魔女に恋した少年兵の話   作:凶灰汁変人

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僕は、王子様になりたかった。

人々を助け、皆に寄り添い、幸せに導き、大切な人と共に過ごす……。
そんな、御伽噺の王子様になりたかった。


……だけど現実はそんなに甘くはなくて。
ただただ辛く苦しい、絶望しかなくて。
希望を持つことも、夢を見ることも、抱くことも出来なくて。



vanitas vanitatum, et omnia vanitas.

全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。




絶望に塗れた灰色の世界の中で、その言葉だけが、僕の全て。

排斥され、裏切られ、拠り所も失くし……今も尚、身も心も闇の中。
遥か昔に見た『希望』も無く、今の世界を絶望の底で、黒く汚れて生きる日々。
今までの人生を……世界を説明するのなら、この言葉で充分だった。





……あの日、君に出会うまでは。





あの時、突然現れた君は……灰色の世界の中でも、なお神秘的で可憐で、まるで御伽噺のお姫様みたいで。
初めて『色』を……久しぶりの『希望』を見たと、感じたんだ。



今なら、分かる。
きっと僕は、あの瞬間───


『これからよろしくね☆』


───君に、恋をしたんだ。





これは、本来とは少し違う世界の物語。

本来出会うことの無かった、一人のトリニティ生と一人のアリウス生の物語。

罪に汚れた魔女と、絶望に染まった少年兵が紡いだ、小さな奇跡と──────




──────青春の物語(BlueArchive)



第一想【~夜星と暁日~編】
01 小さな出会い


 

 

 

差し込む陽の光を受け、目を覚ます。

見慣れた崩れかけの壁から覗く陽光が、日の始まりを告げていた。

 

 

「うぐ……。」

 

 

体を起こそうと動かす度に全身が軋む感覚と脱力感に苦しみながら、自身の姿と周りを見る。

身につけていた服は無惨に破かれており、青く変色した痣があちこちから見えた。

オマケに、全身体液まみれだ。

 

 

「また……雑に使ったのか。」

 

 

そう頭の中で出た結論を小さくつぶやく。

今回は変な薬品でも使ったのか、今も尚体の動きも鈍く、記憶も曖昧だ。

 

 

(……まだ生きてるのか、僕は。)

 

 

そう諦めに近い心境が浮かび、落胆する。何度も終わりたいと願った。しかし、それは叶わない願いだった。

 

嗚呼、全て虚しい。

色も何も無い灰色の廃墟の中、僕は諦念の思考と共に、虚ろな意識を再び落とそうとした……その時だった。

 

遠くから建物内を歩く足音が聞こえてくる。

人数は……2人だろうか。

昨晩の奴らかと疑い、動きの鈍い身体を無理やり動かし、遠くに転がされていた短機関銃を拾う。

 

外れた扉の先に人影が見え、静かに構えた銃の引き金に力を込める。

 

 

???「待て、私だ。」

 

 

だが、聞き覚えのある声と共に、僕は引き金に掛けた指を離した。

直後に青髪の少女が奥から出てくる。

 

 

「錠前サオリ……。」

 

 

僕は銃を下ろし、足を引きずりながら彼女へ近づく。

彼女は昨晩に何があったのかを察してたようで、懐から少し汚れつつも形の整っている衣服を取りだした。

 

 

錠前サオリ(アリウススクワッド)「……新しい服だ。使え。」

 

「……ありがとう、ございます。」

 

 

僕それを受け取り、部屋の死角へ移動し、破れた服を脱ぎ捨る。

傍にあった壊れかけのシャワーの冷水で身を洗い、渡された新しい服へと着替える。

 

 

(用意するのも大変だろうに、この人は……。)

 

 

着替え終わり、破けてないことを確認した僕は、彼女の元へと駆け出し、疑問を投げかけた。

 

 

「ところで何故こちらに? 姫様のことはもう私には関係が……。」

 

サオリ「いや、今回はマダムの指示を伝えに来た。」

 

 

そう言うと、サオリは先程通ってきたトビラへの向き直り、奥にいるであろうもう一人に呼びかけた。

 

 

サオリ「準備が出来た。入れ。」

 

 

その一言で、1人の少女が入ってくる。

 

 

??「えっと…とりあえずその子、大丈夫なの? って、あなたは……。」

 

「……え。」

 

 

瞬間、僕の思考が止まった。

そこに、お姫様がいた。

あまりにも場違いな彼女に視線が釘付けになる。

 

 

サオリ「問題無い。入ってくれ。」

 

??「……その、ほんとに? 腕や顔の痣とか痛そうだし……何より、男の子……だよね?」

 

サオリ「……怪我などアリウスでは日常だ。それに、男自体は他の学園にもいるのだろう?」

 

??「まぁ、一応……と言っても、殆ど居ないのと同じだけどね。」

 

 

そう言い切った彼女と目が合うと同時、その顔に悲しみの表情が浮かんだのが見えた。

哀れみか悲しみか、その真意は分からない。

少し間を置き、サオリがこちらを向きつつ指示を伝えてきた。

 

 

サオリ「これから彼女は、アリウスに度々訪れることになる。その時に、彼女の側近として……従者として、そばで行動するようにしろと、マダムからの指示があった。」

 

 

その指示の内容に、僕は思考が再び固まる。

 

 

(僕が、このお姫様の……?)

 

サオリ「聖園ミカ、自己紹介を。」

 

??「うん。」

 

 

彼女は僕の目の前に来て、手をさし伸ばした。

 

 

聖園ミカ(ティーパーティー)「改めて……初めまして☆ 私はトリニティのティーパーティー、聖園ミカ!これからよろしくね☆」

 

 

そう言い切った時、彼女が笑顔を向けた。

 

暴力と痛みによって教えられてきた、今までのトリニティへの憎悪すらも、かき消すほどの彩やかな笑顔を。

黒い空に瞬く星空のような美しさと、頂く大きなヘイローを。

凍った心が溶け始める感覚で包まれた、この気持ちを。

 

多分、僕は一生忘れることはないだろう。

……何故か、僕はそう思った。

 

 

サオリ「お前も自己紹介しろ。」

 

 

そう錠前サオリが告げ、我に返る。

僕はぼーっとする思考に火をくべ、彼女に挨拶をする。

 

 

「……私の、名前は……○○○です。よろしく、お願い……いたします……ミカ様。」

 

ミカ「ミカ様って……なになに? 緊張してるの? 私の従者さん☆」

 

「……すみません。」

 

ミカ「あは☆ 顔真っ赤w 照れてるの?」

 

 

何故だろう、顔を見れない。

相手は憎むべきトリニティの……1番上の存在。

本来なら、ここでヘイローを壊すべきだと言うのに。

見ようとすると声が詰まり、顔に熱さが集まり心臓が破裂しそうな程に早くなる。

今まで感じていた虚しさや憎しみなどでは無い。これは一体……?

 

 

ミカ「……まだ慣れないかもしれないけど、改めて……これからよろしくね? ○○○くん。」

 

「……はい、よろしくお願い、いたします。」

 

 

僕は、さし伸ばされた手をとり、彼女の付き人に……従者になったのだった。

 

 

今までにない出来事。

戸惑いと不安の重圧が胸を押し潰してくる。

だけど、それでも……。

……彼女を信じて進んでみようと、そう思ったんだ。

 

 

 

崩れかけの廃墟での、小さな出会い。

この出会いが……僕たちやキヴォトス(この世界)の運命を大きく変えることになることを、この時は誰も……知らなかったんだ。




アリウス分校2年生
部活 アリウス特別遊撃整備兵
○○○

年齢 推定17歳
誕生日 不明
身長 ???cm
趣味 なし?
CV ???

アリウス分校に所属する少年。
衰弱している所をカタコンベ内で発見され、それ以来アリウス分校に所属している。
男であるという立場から、アリウス内でも特殊な扱いを受けている。
アリウスに来る前の記憶はあるものの、固く口を閉ざしている。
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