ダンス・イン・ザ・ヘル(忍殺イグゾーション夢小説) 作:おじロリすこ太郎
その日からイグゾーションは暇を見つけると、マオのジツ訓練に協力してくれるようになった。彼は何処からか“お手伝いさん”(その顔は見るからに恐怖心で引き攣っていた)を連れて来て、マオにジツをかけてみるように言った。
恐らくこれからイグゾーションに殺されるか、もっと酷い目に遭わされるのだろうと想像していた“お手伝いさん”達は突然現れた白百合の如く清楚で華蓮な美少女に目を白黒させ、訳のわからぬまま抱きつかれ、そのまま昏睡していくのであった。
マオは上機嫌であった。訓練の甲斐あって最近はジツの精度も上がってきたし、何より自分だけの秘密だったジツを他人に共有できてしかも認められるというのはとても誇らしい事だった。
長年一人で孤独に闘ってきた自分をようやく認めてもらえたような、そんな気分になってマオは今日も訓練に励むのであった。
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一方、イグゾーションは頭を抱えていた。弱い、あまりにも弱すぎる。ここまで弱いとは想定もしていなかった。
カラテをしようと片足立ちになるだけでよろめき、スリケンはあらぬ方向へ飛び、モータルを殴ることすら躊躇する彼女はもはやモータルどころかバイオチワワ(ヨロシサン製薬が作成したセラピー用バイオワンコである。カワイイ!)よりも弱く、イグゾーションの心労は日に日に強まっていった。誇らしげに訓練の成果を報告する彼女を見て、何度(コイツまた下層遊郭に沈めたろか)と思ったことか。
肝心のジツもあまり振るわなかった。“お手伝いさん”こと囚人達は昏睡して6時間程度経つと気持ち良さげに覚醒し、マオがいない事に驚き右往左往するのであった。そしてイグゾーションが彼らに何があったかを質問すると彼らは決まって恥ずかしげに赤面しながら
「天女めいた美少女に抱きしめられた」
とだけ口籠もりつつ答えるのである。
断じて彼らに快適な睡眠を提供するためにここまで連れてきたわけではない。今日も数秒前まで顔を赤らめて夢想していた“お手伝いさん”を片付けながらイグゾーションは溜息をつくのだった。
無論6時間も対象を昏睡させることができるならジツとしては上出来である。しかしモータル相手でも6時間程度経つと目覚めてしまうというのなら、ゲン・ジツへの対処法を知るニンジャであれば即座に脱出することが可能だろう。
実際、イグゾーションは即座に自身がゲン・ジツ内に存在している事を見抜き脱出を果たした。マオのジツを対ニンジャ戦で使用可能なレベルにせしめるには最低でもモータルを二度と目覚めさせないような、そのレベルのワザマエが必要になってくるのだ。
いっそのことメンタリストに協力を仰ごうか。しかしイグゾーション自身もメンタリストの事は苦手で極力関わりたくなく(あの見た目は正直コワイ!)。初めてまともに向き合うゲン・ジツ使いにイグゾーション自身もどう対応すべきか悩んでいた。
そんな状況でもイグゾーションが辛抱強くマオに接していたのはマオのジツの中に確かに光るものを見つけたからである。どれだけ壊滅的にカラテが下手だろうがジツが弱かろうが、初対面の際にイグゾーションを昏睡せしめたジツはザイバツでも一握りのタツジンでしかなし得ないワザマエで。ちゃんと訓練さえすればゴールデン・エッグを産むガチョウとなる筈と、イグゾーションは今日もジツの研究(という名のマオ研究)に励むのであった。
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そういえば、とイグゾーションは思う。確かメンタリストはゲン・ジツ空間で起こる出来事を全てコントロールしていた筈だ。マオも同じ事が出来るのであろうか。
イグゾーションはそう聞いてみるとマオは口篭りつつ答えた。
「で、できます...というかいつもそうしています。」
おや、と思う。この女のゲン・ジツ能力は想像以上に高いのかもしれない。
「どういった内容のものを?」
「そ、それが...その...」
マオはまた黙りこくってしまう。彼女は言葉を探している様だった。
「...どうしても答えないといけないですか?」
「キミのジツを知る上で重要な情報だからね」
「そ、その...」
マオは顔を赤らめる。数秒逡巡した後で彼女はぽそりとこう呟いた。
「ぜ、前後的なことを...」
「前後的なこと?」
「こ、これ以上は堪忍(かに)してください...」
マオは蹲り、彼女の顔は髪に隠れ最早見えない程になっていた。彼女の長い黒髪から透けて見える真珠のように小さくて形の良い耳が朱に染まっている。
なるほど、とイグゾーションは思った。昏睡から覚めた囚人達がやたらとデレデレしているとは思っていたが、彼らはゲン・ジツ内でマオから遊郭的セクシャル・サービスを受けていたという訳か。それならば彼らが覚醒した際にマオがいない事に驚いていたのも頷ける。
もう少し痛めつけてから殺しても良かったなとイグゾーションはぼんやり考えた。なんとなく、ムカつくので。
「何故そのような事を?」
「あの...前職の関係で...ジツはいつもお仕事中に使っていたので...安全の為に...」
そういう風に記憶を改竄するのが一番慣れているんです、とマオは付け加えた。
「“お手伝いさん”が基本6時間くらいで起き上がるのは?」
「それが大体のお仕事時間だったから...」
イグゾーションは最早呆れて天井を見上げるしかなくなってしまっていた。
極度の男性恐怖症でありかつバイオチワワより弱いマオがどうやって奴隷オイランの身で下層遊郭を生き残っていたのか疑問に思っていたが、まさかゲン・ジツというニンジャ界でも類を見ない希少能力をモータル相手にサービス(しかも性的な)として使っていたとは。猫にコーベインというレベルではない。モータルにコーベインである。
それに何より。イグゾーション以外はこの事実を全員知っていたのである。イグゾーションだけが何も知らずせっせこオイラン斡旋業者の如くマオを囚人に引き渡し楽しませていた訳だ。ジツの研究だとかなんだとか言いながら。
(これ終わったら刑務所に憂さ晴らしに行くか...)
哀れな囚人達の末路が決まった瞬間である。
「...マオ」
「は、はい...!」
「次からは隠し事はせずきちんと報告する様に。キミのジツを上達させる為に必要な情報だからね」
「は、はい...」
「それと...」
「まだあるんですか...」
「記憶の改竄として前後的なゲン・ジツを見せるのはやめなさい」
マオの顔がより朱に染まる。
「や、やっぱりダメですか...」
「いや、別にダメというわけではないが...」
実際ハニートラップとして使う分には強力な組み合わせだろう。ただ、実戦で扱うには今のマオには実力が追いついていない様に見えた。もし他に選択肢があるのならばそちらを優先した方が良い。
「マオ、キミにとっては非常に残念な報告となるのだが」
イグゾーションはなるたけ正直にマオに伝えた。昏睡させることのできる時間がモータル相手にたった6時間程度なのは対ニンジャ戦に於いては不十分なこと。大抵のニンジャはゲン・ジツ対処法を知っており、マオのジツにも対応することが可能なこと。マオのカラテはバイオチワワ以下であること。云々。
マオの顔色はイグゾーションが口を開く度どんどん青色へと変わっていった。イグゾーションはそれを赤くなったり青くなったりして面白い生き物だなぁと眺めていた。
「ッ...!わ、わたし...クビですか...?」
「いや、そんなことはない。何せキミのジツは希少だからね。訓練すればきっと素晴らしいものになる筈だ。」
こう言ったもののイグゾーションも彼女をどう訓練させていけば良いかわからなかった。
もしジツが上達したとして、カラテがバイオチワワより弱い女をどう実戦投入すれば良いのだ。ニンジャの世界は常にノー・カラテ、ノー・ニンジャ。よっぽど強力なジツを持っていない限りカラテとジツを両方制するモノが生き残る。今のマオのレベルでは...ニンジャ同士の闘いに巻き込まれてネギトロにされるのがオチだった。
イグゾーションが熟考しているとマオは突然思い出したように口を開いた。
「あ、あの...!私...正確な時間は分からないんですけど...15時間以上ジツで誰かを眠らせてしまったこと、あります...!」
曰く。以前遊郭の廊下で襲われたので咄嗟にジツをかけてしまったと。その男は以前からマオをストーキングしていた男で、恐怖心から彼女は「死んじゃえ!」と精一杯の殺意を込めてジツを放ったこと。その結果、暴漢の体はガクンと死体めいて倒れマオはその場から逃げおおせたのだが...
「それ以降がおかしかったんです」
マオは続ける。その男は普段マオがジツの発動期間として設定している6時間を超過しても起き上がらなかったのだ。8時間...12時間...15時間経っても男は起き上がらない。普段泥酔し床に倒れている客を見慣れている遊郭の従業員達もこれはおかしいと思い、確認をしたが男は眠っているだけだったという。ただその顔は苦悶で歪んでいた。
結局その男は次の日には姿を消していた。死んだのか誰かが引き取ったのかはわからない。ただその男の有様があまりにも異様だったので。その後一ヵ月程遊郭の中では殺されたオイランの祟りだとか浮気された妻の生霊だとかといったオバケめいた怪談噺がまことしやかに囁かれていたという。無論当事者であるマオは黙っている他なかったが。
そこまで聞くとイグゾーションは「ふむ」と考え込んだ。今の話が本当ならそれはとても重要な情報である。マオのジツを実戦で使用する上で欠かせないピースと成るかもしれない。
「マオ、試しにこの男に先程言った通りにジツをかけてみなさい。」
イグゾーションは“お手伝いさん”を一人連れ出しマオの目の前に置いた。
「えっ!?いや、でも死んじゃうかもしれないんですよ!?」
イグゾーションは最早何も言わなかった。ただ静かにニッコリと微笑む。マオは震え上がった。碌でもないことを考えている時の顔をしていたからだ。その顔は暗に
「手を抜いたらお前も同じ目に合わせるからな」
と言っていた。
「わ、わかりました...ごめんなさいお手伝いさん!」
マオが囚人に抱きつく。その瞬間囚人の体がガクンと床に倒れ込んだ。静まり返る部屋。マオだけが焦った様に右往左往していた。囚人の顔は確かに苦悶で醜く歪んでいた。
⬛︎
イグゾーションは満足げにデータを見ていた。マオが男にジツをかけて数日後、未だに男は眠り続けていた。いずれ栄養失調で死ぬだろう。このまま死ぬまで見守るか、それとも栄養剤を打ってジツがどれほど継続されるか正確なデータを取るか。
いずれにせよこれだけ長い期間モータルを昏睡させたという結果はイグゾーションを充分に満足させた。やはりイグゾーションの審美眼は間違っていなかったのだ。後はこれが対ニンジャでも通用するかどうか。
⬛︎
「マオ、ありったけの殺気を込めて私にジツをかけてみなさい」
ある日のこと、イグゾーションはマオを部屋に呼び出しこう言った。驚愕からマオの目が見開く。
「正気ですか!?」
「無論正気だとも」
「あのお手伝いさんだってあの後一週間も寝ているんですよ!?」
「そうだね」
結局あの時ジツをかけられた男は一週間経ってもまだこんこんと眠り続けていた。その腕には点滴が打たれている。おそらくこの点滴が切れるまで彼は永遠に眠り続けるのだろう。
マオは怒りと焦りで顔を真っ赤にさせながら続ける。
「い、一生目が覚めないかもしれないんですよ!?」
「その時はキミが私の遺産でも継げば良い」
「冗談ではなく!!」
小娘はふんすふんすと言いながら喚き立てる。その様子があまりにも必死なのでイグゾーションは思わず笑った。
「いや、私もここでセプクするつもりは毛頭ないよ。ただニンジャにもキミのジツが通用するのか確認したいだけだ。この前された時はどうも手加減されていたみたいだからね」
私は対ゲン・ジツ訓練を積んでいるから大丈夫だとイグゾーションは付け加えた。
「そ、それでも...」
「グランドマスターたる私の対ゲン・ジツ能力を疑うのかな?心外だ」
「そういう訳ではないですけど!!それでも何かあったら私は...そもそも以前ジツをかけたら“お仕置き”だと仰ったのはサネアキ=サン自身じゃないですか!」
「お仕置き?」
あぁ、そんな事も言ったかなとイグゾーションは考える。少し怖がらせるつもりで言ったのだが想像以上に彼女は深刻に捉えていたらしい。特に意味など無かったのだが。
「では今回は手を抜いたらお仕置きとさせて頂こうかな」
「そ、そんな...」
マオの顔が絶望に染まる。一体何を想像しているのだろうか。マオは数十秒黙り込んだあと、覚悟を決めた様にイグゾーションを見据えた。
「何かあっても責任は取りませんからね!」
「その意気だ」
マオの腕がイグゾーションに伸びる。
⬛︎
マオの身体がイグゾーションの身体に密着する。女特有の脂肪を皮膚下に忍ばせたむちりとした肌がぴとりとイグゾーションの素肌にくっつく。温かい。布越しにマオのまろい小ぶりな胸を感じる。指で触れればすぐ沈んでいきそうな、そんなやわこい女の身体。彼女からは仄かに桃の香りがした。
「サネアキ=サン」
耳元で濡れた様な声で囁かれる。
イグゾーションは思わずマオの顔に手を伸ばした...
その顔には。
【忍】 【殺】
と凶々しく書かれたメンポ!
「き、貴様はまさか...!?」
「女を抱けると思ったか?ヘンタイめ。このままハイクを詠むといい。
ドーモ、イグゾーション=サン。ニンジャスレイヤーです。」
殺
戮
者
の
エ
ン
ト
リ
ー
だ
!!
⬛︎
イグゾーションが再び目を覚ました時、既に2時間が経過していた。彼は2時間に渡るニンジャスレイヤーとの死闘の末、なんとかゲン・ジツ空間から抜け出したのだ。互いに四肢を奪い合う、まさに命懸けの闘いであった。現実世界のイグゾーションは五体満足であったが。
ベッドサイドではマオが泣き腫らした目でこちらを見ていた。イグゾーションが覚醒した事に気付き「
マオの体重を身体に感じながらイグゾーションは天井を見上げるしかなかった。
「とんでもない女だ...」