商いの場に現れた闖入者は静かに周りを見回す。その場には多種多様な魔物が存在していた。やがてそれら魔物がハルに視線をやると、にわかにざわめき始める。
箒の柄にいくつもの吸盤を生やした魔物はすぐ隣に現れた少女に驚いて、商品を落とす。落とされた商品は鶏の顔にヤジロベーの胴体をくっつけたような玩具だ。しわがれた老婆の声で買い主に罵倒をし始め、それを皮切りに、体中の吸盤に吸い付いていた商品が片っ端から落ちるもんだから大変。一気に場が騒々しくなる。
その声に反応して、天幕の奥から這い出してきたのは、全身が泡で覆われた何か。泡は虹色に光を反射しており、蜘蛛のような細長い脚が雑多に生えだしている。どうやらその手で器用に価格札を書いていたようだ。全ての手を使いせわしなく値段を書き換えているようで、商品の値段は数秒おきに乱高下する。商品を売ることよりも値段を書き換えることに必死のようだ
木箱を背負った人のように見える魔物は、よく見れば顔が中心から裂け、一回り小さい顔が現れている。その顔も裂け、現れを繰り返す様は無限の入れ子細工のようだ。裂けるたびに声色が変わっており、周りに集まっていた魔物に、その背に入った箱の蓋を開けて商品を千の声で披露していたのだ。その声も今は沈黙で塗り固められている。
向かいの天幕の中では、人型を寄せ集まった硬貨で成した魔物が客と談笑している。互いによい商談だったと笑いあい、そのたびにチャリチャリと金属音が鳴る。時折、硬貨が地面に散らばり魔物の体を欠けさせるが瞬時に他の硬貨が補い合い完璧な造形を保ち続けている。…周りの客が少女に目を盗まれていたのは幸運だ、驚きのあまり顔の半分を構成する硬貨を盛大にぶちまけた所を見られなかったのだから。
蛇の下半身に珊瑚の上半身を持つ商人は、遥々遠来の故郷より持ち込んだ商品が売れないことに悪態をつき、目の前を素通りする薄情な客に呪いをかけていた。よくしなる珊瑚を指揮棒のように振るう呪術は商品に心を奪われる魅了の絶技。途中で中断さえしなければ確実に成功させる呪いは、少女に気を取られたことにより呪術返しをくらい、今や自身の商品に首ったけ。今日は店じまいだ。
そうして、天幕や座敷に置かれた品々を吟味していたはずの視線はいまや一人の少女に注がれていた。
身構えるも、魔物はこちらを遠巻きにするだけで今すぐに危害加えようとする様子は見られない。魔物の性質を鑑みれば、それはほんの少しも安全であることを意味しない、とはいえここで立ち止まっていることが正解だとはハルには思えなかった。
何をしてもダメそうなら当初の目的通りに、ここへ己を呼び出した者を倒すしかない。
――真っ当な使いでございます、ハナサキでございます――
「確かハナサキでしたっけ? あの時、扉を開けて顔でも見とくべきでしたね」
とはいえあの短時間でそうしていれば、己一人でこの魔境と対峙しなくてはならなかっただろう。しかし、あの時情報を得られずとも己には同行者がいる。
「頼みますからね、籠。お前も売り物にはなりたくないでしょう」
軽口を叩くも、籠は考え事をしているのか返事は帰ってこない。
無口な同行者との対話を切り上げ、ハルは改めて辺りを見渡す。初めて見るにしては人が興す市場と相違ないように見えたが、それは誤りのようだ。天幕は布でできているようだが、近くで観察すると産毛のようなものがびっしりと生えており、そこに人の顔に酷似した痕が浮かんでいた。笑っている奴、悲しんでいる奴、起こっている奴、一つの天幕に同居した彼らからの嘲りが聞こえてくるが、膜を通したようにくぐもっている。
並ぶ品物も様々だ。口が付いている果実は大したことのない栄養価の割に、世の学者を置いてきぼりにして新たな定理を滔々と説明している。瓶詰をにされている羽はフワフワ無害そうに浮いているが、傍の説明書きに「爆発物注意」とある。時折ピタリと制止し、ビンの外の客に買ってくれと言わんばかりに細部まで見せつける様も、それを読んでからだと恐ろしく思える。
そこまで一通り見渡すと、ほうと息を吐く。不思議に満ち溢れたこの市場で何よりの不思議は己がこうして未だに無事なことだろうと思う。どうやら未知や危険を遠巻きするのは魔物といえど同じなのか、周囲は緊迫した空気を孕み、見えない壁をハルの周りに形成しているようだった。
しかし、何匹かの魔物――泡をまとった蜘蛛脚、顔を幾重にも裂きながら何事か呟く商人、さらには金属の軋む音をひそやかに響かせていた硬貨の魔人――はすでにハルへ距離を詰めようとしていた。
不意にブゥンと籠が鳴いた。示す先には先ほど商品を盗み見した露店がある。
「話が通じるといいですね」
本来であればさっさとこの雰囲気に乗じて逃げるべきなのだろうがそれが叶わぬ現状である。ならば、少しでも情報を得るために一度、自ら更なる危険に飛び込む必要があるのだろう。
「あの、えーと、…良い品ぞろえですね。すごい、目が離せなくって、えと、聞きたいことがあるんです」
とりあえずナイフを握りながら、恐る恐る魔物にハルは話しかける。
上下逆さまに宙づりにされた大の男サイズの木製パペットに天幕の机ごしにそう話しかける。片方の足に結ばれたロープは天に伸び、終着点を窺うことはできない。
パペットはフラフラ風に揺られていたのが、ぴたりと動きを止める。まるで目に見えない手に無理やりにその場で掴まれたように不自然な挙動。
顔には目も口もなく、木目があるのみであり、返答はない。
「…ただじゃダメって言うなら、こっちには値打ちものがあるから物々交換とか」
突然、パペットの腹部が裂ける。うひぃと声を上げるハルを他所に、音もなくそこから無数の糸とそれに操られて躍り出てきた赤子ほどのサイズの人形が一体現れ、そのまま華麗に机に着地する。
「よーこそ。お客様、情報をお求めのようで!」
声が可愛い。
「声可愛い…」
「可愛らしくあれと生まれた時から義務付けられていたものでして!」
おどけたように人形は快活な口調で言い、サービスとばかりにその場で華麗に回転しボタンの目でウインクしてさえ見せた。
「それと申し訳ございませんが情報と物品の交換はここでは致しません! 質問したいなら勝手にどうぞ!」
「あ、そうなんですね。じゃあ、ハナサキっていう魔物の居場所を知っていますか?」
「さて、当店では一度購入いたしましたらそれっきり。返品などと言う行為はタダでさえ恥、赤っ恥でございますよ。是非とも目利きは心行くまで行いまして、その上で購入頂きたい!」
清々しいほどに無視される。
「……」
「情報と物品は交換いたしません! しかし、こちらの商品をご購入いたしました方には私からの心づけとしてご協力できることがあるやもしれません!」
口上を聞きながら背後を見やるとにじり寄っていた魔物は距離を詰めてこない。どうやらここで商品を吟味している間は横やりを入れる気はないようだ。
……それも、時間を掛けすぎればどうなるかは分からないが。
少なくとも目の前の魔物は己と会話をする気があるようで、この機を逃すわけにはいかない。
「わかりました。買いますよ」
だとしてもハルに買いたい商品などない、適当に買ってしまおうかと考えていると人形が話し出す。
「お客様はどうやら厄介に巻き込まれているご様子。物々交換という話でしたよね? 宜しければそちらの背嚢の方をこちらで確認させてもらった後に、購入可能な商品を提示させていただきますよ」
ドルトから渡された品々はこの森に飛ばされた後に一度見てはいる、価値のあるものが確かに入っているのを知っているが、それは人間にとってで、この人形、魔物にとってはどうだろう。
「分かりましたけど、買いたたかないでくださいね」
言いながらハルはバックを机の上にどさりと置き、無造作に口を開ける。
「フフフ! 商人にそれは商売をするなと言っているようなものですよ、お客様! …勿論、良心的な商売にいたしますよ?」
人形は目を輝かせ、糸で操られているとは思えないほど細やかな動作で中を探っていく。
「……ほほぉ、ふむう。これはまた味わい深い品々。これは「喋る森」の深層部で採れる死相茸、こちらは、ほぉう!!「清廉な森」に入られたのですね、よくもまぁご無事で、当然、蘇りの枝葉は高値で取引させていただきます。……おや、これもまた興味深い、どうやら相当に森を熟知しているご様子で…ほぉう!!!これも良い!………」
ハイテンションで飛び跳ねる人形の査定はもう少し続きそうだ。
魔物はまだ襲ってこない。
「あれらが襲ってこないのが不思議ですか?」
「え? …はい、魔物は簡単に人を殺せないのは知ってますけども。正直、やりようなんていくらでもあるでしょうし」
背嚢に上半身を突っ込みながら人形がそう唐突に尋ねた。そんな会話より今はさっさと査定を終わらせてほしいのだが、ここで気分を損ねたくないハルはとりあえず返答する。
「それはですね、魔物は人を殺しますよね、それもたくさん。でも、人だって魔物をたくさん殺しているんですよ、もしかしたら、お客様が魔物ハンターかもしれない。そうなると、食事も楽じゃないんです。そして、ここにいるのは本能より利益を優先するのが多いです。そいつら、一番槍は避けます。突っ込んで傷つけられたり、ましてや殺されるなんて御免なんです。」
「まぁ、そもそも、お客様との取引を邪魔するなんて野蛮。私が許しませんからドンと胸をお預けください!」
どちらかと言うと目の前の人形が己が安全な理由なのだろう。こいつ、見た目よりずっと強いらしい。
さて、と手を打ち鳴らして。
「査定は終わりました。結構な商売でした、満足です。それでは、特別ですよ? 200霊片(レイヘン)でどうでしょう!」
「なんですそれ」
ハルの知っている通貨はヨルドである。銅貨、銀貨、金貨からなる一般的な貨幣。銅貨一枚で1ヨルド、銀貨は10ヨルド、金貨で100ヨルドであり、一ヨルドで臭い飯、3ヨルド払えば安宿に泊まることが出来る。
「ああっと、いけない。そうでした、魔物と人とでは通貨が違うのでした。えへへ、うっかりですね。……えっと、これこれ、これが霊片です」
「……うわぁ」
それは、禍々しさという概念を一カ所に集めてこれでもかと凝縮したらこんな物体が誕生するのだろうとハルに思わせた。
色形は銀貨に酷似しているが、裏表に両の目をくり貫かれた人の顔が張り付いており、指を己の眼窩に突っ込み、あらん限りの絶叫を――音は聞こえないが――上げていた。
「私たちは取引をする時にはこれを用いるのですよ。私たちにとって価値あるものでなければ通貨にはできません。しかし、これは人の魂の欠片そのものなので、資格よし、使って良し、お腹が減ったら食べてよし、とても便利な優れモノなのです」
人形はピョンと机の上で跳ね、誇らしげに胸を張る。周りの目を計算しつくした愛くるしい仕草だ。
「人間社会で使えるならいいですけど、どう考えても所持しているだけで捕まりそうなブツですよねそれ」
「えへへ。いい顔はされないかもですね、原材料、人ですし。うーん、そ、れ、だ、と、………250ヨルドでどうでしょうか!」
予想を超える大金に驚く。
「いいですよ」
「良くないです!!!!!!」
爆音。
肩を怒らせた小さな人形からのあまりにもバカでかい音量に思わずハルは耳を抑える。周囲の魔物も思い思いの聴覚器官を守っていた。箒の魔物は驚いて商品を落としていた。
「えぇ、何? 声でか…」
ぷりぷりと怒ってますよと、腰に手を当てた人形はハルがまるで重大な間違いを犯したかのように攻め立てる。
「お客様は客でございましょう? ならば、値切りをなさらないと! 心理戦! 腹芸! そして値段交渉!! 商いなのですからっ! 知性あるのですからっ‼ お互いに持てる全てを用いて利益を得るべきなのですよ! ……そうでしょう?」
熱意が怖い。ハルは追従した。
「…そぉうですね」
「良かったです! もう、人間はそういうところありますよね。なよなよしているというか、そもそも商いの先達だっていうのに中途半端に優しかったり、なあなあで済ませようとするんですよ。詰まんないですよね本当に。ああ! 別に人間が嫌いってわけではないですよ、好きですよそこらの同族よりとっても。だってカッコいいですし、美しいですし、何より、何よりも可愛いですよ。話していて面白いのも人間ですし、あいつらは本当詰まんないですよ、自分より弱い奴には襲い掛かって、強い奴にはへいこらする。挙句に、話すことと言えば、どいつが強いとか偉いとか賢いとか長生きだとか魅力的だとか大きいだとか仲間が多いだとか自慢してばっか。可愛くないから辞めて欲しいですよ、そもそもですね人間あっての魔物なのに――」
人形の声を聴き流しながらハルは交渉について考える。今までの学んだ情報を一つ一つ思い返せば、確かに己にもできるかもしれないと思う。
「そこまで言うなら、交渉しますよ」
声は穏やかに、けれどはっきりとした口調で言った。
「まず、その死相茸、よく見ればわかりますけど成熟個体じゃないですからね、ほら、色が傘の部分が緑色だ。こいつは成熟すると薬の材料として素晴らしい素材になりますけど、成熟する前のは珍味としてさらに値が張ります、というかこいつはあっという間に成熟するから、こうして姿が拝めるだけでもなかなか難しいんです。それと、蘇りの枝葉は特殊な方法でしか採取できません。人間が積み重ねた技術の粋を集めた技術に張り合える技が魔物にありますか。ここまで見事にあの森から取ってくることが出来ますか」
机の上の小さな人形はすでに語っていない。そのボタンの目で食い入るようにハルを見つめている。
「で、こっちが提示できるのは、危険な森でしか手に入らない高品質の素材たち、とくに「清廉な森」は魔物すら易々とは入れない。ならば、妥当な対価を払うべきでしょう。今なら、350ヨルド。現物で手を打ってあげますよ」
沈黙。吹っ掛けすぎたかとハルが不安に思っていると、突然小さな人形は机の上でぱちぱちと拍手を始めた。
「わぁぁ凄い! 気持ちいぃ! 人間って感じがする、知恵って感じがするぅ!! しゅごいです~~!」
両の手を天に掲げ、そのまま感極まり机に仰向けに倒れ、四肢をバタバタと動かしながら悶える人形。
「それで私はどの商品が貰えるんですか」
「……すみません。つい、興奮してしまいました」
恥ずかしそうによっこいしょと立ち上がる人形。
「商品、あぁ商品ですね!勿論勿論、ですがその前に質問に答えますよ!……もとよりそのためにここへ来たのでしょう? お客様」
人形は態度をそのままにビシッと指をハルに突きつける。何でも聞いてこれと言わんばかりに胸を張る様子にハルは少し笑う。笑って、己をここへ呼び込んだ魔物の居場所を聞く。
喉に声が閊える。何か異変があるわけではないのに、人形のその言葉に嫌なものをハルは感じる。
違う。この先、質問の先に行きつく答えに不吉な何かを感じているのだ。
「どうしましたお客様?」
しかし、心中を軽くひっかくような直感に取り合っている時間は無いのだ。
「私はハナサキって名乗った魔物にここへ呼ばれた、というか、誘拐されたんですよ。ですので、質問です。ハナサキが今、どこに居るのか教えて下さい」
まだ、魔物は襲ってこない。行儀よく順番待ちでもするようにこちらを眺めている。慌てる必要は無いと言わんばかりに悠然としている。そして――何かが起こるのを待っている。
「なんてなんて可哀そうなお客様! ええ、答えましょう、話しましょう。ハナサキはこの市場の支配者たる魔物の右腕でございます。そうですね、いつもあちらこちらを駆けずり回っておりましてね、一体いつ休んでいるのだろうと可笑しく思います、ふふふ、勤勉、愚直が取り柄のようで」
そういえば、ハナサキばかりに気を取られていたが、確かあの魔物は己を使いだと言っていた。つまり、ハナサキを従えるもの、己はここの支配者に呼ばれたことになる。
「そしてこの市場の中央には支配者が住まう、一際大きな天幕があります。基本的にこの市場で最も重い取引はそこで行われますね。天幕の上部には互いに祈るように組み合わさっている手が生えているのでとても分かりやすいと思います。普段はハナサキはそこに居ますが、今はおそらく村周辺にいるでしょうね。新しく村人を攫っているのでは」
静寂。そういえば今の今まで、何故か、同行者を気にしなかった。そうハルは思う。
緩慢な動きで籠を見やる。籠にはどこかから伸びた細い細い糸が絡みついていた。籠が鳴こうとするたびに、その音を振動を吸い取り静寂を作る働きをしているのだと分かった。
手の感触を確かめる。己は確かにナイフを握って交渉に臨んだはずなのに、それがいつの間にナイフを手放していた。もう、どこを探してもナイフは見つからなかった。
「まだ質問してもいいですか?」
「ええ! ご随意に」
足を動かそうとして、痺れたように動かないでいるのを諦観と共に眺める。細長い糸が視界の端で踊るように揺らめいた。
「何故、私をここへ呼んだんですか」
魔物がハルに襲い掛からないのは、ただそれが自殺行為だと知っているから。それほどに強大な相手なのだ。
「えへへ、市場の前支配者を倒した時から決めてたんです。魔物だけの市場なんて詰まんないから、私が支配者になった暁には人間を呼んでやろうって。だから、ハナサキに何人か人間を連れてこいと命令いたしまして、ええ、記念すべき一人目が偶然にもハル様でした。……こちらから接触しようと思っていたのに、ハル様から来てくれるとは思いもせず、言葉が詰まっていましたね。あれは可愛くなかったです」
何でもない世間話のように、人形はそう言って笑った。
「じゃあ、もう気は済んだでしょう。明日も早いから家に帰してほしいですけども」
「帰す、家に帰す、ですか。正直、私としてはそうしようと思っていたのですよ」
「ただ、どうにも一部の連中が黙ってくれなくてですね。これは私の力不足です」
人形はくるりと回って、ハルの背後に視線を向ける。すると周囲にいた魔物たちが、まるで合図を受けたかのように動き出す。牙を見せる、舌を蠢かせる、手を擦り合わせる。
待ちに待った血と肉の祝祭だ。
「なので、苦肉の策です。まことに心苦しくありますが、ハル様には今夜限り、五品の特例出品としてご協力いただきます」
「そ――」
次の瞬間、脚が崩れた。股関節から先がずるりと抜け落ち、支えようとするも無様に倒れ伏す。
抵抗する暇もなく、残りの手足が糸で巻かれ、するすると裂かれていく。人体を糸のように解いていく技術。恐ろしくなめらかで、獲物は痛みすら抱けない。
「大丈夫ですよ、意識は残しておきます。……恐ろしいですか、ハル様。しかし、不完全なハル様もまた可愛らしいですよ」
机の上に並べられた五つのパーツ。頭、胴、右腕、左腕、右足、左足。それぞれに、手際良く値札が貼られていく。
ハルの視界が、机の端から市場の魔物たちを捉える。我先にと机に殺到し、押し合い、殺し合い、血と肉が吹き荒れる。それでも互いに争いあう。何故なら生きた人体、その価値は魔物にとって計り知れないのだから。
そして――
ハルの頭部が、最初に買い手へと差し出された。
「毎度ありがとうございました!」