バカ強スペックの沙条愛歌になったので、可愛さ布教します   作:だっちゃまん

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明日投稿するとか言ったくせにって言わないで……


リヴィラの街を今日からマナカの街に改名します

 

───ソイツは、一言で言えば不気味なガキだった。

 

ダンジョンに似合わねぇ姿、だが、この世界は剣姫のように小せぇ頃から潜って実力を付けた化け物を知っている。ロキファミリアの団長のような、見た目に翻弄されちゃいけねぇ怪物を知っている。

 

リヴィラの街の元締めとして、その辺の審美眼と観察眼ぐらいは持ち合わせている。Lv3まで上り詰め、今日まで生きてこれたのは、俺の世渡り術があってこその為せる技だろう…そんな自負だってあった。

 

……あった、はずだった。今日の昼までは。

 

「……なん、なんだお前…」

 

それが、リヴィラの元締め───否。全身を包帯ぐるぐる巻になったボールスが彼女に言える最大限の恨み言である。

 

 

 

 

 

 

「───良いですか?私の推しとは、可憐で可愛く…それでいて天使のような──紛うことなき、女神なのです。さぁ、目を瞑りなさい、そしてこの姿を脳裏に焼き付け、今すぐに思い浮かべなさい。愛歌ちゃん、かわいーって呟くのですよ」

 

 

迷宮、第18階層にて。人型の狂信者が、ボールス達を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりは、愛歌がリヴィラの街に着いた時まで遡る。

 

どうも!沙条愛歌に成り代わった?憑依した?どっちでもいいや、取り敢えず推しになった沙条愛歌です!あ、これだとややこしいから今後はマナカってカタカナ表記にするね!

 

テンションがブチアゲた俺は自分の異質さを忘れ、冒険者でもない癖に、宛も熟練の先達者を装い行き交う人々に右手を振って「こんにちは」などと宣っていた。

 

布教する上で大事なのは、第一印象だ。人間関係の約八割が第一印象で決まる……なんてことをどこかの記事で見た俺は、全力で笑顔を振りまいて布教の下地を作っていた。

 

え、見た目不審者?んな馬鹿なこと言ってんな。こんな可愛い不審者いたら今すぐ保護だろ、面白いこと言うなよ笑えんわ。

 

「…おい、あんな子見たことあるか?」

 

「いや……ねぇよ。お前は?」

 

「……ううん、見た事ないわ。新規の冒険者かしら…」

 

可愛さ云々よりも、先ず聞こえるのが心配の声。それもそうである、姿は沙条愛歌がよく着ているあの格好なのだ。バチバチに可愛いスカートだ。なるほど、推しの視点からだとこんなに気持ちいいのか視線は。

 

違う。

 

どう見ても戦闘着に見えない格好でセーフティーポイントとは云え、18階層を練り歩いて、行き交う人に手を振ってたら純粋に恐怖である。

 

しかし、そんな当たり前の認識なんて可燃ごみに入れて、ゴミ収集車に回収してもってるので俺の頭にあるわけが無い。

 

(……おかしい、非常におかしい。普通ならここで麗しいそこの君、メアド教えて?とかナンパ紛いの野郎が一人ぐらい来ても良いのに…)

 

やはりこの可愛さに恐れ戦いたか?推しの顔面は強敵すぎたかもしれん、俺が相手なら2秒に3回は震えて縮こまってる。相手は貞子かな?恐怖感じるぐらい完璧美少女ってのは分かって「おい」……あれ、なんか急に目の前暗くなった?

 

 

「──テメェ…見ねぇ顔だな。新参ものか?どこの派閥だ」

 

 

厳つい顔をした冒険者が俺の前で凄んでいた。

 

 

 

 

「…ごきげんよう、ヤクザさん。私の名前は───」

 

 

「おい待て。誰だヤクザって、俺はそんな名前じゃねぇ!」

 

「いえ、ご謙遜を──ヤクザさんですよね?」

 

「俺はボールス!自己紹介に謙遜もクソもねぇだろうが!」

 

全身で息をして、頑なに認めない強面の男──ボールスは恨めしそうに俺を睨んだ。

 

まさか、初っ端から元締め様に会えるとは。自分の豪運さにはつくづく参っちまうぜ。やっぱ前世は徳を積みすぎているらしい、かぁ〜っ!前世の俺ってば、卑しか男ばい!

 

「てめぇ…!俺をコケにするのもいい加減にしろよ。俺はここの元締め、此処を使いてぇなら俺に腰を低くしろ。ここでは俺がルールだ」

 

「あ、そうなんですね」

 

地で俺様系を走ってる人は何気に初めて見たかもしれん。しかし、逆を言えばこれはチャンスなのでは?

 

「…俺がルール…なるほど、ボールスを引き込めば愛歌教も一気に成長するよね…」

 

流石にブツブツと喋ってたのがムカついたのか、ボールスが俺の胸ぐらを掴んで今にもぶん殴る勢いに、天才的な案を閃いた。

 

「てめぇ、一度痛い目見る必要があるな」

 

───これは、チャンス。

 

俺の目はキラリ、と光を一瞬纏ってボールスの腕を掴む。体制を変えると、ボールスの腹に背を向けて腕を肩に、そのまま背負い投げの要領で振り上げた。

 

Lv3まで上り詰めた、中級冒険者たるボールスを。地面に激突した瞬間、肺の中の空気が全て口から伝って吐き出される。俺は人知れず笑みを浮かべる。恐怖政治も真っ青な布教だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───彼らは、事のいきさつを眺めていた。また、ボールスが新参に突っかかって、あわよくば金品やアイテムを巻き上げようとしている現場を見て、またいつものか。そんな気持ちで、新規の冒険者?にドンマイコールを思っていた。

 

しかし、彼らの思っていた結末とは裏腹に──見聞きしたことの無い、新参者に───ボールスが投げられた。ありえない光景だ、なぜなら、ボールスはLv3の冒険者。18階層に登ったばかりの駆け出しでは、到底叶わない差があるのだ。

 

にも関わらず、投げたのだ。酒のツマミに道端で与太話をしていた冒険者の一人も口からアルコールを吹き出し、心配の声を滲ませた冒険者たちも目を見開いた驚きを顕にしていた。

 

「嘘だろ……」

 

「な、なにもんだよ…!?あの子…」

 

「あのボールスを、投げやがった…!?」

 

可憐な少女だ。やったのは、力もなさそうな細い──少女だ。いや、そうだ。

 

 

 

───ここは、何階層だ?

 

 

そして、奴は一人だった。前回討伐されてからリスポーンする時間は遠に過ぎており、新たに討伐した話を聞いていない。意味することは単純だ。

 

即ち、それは単独で階層主たるゴライアスを仕留めた証左に他ならない。

 

「……バケモン」

 

 

 

誰かが、呟いた言葉は伝染するように───()()()の波を立ててリヴィラの街を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───良いですか!沙条愛歌とは、天から与えられし力に溺れることなく、己が愛した彼に全てを捧げました!確かに!それまでの目も当てられない行為の数々は───」

 

続く。いつまでも。延々と続く説法は彼らにとって言葉の羅列と云うより、お経のソレである。もはや言葉の意味すらわかっていない様子で拝聴すること、1時間。

 

いつの間にやら包帯でぐるぐる巻きになったボールスを筆頭に、事のいきさつを見守っていた冒険者たちにも火の粉が飛んだ。

 

というか、巻き込んだ。

 

『ねー!そこのおじちゃん達もおいでよー!推しの尊さを共有しよーよ!』

 

正に悪魔の囁きである。淑女らしさはどこへ消えた。己を悪魔だのイカれてるだのどれだけ詰ろうが知ったことか。ボールスが沈んだことで事実上の制覇、リヴィラの街は文字通り、俺の意のまま。

 

この瞬間!リヴィラの街は!我が推しの聖地となったのだ!!!

 

とは云え……少しやりすぎたかもしれない気持ちが湧いてきた。ならず者の集まりだから無遠慮にやっちゃったけど、包帯ぐるぐる巻きになるぐらいの怪我させたのは流石に……やりすぎだったかなぁ…。

 

手加減したつもりだったんだよなぁ…これでも。力強すぎるわこの子。

 

うん、だからここはマナカの街に改名ね?

 

「と云うことで、街の名前はマナカの街に改名します」

 

唐突に、しかし威厳をもって宣言されたその言葉に───誰も反論できなかった。明らかな「え……」と愕然するボールス達の瞳から闘志が沈んだ。

 

リヴィラは消えた。

 

今ここにあるのは、推し活と愛が支配する─マナカの街である。

 

「ね?この方が可愛いし、みんなも楽しいでしょ?」

 

笑顔で頷く俺に、冒険者たちは一様に震えながら頷く。もう、逆らえる者などいない。かくして、ダンジョン探索の中継地点は、新たな名を冠することとなった───。

 

 

「ならねぇよ!???」

 

 

 

ボールスの絶叫が元リヴィラの街に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神様。今日も行ってきます!』

 

そう云って、何時ものようにヘスティアの元から立ってから何時間が経過しただろう。朝日に照らされながら、迷宮へと踏み込んだ。ようやく倒せるようになってきた1階層のモンスターを短剣で倒し、浮かれていたのだろう。いつもならゴブリン一体に何分もかけて倒す所を、思いがけずに早く倒せたせいだろうか。

 

気分が上がって、ギルド員のエイナさんとの約束───冒険者は冒険したらダメ。Lv1の僕が死なないように、ちゃんと線引きしてくれた人との決まり事を、僕は破ってしまった。

 

少しだけ。ほんのちょっとだけ…2階層を見るぐらいなら。モンスターと戦わず、探索を軽くして1階に降りたら大丈夫だろう…なんて、普段なら思わない事を考え、2階層への階段を登った。

 

空気は同じ、迷宮内部の感じも凡そ似通っている。ジリジリとした殺気が漂う迷宮の空気が、変わらず胸を圧迫してくる。だがその重圧も、今では心地よい。自然と、短剣を握る手に力が入った。

 

「はぁ……」

 

一歩一歩、慎重に足を進める。人の気配所かモンスターの気配もしない、あと少しだけ進んだら、引き返そう。

 

────そう思って、更に1歩進めた瞬間。分かれ道の片方から、何かが顔を覗かせた。人の体格以上の大きさを持ち、筋骨隆々の人型。人間じゃないと悟ったのは、何も大きさだけではなく、生え茂った体毛と牛の頭部を携えた神話の怪物。

 

──ミノタウロスだ。こんな上層に現れるはずのない、異常事態。Lv1のベルが逆立ちしても敵わない、絶望的な強者。

 

ヒュッ…と抜けた空気が口から零れる。ゴブリンに勝てて喜んでる僕なんかでは……生きて帰ることすら分からない怪物と、目が合う。

 

「ヴゥフ」

 

真っ赤に濡れた双眸越しに、恐怖で歪む僕を幻視した。いや違う、事実、そうなのだ。咄嗟だった。思考よりも早く逃げた、我武者羅に走った。1階へと降れる場所まで、必死に…背後からドスドスと足音を轟かせる猛獣が迫る恐怖に苛まれながらも、後ろを振り向くことなく走って────。

 

「うわッ!??」

 

ミノタウロスの蹄が突風の如く横を掠めた。一瞬で通り越した速度と土煙が舞う威力に心臓が激しく打っては、呼吸が荒れていく。馬鹿だった、夢見た自分が馬鹿だった。冒険譚に憧れて……美少女に囲まれるそんな夢を抱いたのが間違いだった。

 

──いや、2階層に、此処にさえ来なければ……!!!

 

どこも似通った道を走り続け、もはや今どこを走っているのかさえわからない。曲がり角を抜けた瞬間、絶望の声が口を突いて出た。

 

「行き、どまり……?なんでッ」

 

背後から、ミノタウロスがゆっくりと恐怖を煽るように迫る。振り返って、不意打ちで死なないように……そんな奇跡が起きないってわかってるのに、数パーセントも満たない希望に縋ろうと、震える身体全体を預けるように、短剣を握った。

 

本能だ、すぐに後ろへ下がった。野生の勘とでも云うべき生命の防衛本能が警報を鳴らして、従った────瞬間だった。その直後に地面が酷い有様へと変えられた。

 

「あ、ははは…」

 

完全に腰が砕けた。指一つとして、満足に動かせない。短剣の落ちた音だけが妙に耳にこびりついて、自虐気味に笑った。

 

 

ごめんなさい。神様。エイナさん。おじいちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は、此処で死にます。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミノタウロスが振り上げた拳を見て、死を悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────耳に、妙な声が聴こえた。呻く声だ。あぁ…きっと死んだ自分の声なんだろう。

 

そう思って、全てを諦めた時。体を覆う、暖かな水の感触を覚えて、反射的に目を見開いた。ミノタウロスは細やかに切り刻まれ、歯のように歪んだ不可視のナニカが迷宮に飛び散っていた。

 

その中心に──鮮血を浴びてもなお、輝きを失わない人がいた。

 

綺麗な人だった。カッコイイ人だった。僕よりも、小さな女の子…なのに僕よりも大きくて、遠い存在────。金糸のように、されど薄く艶のある黄白色の髪。左右違う色の瞳、なのにそれすらも引き立てる魅力で、舞踊を披露するが如くスカートを瞬かせた、可憐な君。

 

 

「……あ、ああ」

 

目が離せなかった。何も聞こえない、僕と彼女だけの空間を勝手に作って───ずっと、見惚れていた。

 

彼女との、初めての邂逅。

 

それが、僕と────彼女との、忘れられない運命の出会いだった。

 

 

だけど。

 

 

「────あぁぉぁぁ!!!!」

 

そんな経験が一切ない僕は、お礼を告げる暇もなく羞恥心に駆られた衝動で逃げ去ったのだった。

 

 

 

 

 





3話は……日曜日ぐらいに出します
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