貞操逆転世界で目覚めたけど、俺がTSした元男だって周囲の女子たちにバレてるんだが?   作:メソポ・たみあ

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第5話 悔しいけどカッコいい

「……私、もう帰っていい?」

「ダーメ、帰さない。それよりホラ、着いた(・・・)よ」

 

 そう言って、郁美はとある建物(・・・・・)の前で立ち止まった。

 

 郁美が立ち止まった場所。

 私がその建物を見上げると――

 

「……って、ここラブホテルじゃんッ!」

 

 そこにあったのは、紛うことなきラブホテルだった。

 

 五階建てのビルが薄紫色をしたネオン管の怪しい光に照らされ、入り口付近の看板には〝二時間休憩2,990円/五時間休憩4,990円/宿泊7,900円〟とご丁寧に時間別料金が明記されている。

 

 童貞の俺ですら知っている。

 ここは絶対に、高校生が入ったらアウトな建物だ。

 

 しかも郁美と話している内に、いつの間にか繁華街の中でもちょっと怪しい通りに入っていたらしい。

 周囲には他にも明らかにソッチ系のホテルやらお店やらが並んでいる。

 

 通りを歩いている女性たちもソッチ系のお仕事をされてらっしゃるであろう着飾った人が多く、それ以外にも大勢の女性同士のカップルがイチャイチャしながら歩いている。

 どうやらここは、同性愛者たちがひしめく夜の憩いの場となっている通りらしい。

 

「じゃ、入ろっか」

「ちょっと待てええええええぇぇぇッ!」

 

 自然な流れでラブホテルに入っていこうとする郁美を、俺は全力で引き留める。

 

「ここラブホテルだよ!? ラ・ブ・ホ・テ・ル! わかってるよね!?」

「さっきホテルに行くって言ったでしょ?」

「そう言って本当にホテルに連れてくる奴があるか! それに冗談って言ってたでしょーが!」

 

 もはや突っ込まざるを得ない状況なので、全力で突っ込む俺。

 思わず男だった頃みたく、素の突っ込みをかましてしまった。

 

 っていうかマズいから、本当にマジで。

 いくらこの世界の貞操が逆転してると言っても、学生同士でラブホテルへ入ることを認可している学校など流石にどこにもない。

 

 もし学校の教員にでも見つかろうモノなら、説教どころでは済まないかもしれない。

 親にまで話が届いたりすれば、もう最悪も最悪である。この世の地獄である。

 

 そもそも、ナチュラルに俺を連れ込んで食おうとするな。

 勝負だと言い出した矢先に一線を越えてこようとするとか、コイツの貞操観念どうなって……いや、もう今更か……。

 

 郁美は「ん~」と残念そうに口元に指先を当てながら、

 

「晶は他の場所がいいんだ?」

「……少なくともホテル以外でお願い。他に遊びに行く場所くらいあるでしょ」

「勿論おススメはあるけど、ちょっと晶には敷居が高いかもよ? それでもいい?」

「……? まあ、別にいいけど」

 

 俺が答えると、まるで「待ってました」とばかりに郁美は唇の両端を釣り上げた。

 

「言ったね。言質(・・)取ったから」

「へ?」

「それじゃあこっちだよ。付いてきて」

 

 楽し気な様子で郁美は歩き出す。

 

 ……あれ?

 もしかして俺、嵌められた?

 

 世界には〝相手に対し最初に敢えて無理難題を提示した後、少し条件を下げて再提示すると要望を飲ませやすくなる〟という交渉術が存在する。

 腕利きの営業マンとか詐欺師とかがよく使う手口のアレだ。

 

 なんか今、俺は郁美からそのテクニックを使われたような気がしないでもない。

 郁美ってお嬢様だけあって勉強もできるみたいだし、どの科目のテストでもだいたい高得点取ってるって聞いたことある。

 

 美少女でスポーツもできて頭までいいとか、完璧か?

 それでいて性格はスケベとか、もう無敵……いやスケベな性格がプラスになるかマイナスになるか、その判断は人によるかもしれんが。

 

 とにかくラブホテルの前から立ち去った俺は、郁美の後に付いていく。

 そしてソッチ系のお店が並んでいた通りから少し離れ、あまり人通りのない閑散とした通りの方へと入っていく。

 パッと見、この辺に遊ぶ場所があるようには見えないんだけど――

 

「とうちゃーく。ここ(・・)だよ」

 

 郁美は立ち止まり、目的地らしき場所を指差す。

 

「ここ、って……」

 

 俺は彼女が指差した先へと視線を向ける。

 すると――そこにあったのは、地下へと続く階段だった。

 階段の傍には立てるタイプのブラックボードが置かれており、そこには〝TO DAY’S LIVE 『変態以外お断り!』〟と書き殴られてある。

 

 他にも色々と文字が書かれてあったが、俺がそれを読み終える前に郁美は階段を下っていく。

 仕方なく俺はブラックボードを読むのを諦め、彼女に続いて地下へと下りていった。

 

 ――階段を下り終えると、まず最初に目に映ったのは重厚感のある分厚い扉。

 郁美がその扉を「よいしょっと」と重そうに開けると、なにやら遠くから音楽が聞こえてくる。

 

 さらに中へと一歩踏み込むと、入ってすぐの場所には大量のステッカーがベタベタに貼られたカウンターがあり、そこにはなんともロックな出で立ちをした長身の女性が立っていた。

 

「あら~? やだ、郁美ちゃんじゃな~い。しばらくぶりね~」

「久しぶり、店長。少し見ない間にまた髪の色と髪型が変わったね」

「今度は紫に染めて、サイドを借り上げてみたの~。厳つくていいって、周りから好評なんだ~」

 

 親し気に郁美と話す女性は、長く伸びた紫髪を左サイドだけ刈り上げたアシンメトリーにして、さらに耳や唇にはたくさんのピアスやイヤリングを付けている。

 

 服装はかなり厳つい革ジャン(ライダースジャケット)を羽織っており、目元にアイシャドウがかなりキツめに見えるようなメイクが施されているため、髪の色やピアスなどとも相まって格好はかなりド派手。

 

 顔立ち自体は美人であるが、雰囲気はどう見てもヤンキーのソレで、正直に言って近寄り難さがMAXだ。

 

 そんなド派手な格好をして女性は視線を俺へと移し、

 

「あれ~? そこの可愛い(かわい)子ちゃんは、見ない顔ね~」

「紹介するね。この子は遠野晶。アタシの可愛い彼女なんだ」

 

 サラッと俺のことを紹介してくれる郁美。

 だがその紹介は致命的に間違っている。

 

「誰が彼女か! すみません、違いますから。私はあくまで郁美の友達で――」

 

 すぐに訂正する俺。

 実際、俺はまだ郁美と付き合ってるワケじゃないし。まだ堕とされてないし。

 先に既成事実を作って外堀を埋めようとしたって、そうはいくもんか。

 

 ド派手な店長さんは「ん~」と考えるような仕草を見せた後、

 

「えっと~……つまり郁美ちゃんのセフレってこと~?」

「ち・が・い・ま・す!」

 

 よりによって、一番最悪な勘違いをしてきた。

 即座に俺は否定し、思わず声を荒げる。

 

 ちなみにセフレとは、セックスフレンドの略語である。

 所謂〝身体だけの関係〟ってヤツだ。

 俺はそれ以外でセフレという響きの言語を知らないので、文脈的にもまあ間違いないだろう。

 

 郁美のセフレだと思われるとか、ある意味では最高なのかもしれないが、少なくとも俺の貞操感覚からすれば最悪だ。

 むしろ普通の彼女だと勘違いしてくれた方がまだマシかもしれない。

 もうホント、突っ込むのも疲れた……。

 

「それで店長、今日のチケット(・・・・)まだ残ってる?」

 

 郁美が会話を切り替え、店長さんにそんなことを訪ねる。

 すると店長さんは僅かに身を屈め、

 

「残ってるよ~。二枚で三千円ね~」

 

 カウンターの下から、チケットを二枚取り出す。

 郁美は財布から千円札を三枚取り出して店長さんに支払い、チケットを受け取る。

 そして購入したチケットの内の一枚を、俺に対して差し出してきた。

 

「はい、晶の分」

「あ、チケット代――」

奢る(・・)って言ったでしょ。こういう時くらい、カッコつけさせて」

 

 俺は自分のチケット代を払おうとするが、郁美は俺に払わせようとせず、チケットを受け取るよう催促してくる。

 仕方なく「あ、ありがとう……」と俺はチケットを受け取った。

 

 ……むぅ、悔しいがちょっとカッコいい。

 お嬢様で完璧人間でスケベな上にカッコいいとか、属性過多すぎるだろ。

 しかも黙ってればめちゃくちゃ可愛い美少女なんだから、もう属性が大渋滞を起こしている。

 これで貞操観念が終わってさえいなければ……。

 

「……晶、アタシが〝スケベでさえなければ完璧だったのに〟とか思ってるでしょ」

「ふぇ!? お、思ってない! 思ってないから!」

 

 あっさりと郁美に内心を見透かされ、慌てふためいてしまう俺。

 そんな俺を見て、郁美はクスクスと笑う。

 

「ほ~んと、晶って可愛い。そんなだからアタシにエロいって言われちゃうんだよ」

「……それって褒めてるの?」

「勿論。〝エロい〟は最上級の褒め言葉だもん」

 

 俺をからかいつつ、悪戯っぽい笑顔を見せてくれる郁美。

 ……可愛いのはお前の方だろ、なんて思ったとしても言わないからな。

 

「それより、晶はこういう場所(・・・・・・)来るの初めて?」

「え? うん、まあ……」

「なら、アタシに付いてきなよ」

 

 そう言って、郁美はさらに奥へと入っていくための巨大な防音扉を開く。

 同時に聞こえてくる、大音量の演奏音。

 

 ――確かに、俺はこういう場所へ来たことはない。

 バリバリの陰キャであった俺には、縁のなかった場所だから。

 だが、ここがなんであるかは、もうわかってるつもり。

 

 ここは――ライブハウス(・・・・・・)だ。

 




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