バカ強スペックの沙条愛歌になったので、可愛さ布教します   作:だっちゃまん

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すまない…!!日曜日投稿って言ったのに月曜日になってしまった!!


神の布教

 

ボールス邸のリビングにて。ロキ・ファミリアの幹部勢と邂逅を果たした私の前で──椅子から転げ落ちそうな勢いで肩をガックリさせた英雄たちの姿があった。

 

それは、何処か予想外の返答を受けた人間が作る表情のように思え、私はわけも分からず首を傾げた。ちょっと、ボールスちゃん。横で「こいつは馬鹿なんだよ……」って呟くな。失敬な。

 

「……えと、すまない。本気かい…?」

 

「本気も何も、マジです」

 

「え、え、闇派閥とかでもなく…?」

 

「私、物騒なのは苦手なんです」

 

「フォモールを殴り殺したくせに……」

 

空かさず褐色の少女───ティオネからのツッコミが入った。いや、あのね?みんなして頷かないでくんない?

 

「それはそれと言いますか、此処に住まわせてもらってるから、それの資金調達ですし」

 

「「「えぇ……」」

 

いやいや、なんでドン引き?まるで今まで警戒していたのが馬鹿らしくなった、みたいな明け透けた感情がみんなから感じた。リヴェリアに至っては、頭に手を添えてやれやれ…と頭を振って、ベートからすごい勢いで睨まれてんだけど??

 

フィン君なんか、指を組んで項垂れてるし。

 

────いや、そうか。俺の愛が足りないんだな?この程度の愛で、布教活動を行う不届き者……そう言いたいんだな???

 

よし、わかった。OK。

 

俺に喧嘩を売ったな?俺の愛がどれだけ溢れて大きいかを!!愛を見せちゃる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

─数分前、フィンは確かに命の危機を感じていた。感情の抜け落ちた表情、親指の痛みを鳴りを潜めることなく、ずっと響いている。一目見た瞬間から、自分たち総員で彼女に挑んだとしても、終わる。

 

残酷で、非情な現実を突きつけられたはずだった。

 

なのに、なんなんだこれは。ロキ・ファミリア全員──否、ボールスも頭を抱えて目の前で繰り広げられている珍事に情緒が乱れていた。

 

「─私の神は正しく恋に堕ちて、天使になったんです!その可愛さや尊さたるや、もう最高の一言を突き抜けて天元突破して──」

 

終わらない、言葉の羅列。布教を行っている…其れに嘘は無いのだろう。

 

「あの!これも見て!この小冊子! 手作りなんですけど!イラストも全部描きました!! 見てくださいっ!」

 

止まらない。彼女がどこからともなく取り出したノート程の大きさに、聖書並みの分厚さを誇る……もはや怪文書である。

 

捲った1ページには壁画のような描かれ方をした、マナカにそっくりな少女がいた。困惑はさらに加速した。

 

「──す、すまないが。その、信仰している神とやらは……誰なんだ?」

 

「え?わたしの神ですけど?」

 

……なんだこれ。全く話が噛み合わない。いや、違う。純粋なのだ。ありえないほど、心が透き通っているのだ。目の前の少女は。これにはロキ・ファミリアの母親的存在のリヴェリアも攻めあぐねていた。もはや全員の思いは一つだろう。

 

もう、帰ってもいいかもしれない。と。

 

「…ねね、でもお絵描き上手いんだね!」

 

「そ、そうかなぁ〜?」

 

「え、えぇ。上手いと思うわよ…貴方、本当にフォモールを倒したの?」

 

「倒しましたよ!ボールスちゃんに全部預けたけどね!」

 

アイズは何かを切り出そうとして、しかし上手く言葉に出来ないせいかモジモジと指を弄っていた。反対に、端に座るベートはもはや、腕と足を組んで早く帰りたそうにしている。取り残されたフィン、リヴェリア、ガレスはお互いに顔を見合せて…この先どうするかを目線で問う。

 

だが、彼女と接触して分かったことがある。現時点では彼女は敵対者ではなく、布教者──所謂伝道者だ。誰を信仰し、誰を崇めているのかは明確に知る事は出来なかったが……薄らと、自分を信仰?でもしている可能性が見えなくもないが、今はいい。

 

それ以上に、マナカと云う少女は無垢であるが故に併せ持つ二律背反。無邪気な信仰と執念の狂気を孕んだ脅威と云うことだ。

 

未知の危機である事に変わりは無いが……変わりは、無いはずだが……どうしてだろう。ティオネやティオナと喋る姿を見ると、どうしてか普通の少女過ぎる。フィンは思わず、助けを求めた。

 

───べートに。

 

視線を感じたのだろう、今にも帰りたそうにイラついた溜め息を吐くべートの耳がピン!と強く張った。左右を小さく見渡して、不意に視線がフィンと交差する。

 

フィンは笑顔を作り、殊更に告げた。

 

───明確な力量を測ってくれ。

 

言わんとする事を察したべートは顔を引き攣らせて、憤慨の表情を見せる。だが、いつまでも続く笑顔に拳を強く握って、渋々頷いた。

 

そして、べートが声を上げる。

 

「お──「あの!!」」

 

其れを遮るようにして、響き渡ったのは少女の声。べートは思わず声の方角を見遣った。否、此の場にいる全員の視線が驚愕の色に染めて、彼女──アイズに視線を送った。

 

「あ、アイズ…?どうしたの?」

 

ティオナが恐る恐る尋ねた。リヴェリアも続けてアイズの名を呼ぶが、聞こえてないのか返事がない。

 

しかし、突然大きな声を出したアイズは、咄嗟に放ったらしく二の次をどう繋げようかとあたふたと往生して…決意したようにマナカを見据えた。

 

何かを求める、子供のように。

 

 

 

「えと……わ、私と……手合わせして、ほしいです」

 

 

懇願するように、彼女の願いが紡がれた。それを聞いたマナカは、呆然としつつも言葉の意味を咀嚼して微笑んだ。その笑みには、何かチャンスを掴んだとでも言うように、含みのある笑顔を張り付けて。

 

「…良いですよ。何となく、貴方とは闘いそうな予感してたもの」

 

初対面の時のように、彼女は淑女然とした答えを返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

えー、みんな大好き沙条愛歌ちゃんに成り代わりましたマナカです。とんでもない事に巻き込まれました。アイズちゃんと戦闘って……んなアホな。いや、あのうるうる攻撃は無理じゃん断れないじゃん!!

 

と云うことで、俺たちはリヴィラの街から外れた森に来ております。戦闘の余波がなるべく届かないであろう此処でならアイズも力を十全に振るえるだろうし、万が一闘いの余波で怪我人が出ないように、ってフィン君の計らいから此処に決まった。

 

そして、現在アイズちゃんと対面する形で立っております。ちなみにギャラリーは距離の離れた場所で見守ってる感じですね、はい。アイズとの距離は凡そ20m程度ですわ。

 

「改めて確認するよ。どちらかが参った又は致命傷を与えうる攻撃した時点で負けとする。全力は出しても構わない、だが本気はダメだ。アイズも、良いね?」

 

「…うん」

 

「分かりました!」

 

ジリジリと滲み出る戦場のひりつく空気。胸を圧迫するような息苦しさを最後に、フィンは右手を上げた。アイズの手は剣の柄に添えて、それに反して俺は落ち着いた姿のままアイズを見据えた。

 

「ねぇ、リヴェリア……勝てると、思う?」

 

「…さぁな。こればかりは、私でもわからんが……彼女の実力は本物だ」

 

「でも、アイズが負ける所想像できないよね…」

 

「ベートはどうなのよ、さっきから黙りしちゃって」

 

「…見てみりゃあ、分かんだろ」

 

「……そうね」

 

ギャラリーもいい具合いに盛り上げてくれてるなぁ…これは最高に宜しい。このままいけばあわよくば…布教のチャンスが訪れるだろう。アイズのわがままを聞いたって云う事実があるんだ、手合わせしたんだから、その対価として自作の聖書(冊子)を全員分渡そう。

 

ぐへへ…これは最高のチャンスや!!

 

俺はほほくそ笑んだ。

 

「…貴女と、ずっと戦いたかった」

 

「都市最高の剣士にそう言われると、照れますね」

 

そんな軽口を叩きつつも、「では、良いね?」と、フィンの声を機にお互いの目線が真っ直ぐ定まった。緊張感が最高潮に達した時──腕が振り下ろされると同時に開始の合図が18階層に轟いた。

 

「始めッ!!」

 

──アイズの剣が首筋に添えられた。

 

一瞬の内に詰め寄られた距離、背筋を凍らせる死の瞳が心臓を射抜く。肌に近づく刃の冷気がスッと弧を描て、触れる間近で急停止した。

 

「突然ですね」

 

然も、当然のように刃を人差し指と親指で摘んだ俺は笑みを浮かべた。二度目の驚きを顕にしたアイズは、俺の手から剣を抜こうと必死に引っ張るが無意味だ。ちょっとした悪戯心で、隙を縫って剣を振り回す。そこそこ力も入れたせいか、アイズはされるがままに宙で円をなぞって、投げ飛ばされた。

 

「っ…!」

 

吹き飛ぶ体を捩り、回転しながら地面に着地したアイズは体勢を整えて剣を振り抜く。キッと顔を上げる表情には、先程以上の警戒心を纏って鋭い目付きを放つ。

 

「アイズさん、もっと強くても大丈夫ですよ」

 

腕を後ろに組んで、俺はアイズを見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アイズが、吹き飛ばされた。それを見た全員が、呼吸を止めた。誰もが目を見開いて、言葉を失っていた。

フィンも、リヴェリアも、ガレスも。ティオネもティオナも、ベートすらも。あのアイズ・ヴァレンシュタインが、明確に「投げ飛ばされた」という事実。それだけで、場の空気は凍りつくには十分だった。

 

「……え?」

 

最初に声を漏らしたのはティオナだった。冗談でしょ? とでも言いたげに、呆けた表情で口を開けたまま固まっている。

 

「な、何が起きたの……今、あの子、剣を──指で、止めた……?」

 

「…やはり、二度目でも慣れん光景だな……いや、慣れると云うよりも…」

 

リヴェリアが自分のこめかみを押さえる。あの賢女が、理解を拒むように、言葉を止めた。ロキ・ファミリアの中ではアイズの敗北、その二文字が浮かばなかったはず。しかし、リヴェリアの懸念や有り得る未来…その二つがアイズの中で焦燥感を掻き立てていることに、フィンやガレス、リヴェリアは感じ取っていた。

 

「……化け物かよ」

 

ついに、ベートが呟いた。低く、吐き捨てるように。

 

「……いや、違うな。アレは──狂信者だ」

 

フィンの言葉に、全員の視線が集中する。だがその表情は、冷静さの皮をかぶった驚愕そのものだった。

 

「……本物の信仰ってのは、時に常識を超える。狂ってるようで、一本芯が通ってる。そういう類の強さだ」

 

「……あんなのが、ただのバカとか……言ってたよね?」

 

ティオネがようやく動く唇でそう呟き、半ば呆れたようにボールスを見た。

 

「な、なんでだよ!? 実際馬鹿だろ!?」

 

ボールスの言い訳が虚しく響く中、戦場の空気だけが、まるで別の世界のように張り詰めていた。

 

「……もし、あの子に一矢報いることが出来そうな人は……いるかい?」

 

それはフィンらしからぬ確認。誰よりもファミリアを信じ、誰よりもファミリアを統率してきたその言葉に、誰も返すことはできなかった。そしてまた、戦いが再開されようとしていた。

 

「…っ、どうして──」

 

目の前で挑発的に佇む彼女は、ただ悠然と飄々とアイズを見下す。そこに込められた感情を推し量れるほど、アイズは他者の思いを悟る事は出来ない。けれど、それでも……アイズは自分の感情がふつふつと煮た返る焦り、疑問、渇望が胸中を締め付けた。

 

どうして届かない。

どうして、避けられる。

どうして、軽く流される。

 

「アイズさん、どうしました?動きが鈍ってますよ?」

 

その声音は、悪意でも侮蔑でもない。ただ、純粋な疑問だった。それが逆に、アイズの胸に小さな棘のように突き刺さる。

 

「──ふっ!」

 

踏み込む。地を蹴る音と同時に、風が走る。今度はフェイントも混ぜ、軌道もずらして、一撃で決めにかかる。だが──その剣は、またも空を斬った。

 

「…………?」

 

ほんのわずか、マナカが首を傾げたように見えた。アイズの攻撃が通じないのではない。彼女は……戦っていないのだ。

 

その事実に、アイズの動きがほんの一瞬止まる。その隙に、再び、マナカの指先が伸びる。まるでイタズラでもするように、額を軽く弾かれた。直後、アイズの体がふっと宙に浮かされる。

 

「!?──ッ」

 

反射で体勢を立て直し、地面に蹴り込むことで回避に転じた。しかし、追撃はなかった。追ってこない。それどころか、彼女は──。

 

「ふふ。アイズさん、かわいいですね」

 

と、微笑んだ。その笑顔に、敵意も殺意もない。だが、確かにアイズは戦っている。その違和感が、アイズの中で確信へと変わりつつあった。

 

──戦っているのは自分だけだ。

 

彼女は、本当に戦っていない。それどころか、この状況すら──「遊び」として捉えている節がある。

 

「…………」

 

アイズは、剣を構え直した。だが今度は、それは力ではなかった。冷静に。慎重に。そして、心の奥に湧いた言葉を、呟く。

 

「……どうして、あなたは……戦わないの?」

 

マナカは、一拍置いて──にこ、と笑った。

 

「戦ってますよ?私はいつだって、全力で“信じて”ますから」

 

まるで、言葉の意味がまるで通じていないかのように。アイズは、ますます彼女の底が見えなくなっていった。ただ、暗くて深い迷宮の底を見つめている……人間を相手にしているような感覚では無くなっていた。

 

『アイズ。君が全力を出しても、勝てそうな相手かい?』

 

それは、マナカと出会って直ぐに報告した際に言われた言葉。その時のアイズは掌を見詰めて、何も言えなかった。否定も肯定も出来ず、ただ勝利と敗北……どちらも有りうる可能性にせめぎ合った。

 

今も、そうだ。アイズは再び剣を構えた。

 

けれどそれは、たった今までのように勝つための構えではなかった。風の力でも、技量でもない。ただ──心を、定めるための構えだった。

 

「……私は、強くなりたい」

 

ぽつりと、呟いた。マナカの顔が、すこしだけ驚いたように揺れる。

 

「強くなって……あなたに、勝ちたい」

 

戦いたいわけじゃない。けれど、あなたの背に追いつきたい。その言葉が喉まで出かけて──出ない。

 

アイズは風を纏い、今度は真正面から駆けた。風が唸りを上げる。剣が閃く。そして──。

 

「それでこそ、アイズさん!」

 

マナカは、笑った。その瞬間、はじめてマナカが「戦う者」の気配を纏う──そんな変化を、アイズは確かに感じた。風の纏った剣先がマナカの指先に触れるその寸前、金属音の犇めき合う甲高い音が響く。

 

「──いつ、の間に…!」

 

其れは、蒼穹を思わせる果てなき碧。黄金の富と神秘なる栄光を孕んだガードは王国の価値を宿す。精霊に愛され、精霊に認められた伝説のみが持つことを許された、竜の血を引き継ぐ英雄の剣───。

 

「推しの愛を教える者として、アイズさんに敬意を表したいと思って。私も、少しだけ力を出しますね」

 

かつて、少女が愛した騎士王の名残り『湖の聖剣』を以て、アイズの一撃を防いだ。王の刃となり、時には盾にもなりうる最強の宝具は──眩い限りの光を放った。

 

「っ、まだ!!」

 

それは、鋭く清流のごとき剣閃だった。アイズが振り抜いた剣の一振りは刹那の閃きでありながら、一合一合に込めた想いを乗せて、振り放つ。だが、その身に似合わない輝きを纏う長剣を彼女は手足の如く操り、剣閃全てを弾いた。

 

されど、アイズは絶え間なく剣戟を繰り出す。刺突、袈裟懸け、横薙ぎ、斬り上げ、逆袈裟……数えるのも億劫になるほど、仕掛けても尚───尽くを防いでみせる。

 

そして、フェイントを混ぜた一撃、消えない痕を刻みつけるような鋭い軌跡を描いても──彼女は見切った。

 

花火が瞬く、それは剣戟を防がれた証。

 

……届かないのに。

 

腕が痺れる、それは剣戟を重く返された代償。

 

───見えないのに、どうして…焦がれるんだろう。

 

アイズの口角は、少しずつ上がっていく。

 

「最っ高ですね!!アイズさん!」

 

興奮の頂きに登った彼女、マナカは一瞬にして姿を消す。そして、十メートルほど離れた距離で瞳を輝かせて最強の聖剣を両手に持って掲げた。あの仕草が何を表すものかは分からない、しかし……これまでの戦いの中で確かな成長を促してくれた彼女を見て───漸く、アイズを確信した。

 

足りない何かを求めるように、道とも呼べぬ修羅の街道を走り続けてきた。暗闇の中、手探りでずっと……強さを求めてきた。

 

足らぬ、足りぬ、何かが必要だと訴えていても我武者羅に突き進んだ。その果てに、出会った自身を突き破るための壁が───マナカだと。

 

 

 

目覚めよ(テンペスト)

 

 

 

短いながらも玲瓏と呟かれた詠唱。

 

それの効果は、ただ風を操るだけに留まらず。唯一にして攻防一体の力を孕んだ変幻自在の切り札であり、彼女を彼女たらしめる付加魔法「エアリエル」が呼び起こされた。

 

彼女を中心に巻き込む、戦の風が鎧となり、攻撃となる。嵐と呼ぶにも生温い超高圧の烈風が周囲一体に轟々と逆巻いていく。草木が大きく揺れて、空間そのものがみしみしと軋みを上げるほどの風の暴力は並みの人間なら立っていることすらままならない暴風。

 

だがそれですら余波でしかない。

 

轟風の奔流は今アイズの手の中にある。

 

風がうねりをあげながら回転して速度を増していく。

 

 

止めに入ろうとしたリヴェリアの肩を掴み、フィンは首を横に振って制止させた。

 

「なぜ止める!?アレを喰らえば、ただでは!「大丈夫」」

 

フィンの瞳は揺るがない。あれは正しく、殺す魔法だ。幾らマナカの実力がかけ離れているとは云え、あの一撃が万が一当たれば瀕死も免れない。それは、フィンとて承知の上……にも関わらず、フィンはそれをわかった上で止めた事にリヴェリアは憤慨した。

 

しかし、フィンはもう一度告げる。

 

「僕を信じろ」

 

「……もし、続行不可能と判断したら中止させる。彼女の安否が最優先だ」

 

「分かっているさ」

 

アイズを中心に聳え、渦巻く風は音を轟かせてマナカに向けられる。腰を落とし、剣の切っ先を放つ構えを取った───瞬間。

 

 

 

龍の如く、解き放たれた。

 

 

風を纏い、風で加速し、刺突に乗せて放たれる、立ち塞がる全てを貫き穿つ風の螺旋錐。

 

 

都市最強の剣士アイズ・ヴァレンシュタインの渾身の一撃にして、最大の奥義。

 

 

 

「リル・ラファーガ!!!」

 

 

 

刹那が限りなく引き伸ばされた。極限と極限が交差する瞬間、マナカが大きく一歩を踏み込むのが見えた。天に掲げた剣の刀身から黄金のオーラが吹き溢れる。迷宮を穿かんとする眩い栄光の奔流は空を求めて、迷宮の天井に触れた。

 

 

そして。

 

 

真名を解放することで所有者の魔力を光に変換し、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による究極の斬撃を放つ。放たれた一撃は地上を薙ぎ払う光の波となって射線上にある一切を消し飛ばす一撃となる。

 

 

 

──その名を。

 

 

「──約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!」

 

 

煌めく黄金の迸り。弾けるように放出された光の束は迷宮を照らし、城を呑み込むほどの濁流となって直線上の生命を覆った。

 

究極と極限が触れ合う。一瞬の均衡の末、けたたましい音を揺らして大気の悲鳴が鳴り響いた。砕け散る硝子のように、周囲が歪んだ。刹那、光の束が上空に逸れて迷宮の壁に激震を与えた。

 

手から抜けた剣が、離れた地面に突き刺さった。何が起こったか理解した瞬間アイズの思考は驚愕で埋め尽くされた。

 

 

……うそ

 

私の、風が……。

 

 

それは、一瞬の出来事だった。

 

振り返り、現実が突き付ける。

 

 

 

「───負け、た」

 

 

 

 

 

 

 






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