もう風紀委員やめたい   作:ピンク封筒

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5. 衝動ボランティア

 

「ここにいる皆はアビドス高校の生徒で―――」

 

 一年生はメガネの奥空アヤネちゃん、ここでバイトをしている黒見セリカちゃん。私と同学年にあたるのが青いマフラーの砂狼シロコちゃんと、色々と大きな十六夜ノノミちゃん。それから、唯一の三年生であるホシノさん、で全員ね。

 うん、覚えたわ。

 

 それで。

 

 私は今まで敢えて目を向けないようにしていた店の一角へと、視線を動かした。

 そこにいたのは不審者である。

 先程、便利屋がいたときも一切口を開かず、また誰からも話し掛けられることはなかった存在。

 “彼” はずっと、ただ微かな笑みを浮かべながら私たちの様子を見守っていた。

 ともすれば心霊現象かと勘違いしかねないほど壁と一体化していた人物に、私は話し掛ける。

 

「あなたは……その制服、連邦生徒会の関係者?」

 

 

「“私は、シャーレの顧問の先生だよ”」

 

「“はじめまして。よろしくね”」

 

 

 

 

 とりあえず私は現状を共有した。

 私は今日はもう沢山働いた後だからとても疲れていること、便利屋68はゲヘナ学園の問題児であること、彼女たちのせいもあって私はもう家に帰りたいこと、便利屋68の仕事とは傭兵稼業にも似た何でも屋であること、彼女たちの矛先が次に向かうのはここにいる生徒である可能性が高いこと、そのせいで仕事が増えた私は精神的にもとても疲れていること。

 

「あんたが疲れているのは分かったわ」

「た、大変なんですね、ゲヘナの風紀委員は……」

 

 どうしてこうなるのかしらね。

 毎日頑張っているのに、仕事は一向に減らないの。むしろここ最近は増え続けている気さえするのだから、やってられないわ。

 ヒナ委員長は去年の終わり頃からますます仕事量を増やしているみたいだし、それを補佐するアコ行政官も同様。

 ただその仕事はゲヘナ学区外での仕事のようで、二人が時折ゲヘナからいなくなる期間、私の負担は増やさざるを得ない。それについても委員長から謝られたことはあるのだけど、そういうことじゃないのよね。

 ヒナ委員長が悪いんじゃなくて、委員長がいないことをどこからともなく嗅ぎつけて騒ぎを起こす子たちに謝ってほしいの私は。

 特に温泉開発部。

 交差点の中央だとか、大企業のオフィスの真下だとか。そんなところに源泉があったとしても、開発しちゃいけないってことがどうして分からないの。

 そんなところに出来た温泉に誰が入るっていうの。いい加減にして。

 

「まあまあ、それでも今こうして話してくれたってことは、ゲヘナの風紀委員会としてはおじさんたちに協力するつもりがあるってことで良いのかな」

「……ええ、そうです。彼女たち便利屋は良くも悪くも陸八魔アル一人の号令で動きます。フットワークが軽く、仕事にあたって事前調査などはほとんど行わない。なので私は早ければ今日か、遅くとも数日中に襲撃は起きると見ています。それまでに風紀委員会に報告を入れて便利屋の動向を監視、動きがあり次第こちらでも対処を、と。……どう、でしょうか」

「なるほどね〜」

 

 うんうん、とホシノさんは頷く。

 

「みんなはどう思う?」

「どう、って?」

 

 私の目の前で、彼女は後輩たちの方へと振り返って相談を始めた。

 

アビドス高校(ウチ)がゲヘナ学園に借りを作るのは賛成か反対か、って話だよ〜」

「は? 借りなんて……元々ゲヘナのあいつらが来るかもしれないって話でしょ! どうして私たちが借りを作ることになるの?」

 

 そうよね。

 それは本当にごめんなさい……って私は思うのだけど、学校同士の枠組みで見たときはまた違う話になってしまうのだ。

 何故なら―――。

 

「何でだろうね〜。……シロコちゃん、分かる?」

「ん。ゲヘナとアビドスだと学校としての大きさが違う。本来ならゲヘナの方が今回何もしなかったとしても問題にもならない。だから、この申し出はこっちの “借り” になる。少なくとも、ゲヘナはそういう風に主張できる」

 

 ……ゆるしてください。

 私だって、ズルい話だって思ってるの。

 でも風紀委員会ってどうしても政治からは切り離せなくて……。

 

「そっ、そんなのおかしいじゃない!」

 

 ゔっ。

 わ、私だって……そう、思うけど……。

 けどぉ……!

 

「学園が大きいからって何!? 身内が迷惑掛けても何とも思わないわけ!?」

「学園としての規模が大きいっていうのは、それだけの力を持ってるってことなんだよ。おじさんたちが反発してどうこうなる話じゃない」

 

 あ゛っ。

 迷惑掛けてごめんなさい……。

 自分たちの自治区なのに自治できてなくて、ごめんなさい。

 私だって……頑張ってるけど……。

 頑張ってるのに……。

 

「身勝手だとは思いますけど……仕方ないですよね」

「ん。強い力を持っている学園が言うことは、正しいことになる」

「……イヤな話ですね。本当に」

 

 ―――と゛お゛し゛て゛そ゛んなにいじめるの゛!

 

 もう分かったわ!

 分かったわよ!

 

 そりゃね、私だっておかしいって思うもの!

 

「じゃあまあ、みんな賛成ってことで―――」

 

「―――わっ、私が個人的に協力するから! 学校間の貸し借りはなし! 風紀委員としてじゃなくて、私だけ! ね! それでいいでしょ!?」

 

「ん」

「えっ……」

「あら〜」

 

「な、何!? まだ足りないっていうの!? そうよね、迷惑かけてる側なのに図々しいわよね!? ごめんなさい! 今回の件はゲヘナに非があるから、私に手伝わせてもらえないかしら!」

「……その話、受けたよ! いや〜、良かった良かった」

 

 ホシノさんが私の差し出した手をぐっと握った。

 よし。……何だか、誘導された感は否めないけれど。

 

 これで。

 

 これで……私の仕事が増えるわね。

 正確には、仕事として認められることもない仕事が。

 

 でも、これで良かったの。良かったはずよ。

 私の時間と体力と精神力と引き換えに、何か大切なものを守ったの。

 ……私の寿命以上に大切なものって、何かしら。

 

「な、なんだか一段と目の下のクマが濃くなったような……」

「ひどいことをしてしまった気持ちになりますね〜」

 

「“恐ろしい交渉術を見た……”」

 

 ずっと傍から見ていた先生が戦慄したように呟いた。

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