シェフ実装で思ったけど、フォンテ発明家キャラが実装していないと思って書いた小説 作:ヒラメもち
メロピデ要塞での生活は続く。
エスコフィエさんが公爵と交渉したことで、半月も経過したら実際に小麦が厨房に運ばれてくることとなった。
その事前準備として、技術班で手が空いている者たち総出でオーブンを大量製造することにもなったし。
エスコフィエさん自身も、俺たちみたいな素人料理人でも分かるようなレシピを何枚も書いてきてくれて、早朝からパン作りの日々が始まっている。
「ギアを何百個も触っている日々を思い出すようだ……」
そう言いながら、ラヴェリューヌが机に突っ伏した。こいつもマシナリー製作工場から調理場に移ってきたらしく、料理人見習いどころかド素人組の1人だ。
「でも、そのおかげで僕たちは、パンをお腹いっぱい食べれるじゃないか」
どういう経緯で捕まったのか知らないけど、クストは海の上では料理人をしていたらしく、メロピデ要塞の調理場のエースと言ったところだ。つまみ食いが癖なので、そこをエスコフィエさんによく怒られているけどな。
「ちょっと! 作りかけだったラタトゥイユ・タッセスに、一体何を入れたのよ!」
とことん料理に関しては厳しく、朝から晩まで厨房は騒がしい。
というか、この食堂にそんなオシャレそうな名前の料理があったんだな。
「うっ、まだ新鮮だったトマトのフレッシュさが、古い魚肉の匂いで台無しだわ。もし注文してこれが出てきたら、まるでスイートフラワーがトリックフラワーだった時のビックリよ」
万が一喧嘩にならないよう、フォローは必要だろうかと思って、俺は座ったまま目を向ける。
ツナギな作業着の上に、医務室から借りてきた白いエプロンはなかなか似合わないな。
尻尾のようなマシナリーに持たせたスプーンを器用に使って味見しながら、氷の包丁を使って高速で何かの花を刻んでいる。
「まさか調味料の濃すぎる味で、お客様の味覚を誤魔化せるなんて思ってないでしょうね、ウォルジー」
「いや、いつもこうやると、お客さんから好評で……すまない」
長年メロピデ要塞の料理長をしてきた人も、正論を言われてタジタジのようだ。
でもウォルジーさんの経験によるレシピも、真実のようで。
「ふんっ、私に謝る暇があるのなら、労働の後のディナーを楽しみにしているお客様のためにも、味と風味を完璧に調整することね」
エスコフィエさんの髪留めに縫い付けている氷元素の『神の目』が輝きを放ち、コールドブリューの原理によって、調理マシナリーの1つが起動した。
「作り直すにしても食材が足りないわ。アドリブを利かせましょう」
あれを使えば、食材の旨味成分だけを抽出することができる。
爽やかな花の香りが厨房から漂い始めた。
「この料理は、言ってみれば野菜のごった煮だからこそ、料理人が手を抜けば微妙な料理にもなるけどね。味と風味の完璧なバランスを追求すれば、どんな余った食材も絶品な料理にすることができるの」
尻尾の上のお皿に盛りつけた料理に、指で花の粉末をかけて、『召し上がれ』と言わんばかりに、ウォルジーさんの前に置いた。
彼はスプーンを手に持って、それを口に入れれば、すぐに目を見開いた。
「ふむ……いつものトマト煮込みに、魚介の風味が、爽やかな香りで完璧に調和している。さすがと言うべきか、ホテルドゥボールのシェフ」
「元シェフよ。ま、ちょっと味気ない料理に、魚介風味を足す発想は悪くなかったわ。次は、魚の下処理から丁寧にすることね」
年齢はかけ離れていても、料理で会話しているって感じがする。
ウォルジーさんも長年ここで料理人をやってきて、だいぶプライドが高い方だと思うけど、エスコフィエさんの柔軟な発想は素直に取り入れている。
「しかし氷元素の力は、料理人として羨ましい限りだな。私ではプリュイロータスを添えることしかできないだろう。本音を言えば、ずっとここにいて欲しいが……」
「私は厨房を貸してもらう代わりに、期間限定でコックとして手伝っているだけよ。ウォルジー、貴方がここのシェフなんだから、修練を怠らないことね」
そう言ったエスコフィエさんは『それに』と楽しそうな笑みを浮かべて、こちらに青い瞳を向けてきた。
「源也がここを離れる前に、冷蔵設備くらい完璧に整えてくれるでしょう」
「で、できらぁ!」
ノリで返事をしてしまったものの、工場に行ってジャンク品を譲ってもらうのだって大変なんだからな。相変わらず人使いが荒いお嬢さんだ。
「ははっ、なら彼に期待しようか。それじゃあエスコフィエさんも少し休むといい。最近は特別許可券を使ってでも、格安の高級料理を食べにくるやつが多いからな」
「繁忙期のレストランの半分にも満たない作業量よ。何層ものケーキやコース料理を作るわけでもなければ、多種多様な食材の仕入れを考える必要までないんだから」
早朝からずっと厨房にいたのに、全くエスコフィエさんは疲れた様子を見せない。俺がここのマシナリー製作を飽きてしまったように、限られた食材や調味料で毎日似たような料理を大量生産することは、あまり好きじゃないんだろう。
「エスコフィエさんも、そろそろ海の上に戻るんだろうなぁ」
そう呟いたクストも料理人としても食べる側としても、貴重な経験になっているようだ。
サービス食すら美味しくなったことにより、日々の『食』に楽しみを見出す人は増え、ここの食堂の収益も以前の数倍に増えたらしい。今まではフォンタやスナック菓子で済ませる人も多かったこともあってな。
サービス食に付ける『おみくじ』を確認している時も、エスコフィエへの恋文が混じっているなど、あの子の人気は相変わらずだな。
「そりゃ何せ、あのホテルドゥボールのシェフで、フリーナ様が認めたパティシエだぞ? 街の地下にあるサーンドル河どころか、こんなところにいるような人じゃないさ」
ラヴェリューヌがそう言った。
エスコフィエさんは事件によってかつての名声が失われていたとしても、本人は気にしないで、また世界に実力を見せつければいいとでも思っているだろう。
「それはそうだなぁ」
「ま、俺たちはここが気に入って残っているけどな。源也も科学院に戻るんだろ?」
「ああ、でも良い経験もさせてもらったさ。何せ、数百年前の採掘場にいくつも面白いものが残されているくらいだ。普段はここに出入りできるのは、特巡隊くらいなものだしな」
いくら専門だからって、ジュリエとルールヴィのコンビが、飛行船ウィンガレット号の製作に関わっていたらしく、羨ましいと思っていた。
「貴方たち、パンだけじゃ栄養が偏るじゃない。料理人の端くれなら自分の食事の栄養バランスにも気を付けなさい」
俺たちが話しているところに、エスコフィエさんが両手と尻尾で、器用に3人分のお皿を持ってきてくれた。食欲をそそる花の香りがして、よくもまあここまで見た目も綺麗に盛り付けるものだ。
俺たちは『どうも』と頭を下げてスプーンを持って、野菜と魚のごった煮に口を付け始める。
「僕、野菜好きじゃないけど、これなら何倍もいけるぞ!」
「気持ちは分かるが、お前が食いつくしたらお客さんの分がなくなるだろ」
これはフワフワなパンによく合う。
サービス食で出てこなかったら追加注文してセットを揃えたくなるほどだ。
「今の食材や調味料の範囲でできる中では、まぁ完璧とまでは行かなくとも、マシな料理には仕上がったと思うのよね。源也はどうかしら?」
「美味い」
エスコフィエさんから『いつもその感想じゃない』と言われて、エスコフィエさんがジト目を向けてくるけどな。
「いつも美味しいですからね。エスコフィエさんは、どんな料理の時も決して手を抜かないですし」
「それはそうよ」
当然だと言っている様子な声で。
そんなエスコフィエさんの表情を見る前に、彼女は厨房に戻っていっていた。