「対戦、ありがとうございました」
最低限のマナーを守るために呟いたあと、自分の左手首を握りしめる。
何時だって敗北の味は苦いものだ。初めは到底慣れることができないものだと思っていた。だが、最近の私はこの味に慣れてしまったようで、苦さは落ち着いた。
勝負に負けた足でポケモンセンターへと向かう。ここはチャンピオンロード。道なりに歩くだけでポケモンセンターにたどり着く。
つい目がポケモンセンターの奥にある建物に奪われた。ジムバッジを全て集めたものだけがチャンピオンたちに挑戦できる舞台、チャンピオンリーグに。
止めよう、見ているとまた苦味を思い出す。すぐに目をそらしてポケモンセンターに入った。
受付のジョーイさんにモンスターボールを渡し、回復するまでフレンドリーショップで時間を潰す。
モンスターボール、スーパーボール、ハイパーボール。かいふくのくすりにまんたんのくすり。げんきのかけらになんでもなおし。見覚えのある商品が私の目に映る。
もうどれほど使ったか、それこそ数えきれないほど使ったその道具たちは、どうせ自分たちに頼らないと四天王の手持ち一体すら勝てないだろう、と言いたげな態度だ。
うるさい、物言わぬ道具は黙って使われろ。心の中で道具たちと悪口の応酬をしていると、私の受付番号が呼ばれた。
ジョーイさんからモンスターボールを受け取り、逃げるようにポケモンセンターから出ていく。決して道具たちに悪口合戦で負けたわけではない。
ふと思い立ち、チャンピオンロードの外れに赴く。そしてモンスターボールから私の相棒を出現させる。
「出てきて下さい、メタグロス」
どすん、とその硬質なボディに似合う重量級の体て着地したメタグロスは、私の目をじっと見つめてきた。
れいせいなメタグロスは、私の一番最初のパートナーであるダンバルの時からの付き合いで、以心伝心の仲であると自負している。
鋼鉄のボディをそっと撫でる。メタグロスは心地いいのか目をつぶって受け入れている。
「情けない主でごめんなさい」
こんなにもいい子なのに。そして強い子でもあるのに。私が足を引っ張ってしまうせいで、勝てない。撫でているうちにそんなことを思ってしまう。
時にポケモンは、主を身限り逃げてしまうことがあるそうだ。そしてその理由の大半が、バトルでの敗北。ポケモンにだってプライドがあるのだ、自分のためにもっと強い主に出会いたいのだろう。
撫でる手が震える。この子たちに捨てられる想像をするだけで気分が悪くなってきた。もし、そんなことが現実で起きたら……。間違いなく、立ち直れない。
私の不安が伝わってしまったのかメタグロスが心配そうにこちらを見つめる。なんでもないですよ、と嘘をついて誤魔化すためにやすりで身体を磨く。
(本当に、本当にごめんなさい。次こそは必ず、あなたたちに勝利をもたらしますから……!)
やすりでピカピカに磨かれたメタグロスは、新車のように辺りの景色を反射していた。私の顔も写っていた。エリートとは名ばかりの、死んでいる顔のトレーナーが。
・エリートトレーナーちゃん
主人公。バッジ8つ集めたのはいいものの、そこから先が鳴かず飛ばず。明るかったあの顔が、今ではすっかり無表情。けどポケモンたちとふれあうときだけ、柔らかな笑みを浮かべる。