ダンス・イン・ザ・ヘル(忍殺イグゾーション夢小説)   作:おじロリすこ太郎

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ダンス・イン・ザ・ヘル #4

マオは混乱していた。

最近、妙にイグゾーションが優しいのだ。否、今までも優しいことは優しかったのだが(少なくとも昔の客と違って暴力を振るってきたりはしないので)彼は時折ゾッとするほど冷酷になる瞬間があった。その姿は初対面の時の奴隷オイラン達を爆殺して回る血濡れの姿を想起させて、その為マオはいつ自分も爆殺されるのだろうとビクビクしながらイグゾーションの様子を伺っていたのだ。

 

最近のイグゾーションはただただ優しかった。マオを見かけると上機嫌そうにそばに寄りマオの話を聞く。時にはマオを外に連れ出すこともあった。その姿は本物の恋人のようで、過去の“恋人とは建前上の飼い主とその奴隷オイラン”だった関係性とは明らかに一線を期していた。

(いつからこうなったんだっけ...?)

マオは過去を振り返る。

 

⬛︎

 

マオが再び目を覚ました時、彼女は自室のベッドで横になっていた。バリキ・ジツを受けた時の記憶は彼女にはなかった。イグゾーションの正確かつ精密なジツの調整はマオの脳にショックを与え、的確にジツを受ける前後の記憶を消去したのである。

彼女の首には丁寧に包帯が巻かれており、ベッドサイドにはお詫びの如く花束が置かれていた。あの後イグゾーションが介抱してくれたのだろうか。マオは申し訳ないやら嬉しいやらでしばらくあたふたしていた。

 

マオは倒れる前のことを思い出す。人質に取られたマオのことをあの人は助けてくれた!その事実はマオにとって何事にも変え難い事実だった。

だって、物凄く怖かったから。ナイフがどんどん首元に突き刺さっていって死んじゃうと思ったから。ジツも使えなくてどうしようもなくて、咄嗟に助けてと叫んだらあの人は助けてくれた。マオの人生の中にそんな人物は今まで存在していなかった。下層の奴隷オイランなんて虐げられて当たり前で、同僚にも嫉妬から虐められて、マオはずっと生まれてから一人で戦ってきたのだ。自分の身を守る為に。

でも、そんな私をあの人は助けてくれた。その上で手当てまでしてくれた。それがとても、とても幸せな事に思えて。

(本当は優しい人なのかも)

数時間前自分がイグゾーションに拷問まがいの“インタビュー”を行われたのも知らず一人愚かな乙女は微笑む。

 

「あの人にお礼を言わないと」

こあい人だけども、助けてくれた人なので。

マオは立ち上がる。怪我は首元の切り傷だけだったようで、むしろ丸一日寝たことからマオは自分の体が軽くなったように感じた。いつのまにか着ていた病衣を脱ぎ、普段着のキモノに着替える。

「まさかこれもイグゾーションさんが着せてくれたんじゃ...いや流石にオイランドロイドに任せたよね...」

そんなことはある筈がないと思いつつも、あのプライドが高く人の上に立つ為に生まれてきたような男が自分の服を着替えさせるところを想像してマオは赤面した。病衣は信じられないくらいマオにぴったりのサイズであった。

 

⬛︎

 

「イグゾーション=サン」

マオがイグゾーションの部屋を訪れた時、イグゾーションは一人静かに本を読んでいた。コーヒーの入ったマグカップからは湯気がまだふわふわと立っている。休憩に入ったところだったのだろうか。イグゾーションはマオに気づくと微笑んだ。

 

「マオ、起きたのか。良かった。調子は如何かな?」

「おかげさまで良くなりました!あの、助けて頂いてありがとうございました...!包帯まで巻いていただいて...それにお花まで...」

「元気になったなら良かった。こちらこそ謝罪しないといけない。あれはうちで管理してた参考人でね、ふと目を離した瞬間に逃げてしまった。怖がらせてしまって申し訳なかったね。」

 

“管理”の裏にある意思を感じてマオは恐怖する。やはり怖い人だったのかもしれない。

 

イグゾーションは続ける。

「マオ、君最近一人でジツの訓練をしているね?」

「えっ」

「キミ、さっき襲われた時ジツを使えなかっただろう。キミのジツの使用限界数は一日一回のみ。そこからキミは自主練習をしていたと踏んだのだが...違うかな?」

 

マオは焦った。皆さんも知っての通り、マオはイグゾーションに隠れてジツの練習をしていた。しかもその理由はイグゾーションに対抗する為。バレると非常に不都合な理由であった。マオは即座に謝ろうとする。

 

「いや、謝らなくていい。自分を磨こうとする信念は素晴らしいものだ。私はキミを応援するよ。

そこでなんだが...是非私にキミの鍛錬を手伝わせて貰いたい。私もキミのジツには興味があるし...年輩者として何か教授出来ることもあるだろう。お互いにウィン-ウィンだと思うが?」

 

断る理由などない。既にジツの練習を勝手にしていたことはバレているのだし、グランドマスターたるイグゾーションが師匠に着くという提案はとても素晴らしいものだった。それにマオはこの時点でかなりイグゾーションに絆されていたので、

 

「もちろんです...!ありがとうございますイグゾーション=サン!!」

と二つ返事で了承した。イグゾーションとマオの師弟関係の完成である。

 

「サネアキ」

「へ?」

「今度から私のコトはサネアキと呼びなさい。私の本名だ。」

「わ、わかりました!サネアキ=サン!」

 

イグゾーションは満足そうにそれを聞くと仕事に戻った。マオはしずしずと彼の部屋から出た後、イグゾーションのことを考えた。なんだかイグゾーションの雰囲気が変わった気がする。今までは少しでも選択を間違えたら即ネギトロにしてきそうな、そんな氷のような冷たい雰囲気を漂わせていたのに今の彼はマオのことをちゃんと見て話をしてくれた。その上、協力するとまで言ってくれたのだ!

もしかしたら今までの不安は全部杞憂だったのかもしれない。寧ろ助けてもらったのにこんなにビクビクしているのはシツレイだっただろう。マオは反省した。

(サネアキ=サン)

マオは心の中で復唱する。

グランドマスターにとって本名というものは本来秘匿されたモノだ。そんな彼が自分に大切な本名を教えてくれたことが嬉しくて、帰り道に少しだけ鼻歌を歌った。

 

 

⬛︎

 

イグゾーションがここまでマオに対応を変えたのには訳がある。イグゾーションは元々マオへの対応を考えあぐねていた。奴隷オイランであった彼女を買い取り、少し豪華な暮らしをさせればすぐ懐くと踏んでいたのだが実際あの小娘はイグゾーションを見るとすぐビクビクビクビクしていた。おまけに元オイランの癖に男性恐怖症である。周りに殺人なんて当たり前、他人になんて興味なく精神がコンクリと鉄筋でできているようなニンジャばかりを集めていた彼は初めて見る繊細でかよわい生き物に対応を決めあぐねていたのだ。

 

そんな彼にとってマオの「優しくして」との懇願は天啓的であった。元々気遣いの上手い彼であったがそれはニンジャ対応の優しさであり、16歳のモータル同様の少女が感じる優しさとは違うものだとイグゾーションはようやく気が付いたのだ。ニンジャにとってモータル殺戮爆殺劇は自らの能力を見せつけ相手を心酔させるためのパフォーマンスめいたモノだが、少女にとってモータル殺戮爆殺劇を見せられることはトラウマ以外の何者でもないのである。案の定哀れなかよわい小娘は次に爆殺されるのは自分だと怯えながら過ごす羽目になった。

 

そこまで思い当たったイグゾーションは大いに反省した。そしてニンジャソウルを持つ以前の記憶を引っ張り出し(なんと二十年以上も前のことである。月日の流れとは恐ろしいものだ)なんとか人間時代だった頃の優しさらしきモノの概念を思い出した。彼の天才的な脳が素早く対マオへのコミュニケーション法を計算し、イグゾーションはそれを実行。そして今に至る。イグゾーションはコーヒーを啜りながら、そういえば初めてマオの笑顔を見たなと思った。

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