だ。
「蓮華のもう一つの特性、それこそ利尿作用ッコ! 本当は当てた相手の尿意を増幅する技ッコが……」
とんでもないカミングアウト。女性チームになんて下劣な技を使うんだと申し立てたいところだが、それどころではない事実が告げられる。
「この火山地帯に使えば、溜まった老廃物……つまりマグマを排出させることができるんだッコ! しかも今は、あのお方からエネルギー供給されている状態で常にフルパワー! さすがズカモトキセ様! イケボ! イケネーム!」
アバレンゲッコーがこの場所をテリトリーにしている真の理由に戦慄が駆け抜ける。溶岩の噴射なんて喰らえば、いくら指輪の戦士だろうとひとたまりもない。
『未来予知』で敵の詳細までは読み切れなかった。このメンバーとアバレンゲッコーの戦略は、相性最悪だ。
「───『
その時だった。
足元の高熱に削られながらマグマの雨を避ける地獄に突如、熱を洗い流すような冷水が氾濫した。
「無事ですか!? 遅くなり申し訳ない。龍田流ノ介、現着しました!」
空間の揺らぎの中からこの場所を見つけ、駆け付けたのは炎を討つ者。『ゴーレッド』龍田流ノ介。炎に苦しむ者がいる所に、消防士は必ず辿り着く。
「なっ、貴様よくも俺様のマグマおしっこを!」
「何を言っているんだ君は!? とにかくここは自分に任せてください、その間に態勢を!」
ゴーレッドは『流水』で周囲の温度を下げ、火狩たちに呼吸の暇を与えた。そして迷わず足を踏み出す。
「『
「なんの! 喰らえ蓮華ビーム!」
手から放つ『流水』の勢いで加速、牽制、姿勢制御を兼ね、アバレンゲッコーを翻弄する。同時に蓮華ビームを浴びた地点をピンポイントに冷却することでマグマを鎮静化。
流ノ介は炎を恐れていた。それでも、その間に人を救う術は磨き続けた。指輪を失ってからはさらに現場で経験を積んだ。
『貴方、戦い向いてないですよ』
ブーケと名乗った彼女に突き付けられたこの言葉を、忘れることはないだろう。
その通りだ。人の命を奪う覚悟なんていらない。ただ消防士として、人を守り救うことだけはどの指輪戦士にも負けない、その自信が今の流ノ介にはある。
「さっきからチョロチョロと~! 戦う気があるのかッコ!?」
「これが俺の、消防士の戦いだ!」
ゴーレッドの雄姿に輝は思わず魅せられてしまった。
敵の攻撃と溶岩を紙一重で捌き続ける、死線の直上での躍動。心に渦巻く畏れと恐れの中で、輝は僅かな暖かさを感じていた。蝕む熱ではないそれを、輝は知っている。
「思い出すなぁ、火狩と始めて歌舞伎を見た……あの日……」
気温が下がったとはいえ生身には依然苛烈な環境。それでも日刈は、レッドマスクの腕の中で声を絞り出す。
「命を懸ける熱と気迫……真っ暗だったあたしの人生に、これしかないって光が差した……! そう、光が見えたの。あんたもそうでしょ? だから役者なんてやってたんでしょ!?」
日刈の言葉に、頬を叩かれたような痛みを覚えた。声を失った時とは違う、優しい痛みを。
始まりは大学の男装コンテストだった。オーラがあるなんて口説き文句に心を動かされ、初めて舞台の上に立って、すっかり魅了されてしまった。だから劇団の力になりたいと、この光の中にいたいと願ったんだ。
流ノ介が輝に魅せたのは、己が人生を一つの道に賭ける者の輝き。
そうだった。例え怯えていても、声を出すことができなくても、
ここにいるのは劇団曼荼羅の神藤輝だ。
「えぇい、もうこうなれば……最終奥義ッコ! 利尿作用を最強にパワーアップさせた、スーペリア蓮華ビームをぶちかましてやるッコ!」
そう言うアバレンゲッコーの視線が向く先は、この領域の中心に鎮座する巨大火山。あんなものが大噴火を起こそうものなら、訪れるのは回避も消火も不可能な絶滅である。
秒読みとなった『終わり』を前に、洋子は思考を回す。
こんなところで終わらせてたまるか。ここにいる皆に望む未来があるのだ。誰の未来も奪わせない、その覚悟に『ゴーグルファイブ』の指輪が応えた。
「───『
先の戦いでは目覚める機会の無かった、洋子の『指輪能力』。
洋子たちとアバレンゲッコーを囲む空間のみが隔絶され、せり上がっていく。その高度は火山の標高を軽々突破し、ブラックホールのような暗闇の先で新しい世界へと接続した。
「こ、ここはどこだッコ!?」
「私たちの舞台よ。そして、あなたの墓場でもある」
いつの間にかアバレンゲッコーは白い床の上に立っていた。
演者はゴーグルレッド、演目は新体操。今この空間には、火山や溶岩もなければ身を焼く高熱も無い。
「レッドロープ」
生き物のようにうねるリボンがアバレンゲッコーを煽る。直情的に襲い掛かる怪物を、ひらり、ふわりと跳ねて舞って受け流し、気付いた時にはアバレンゲッコーの体はリボンに絡め捕られていた。
「なんと美しい……ゲココォッ!?」
優雅な所作に目を奪われたのが運の尽き。自由を奪われたアバレンゲッコーを、高圧電流が襲う。負けじと力づくでリボンを引き千切り、顔を上げると、またしても光景が変わっていた。
「やぁやぁやぁ! 喉元過ぎれば熱さを忘れるとは此の事ぉ~! ”ひかり様”改めぇ~、初代・宇上日刈ぃ~~っ!
べべぇんっ!!
取り巻きの女衆たちが三味線を掻き鳴らし、絢爛ハリケンレッドが大見得を切った。
そこは歌舞伎の舞台。絢爛ハリケンレッドが持つ傘が、くるりと手元で回ったかと思うと薙刀に。その剣先でアバレンゲッコーを挑発するが、いざ突っ込まれると元に戻った和傘が彼女の姿を隠す。
三味線が鳴ると、その姿は舞台装置の上に。華麗であり、軽快であり、大胆で重厚。堂々たる振る舞いにアバレンゲッコーは6つの視線を奪われる。
「あいや、しかと見よ~っ! これぞひかり流剣技・疾風斬~~っ!!」
それが『偽装』による見掛け倒しだと分かっていても目を離せない。舞台装置から飛び降りる絢爛ハリケンレッドの対極、照明を浴びるアバレンゲッコーの影から、黒子ハリケンレッドの斬撃が鈍く刻み付いた。
「ぐぐぐ……まだまだァ! ヤモリの再生力を舐めるな、ッコ!?」
再び舞台は暗転する。カーテンコールにはまだ早い。
スポットライトが照らし出したのは、レッドマスク──舞台女優・神藤輝。
「貴様はァ~! こんなビビりに誰が負けるかッコ! この恨み晴らさでおかないッコ~!」
水を得た魚、餌を見つけたヤモリと言うべきか。弱者を捉えたアバレンゲッコーは嬉々として飛び掛かる。だが、その単純な動きをレッドマスクは半身で躱す。舞台に転んだアバレンゲッコーが自棄で放った稲妻も同じように。
『
ここは舞台の上。洋子と宇上姉妹と流ノ介がお膳立てしてくれた、輝が最もオーラを発揮できる場所。だったら五島光に見出された役者として、応えることだけを考えろ。恐怖さえも糧にして演じ切ってみせろ。
「───『傷の痛みを知らぬ奴だけが、他人の傷痕を見て嘲笑う』」
輝の声が物語を紡ぐ。『ロミオとジュリエット』の有名な一節、ジュリエットのバルコニーの下に忍び込んだロミオの台詞。
「『あぁ。何十本の剣よりも、君の目の方がずっと怖い。どうか優しい眼差しを向けてくれ。それさえあれば───僕は不死身だ』」
そこにあるのが失望ではなく期待なら、何度だって願いを抱こう。応えよう。レッドマスクのテガソードが専用剣『マスキーブレード』へと変わり、劇は最終局面を迎える。
向かい合うアバレンゲッコーとレッドマスク。二つの影が交錯した瞬間、伸びたマスキーブレードの刀身がアバレンゲッコーの胴体を断ち切り、貫通した傷跡から光が差す。
「どうしてあなたはロミオなのォォォォォっ!……ッコ」
これにて終演。断末魔を上げ、アバレンゲッコーは舞台上で爆散。
洋子の指輪能力が解除され火山地帯に帰還すると同時に、指輪戦士たちの拍手喝采が輝を包んだのだった。
◇◇◇
「レグルスインパクト!」
《ギャラクシー!》
流星群と共に飛来し、宙を両断する獅子の爪。何の捻りも細工もない荒野の上で、過剰なダメージを負った怪人は爆炎に包まれ木っ端みじんとなった。
しかし、戦士達の吐息から漏れる感情は歓喜ではなく、不安。
「ゲラゲラゲラゲラ! おはようございます、大復活ぅ~!」
どこからかタイマーの音が鳴り響き、炎の中から怪人が蘇る。
戦国最強『牙鬼幻月』の妖気を帯びた封印の手裏剣とデジタル腕時計が融合し生まれた、『妖怪ネコマタ』。
対する戦士は『ニンジャレッド』石飛猴破。そして、幸運の絵描き『シシレッド』四葉九月に、鎧武者志望『トッキュウ1号』葉面蕾華。しかし3人は既に精魂使い果たしたという様子だった。
無理もない話。なぜなら、彼らはネコマタをもう3回倒している。
ネコマタは時間を操る。本体の時計にアラーム設定を行うことで自身の時間を戻し、肉体を失っても復活することができるのだ。
「俺は反省したのだ! やられる前に胸の時計を死守、そしてやられてすぐにタイマーを設定しタイムラグ無しで復活! 真の妖怪最強ネコマタ様に死角はニャ~い!」
「それももう3回聞いた……!」
シシレッドが苦言を漏らすが、分かっていてもどうにもならなかったから今がある。ラスボスの無敵を解くために不死身の敵を倒さなければいけないなんて、ソシャゲだったら苦情殺到のクソ仕様だというのに。
「状況を整理しようか」
「承知した忍者殿」
ニンジャレッドが口を開くと、トッキュウ1号が正座で拝聴の姿勢を取った。蕾華は武者だの忍者だのに憧れがあるようでニンジャレッドを前にテンションが上がっているが、やっている場合ではないので九月が彼を引っ張り上げる。
「奴の口ぶりから、不死身を司っているのは奴の胸の時計だろう。倒す前に時計を破壊すればいい」
「しかしあの猫、身を呈して時計を守る。あの守りを突破するのは至難と見るが」
「前の敗因とか言って腕も掴ませてくれないしね……そうだ『指輪能力』! 皆の能力はまだ見てない、そこに突破口があるんじゃないかな!?」
シシレッドの提案に、2人は分かりやすく目を逸らした。
「……拙者の指輪能力は『
そう言うとトッキュウ1号が甲冑姿に変わる。
「見た目だけ?」
「見た目だけ」
ニンジャレッドとシシレッドは頭を抱えた。
「オレの指輪能力は『
「さっき突入の時にやってたみたいなことは……」
「指輪の相互作用によるレアケースだ。基本的にはオレ自身にしか使えないな!」
シシレッドとトッキュウ1号は頭を抱えた。
「お主はどうなのだ。言い出しっぺであろう」
「……『
「「おぉ!!」」
「前の戦いで過去を変えたから、代償として力を失ってて……」
ニンジャレッドとトッキュウ1号は頭を抱えた。
3人も指輪戦士が揃っていて有効な能力が一つも無いことがあるか。ロボを呼び出したり物質の硬さを変えたりワープしたり色々あるのに、よりにもよって。
「あの~もういいッスか?」
「よくないからあとしばし待って!」
「ウッス。って誰が待つかい! 超肉球ボンバー!」
ネコマタが放った高速回転する火球が、3人の指輪戦士を吹き飛ばす。4回倒せているとはいえ敵は十分に強く、3人ともほとんど満身創痍。落胆も言い争いもしている余裕など無い。
「一つだけ、僕に考えがある」
トッキュウ1号に肩を借りて立ち上がったシシレッドが、口火を切った。それは作戦と言うにも烏滸がましい、疲れた頭で考えた思いつきだった。それでもと、シシレッドは2人に耳打ちをする。
「なるほど……面白いじゃないか。気に入ったぜ」
「しかしこのような策、本当に上手くいくのだろうか……?」
「わからないよ。でも、これだけは言える」
指輪戦士たちが立ち上がる。九月が最後に付け加えたその言葉は、オールインには十分な根拠だった。
「俺は昔から、運だけはいいんだ」
退屈そうに欠伸をするネコマタに向け、駆け出したのはニンジャレッド。響鳴秘剣『カクレマル』と雷鳴剣『ヒカリマル』の二刀とネコマタの爪が火花を散らす。
「貴様ァ、ニンジャレッド! あの時の雪辱を晴らしてやる!」
「貴様のような猫は知らん!」
別世界の
「ただ、オリジナルが貴様に勝ったというなら、オレも負ける訳にはいかないな! 分け身の術!」
分身したニンジャレッドは巨大手裏剣『レッドスライサー』を手にし、各々が機敏に立ち回ってネコマタを翻弄、斬撃乱舞。猴破は厄災という出自から、純粋な戦闘能力なら指輪戦士の中でも上澄みであり、単独でネコマタと互角以上を演じていた。
「オン・サル・ニン──火炎つむじ之術!」
「またこの技ぁぁぁ!? ズビズバーーーッ!」
分身たちでネコマタを取り囲み、掌印を結ぶ。四方から吹き上がった火炎は巨大な竜巻を成し、ネコマタを猛熱の牢獄に幽閉する。
「むぅぅ、こりゃたまらん! またタイマーを設定して……!」
ニンジャレッドの全力を前にネコマタは劣勢を悟り、復活の構えに入った。このままリセットを続けていれば自身の妖気よりも先に指輪戦士の体力が尽きるはず。勝つのは絶対に自分であると、ネコマタは確信してほくそ笑む。
「ちょっとちょっと」
「はいなんでしょう、って貴様は!?」
ネコマタの肩を叩いたのは、ニンジャレッドの分身の一体。
しかしその正体は、指輪の能力『想像』で姿を変えていたトッキュウ1号だった。
「成りきる事こそ忍者の極意と見つけたり。というわけで『
分身と変装、二重の忍法でネコマタを欺き、今度は『想像』がネコマタの姿を変えた。すると胸のデジタル時計は振り子式の古時計に。
「こ、これぞ元祖! まさに本家の古時計!
こんな零式な時計にアラーム機能はニャいぃぃぃ!」
変わった自身の姿に困惑し、ネコマタが慌てふためく。しかし実際には変わっているのは見た目だけなので、冷静な状態なら看破されて終わりだ。気付かれないかどうかは賭けだった。
「賭けは……俺たちの勝ちだ!」
《ギャラクシー!》
運に身を委ね、その隙だけを狙い澄ましていたシシレッドは、腕のセイザブラスターをネコマタの胴体に照準を合わせていた。
『運も実力のうち』なんてよく言ったものだが、ポジティブな意味合いで使われたのを見たことが無い。大抵は運勝ちの言い訳や開き直り、それか負けた方の皮肉。それもそうだ、努力の時間や賭けた思いを『運』なんて要素にひっくり返されるのは理不尽だと、誰もが思っている。
だから四葉九月は自分を好きになれなかった。運だけは良いだなんて、他人から向けられる分にはただの誹りでしかない。
でも、良い縁のことは良縁と呼ぶ。
機嫌が良いことは上機嫌、良い天気は好天。
運が良いことを意味する『幸運』だけが『幸』という文字を含むのなら、運という九月の才能はきっと幸せになるためにある。誰かの幸せを叶えるためにあるんだ。それだけは決して揺るがない。
「レグルスクラッシュ!」
セイザブラスターから放たれた赤の惑星弾がネコマタに命中。
「し、しまったぁ~~~!!」
「これでもう、君の不死身は封じた!」
「さぁトドメだ皆の衆! 忍者殿!」
「任せろ、カクレンジャーボール!」
トッキュウ1号の声掛けでニンジャレッドが出したのは、ラグビーボール型爆弾『カクレンジャーボール』。話によれば、かの飢餓の厄災ビダルを葬ったというお墨付きの逸話まである正義の一撃。
メンバー同士でパスを繋ぐのが本式なのだが、そこはユニバース戦士流。ニンジャレッドが蹴り上げるとトッキュウ1号とシシレッドがそこに飛び上がり、ニンジャレッドのオーバーヘッドキックを重ねることで、三者同時の必殺シュートが炸裂する。
「オールスターレインボーブレイク!」
「なんでもかんでも妖怪のせいにするのはやめましょう~~ッ! ゲラゲラ、ポ~~ッ!!」
小学生が考えたようなネーミングで蹴り放たれたボールは、稲妻を纏って激突しネコマタを粉砕。本体の時計ごと粉々になり、ネコマタは今度こそ消滅したのだった。
「正義は必ず勝つ。なるほどな、仲間と共に成す正義も悪くない」
「成敗……ふぅ~疲れたぁ。どうかな! ちゃんと演じれてたかな!?」
「いやぁどうだろう……」
本来の小学生らしい口調で詰め寄る蕾華と、子供の元気についていけないアラサー四葉九月。彼を猴破に押し付けながら、別の空間で戦っているであろう彼女に思いを馳せる。
「大丈夫かな、天宮さん」
その心配は安否とはまた別の方向に向いていた。
◇◇◇
「なんっっっっっで!? こうなったワケ!!??」
九月の心配は、それはもうド真ん中に的中していた。
『ゴセイレッド』天宮青蘭の怒号が青空に響き渡る。
彼女がいる特殊空間は『野球場』。ここを支配する分身怪人は2人いた。
「偉大なる大先輩とのバッテリー、俺はいま猛烈に感動している!」
「俺はまたまた蘇りし黒十字軍のホームラン王! ちなみに令和バージョンだ」
野球ボールが擬人化したような2人の怪人。宇宙暴走族ボーゾックのピッチャーナンバーワン『
青蘭は気に入らない。他に強そうで派手なヤツらがたくさんいたのに、なんでよりによってこんな雑魚丸出しな連中と当たってしまったのか。
「今もの凄く失礼なこと考えていたな小娘ェ!」
「野球仮面先輩を侮辱するとは! 俺はいま猛烈に怒っている!」
「まだ何も言ってないでしょ!」
しかし、青蘭が一番不服なのは敵ではなく、味方の方だった。
「野球選手といえば”番長”に”鉄人”に”トルネード旋風”、激動のバブル期よ!」
「昔は譲二のやつに付き合って特訓したもんだ。腕が鳴るってもんよ!」
「ウォーーーーーッ! 甲子園だーーーーッ!! 土! 土持って帰らな!」
自称バブル時代ギャル『レッドホーク』鳥江令子。
御年90歳空手師範『レッドマスク』須賀田タケ。
不老不死になりたい記者『ゼンカイザー』紀伊友香 。
うるさい。まとまりが無い。肩書がカオス。
どうせ同じレッドマスクなら
何よりこの中に自分が混ざっているのが気に食わない。
天宮青蘭はイロモノ枠だって言いたいのか。
「てゆーか、あいつはどこ行ったのよ……わたしを一人にしやがって!」
どさくさで相方の九月と別行動になってしまったのが、青蘭の機嫌が悪い一番の要因だった。
「うるさい小娘ども、野球仮面先輩の話を聞けェ!」
「貴様らがここから出る方法、それは───」
「ゼンカイフィニッシュバスター!」
「『
「「のわああああああああッ!!??」」
レッドホークの指輪能力が野球場を包み込み、一方でゼンカイザーのとりあえず全力砲火が野球仮面とHHデーオに爆裂した。しかし、2体はゼンカイザーが出した巨大なV字エンブレムの下から、何事も無かったかのように立ち上がる。
「ぐぇっ、効いてねェ!?」
「バカモン! 話を最後まで聞けと言っとろうが! 俺達は野球でしか倒すことができんのだ。だが試合には人数が足りんからな、表裏貴様らの人数分だけやってやろう。両方で一度でも俺達に勝てばクリアーだ!」
「1回でいいなんて舐められたもんだね。それに誰が小娘だ!」
「デカい口を叩くのはやめておけ。この俺、30年選手のHHデーオと、50年選手の野球仮面大先輩が猛烈にぶちのめしてやるぜ!」
レッドマスクと野球怪人がバチバチと火花を散らす。
一方その頃、レッドホークは指輪の能力で自分たちを80年代に活躍した巨人軍のユニフォームに変えて満足げだった。彼女の能力は『周囲の空間を80年代にする』と聞いているが、意味がよく分からない。巨人軍ならぬ
こうして始まった全5回の野球対決。
結果から先に言うと散々。というよりも、HHデーオと野球仮面が強過ぎた。
「うおおお久しぶりのピッチだ! 俺はやるぜ! デーオッ!!」
敵投手はHHデーオ。彼の強肩から放たれる剛速球はまさに火の玉。何より厄介なのは急激に『落ちる』フォークボールだ。仮に球を目で追えたとしても、それが変化球かどうかを見極めるのは至難の業。
「令和の俺は一味違うぞ! アンダースローもスローボールも通用せんと思い知れぃ!」
打者は野球仮面。背番号1のホームラン王、打率10割を自称するだけあって、生半可な球は一撃で場外に叩き出されてしまう。50年も戦隊と野球の歴史を支えてきた実力は伊達ではない。
あっという間に4回完封。ユニバース戦士チームは崖っぷちに追い詰められた。
「どーすんのよこれ」
最後の投手はゴセイレッド、天宮青蘭。
状況は絶望的という他ないだろう。もちろん彼女には野球の経験どころかルールの知識すらあまり無い。野球・政治・宗教の話は配信ではNGだし、九月も野球を見るようなタイプじゃないし。
他の連中はというと、お婆ちゃんは石みたいに動かないし、他の2人はこんな状況でも呑気にうるさい。あんたら両方とも投打で負けてるくせに反省とかしないのか?
(もしかして、いま真面目に考えてるのって、わたしだけ?)
焦って相手を観察して必死に勝ち筋を探して……こういうのはそれこそ九月の仕事だろう。なんでここにいない?
「イライラしてるねぇお嬢ちゃん。イライラはお肌に悪いゼ☆」
「うるさい。てか、あーたもちょっとは考えて! 次打たれたら終わりなんだよ!?」
「うおっと意外にマジメちゃん? もうゴセイレッドっていつもそうですよね!? 私と似た者同士で仲良くなれると思ったのにぃぃぃぃぃ! イケイケドンドンな美少女同士さぁぁぁぁ!!」
ゼンカイザーが大袈裟に嘆く。美少女ってそんな歳なのか、この人? あんまり他人に興味ないし、よく知らない。人の気持ちは分からないし、絶対自分の方が可愛いし。ていうか似た者同士? イケイケドンドンってどういう意味?
「全開に燃えて輝く、儚く散るもまた一興! JR発足! 東京ドーム開場! ジュリアナ東京! それがバブル!」
「はぁ~~~~!?? 私の夢は不老不死なんですけど! 儚く散らないんですけどぉ!?」
話を聞いていたのか、ただの発作か、レッドホークが口を開く。少なくとも会話が成立しているように見えないが、その言葉の必要な栄養分だけが青蘭に入っていったように感じた。
全開で燃えて輝く。後のことなど考えて、無我夢中に。
それもそうだ。うるさい親から逃げるように家出して、バイトと配信の投げ銭で食い繋ぐ人生がマジメなわけあるか。そのマジメからかけ離れた人生を肯定するために戦ったのに。
「あーもう、どうかしてた最悪! ウダウダ考えるなんてわたしらしくない。野球がなんぼのもんじゃい! さっさとこんなとこ出て、チヤホヤされてオリソン出してライブするの! 宇宙一の配信者に不可能はない!」
思いっきり声を出したら視界が開けた気がする。透き通った青空がキレイだ。
「ん? 空……ライブ……? そうだ待ってもしかして! ねぇちょっと野球のルール教えてほしいんだけど!」
何やらレッドマスク以外の3人がワヤワヤガヤガヤとした後、ゴセイレッドがグローブを着けてピッチャープレートを踏む。その慣れない様子をバッターボックスの野球仮面が鼻で笑った。
「随分と遅かったが、覚悟ができたようだな? さぁ来い一息で地獄に……」
「うわーーーん! もうダメーー! わたしぃ、こんな重いもの投げられないよぉ~~!」
突然、ゴセイレッドは変身を解除し、座り込んで泣きべそをかき始めた。
なんてわざとらしいのだろう。青蘭自身そう思っている。だが、昭和のおじさんには何故かこれが妙に効くのだ。
「……はっ、イカンイカン! そんな風に甘えても勝ちは譲ってやらんぞ!」
「そんなぁ……じゃあせめて、その素敵なスイングであの空にも届くくらいの、すっっっごいホームランが見たいなぁ~~なんて……野球仮面さんなら、できるでしょ……?」
「むぅっ! そ、そりゃあお安い御用だ! 見ておれ可愛い子ちゃん、歴史的ホームランで勝ちを飾ってやろう!」
野球仮面がかつてないほどの力強い構えを見せる。そこに向かっていくのは、青蘭が投げたヘロヘロのボール。当然、造作もなくバットはボールに命中し、上空目掛けた軌道で飛んでいった。
「今よ!」
猫なで声から一転、青蘭の力強い合図を受け、守備のレッドホークがどこから持って来たのか分からないジュリ扇を振り回して叫んだ。
「『
バブル時代チックに空間を書き換える『泡』を受けた野球場は、なんと当時開場されたばかりの東京ドームに変化した。ドームライブを夢見ている青蘭はよく知っている。東京ドームにはさっきまでの野球場と違い、『天井』がある。
まんまと誘導され無駄に高度を上昇させていた打球は、天井に激突。ルールは攻守かわりばんこの野球勝負。バッターを仕留める方法は、何も三振を勝ち取るだけじゃない。
「な、なにぃっ!?」
「天井に当たれば勢いは死ぬ! そんで、そのまま落ちてこなければ2塁進むらしいけど……」
予想通り野球仮面の全力で打ち込まれたボールは、どうやら天井に食い込んでいるようだ。普通の野球であれば青蘭の言う通りユニバース戦士チームの負けだが、それは『打球が取れず
守備を担当するレッドホークなら飛行して天井まで直接ボールを取りに行くことができ、そのグローブの中に球はしっかりと収まった。
《アウト!》
「っしゃあ!」
「バカな……!? 勝負に勝って、試合に負けたということか……!」
天井からボールが落ちた場合は、着地より先に野手が捕球すればアウトになる。守備が空を飛ぶケースが想定されているわけないので実際どうかは不明だが、少なくともこの空間のルールはアウトであると判断したらしい。
「おのれ、よくも野球仮面先輩を誑かしてくれたな! だがこの俺にはそんな小細工、通用せんデーオ!」
怒りに燃えるHHデーオが、仇を取らんとマウンドに立った。色仕掛けが通用するかどうかは別として、ピッチャーに対して同じ手が使えないのは事実。最後のバッターであるレッドマスクは、その気配を受けて覆面の奥でようやく目を開いた。
「『
タケの指輪能力『瞑想』は、5種のオーラパワーを操る。ただし一度の使用につき1時間の座禅が必要なため、最初に投手として負けてから今まで気を練っていたのだ。
「瞑想しながら見てたが、あのHHデーオっつう投手、とんでもねぇ選手だ。身体能力を底上げする瞑想『在』もこの時間じゃ不完全……いや、弱気はよくねぇな!」
今さらいじけてどうすると、タケは自身に喝を入れる。
そこに何かうーんうーんと唸っていた友香が、急に「おおっ」と大声を上げた。
「なんだなんだ! たまげて瞑想が散るところだったじゃねぇか!」
「人って物なんだ!!」
「はぁ!?」
会話は通じないが、要は指輪の力の話らしい。
彼女の指輪能力『
「数音文っちが教えてくれた『ゼンカイザー』は、自分と別の人を合体させてた。ってことは───」
これでも記者の洞察力と言うべきか。彼女はスーパーゼンカイザーとスーパーツーカイザーの合体形態『ゼンカイジュウオー』を、自分の能力に結び付けたようだ。もしも変身した姿にも『合体』が適用されるとすれば……
友香が人生の大先輩を見る目は、完全にマッドサイエンティストのそれだった。
そして、気合いに満ちたHHデーオの前に立ったのは───
『よっしゃーっ!!!』
「なっ、なんだその姿は!!??」
レッドマスクの姿をベースに、スーツはゼンカイザーのカラフルなラインに彩られ、マントが風を受けて靡く。新解釈の『合体』によってレッドマスクとゼンカイザーが融合したのだ。
『レッドマスクとゼンカイザーが合体して……光のパワー、ゼンカイマスクってとこかな』
「だからなんだそれは! 既に打ち取られたゼンカイザーが出るのは反則だ!」
『人数分の勝負をすると言っただけ。同じ選手が出てはいけないというルールは聞いてねぇ!』
打順と投順に関しては独自のルールで進めている。そう言われるとHHデーオは何も反論できなかった。友香はあんなにうるさいのに目ざといなぁと、ベンチから青蘭は思った。
「ぐぐ……神聖な勝負を汚しやがって、俺はいま猛烈に怒っている! ならば望み通り俺の
『かかって来な! 発動、瞑想『在』!』
「うおおおおおお! デェェェェェオッッッ!!」
HHデーオが大きく振りかぶり、渾身の一球を放った。
ゼンカイマスクは合体したことにより全ての力が飛躍的に上昇しており、『瞑想』の効果も倍増していた。強化された動体視力で、縫い目に至るまで迫る火球の全てを見極める。
『見えた!』
近頃の絶叫マシンくらい急激に落ちるフォーク。その軌道を完璧に看破し、ゼンカイマスクのバットがボールの芯を捉えた。そして、強化された脚力に筋力、体の全ての力を使って火の玉ボールを押し返す!
『うおりゃあーーーーっ!!』
響く快音。跳ね返され、頭上に飛んで行ったボールを見て、HHデーオは力なく膝を折った。
「そんな……俺の火の玉マーキュが打たれるなんて……!」
「HHデーオ! まだボールは下に落ちとらんぞ! あれを取れば……!」
キャッチャーをやっていた野球仮面は走り出していた。ゼンカイマスクの力を以てしても、HHデーオの全力投球は高く打ち上げるのが精一杯。野球仮面の言う通り、このフライを取られればアウトになってしまう。
「いや、わたしたちの勝ちだよ!」
今まではバカ速い球が行き交う勝負だったから、この手を使えなかった。ただ落下するだけのボールにならこの必勝の手札を切ることができる。ベンチで監督が指示を出すかのように、青蘭が叫んだ。
「『
天使の羽が舞い、飛球は野球怪人達に届く寸前で消えた。
彼女の指輪能力『転送』はテレポート。つまり、ボールを直接場外に届けることができる。
《ホームラン!》
「そ、そんなのひデーオ~~!」
「しばし再び引退の時……いずれまた会う日まで! サラバ!」
場内アナウンスが試合終了を告げると同時に、どういう仕組みかHHデーオと野球仮面は大爆発。ユニバース野球対決は奇妙な
「その変な合体、いつ戻んの?」
『さぁ?』
◇◇◇
その時、指輪は再び死の未来を見せた。
私たちは4人がかりで強敵に挑んでいた。だが、突如そこから這い出たのは新たなる刺客。あの時とは違い何度も死線を切り抜けてきて、『未来予知』を駆使して綿密な計画を立て、皆が力を合わせれば必ず勝てると、それだけの時間と人の数が私の背中を支えているはずなのに
「へぇ、なーんか面白そうなことやってんじゃん。
───俺様も混ぜろよ、おツブ共」
その不気味としか言い様のない『異物』は、皆で協力して作り上げたこの計画を机ごと引っ繰り返すかのように、指先一つで全てを台無しにした。
この空間だけじゃない。隣接する次元、私たちがいた世界、重なっている並行世界。集めた仲間たちも、待っている大切な家族も友達も、この時間に存在する全ては───その『王』の誕生と共に宇宙の塵になって……
「深月!」
「……っ! 私、いま……!」
瀧磐八人、タイムファイヤーの声で深月三龍、タイムレッドは目覚めた。
今のは指輪能力『
恐怖で歯の根が震えて上手く言葉が紡げない。ただ、三龍は目の前にいる怪人を指さして、必死に仲間に伝える。
「あいつを……倒しちゃ、だめ……!」
「……それがお前の見た未来なのか?」
「うん……もし『アレ』が出てくれば……! みんな、死んじゃう……!」
彼らがいる領域は辺り一面白銀の氷雪世界、絶対法治国家『ゴッカン』を再現した空間。その吹雪の中で積もった雪山のように座り込んでいるのがこの次元の主だ。
白い木屑を固めたような巨大な両腕を持った、雪男を想起させるようなシルエット。まるで意志など無いように無為に巨体を蠢かせ、ただ過ぎ去る雪を眺める不気味な怪人。
宇蟲五道化が一体、『秘匿』のミノンガン・モウズ。
「倒すなって言われても、そもそもあんな堅いのどう倒せっていうんだよ」
「同感だ。あちらに戦意が無いだけで、手加減して戦える相手ではないぞ」
タイムレッドとタイムファイヤーに連なるのは2人の指輪戦士。電撃ボクサー、『デンジレッド』犬飼大慈。炎の剣聖、『ギンガレッド』磑田郷羅。
プロボクサーと居合道師範、戦闘力は折り紙つきの2人だ。しかし彼らの力を以てしても、ミノンガンは打てど響かず、何の技巧もない腕力だけでいなされてしまう。あの怪人の強さが尋常ではないことだけは誰の目からも自明だった。
「しかし、彼女が言うなら間違いは無いか。我らが参謀の指示には従おう」
「そうですね。代わりに今度、喫茶店『未来』で何かサービスしてもらおうかな」
「じゃあ試作の新メニューとかご馳走しますよ。そのためにも、生きて帰らなきゃな深月」
とにかくミノンガンを無力化する。三龍が言う『何か』を発動させる時間を与えてはいけない。そうしてギンガレッド、デンジレッド、タイムファイヤーが走り出す。向けられた敵意に反応してミノンガンも立ち上がり、その肥大化した腕で頭を掻いてゆったりとした動きで迎え撃った。
「うぅ……うるさい、ミノンガン、おまえらつぶす!」
ミノンガンが右足を踏み出すと、そこを起点に永久凍土が広範囲に砕けた。足元を奪われ体勢を崩したタイムファイヤーを、ミノンガンの剛腕が指で豆でも弾くかのように跳ね飛ばす。
「瀧磐くん!」
「炎一閃!」
「電子稲妻落とし!」
全体重を乗せた星獣剣とデンジスティックが縦軌道で振り下ろされるが、ミノンガンは守りの素振りすら見せず彼らの二撃を受け止め、無傷。その常軌を逸した防御力は一切の攻撃を拒絶する。
「こんなもんで挫けるわけねえだろ! DVチェンジ、バルカンモード!」
痛みに胡坐をかく時間なんて無い。タイムファイヤーは砕けた氷を踏みしめ、音声認証で起動させた拳銃を放つ。しかしミノンガンは不動。無傷。
「ベクターエンド・ビート3!」
胸にこべりつく絶望から脱し、追いついたタイムレッドが繰り出したのは、二振りの『ツインベクター』から成るL字型の同時斬り。
「んぁ、あぁ……やっぱねむい……ねむいぃ!」
「そんな……!?」
不動。無傷。
技を極め、痛みに耐え、恐怖に打ち克った勇者など悠久の宇宙の歴史にはいくらでもいた。そんな勇者たちを弄び、無慈悲に愉快に片付けてきたのが宇蟲五道化。
ミノンガンの気まぐれか、本体であるズカモトキセの意志か、『秘匿』の一部が解き放たれる。ミノンガンの額から発射された赤い光線が、立ち尽くしていた指輪戦士たちを貫く───
「深月!」
タイムファイヤーがタイムレッドを突き飛ばし、ギンガレッドとデンジレッドも彼女を守るように前進した。枝分かれした光線は彼らの体に命中してしまうも、妙なことに痛みは無い。しばらくは困惑の静謐が漂うが、異変はすぐに襲ってきた。
「こんとんをォ……ときのことわり、ゆがめるゥ!」
意識と記憶が歪曲し、姿勢を保てない。氷の上に3人が倒れた時には、タイムファイヤーとギンガレッドには目に見える変化が起こっていた。明らかに体が小さくなっていたのだ。
「な、なんだこれ!?」
「どうやら子供の体に戻っているようだ……」
一方でデンジレッドは体が縮んでこそいないが、立ち上がると変に視線が低いことに気付いた。腰が曲がっている、というか体の節々が言うことを聞かない。
「まさか……僕は逆に老いてる……!? うっ、腰が……視界もぼやけて……」
ミノンガンの体は時間の歪みを封じ込めており、それを利用することで局所的な時間操作を行うことが可能。こうなってしまえばもう戦闘続行は不可能であり、ミノンガンも勝負はついたと見て低い声で無邪気に笑っている。
「あいつ舐めやがって……子供になったからなんだってんだ! 俺は……っ!?」
平時なら「小さい瀧磐くん可愛い」とか思っていたのだろうが、今の三龍にはそんな余裕は無い。『未来予知』ではないが、その小さな体から連想してしまうのは、八人にとって最も残酷な『予感』。
体だけが小さくなっているとは限らない。
その三龍の読みは的中してしまい、時間差で八人と郷羅の脳内に流れ込んだのは、その肉体に見合う時間───在りし日の記憶だった。
磑田郷羅は100年以上続く居合術の道場に生まれた。
紡がれてきた研鑽というものは、ひとりの人生などより遥かに重い。生を受けた瞬間から剣士になることが宿命づけられていた。だが彼に不満など無かった。歴史を受け継ぐことに喜びを感じていたし、彼には弟がいたからだ。
弟には自分を上回る剣の才能があった。
父は後継に自分ではなく弟を指名した。嫉妬が無いと言えば噓になるが、それ以上に誇らしかったのだ。
弟ならばこの現代で最も、いや歴代の誰よりも優れた剣士になれる。そして、兄である自分はそれほどの剣士と誰よりも長い時間を共にし、技を高め合うことができる。
私にとってはそれだけが全てだ。
弟の下で剣士No.2を目指す。この幸福さえ続くのなら、他は何もいらない。
『藻掻いてもいい。耐え忍ぶのもいい。唯一駄目なのは諦めることさ』
瀧磐八人はこの言葉を聞くのが好きだった。
時計屋をやっている祖父は、無茶な時計の修理を依頼された時、いつもそう呟いて自分を奮い立たせている。
両親のいない俺にとっては、その背中こそが憧れる姿だった。いつかじいちゃんみたいになりたい。時計技師になりたいかはまだよく分からないが、じいちゃんみたいにどんな人にも望む時間を与えられる、そんな人になりたい。
クラスメイトに言ってもあまり分かってくれない。かわりに皆が憧れるテレビの中のヒーローは、いつも傷ついて苦しそうだった。かっこいいとは思うが痛いのは怖いし、死ぬのはもっと怖い。死んだらずっと、ひとりだ。
そうだ、焦らなくたっていい。俺はまだまだじいちゃんと一緒にいられる。
いつかその時が来たら、じいちゃんみたいに───
「瀧磐くん! しっかりして、瀧磐くん!」
三龍がその小さな体を揺するが、声は届いていない。郷羅も同じだ。
たとえ届いたとしても立ち上がれるはずがないと、三龍は理解できてしまう。一般人が指輪の力で怪人に立ち向かうことさえ並大抵のことではないのだ。子供の精神ではミノンガンが放つ恐怖には耐えられるわけがない。
「んー? おかたづけ、のこってる。ダグデドにおこられる! つぶす!」
混沌の渦中、唯一正常だった三龍にミノンガンの殺意は向いた。ミノンガンは紫色の波動を帯びて更に巨大化した右腕を、タイムレッドと意識の戻らないタイムファイヤーに叩きつける。
振り下ろされたその一撃を、タイムレッドは両手で受け止めた。
衝撃が骨の髄まで響き、傷跡が軋み、剥き出しの神経が噛まれるような痛みが三龍の全身を駆ける。泣き出したい。逃げてしまいたい。戦うのなんてしたくない。それでも、一度は捨てた指輪をもう一度握ったのには、理由があるから。
「明日は変えられる……! 私は、指輪を通じて出会った皆を守りたい! 瀧磐くんと一緒に未来を生きたい!! だから……っ、負けるもんか!!」
願いを叫ぶ三龍の背中を支えるように、ミノンガンの腕がぐっと軽くなったのを感じた。視線を僅かに威圧から逸らすと、そこには共にミノンガンの腕を押し返すデンジレッドの姿があった。
「大慈さん! お体は……!?」
「平気……じゃないけど。でも、若い子が頑張ってるのに黙ってられないよ……! 今は、なおさら!」
大慈の体は依然として老人のまま。だから老体に鞭を打って、デンジレッドはミノンガンの桁外れの膂力に立ち向かい、そして跳ね返してみせた。
「一度は引退も考えたけど、今は違う……えっと……そう、生涯現役! この手でボクシングナンバーワンを勝ち取るその日まで、老いさらばえるわけにはいかないんだよ!」
歯抜け老人の活舌とぼんやりとした意識で言った台詞。締まらないなぁと自分で思いつつも、ミノンガンが突き出す拳に合わせ、デンジレッドも銀色のグローブを打ち付ける。
「デンジパンチ!」
大慈の
「私を……撃て……!」
「郷羅さん!?」
意図は分からない。だが、八人と同じく幼児化を受けてなお絞り出した、郷羅の戦士としての意志だ。無意味なはずがない。
「っ……クロノアクセス! ボルブラスター!」
彼の覚悟を信じ、タイムレッドは専用砲台『ボルブラスター』の火力をギンガレッドへと放つ。ギンガレッドの姿は轟音と雪煙の中に焼失するが、その直後のことだった。この雪原で猛熱さえも感じる眩い輝きが煙を搔き消して再誕し、勇者の叫びが木霊する。
「『
郷羅の指輪能力『転生』は敗北した時に一度だけ発動し、強化状態で復活を果たすというもの。敗北するほどのダメージを負って初めて発現するということは、傷なども文字通りリセットされるということ。
『転生』によって歪められた時間は元に戻り、獣装光ギンガレッドは『閃光星獣剣』と『獣装の爪』でミノンガンの堅牢なる鎧へと切り込んでいった。
「確かに……私はあの頃に今も焦がれている。理由も言わず弟が姿を消し、妥協の末に私が道場を継ぎ、その失意から門下生に厳しく当たった。結局そんな私には誰もついてこなかった……だが!」
デンジレッドとギンガレッドの猛攻がミノンガンを圧していく。
「私は諦めない。いくら過去が惜しくとも、願いは未来にしか無いのだ。再び弟に会うその日を掴み取るため、今度こそ私は……剣士No.1になる!」
大いなるギンガの光を帯びた『獣火一閃』とデンジレッドの右ストレートを受け、ミノンガンの巨躯が雪の上を転がった。ダメージを与えたことでデンジレッドの時間も修正され、若い肉体を取り戻す。
「よし……! ここは僕たちが引き受けた!」
「君は八人君を! 彼も勇者だ、君の声があれば必ず乗り越えられる!」
2人がミノンガン相手に時間を稼ぐ。三龍が観た最悪の未来を変えるためには、タイムファイヤーの、瀧磐八人の力が必要だ。過去に縛られる彼に向けて、三龍がかける言葉はただ一つ。
「……いっしょに明日に進むんでしょ? 戻ってきて……
───古い時計が刻む、何事も無い幸せな時間だった。
今日も、明日も、同じように。いつまでもずっと変わらない時間を。
ふと、じいちゃんが持っていた懐中時計が脳裏に浮かんだ。9時30分を刻んだまま動かない、銀の時計。店に響く針の音と同じで、当たり前にそこにあって気にしたこともないそれが、どうして今。
『過去が希望をくれる』
そうだった、あの時計は蓋が二重になっていて、そこには爺さんが遺した言葉が入っていた。俺はあの言葉に背中を押されて、過去を胸に刻んで戦地に赴いたんだ。今を守るために戦うと決めたんだ。
戦うのは怖い。当たり前だ。だから不安なままでいい、諦めるな。
「ありがとう爺さん。俺、行くよ」
過去が枷であるものか。
未来が暗闇であるものか。
「───お前がいる
立ち上がった小さな戦士はタイムレッドの剣を掴み、戦場の真ん中を駆け抜けていく。2人の戦士の奮闘が抉じ開けた隙を、タイムファイヤーの剣戟が貫いた。
それにより歪んでいた時間が完全に元の形を取り戻した。八人は手を握って開いてを繰り返し、自分の体が戻ったことを噛み締めると、三龍の方に向き直る。
「聞こえたよ、お前の声。情けねえけどさ……おかげで戻ってこられた」
「え、聞こえた……ってことは……!? その、や、や……っ!」
「あぁいや、何を言ってるかまではボンヤリしてて分かんなかったけど。とにかくこれでクライマックスだ。行こうぜ、
キメたつもりの台詞に、帰ってきたのは冷ややかな沈黙。夏場に飲むアイスコーヒーよりもずっと冷ややか。タイムレッドのマスクの奥の表情が透けて見えるようだった。郷羅と大慈もその有様に頭を抱える。
「は、なに!?」
「あーもういい。いいから。さっさと倒すよあのカニカマ怪人」
確かに色合いはカニカマ……とタイムファイヤーが顎に手を当てている間に、タイムレッドは視界の奥まで進んでいた。駄々を捏ねるように大地を叩いて揺らすミノンガンは、上体を起こして唐突に咆哮する。
「オデ……ミノンガン・モウズ! ひとくの! じくうを、えっと、ひつぎ……!? もくして……? ころすッ!! ぜつぼうッ、あたえ……ウゴォ!?」
どうやら名乗っているようだが、今のタイムレッドは気にしない。携えた両手の剣で八つ当たりのようにミノンガンの鎧を削っていく。なんで彼女が怒っているのかは分からないが、今後は気を付けようと八人は心から思った。
かといってこのまま考えなしに攻め続ければ、あの『王』が出てきてしまう。それを把握している戦巧者の郷羅と大慈に、余計な指示など必要ない。
「ゆくぞ大慈君!」
「コンビネーション技、名付けて……『ギンガの電光』!」
神秘と科学の光が重なり合い、『獣装の爪』と『デンジパンチ』が同時に炸裂する。それでもミノンガンの装甲を貫くには至らないが、元よりこの攻撃の目的は露払いに過ぎない。
「アクセルストップ!」
タイムレッドが発声したコマンドで、クロノスーツの速度の上限値が解放された。代わりに耐久値は大きく下がるが、敵が身軽さを犠牲にした重戦士であることは明白。圧倒的なスピードさえあればどんな重い攻撃だろうと喰らうことは無い。
「め、めが、ぐるぐる……!」
「……いい太刀筋だ」
アクセルストップでタイムレッドがミノンガンを翻弄する3秒間。二刀によって巧みに繰り出される神速の演舞、その美しさを郷羅は賞賛する。
目を回し、傷を負い、隙だらけのミノンガンに対し、黒い指輪の咆哮がテガソードから発声された。
《メガレンジャー!》
「邪電エネルギーアタック!」
タイムレッドが体を傾け、その影から飛来するのは厄災騎士『ネジレッド』の力。邪なる雷がミノンガンを痺れさせ、完全に動きを封じた。
電撃を放った銃を持ち直し、その戦士は歩みを進める。
「DVチェンジ! ファイナルモード!」
DVディフェンダーの刃が展開され、コマンドを受けたことで刃が蒼白のエネルギーに満たされる。剛躯の大罪人に下される判決は、この吹雪よりも死よりも遥かに冷酷な、絶対零度の一太刀。
「DVリフレイザァァァァッ!!」
3人が付けた傷に沿うように繰り出された斬撃は装甲を砕き、遂に肉体へと届いた。
「オデ……ミノンガン、つよいッ!」
ミノンガンは倒れない。だが、振り上げられた巨腕の陰の中で、勝利を確信したタイムファイヤーは刃を格納した銃をホルスターへと収めた。
往歳と数音文曰く『タイムレンジャー』は敵を殺さない稀有な戦隊だという。彼らの悪に対する対抗手段は処刑ではなく、細胞を圧縮冷凍することによる強制的な服役。
「
体内の時空の歪みも並行時間軸を開く能力も一切合切凍結されたミノンガンは、その秘匿を貫いたままフィギュア状に圧縮され、割れた凍土の隙間に落ちて消えたのだった。
◇◇◇
「あぁ懐かしき月面基地! ここから再び始めようじゃないか、我が新帝国の地球侵略を!」
歯車とパイプで構成された鋼鉄の世界。マシン帝国バラノイアの地球侵略作戦の拠点である月面基地、そこを統べる者となれば一体しかいない。
マシン帝国バラノイア第3代皇帝 カイザーブルドント。
超力戦隊オーレンジャーを打倒し一度は地球制圧を成し遂げた悪の首魁を前に、2人の戦士が膝をつく。
「まだ、やれるか……!?」
「当然……ですよ……!」
『ゲキレッド』外記十拳と『マジレッド』木杖悠介が、重く圧しかかる疲労と痛みに抗い、ブルドントに拳と杖を構えた。そんな様子をブルドントは高笑いで嘲り、鬼気を纏って攻め込むゲキレッドとマジレッドを悠々とあしらう。
攻撃が空振った感触の直後に無機質な風が戦士たちを撫ぜる。それはブルドントの剣であり、遅れて牙を剥く斬撃のダメージが再度2人を月の大地に叩きつけた。
「脆い! 脆いぞ、やはり人間は脆い! その程度でこのボクに……父上バッカスフンドの力を受け継いだ究極のマシン、カイザーブルドントに勝てるわけがないだろう!」
レベルが違う。ここまで散々痛めつけられ、分かったのはそれだけ。
ブルドントは特異な能力を使うわけじゃない。ただ『強い』のだ。どんな指輪の戦士よりも速く、堅く、膂力がある。
獣が兵器を持った人間には決して勝てないように、人間とマシンの間にあるのは弱肉強食よりも高くそびえる節理の壁。
十拳は血と同時に笑いを吐き出す。かつて望んだ『誰にも負けない力』や『強い誰かとの戦い』なんて、こうも別次元の強さが存在するのなら滑稽もいいところ。
「……井の中の蛙など、今さらという話だ。獣の意地を見せてやるよ」
「魔法使いの意地、もな……! かかって来いよブリキの王様!」
「愚かな。ならば望み通り、次でスクラップにしてやるさ!」
ブルドントの姿が稲妻を帯びた風となり迫る。
その瞬間、天災の軌道を逸らしたのはゲキレッドとマジレッド。この2人にそんな余力はあるはずが無いと自身の目を疑ったブルドントは、さらに信じ難い光景を目の当たりにした。
「どういうことだ!? 分身しているだと!?」
「聞いてないのか?」
「ゲキレッドは一人じゃねぇってな!」
「マジレッドも、です」
次元の狭間から遅れてやってきた援軍は、何の偶然か同じ姿の戦士。
『ゲキレッド』雀之理央と神風。『マジレッド』張井灰と……
「あぁ陸王様、レッドホーク様……揺らめく青と赤の恋情、私はなんて罪深き女……!」
離れた場所で自分の世界に浸っている浮戸ユウキもいた。
これでゲキレッドとマジレッドが3人ずつ。息も絶え絶えの悠介に、同じマジレッドである灰が手を差し出した。
「立てますか?」
「先輩の『
圧倒的な強者にも臆さず切り込むのは、バトルマニアのカンフーマスター『ゲキレッド』神風。ゲキトンファーを連結させ、得手の棒術に持ち込んでブルドントと打ち合っていた。
「クッソ硬ぇ、ゾワゾワが止まんねぇ……! やっぱたまんねぇぜ強ぇヤツと
「ダチ? 友達のことか!? 笑わせる、下等な人間が図に乗るな!」
個体としての実力差は歴然。しかし神風の一気呵成の攻勢に後退を強いられたブルドントは、視界の外のユウキにぶつかってしまう。
「いま推し活と恋の間で葛藤しているの! 邪魔しないで!」
「な、なんなんだ貴様!?」
月の重力まで再現されていないはずなのだが、年中思考回路が浮ついているのが彼女だ。逆鱗に触れられたユウキの逆上が結果的だが神風に加勢したことで、ブルドントに抗うに至っていた。
敵がいかに強大だろうと関係ない。敵に物差しを当てず、己の世界でのみ生きるのが彼らの異常性であり強み。今この戦場において、これほどまでに心強いものは無い。
「先生」
悠介に肩を貸す灰が、十拳をそう呼んだ。
それが自分のことだと気付くのに数秒を要した。
「指示をください。あいつに、勝つために」
「この中であんたが一番冷静で、頼りになるんだ。頼みますよ俺らの外記先生!」
灰と悠介が口を揃えて言う。
冷静で頼りになるなんて的外れも的外れ。十拳は指輪の力に溺れて父親の遺言を違えた弱者でしかない。どれだけの人から救いを受けようが、十拳が自分の過ちを許すことは一生無いだろう。
でも、そうか……と。十拳は深く頷いた。
十拳は仲間になった指輪の戦士を鍛える役割を担っていた。師範代から教わった武術を基礎に、暴走の日々で身についてしまった指輪の力の使い方を伝授する。正義も過ちも、十拳の全てを技術として伝授した。「誰かの為に強くなりたい」と願う強き者たちに、同じ道を辿って欲しくなかったから。
使命と仲間に救われているのは自分だと思っていた。
同じだったんだ。かつて師範代が生き方を与えてくれたように、十拳が今そこに立っている。ならば何が何でも、その責務を果たせ。
「……勝負は一撃で決める!」
ブルドントは明らかに慢心しており、自身のスペックを行使するだけで策を弄することもない。活路があるとすればそこ以外に無い。十拳はその一筋の可能性を言葉にして伝えた。
「了解です。俺が道を拓きます!」
十拳の指示を受けて飛び出した3人目のゲキレッド、雀野理央。斜風流武術はあらゆる戦闘術に通ずる独自の流派、それを極めた理央であれば如何なる相手だろうと後手を取ることは無い。
「しかし機械と戦うのは初めてだ」
「ハハハ、何人来ようと無意味だって分からないのか!?」
妙な感覚だった。矜持、悪意、油断、そういった意志は痛いほど感じるのに交わす拳に熱が無く、吐き連ねる傲慢に呼吸だけが欠陥している。未知の対戦相手を眼前に、課された使命やその重圧よりも、高揚が肌の上を走り抜けるのを感じた。
「アンタもやるじゃねぇか! 気に入ったぜ!」
理央に並び立つ神風。同じ姿をしたゲキレッドの入り乱れる連撃に、ブルドントの困惑が伝わってくる。鬱陶しいと粗雑に剣を振るうブルドントの前で、ゲキレッドたちは不意に体を逸らした。
「ジルマ・マジーロ! 私の恋路の邪魔をするなら、全員挽肉になりなさい!」
錬成の魔法で作り出された凶器がブルドントに浴びせられる。味方のことを全く考えていないこの攻撃は、もちろんユウキだ。バラノイアの基地の部品を引っぺがしては妙に殺意の高い拷問器具に変え、次々とブルドントに放り投げていた。
「貴様ッ……我らの前線基地をこんな不細工なものに変えおって!」
ブルドントが初めて明確に殺意を表し、剣先からビームをユウキへと放った。それを阻んだのは2本のマジスティック、悠介と灰が発動した赤いオーロラの防壁。
「ジンガ・マジュナ……! 敵を怒らせないでください、勝つためには協力しないと!」
「やめとこう灰。話通じそうな感じじゃないって」
「そうよ。私と話ができるのはリクオニストの同士と陸王様、そしてレッドホーク様だけよ」
「自覚してるなら直して欲しいんですけどね……!」
苦言を呈する悠介を気にせず、ユウキはブルドントへとマジスティックソードを向け、息も合わせず勝手に火球を放った。
「『
「あぁもう! 世話が焼ける!」
こうなってしまったらやるしかない。感情任せに突っ走る人の扱いは、悠介にとっては慣れたものだ。悠介は『灰化』の炎の前に立ち、そこに自身の魔法を重ね合わせる。
「マージ・ゴル・マジカ! アッシュブレイジングストーム!」
悠介の『灰化』に炎は吸収され、業火の竜巻が顕現する。融合した二つの『灰化』にその身を預けるのは、3人目のマジレッド──張井灰。
「マジ・マジ・マジカ!」
灰は自身の
でも、叱責を並べるだけの自分の声は、もう聞こえない。
「僕は……赤の魔法使いだ! レッドファイヤーアッシュフェニックス!」
共鳴する三乗の『灰化』、それが最強の敵さえも打ち倒し得る切り札。熱を受ける周囲の鋼鉄を灰に還しながら、聖炎の魔鳳は羽搏く。灰は先に見据えるブルドントへと加速し───
その追突は、虚空だけを焼き焦がした。
「なっ……!?」
「バカめ! そんな見え見えの必殺をボクが食らうと思ったのかい!」
マシンの誇りを持ちながらも勝利の為ならどんな卑劣も厭わない。ブルドントの狡猾さによって灰の渾身は避けられ、勝機は完全に潰えた。
「もらうぜその炎! 『
その瞬間、通り過ぎた灰の体から炎が剥がされ、集約する先は神風のバトン。指輪能力『点火』によって炎を奪った神風は、ブルドントの意識外から肉迫し、燃え盛るバトンをブルドントの背中へと突き刺した。
「なッ……!?」
「無敗改め“二敗の神風”! まだまだ一緒に燃えようぜ!」
「どこまでも……ッ! 愚かな人間が! これだけの炎、先に果てるのは貴様の方だ!」
『灰化』は対象を灰になるまで燃やし尽くす必殺の能力。大きすぎた炎は到底バトンになど収まらず、神風の全身へと燃え広がっていた。そうなれば燃え尽きるのが早いのは必然、人間である神風の方。
「確かに人間は愚かだ。俺も含めてな」
「でもお前は、人間の本当の強さを知らない」
突き刺さったバトンと炎で身動きを封じられたブルドントに、十拳と理央が拳を重ねる。
「『
「『
闘志を実現させる体を得る『修練』と、極めた技に特化する『武術覚醒』。名前が違おうと武の道が行き着く先は同じ。限界まで高めた激気は過激気へと───十拳と理央はスーパーゲキレッドに姿を変えた。
異なる二つの流派が一つとなった拳が、ブルドントの鋼鉄の肉体を突く。それでもなお、この巨悪は倒れない。
「人間の強さ……それは、愛と勇気だ」
十拳がその心を語る。拳の力が増し、ブルドントの体が軋む。
「そうだな! 俺は世界中のやつらと戦ってダチになりたい!」
「誰かと共に高め合い、真の武術No.1になりたい! 俺達は……敵だろうと愛を持つ!」
「過去に向き合い、乗り越える勇気!」
「情けなくて卑怯な自分を変える勇気が、僕をここまで連れてきた!」
「そう! 陸王様とレッドホーク様への、揺るぎない愛を胸に!」
「いや勇気担当の流れだろアンタは!」
3人のマジレッドがゲキレッドたちの背中を押し、魔法の力を注ぎこむ。『灰化』は敵を滅ぼす力であると同時に、灰になる程の熱を与える力でもある。指輪戦士たちに広がった炎は更に熱く、赤く。
「愛!? 勇気!? そんなものがあるから、人間は弱いのだ! 心など持たず永久に滅びぬマシンこそが宇宙を統べるに相応しい! 我々マシンこそが……完全なる存在なのだ!」
ブルドントの叫びは、誰もいない帝国基地へと響き渡るのみ。
背中が熱く、重い。仲間への愛と、思いに応える勇気を以て、鳳凰と虎は共に吼える。
「六位一体・アッシュタイガー撃!」
その拳が鋼鉄の肉体を、遂に砕いた。
「……マルチーワ……!」
最期に空へ向かって、名を呼ぶ。
ブルドントの体は灰燼に帰り、月面へと散っていった。
◇◇◇
「ハァ……っ、クソ!」
棄てられた街、というのが多分適切な表現だろう。若者風に言えばゲームのマップ、より直接言うのであれば戦争に巻き込まれた都市。その片隅で『ゴーオンレッド』木之実桜は、追い詰められたネズミの気分を体験していた。
コンテナの後ろに身を隠し、周囲の視線を探る。
この空間の主は『バーグ星人クローネン』という
「あーもう! なんで俺が悪党相手にコソコソしなきゃいけねぇんだ! こうなったら……!」
「独り言がデカいぜ、三流の素人が」
ヤケクソに飛び出そうとした瞬間、コンテナの上に立つ緑色の筋肉質な男の姿。クローネンだ。高所を取られた状態で、ゴーオンレッドに鋼鉄も貫く弾の乱射が火を吹く。
「またかよっ……学習しねぇな俺!」
ゴーオンレッドの走力でなんとか銃弾を避け、遮蔽物で身を隠してからマンタンガンを向け返して反撃に転じる。が、そこにクローネンの姿はもう無い。それどころか、全く予期していない方向からの射撃がゴーオンレッドを襲った。
生身だったら勿論即死。変身している状態でも重症は十分にあり得る威力。そう何発も受けられない状態で戦況はまな板の上の鯉も同然。恐怖はまだしも、この閉塞感が桜を確実に蝕んでいく。
「バン」
「うわああああああッ!!?? って……心奇さんじゃないッスか!」
「よっ、木之実。いいリアクションだな。関西人だっけ?」
桜の背後を取っていたのは、『メガレッド』銀河心奇。
桜はシャレにならない冗談に腹を立てるよりも、背後の心奇にも気付かないほど狭窄している自身の視野に愕然とした。
「肩の力抜きな。戦場で緊張感がないのは論外だが、手元が見えなくなるようじゃ世話無いってもんだ。嗜む程度の覚悟じゃ火傷するぜ」
「でも厄介な相手なのは確かだよ。敵は映らなかったけど超電子レーダーによれば、これでここにいる指輪戦士は全員。みんなでこの状況を打開しよう!」
「ブラッドさんに鮫山くん、来てたのか……全然気付かなかった」
『ボウケンレッド』ブラッド・アームストロングと『レッドワン』鮫山機龍の宇宙コンビも合流し、これで4人。どうやら彼らも桜同様、クローネンに劣勢を強いられていたようだ。
「てことは片手間で4人を相手してたってことかよアイツ……」
「ありゃプロだな。シュレックとプレデターの相の子みたいなナリして腕前は本物以上だ。しかし宇宙人にも傭兵がいるとはな」
米国の空軍に所属するブラッドが言うのだ、説得力は桁違い。
ブラッドがクローネンから感じたのは余りにも淡々とした殺意、そして何かに対する信仰だった。神を信じながら金のために人を殺す、それは地球のどこの戦場にもある普遍的な歪み。
国境や海なんかで人間の本質が変わらないように、星も宙が隔てているに過ぎないということだ。宇宙にも神などいない。見限った通りの現実があっただけなのに、失望している自分がいたのをブラッドは感じていた。
一方で「シュレック?」「プレデター?」と首を捻る機龍と桜、日本の若者2人。ひとまずブラッドは話題を戻すことにした。
「地の利を握られているのが苦しすぎるな。俺の『
「いや、どんな状況にも後出しで対応できる『
「ラッドの能力は同時に展開できないもんね。あっちも銃弾を使い分けてるし、銀河先輩風に言うなら手札が透けてないわけで」
桜だけが話についていけない。クローネンの銃弾が複数種あることにもまるで気付かなかった。
「この状況は機転だけで切り抜けろってわけだな。俺が指揮を執る、ついてこれるか小僧共?」
「二度目ですよ、それを言われるのは。こっちにも無茶な先生がいるんでね」
「俺だって……しがみついてやるぜ! どんな暴走運転でもな!」
留まっていた指輪戦士たちが再度行動を始めた。領域内のネズミは4匹、固まってくれただけ仕事が楽になると思っていたクローネンは、明らかに変わった彼らの動きに眉をひそめる。
途端に呼吸が読めなくなった。4つの気配が1つの生き物のように統合され、警戒心や慎重さは何倍も強まりながら歩幅は確実に大きくなっている。それでいてその一歩一歩に、明確な意図がある。
「戦場を知ってる奴が混じってたか。それなら俺も、やり方を変えるだけだ」
クローネンはライフル化した右手から弾倉を引き抜き、別の弾倉に入れ替えた。
すると戦局は一変する。クローネンは姿を見せての強襲をやめ、代わりに彼らを襲ったのは捻じ曲がる軌道の弾丸。
「……っ、なんだこれ!?」
「寸前で避けるか弾くんだ! 跳弾なんてレベルじゃねえ、どんな魔法だ……!?」
ブラッドが指示を出すが、遮蔽物を隙間を抜けて死角から飛来する銃弾の回避は困難を極める。
敵に居場所を悟られないようブラッドは隊を動かしてきたはずだ。あの軌道からして、弾丸そのものに意志があるとしか思えない。だとすれば隠れて撃たれ続けるだけで、ブラッド達に打つ手は無い。
動揺で陣形が崩れたところに、壁を貫通する溶解弾が襲い掛かる。
確実に追い詰められている。その感覚が冷や汗となって背筋を伝う。
「これはもう戦争じゃなくて、質の低いFPSゲームです。次は俺に任せてください」
「僕にも時間をちょうだい。気になることがあるんだ」
メガレッドがメガスナイパーを構え、駆け出した。一方でレッドワンは壁に突き刺さった銃弾を観察する。各々が自身の役割へと向かう中、ゴーオンレッドは無力感に苛まれていた。
クローネンに言われた「三流の素人」という言葉。
総理大臣に探偵、軍人、プログラマー、科学者。何らかの専門性を持つ者が多い指輪戦士達の中で、桜が武器を持っていないのは自覚していた。この中で最も足を引っ張っているのは、桜だ。
「……参ったな」
ゴーオンレッドの声が戦場に染み入るように響く。
同刻、メガレッドは単身でクローネンに攻め入っていた。これまでの攻防でデータは十分に集まっている。
指輪能力『
「サイバースライダー!」
サーフボードで空に乗り、クローネンまでの距離を強引に突破。咄嗟に弾除けの盾にしたサイバースライダーは煙を吐いて爆散するが、その勢いに乗じてメガレッドはクローネンへの肉迫に成功した。
「やるじゃねぇか、アマチュアの割には」
「ウルト吐いて戦果ゼロは戦犯だろ」
「だが、まさかこれで勝ったと思っちゃいねえよな?」
ドリルセイバーで斬りかかるメガレッドだが、熟練の兵士には近接戦でも隙が無い。至近距離からの容赦ない連射、硬化した右手での打撃、呼吸の隙さえ与えてくれない。メガレッドが格闘で互角に立ち回るにはデータが足りていない。
そこに隠れて待機していたボウケンレッドが、ボウケンジャベリンを携え強襲。しかしその完璧な不意打ちも、クローネンは一瞥もしない銃撃で阻んでみせた。
「ッ……おいおい背中に目でも付いてんのか!?」
「なるほど、お前が指揮官か。殺すにゃ惜しい腕だな」
2対1でもまるで有利に傾かない。完全に2人の動きが見切られている。
何より、不規則なタイミングで挟まれる死角からの射撃だ。『探求』でも説明がつかない強さが、不気味にクローネンを覆っているようだった。
そんな中、レッドワンは参戦せずに戦跡の分析を続けていた。
意志を持つように動く弾丸、この材料の正体は機龍の記憶の中にあった。
「これはバイオ星の宇宙船にも使われる超特殊形状記憶合金だ。生物じゃない。この合金はどんなに複雑で多段階な形状でも記憶して、事前に設定した時間で変形する」
弾丸に変形をプログラムすれば、発砲後に形状が変わることで揚力や空気抵抗が変化し、あり得ない軌道で曲がる。気が遠くなるような技術だが、肝心なのは撃ってから形状のプログラムをすることは不可能だという事実。
つまりクローネンは、撃つ前にこちらの居場所を把握していた。今のメガレッドとボウケンレッドの状況にもこの仮説は合致する。
「超電子レーダー! そんで……」
敵にはステルス改造が成されているのか、レッドワンのレーダーには味方しか映らない。だが機龍の目的は索敵ではなく、電波に乗せて自身の指輪能力を届けることだ。仲間や自身を巻き込まないよう、対象の質量や体積を絞り込み、その名を発する。
「『
その瞬間、空中で何も無い場所が炎上した。燃えて墜落した極小のステルスドローンの中から這い出てきたのは、大きさといい色合いといい豆粒のようだが人型の生命体。
「熱い熱い! な、なんでバレたんだ~!?」
「やっぱり敵は2人いた! それも予想通りゲルマー星人!」
隠れていたのは2人目のアリエナイザー、ゲルマー星人バイズ・ゴア。
この入り組んだ空間の中で、誰かが監視しながらクローネンに通信しているとすれば、自ずと小さい潜伏兵に限られた。平均身長5.8cmでゲームじみた趣向が好みなゲルマー星人なら、この条件にピタリと一致する。
「君がアイツの第3の目になり、密告と援護射撃をしていたんだ! さぁ今だよ!」
レッドワンが誰かに合図するが、目を一つ失ったクローネンにそれを気にする余裕は無い。ここぞとばかりに攻勢を強めるメガレッドとボウケンレッドに、それでも互角以上の応戦を続けるクローネンだったが、
「───ぶっ飛べええええええええっ!!」
障害物も意に介さない。クラクションも無ければ容赦も無い。銃弾を何発受けようが気にしない。爆走するトラックがクローネンに激突し、大爆発。転がり出たその乗り手は、ゴーオンレッド。
指輪能力『
「木之実マジかお前……」
「ハハハハハッ!! 『ワイルド・スピード』もビックリのカーアクションだ! 最高にクレイジーだぜ、あんた!」
「指輪が無い俺は免許も取れない。じゃあ俺には何があるんだって思った時に、浮かんだものはたった2つだった」
それは、ほんの一握りのちっぽけな正義と、
大切な友達と、元の次元に置いてきた恋人──橘結衣。
「十分すぎだぜ。それだけあれば、俺のガソリンは満タンだ!」
まっすぐ進むことしか出来ないなら、それを貫き通すまで。
だが、燃える鉄屑と化したトラックを崩しながら、クローネンは復帰する。
「上裸の変態マッチョの癖にえらいタフだな」
「上裸の変態マッチョだからじゃないですか?」
「黙れ。おい何寝てやがる、役に立たねぇならお前から撃ち殺すぞ」
「ヒィっ!? これだから脳筋は嫌いなんだよね!」
ブラッドと心奇の軽口をあしらい、クローネンは冷徹に銃口をバイズ・ゴアに向けた。次の瞬間に街が揺れ、ビルを壊しながら生えるように現れたのは戦闘用巨大人型兵器『怪重機キャノングラディエーター2』。
バイズ・ゴアは予備のドローンで愛用の機体に乗り込むと、遥か高所から戦士達を踏み潰さんと迫る。
「『
ブラッドの即断が戦士達を救った。指輪能力『装備』は冒険に必要なものを生成する能力であり、それによって呼び出された巨大重機『ゴーゴーダンプ』が、キャノングラディエーター2の足を止めたのだ。
「乗りな
「光栄だな! さぁ俺と行こうぜゴーゴーダンプ! 『
その時、ゴーオンレッドとゴーゴーダンプの魂が共鳴したのを誰もが感じた。正確には2つの指輪能力が互いに作用しあうことで、指輪に秘められた『ゴーオンジャー』と『ボウケンジャー』の意志が覚醒し、手を結んだのだ。
彼らが乗ったゴーゴーダンプの車体が立ち上がり、アーム部分が脚の形を成す。搭乗部は変形して胴体へ。そして不足している腕と胸部とメットは、指輪から呼び起こされた『炎神スピードル』のパーツが補完した。
「なんだこれ!? こんなの数音文さんや走輔先輩が教えてくれたのには無かったぞ!?」
「はっ、いいじゃねえか。これも“ちょっとした冒険”ってやつだ、そうだろ?」
2つの指輪の記憶と2人の戦士の願いが一つになるとき、
万里の冒険を制する赤き炎神の王が誕生する!
「「ボウケンエンジンオー!」」
キャノングラディエーター2の両手には盾と剣。一方でボウケンエンジンオーはゴーオンソードと轟轟剣の二刀流。長期戦に興じるつもりなど、2人には無かった。
盾と一体化した機関銃から放たれる弾幕を、速度と馬力で突破する。
すれ違いざまの一撃が盾を一刀両断。振り向く勢いで放った斬撃が敵の剣を砕いた。
「ちょっと強すぎるなぁ……じゃあボクはここで退散しようかな!」
「逃がすかよ!」
再現された存在ではあるものの、奇跡の合体であるボウケンエンジンオーの実力はまさに前人未到の未知数。そそくさと逃げようとするバイズ・ゴアだが、瞬く間に先回りされ、頭上を取られてしまう。
「
「貰ったぜ、最終コーナー!」
その空間には太陽は無い。だが、それでも遥か彼方の恒星を思わせるように、ボウケンエンジンオーの剣が描いた円は光輝いて見えた。振り下ろされる二本の剣は、海も、空も、谷も、次元さえも超えて、轟音と共に悪を斬り裂く。
「ゴーオンアドベンチャーグランプリ!」
「チェッカー、フラッグ!」
地上で戦闘を続けるメガレッドとレッドワン。対するクローネンの思考は、冷静と焦燥の狭間にあった。
「面倒なことになったな」
自分と敵の実力を鑑みた時、最も厄介なのはボウケンレッドだ。一対一でも小細工無しの近接なら五分、四対一なら敗色濃厚だろう。ならば今やるべきは彼が戻って来る前に、速やかに目の前の2人を始末すること。
(みたいなこと考えてるんだろうなぁ……)
心奇はクローネンと同じ戦況を見積もっていた。2人の勝ち筋は、百戦錬磨の兵の想定を超えること、ただ一つ。
「行きましょう、銀河先輩……メガレッド!」
「やってやろうぜ鮫山。レッドワン!」
心奇にとって機龍は、見知らぬ後輩だった。
並行世界で母校の慧海学園に通う1年生。心奇とは在籍期間が被っていないため、もしかしたら自分の世界にも彼はいたのかもしれない。
晩堂校長に指輪を託し、指輪争奪戦から退いたところまで同じ。
違うのは覚悟の強さ。彼は洗脳改造を施された父親を救うため、たった一人で異星に行き研究を続けているという。推し量ることさえ恐れ多いスケールの願いだった。
「バトルライザー! ライザーパンチ!」
メガレッドは右腕のバトルライザーの「01」のボタンを押し、クローネンへと拳を打ち付けた。その改造された肉体が吹く火花の中でメガレッドはクローネンに主張を続ける。俺を見ろ。お前の敵は俺だ。
力になれるなんて思っちゃいない。それならせめて、並び立てるくらいの歩幅で進み続けろ。誇れる背中を見せられるように。それが、先輩として果たすべき責任だ。
「粋がってんじゃねえぞ、ガキ共が!」
「させない! バイオソード!」
クローネンが構えた指先の銃口をレッドワンの剣が弾く。
機龍にとって心奇は、尊敬できる先輩だった。
もちろん彼のことはよく知らない。だが、父親の不動と同じメガレンジャーの指輪を持ち、大学に通いながらゲーム作りに取り組む慧海学園の先輩と聞けば、尊敬するなと言う方が無理というものだ。
コンピューターゲームは現代で最も人類に愛されている科学と言ってもいい。人を楽しませるという目的のために最先端の技術と人類の創造力を駆使する心奇は、まさに父の信念を体現していた。「科学は人を幸せにするためにある」という、父が失ってしまった信念を。
「『
超高温を纏った太刀筋はクローネンの弾丸を焼却する。
レッドワンが弾を全て捌ききり、弾倉の再装填を強いられガラ空きになったクローネンの体を、メガレッドの拳が穿った。
メガレッドと並び立てる喜びが機龍の心を奮い立たせる。
いつか必ず自分の手で、この景色を実現してみせる。その希望が彼に無限のエネルギーを与えていた。
「……ッ、冗談じゃねぇ。この俺が素人なんぞに……!」
「関係ないさ。こっちは等身大で命かけてんだ」
「さぁ、決めましょう!」
ドリルセイバーとメガスナイパーを合体させ、強化ユニットのダブルトップを装着した『ドリルスナイパーカスタム』は、バトルライザーの「03」モードによって出力が15倍に上昇。
さらに並び立つレッドワンが構える銃型のバイオソードの威力を加える。最後に、メガレッドとバイオレッドの電子頭脳が交信することで最適なチューニングが成された。
「バイオエレクトロビーム!」
「ドリルスナイパーカスタムフルパワー!」
まさにゲームじみた加算と乗算の連続。体を砕かれ弾も尽きたクローネンは、この理論値最大のコンボを上回る数字を持ち得ない。
「教祖……フメインの為に……!」
確定した敗北を前に、クローネンは祈りを捧げる。
だが、科学の世界に悪神は不在。その忠誠はどこにも向かうことは無く、クローネンは消し炭となって消滅した。
◇◇◇
「あぁ……が……ッ!」
地を舐め、呻くことしかできない。戦士たちはただ絶望を噛み締める。
他の領域でも指輪戦士たちはそれぞれ窮地に陥っていたが、この戦局に限って言えば、格が違うと言わざるを得ない。
『未来予知』が微かに察知した危険度に従い、最も多くのユニバース戦士がこの空間に集った。そのうえで今、全滅は秒読みの状況。彼らの前に佇むのは、赤いライダースジャケットを着こんだ傷だらけの機械生命体。
「呆気ねえなァ。仕方ねぇか、デケぇ族同士の抗争ほど終わる時は静かなもんさ。もっともこう期待外れじゃあ、冷えっ冷えだぜ、俺様のエンジンもよぉ」
『大宇宙侵略大走力団ハシリヤン』斬込隊長、マッドレックス
───だけではない。
『宇宙幕府ジャークマター』用心棒、イカーゲン
『ロンダーズファミリー』No.2、ギエン
『臨獣拳アクガタ』陸の拳魔マク
『改造実験帝国メス』3幹部、レー・ガルス
『戦闘民族ドルイドン』ルーク級幹部、ガチレウス
『外道衆』筋殻アクマロ
彼らの目の前には両手両足を使っても足りない数の巨悪が群立していた。
無論、指輪戦士たちは奮闘した。各々が限界の壁を破り、全霊の覚悟を以て戦い、少なくない数の刺客を打ち倒したのだ。
「……相変わらず現世は最悪だ。喧しく、煩わしく、
人間の姿をした死神が囁くと、倒したはずの兵隊が、強敵が、死の世界から再び呼び戻された。不死身の軍隊を率いるのは、『宇蟲五道化』静謐のグローディ・ロイコディウム。
世界に仇を成し、スーパー戦隊たちを苦しめてきた悪の華々。ズカモトキセが自身の知識からそうしたように、彼らをこの世界に呼び出したのはたった1体の怪人だった。
「悪者しかいない世界、そこから更に4年分、
顔を形成する罪の黒き十字架、その中に収まりきらない悪の首領の意匠は、全身でそれぞれが異彩を放つ。さらに頭上には不自然な光輪が浮かんでおり、それは王冠のようでありながら帽子のつばのようなパーツが備わっている。光輪の中心に浮かぶのはカプセルに入った幼虫。正面には宝石代わりに、簡略化された落書きの顔が不気味な愛嬌を醸していた。
悪者蔓延る並行世界を取り込んだ機械兵、『超スーパー悪者ワルド』。
ワルドは存在するだけで世界を塗り替える力を持つ。彼は50年分の悪の歴史そのものだ。
「はぁ………っ、クソッ………! まだだ……」
「まだ立てる奴がいたのか。無駄だワルモノ! ここから貴様たちが勝てる確率はゼーバ、いや0パーセント! アクドスギルな悪者に平伏せワルモノぉ~!」
倒れるユニバース戦士の中で、唯一立ち上がれたのは『ゴーカイレッド』山崎拓人だった。
拓人が結成した『戦隊』の4人の仲間たち、田中恵、本多アンヌ、香山ラム、伊福部麗奈。共にこの空間に飛び込んだ彼女たちは、既に変身が解けて意識も無く戦闘不能の状態。拓人が動けるのも、敵の猛攻撃から彼女たちが庇ってくれたからに過ぎない。
「本当なら、俺が彼女たちを守らなきゃいけなかった……! 情けなくて吐きそうだよ、俺は……もう負ける訳にはいかないんだ!」
たった一人の拓人に対して、敵は一人一人が自分よりも遥かに強い不死身の軍団。勝ち目は無い。それが自明だとしても、託された思いを果たすため、倒れた仲間たちを守るため、彼女たちを傷つけられた怒りのため、ここから一歩も引き下がることはできない。
混雑する悪意の中にゴーカイレッドはただ一人飛び込んでいく。
大波に投げ込まれた小石のように、弾かれるのが目に見えた特攻。しかし、後方から追随し並走する影が、ゴーカイレッドと共に波を掻き分けた。
「……貴方は!」
「
「そんなまさか。心強いですよ、誰よりも!」
『キョウリュウレッド』荒池ユウダイは、含み笑いの憎まれ口を叩きながらも、ゴーカイレッドに並んで駆け上がっていく。まるで痛みなど忘れたかのように。
ユウダイは指輪能力『
《ファーイナルウェーイブ!》
《ザンダー!サンダー!》
「天怒りて、悪を斬る!」
ゴーカイレッドのゴーカイサーベルと、キョウリュウレッドの直列獣電剣『ザンダーサンダー』が敵兵を薙ぎ倒していく。だが、雷鳴の剣豪を憑依させたユウダイの攻撃を、味方を押しのけて前列に出た亡霊が迎え撃った。
「あぁ懐かしい台詞だ。こんなにも怨みが止まらねぇのに、面と言葉が一致しねぇのが気持ち悪いな。頭が痛ぇ……」
燃え上がる呪詛の炎が人型になったような怨念の化身。キョウリュウジャーと敵対した『デーボス軍』が一人、怨みの戦騎エンドルフ。
「まぁ一挙両得か。俺を追い詰めた奴と俺を殺した奴。2人分の怨み、一気に晴らさせてもらうぜ」
自身の怨みの感情で力を増幅させたエンドルフは、他の怪人とは一線を画する強さだった。抜刀した剣は炎を固形化させたようなエネルギーを放ち続け、執拗にキョウリュウレッドを狙って振るわれる。
斬られた傍から焼けるような痛みが広がり、『英魂』が散っていく。矢継ぎ早に能力を再発動するが間に合わない。「このままでは、」その思考の続きが紡がれる寸前、赤い突風がエンドルフを退けた。
《ガッチャ》
「ディフェンストームカード、天装!」
《イクスパンド・スカイックパワー》
「風……こんなもんで消せると思うか? 怨みの火は、どこまでも絡みつく……」
「例え死んだとしても怨みは消えない。僕にできるのは怨みの火から守ることだ、今を生きる命を……!」
風に乗って翼を広げるのは、『ゴセイレッド』天羽護。
指輪能力『
「怨みの火、ね。それなら私の仕事でしょ!?」
羽に気を取られたエンドルフ、彼女はその隙を突いた。
エンドルフに纏わるエネルギー、放つ炎を全て、指輪が剥がして吸い取る。
「俺の怨みを……吸収しているのか……!?」
「知らないの!? 火には消防士、本当は私メイドだけど!」
『ゴーレッド』九十九メグミが、『吸収』の指輪能力でエンドルフの力を奪い取っていく。しかし、吸い取る程にメグミを襲うのは、激しい忌避感と蝕むような病熱。それを噛み砕き、メグミは能力を強めた。
「どういうこと……!? 皆、もう戦える力なんて……」
「うちが治したんどす。近くにいたあの子たちしか治せへんかったけど……死んだフリ作戦は大成功やね……!」
『レッドファルコン』若宮美月がゴーカイレッドの困惑に答えた。
その指輪能力『
立ち上がった彼らは皆、震える足を前へ前へと動かし、微かに戻っただけの体力を頼りに拓人に追いついたのだ。
「……ありがとう、ございます……!」
一言だけを絞り出し、残りの全てを込めてゴーカイレッドは剣を握った。
ゴセイレッドの羽が防御を削り、吸収したエネルギーを反転させたゴーレッドのブイランサーがエンドルフの体勢を大きく崩した。
「ふぁるこんぶれいく!」
「ガブティラ岩烈パンチ!」
レッドファルコンとキョウリュウレッドの連携攻撃。その痛みが怨みに転化されるよりも速く、決死の姿勢で飛び込んだゴーカイレッドのサーベルがエンドルフの胸部の鏡を貫いた。
「ッ……頭が痛ぇ……!」
エンドルフは倒れた。奇跡の勝利を掴んだ手から目を放し、顔を上げる。そこにあるのは無数に健在する悪。ここが行き止まりだ。能力を酷使した拓人以外の4人は、今度こそ一滴の力すら果てた。
「バカめ! 何度立ち上がっても無駄だワルモノ! 何故なら俺たちは本物の悪者! 本物の戦隊ですらない貴様たち偽物が、勝てるわけ無いのだワルモノ!」
倒したエンドルフですらも、グローディの能力で意志を失い蘇る。
指輪を手に入れて、願いのために戦って、最高の出会いに恵まれた。何もかもが美しいこの世界で、こんな結末を迎えてしまう自分の無力さだけが憎い。
高笑いを響かせる超スーパー悪者ワルドが視界の奥に掠れていくように、
拓人の体からは戦う意思が───
「立つんだ、山崎くん!」
「キミたちの奮闘は無駄なんかじゃない。よく戦ってくれた」
倒れる寸前、聞き慣れた声が拓人の体を支えた。
背中が見える。ずっと見続けた大きな背中、それを追いかけ続けたもう一つの背中。黒いマント翻す快盗と、純白の正義纏う警察の姿。
「『
指輪能力『解除』が死神の傀儡の糸を断ち切る。グローディの能力から解放された死体たちが次々と倒れ、その数を大きく減らした。
「校長先生! 生徒会長! どうして……!?」
「すまない、遅くなってしまった」
「遠野さんとの再戦に備えて、晩堂先生が修行の旅に行きたいなんて言うから!」
「なっ……お前だってついてきたじゃないか晴渡!」
拓人の学校、慧海学園の名物師弟。
『ルパンレッド』晩堂深也と『パトレン1号』晴渡一輝。彼らは突入前には計画に参加しておらず、肩を落としたの拓人は覚えていた。
いや、彼らだけじゃない。空に開いたゲートから次々に援軍が最前線を踏む。
「無事ですか美月さん!?」
「馬鹿野郎どう見ても無事じゃないだろ!」
「とりあえず心配だろうが! 川島は違うのかよ!」
「俺も心配に決まってるだろう!? おのれ許せんぞ、この連中!」
「っ……! ほんま、お人よしな方たちどすなぁ……」
「何言ってるんですか、友達の危機には必ず駆け付けます!」
「それが『百夜陸王被害者の会』、ただ一つの鉄則だからな!」
美月に駆け寄るのは、『ジュウオウイーグル』岩下と『バルイーグル』川島。
「また会ったね、救急士のお嬢さん。今回も決闘とはいかなさそうかな」
「あなたは……そうね、お生憎。指輪持ちって意外と他人想いな人が多いのね」
「誰かに影響されたりしてね。そこで寝てなよ、チキンが揚がるより速く終わらせてあげるからさ」
『レッドバスター』鳥飼翔が、倒れるメグミの前に立って揚々と言い放つ。
「人助けなどくだらない。ですが、打倒クオンとゴジュウジャーのため開発した新型AIの性能テストをしたかったところでね」
「ガラじゃねぇって言ったんだが、まんまと口説かれちまった。リハビリと行くか。久光と吠に情けない戦いは見せられないからな」
『バトルジャパン』設名新、『デカレッド』巌紅葉。
たった一人でゴジュウジャーを追い詰めたという設名と、あのガリュードを圧倒したと実力は指輪戦士たちの中では有名だ。
「やれやれ……見せてあげますよ、検事No.1の正義の剣を」
「世界の危機を見過ごすわけにはいかないね。このサングラスに懸けて!」
その場の全員が「……誰?」という気まずい沈黙の中で、2人は誇らしげに胸を張る。彼らは『リュウソウレッド』桜庭と『オーレッド』岩野だ。
計画に姿を見せなかったユニバース戦士たちが今になって揃い踏む。
何が起こっているのかは分からない。ただ、目の前に希望が無際限に広がっていく。
「熊手さんが世界の歪みから位置を特定できなかった戦士たち、並行世界に関与しなかった彼らを探す。それが俺たちに課された極秘任務。間に合ってよかった!」
「相変わらず私の負担が大きすぎでしょ。頼られるのは嫌いじゃないけど」
「スーパー悪者ワルドが深月さんの『未来予知』でチラ見えした時、保険で動いて正解でした! 復活怪人軍団にはこちらもオールスターで対抗です!」
『アカニンジャー』向ヶ丘晴照。
『ゼンカイザー』一色せつな。
『ファイブレッド』星育数音文。
『学習』による数音文の知識と、『風水』の探知能力、『転移』の移動を駆使して、彼らは最大以上の戦力をかき集めたのだ。そして最後に現れた彼が、ゴーカイレッドに肩を貸す。
「スーパー悪者ワルドはゼンカイジャー劇場版に登場した敵。センタイギアで呼び出した45人のレッドとゼンカイジャーの活躍でようやく倒せた強敵です。正面から戦っても勝機は無い」
「君は……!?」
「三海鍵五。君と同じ、ゴーカイレッドのユニバース戦士。こことは全く違う異世界から助けに来ました」
戦隊が番組として放送されている異世界、その世界線は遠すぎてユニバースノーワンの力も及ばなかった。だが、突入前に鍵五のゴーカイジャーリングの力を浴びた今の『転移』なら、そこにも干渉できる。
だから、せつな達は呼びに赴いていたのだ。最後の役者である鍵五の力を借りるため、彼の世界まで。
「皆さんは危険な賭けに出てまで俺を呼びに来た。勝算があるってことです!」
「これが正真正銘最後のチャンスってことか……恵まれてるな、本当に恵まれすぎてる。次こそ決めてやる! 俺達の勝利を、この手で掴む!」
「「派手に行くぜ!!」」
2人のゴーカイレッドが悪の根源へと駆け出した。
刹那、彼らの命を刈り取らんと放たれたグローディの斬撃を、パトレン1号の『
「俺の可愛い死体を……お前、俺の能力を消せるのか。お前は俺を殺せるのか……? はははっ、生き返ってみるもんだな。いや、まだ死んでるんだったか」
「どうかな、命を盗むのは趣味じゃないが……試してみるか?」
「とにかく彼らに手出しはさせない! 学園ポリスとして、お前を止める!」
「五月蠅い……暑苦しい奴だな……お前みたいなのが一番嫌いだ……! お前みたいなのに命があって、なんで俺には無い? お前らを死体にすれば、何か分かるのか?」
かつて死を求めていた死神は命を欲し、冷たい陽炎となって揺らめき鎌を持ち上げる。
「病を慕い、腐れに焦がれ、死を愛す……屍の友を携えて、生無き世界へ千鳥足。『静謐』のグローディ・ロイコディウム……!」
「ルパンレッド、晩堂深也」
「パトレン1号、晴渡一輝!」
グローディの横を通り抜け、ゴーカイレッドは走った。襲い来る刺客は仲間たちが引き受ける。この夥しい数の敵を抜け、彼らが目指すゴールはただ一つ。
「なに馬鹿正直に走ろうとしてるのよ。あるわよ、近道!」
「オイオイ、命懸けのレースにショートカットは無粋だろうがァ!」
『転移』で彼らを運ぼうとしたゼンカイザーに、マッドレックスが攻め込む。特に厄介なのを戦士たちが抑え込んでいるとは言え、依然として戦力差は歴然だった。
「……仕方ないね。ちょっと予定より早いけど、出番よ!」
不測の事態に備えて温存していた予備戦力。『転移』のゲートを通って現れた彼は、生身のままマッドレックスの『怒りのデスロッド』をテガソードで弾いた。
「指輪を持つ者同士はライバル……でも、違った。平和を想う心は同じだ!」
彼の顔を見たマッドレックスは、思わず動きを止める。
「お前はッ……!?」
「ここは俺が引き受けます。エンゲージ!」
青年は指輪を装填し、その手を鳴らした。テガソードから散る光の中で結晶に封じられた彼を
「堤さん……!」
《キングオージャー!》
『クワガタオージャー』堤なつめ。
遠野吠を指輪争奪戦に導き、遠野吠に『レッド』を託して退いた、全ての運命の起点にいたユニバース戦士。
ゲートの中に消えていくゴーカイレッドたちを見逃し、クワガタオージャーと対峙するマッドレックスは突然笑い声を上げた。
「……なんだ?」
「悪ぃな人違いだ。だが似てやがるぜ。顔じゃねぇ、テメェのハンドルはテメェで握る……その強ぇ心がメラッメラ燃える目が、だ。最高じゃねぇか……俺と一緒に走ろうぜ、地獄の果てまでフルスロットルでなァァァァッ!!」
「悪いが地獄は一人で行ってくれ。俺にはまだ、叶えたい夢があるんでね」
なつめの返答に再び満たされた笑いを上げると、マッドレックスは闘志を全開にして構える。熱気の激流に逆らうように足を進め、クワガタオージャーもテガソードの刃を向けた。
「騒音はお手の物、暴走は俺の物。ハシリヤン斬込隊長、マァァァァッドレックス!」
「曲の届け屋、クワガタオージャー! 堤なつめ!」
『転移』のゲートを通り抜け、超スーパー悪者ワルドの眼前に降り立つユニバース戦士たち。
「───来る!」
『風水』で晴照が気配を捉えた。それは重く鈍い、星の大きさすら錯覚してしまうほどの『金』の色。鍵五と数音文は知っていた。そこにいたのは単騎で絶望に値する最後の番人。
「宇宙最強の男……ダマラス……!?」
「終わりだ海賊の紛い物ども。貴様らの命運は、私が断ち切る……!」
『宇宙帝国ザンギャック』参謀長、ダマラス。
怯む余裕も、逡巡している時間も無い。そう即決しダマラスに向かっていったのは、ゼンカイザーだった。
「私が連れていけるのはここまで。こいつは私が止める!」
「舐めるな小娘。貴様程度、時間稼ぎにもならん」
「あ、ごめんなさい。言い間違えちゃった」
全員がダマラスの間合いの内側。剣の一薙ぎで全滅する、その予感を突如として舞い散った花弁が攪乱し、銃弾が抜刀の姿勢を崩した。向けられた銃は何故か地球人の女を模しており、それがダマラスを困惑させる。
『転移』のゲートから現れたのは、2人の援軍。一色せつなのとっておき。
「ようやくボクらの出番ってワケだね! ゴメンね仕事ですぐいけなくて、ここからボクの『モエモエズキューーン』が火を吹くヨ!」
「今から大活躍すればいいんデショ? 音より速いニンジャのゴボウヌキ、お見せしマス!」
「というわけで『私たち』がお相手するよ。一人ぼっちの宇宙最強さん♪」
『アキバレッド』ノーマン・レッドウッドと、『火忍キャプター7』マリア・ミッキー・マーチン。戦隊の歴史に存在しない『バンガイリング』で変身した2人は、せつなにとっては最高のチームメイト。宇宙最強だろうが怯む理由は無い。
これで行く手を阻む者は誰もいなくなった。あとは仲間たちが時間を稼いでいる間に、超スーパー悪者ワルドを倒す。その僅かな光を手繰り寄せるだけだ。
「偽物どもが調子に乗るなワルモノ! 俺が手下を操るだけのみみっちい悪者だと思ったか! お前ら如き、この俺が直々に叩き潰してやるぞワルモノ! ソガニックビーム!」
超スーパー悪者ワルドの両腕から放たれたのは、『魔女バンドーラ』と『へドリアン女王』の力から抽出された破壊光線。超スーパー悪者ワルドは歴代の悪の首領の能力を操ることができるのだ。それだけでも十分に最強と言っても過言ではない。
「まともに戦っても絶対勝てない! だから……」
「分かってる! 俺たちは一撃に賭ける、そうだろ!?」
鍵五と拓人が見据えるのは一寸の勝機。
「禍々しい『水』の気配……!」
《金の術!》
超スーパー悪者ワルドが呼び出した暗雲から降りしきる豪雨は、草木から生命を奪い、大地を腐らせ、大気をも穢し尽くす。『究極オルグ センキ』と『ヨドン皇帝』の力から成る攻撃を察知したアカニンジャーは、五トン忍シュリケンで生成した金タライを傘にして雨を凌いだ。
「ぐぅぅ、エラス小賢しい奴らだワルモノ! だがそんなもの長くもつまい。50年の歴史を取り込んだ俺には決して勝てん! 歴史の重みが違うのだワルモノぉ~~!」
「歴史の重みなら俺たちにもある! 悪と戦い続けてきたスーパー戦隊、彼らに憧れる心が無駄じゃないのなら……その憧れこそがお前を討つ正義なんだ!」
金タライが朽ち果てたと同時に放たれた『ゼイハブ船長』の大砲を、ファイブレッドが身を呈して受け止める。激しく吹き飛ばされながらも、ファイブレッドは赤く輝く『Vソード』を地面を削るように振り抜いた。
「Vソードスパーク!」
「ラゴーンっ!?」
地面に沿って疾走した火炎が爆裂し、超スーパー悪者ワルドの周囲を爆炎が占領した。
「今です!」
変身が解かれた数音文はファイブマンの指輪を拓人に投げ渡し、叫んだ。煙幕が『絶対神ン・マ』の力で食らい尽くされ、同時にその触手が暴威を振るうが、彼らの捨て身がそれを突破する。
肉迫を果たした2人のゴーカイレッドとアカニンジャー。その腕に構えられているものこそが唯一の勝機、それは海賊船を模した大砲だった。
「ゴーカイガレオンバスター!!」
「バカめ、そんなもので俺が倒せるか! フィジカル・プロテクト・チェーン展開!」
その時、『ドグラニオ・ヤーブン』が身に着ける強靭な鎖が超スーパー悪者ワルドの体を覆った。フィジカル・プロテクト・チェーンはルパンレンジャーとパトレンジャーでも破る事が叶わなかった無敵の防御。
だから、必ずそれを使うと読めていた。それを使われたら打つ手は無かった。それがもし、ここまで辿り着いたのが一人であったのなら。
「───『鍵化』!」
拓人が指輪能力を実行する。その手に握られていたユウダイの『キョウリュウジャーリング』、護の『ゴセイジャーリング』、メグミの『ゴーゴーファイブリング』、美月の『ライブマンリング』、数音文の『ファイブマンリング』が、レンジャーキーへと形を変えた。
力尽きた仲間たちから託された力を、ゴーカイガレオンバスターへと装填する。
「『
次いで、鍵五の指輪能力が新たなレンジャーキーを生み出した。鍵五が自身の記憶から呼び覚ましたのは50年分の巨悪を打ち破るのに足る英雄の力。スーパー戦隊という概念を総括した、あの戦士。
《アーカレーッド!!》
「赤の魂を受け継ぐ者、アカレッド!」
レッドたちの平和を願う心から生まれ、ゴーカイレッドことキャプテン・マーベラスを導いた、スーパー戦隊の守護神。だが、これだけの足し算を成してもなお、あの鎖を断ち切るには足りない。
スーパー戦隊に憧れた者誰でも知っている。彼らの力は足し算ではなく、いつだって掛け算だった。すべての条件は今、整った。その瞬間、晴照の号砲が盤面を引っ繰り返す。
「『
《レーッドチャーーージ!!》
刺されたレンジャーキーが直列に並び、銃口に集まっていくエネルギーは天井知らずの勢いで増幅していく。大砲を持つアカレッドの力が軸となり、どこまでも、果てしなく、膨れ上がっていく。
慈愛を以て生命力を与える『
滾る戦士達の
荒ぶる力を受容し安定をもたらす『
意志に応じて攻守自在の強靭な『
激流の如き歴史を知識に修める『
五行の指輪が揃っている今、『風水』は最大のパフォーマンスを発揮する。
「このアカレッドはレッドの魂そのもの、すなわち俺が想像できる最強の『火』!」
「その鎖がどれだけ無敵の硬さだろうと、皆の指輪の五行で強まった『火』は『金』を
「ガジャガジャ言ったところで貴様らは所詮偽物だと言ったはずダグデド! 平伏せ、これが本物の悪者の力だワルモノ!」
超スーパー悪者ワルドの王冠の顔が凶悪な様相へと変貌した。それは厄災の根源『レクス』の力が目覚めた証。咆哮に乗った滅びの波動があらゆる苦痛を、不運を、不条理を誘発する。
少しでも気を抜けば全身が砕けてしまいそうだった。だが、ゴーカイガレオンバスターを持つアカレッドの背中をゴーカイレッドとアカニンジャーの両手と激励が支えていた。
「確かに俺たちは偽物かもしれない……本物じゃないから何度も負けるし、二の足を踏むんでばかりでヒーローには程遠い。でも!」
「たとえ俺達が偽物でも! 指輪に賭けた願いと、この憧れは、俺達だけの本物だ!」
テレビで見たヒーロー、幼少期に守ってくれた友人、学園と世界を救った戦隊。憧れに駆られて分不相応な夢を追った。そして、今再び戦士としてここにいる。指輪を手に入れてからの全てが彼らの誇りだ。
「強さも重みも足りないから俺たちは手を結んだ! たった一瞬でいい、この一瞬だけ俺たちは……
「ほざけええぇぇぇぇぇッッ!!」
アカレッドが叫んだ。たった3人じゃない。今この瞬間に至るまでの全てが、彼らの背中を押す。体に突き刺された舳先、帆の照準が示す敵の心臓、充填が完了した大いなる力が船体から解き放たれる。
「「「いっけえええええええっ!!」」」
《ラァァァイジングストラァァァァイク!!》
発射されたエネルギー弾はゴーカイガレオンの形を成し、鎖と厄災の波に刃を立てる。寄せ集まった正義の心と、尊大な願いと、振り絞った覚悟を追い風に───彼らの赤き船は悪を貫いた。
「そ、そんな……! だがヒーローいるところ悪者もまた不死身……っ、覚えてろワルモノぉ~~!!」
鎖ごと体を打ち砕かれた超スーパー悪者ワルドは、捨て台詞という悪者の矜持を叫び、ド派手な爆発と共に消滅。それと同時に使役されていた悪者たちが光の塵になって消えていく。
全力全霊を出し切った戦士たちの変身は解け、指輪を握りしめた生身の拳が天に突き上げられた。
◇◇◇
場面は移り、戦闘兵たちが湧き出続ける現実の次元。
残ったユニバース戦士たちが人々を守るため敵の対処を続ける中で、周到で陰険なズカモトキセはここにも刺客を送り込んでいた。
「その程度ではまだ足りん。もっと強さを、俺を満たす強さを魅せろ……!」
戦闘兵たちとは一線を画する強者。強さに渇く紫の竜騎士、ガイソーグ。それに対峙する『クワガタオージャー』深山希燐は、荒い吐息で苦悶の声を隠す。
ここまで彼女はガイソーグと互角に斬り合ってきた。だが、それで思い上がるほど希燐は愚かじゃない。敵は楽しんでいるのだ。敢えて同じ力量で殺し合い、希燐の全力を引き出そうとしている。
「お前はボクより強い、遥かに……! でもボクはここを譲るわけにはいかない!」
クワガタオージャーが再び剣を抜く。それにぶつかり合うガイソーグの剣技は、極めて異質だった。
まるでいくつも流派が混ざり合っているような混沌とした太刀筋。しかし、その先にある鎧に刃を打ち付けた所で、虚に響く音が鳴るのみ。数多の戦士の渇望を喰らってきた意志を持つ鎧、それがガイソーグの正体だ。
「『
指輪能力で硬質化したマントでガイソーケンの刃を防ぐ。オージャカリバーで敵の盾を突く。だが、その度にジンと全身に響く衝撃が静かに限界を告げていた。あともう3度でも斬り結べば、この防御すら切り裂かれ、刃は砕け散るだろう。
「っ……お前は、どうして人々を襲う!? 何のために世界を壊そうとするんだ!」
「知れたこと。この次元を0から作り直し、新たな世界で未だ見ぬ強者と刃を交える。それだけよ」
「そんなことの為に……!」
「言葉を紡ぐ暇があればもっと力を曝け出せ。まさか、これで終わりか?」
希燐が怒りで死力を絞り出したところで、ガイソーグはそれを高みから捻じ伏せる。激戦を演じるほどにガイソーグの猛攻は勢いを強め、持ち堪えることすらままならなくなる。
正義や覚悟なんて無力だ。そんなこと、消えない痛みと共にとっくに思い知った。
「まだだ……無力だとしても、無意味じゃない! ボクは最期の1秒まで、警察官として市民を守る!」
こんな醜態をあの人が見たら何と言うだろう。
分からない。ここまで来ても、絶望の果てに悪魔になってしまった彼のことは理解できない。だって、こんな死の間際でも、優しく強かった頃の彼ばかりが視界に浮かんで、
「目ェ背けてんじゃねぇよ。それでも
高所から迂回してきた銃弾が、ガイソーグの盾を避けて鎧へと命中した。その聞き慣れない声の主は、弾を撃ち続けながら重い足取りでクワガタオージャーの後ろまで歩き寄る。
「貴方は……! タイヤ人間……?」
「黙れ」
『ブンレッド』黒羽ハイドが舌打ちを鳴らす。
素性を明かすわけもない。元・闇商人である彼が警察と交わす言葉は無い。そうでなくとも根っからの警察嫌いの彼が希燐の前に現れたのには理由がある。
「助っ人だと思うなよ。俺は届けに来ただけだ」
そう言ってブンレッドが投げ渡したモノに、希燐は瞠目した。
それはトランプが描かれた指輪。まじまじと凝視したことなどあるわけもないが、手にした瞬間に感じ取れてしまった。
「これは、射流さんの……!?」
それは桃岸射流の『ジャッカー電撃隊』の指輪。
復讐の末に殺人鬼に堕ち、希燐との決戦を最後に消息を絶った彼の指輪を、どうしてブンレッドが持っているのか。誰に頼まれてこの指輪を届けに来たのか。
浮かんだ全ての疑問を、希燐は即座に押し殺した。
「目を背けるな」。彼が放った言葉は、不思議と射流が言ったように聞こえた。
「新手か、貴様は俺を楽しませてくれるのか?」
ガイソーグが高揚を呟き、にじり寄る。
そうだ、今目を向けるべきは使命でも、願いでも、過去でも後悔でもない。ましてや消えた恩人の行方でもない。人々を守るため、見るべきは敵の姿ただ一つ。
「……貴方の力を借ります。ボクが信じる正義のために」
クワガタオージャーはテガソードにジャッカー電撃隊のリングを叩き込んだ。その瞬間に起動する力は、悪でも正義でもない。目の前の敵を穿つための純粋な殺意にして、切り札。
「『
浮かんだ名前が口を突いた。身体への負担を代償に、クワガタオージャーの右腕がテガソードを巻き込んで変異していく。そこに体に残った『硬化』の力が混ざり合い、形成されたのは機械仕掛けの巨大な刃。その形状はまさしく、クワガタの大顎。
「『
「面白い! その力で存分に……ッ!?」
覚醒したクワガタオージャーとの勝負に身を乗り出すガイソーグ。だが、冷や水を浴びせるようにその歩みは止められた。ガイソーグの体を縛り付けていたのは、ブンレッドが武器の能力で作り出した通行止めの標識。
「俺達の世界じゃ『動くな』の意味は『動いたら殺す』じゃねぇ。『殺すからじっとしてろ』だ」
商人は他者の願いになど付き合わない。
警察も同じだ。今は怒りも矜持もいらない。希燐は冷酷に、一切の情け容赦無く、一寸先の平和を掴み取る。
オージャカリバーと凌駕一閃の挟撃が標識ごとガイソーグを裂断。中身の無い鎧はバラバラに砕け散り、意志を失うと同時に塵となって消失した。
「射流さん……」
希燐が振り返った時にはもう、ブンレッドの姿は無かった。
それでいい。戦いはまだ終わっていない。その手に残されたジャッカーの指輪を優しく握ると、希燐は悲鳴の聞こえる方向へと駆け出すのだった。
◇◇◇
太陽の無いのっぺりとした空。雲が流れなければ日も落ちないものだから、どのくらい時間が経ったのかも分からない。数えきれないほど拳を打ち込んで、肺の中身を出し尽くしては息を吸って叫ぶ。
「いつまで繰り返すつもりですか!? いい加減に学びなさい、無駄だということを!」
ズカモトキセが苛立ちを含んだ声を発し、掌から放つ衝撃波をインフィニティに浴びせる。こうして攻撃をした時に手応えは感じるのだ。そのはずなのに、次の瞬間には必ず前進するインフィニティが目の前にいる。
「難しいから諦める。時間が勿体ないからやらない。タイパだのコスパだの、全部情熱不足でカタが付く話を小難しい言葉で飾るんじゃねぇ。自分でも驚いてるよ、思いが強けりゃ都合よく力が湧いてくる!」
ブースターで加速したインフィニティの拳が、ズカモトキセの頭部を殴りつけた。しかし変わらずダメージは無効化される。その事実に心折られるどころか、昂るように、インフィニティの攻撃は勢いを強めていった。
「目障りなら潰してみせろよ。それもできねぇ思いの弱さを他人に言い聞かせて何がしたいんだ!? 寒い自虐なら身内でやってろ!」
「貴様ッ……!」
「俺はもう怒りに蓋はしない。お前の願いも怒りも笑いはしないよ。どうせどっちも譲れねぇんなら、殴り合おうって言ってんだ。どっちかがぶっ壊れるまで!」
今なら往歳の気持ちがよく分かる。他人の顔色を伺った末に理想が叶ったとしても、それは調和が混じった小奇麗な人工物だ。我を押し付け続けた先でしか得られないものがある。その熱さに焦がれて、人々は指輪を掴んだのだ。
攻撃は効かない。その保障があるのに、ズカモトキセの足は無意識に後退する。大儀も正義も何もない、自分以外を区別しない、そんなただ闇雲なだけの怒りに呑まれそうになる。
その怖れは錯覚から実像へと変わる。
ギャバンインフィニティが膝蹴りが敵の鳩尾を打った時、予期していなかった『痛み』がズカモトキセの体に走り、苦悶の声が響いた。
「なッ……!? 馬鹿な、どういうことだ!? 何が起こっている!?」
「そんなん決まっとるやろ! 分身がいる限りの無敵が破られた……皆がお前の分身を全員ぶっ倒したんや! 見たか、これが俺たちユニバース戦士……いやユニバース戦隊の力や!」
「何もしてないだろアンタ! いつまでそこいるんだよさっさと逃げろ!」
戦火の最前列にいた往歳が得意気に勝ち誇った。というか、龍郎は無視し続けてきたが往歳はずっとそこで野次を飛ばしていた。邪魔である。
起こってしまったことを許容できないズカモトキセを、インフィニティは変わらず攻める。龍郎は仲間を信じてたわけじゃない。効くようになるまで殴り続けていただけ。
ただ、強いて言うのなら、理解はしていた。
勝つまで諦めないなんて自分でも出来ることを、指輪に選ばれた戦士たちが出来ないわけがない。そうでなければ超える意味が無い。
しかし、諦めない心だけで叶うほど、現実は単純じゃない。
千載一遇の好機に非情にも、インフィニティの体勢が崩れる。その理由は明白だった。
「は……ははははッ! 脅かしおって、結局体力の限界ですか!? 思いの力だなどと宣っておきながら実に滑稽でつまらない末路。これで終わりだ!」
「迎クン!」
思いの強さで全て叶うのであれば世界はもっと喜びで満ちている。信じた者が救われて、あらゆる努力が認められる、『そんな世界』なら人は誰も願いを諦めたりしない。心を殺して生きたりはしない。
「……違うよな」
どんなにつまらない人生の中で、どんなに惨めな負けを積み重ねようとも、『そんな世界』なのだと信じられる者だけが願いを叶えられる資格を持つんだ。
「───そこまでだ、ズカモトキセ!」
その時、次元に新たな裂け目が開き、勇ましく声を上げる戦士が戦地に降り立つ。その戦士が乗っていたものに龍郎は笑うしかなかった。見せられた物語の中にも何度か出てきたが、『真っ赤な折り鶴』なんて、戦隊は本当に何でもアリだ。
「貴様はっ!?」
「真っ赤な太陽燃えてる限り、必ず眩しい朝が来る。夢と希望の明日を願う! 折リジナル戦隊、オリガレッド!」
折り紙の戦隊レッド、オリガレッド。
世界線の歪みからユニバース戦士達の戦いを観測した彼は、そこから次元を渡る能力を駆使して気配を辿り、ようやくここを探し出したのだ。そして、堂々と正義を掲げる『
「僕が力を貸そう、新しいレッド君! 共に世界を守るんだ!」
「余計なことするなよ……! 世界なんかどうでもいい、俺のために……アイツは俺が倒すって決めたんだ!」
「不器用だな、キミは。だが硬いだけの紙ではどんな形にもなれない。今度こそ僕が示そう、真のレッドの在り方を!」
「おのれオリガレッド……物語にもなれない中途半端なオリジナルが! 貴様のような戦隊は私が認めない!」
立ち上がったインフィニティとオリガレッドが走り出した。ズカモトキセが放つ光線を、神ソードとギャバリオンブレードの一閃が叩き落とす。
湧き出てくる戦闘兵。敵意を持って蠢く雑兵を斬り捌って進む。
奥に行くほど密集する敵が、弾ける光と共に瞬く間に散っていく。
紙に入った裂け目のように、止まらない。ただ真っすぐ突き破るのみ。
「谷折りスラッシュ!」
V字型に描かれたオリガレッドの斬撃がズカモトキセに刻み付いた。感じるはずの無い痛みが頭を搔き乱し、何も考えられなかった。なんで追い詰められている、なんで全てが敵対する、こんなにも戦隊を愛しているというのに。
「全ては戦隊の為なのです! ゴジュウジャーが終わらせた戦隊の歴史を私が受け継ぐ! そして永遠に、私の手の中で、私だけを楽しませていればいいのです!!」
「語るに落ちたな悪党! お前が望むものは結局、平和ではなくいたずらな混沌と破壊だ!」
「当然でしょう、混沌と破壊なき平和には何のドラマも無い! 崩壊を、絶望を、死を、厄災を世界に! 色とりどりのヒーローが苦しみながら戦い、それらを絆の力で打ち倒す! そして最後には巨大戦! これこそが戦隊なのだ!」
絶叫を吐き出し、ズカモトキセが膨大な闇を放出する。それは空間を食らい尽くすように無尽蔵に広がっていき、肉体となった闇は今度は辺り一帯を影で覆った。
そこに現れたのは無数の巨大な怪人、ロボット、怪獣。戦闘の序盤で数体召喚していた巨大兵を、もはや手段を選ばず軍勢として生成したのだ。
「私だけじゃない、誰もがそう望んでいる! 再び世界が闇に満ち、新たな戦隊が現れることを! だから私はこの世界を壊すのだ!」
幾度目かの絶体絶命だが、龍郎にとってはもう恐れる要素が何もない。何故なら、ズカモトキセの無敵が失われてから十分な時間が経過したのだから。
「『
炎の叫びが次元の向こうに届く。時空を越えて鋼鉄の恐竜が咆哮し、大地を踏み鳴らした。それだけじゃない。同じ次元の穴から現れたのは、無敵の超兵器『ダイデンジン』と転生せし星獣の姿『ギンガイオー』、2体の巨人。
「……私のタイムロボは?」
「一回で出せるのは3機までって言っただろ!」
「私たちも花を持ちたくなってね。なにせ滅多にない機会だ」
「そっちの華は八人君に譲るよ。共同作業を楽しんで!」
同じ搭乗席に乗る三龍と八人に、郷羅と大慈が茶化すように言う。
分身体を倒したことで固有領域である空間が元の座標に収束し、指輪戦士たちがここに戻ってきたのだ。
「ちょっと私のマジキングから降りなさいよ!」
「うわ、3人いてもロボ一機なのかよ。おいアイドルグッズで飾ってる暇あったら前見ろって、前! てかどっから出したんだよそれは!?」
「あの、俺は初めてなんで……一応集中してるんで、静かに……」
過剰な人口密度で3人のマジレッドが搭乗する『マジキング』は、頼りない足取りで敵を斬り倒していく。
「行くぞキラ! ここまで温め続けたインスピレーションを解放する!」
「あの時のイメージを更に膨らませる……僕といっちゃんの合作だ! 『
2人のキラメイレッドがスケッチブックに描いたロボが具現化する。煌輝の巨人『キラメイジン』と、躍る獣電巨人『キョウリュウジン』。しかし想像力に限りはなく、他にもまだまだ描き続けていた。
「戻って来れたと思えば、とんだ
「決まってますよ。全速力で全員ぶっちぎる!」
ボウケンエンジンオーの赤い残像が、走路上の障害物を全て蹴散らして爆走する。それを見る彼らもまた戦いに勝ち抜いて帰還していた。
「あれは……ラッドか! ならば私もサンシャインパワーで先を行こう! 『
「再び俺の声で目覚めてくれ……ガオキング!」
「あー、あれウチも乗りたかったんだよね! とにかく出ろ! えーっと、確か……そうだシンケンオー!」
常夏、凱亜、緒乙がそれぞれ『ドンオニタイジン』、『ガオキング』、『シンケンオー』を呼び出して戦列に加わる。数えきれない程の指輪が集い、戦いを経て感情が極限まで強まったことで、全ての指輪が最大以上の力を発揮していた。その輝きに、正義の巨人たちは必ず応える。
「うおおおおおっ!! これこそまさに……『ユニバース大戦』の再来や!!」
往歳が目を輝かせて天に吼えた。戦隊考古学の起源である神話が目の前に広がっている。戦隊考古学者としてこれ以上の喜びがあるものか。
かつて、世界に破滅をもたらさんとする『厄災』に立ち向かうべく、あらゆるユニバースから機械仕掛けの巨人たちが集結した戦いがあった。だが、もう誰かの祈りなんて必要ない。
最後の巨神などいなくとも、集った願いが今度こそ闇を討ち滅ぼす!
「なんだ……!? こんな展開は認めない……ユニバース戦士? オリジナル戦隊!? ギャバンだと!? 驕傲甚だしいレプリカ共め、そんなものは断じて戦隊ではない! 私は……絶対に認めないッッ!!」
「……もう受け入れてやったらどうだ」
静かに力強く諫める声が、不思議なくらい鮮烈に反響した。
「とうっ!」
「ぐああっ!?」
振り返ったズカモトキセを蹴り飛ばして着地した真っ赤な戦士は、同じく真っ赤なマントで風を受ける。銀のテガソードを誇らしげに掲げ、彼はその名前を背負って威風堂々と佇む。
「あれは……!」
英雄の姿に龍郎も思わず声を漏らす。仮面に受ける威光は『始まりのレッド』の偉業。彼の名は東映プロデューサーの関本カズ、ユニバース戦士『アカレンジャー』。
「事情は聴いた。お前の気持ちは理解できるさ。長く続いたということは、それだけ愛されたということだ。だからこそ終わる時は寂しく……受け入れられない」
「ッ……そうだ、だから私が、この手で……!」
「それは間違っている! どんなに素晴らしいものでも必ず終わりが来る。それは俺達ではどうしようもないことなんだ。だから見送ってやれ! お前が真に愛しているというのなら、その思い出を、愛を! 絶やさず未来に繋ぐんだ! そうすればいつか……!」
「黙れ黙れ黙れェっ!! 貴様に何が分かる! 私の怒りは、戦隊の無い世界で晴れることは無いのだ!」
ズカモトキセが放ったのは『スーパー洗脳ビーム』。対象への理解で敵を傀儡にする一撃必殺だ。ユニバース戦士でも全レッドの原点であるアカレンジャーなら、戦隊マニアの理解で捉えられてしまう。
だが、その光線は未知のレッドであるインフィニティには無力。アカレンジャーの盾となり、インフィニティは体を敵に向けたまま振り返って、呟いた。
「結局こうなるのか。ひとりで倒すつもりだったのに、上手く行かないな」
「僕たちはスーパー戦隊、共に戦うことこそが宿命なんだ!」
「今時の子は一人が好きって聞くが、なんだか遠野みたいな奴だな、君は」
「あぁ、確かにそうですね」
遠野吠、往歳から死ぬほど聞いたゴジュウジャーのレッドのことだ。指輪争奪戦の勝者だが、無職のはぐれ者。名誉なんだか不名誉なんだか。
まだ彼のようなヒーローには程遠い。ここからだ。龍郎はここから目指して駆け上がる。
「そうか、そういうことだったのか……」
龍郎は指輪の戦士達が戦ってきた理由を、ようやく理解した。
わざわざ大衆に紛れなくたって、どれだけ道から
指輪をその手に願いを叫べ、誇り高き逸れ者たちよ。
唯一無二が跋扈して鎬を削るこの
いざ掴め!
「ナンバァァァァァワァァァァン!!!」
GO!GO!
ユニバース!
「邪魔だ! 愛し続けて50年、私の為の50年! 宇宙一の戦隊マニア、ズカモトキセ! 終わりなき歴史も私の為に!」
GO!GO!
ユニバース!
「俺が俺であるために。頂に吼える俺の名は───激憤、逆鱗、ギャバン・インフィニティ! 全
No.1 Battle!
Ready──GO!
FIGHT!
「戦隊の歴史は私が創る!」
「俺の歴史は、俺が創る!」
スーパー戦隊の狂愛者、ズカモトキセ。
対するはオリジナルの未来を担う者、オリガレッド。原点を継ぐ者、アカレンジャー。新たなる原点、ギャバン・インフィニティ。
「ただの人間が、つけ上がるなぁっ!!」
ズカモトキセが投げ放つ光弾、真空の刃、それらを折り紙の盾で防ぐオリガレッド。破れ散った折り紙の破片を浴びながら、複雑軌道の斬撃をオリガレッドは描く。
「蛇腹折りスラッシュ!」
高密度に折り込まれた斬撃の勢いは、如何なる手段でも止められない。装甲を砕かれて吹き飛ぼうとしたズカモトキセの腕を縛り、引き留めたのはアカレンジャーだった。
「レッドビュート!」
アカレンジャーの鞭はズカモトキセを捕らえたまま、風を切って縦横無尽に振り回される。地面に叩きつけられ、引き摺られ、空中に放られたズカモトキセを、アカレンジャーのキックが狙い撃った。
「レッドキック!」
「ぐがああッ!!? ぐう……ッ、舐めるな!!」
激しく転がるズカモトキセが地面を掴んだ。すると、その部分から握り潰されるように空間の崩壊が始まる。この次元は元々ズカモトキセが作り出したもの、壊すだけなら容易だ。それが無理心中の自爆でしかないという判断をする冷静さは、もはや彼には無い。
世界が消滅していく。このまま自爆を見逃したとしても、力を使い果たしたズカモトキセは二度と存在を取り戻せないだろう。もはや決着はついており、今すぐ全員で退避するのが最善手だとアカレンジャーとオリガレッドが足を止める中、ただ一人、
「怒りに呑まれたな」
ギャバン・インフィニティだけは、躊躇いなく飛び込んだ。
崩れていく地面を踏み締め、滅びより速く駆け抜け、インフィニティの剣戟がズカモトキセの余力を砕く。畏れも焦燥も無い。悪意に塗れて爛れる激情を覆うのは、輝く熱を帯びる純粋な怒り。
「どんなにくだらなくても、身勝手でも、怒りを……願いを叫ぶことにきっと善悪は無い。言っただろ、お前の怒りを笑いはしないって」
「何を……! そうだ、私の愛こそが常に正しいのだ!」
「でも、お前の怒りは人を踏み躙りすぎた。だからお前は、これだけの怒りを敵に回した。この赤の一部に俺がいて、俺がここまで辿り着いた。それだけだ!」
周囲で巨大な爆発が幾つも起こっていく。呼び出した巨大兵団がユニバースロボたちに打ち倒されているのだ。もはやズカモトキセには援軍を生み出す力も無い。
「間違っている、この私が……戦隊を愛する私が、こんな戦隊ですらない者に負けるなど!」
だが、目の前のインフィニティを道連れにすることはできる。魂の底から力を振り絞った叫びが、膨れ上がる怨念の闇となってインフィニティへと迫る。そんな亡者の絶叫を笑い飛ばすように、インフィニティは高揚に満ちた怒号を放った。
「───『
それはギャバン・インフィニティの指輪能力。周囲や、次元を超えた先からも自身と共鳴する『怒り』の感情のエネルギーを集め、力に変えることができる。
インフィニティのコンバットスーツに光のラインが走る。迸るエネルギーがメットに描いたのは、激しき怒りの相貌。この能力のピークは僅か『6秒』、その一瞬で勝負は決する。
「勝つのは俺だ。お前の怒り───俺が喰らう!」
左手がなぞるギャバリオンブレードの刃が、赤い光で満ちていく。
襲い来る闇を裂き、抵抗を挫き、刃を振るうほどに力は増していった。一撃目がズカモトキセの鎧を破砕し、二撃目がその身に刻み付く。
反撃を試みる隙すら無い。この怒りの前には焦がされることしかできない。繰り出される無数の斬撃、闇に焼き付く赤の残影。怒りを背負って無限大の炎を纏うその姿は、まるで太陽のように。
「これが……新たな時代のヒーロー……ッ、私は認めないィィィっ!!」
崩れ去っていく空間の上で、全ての戦局が終幕を迎えつつあった。この戦いに脇役などいない。己の願いこそが一番であると知る戦士たちは、誰よりも大きく、高らかに勝鬨を挙げる。
今こそ───全
「オレこそが!」
「わたしこそが!」
「僕こそが!」
「私こそが!」
「拙者こそが!」
「あたしこそが!」
「ボクこそが!」
「俺こそが、ユニバース戦士ナンバーワンだ!!」
インフィニティの最後の一撃がズカモトキセの存在を断ち切り、赤の閃光が爆ぜる。拒絶の断末魔が大爆発と共に大気を震わせ、それぞれの次元があるべき場所へと戻っていく中で、どこからか聞こえた声とゴングが勝者を宣言した。
WINNER!
UNIVERSE RANGER!
◇◇◇
ズカモトキセが倒されたことで次元を繋ぎ止めていた楔が無くなったらしく、ユニバースノーワンの力は今度こそ完全に消滅した。こうして世界は滅びを免れ、人知れず戦った英雄たちはそれぞれの世界に帰っていくことになった。
別れや礼を言う暇は無かった。彼らのことはほとんど知れなかったが、言葉を交わさずとも分かる。どうせ彼らはみんなどこか変で、自分勝手で、ほんの少しだけ正義に愛された唯一無二たちだ。彼らは自分の世界で、自分だけの物語を紡いでいくのだろう。そんな胸やけしそうな話なんて一々聞いていられない。
「迎クン、博士過程に行く気は無いか?」
「嫌です」
平穏が訪れてからしばらく経ったある日。そんな往歳の言葉を、龍郎は即答で蹴り飛ばした。
「なんで来年も先生みたいな問題児の面倒見なきゃいけないんですか。ふざけんな。ていうか遠野吠はまだですか。さっさと負けて教授に専念してください」
「言うようになったなぁ……俺は今の方が好きやで。でもどうする気や? あんな戦いをした後に、普通の会社務めで満足できるんか?」
歯を見せつけるように往歳はニヤニヤと笑う。厄災襲来後の抜け殻状態で挑んだ就活、その中でいくつか貰った内定が色褪せたようにしか見えなくなっているのを、往歳は完全に見透かしていた。
一度自分の感情に触れてしまえば、人は妥協で生きることなんてできない。思えばアバレッドを探しに行って、氷川華蓮が自分を曝け出すのを見た時から、龍郎の心は氷解しかけていたのだろう。
「……本当に気持ち悪いですね」
「そんな褒めんといてな」
「でも先生だって分かってるでしょ。あの戦いで、憧れを全て直視してしまった。謎や神秘はもう枯れたんです。戦隊考古学に可能性なんて残ってるんですか」
指輪能力で戦隊の全てを知っていた星育数音文に、三海鍵五がスーパー戦隊という番組が放送されている世界からやってきたという事実。謎の根源とされていた『ユニバース大戦』は当事者である熊手真白が全てを知っており、当のテガソードさえ今やその気になれば対話することが可能だ。
それは、肉眼で太陽を覗き込むことに似ていた。明かされてしまった真実に目は眩み、もはやそこには何も残されていない。指輪争奪戦だって間もなく決着し、ズカモトキセの言う通り『戦隊』は終わる。それに往歳が気付いていないはずがない。
しかし、そんな行き止まりを往歳は一息で笑い飛ばしてみせた。
「アホか。戦隊に終わりなんてあるかい。そもそも俺は吠クンに負ける気も無いしな。迎クンだって、その指輪で争奪戦に参加すればええやろ? 燃え尽き症候群にはまだ早いんとちゃうか?」
「先生だって分かってるでしょ。俺にはテガソードが無いんです、参加権が与えられたわけじゃない」
またも心を見透かしているように、往歳は龍郎のポケットの中を指す。『ギャバン・インフィニティ』の指輪はあれからずっと持ち続けているが、もはや無用の長物。また往歳のテガソードを奪おうともしたが、そこは譲らないのが彼だ。同じ手が二度も通じるような人じゃない。
だからそれだけは諦めていた。どうやったって叶わない願いを喚くのは、無様だから。
「あの日の興奮を思い出で終わらせる気か? だから言うたんや、博士に行かんかってな」
そう言って、往歳は何枚かの写真を机の上に広げた。
そこに映されていたモノに龍郎は瞠目する。それは、『テガソード』と見たこともない戦隊の『指輪』と───『角の生えた怪獣』だった。
「1万5000年前の海外の遺跡から、つい先日出土したもんや。それが今朝……何者かに盗まれた。犯人は『赤いジャケットの戦士』に変身し、指輪能力で『赤い怪獣』を呼び出して逃げたらしい」
往歳が語る全ての情報が不可解だった。
「……ユニバース大戦は1万年前の出来事。それよりも5000年も前にどうしてテガソードが……? 怪獣を操る戦隊なんて聞いたこと無い。ギンガマン、ガオレンジャー、リュウソウジャー……どれも違う。いや、これ本当に戦隊か? もしかして、俺の指輪と同じ……!」
「ええ顔で笑うやないか」
往歳に指摘され、龍郎は自身の口角が上がっていることに気付く。だが、もう誤魔化しはしない。全部往歳の手の上なことは癪だが、龍郎が求めていたものがそこにあったのだから。
『戦隊』が好きだ。荒唐無稽で余りに空想めいていて、人の常識など一笑に付す物語が、やっぱり好きなのだ。
「戦隊考古学は終わっとらん! テガソードや厄災はどこから来た? センタイリングとは何や? 指輪争奪戦ってのは何のために始まった? そんでその新しい指輪に犯人……謎はまだまだぎょうさん残っとる!」
「それに、テガソードが出土したってことは……この世界のどこかにはまだ、誰のものでもないテガソードが存在する」
目の前に道が広がっていく。『ギャバン・インフィニティ』の指輪が熱を帯びたように感じた。
「そのテーマは俺が貰います」
もう一度指輪の戦士になれる可能性と、未だ見ぬ指輪の戦士、誰も知らない歴史。それは人生を賭けるには十分すぎた。あの赤い熱気の中にいたいという願いだけが、龍郎を昂らせる。
「超宇宙だろうが超古代だろうが、どんな歴史も俺が白日に暴いてやる。成ってみせますよ、先生も超えて……戦隊考古学者ナンバーワンに」
「はっ、受けて立ったるわ」
数多の指輪が紡いだ物語は終わる。だが、未知なる歴史が世界を紡いでいく。その新しい『
この世界は誰もが唯一。誰もが己の望む
そのために必要なものは、ただ一つ。
───さぁ、願いを言え。
改めまして、本企画の主催を務めさせていただきました、壱肆陸です。
まずはここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
ゴジュウジャーが大好きな有志を集めて始まったこの合同企画。いろんな作品が集まり、それぞれの50年分の愛が連なって、様々な意味で本当にユニバース戦士らしい企画にすることができたと思います。
戦隊は終わってしまいましたが、この企画が紡いだ物語も、戦隊の思い出の片隅の片隅にでも置いていただけますと、それほど幸せなことはございません。あとは皆様一緒にプロジェクトレッドを大声で応援しましょう!
それでは!