ユニバース戦士補ジュウ計画   作:壱肆陸

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本日はタコツボさんの作品です。
(X:@Takotubo_genki)
担当いただいた指輪は「ライブマン」になります。


指輪よ、なぜ戦士の願いを叶えるのか!?

 これは遠野吠が指輪を手に入れ、新たな物語が始まった……その少し後のお話。

 

 

「だーっ! 全然見つからねぇ!」

 

 真昼間のとある市街地の真ん中で、一人の男性が人目を気にせず叫びだす。彼の名前は岩下。つい最近付き合っていた女性とトラブルがあった悲しい人だ。

 

「なんでネットに情報あがってても見つからねぇんだよ! あいつは忍者か!? 忍者なのか!?」

「まぁ落ち着けって……。ほら、他の人見てるから。な?」

 

 憤慨する岩下を慰める小太りの男の名前は川島。彼もまた、付き合っていた女性とトラブルがあった悲しい人その2だ。

 

「あ、あぁ……。すまん。つい我慢の限界で……」

「……でも、ここまで目撃情報があるのに見つからないってのはおかしいよな」

「まったくだよ。どこにいるんだあいつは……」

 

 そう言いながら、岩下は金色に輝く指輪を取り出す。

 色とりどりのキューブが描かれたその指輪は、自身の恨みを思い出すにはピッタリの代物だった。

 

 

 

 ここでこの二人を知らない人の為に、少しだけ解説を挟もうと思う。

 

 まずはこの二人の共通点。それはとあるアイドル、百夜陸王に自身の大切な人を奪われたということである。

 

 川島は当時付き合っていた彼女が陸王に夢中になった結果フラれ、岩下に至っては交際まで考えていた女性が結婚資金を陸王のグッズにすべて費やし、結果破談となったのだ。

 

 ……岩下に関しては完全に女性が悪いとしか言えないが、悲しみと怒りに震える彼らは、『百夜陸王被害者の会』を設立し、復讐の為に日々陸王を追っているのだ。

 

 当然、普通に復讐してしまえば現代の日本では即お縄なので、当時は復讐方法がなく途方に暮れていた彼らだったが、つい数日前にあるものを手に入れた。

 それこそが、先ほど岩下が取り出した『センタイリング』である。

 世間的に存在自体は噂されており、なんでもすべての指輪を集めれば願いが叶うなど言われていたが、当初はそこまで関心はなかった。だが偶然な事に、憎き陸王も指輪を持っているという話がネットにあがっていたのだ。

 

 指輪の戦士として戦えればある意味合法的に復讐を果たせる上、あわよくば新しい彼女が手に入る。こんなうまい話は無いということで探しまくった結果、なんとか指輪を手に入れ、契約することができたのだ。

 

 岩下は『ジュウオウイーグル』の、川島は『バルイーグル』の指輪と契約し、復讐の為に陸王探しをしているのが今の状態である。

 

 解説はこのくらいにして、ひとまず二人のところに戻ってみよう。

 

 

 

「誰か協力者がいるとか、指輪の能力で逃げてるとかか? まったく、卑怯なやつだよ」

「とりあえず、まだ近くにいる可能性はあるな。俺はあっちを探してくる」

「分かった。俺は反対側に行くから、何かあったら連絡してくれ」

 

 こうして2人はそれぞれ違う所を探索することにして、岩下はとある公園を探し始める。

 注意深く辺りを見渡してみるが、陸王らしき人は見当たらない。

 

「フライドチキン。フライドチキンはいかがですかー?」

「おかあさーん。あれ食べたーい」

「あら。美味しそうね。晩御飯用に買って帰りましょ」

「くっそ……あれ美味そうだな……。あ、でも今バイトクビになって金ねぇんだ..」

 

 耳をすませば色々な人の話し声が聞こえるが、陸王の声は聞こえない。

 そもそもここに陸王がいるのなら、この辺一帯は女性の黄色い歓声であふれかえっているだろう。

 

「ここにもいないのか……。一体どこにいるんだよ……」

 

 思えば今日一日はネットを頼りに歩きっぱなしだったため、岩下の足取りは重くなっていた。

 とりあえず近くのベンチに座り、川島と合流しようと電話を取り出した。

 

「すみません」

 

 ふと、近くで女性の声が聞こえた。岩下が辺りを見渡すと、ベンチの後ろ側に綺麗な女性が立っていた。

 服装は若草色のワンピースながらも、どことなく和の雰囲気を醸し出している。まさに大和美人という言葉が似合うような、そんな美女だった。

 

「あ、え、はい! なんでしょうか!」

「あらまぁ。ずいぶんと声がうわずってますが、どないしはりました?」

「あぁ、すいません。急に話しかけられたもので……」

「すみませんわぁ。困ってたもんでしたから、つい話しかけてしまいましたわ。かんにんな」

「は、はぁ……」

 

 謎の美女は京都弁? を使いながら話すと、岩下の隣に座る。急に話しかけてきた美人に対し、岩下は下心はありながらも警戒を強める。

 

「あんな、うちはつい最近ここに来たんやけどな。予約してた旅行のつあーがおじゃんになってしもうてな? これからどうしようって思ってたんよ」

「えーと……。それと俺になんの関係が?」

「察しが悪いどすなぁ。あんたみたいにかっこいええお兄さんにこの街を案内してほしいってだけさかい。そんな警戒せんでくれまし」

「……」

 

 岩下は思った。こんなうまい話があるだろうか。

 つい最近女性絡みで辛酸をなめた岩下に対して、このお誘いはとても魅力的なものだった。だが、どうしてもぬぐい切れない疑念はあった。この公園だけでも結構な人数がいるし、なにより他のサービスがあるはず。その中で、なぜ自分なのだろうか。

 

 ……だが、目の前の美人を前にして、岩下は一旦考えるのをやめることにした。

 

「……まぁ、俺も丁度暇してたので、いいですよ」

「ええんか? ほんまおおきになぁ。でも、お連れさんは大丈夫なん?」

「いいですよ。一応こっちで連絡しておきますし」

 

 とりあえず、川島には少しはぐらかして連絡をいれておく。美人と一緒に街巡りなどと正直に言ってしまえば、今度会うときになにをされるか分からない。そんな考えだった。

 

「いよしと……。じゃあ行きましょうか。そういえば、お名前は?」

「うちどすか? うちは若宮。若宮(ワカミヤ) 美月(ミヅキ)言います」

「美月さんですか。俺は岩下です」

「岩下.……ええ名前どすなぁ」

 

 そんなことを話しながら、さっきまでいた公園を離れる。岩下は期待に胸を膨らませながら、美月をエスコートしていく。

 

「……」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここは喫茶『半世紀』です。ここのコーヒーはこの辺りでは有名なんですよ」

「そうなんどすなぁ。でもうち、熱いもの飲めへんのよ。緑茶でもええどす?」

「全然かまいませんよ! というかむしろ俺がおごります!」

「ええんですか? 懐が広いわぁ」

 

 

 

「この商店街も中々風情がありますなぁ」

「ここのコロッケもおいしいんですよ。食べますか?」

「う~ん……。お気遣いありがたいけど、ええどすわ。お肌に悪そうやしな」

「そうですか。そういえば、美月さんは普段は何をしてるんですか?」

「うちは普段は京都の方で舞子をやっとります。今日から一週間くらいは普段の疲れを癒すために一人旅行しとるんですわ」

「なるほど……。ならあそことかよさそうですね」

「あそこ?」

 

 

 

「つきました! ここは足湯が有名なんですよ」

「足湯どすか……。確かに疲れがとれそうですな」

「そうですね。じゃあ俺はあっちの方で..」

「ちょい待ってや。折角やし、隣に来てくれんか?」

「と、隣!? それは流石に……」

「別にええやろ? ……もしかしてやましいことでも考えてはりましたか? このスケベ」

「んなっ! 別にそんなことないですけど!?」

「んふふ……冗談やで。ほら。こっちにきいや」

 

 

 

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 どれほど時間が経っただろうか。日は沈んで時刻は夕方となり、最初に出会った公園に2人は帰ってきた。

 昼間よりも随分と人が少なくなり、一日の終わりが感じられる。

 

「いや~。今日は楽しかったわ。ほんまありがとうな」

「いえいえ。お役に立てたなら何よりです」

 

 そう言いながら、岩下はチラリと自分の財布を確認する。

 結局調子にのって色々おごってしまい、昼間より随分と中身が軽くなってしまった。

 まぁ、仲良くなるための必要な犠牲と考えればそれでいい。

 

「……そういえば、まだ岩下はんにお礼、してなかったですな?」

「え!? あ、はい。そうですね」

「今日は色々とおごってもらったし、感謝はちゃーんと伝えんとあかんからな」

 

 美月はそう言うと、ゆっくりと岩下に近づいていく。顔に手を添え、体を重ねるように近づいていく。美月の顔が息がかかるくらい近づいてきた時、思わず岩下は目をつむった。

 

 

 

「最後に、最高のお土産。いただくな?」

 

 

 

 瞬間、何かが自分の顔の横を通った。岩下が恐る恐る目を開けると……顔の横には鋭い剣があり、ベンチの背もたれに先端が突き刺さっていた。

 

「うわぁっ!?」

 

 岩下は思わず驚き、ベンチから転げ落ちながら美月から距離を離す。

 美月自身は抵抗されたことにさほど反応はなく、ベンチから剣を抜くと淡々と話し始める。

 

「あらまぁ……。目ぇつぶっててくれたら一撃で終わらしたんやけどな...。なんで逃げるん?」

「いやいや! 急に剣出してきてそっちがなんですか!」

「ん? あぁ。やっぱり岩下はんは察しが悪いどすなぁ。てっきり分かったうえで泳がせてるのとばかり……」

 

 そう言いながら、美月は懐から何かを取り出す。その何か、岩下には見覚えがあった。

 それは岩下が持っているものと一緒……正確には少し違う『センタイリング』そのものだった。

 

「そ、それって!?」

「ふふっ。ほんまに面白い人やわぁ。えんげぇじ」

 

『センタイリング!』

 

 美月が銀のテガソードに指輪をセットすると、聞き馴染みのある待機音が流れる。そのリズムに合わせ、美月は舞を取り入れたように手を叩く。美人は何をしても絵になる。そんな様子だった。

 

「はっ!」

 

『ライブマン!』

 

 そのまま岩下が見惚れていると、美月はテガソードのトリガーを押す。網目状の何かが纏わったかと思えば、奇しくも岩下の指輪の戦士と同じ鳥の様な姿、『レッドファルコン』へと姿を変えた。

 

「さぁ……指輪、渡してもらいましょか!」

 

 間髪を入れず、ファルコンセイバーを取り出して岩下へと襲いかかる。そこには先程までのお淑やかさはどこにもなく、岩下にとっての敵でしか無かった。

 

「ぐっ! エンゲージ!」

 

『センタイリング!』

 

 岩下は間一髪でファルコンセイバーをテガソードで受け止めると、そのまま指輪をセットする。すぐさまトリガーを押し、岩下の周りにキューブ状のものが回転したかと思えば、レッドファルコンと同じ鳥の戦士、ジュウオウイーグルへと変身した。

 

「それがあんさんの力ですかい」

「そうだな! まさか鳥同士の対決とはなっ!」

「うっ!」

 

 すぐさまレッドファルコンの腹を蹴り、一度距離を離す。ファルコンセイバーとイーグライザーを向かい合わせ、互いの様子を伺うと……同じタイミングで斬りかかり、鍔迫り合いが起きる。

 

「鷲の人は早く地面に帰ったらどうどす!」

「隼ごときが言ってんじゃねぇ! 空の王者、舐めるなよ!」

 

 鷲と隼の戦士は、互いの剣で一撃を与えるも、すぐさま並行に走り出す。ファルコンセイバーから放たれる斬撃を、イーグライザーで斬り落とす。激しい火花が散る中、二人の実力は拮抗していた。

 片方が攻撃し、もう片方がそれを躱す。そんな攻防が続く中、先に動いたのはレッドファルコンだった。

 

「ぐっ! 美月さん、こんな強かったのかよ!」

「これでも身体は鍛えとるんどす! ふぁるこんそーど!」

「はっ!? 二刀流とか卑怯だぞ!?」

「勝負の世界に卑怯もあらへんわ!」

 

 レッドファルコンがどこからともなくファルコンソードを取り出すと、先から持っていたファルコンセイバーとの二刀流を使い始める。本来なら有り得ない組み合わせだが、二人がそれを知るよしはない。

 二つの剣を持ったレッドファルコンが、舞の動きを取り入れた動きでジュウオウイーグルを翻弄する。手数の増加、慣れていない動き、経験値の差。それによって、ジュウオウイーグルはどんどんと押されていく。

 

「ほらほらどうしはりましたか! あんさんの力はこんなもんどすか!」

「ぐっ...! 舐めるなぁ! 『野生(ワイルド)』! 本能覚醒!」

 

 だが、ジュウオウイーグルもやられるだけの戦士ではない。陸王用に隠していた指輪の能力、『野生(ワイルド)』を使うと、爪は伸び、背中には羽が生える。一時的にだが、秘めていた野生の力を解放し、獣の様に戦うことが出来るその力を、今使ったのだ。

 

「うおおおおおっ!!」

「なっ!? 空を飛ぶなんて卑怯やろ!」

「どの口が言うか!」

 

 そのまま上空へと上昇し、レッドファルコンの攻撃が当たらない距離まで離れていく。レッドファルコンは飛ぶ手段が無いため、ライブラスターで撃ち落とそうとするも、素早く飛ぶジュウオウイーグルには当たらない。

 

「喰らえ! ジュウオウバスター!」

「いやぁっ!?」

 

 そして上からジュウオウバスターを使い、反撃の如くレッドファルコンに攻撃を仕掛ける。幾つかの弾は相殺され爆発するも、全ては防ぎきれずにレッドファルコンに直撃する。

 

「はあああああっ! ジュウオウスラッシュ!」

「うぐぅっ!?」

 

 着弾したのを確認すると、羽を閉じて急降下し、鋭く尖った手の爪で勢いよく切り裂こうとする。レッドファルコンはファルコンソードで防ごうとするも、落下の勢いが乗った一撃を防ぐ事は出来ず、ファルコンソードが折れた上で身体に攻撃が当たり、レッドファルコンが地面を転がっていく。

 

「はぁ……はぁ……。勝負あったようだな」

「うぅ……っ」

 

 だがなんとか致命傷は避けたらしく、変身解除はしないままうずくまるレッドファルコン。再びイーグライザーを手に取ったジュウオウイーグルが近づき、トドメを刺そうとする。

 

「うぅ……岩下はん。ごめんなぁ。うち、こんな事するつもりは無かったんよぉ」

「うっ!?」

「つい魔が差してなぁ。……許してくれへんか?」

「そ、それは……」

 

 すると、美月は急に命乞いをする。傍から見てもバレバレの嘘なのだが、一度は心を奪われかけた岩下にとって、攻撃を躊躇わすには十分だった。

 

「はぁっ!」

「あがっ!?」

 

 その一瞬の隙をつき、レッドファルコンはジュウオウイーグルの腹を蹴り、大きく仰け反らせた。優勢だったとはいえ蓄積されたダメージは大きく、ジュウオウイーグルも膝をつく。

 

「はぁ……はぁ……卑怯な真似を……!」

「言ったやろ……。この世界に卑怯もクソもあらへんわ! 『治癒(りかばぁ)』!」

 

 先程ジュウオウイーグルが使った様に、今度はレッドファルコンが指輪の能力を使う。優しい緑色の光がレッドファルコンを包んだかと思うと、何事も無かったかのように立ち上がってしまう。

 

「な……なんで立てるんだよ!」

「指輪の能力でなぁ。治癒(りかばー)言うて、一回だけ体力回復出来るんや。いわゆる奥の手……というやつやな。そしてあんさんは随分と疲れとる。これで形勢逆転やな」

「そんな……」

 

 たった一瞬の躊躇いが、一気に形勢逆転を許してしまったジュウオウイーグル。再び上空からジュウオウバスターで攻撃を仕掛けようとするも、レッドファルコンはいとも容易く避け、逆にライブラスターを使って一撃で撃墜する。

 

「んがっ!?」

「その攻撃、さっき見たからなぁ。あんまり使わん方がええで?」

「くっそ……!」

 

 攻撃は見切られ、手の内は全て晒し、その上で体力の差は歴然。ジュウオウイーグルは、もはや詰みの状態まで追いやられた。そんな状態でも、レッドファルコンは慢心せずにトドメを刺そうとする。

 

「……岩下はん。ほんま楽しかったわ。ありがとな」

 

 それは建前か、それとも本心か。その言葉を確かめる術はなく、ファルコンセイバーがジュウオウイーグルに突き立てられようとしている。

 

 その時だった。

 

「待てぇ!」

「!?」

「川島!? なんでここに!?」

 

 そこに現れたのは、岩下と反対方向に離れた川島だった。川島はテガソードをレッドファルコンに構えながら叫ぶ。

 

「お前のメッセージで心配になったんだよ! なーにが『女性案内してくる』だ! しっかり詐欺られてんじゃねぇか!」

「川島……それは言わないで……」

「おい詐欺女! それ以上やるっていうなら、俺も相手になるぞ!」

「……」

 

 そこまで川島が言うと、レッドファルコンは変身を解除し、ジュウオウイーグルから離れる。いくら体力を回復させたとはいえ、二対一で戦うのはあまりにも不利。そう判断したのだろう。

 

「……ええどすなぁ」

「ん? なんか言ったか……?」

「……なんもないどす。今回はこの辺にしときますわ」

 

 ジュウオウイーグルも変身を解除し、岩下はその場に横たわる。そこに駆け寄る川島を見ながら、美月はその場を離れていくのだった。

 

「ったく……。何やってんだよお前」

「すまん。まさか美月さんが指輪の戦士だとは..」

「……まさかとは思うが、気があった訳じゃないよな?」

「ち、ちげぇよ! 確かに美人だったけど!」

「見惚れてんじゃねえか!」

「しょうがねぇだろ! ……でも」

「でも?」

 

 そこまで話すと、岩下は美月が去っていった方を向く。既に日が沈み、辺りが薄暗くなっている中、もう既に彼女の姿は無かった。

 

「……なんか、寂しそうな気がした」

 

 

 

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 それから数日後、美月は喫茶『半世紀』……から名前を変えたのか、『テガソードの里』に来ていた。やけに聞き馴染みのある名前だが、気にせずに入っていく。数日前に来ていたはずだったが、今は一人だけだった。

 

「はーい。いらっしゃいませー。あ! この前来てくれた人ですよね?」

「あ……はい。そうどす。というか名前変えたんどすね」

「そうなのよー。新しい店長がコンセプトカフェ? ってやつにしたのよね。あ、もしかして、うち気にいってたんですか?」

「……そうどすな」

「それは良かったわ。ささ、ここに座って。お飲み物は前と一緒の緑茶でいい?」

「……今日はこぉひぃの気分どす。温かいのくんなまし」

「そう? 分かったわ」

 

 普段は頼まないホットコーヒーを頼み、そのまま窓の外を眺める。届けられたコーヒーをかき混ぜながら、思いにふけているのか、しばらくその場を動かなかった。

 

 その数分後、美月は公園のベンチに座っていた。お昼時だが、珍しく人がいない公園で、美月はライブマンの指輪を取り出し、ゆっくりと眺めている。

 ふと隣を見ると、ベンチに鋭い傷跡がついている。数日前の戦いで、美月が奇襲する際につけた傷だろう。美月はその傷をゆっくりとなぞり……またベンチにもたれかかる。

 

「……」

「……」

「……どなたどす? 乙女の休日を覗き見する悪い方は」

 

 それからしばらくし、美月は何者かの気配を感じて後ろを振り向く。するとそこには、テガソードと似ている武器を携えた銃のような戦士が立っていた。

 

「……」

「せめて自己紹介くらいしたらええと思いますけど?」

 

 明らかに指輪狙いであろうその戦士に美月が問いかける。少しの沈黙の後、戦士が口を開く。

 

「リングハンターガリュード。お前に罰を下す」

「りんぐはんたーなぁ……。随分と狙いが分かりやすいわな! えんげぇじ!」

 

『センタイリング! ライブマン!』

 

 その戦士……ガリュードが指輪を狙っていることを確信し、美月は素早くエンゲージする。そしてライブマンの姿となり、ファルコンセイバーを取り出して斬りつける……が、手の銃でいとも簡単に防がれる。

 

「はぁっ!」

「……」

 

 そのまま息をつく暇も与えまいと連撃を与えるも、ガリュードはものともせずに全ての攻撃を受け流す。

 

「ふん」

「あぐっ!?」

 

 更には一瞬の隙を見抜かれ、ガリュードに頭を殴られ、大きく吹っ飛ぶ。吹っ飛んでいく最中にも、ガリュードは手の銃を撃ち、ライブマンに追撃をしていく。

 

「この人……随分とお強いですなぁ」

「……」

 

 前回の戦いは両者の実力が拮抗していた為にライブマンが有利に立っていたが、この時点での実力は明らかにガリュードが上だと、美月は心の底で感じていた。

 ガリュードが手の銃口を向け、ライブマンを倒そうと歩いてくる。そんな中ライブマンが次に取った行動は...

 

「……降参や」

 

 両手を上げ、降参する事だった。それと同時に変身も解除される。それはつまり、美月が負けを認めたということでもあった。

 

「うちの負けや負け。多分このまま戦ったとて、あんさんに勝てる見込みはないわ。やから降参」

「……」

「この指輪もあげたるわ。変身も解除したし、あんたにもう危害は加えん。……でも、一つだけやりたいことがあるんやけど、ええか? もちろん、あんたに不利益はあらへんで」

「……」

 

 そこまで言うと、ガリュードはゆっくりと銃口を下げ、早くしろと言わんばかりに手を組んで美月の行動を待っている。

 

「……ありがとうな」

 

 美月は、ライブマンの指輪を取り出すと、その能力で最後に自分の傷を全て癒し、そして指輪を外してガリュードの方へと投げた。

 

「ほら。約束の指輪や」

「……」

 

 ガリュードは転がってきたライブマンの指輪を無言で回収すると、興味が無くなったかのように去っていった。その後ろ姿が見えなくなると、美月は立ち上がって再びベンチに座る。

 

「ふぅ……」

 

 何か憑き物が落ちたかのように深呼吸すると、空を見上げたまま動かなくなる。そのまま数分が経過した時だった。

 

「あっ」

「げっ」

「あら」

 

 ふと前方に目を向けると、こちらを見ていた二人組とばったり目が合った。それは先日死闘を繰り広げた岩下と、後から来て助けに入っていた川島だった。予期せぬ遭遇に沈黙が続く中、先に口を開いたのは美月だった。

 

「……丁度ええわ。少しお話聞いてくれます?」

「い、いやいや! この前の続きをやるつもりか!?」

「いや、そういう訳では……」

「残念だったな! 俺達はもう百夜陸王に負けて指輪は持ってないんだ! 騙すなら別の人にしな!」

「おい待て川島! そんな勢いよく言うことか!? ただただ俺達の傷を抉るだけだぞ!?」

「ぐっ……確かに」

「……プッ……アハハハハハ!」

 

 そんなコントのような事をしていると、突然美月は勢いよく笑い始めた。普段のお淑やかな美月からは考えられないほど笑っているため、言い争っていた二人は驚いた表情で美月を見ている。

 

「アハハ……あーお腹痛いわ。そんな警戒せんでもええで。うちもついさっき銃の人に負けて、指輪渡したところや」

「銃の人!? それって百夜陸王じゃないのか!? まさかこの辺りに!?」

「なぁ美月さん! それって青いライオンみたいなやつじゃなかったか? もしそうだったらどこに行ったか教えてくれ!」

「いやお前こそ待てよ! 今陸王に会ったところでどうやって復讐するんだよ!」

「そうだったーっ! 俺達もう負けてたー!」

「アハハハハ! や、止めてくださいな! お腹よじれてまう! アハハ!」

 

 ……更に数分後、そんなこんなでコントしている二人と大爆笑している美月はなんとか落ち着き、互いにもう指輪はないということで話し始めることにした。

 美月と岩下、川島はそれぞれの戦いを共有し始めた。岩下と川島は百夜陸王……ゴジュウレオンに対決を挑み、指輪の能力すら使えず敗北した事を。美月はガリュードと名乗る戦士に手も足も出ず、降参を選んだ事を話した。

 

「ガリュード……そんな強いやつがいたんですね」

「そうなんよ。多分そのごじゅうれおん? って人くらい強いと思うわ」

「えぇっと……美月さん、でいいんですかね?」

「ええで。川島はん」

「その美月さんが強いって言うなら、相当なんでしょうね。そのガリュードってやつ」

「別にうちが強いって訳ではないで。うちは指輪の能力込みの戦い方やし、素の力は多分あんさんらにも劣りますわ。というか、あんさんらは普通に負けたんですかいな」

「しょ、しょうがないだろ! あいつ普通に強かったんですよ!」

「指輪の能力使う間も無かったですもんな」

「ぐっ……。ぐうの音も出ねぇ……」

「出てるじゃん」

「出てますなぁ」

「今のは慣用句だろ! 揃ってツッコむな!」

 

 とても数日前まで戦い、先程まで警戒していたとは思えないほど、優しく楽しげな空気が広がっていく。岩下が語り、美月が刺し、川島がツッコむ。そこはまるで、仲の良い友人同士の会話だった。

 

「……なぁ」

「ん?」

「どうしました?」

「……いや、ちょっと聞いて欲しいだけどす。うちのくだらない昔話」

「え、急に? 今の流れで?」

「別にええやろ? 聞いたところで減るもんなんてあらへんし。なんやったらお金取ってもええんやで?」

「……ちなみにいくら?」

「30万」

「「ぼったくりじゃねぇか!」」

「嘘嘘。冗談やから安心してな」

 

 そこまで言うと、美月はゆっくりと話し始めた。先程とは違う、静かな雰囲気で。

 

 

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 うちは関西の方出身なんやけどな、小さい頃はお顔もよろしくなくて、体型も少し……いや、結構太ってたんよ。意外やろ? よく言われるわ。それでよく他の人達から虐められてたり、悪口言われてたわ。豚だのでぶだの……色々あったわ。

 それが悔しくてな。高校入る前に必死に化粧やらだいえっとやら頑張って、今の姿になったやんけど、高校入ったらどうやったと思う? みーんな手のひら返して話しかけてくるんよ。小学校と中学校の同級生も噂を聞きつけて連絡してきたりしてきたんよ。

 その時にな、人間見た目だけでこんなにも扱いが変わるって知ってな。笑うしかなくなってたわ。やから学生時代なんもせずに大人なって、周りから勧められて舞子になったんやけど、今になってどうすればいいか分からんなってな……。

 

 

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「そんな時に指輪も手に入れて、変わるいい機会やと思ってな。一人旅行に来たんや」

「「……」」

 

 美月が話し終わり、三人の間に沈黙が流れる。美月は感想を待っているのか、穏やかな表情で二人を見つめてる。少しの間の後、岩下がなんとか発した言葉は……。

 

「……なんで今言いました?」

 

 ごもっともである。

 

「ん? 特に深い意味はあらへんで? ただあんたらに聞いて欲しいって思っただけや」

 

「そう...ですか」

「まぁそんな深く考えんでええで。なんか話してすまんな」

 

 美月がそう言うと、岩下と川島は顔を見合わせて考えこむ。何か思うところがあるのだろうか。美月は少し不安になりながら二人を見つめる。

 

「……美月さんも色々苦労してるんですね」

「え? あ……まぁ、そうどすな」

「そういや今どうすればいいか分からないって言ってましてたけど、やりたい事とか無いんすか?」

「……あったらええんやけどねぇ」

「でもさ、無いなら無いでいいんじゃね? やりたい事の為にお金貯めたりとか出来るしさ」

「それもそうだな。お前なんて食費に使いすぎて常に金欠だもんな」

「いやなんでそんな風に言うんだよ! 俺だって節約の一つや二つくらい..」

「それでその腹か?」

「うるせー!!! そういうお前はどうなんだよ!」

「結婚資金に貯めてたけど全部彼女に使われたんだよ!!!」

「あ……すまん」

「慰めるなーっ!!!」

「ふふふ……。アハハハ!! また漫才になってますやん! お二人共、芸人になったらええんとちゃいます?」

「「なるかー!」」

「アハハハハハ! 息ぴったりや!」

 

 真面目な話のつもりが、いつの間にかまた漫才のようになってしまい、美月は再び笑い始めてしまう。笑いが収まった頃には、既に日は傾き始めていた。

 

「あーもう。真面目な話してたのが馬鹿らしくなってくるやん。どうしてくれるん?」

「いや笑ってるのはそっちで……」

「でもいいじゃないすか。美月さんは笑ってる方が似合ってますよ」

「……ありがとな。さて、うちはそろそろ帰るさかい」

「え、もう帰るんですか?」

「しょうがないやろ? 明日には京都に帰るんやからな」

「あー……。それはしょうがないですね。ならここで解散にしますか」

「ええんか? おおきにな」

 

 そう言うと、美月は身支度をし、二人に背を向けて歩き出す。その背中は少し前までとはまるで別人のように、軽やかな雰囲気を醸し出していた。

 

「あ、美月さん!」

「ん? どうしたんや?」

「またこっちにも来てくださいねー!」

「……え?」

「そうそう! 俺ももっと色んな話聞きたいんす!」

「……ええんか? うちはこの前...それこそ岩下はんに至っては騙そうとしたんやで?」

「そんなのもう関係ないですよ。俺達もう友達じゃないですか!」

「……!」

 

 『友達』という言葉に美月は驚いたような表情を浮かべたが、すぐに普段のおしとやかな表情に戻った。

 

「……そうやな。じゃあまた来るときは連絡するわ。これ、うちの連絡先」

 

 そうして美月の連絡先が書かれた名刺を二人に渡すと、そのまま美月は去っていった。

 その後ろ姿を、友達となった岩下と川島が手を振って見送っていく。その光景は、完全に友達そのものだった。

 

 楽しく話していた公園から少し歩き、人気のないところへとたどり着いた美月。その歩みを止めないまま、彼女は胸にゆっくりと手を当てる。

 

 

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「でもさ、無いなら無いでいいんじゃね? やりたい事の為にお金貯めたりとか出来るしさ」

 

「でもいいじゃないすか。美月さんは笑ってる方が似合ってますよ」

 

「そんなのもう関係ないですよ。俺達もう友達じゃないですか!」

 

 

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「……友達、な」

 

 美月の歩みはどんどん軽やかなものとなり、その口元には少し笑みもこぼれ始める。今日の出来事を噛みしめるかのように、美月はどこかへと歩いていくのだった。

 

 

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 そんな出来事から数か月後、岩下と川島はいつもの公園のベンチで話し込んでいた。陸王に負けてからあまり会えていなかった二人だったが、とある出来事が起きたので急遽会うことになった。

 

「なぁ川島! お前のところにも来たか!?」

「あぁ来たぞ! サンバルカンの指輪!」

「やっぱりか! 俺も来たぜ!」

 

 そう言いながら、二人はかつて奪われたはずの指輪を取り出して見せあう。

 そう。遠野吠という人物が指輪争奪戦で優勝し、その願いによって全ての指輪が新たな持ち主の所に渡ったのだ。この二人も、再び同じ指輪に選ばれたというわけである。

 

「なぁ岩下。今度の願いは何にする? やっぱり陸王に復讐するか?」

「いやなー。正直頑張ってる陸王見たら復讐する気も失せたんだよな。だから別の願いにしようかなって考え中。そういうお前は?」

「俺も復讐はもういいかなー。だから俺は美人な彼女が欲しい!」

「欲望駄々漏れじゃねぇか。確かウルフの指輪持ってるやつが倒しに来るんだろ? 大丈夫か?」

「平気平気! どんだけ強いか分かんねぇけど大丈夫だろ! 心配する要素がどこにあるってんだ?」

「いや……うん」

「……俺の腹見ながら言わないでくれないか?」

 

 そんな他愛もない会話をしながら、話題はいつの間にか美月の話へと変わっていった。

 

「……そういや、美月さんのところにも指輪行ったのかな?」

「行ったんじゃね? 俺達のところに元の指輪来てるし」

「でも美月さんって確か舞子さんだったろ? 戦う暇なんてあるのか? それにどんな願いだったか結局聞きそびれたし」

「それもそうだな……。あれ以来連絡もとってないからなー」

「なんの話しとるんどす?」

「あぁ。丁度美月さんの話をして……はっ!?」

「えっ!?」

 

 すると、後ろからしばらく聞いていなかった声が聞こえ、二人は後ろを勢いよく振り返る。そこには、話題の人であった美月が立っていた。

 

「お二人さん。お久しぶりどすな」

「み、美月さん!? なんでここにいるんですか!?」

「歩いてたらお二人の姿が見えたんでな。こっそり後ろから聞かせてもらってたわ」

「……ちなみにどこから?」

「岩下はんが腹見てはった少し前くらい?」

「ほぼ全部じゃないですか!」

「お二人の漫才、久しぶりに聞いたけどおもろかったわー。あ、もしかして芸人なりました?」

「「だからなってねぇよ!」」

 

 そんな数か月ぶりのやりとりをしていると、岩下はあることに気づいた。美月の雰囲気が前とは明らかに違うのだ。最後に会った時は和風美人のような美しいワンピースだったが、今はどことなくスタイリッシュな服装になっている。

 

「……あれ? 美月さんイメチェンしました?」

「確かに。なんか前と雰囲気違いますね」

「あ、分かります? うち、舞子やめたんよ」

「へー。舞子やめたんです──やめたぁ!?」

「えぇ。舞子やめてこっちに引っ越してきましたわ」

「いやいつ!?」

「昨日」

「昨日かよ!」

「ち、ちなみに今のご職業って……」

「今はじむでいんすとらくたーやっとりますわ。若いころ、やせるついでに勉強してたのが役立ってよかったわー」

「そんな軽くいうことなんですか……?」

「だから服装もそんな動きやすい服に……」

「あ、そうや。お二人さん、運動に興味あります? うちの紹介なら割引もはいりますで?」

「いや、えーと。運動はちょっと……」

「俺は運動はするより見ながらピザとコーラ食べる派なんで……」

「なーんや。可愛い子沢山おるのに……残念や──」

「「行きまぁす!!!」」

「アハハハハ! 息ぴったりやないか!」

 

 二人は美月の変わりすぎた近況に驚きつつ、前と変わりない美月と久しぶりの会話を楽しんでいく。

 

「そういえば美月さん。指輪の話知ってます?」

「え? あぁ。確か指輪がまた配られたって話やろ?」

「そうそう。俺達のところには指輪戻ってきたから、美月さんのところにも来てるかなーってさ」

 

 そこまで川島が話すと、美月は少し黙った後……ゆっくりと口を開いた。

 

「……うちのところには指輪、来なかったどす」

「え!?」

「全員に帰ってくるわけじゃないのか……」

「……まぁ、うちの願いなんぞちっぽけなもんやし、他の人にちゃんす巡ってくるならその方がええですわ」

「……美月さんがそう言うなら」

「だな」

「さ、しんみりした雰囲気も終わりや! あんさんらには指輪返ってきてるんなら、今からじむ行って運動したほうがええちゃいます?」

「え、今から!?」

「鉄は熱いうちに打てって言いますやろ? ほら、川島さんはよ立ちなさいや」

「ええちょ! あんまりせかさないでくださいよー!」

 

 いつのまにそんな力をつけたのか、美月は動きそうにない川島をなんなく押していく。明らかに勝てそうにない為、岩下は何も言わずついていこうとするが、その時、ふと美月に聞きたいことを思い出した。

 

「あ、そういえば美月さん」

「ん? どうしたんや?」

「結局、美月さんの願いってなんだったんですか?」

「……あー」

 

 岩下がそう聞くと、美月は少し笑みを浮かべながら岩下に近づいていく。その顔は、いたずらをする前の子供そっくりである。

 

「……さっきも言いましたけど、うちの願いなんてちっぽけなものですわ。そんなペラペラ言う話でもありません」

「うぐっ」

「それにな……」

 

 先ほど「彼女が欲しー!」と言っていた川島に謎のダメージがいっている中、美月は気にせず岩下に近づくと、その唇に人差し指をそっと当てた。

 

「乙女は、秘密の一つや二つあったほうが美しくなるもんやで?」

「!?」

「ふふっ。ほら、早く行きましょ」

 

 そう言って無邪気に笑う美月に驚きながら、岩下は二人に追いつこうと早歩きになる。周囲から見たらやけに変な組み合わせであるものの、本人達は気にする様子もなく、横並びで歩いていくのだった。

 

 

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 岩下と川島と再会したその日の朝。借りているアパートで美月が目覚め、辺りを見渡すと、机の上に光るものがあった。美月がよく目を凝らしてみると、そこにはかつて別の戦士に渡したはずの指輪……ライブマンの指輪がそこにはあった。

 

 別に心当たりがないわけではなかった。前日に京都から東京まで移動している最中、指輪争奪戦の終了と再開催のニュースを目にしていたのだ。かつては指輪の戦士だったとはいえ、今の自分とは無関係だろう。そう考えていた次の日の出来事だった。

 

「……まさか、またうちのところに来るなんてなぁ」

 

 美月は潜っていた布団から出て、机の上にある指輪を手に取る。たった少ししか持っていなかったはずなのに、やけに手になじむその指輪は、再び美月を戦士の道にいざなおうとしている。

 

「……」

 

 だが美月の行動は違った。今までの出来事を懐かしむように指輪を触りながら、部屋についている窓を開けた。部屋に射す光は晴れの象徴であり、風は少し寒いながらも、どこか春を思わせるにおいを運んでくる。今日はきっといい日になるだろう。そう思わせるには十分だった。

 

 窓を開けた美月は深く呼吸をすると、持っていた指輪を両手に乗せ、独り言をつぶやきはじめる。部屋には誰もいないはずだが、その独り言は誰かに話しかけているようで。

 

「……指輪はん。またうちの所に来てくれてありがとな。でも...うちはもうええです。うちの願いは叶いまして、十分幸せになりましたわ」

 

「だからな...うちやなくて、誰か必要な人のところに飛んでってくださいな。あんたの力を必要としている人は、うちの他に沢山おるはずや。そんな人達の力に……『青春』を守ってくれません?」

 

 そう言うと、美月は指輪に軽くキスをして、ゆっくりと空へ掲げる。すると、指輪は呼応するように赤く光り、眩い光を放ちながらどこかへと飛んで行った。

 

 もう二度と自分のところには帰ってこないだろう。そんな事を思いながら、美月は指輪の放つ軌跡を眺めている。

 

「……これでよかったんよな」

「……」

 

 ふと、誰もいないはずの部屋に気配を感じ、美月は後ろを振り向く。そこには、色とりどりの恰好をした五人組が立っていた。周囲の四人には見覚えはなかったが、真ん中の一人だけは見覚えがあった。自身が変身していた戦士、『レッドファルコン』その人だった。

 

「なんや。別れの挨拶でもしに来たん?」

 

 美月はそう問いかけるが、彼らからの反応はない。だが、レッドファルコンは一歩前へと踏み出し……美月に対しサムズアップをする。そのままこれまでの感謝を述べるように、そしてこれからを応援するかのようにうなづくと、そのまま消えてしまった。

 

「……最後までいけずな人達やったなぁ」

 

 改めて自分一人しかいなくなった部屋だったが、そこに寂しさはなかった。きっと、新しい生活はいいものになるだろう。そんな予感も感じさせられる。

 

「……さて、買い物にでも行きましょ」

 

 そして美月は新しい服に着替え、部屋を出ていく。静まり返ったその部屋には、いつの間にか入ってきた赤い羽根が三枚、ゆっくりと机の上に落ちたのだった。

 

 




 ここまで見てくださった皆さん、ほんまにありがとな。
 これでうちの物語は終わり。こんな拙い物語を見てくれたこと作者に代わって感謝しますわ。

 ……え? うちの願いは結局なんやったんやって? 
 言ったやろ? 乙女には秘密があったほうがええんや。

 それに、もう分かってる人もおるやろうしな。ここでは控えさせていただきますわ。
 この後も他の方の物語があると思いますし、そっちも楽しんでくださいな。

 それではこの辺で。お疲れさんでした。
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