ダンス・イン・ザ・ヘル(忍殺イグゾーション夢小説)   作:おじロリすこ太郎

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ダンス・イン・ザ・ヘル #2

恋人になって欲しいと言いながら実際にイグゾーションが行ったのは多額のコーベインを遊郭に投資する事によるマオの身請けだった。

 

オイランにとって身請けられるということは彼女らの持つ全ての権利を新しい主人に明け渡すということである。身請けられたオイランは住み慣れた遊郭を離れ新しい主人の家に移り、その残りの生涯を主人の為に尽くすのだ。恋人関係という名の飼い主と専属奴隷オイランの上下関係。このいつ暴発してもおかしくない猛獣のような男の側で生涯仕えて暮らす事を考えるとマオは気が遠くなる気持ちだった。

 

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マオの新しい住処として連れられたのはセキバハラの一角にある秘匿されたイグゾーションのアジトであった。計算され尽くした空調設備に全ての家具はオーダーメイドの一級品、フロやスパ、イタマエまで完備されたこの空間は最早アジトというより城であった。つい1日前まではサイバー遊郭地下のカビた匂いのするタコ部屋で同僚と雑魚寝をしていたとはとても考えられない変化である。アジトにしては豪勢すぎるのでは?と指摘するとイグゾーションは「男というものはどの歳になっても秘密基地というものが好きだからね」と笑った。

 

全ての手続きが一段落しマオは改めて目の前の新しい主人兼恋人を見やる。なるほど、初めて見た時はその残虐さに隠されていたが中々の美丈夫である。歳相応の皺こそあれどその皺が外見を損ねるといった事は一切なく、寧ろ熟成された美しさを醸し出していた。ウェーブがかった白銀の髪は丁寧にオールバックにされ、背中で一纏めにまとめられていた。常に柔和な表情だがギラギラと光る白金色の虹彩と暗黒の瞳孔が彼の凶暴性を明らかにしている。

 

「さて、これから一緒に住むにあたって君にお願いしたいのだが」

 

イグゾーションは突然口を開く。マオは身構えた。

 

「私にジツを使うのはやめて頂きたい。いいね?」

 

完全にバレている。マオの首筋を冷たい汗が流れた。

初めてイグゾーションと出会ったあの日、マオは過去のトラウマからイグゾーション相手にジツを発動させてしまったのだ。あの後イグゾーションから全く言及されなかった為誤魔化せたかと楽観視していたマオは己の甘さを痛感していた。相手はザイバツのグランドマスターである。誤魔化せる筈がなかったのだ。

 

「もしまた私にジツを使ったらお仕置きだから」

 

「お、お仕置きって何を...」

 

イグゾーションはニッコリと微笑んだ。細めた目から白金色の瞳が光る。マオは震え上がった。あの顔はきっと碌でもないことを考えている。想像もしたくないような何かを。

 

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イグゾーションは目の前の少女を見る。マオは恐々と怯えたようにこちらを伺っていた。手を翳しただけで恐怖心からジツを使ったあたり、何かしら対人、おそらく男に対し何かしらのトラウマがあるのだろう。マオのジツについてバリキ・ジツによるインタビューを行っても良いが、まずは信頼関係を築くのが先決だなとイグゾーションは考えた。

 

「これから君と共に暮らす事になる。お互い仲良くしようじゃないか」

 

対象を甘やかせ、自分なしでは生きていられないようにする。その後暴力で屈服させ依存性を深め飼い慣らす。イグゾーションが最も得意とする洗脳方法であった。この方法でイグゾーションは多数のニンジャから盲信を集め自らの下僕としていた。

 

イグゾーションの言動は終始紳士的であったがマオはその裏に何か仄暗いものを感じずにはいられなかった。

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その日の夜、マオは緊張していた。暗い畳張りの部屋、二組のフートン、そして恋人同士の男女。賢明な紳士淑女ならお分かりであろう。そう、夜のアレである。

 

ジツは既に看破されている。二度目はもう通用しないだろう。イグゾーションのいう“お仕置き”が何であるかは皆目検討もつかないが、きっと碌でもない事はマオも理解していた。マオは震える手を握りしめる。きっと大丈夫、目を瞑っていればすぐに終わる。哀れな乙女は布団の上で涙目になりつつも覚悟を決めた。マオはやろうと思えば覚悟を決めれる強い女なのだ。

 

イグゾーションが部屋に入る。おそらくフロ上がりであろう彼の髪は少し乱れ、セクシーな色気を醸し出していた。普段は隠されている彼の鎖骨が見える。イグゾーションの瞳がマオの瞳と重なる。そして...

 

イグゾーションはそのまま普通に寝た。コンマ2秒もかからない、非常に健康的かつ安らかな安眠であった。一人置いて行かれたマオは愕然としてイグゾーションを見やる。これではただただマオが不埒な妄想をしていただけである。まるで私が痴女みたいではないか!マオは恥ずかしいやら安心したやらで情緒をめちゃくちゃにされながら自分のフートンに潜り込んだ。フートンの中の空気は普段より熱く感じた。

 

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マオの当初の不安とは打って変わって、イグゾーションとの日々は実に平和そのものであった。イグゾーションは特にマオに恋人らしい事は要求せず(というかマオにあまり興味がないようで)、マオはアジトの中であればほぼ自由に動くことができた。

 

たまにイグゾーションはマオに話しかけてきた。その内容は主に変わりはないかだとか今度ネオサイタマに行くがお土産は何が良いかなどのたわいのない会話であった。

 

最初こそ警戒していたマオだったがだんだんとイグゾーションに慣れてきた。むしろイグゾーションとの会話を楽しみにするほどであった。この広いアジトの中でマオが会話を許されているのはイグゾーションただ一人であり、退屈は人を麻痺させる。マオは順調にイグゾーションの掌の中で転がされていた。

 

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マオはこの頃イグゾーションに隠れてジツの練習をしていた。どうせイグゾーションにジツをかける事はどだい無理な話だし、アジトの中も平和な以上一日一回しか使えないジツを練習するにはちょうど良い空間だったのだ。アジトを歩くオイランドロイドに後ろから近づきジツをかける。昔の自分に似た存在にジツをかけるのは少し躊躇われたが、彼女らに思考といったものが存在しないと気付いてからは申し訳なくも鍛錬の的とさせて頂いていた。

 

オイランドロイド達は思考がない為色仕掛けが通用しない。よって背後から近づき思い切り抱きしめワンツースリー。この猶予を如何に短くするか、どのくらい長い期間昏睡させることができるのかといった物が当面の課題であった。

 

マオがジツの研究をしていたのは暇であるからという理由もあったのだが、他にイグゾーションに対抗したいという気持ちもあった。いつイグゾーションの気持ちが変わるかもわからないし、もし自分に生命の危機が迫った場合はリスクを冒してでもジツを発動させなければならない。このアジトにいる以上、どれだけ平和であってもイグゾーションは凶暴な猛獣でありマオはかよわい獲物であった。そしてマオの持つ唯一の武器はこのイグゾーションを一瞬でも足止めできるジツ。少なくとも保険をかけておく方が良いだろうといったのが彼女の判断だった。

 

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そしてその日もマオはジツの訓練を終えてホッとひと息をついていた。最近はバイオスモトリ相手にもジツをかけれるようになり、成長を実感していた。私でもやればできる!マオはふふんと鼻を鳴らすとオーガニックコーヒー(ブルーマウンテン)を啜った。イグゾーションお気に入りの一品である。

 

にわかに外が騒がしくなる。急にマオの部屋のドアが開くと血まみれの男が飛び込んできた。目からは謎の液体を流している。

 

男はマオに気がつくと大声で何かを喚きながらマオに近づいた。マオがあっと言う暇もなく体を拘束される。首元にはナイフ、先端がマオのほそこい首に食い込んでいた。悲鳴をあげたいが恐ろしすぎて声が出ない。カヒュッ、カヒュッと息が肺から漏れる。足ががくがくと震える。

 

そこにイグゾーションが入ってくる。彼はなんでもないように男に拘束されたマオを見た。イグゾーションの存在に気づいた男が喚く。

 

「な、なぁ!!!この女お前のイロだろ!???こ、こいつがどうなっても良いのかよ!!!!」

 

首元に当てられたナイフがだんだん深くつき刺さっていく。マオの真っ白な首からは真っ赤な血が流れ線を作っていた。

 

イグゾーションはしばらくその光景を眺めたあと口を開く。

 

「...マオ、何をしている?ジツは?」

 

「ジ、ジツは...今日の分もう使っちゃって...」

 

「は?」

 

「い、イグゾーションさん...た、たずげ...」

 

「黙れ!!おいイグゾーション!!!!俺はお前に話しかけてんだ!!!俺をここから安全に出せ!!そうしないと俺は...!!!俺は...!!!!」

 

イグゾーションは考え込む。

 

「...カラテは?」

 

「へ...?」

 

「ニンジャならカラテくらいできるだろう。相手はモータルでしかも怪我している。余裕だろう?」

 

「そ、そんな...」

 

無理な話である。マオは体力に関してはモータルの一般的な16歳の少女と同じであった。例えモータルだろうがナイフを持った成人男性相手にとても抵抗などできなかった。ナイフがどんどん喉元に入ってくる。

 

(ここで私は死ぬのか…)

マオは諦めて目をつぶった。どうしようもない。ジツはもう使えないし、イグゾーションにも見捨てられた。そもそも奴隷オイランの分際で主人に助けを乞おうとしたのが間違いだったのだ。首からはどんどん血が流れ落ちていく。イグゾーションは溜息をついた。

 

「手間のかかるお嬢さんだ」

 

コンマ1秒、マオの背後の男がネギトロと化した。マオに降りかかる鮮血。持ち主を失ったナイフがカランと床に落ちる。マオはショックからそのまま気を失った。どさりとほそこい身体が床に落ちる。イグゾーションはその光景を見ながら思案していた。

 

(この女弱すぎるのでは?)

 

イグゾーションはマオを抱き起こしながら訝しむ。グランドマスターたる自分相手ならともかくモータルの男にも負けるとは、ニンジャソウルを持つ者としてあまりにも弱すぎる。能力を買って引き取ったが正直欠陥品なのでは?といった考えが頭を掠めた。

 

否、イグゾーションは大きな勘違いをしていた。マオのニンジャソウルであるコマチ・ニンジャは古来伝説的オイランニンジャだった。彼女はオモテ社会においては一千万年に一人の美少女オイランとして、裏では重要人物の暗殺、スパイ行為を繰り返していた。本来のニンジャが持つ暴力性は彼女のシルクの様に流れる艶やかな黒髪となり、憂いを帯びた大きな瞳となり、おぼこい桃色の頬となり、花の蕾のように控えめに綻ぶ唇となって脈々とマオに受け継がれていた。暴力性だけが強さとは限らないのである。

 

彼女の存在は歴史上において完全に秘匿されたものであった為、イグゾーションのニンジャソウル、マズダ・ニンジャがコマチ・ニンジャを知らないのも無理のない話であった(女は往々にして嘘をつくものである)。しかしこの過ちによって、イグゾーションは後々痛い目を見る事になる。

 

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