バカ強スペックの沙条愛歌になったので、可愛さ布教します 作:だっちゃまん
感想評価ありがとうね。
執筆でき次第また上げる感じなのでよろしくね
「まったく…ベルくん、返り血浴びたままで街を歩いちゃダメだからね」
「はい、すみません……」
ダンジョンから無事帰還したベルは、アドバイザーとしてお世話になっているギルドの窓口受付嬢、エイナを訪ねていた。血濡れた状態でエイナさん!!と呼んだ彼を青い顔で引き攣りながらご立腹な彼女の説教を受けつつ、改めてベルと向き合った。
そもそも、此処に来た理由はただ一つ。自分を助けてくれた、左右非対称の瞳を持った彼女について教えてもらうためだ。
ここまでに時間はかかったが、お説教が終わるや否や、ベルは早く早く!と言わんばかりの仔兎のようなキラキラした眼でエイナを見る。
そんな現金な弟のような冒険者に、エイナは仕方ないなぁ、と呆れ半分微笑ましさ半分といった表情を浮かべた。
「それで、誰について教えてほしいんだっけ?」
「えっと……左右非対称の金と青い瞳を持った…あの色はなんて言うんだろ…薄い黄色?みたいな色のショートヘアーの冒険者って居ますか!」
「……ん?えっと…他に特徴はある?」
「青いスカートを着ていました、多分14歳ぐらいの女の子だと思うんですけど…」
「…ちょっと待ってね」
そんな子居たかなぁ…とエイナは呟きながら登録された冒険者の事を探した。一応、ファミリア内に該当する人がいるかどうかも隈なく調査すべく、同期や先輩達に尋ねていくが…どうしてそんなことを聞くのか疑問に思ったエイナは作業の傍らで尋ねた。
「ベルくん、ところで何で人探しを?」
「えぇっと、その、ちょっとミノタウロスから助けていただいたと言うか……」
「はぁ!?」
「ひぃ!?」
「ベル君、キミはまた、冒険者は冒険しちゃダメっていつも言ってるでしょう!?」
「ごごご、ごめんなさぁい!?」
などという、横道もはさみつつ、エイナは忙しく該当者を探したものの…。
「エイナぁ…そんな人いないよぉ〜」
「そんな子はギルドに居ないぜ?」
「私には分かりかねる…すまん」
同僚からはそんな人は居ないと言われ、先輩からも似たような容姿の人も、ギルドで登録された冒険者は存在しない、と言われてから一時間が経過した頃。
事態は思わぬ方向に転がった。
なにやら神妙な顔付きで戻ってきたエイナはカウンター越しでベルと向き合うと、先ほど以上の真剣味を纏った口調で告げる。
「……ベルくん、ちなみに何階層でミノタウロスから助けられたの?」
「…2階層です」
「に、2階層!?2階層!?ほ、ほんとに?」
「…は、はい。間違いないです」
カウンターに手をついてベルと至近距離に迫るエイナ。それに困惑半分嬉しさ半分の感情にせめぎ合って、たじたじになるベルを傍ら、ベルの発言に、普段なら慎むはずの彼女は更に頭を抱えた。
ただでさえ冒険者として存在しないと思われる人物に救出された、と云うだけでも大問題なのに、ミノタウロスは本来、15階層以降に出没する下層モンスター。加えてLv2の怪物が、もし2階層で出現したら?そんなの誰が考えても同じ結論を辿る異常現象が此処にきて発覚するとは。
「……ちょっと待ってね…あぁ、えっと…その、ベルくんを助けてくれた女の子の特徴を手当り次第探してみたんだけどね、該当する子が居ないの」
「いない……ですか?」
■
ベルを救出した俺は転移で18階層に戻り、リヴィラの街から外れた場所まで来ていた。まぁ、辺り一面森なもんで正確な位置は分からないけど、一先ずは地面に腰掛けて、頬杖を付いた。
「えー……バグってなんでしょうか」
脳内友達・根源ちゃん曰く──俺ってば、なんか神すら触れられない根源とやらに接続されちゃってて、そのせいで世界のパワーバランスがぐっちゃぐちゃ。
だから、原作と同じ展開を無理やり辿るように、いろんなとこで
『世界が狂う』って、そりゃまぁ納得。
──て、納得できるか!!意味わかんねーよ!!!
なにバグって、なにそれ!?え、じゃあちょっと待って?2階層でミノタウロスと会ったよな?本来の展開だと何階層で……あーそうだ、5階層だ。え、5じゃん!!
……やばくね?それだいぶ不味くね?
本来ならアイズ達がある程度掃討して減った数体のミノタウロスが逃げ出した事で5階層に踏み込んでいたベルに偶然被害が及んだ。しかし、今の展開ではなんの前触れもなく──世界の調整によって無理に起こされたミノタウロスの奇行になっている。
それも、2階層で
なぁ、根源。このバグってさ……もしかしなくても俺達が認識している本来の世界──原作よりも酷い運命を辿ったりする…?
あ……なるほど。
───貴方の選択次第ってか。
■
時を同じくして、アイズやリヴェリアと合流したロキ・ファミリア陣営───今回の遠征に抜擢された幹部含めた数名による緊急会議が開かれた。
しかし、会議と言っても形のみ……一縷の隙も許されない迷宮内において危険な行為に等しいものだが、そうは言っていられない状況を、二人から聞かされたのだ。
「──リヴェリア、先の報告は間違い無いんだね?」
「あぁ…崖の上からとは云え、誤魔化せるものでは無い。そして、目の前で少女はアイズの剣を受け止めた」
合流当初、神妙な顔……ともすれば思い詰めたような二人の表情にいち早く察したフィンは気持ちを引き締めて、報告内容を訊いた。するとどうだ、それは此処にいる誰もが予想だにしなかった答えが返ってきた。
フォモールの軍勢を一人で制圧し、アイズの剣を素手で防いだ──少女と出会った。
もちろん、ファミリア内は驚愕の色に染まってティオナやティオネ、あのベートですらリヴェリアに詰め寄って、事の顛末を問いただしていた。
「……だから、か。親指が痛いほどに疼いたのは…」
フィンの親指は──特異な危機察知の力に反応する。
それがここまで痛む程となると……暗黒期以来、数十年ぶりの異常事態だ。オラリオ最悪と称される、それに匹敵する存在だということ。
「ちょっと待って!フォモールの軍勢を1人で倒したって云うのは百歩譲ってわかるけど……アイズの剣を受け止めたって、ほんとなの…?」
ティオナが意を決したように発言する。それはどこか信じられないと言わんばかりの言い草に、同じく幹部である猫耳を生やした銀髪の少年ベートを筆頭に姉のティオネもうっすらと頷いていた。
その隣で、ポニテ姿のエルフ──アイズ狂信者のレフィーヤに至っては残像が見えるほどに同調を示していた。彼ら、ロキ・ファミリアにとって"信じられない"事態として受け入れ難い情報なのだ。
しかし、それを告げたのはロキ・ファミリアの重鎮リヴェリア。彼女が嘘をつくはずもなければ、フィンに虚偽の報告をするはずもない。
──何よりも、アイズの異変が其れを裏付けていた。
「…私だって、信じられなかったさ」
「ティオナ…これは、紛れもない真実だ。みんなも、疑いたくなる気持ちは分かる、けれど……」
このことはギルドに報告、そしてファミリアの主神たるロキにも報告し判断を仰ぐ必要がある。リヴェリア達の告げたマナカと云う人物の真意───そして、敵なのか味方なのか。
加えて、これほどの戦闘力常識を外れた存在がどこから現れたのか。聞いた容姿も特徴的、にも関わらず見た事も聞いたことも無い───まるで幽霊のように現れた存在。
闇派閥の生き残り、その線も視野に入れて。二人に告げられた『また、いずれ会いましょう。推しと共に』の謎もまだ残っている。
「───この事を受け止めてくれ。アイズ、君もだ」
今にも剣を抜き差して、飛び出そうとする危うさを孕んだ彼女を見据えて、アイズはビクッと体を揺らす。フィンと視線を合わせると、躊躇いがちに頷いた。
■
「ベルくん…ちょっと詳しい事聞きたいから応接室に来ない……?」
と、エイナから尋問という名のお誘いを半ば強制的に受け取ったベルは、応接室のソファにちょこんと腰掛けていた。美女と二者面談──本来なら美味しいシチュエーションのはずなのに、そこにあったのは胃に重くのしかかるような沈黙と居た堪れなさ。
どうしてこうなった。と、声に出して問いたいぐらい。
冷や汗を垂らしながらベルが天を仰いでいる間にも、時間は容赦なく過ぎた。エイナに呼ばれてから実際にこの部屋に通されるまで、軽く30分は待たされた。
待たされてる間に感じたギルド内の空気も、どこか張りつめていた。誰もが忙しそうに駆け回り、エイナさんはどうした?かと誰に尋ねても「もう暫くお待ち下さい」としか返ってこない。
そしてようやく現れたエイナの顔は──生気を吸い尽くされたかのように青白く、目の焦点もおぼつかない。
そんな彼女が、いきなりガバッとベルに向き直ったかと思うと、両肩を掴み、今にも泣きそうな声で迫ってきた。
「ベルくん、もう一度特徴を教えて! 髪の色は!? 装備は!? どこの派閥!? ていうかどうやって潜ったのか全部洗いざらい吐いて!!」
余りの迫力と半泣き具合に、照れ半分なんて浅ましい思考はマッハの速度でバイバイした。
「あ、あの…!?お、落ち着いてくださいエイナさんっ!」
「お願い、早く」
「は、はい…。えっと…ショートヘアーで、薄い黄色で…青を基調とした服装で…スカートだったはずです。左右非対称の金と青の目…14歳くらいの女の子、でした。派閥は分かりません…装備も特になくて……軽装だったので…魔法?か何かで倒したのは見ました…です」
先程よりかは詳細な内容だったが……やはり当初聞いたものと対して変わらず、特徴的な容姿という事がせめてもの救い。
なんの実績も信頼も無い冒険者の戯言として処理される前に、いち早く手掛かりとなる情報を掴みたい思いがあったエイナは、目の前の不安そうにするベルを見て、自分の焦りで彼の気持ちを忘れていたことに気が付いた。
「…えと、だめ、ですか?」
「……だめじゃないよ。ううん、そうだよね……ごめんねベルくん、君に強く言っちゃって」
「いえ、こちらこそ…!エイナさんは頑張ってるし、僕も分かる範囲でならお力になれますから!」
「ベルくん…ありがとう」
───彼が嘘をつくはずがない、それは分かりきっていることだ。しかし、それを知っているのはギルドの中でエイナのみ。ミノタウロスの目撃情報も、今の所彼しかなく…エイナ単独でどうにかできる問題じゃない。
どう足掻いたって、上の判断が必要な事由。上層にミノタウロス、迷宮内に正体不明の少女と……大きな問題が一気に降り掛かっても、何も出来ない千日手の現状に内心で溜息を吐いて──そう言えばと、ふと……思い出す。
『…なぁ、お前知ってる?ゴライアスを単独で討伐したバケモンがおるらしいぜ、リヴィラの街で噂になってる』
『…あ〜、ボールスを半殺したっていう子だろ?俺も聞いたぜ。所詮噂だけど、本当ならスゲーよな!』
今朝、迷宮から帰ってきたと思われる冒険者達の会話が脳裏を過ぎる。あの時は特に何も思わず、景色の一部として流していた言葉。そんな事あるはずがない……なんて一蹴した、彼らの会話を得て─。
そんなはずはない。けれど、心の奥底で"それしかない"と告げる声がある。
上層のミノタウロスを倒す実力。
ベルくんを助けた、女の子。
ゴライアスの単独討伐。
リヴィラのトップを倒した。
ヒントと呼ぶには些か足らず、噛み合うはずのないピースが、なぜか合わさってしまう。まるで誰かが見えない手で導いているかのように──。しかし……たったそれだけの情報だろうと、ギルド員として最優とされる彼女の頭脳は徐々に断片的な情報を辿って、式を弾いていく。
そして、彼女は「もしかして……」と、その答えに辿り着いた。
リヴィラの街──そこに、何かがある。
■
不具合を起こした元凶は、紛れもなく自分。まさかここまで物語にくい込んで、世界観を捻じ曲げる程だとは想像も出来なかった。
……いや、そりゃそうか。ただでさえバランスブレイカーの力を宿してるのに、根源なんて反則とアルフィアっていうチートも合わさってんだ。下手したら此処の神様より神様然とした事も出来るぐらいだしな……。
俺のせいで、本来は生きる人が死ぬかもしれねぇのか。
俺のせいで、世界を捻じ曲げちまったのか。
こんなつもりじゃなかった。でも──俺の"好き"は、そんなに重いものだったのか。
…推しの良さを広めるつもりが、厄災をばら撒く───推しがかつて行った悪行となんら変わらない結末じゃねぇかよ。
───貴方の選択肢次第で、世界は残酷にも慈愛にも染めることが出来る。
根源から流れる情報は、未来を予知しているかのような優しさを湛えて。
──何を悩むことがあるの?私と何ら変わらない力を持っているというのに。
根源の情報と共に、幻聴も流れる。推しの声だ。
─誇りなさい。わたしの興味を惹いたのは、わたしの王子様以外にいないもの。だから、諦めることなんて許さないわ。
それは耳に囁かれるように、すぐ隣にいるような錯覚を最後に。確かな温もりが体を覆った。
───貴方は、
「あー!!もうっ!!俺──私らしくない!!うじうじ悩んだって仕方ないよ!!」
そうだ。何を悩んでんだ。もし、仮に原作から外れたとて俺には今誰の力がある?推しだぞ、ほぼ神様みたいな存在の力だぞ。
悩んだって仕方ないし、なったものを悔やんだって先は進まない。だったら、俺が取るべき行動は一つしかないだろ。
───最低でも、原作と同程度に被害を抑えること。
この世界に生まれた以上……優先順位を履き違えちゃならねぇ。俺は、クソ信者だけどクソ人間じゃねーんだ。クソでゲソなことはやるけど……ライン越えはしねぇ。
何よりも──布教を続けるためにも、本来なら俺の推しの良さを知るはずだった人が死ぬのは御免だ。
「──ねぇ、根源」
本来、根源に意識なんてものはない。アカシックレコードであり、世界の全てを識る、事象の記憶。
だが、その時だけは。
「──未来、どこまで視れる?」
彼女に、力を貸そうという意思を感じられた。視界の景色が歪んで映された未来を見て、俺は悟った。
───あぁ、なるほど。
俺は───何処まで行っても、推しのガワでしかないんだな。
視えた未来、その先は。