私はただの道標   作:霧桜ルー

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Hoc faciamus etiam in perditionis via(破滅の道でも添い遂げよう)

 

 

 

 

 

ホシノは可愛い。

 

暁型ホシノは『自分がしっかりしなきゃ』と現実的な一方で何かと危なっかしい先輩に手を焼きつつ、嫌いになりきれず、見捨てられず、このまま進んでも破滅すると分かってるのに一緒に歩いてくれるいじらしさが可愛い。

 

おじさん型ホシノは仲間も増えて、利子返済が出来るようになって増える一方だった借金に何とか歯止めをかけられたのに、それも緩やかな破滅へのカウントダウンだと分かってるはずなのに、手放せなくて今を笑うのに必死な、そんな何もかも傷だらけな儚さが可愛い。

 

可愛いは正義という義務教育で育った俺はどうしようもなく、キヴォトスに恋焦がれていた。

日がな一日クレジットとオーパーツを集めて、カンストさせて生徒達を眺めて過ごすくらいには、狂っていたと思う。

 

ある日、とうとう禁断症状が出た。

キヴォトスの事を考えただけで手が震え、動悸が早くなり、体内に広がる不快感に苛まれるようになった。

 

喉と頭の鈍い不快感を消すために叫んだ。

手足の疼きを抑えたくて掻きむしった。

背や腹の中で蠢く何かを消したくて刺したり焼いたりもした。自傷行為の跡が服で隠せないほどに広がった頃、運命の出会いがあった。

治療もカウンセリングも効果がなく、病院を転々としては無意味な治療に辟易して退院を繰り返した俺は彼が差し伸べてきたその手を迷うこと無く握りしめた。

真っ黒な身体は白くヒビ割れ霞が漏れる、黒スーツの男。

本名は知らない、ただ「黒服」とだけ名乗る男。

 

【人体実験に同意する代わりに、替えの体とキヴォトスでの居住権を保証する】

 

俺はその契約書にサインした。

 

人体実験の詳細は、人体の神秘を探りそれを具現化する実験だったと思う。

受けたら死ぬけど、成功したら生き返れますよ。って説明をされた。

手術台で麻酔で寝る直前まで話したけど、割と()()()()()()だったのを覚えている。

 

「恋を形に出来たら、それで作る媚薬はいかほどになるだろう…だっけ?」

「それはまた面白い事を考える方ですね」

 

「美女の涙は宝石に勝るそうだよ?小さい頃に幼馴染みの協力で涙を凍らせたりしたけど、アレは宝石には程遠い物だったな…」

 

「物の価値は人によって違いますからね、捉え方もそうでしょう」

「……アンタの言う神秘もそうなのか?同じ神秘でも見る人によって映る神秘は異なる物だったり?」

 

「ふむ…」

 

結局、黒服の返事は聞けなかった。

麻酔で寝てしまって、起きた時はこの機械人形(オートマタ)の体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

▪■▪■▪

 

 

 

「……本当にこの額を?」

 

【そうだ。前金で2億、契約書への捺印と権利書の引渡し完了後に残りの2億を支払おう】

 

「ホシノちゃん…」

 

「待ってユメ先輩、まだ頷いちゃダメ」

 

ボールペンを片手にソワソワするユメ。

横に座って契約書を両手でしっかりと掴んで小文字が無いか、見落とし、読み違いが無いか、吟味するホシノ。

 

可愛ええ…。

ノノミちゃんをもっとコネてフニフニにした雰囲気のユメ、生ユメはもうめっちゃ可愛い。

おじさんホシノの「うへぇ〜」も聞きたいところだが、暁型ホシノもコレはこれで撫で撫でしたくなる。

撫でた手を「触るな」って無愛想に弾かれたい。

 

「……ねえ、カリタスだっけ」

 

【ああ、そう呼んでくれ】

 

「この契約、読むかぎり余りにも私たちに有利過ぎる内容だけど、何か含む物があるんじゃないの?」

 

契約書を掴んだまま、キツい目付きでカリタスこと、私を見据えるホシノ。

疑いの念が垂れ流しの姿がまた幼く見えて可愛いのだが。

 

だが今の私は人間モドキの機械人形(オートマタ)

ブーツとスーツ、コートに中折れハットでキメたダンディズム香る良い大人だ。

雰囲気は大事にしないといけない。

 

【無いさ、これは需要と供給の話だ。私は欲しい物をこの手にする為に相応の対価を払う。代わりに元・所有者となる君達には不干渉を求めている、これはそれだけの話だよ】

 

「何も無い砂漠、住民も去った廃墟に4億も?裏に何も無いって、それを信じろっての?」

 

【信じて欲しいところだね。私はこう見えて悪い大人では無いつもりだから】

 

両手を膝上で組んでソファに腰を深く沈め、帽子で目元を隠す。

 

目は口ほどに物を言う。今のこのキヴォトスに嬉々として好条件とお金をあげようとする大人が私以外に居るはずが無い。

まして大人不信のホシノが相手、もし心情を見抜かれて誤解なんてされた日には私は女子高生を誑かす犯罪者、それか貢いで喜ぶ変態だ。

 

生憎(あいにく)とカンナの居ないヴァルキューレ警察に用はない。

いずれはご厄介になってカンナお手製のカツ丼をご馳走になるつもりではあるがね。

 

「───分かりました」

「ちょっ!ユメ先輩!?」

 

【決めたかね】

 

「はい。アビドス高校・旧本校の校舎含む旧市街地12ブロック、全てを4億クレジットで譲渡します」

 

横から体を滑り込ませるように、ホシノの手ごと契約書を机に押し付け、署名欄にユメのサインが踊る。

そして譲渡宣言と共に署名済みの契約書を差し出す。

呆気にとられたホシノは硬直している。

 

……あの驚き顔は契約したからなのか、素晴らしき胸部装甲の接触によるものなのか。

なんて眺めだ素晴らしい。

カメラ機能があれば撮ってメモロビに出来たのに。

 

如何にも契約に満足だ、と示す様に頷いて煩悩を誤魔化す。

 

【…確かに、では私も署名しよう】

 

ユメのフルネームの下の欄に "カリタス" の名を書いて持ってきていた2つのトランクケースを机にドカ置きする。

中身は2億クレジットの現金。

 

【カイザーへの返金は現金だったね?中身はそれに合わせて現金での一括払いだ。確認してくれ】

 

「はい、少しお時間頂きますね」

 

予め用意していたらしいクレジット専用カウンターが机に置かれ、ユメがクレジットを次々とカウンターに流し込む作業中、ずっとホシノは私から視線を外さない。

 

やはりホシノはどんな顔でも愛おしいモノだった。

「お前もどうせ悪い大人なんだ」と睨んでくるホシノの眼を見つめ返す事で僅かな交わりを堪能し、内心で「可愛いッ!!」を大絶叫で連呼しながら表情筋のない顔で微笑み返すのだ。

「私は悪い大人じゃないよ」と。

 

 

 

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