シェフ実装で思ったけど、フォンテ発明家キャラが実装していないと思って書いた小説 作:ヒラメもち
先日書きかけていた過去の話を、簡潔に書き足しておこうと思う。
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結論から述べると、ドラゴンスパインでは永久的な冷媒を発見することはできなかった。
厳密には、持ち帰ることができないものか。
辺り一面が雪に覆われていて、稲妻にいる個体より毛深い猪が冷凍保存されているほどだ。そんな光景に最初、同行していた料理人は長旅の疲れも忘れて興奮するほどだったけど。
防寒装備が必要なほど過酷な環境なのに、あちこちにヒルチャールが歩き回っていたり、氷を鎧とした王者の個体が座り込んでいたり。
何かの調査なのか、屈強なファデュイ兵たちがキャンプもしていた。
民間人寄りの俺たちは積極的に戦うどころではなく、隠れながら探索を続ける。
そして、やっと見つけた冷媒は『無相の氷』だった。
元素生命体のようで、常に冷気を発している。
しかし犬猫のように意思疎通が取れるわけもなく、檻に入れて大人しくしてくれるわけもない。
いろいろと策を出すも諦めて、安全面も考えて探索は数日で切り上げることになった。
あの元素生命体を倒すと残る『凝結の華』という水晶について、休息に立ち寄った璃月の街で調べたけど、氷スライム程度の溶媒にしかならず、冷蔵設備に使えるかどうかといったところ。
結局あの旅路の収穫は、万民堂で香菱さんたちと知り合えたことくらいだった。
それから少し経過して、お嬢さんはどんどん名声を上げていく。
なぜなら、彼女は幼い頃に食べた名ばかりの『ドゥボールケーキ』に我慢できなくて、それをほぼゼロから完成させたからだ。どうやら百年前に大人気だったスイーツで、しかしその作り手が若くして亡くなり、レシピも断片的にしか残されていない。
フォンテーヌの水神であるフリーナ様にもパティシエとしての腕が認められ、お嬢さんは専属料理人として、大佐といった意味合いで『カーネル・デセール』の称号も与えられた。
更に彼女は、ドゥボールレストランのコックとしてもスカウトされる。
フォンテーヌ邸の中で富裕層が住む地域にあって、ホテルに併設された超高級レストランだ。
対して俺はようやく、安価な冷蔵設備を実用化できそうといったところ。
お嬢さんに依頼された冷凍技術の確立にまでは至っていなかったし、いまだにフォンテーヌのエネルギーを貯める電池も改良しきれていなかった時だったはずだ。
「
久しぶりに研究室にやってきたお嬢さんは、少し背が伸びていて、淑女と呼ぶべき年齢になっていた。
煌びやかな金髪に特徴的なコック帽を乗せていて、なかなか目のやり場に困るような服を着ていたはずだ。よく似合っているけど、ああいうのが今のフォンテーヌの流行だったんだろうか。
「ねっ、どうかしら?」
「どう…とは……」
依頼の進捗について聞いてきたのかと思えば。
くるりと回ってみせた彼女の髪には、リボンのような髪留めがあって、氷元素の『神の目』が輝いていた。
「私もようやく手に入れたわ。まだ自慢できるほど使いこなせてはいないけど」
心の底から喜んでいる笑顔のまま、休暇を取ってナタに旅行に向かったことを話してくれた。
あの土地は現在鎖国をしている稲妻ほどではないとはいえ、独自の生活圏が築かれている。未知の食材探しに夢中になってしまったようで、液体燃素がある火山地帯にまで迷い込んでしまったらしい。暑すぎる気候と、溶岩の像に襲われた時、氷元素の力を扱って倒せたんだと。
片手には氷の塊、そして氷の包丁を作ってみせてくれた。
「そうだわ、調理器具のメンテナンスをしてくれるかしら」
今思えば、危険地帯まであのスーツケースを持っていったんだな。
尻尾のように扱っているマシナリーも含めて、少しの間預けてもらうことにした。
依頼について続けるか聞いてみると、資金はもっと追加するからって。
「まずミネラルを分離する装置を基本に……原料の精密な計測、それに正確な温度調節・湿度調節機能は欲しいわね」
遠慮することなく、彼女は新しい調理型マシナリーについて注文を重ねてくる。
「そうそう冷凍設備も引き続きお願いね。今はレストランの子たちにも、科学料理の技術を教えているの。だから、
料理に関することには超辛口評論家が、満足できるほどの発明品を作る日々が再び続いていった。
それからもエスコフィエさんは天才料理人と呼ばれるようになり、次々と肩書きを増やす。
どうやらパティシエ以外としての腕も認められ、実力で他の候補者を超えて、レストランを指揮する立場、つまりシェフともなったようだ。
しかし科学院の実態にあてはめて考えてみても、自分の研究だけに集中することはできない。
コックたちの指導だったり、同じようなメニューを作り続けたり、たぶんエスコフィエさんは相当忙しい日々を送っていたんだろう。
休暇を取れていないのか、俺とは最低限の手紙のやり取りだけだった。
マシナリーを梱包してから配達してもらい、その感想や改善点を送ってくれて、それに基づいて完成品に近づけていく。
そんな日々が続いていた。
でも、フォンテーヌのほとんどが沈むほどの大災害が起きてしまって。
他の人々を助けようとする異郷の旅人や民間人たちもいたことに対して、俺は我が身を守ることと研究資料を持ち出すことだけで精いっぱいだった。
地下にある研究室なこともあって、開発途中だったマシナリーは海に流されてもいた。
地道に復興をするだけで研究や開発を進めることもできない。
俺は酒に
簡易的な裁判を受け、最低でも半年はメロピデ要塞で過ごすことになった。
まぁ噂されていたほど劣悪な環境でもなく、稲妻で暮らしていた頃よりは穏やかに過ごすことができている。
数週間ほど経過して、エスコフィエさんもメロピデ要塞にやってきた。
詳しくは分かってないけど、フリーナ様が水神を引退したことだったり、レストランの復興だったり、彼女も万全の状態ではなかったんだろう。
レストランの食材に危険な薬物『ルミリネ』が混入していたようで、神経関連の治療目的ならともかく、飲食店にあっていいものではない。幸いにも彼女が料理に使う前に発覚したようだけど、万が一にもコックの誰かがその食材をお客様に提供していれば、レストランの信用に関わるだけでなく、彼女の料理人としてのプライドが許さない。
執律庭には綿密な調査をしてもらい、信用できるスチームバード新聞を通して、事件を明らかにしてもらったらしい。
厨房内で犯人探しをさせることがないよう、監督不行き届きとして、エスコフィエさんはすべての責任を負って審判を受けた。
こうして俺と彼女は数ヶ月ぶりに、メロピデ要塞という場所で会うことになったけど。
「まったく…… そんなに暗い顔して、こんなにボロボロな厨房で、料理の真似事なんてしていたのね」
「えっと、そこにあるレシピ通りは作れているはずで」
俺がそんな言い訳をすると、手に取った赤ペンを高速で動かして、壁に貼ってあるレシピに修正点を書き込んでいく。
「未知の食材も、充実した設備も、何もかもない場所で半年も過ごすのかって絶望していたところだけど……」
恐らく冗談ではなかった言葉に、俺は心配もしたけど。
今のエスコフィエさんはどこか安心した笑みを浮かべていて。
「ちょうどよかったわ。この休暇で、科学料理の初歩くらいは叩き込んであげる」
この監獄に持ち込めたのは、氷元素の髪の目が付いた髪留めと、そして尻尾のようなマシナリーくらいだ。
大事にしてくれているのは嬉しかったし。
「だって貴方は、カーネル・デセールの専属エンジニアなのだから、一緒にがんばりましょ」
エスコフィエさんが笑顔でいることも嬉しかった。
***
あれこれ思い出しながら、ずいぶんと手記に書き込んでしまったけど。
気恥ずかしい気持ちになってきたから机にしまって、横になることにした。