魔女に恋した少年兵の話   作:凶灰汁変人

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時は遡り、とある少年と聖園ミカが運命的な出会いをした数刻後。
二人は、アリウス分校から少し離れた、戦闘の跡が遺る草原にいた。


【閑話】01.5 模擬戦~聖園ミカ手加減編~

 

「ここら辺なら大丈夫かなー?」

 

暁アスカ(アリウス特別遊撃整備兵)「そう、ですね……市街地だと、他のみんなに……迷惑がかかりますし……。」

 

 

私がそう尋ねると、アスカくんはそう返答を返した。

 

私がアリウス分校に訪れてからもう数日が経つ。

再び訪れ、先程私にあてがわれたアリウス生の従者、『(あかつき) アスカ』くん。

彼はキヴォトスでもかなり珍しい『人間の男子生徒』だ。

 

そんな彼が、どれくらいの戦闘力かを確かめるために、私たちは市街地の外れに広がる草原へと足を運んでいた。

 

……というのも、さっき錠前サオリが言っていたことが気になったのも理由だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

錠前サオリ(アリウススクワッド)『はっきり言おう。今のあいつは──まだ弱い。だが、間違いなく秘めた才能はアリウスの誰よりも突出している。』

 

サオリ『お前ほどの実力者が育てれば、いずれキヴォトスでも指折りの実力を持てるだろう。……その上でひとつ伝えておく。』

 

 

 

 

 

 

サオリ『あいつは『戦闘者』として使えようとも、『兵士』としては全く使えない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカ「──どうか……しましたか?」

 

「……ううん、なんでもないよ☆」

 

 

先程、彼女の発した『兵士には向かない』とは何なのかは分からない。

けど、それもきっとこの模擬戦で分かるはず。

 

 

 

あちこちに残った、銃痕により抉られた地面を踏みしめながら、私達は草原の中央に立ち、少し離れて向き合った。

 

 

「それじゃあルールはひとつ! 『私からダウンを取る』こと!」

 

アスカ「……。」

 

「……なんかすごい顔してるね?!」

 

アスカ「あっ……すみません……。それだと、あなたに勝てる気が……しないんですが……?」

 

「えー? それでもやるだけやってみよ? 私も手加減してあげるから! 例えば…この片腕だけしか使わない、とか!」

 

アスカ「……と、言うと?」

 

「私が使うのはこっちの腕だけ、もう片方は使わない、って感じかな? あ、もちろん武器を持ち替えたりはするけどね☆」

 

「だけど、使わない手に持ち替えてる間は銃も使わないであげる!」

 

 

そう言いながら、私は愛銃を持った腕を振る。

それだけで充分だと判断したから。

 

だけど、それが見当違いだったことを思い知らされるなんて。

錠前サオリの言っていた言葉の意味を思い知るなんて。

……私は微塵も思っていなかった。

 

 

アスカ「……分かりました……よろしくお願い……します。」

 

「オッケー☆ それじゃあ早速……始め!」

 

 

私はそう言うと同時に、手に持っていた銃を彼に向けて撃った。

突如放たれた数発の銃弾を、彼は咄嗟に側面に転がり回避する。

彼が視線を切った一瞬の隙をつき、私は武器を山なりに投擲しながら至近距離まで跳躍し、焦りが浮かぶ彼の顔を目で捕える。

彼が焦るのも当然だろう。

目線を一瞬切った間に、眼前に私の拳が迫っていたのだから。

 

 

私の拳が彼が咄嗟に入れた腕のガードごと穿ち、それを受け凄まじい速度で飛んでいく。

しかし、その手応えは異様な程に軽かった。

 

 

(当たる直前で後ろに飛んでダメージを減らした……?)

 

 

私は冷静に分析し、先程投擲した愛銃をキャッチすると同時に、彼も転がりながら受身をとり、立ち上がる。

 

 

(──今の対応、まぐれじゃないね? けど……。)

 

「……はぁ〜。戦闘中に視線を切るなんて、ちょっと期待はずれかな〜?」

 

アスカ「っ! まだまだこれから、ですよ……ッ!」

 

 

私がそう挑発すると、今度は彼が跳躍し距離を詰めてくる。

 

 

「そう来なくちゃ!」

 

 

こちらへ跳躍しながら向かってくる彼が構えた銃身から火が灯り、無数の銃弾をばら撒きはじめる。

 

私はわざと銃弾の雨に身を晒し、銃弾を全身に受けながらその中を強引に突っ切り近づく。

それと同時に、私は愛銃を使わないもう片方の手へと持ち替える。

 

 

アスカ「っ!!」

 

「ほら、もう一撃!!」

 

 

跳躍してきた彼にもう一度、拳をねじ込む。

前進してきていた彼は後方には飛べない。今度はいなせない。

拳と彼の顔が触れそうになるほど近付き、確実に一撃が入ると確信した。

 

 

だけど、今度の拳は……空を切った。

一瞬前までそこにあるはずの彼の顔は、既にそこには無く、私の拳は彼の頬をかすめ、拳の横へとすり抜けていた。

 

 

(っ!? 何が起きて……!?)

 

 

一瞬戸惑った私に、更なる予想外が繋がる。

 

 

アスカ「ここぉッ!!」

 

「なっ!?」

 

 

彼は持っていた銃を剣のように持ちかえ、大きく振りかぶっていた。

その軌道は、私の腹部を捉えていた。

 

私は、咄嗟にバックステップを踏む。

しかし、先程の戸惑いによる一瞬の判断の遅れが、躱せるはずの一撃への回避にほんの僅かな遅れをもたらした。

 

 

アスカ「破ァァァアアアッ!!!」

 

「うぅぅっ!!!」

 

 

目の前を大きな横薙ぎが翔け走る。

だが咄嗟の跳躍により、ギリギリ彼の一撃から間一髪で躱す。

僅かに掠ったのか、腹部のボタンをひとつ弾き飛ばしていた。

横薙ぎの風圧の強さ故か、地面の草原が薙がれ浮き上がり、地面が隆起していた。

今のスピードと威力、まともに喰らえば……私でも少し隙が出来てしまっていたかもしれない。

 

 

「あっぶな〜……!!」

 

アスカ「ぐ……っ!!」

 

「まさか、銃を剣のように使って振るうなんて……。それにその威力、一体なんなの……?」

 

 

今の動きは完全に予想外だった。

キヴォトスの人間は、基本的に銃撃を主体とし、近接戦闘を行うのは私のような極僅かに限られる。

ましてや、銃身を剣に見立てて振るうなど、見たことも聞いたことがなかった。

その上、その威力は私ほどでは無いものの、トリニティの猛者達にも引けを取らない身体能力。

 

さらに、先程の回避は明らかに私の拳を『見てから躱した』。

いくら戦闘のプロでも、攻撃を眼前まで引き付けてから躱すのは難しい。

それこそ、スローモーションのように見えないと不可能に等しい。

 

 

それに、彼が見せたあの横薙ぎの一撃……あの構えと動きは確か……。

 

 

そう思考を巡らせかけたその時、彼が踏み込み再度距離を縮めてきた。

 

 

「っ……!! これはどう!?」

 

 

彼が距離を縮めようとする中、私は逆に距離を取りながら、再び持ち替えた愛銃から無数の弾丸を放った。

銃弾の雨を通り抜けるなど、私くらい頑丈でないと不可能だ。

 

しかし、彼はその銃弾の雨すらも全て見切り、すり抜けるかのように近付いてくる。

 

 

「っ……! ほんとになんなのそれ……!!」

 

 

彼が眼前まで迫り、彼は持っていた銃を下から大きく斜め上へと振り抜き、ガキンという金属音と共に、私の愛銃を遠方に弾き飛ばす。

 

 

「!! しまっ───」

 

 

言葉が出るより先、斜め上へと薙ぎ払われた銃身の軌道がまるで壁に当たったかのように跳ね返り、軌道を変えて振り下ろされる。

 

 

(『燕返し』……ッ!?)

 

 

眼前に彼の銃身が迫る。

咄嗟に拳を振りぬき始めるも、明らかに私の方が後手だった。間に合わない。

 

燕返しからの袈裟斬り。

それが決まる、そう思ったその瞬間だった。

 

 

 

 

彼の攻撃が、私に触れる直前でピタリと止まった。

 

 

 

 

アスカ「……ッ!!」

 

「えっ。」

 

 

瞬間、既に振りぬいていた私の拳が彼の鳩尾にめり込み、先程とは比べ物にならないスピードで吹き飛んだ。

 

衝撃で辺りの地面が崩れ宙を舞い、衝撃波は辺りの草原の地面に地割れを刻む。

 

遠方で彼が吹き飛ばされた衝撃音が響いた時、呆然としていた私はハッと意識を引き戻した。

 

 

「え、ちょ、アスカくん!? 大丈夫!!?」

 

 

 

私は、はるか遠くに吹き飛んでしまった彼を追いかけた。

 

 





「……懐かしいな〜……そんなこともあったね。」

アスカ「ですね……。」


建物の屋上にて、二人で辺りを見回す。


「あれから地面にめり込んだアスカくんを引っ張り出して、開けちゃった穴を目立たないように急いで直したりしたっけ。」

アスカ「ええ、その途中ずっとミカ様謝りっぱなしで、何度も私の怪我を心配してたりしましたよね。」

「そ、そうだったかな??」

アスカ「それでお互い泥だらけになっちゃって、どうしよう〜ってお互い慌てて焦って……。」

「な、なんでそんなことまで覚えてるのかな!?」

アスカ「……僕にとって、大切な思い出のひとつですから。」

「……もう。」

アスカ「それで……この後も、何度も何度も手加減ありで模擬戦して、その度にボロボロにされて……ようやく、あなたの隣で戦えるくらいにはなれました。本当にありがとうございます。」

アスカ「……まぁ、それでも一度も勝つことも、あなたの本気を出させることも出来ませんでしたが……。」

「正直今の君ならアリウス最強を名乗ってもいいんじゃないかな?」

アスカ「それは……無いですね。スクワッドはもっと強いので。」

「え、そうなの?」

アスカ「身体能力なら勝ち目はあるかとしれませんが……ゲリラ戦や搦手を含めたのなら、彼女達がアリウス最強ですよ。」

「……ふ〜ん?」

アスカ「……戦わないでくださいね?」

「今のところはね〜☆ ……というかさ……。」

アスカ「……?」



「『人を傷つけることに抵抗がある』のなら最初に言ってほしかったかな〜!?」



アスカ「……それは……その……すみませんでした。」

「まさか『兵士に向かない』って、『人を傷つけられない』ってことなんて、全く思うわけないじゃん……。」

アスカ「あ、あはは……。まぁ、ミカ様のおかげである程度は出来るようになりましたし、そこに関しても感謝しています。」

アスカ「……まぁ、トドメの一撃を入れるのはどうしても出来ないままですが……。」

「そこは……多分大丈夫、今回の作戦はトドメを刺す必要は無いし……」

「もし戦う時は、私が最後の一撃を代わりに入れてあげるから、安心してね。」

アスカ「……かしこまりました。」





「……あっ。そろそろだね。」


遠くのカタコンベから、アリウスの軍勢が出てくるのを見つけた。


アスカ「……アリウス部隊、トリニティへの潜入成功を確認。」

「じゃあ、手筈通りにね。」

アスカ「えぇ、必ず桐藤ナギサの身柄は確保します。他のアリウスのみんなが手にかけてしまう前に。」

アスカ「……それが、あなたの望み、ですから。」

「……うん。」

アスカ「では、後程。」

「うん。……あっ、そうだ。アスカくん。」

アスカ「はい、なんでしょう───」

「えいっ☆」ギュッ

アスカ「──っ!? え、ちょ、み、ミカ様、手を握っ……!?」


握った彼の手を、私の額に触れさせる。


「……。」

アスカ「……ミカ様……? 」

「……おまじない。あなたの選択が、あなた自身の可能性を広げてくれることを願って、ね。」

アスカ「…………………………ありがとう、ございます。」

「なんかすごい顔が赤くなってるよ?」

アスカ「うぇ!? い、いや、なんでもないです! 作戦が近くて緊張してるのかなと!」

「そう? まぁいいけど!」


建物の屋上の端へ立ち、彼へと向き直り、一言告げた。


「頑張ってね、私の従者さん!」


そう伝え、私はその場を後にした。
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