魔女に恋した少年兵の話   作:凶灰汁変人

3 / 7



百合園セイアのヘイローが破壊された報告が上がってから、ミカ様は来なくなった。
少し考えれば分かるくらい、当然のことだった。
……友人のヘイローを、間接的にとはいえ彼女自身の手で壊してしまったのだから。
だからもう、ここに来ることもないだろう。

僕は……彼女と一緒に居たいという我儘で、彼女を傷つけた。
もしかしたら、また来てくれるかもしれない……そんな淡い期待を、未来に希望を持ったから壊れた。
全ては虚しい、その教えが頭を激しく叩き、現実へと引き戻してくる。




お前は永遠に孤独に生きるんだ






03 ひとつの"約束"

 

 

体が宙を舞い、地面を滑る。

 

 

「うぐっ……カハッ……。」

 

 

嗚呼、これも罰なのだろう。

未来への希望を、夢への期待をした僕自身への、運命からの罰。

 

今まで通りの泥にまみれる日々。

彼女が来る前の世界に戻った。それだけだ。

 

 

アリウス部下A「おい『泥犬』。いつまで寝ている。」

 

アリウス部下B「これだけで動かなくなるとは、本当に脆い。」

 

 

激しい痛みが全身を襲う。

だけど、この程度だったら全然平気だ。

元々ヘイローや神秘が強いのもあるのだろうが、それだけでは無い。

……こんな痛みなんて、もうだいぶ昔に慣れてしまったから。

もっと酷い痛み(孤独)を、既に昔に知ってしまったのだから。

ただ、それだけだ。

 

 

アリウス幹部「では、今回もこいつを……」

 

 

そう言い、こいつらが僕の服に手をかける。

あぁ、結局はこうなるか。

まぁ、はけ口にされるのもいつもの事だ。いつものように大人しくしよう。

変な道具でも使われたらたまったものではない。

それに抵抗しなければ、心を無にすれば……苦しみも虚しさも無いのだから。

そう思い、されるがままに身をまかせようとした、その時だった。

 

 

 

ミカ「やっほ☆ ねぇ、何してるのかな?」

 

 

 

幹部一同「「「っ!?」」」

 

 

 

この場で、絶対に聞くことが無いであろう声がする。

その声音と共に、灰色だった世界に色が灯り始め、同時に自身の我儘が胸を焼き、痛みを伴っていく。

 

 

アリウス幹部「貴様は……聖園ミカ!? 何故ここに貴様が……!?」

 

ミカ「あはは☆ 単純な事だよ。……計画の続き、持ってきたんだよ。」

 

 

そう言いながら、懐から書簡を取り出す。

 

 

ミカ「ほらほら、貴方たちの上に報告に行かないと……ね?」

 

アリウス部下B「ひっ……!?」

 

 

その書簡を押し付けるその手には、力が込められていた。

書簡はぐしゃぐしゃに萎れ、彼女の指がめり込んでいた。

書簡を渡し終え、手を離すと同時、耳元で彼女は幹部に囁いた。

 

 

ミカ「あと……これから先、その子に手を出したら……分かってるよね?」

 

 

その一言を言う彼女の瞳は、お姫様のような可愛らしいものとは真逆の……凍てつくような、相手を壊すかのような、恐ろしい雰囲気を秘めていた。

 

 

アリウス幹部「ッ……!!!」

 

 

一瞬、幹部が後ずさる。

あんな威圧を間近でくらえばそうもなるだろう。

だがその後すぐ、彼女に対して言い返し始めた。

 

 

アリウス幹部「……はっ、マダムが貴様にこの泥犬をあてがったのも納得がいく。お前も、我々と同じに成り下がったというのに上から目線とは。全くもって頭の中はお嬢様のままなのだなぁ?『魔女』よ。」

 

アリウス幹部「この『泥犬』は貴様にくれてやる。『裏切り者の魔女』と『種馬の泥犬』、お互いお似合いだろう。」

 

 

幹部の吐き捨てた言葉の数々に、彼女の表情が少し強ばるのが見えた。

 

 

アリウス幹部「……行くぞ。マダムに報告する。」

 

アリウス部下達「「りょ、了解。」」

 

ミカ「……。」

 

 

走り去る彼女らが見えなくなるのを確認し、地に伏す僕に近付く。

 

 

「……お久しぶり……ですね……うぐ……。」

 

ミカ「……喋らないで。怪我が酷くなるよ。」

 

 

そう言いながら、彼女は僕の腹部に出来た無数の痣を確認し、応急処置を行う。

 

 

「……ほっといてもいいですよ……どうせこのヘイローがある限り……すぐ治りますし……。」

 

 

そう言いながら、僕は頭上にある独特なヘイローを指さす。

 

 

ミカ「……だとしてもだよ。わかった?」

 

 

そう言いながら、淡々と応急処置を施す彼女を僕は静かに眺める。

その顔には、いくつもの感情が入り交じった、とても辛そうな表情が浮かんでいた。

応急処置の途中、彼女が懐から何かを取り出した。

 

 

ミカ「……試しにこれ、使ってみようかな。」

 

 

そう言いながら、手に握られたボール状の手榴弾を破裂させる。

しかし広がるのは爆炎の痛みではなく、癒しの感覚。

 

 

「これは……聖水?」

 

ミカ「うん☆ 最近流行ってる手榴弾でね、敵意を向けてない人には癒しを与える手榴弾なの。正義実現委員会の中には、これを主軸に使ってる子もいたっけ。」

 

 

破裂し散布された聖水が、僕らの周りを霧状に包み込む。

その霧が痛みを和らげ、呼吸も軽くなっていく。

アリウスの外にはこんなものもあるのかと驚く僕を他所に、彼女は応急処置を続けた。

 

 

ミカ「……はい、これでいいよ。あ、でも無理やり動いたりしないでね?あくまで痛みとかを和らげる程度だからね。」

 

「……ありがとうございます。」

 

 

応急処置を終えた彼女が、僕の隣に座り込んだ。

メイクで誤魔化されていたが、彼女の顔には疲労と泣き腫らした跡が見て取れた。

 

 

「……応急処置、詳しいんですね。」

 

ミカ「まぁね。BDで習ったってのもあるけど……昔私と遊んでたナギちゃんが怪我しちゃったことがあってね。最近も、セイアちゃんの体調が……。」

 

 

彼女の名前がこぼれた瞬間、彼女に辛そうな表情が浮かび、言葉が詰まった。

 

 

「……無理に話さなくていいですよ。」

 

ミカ「……うん。」

 

 

地面に座り込み、顔を伏せる彼女の姿は……とてもトリニティのトップに立つ、ティーパーティーのひとりには見えない。

その姿は……どこにでもいるような、一人の女の子だった。

 

 

ミカ「……とりあえずさっきの手榴弾、もうひとつ持ってるから渡しておくね。もし何かあった時に使って?」

 

 

そう言いながら、彼女が先程の手榴弾を差し出す。

ちゃぽんと中に入った聖水が音を立て、不規則に手のひらの中で揺れるソレを、静かに受け取る。

……これは、大切に持っておこう。

そう思考すると、彼女は質問を投げかけてきた。

 

 

ミカ「……ねぇ、聞にくいことだって分かってはいるんだけどさ……」

 

「……なんですか?」

 

ミカ「……さっきの『種馬』って、どういうこと?」

 

 

あぁ、あれのことか。

そう思いながら、返答を口にする。

 

 

「……そのままの意味ですよ。私は、元々『種馬』として拾われたんです。」

 

ミカ「……。」

 

 

黙りながら聞く彼女を横目に、僕は返答を続けた。

 

 

「……私は、元々アリウスで生まれたわけではないんです。あのカタコンベで瀕死の状態で倒れているのを、アリウススクワッドの姫様に助けられたんです。今から……4年くらい前でしょうかね。」

 

「……本来なら見殺しやら売られるやら、色々とされていたんでしょうけど……幸い、僕の持つ神秘の量や質が特殊らしく、マダム直々に介抱されたんです。」

 

「そして、その後に言われたのが……姫様の従者として寄り添い、時が来たら種馬になり、『ロイヤルブラッド』の血を残し、その後死ぬという使命でした。」

 

ミカ「っ……! そんなのって……!」

 

「仕方ないですよ。此処の外はどうかは知りませんが、少なくともアリウスにいるヘイローを持った男は私だけなので。それに……」

 

「……ここは、"独り"じゃない。だから、すごくいい所なんですよ。」

 

ミカ「……。」

 

「まぁ……今はもうその使命も無くなって、従者の立場も無くこうして欲望のはけ口になるって日々……だったんですけどね……。」

 

「……すみません、気分を悪くされたのなら申し訳ありません。」

 

ミカ「……ううん、大丈夫。教えてくれて、ありがとね。」

 

 

若干の沈黙が、僕達の間に流れる。

その重い雰囲気を変えようと、こちらから話を振り始めた。

 

 

「……応急処置、ありがとうございました。本日はどのようなご要件でお越しに?」

 

 

僕はフラフラと覚束無い足で立ち上がりながら、彼女に問いを投げかけつつ彼女の方へと顔を向ける。

伏せた顔からちらりと覗く彼女の目には、強い決意が宿っていたのが見えた。

 

 

ミカ「……今日、ここに来たのはさっきの書簡を渡しに来ただけじゃないの。」

 

「……というと……?」

 

 

彼女はスクリと立ち上がりながら向き直り、僕の方へと手を伸ばし、こう誘ってきた。

 

 

ミカ「ねぇ、ちょっとお話……しない?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

ミカ「とうちゃーく☆ ここだよ〜……って、大丈夫?」

 

「きゅ、急に抱きかかえて飛ばないでくださいよ……おぇ……。」

 

ミカ「あはは〜……ごめんね?」

 

 

あれから数時間後、僕たちはトリニティ校舎の屋上にいた。

 

初めて見る、アリウスの外の景色。

立ち並ぶ建物は、僕の知る遠くの異国の土地を想起させる。

しかし、目の前に混ざるように立ち並ぶビル群は、懐かしさと嫌悪感を思い出させてくる。

 

先程まで見えていた夕焼けは地平線へと隠れ、夜の闇が空を覆い始める中、彼女は言う。

 

 

ミカ「ほら、そろそろだよ。」

 

 

そう彼女が言ったその時、夕焼けが完全に闇に染まり世界を黒く染めあげる。

それにつられて、空を覆う星々の瞬きをかき消すほどに煌めく光景が広がった。

 

 

「……すごい……。」

 

 

それは、トリニティの街並みが織り成す、一面に広がる夜景だった。

広大なトリニティのビル群や街並みが、一つ一つの灯りを紡ぎ、光の海と成して広がる。

こんな光景は……初めて見た。

 

 

「綺麗……。」

 

ミカ「でしょ? 私のお気に入りの光景なの。○○○くんに見せたかったんだ。」

 

「……ですが、夜間に校舎侵入は……。」

 

ミカ「あはは……こ、今回だけだから……。」

 

 

 

 

ミカ「……ねぇ、○○○くん。」

 

 

彼女の呼び掛けに僕は彼女の方へ顔を向ける。

その表情は、真剣そのもの。

僕が緊張すると同時、彼女は切り出した。

 

 

ミカ「また、貴方達アリウスの力を貸してほしい。」

 

「……!」

 

ミカ「……あれからナギちゃん、エデン条約を押し進めて、ゲヘナと手を組むとか言い出したんだよ。もう、変な方向に止まらなくなっちゃった。」

 

ミカ「その上、最近失踪した連邦生徒会長の代わりに外の世界から来た『シャーレの先生』すらも利用しようとしてる。」

 

ミカ「……だから、私も止まらないことにしたの。セイアちゃんのヘイローを私が壊したようなものだし……もう、止まれない。それに……」

 

ミカ「私は、アリウスと和解したい。貴方達が誰も傷つかずに、外の明るい世界を"生徒"として、私たちと笑顔で歩む世界を見てみたいの。」

 

 

奇しくも、彼女の語った"夢物語"は、昔の僕が持っていた夢と似ていた。

前の世界と、アリウスで完全に捨ててしまった夢に。

真剣な彼女に、僕は分かりきった質問を返す。

 

 

「……本気ですか?」

 

ミカ「うん、本気だよ。」

 

 

にわかには信じられないが、彼女の目が、表情が、あらゆる要素が本気の意思であることを語っていた。

彼女は、本当にトリニティの裏切り者になろうとしている。

 

 

ミカ「後でサオリ達にも伝えるつもりなんだけどね。」

 

ミカ「……それで、貴方にも個別でお願いがあるの。」

 

ミカ「ティーパーティー現ホストの桐藤ナギサ、彼女の襲撃時に……誰よりも早く、彼女を攫うのを手伝ってほしい。」

 

ミカ「アリウスの子達が、彼女を手に掛けてしまう前に。」

 

「……。」

 

 

……あぁやっぱり。

ミカ様、貴方は……後悔、してるんですね。

なら、僕の返事は決まっている。

 

 

「……分かりました。」

 

ミカ「!」

 

「僕は、貴方のその願いを遂行します。アリウスの生徒としてだけではなく、貴方の従者として。」

 

「貴方が歩みを止めないのであれば、僕も共に歩みます。貴方の指示があれば、僕が手となり足となり戦います。」

 

「そして……貴方が止まるのであれば、僕も共に止まります。」

 

「僕は、貴方の望みを叶えるために行動します。貴方を、決して一人にはしません。」

 

 

 

 

「約束します。」

 

 

 

 

僕は、そう言い切った。

これは、貴方を魔女にしてしまったことへの贖罪だから。

そして……僕に似た夢を持った、貴方の夢を見届けたいから。

 

 

ミカ「……貴方って本当にアリウス生?」

 

 

ふと漏れた彼女の言葉に、僕は瞳を瞑りながら返す。

 

 

「……はい、もちろんです。他のアリウスの人達と同様、指令があればどんなこともします。」

 

「それに、ゲヘナもトリニティも憎く思ってます。ですが……」

 

「……誰かの影響を受けてしまったのかもしれませんね。」

 

 

その言葉と同時、脳裏に貴方の笑顔が浮かんだ。

 

 

ミカ「……そっか。じゃあ……その約束、信じてるね?」

 

「はい、まかせてください。」

 

 

 

そうしてひとつの約束を交わした僕達は、再び夜景を眺め始めた。

一面に広がる灯りが、僕達を淡く照らしている。

その顔に照らされる貴方は、とても綺麗で、心が暖かくなるのを感じる。

 

 

「……綺麗ですね。」

 

ミカ「……この夜景も綺麗だけど、クリスマスのイルミネーションも綺麗なんだよ?」

 

ミカ「それに景色だけじゃない。他にも謝肉祭や光輪大祭っていう楽しいイベントや……海に山にも沢山綺麗な所や楽しい所が沢山あるの。」

 

ミカ「もし"私達"の計画が成功したら、たっくさん見せてあげるね! アリウスの外の世界を、和解したアリウスとトリニティのみんなで!」

 

 

 

 

ミカ「だから……これからよろしくね?」

 

「……はい、こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

夜景に照らされ、振り返る彼女は、あの時の星空のような笑顔を見せている。

一人の少女の見せた瞬きのような一瞬の笑顔は、この夜景よりも遥かに綺麗だった。

 

 






それからしばらく、僕は彼女と並んで夜景を眺めていた。
このまま時が止まればいいのにな、と心から願う気持ちを秘めながら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。