ここでTSっ子を投入!   作:ウォードコーヒー2

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ここでTSっ子を投入!

 

 

 光の陰る森。迷い込むものを草木はその顔を葉で隠してはいるが、風の便りがその醜悪を、悪意を告げてくる。黒々とした土に目を奪われそうなほどに美しい花が群生している。なんて美しくかぐわしい香りだろうか、ただ一つ注意しよう。その美しさは無償の物ではない、それを忘れた客はことごとく栄養にされている。そうして花は今日も自慢げに咲き誇る。

 

 ただの生存競争だ。そういうものだと知識では知っている。しかし、実際に踏み入れるたびに思うのはこの空間はひたすらに悪意に満ちていると。

 

 俺が人だからそう思うんだろうな。

 

 人だから。畢竟、そこにすべては詰まっている。何かを解釈して知ったような口で弁舌を垂れるのはいつだって人間だ。そう考えると、悪意だのなんだのと知ったように言うのは、森からしてもなんのこっちゃ、だ。ただ、そこに在って、生きているだけなのに。

 

 それでも、と。男は背負っていた弓に矢を番えて、先の空間に放つ。いくつも木が立ち並んでいて、その中でも日光の当たりが少ない、弱弱しい木をあえて狙う。

 

 空気が高速で飛来する物体にかき混ぜられて、攪拌する。矢は当然に過つことなく幹に突き刺さり、鈍い音が聞こえる。

 

 一瞬の静寂。プッ……! こんな面白いことを我慢なんてできないとばかりに音が漏れでて、それを皮切りに周囲の木々が哄笑しだす。

 

 なんて、奴だ! 大いなる大地の隙間に根を張ることも出来ない猿風情に傷をつけられている! こんな面白いことはない、あいつは傷ツキだぁ!

 

 人間に木々のざわめきから意味をくみ取ることはできないから、これはこう言っているのではないかと言う妄想だ。エルフなら聞き取れるのだろうが、あの種族はいつもこんな趣味の悪い隣人に囲まれているのだとしたら、それはそれは気が滅入りそうだ。

 

 草の隙間から赤黒い何かがズルズルと動いているのが見える。男は音もなく自分に近寄っていた木の根の対象が自分からあの傷つけた木に向かったのを確認する。

 

 傷つけられた木はその根元の地中に他の木からいくつもの根を突き刺され、時を早回しするように葉が落ちていく。

 

 弱きものはああして他のものの栄養にされてしまうのがこの森のルールだ。これを利用して、男は何年も、何十年も森の注意を逸らし、比較的安全に仕事をしていた。

 

 自然も人の世も何も変わらない。すでに大部分を枯れ果てさせている木を横目にそう思う。一度でも弱みを見せれば、最後、すべてを奪われる。

 

 だから、油断するな。全てに気を配れ。

 

 男は森の奥へと足を運んだ。

 

 

 

 とある小国の隅にとある陰鬱な村がある。周りを森に囲まれ、日光もそこそこにじめっとしている村だ。そこで暮らす村人も、これまた覇気がなく、明日に期待よりも不安をのせている。

 

 土地のせいで、国のせいで、魔物のせいで。要因を挙げれはしても、どうにかできはしない。ただ、今日の飯のために生きる。

 

 ドルトもそんな村人の一員で、今日も狩りのために森へ来ていた。いつもと変わらない日のはずだった。こんなことを生業にしてているのだ、早死にするだろう。そう思ってここまで生きてきた。

 

 しかし神様は己の予想より多めに命数を割り振ってくれたらしく、いまでは壮年と呼ばれる年で、体の節々が痛み始めている。

 

 そうだ、己はもう若くなく、体もガタがきている。それはそうだとも、しかし年月は苦痛だけではなく、贈り物も渡している。

 

 極めた技能は魂と結びついて離れず、何度も己の命を救ってくれた。狩人としての己は研ぎ澄まされた刃で、脅威を切り抜けるすべを理解しているはずだ。

 

 そのはずだ。……違うのか?

 

 「フー! フー! 糞ッ!!」

 

 悪態は疾走する道の脇に捨てられ、誰に聞かれるでもなく消える。視界は頭から流れ出した血で赤く染まり、右腕からは骨が露出していた。

 

 それは走るとは言わないのかもしれない。転ばないように突き出した足が偶然走るという形は、不格好だが、しかし、少なくとも今まで己を生かしている。

 

 しかし、それもここまでらしい。はるか下に景色が見える。崖が切り出したこの場所は、まさに生の終着点だ。

 

 こいつは別段珍しいことじゃねぇ。世界のどこだって起きてることで、生きてりゃ、ばったり会うことだってあるだろうさ。

 

 そうだ、今日死ぬのはどうやら俺らしいってだけだ。それだけだ。

 

 

 ナイフを懐から取り出し、構える。

 

 楽な獲物になる気はない。そして、ドルトは少し笑った。

 

 夢の中で見たのかもしれないし、どこかで自分の末路について空想したのかもしれない。つまり、己は強大な敵と相打ちになって死ぬだろうと。

 

 人生なんて予想できるものではないらしいが、死に様はどうだろうな。

 

 

 右手を体の前にだし、体をかばうようにする。

 

 血を大量に失ってからというものの、記憶が飛び飛びで、今は、体に染みついた技術頼りだ。

 

 一撃だ。それで急所を抉れ。

 

 

 木々が揺れる。この先にある蹂躙に沸き立っているのだろう。

 

 「こいよ……! 何度も同じ手には引っかからねえぞ!」

 

 

 襲撃者はすでに忍び寄っていた。襲撃者は木の裏から観察し、疲れ果てるのを待っていた。安全を期すならこのまま、出血死するのを待てば良い。

 

 しかし、生きているうちが一番、楽しい。

 

 

 木の裏からするりと姿を現した魔物には、緑と茶色で彩られた縞模様の腕が6本ついていた。人の腕に酷似したそれは異様に長くかぎづめが付いており、其のうちの一本はドルトの血でぬれていた。

 

 胴体は円筒の形をし、赤黒い内蔵と肉の塊のようだが、常に色彩が変化し、背景色と同化しようとしている。頭部に当たるものは存在しない。

 

 時折、円筒の足元で子供の泣き声が聞こえる。寄せ餌だ。そこにあるのはミミズのようにのたうつ触手でしかないのだから。

 

 

 

 異形の化け物。それが魔物だ。

 

 それが何だ。

 

 「俺と一緒にくたばりやがれ」

 

 ドルトはナイフを本来とは逆に持ち替えると、そのまま魔物の背後の大樹に投擲した。

 

 そうだ体は覚えていた。ここは眼下の木々を一望できる見晴らしのいい崖で、比較的大樹が多くある。

 

 人も木も変わらねぇ。他を見下せる一等地に根を張れる奴は偉くて強くて、プライドの高い奴だ。

 

 唸りが空気を振動させる。取るに足らない存在に傷つけられた怒りだ。これなら、周囲を己ごと殺しつくすだろう。

 

 魔物は体を捩じると、6本のかぎ爪を遠心力に任せたまま大樹に叩きつけた。間一髪、頭を下げることで巻き込まれるのを避ける。

 

 唸りは最早悲鳴へと変貌していた。大樹は木の根を突き刺し、魔物はその巨体を切り落とそうと腕を振るう。

 

 大樹が切り落とされる。その刹那、地面が隆起したかと思うと、崖が崩れ始める。崖の端まで根を伸ばしていたのだろう、それを、すべてを破壊するために滅茶苦茶に動かす。目の前の敵に気を取られていた魔物の体勢が揺らぐ。

 

 付け入るスキがそうやってドルトの一手により生み出された。満足に動かないからだに活を入れて、力のままに魔物にぶつかる。後は、重力が殺してくれる。

 

 しかし、魔物も死に物狂いだった。ドルトにより半分ほど空中に押し出されつつもかぎ爪を振るい、ドルトを吹き飛ばす。

 

 ゆっくりと周りが動いているように見える。極限の集中はドルトの行いの結果をこれ以上なく脳に伝えてくれた。

 

 あれでは、魔物は落ちないだろう。あと、もう一押しが必要だと分かっていても、あの距離を詰めるのは不可能だ。地面に倒れ伏したまま、そう冷静に納得した。

 

 ここで終わりか。

 

 

 あの日。ゴミみたいに渡された箱にみた娘の骨を見たときに、あの子を、娘の忘れ形見を守ってやれなかったときに死ぬべきだったのだろうか。

 

 ずっと苦しんできた。その罪をもう抱えなくてもいいと考える自分に気づいて、その罪深さに笑う。

 

 やはり俺は救えない奴だ。

 

 

 走馬灯だろう。あの子が笑ってこちらに手を振っている。最後の時に会いに来てくれたのだろうか。こんな男にはもったいないほどの贈り物だ。

 

 屈託のない笑顔で駆け寄ってくる際に、全貌が見える。そう、それは赤髪に黒目の裸の少女であり……

 

 裸だった。嘘だろ。

 

 そのまま、少女は飛び上がると、魔物に向けてドロップキックを喰らわせた。

 

 呆然とするドルトを前に幼女は崖の下に落ちていった魔物を見て満足げに頷く。

 

 ふざけたことに、娘の面影を宿したその少女に心当たりがあった。一度だけ、赤ん坊のころに顔を見たことがある。もし、成長したならこんな顔だちをするのかもしれない。

 

 しかし、それでも、それは、……。

 

 問わずにはいられなかった。体の痛みもこの疑問の前に消え去っていた。

 

 「何っ、だ。お前は……?」

 

 

 「おっ! 言葉は通じるんですね。良かった~、転生ものって大体は現地人と言葉が通じますけど、それでも万が一はありますからね。というか、そもそも人がいて、かつ、文明がありそうで良かった!誰とも会えないで餓死なんて救いがなさすぎますよ。ていうか、この森やばすぎません? もしかしてこれが普通だったり? だとしたらベリハード」

 

 立て板に水とばかりに喋り続ける幼女だったが、問いに答えていないことに気づいたのか、腰に手を当ててとても自慢げに己の自己紹介を始めた。

 

 「俺、うーん、今は少女だから私の方が良いか」

 

 ブツブツと考え込んだ後、答える。

 

 そうだ。あの日、娘は笑って俺に言ったんだ。

 

 ――お父さん。この子の名前は……

 

 

 「お前は、もしかして、ヨルな……「私の名前はハル、この世界を救う主人公です!」……」

 

 

 「…………」

 

 

 人生はやはり予測できるようなものではないらしい。

 

 ドルトはあまりにも莫大な情報と失った血により、後ろ向きにぶっ倒れた。

 

 「何だってんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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