ダンス・イン・ザ・ヘル(忍殺イグゾーション夢小説) 作:おじロリすこ太郎
マオはそのままジクジクとイグゾーションの胸元で泣いていた。
だって本当に、イグゾーションがもう二度と目覚めなくなってしまうと思ったから。
「本気でジツをかけないと“お仕置き”する」と脅され、もうどうなっても良いやと半ば自暴自棄に彼にジツをかけたのが二時間前。対ゲン・ジツ訓練を積んでいるから大丈夫だと笑っていた彼は30分、1時間経っても起き上がる様子はなかった。そしてその均整の取れた顔は見たこともない程に苦悶で歪んでいて。
マオはこの時初めてイグゾーションが自分にとってどれだけ大切な存在なのかを気付いたのだった。
もうあのイグゾーションに対して常にビクビク怯えているマオは存在しない。いるのはただイグゾーションがいなくなる事に怯え、彼の身を心から案じるマオだった。
サネアキ=サンは確かにこあい人だけれど。それでも私の唯一の理解者で師で恋人で。下層遊郭の奴隷オイランという最底辺の存在だった私を拾い上げて、理解してくれて、ちゃんと私を見て話をしてくれた。
そんな相手はマオの人生の中で今まで存在していなかった。いや、これからも存在しないかもしれない。
そう思うと彼女は、自分が何をしてしまったのかを気付き。べちょべちょ泣きながら必死でイグゾーションを起こそうとしたのだった。
⬛︎
イグゾーションは考えていた。
現状わかっているマオの能力はこうである。
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1)マオは対象に対して“幸せな夢”を見せる事ができる
2)マオは対象に対して“不幸な夢”を見せる事ができる
3)マオのカラテはバイオチワワより弱い
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1)の“幸せな夢”に関してはモータル相手なら絶大な効果を発揮するだろう。モータルが寝ている間に重要書類を盗み出したりアリバイを作成したりとその活用方法は多岐にわたる。
ただニンジャ相手だとゲン・ジツ内に変幻するフクスケなどわかりやすく、かつ破壊しやすいオブジェクトが多数存在する為、ゲン・ジツ対策を知る者だとジツをかけるのは難しいだろう。
問題は2)の“不幸な夢”である。グランドマスター級のイグゾーションですら二時間も昏睡せしめたジツは実際恐ろしいものであった。
イグゾーションはこのジツを対象の持つトラウマをゲン・ジツ内に具現化させるモノと考えた。イグゾーションの場合は以前半殺しにされた経験のあるニンジャスレイヤーが出てきたというわけである。この“不幸な夢”から脱出する条件は自身のトラウマの破壊。
今回は破壊に成功し、ゲン・ジツから無事脱出することが出来たがもしあの場で負けたらどうなっていたのだろうか。もう一度再戦できるのかそれともあの“お手伝いさん”の様に永遠と眠り続ける事になるのか。
イグゾーションは自身が死の一歩手前にいた事に気付き冷や汗をかく。本当に恐ろしい女だ。
このジツの強いところは上手く嵌れば対象を永遠に昏睡状態にさせることができるところだが、イグゾーションはもう一つの特性について興味を持っていた。それはこのジツの拘束力である。
対象がゲン・ジツ内に囚われている間、現実世界で対象は眠っているものとなる。その間に対象を殺す事ができればゲームセットだ。
「身体が元気でも首を刎ねれば死ぬ」
これはかのミヤモト・マサシの言葉だったか。どんな英雄だろうと豪傑であろうと昏睡している状態であれば、あのバイオチワワより弱いマオでも簡単に殺せるだろう。
3)に関しては言うことはない。ただ“幸せな夢”や“不幸な夢”の発動条件を考えるとカラテよりハニートラップの訓練をさせた方が良いか。都合の良い事にマオの見た目は常人を遥かに超えた女神の如き美貌だ。ハニートラップをさせるにはこの上ないだろう。
そこまで考えるとイグゾーションはようやく胸元で未だべそべそと泣いているマオを見た。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。マオは自身を見るイグゾーションに気づくと一言、
「もう二度とこんな事させないで下さい」
とだけ怒ったように言い、またイグゾーションの胸元に顔をうずめるのだった。
イグゾーションの服も彼女の涙と鼻水でベタベタになっておりそれは酷くイグゾーションを不快にさせたが、彼女があまりにも泣いているので放っておく事にした。
⬛︎
マオはその日の間ずっとイグゾーションに引っ付いていた。流石にトイレとフロだけは離れていたがそれ以外の時はぴっとりとひっつき離れようとしない。離そうとすると
「泣かされたので。」
と恨めしそうに言うのでイグゾーションは複数回の試行錯誤のあと、諦めてマオの好きな様にさせた。
⬛︎
その日の夜。
マオは相変わらず拗ねていた。イグゾーションが寝ようとすると布団の横で正座し恨めしそうにイグゾーションを見つめる。流石に寝にくいので「もう寝なさい」と伝えると
「今日は一緒に寝てください」
と答えた。
マオ曰く。
「今日は酷い事をさせられたので。泣かされたので。“恋人”なら責任を取ってください。」
とのこと。
イグゾーションは最早面倒くさくなっていたので一言
「おいで」
とだけ言い自身のフートンを上げた。マオはモソモソとイグゾーションのフートンの中に入ると横にぴっとりと引っ付いた。そのままマオをひょいと抱き上げて自身の上に乗せると小さい悲鳴が聴こえた気がしたが無視する。
(この女抱いてやろうか)
とも思ったが今日はもう疲れたので。マオを見ているとあの赤黒いニンジャを思い出すし。イグゾーションはそのまま寝ることにした。マオの身体からは夢で嗅いだあの桃の香りがした。
⬛︎
「私今とんでもない状況にいるんじゃないか?」
マオはだんだん冷静になってきて自身の置かれている状況に気付き始めた。
今日、マオは酷く怒っていた。大切な人をこの手で傷つけさせられそうになったので。あんなに嫌だって言ったのに、忠告したのに無理矢理させられた結果、彼を殺すところだったので。
マオは今日あらん限りの我儘をイグゾーションに言った。ずっとイグゾーションに引っ付いていた。彼が動いているところを見ると生きているって安心出来るから。一緒に寝て欲しいって言ったのもその延長のつもりで。「おいで」と言われた時マオは安心してそのまま眠るつもりだった。
だがこの状況はなんだ??マオは冷えてきた頭で考える。周囲を見渡す。
自分の真下にイグゾーションが寝ている。顔がくっつける程に近い。普段のかっちりとした近代貴族めいたスーツと違って薄手のパジャマを着ている彼は酷く無防備であった。彼の筋肉質な身体を、熱い体温を直に感じる。彼の腕はしっかりとマオに巻きついていた。
これは、この状況は。
だ、だってまだ手も繋いだこともないのに!?き、キスだってしたことないのに??
マオは慌てる。頭の中は好きな人と寝てしまっている!の一色だ。寝てしまっていると言ってもただフートンの中で一緒に寝ているだけだが。
好きな人と寝てる、それは嬉しいんだけどちょっと順序が違うんじゃない?だって普通は手を繋いでキスして、それから...
私これから抱かれちゃうのかしら?あ、アレはいるのかな...サネアキ=サン身長高いし...は、入るのかな?痛いのは嫌だな...
マオはこっしょりとイグゾーションの方を盗み見る。彼はよく寝ている様だった。マオは残念な様な安心した様なよくわからない気持ちでイグゾーションのフートンに潜り込んだ。鼓動の音が煩い。興奮した身体は熱を持ち始める。私今体温何度あるんだろう?サネアキ=サンは暑くないのかな?
離れようにもイグゾーションの腕はしっかりとマオに巻きついていて抜け出す事は叶わなかった。眠れない。
結局マオはその夜を一睡も出来ないまま過ごす事になった。