もう風紀委員やめたい   作:ピンク封筒

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6. はじめてのていじきたく

 

 私から話すべきことは話した。

 風紀委員会には便利屋のことは報告せず、今日はもう上がるとだけ無線で伝えておく。

 

「ツグミちゃんの話だと、事が起こるのは早ければ今日にでも、なんですよね?」

「……ええ。私の経験から言えば、十中八九今日でしょうね」

 

 彼女の言葉に、私の中で苦い記憶がフラッシュバックした。

 便利屋は少数精鋭タイプの傭兵、陸八魔アルを筆頭に統率が取れていて連携も密。最も厄介な点がこの陸八魔アルを中心とした行動力で、クライアントと契約を交わしてからターゲットを襲うまでが早い。委員会で情報を掴んでからじゃ遅いケースがほとんどで、それに私たち風紀委員が到着してから分が悪くなると撤退するのも早い。

 鬼方カヨコがいるせいで、そもそも本当に致命的な状況には陥らないし。

 だから仕方なく、彼女たちの銀行口座を凍結させる、なんて迂遠な方法で対処済ということにしていたのだ。

 

「じゃ、ツグミちゃんにはこのまま高校まで付いてきてもらおっか。襲撃が起きるまではおじさんたちに付き合ってもらうよ……ま、放課後になったら解散でいいからさ」

 

 

「―――んんっ! 色々ありましたが……ようこそ、アビドスへ!」

 

 高校に着いて、お茶を出されながら聞いた話によると。

 アビドス高等学校は全校生徒五人で、全員が廃校対策委員会という部活に入っているらしい。

 周囲の砂漠と寂れた街、それに生徒数を鑑みれば “廃校対策” などという部活が立ち上がるのも理解できる。

 

「具体的には、どんな活動……対策をしているの?」

 

 私が問い掛けると、ホシノさんとシロコちゃん、セリカちゃんが顔を見合わせ。

 アヤネちゃんが拗ねたように顔を背けるのを、ノノミちゃんは困ったように眺めていた。

 

「……銀行を襲ってお金を集めたり」

「スクールバスをジャックして、他校の生徒を転入させたり〜」

「ま、マルチ商法とか……」

 

 おっ……。

 

 私は無線を取り出して口元に近付けた。

 ゲヘナのすぐ近くにこんな生粋のアウトロー集団の高校があったなんて、すぐに情報部に報告しないと。

 あとヴァルキューレに通報しなくちゃ。キヴォトスの善良な一市民として。

 

「待って待って待ってください! 全部、“やろうとしていたこと” ですから! “未遂” です、未遂!」

「未遂でもダメなのだけど!? いい、マルチ商法はともかく、誘拐や強盗みたいな犯罪には準備段階でも適用される予備罪ってものがあって、あなたたちが決定的な過ちを犯さないうちに私は―――」

「わー!? 私も言葉が悪かったです! 未遂というのは刑法的な用法ではなくて……そう冗談、三つとも冗談で話していたことです!」

「ずいぶん治安の悪い冗談ね!?」

 

 アビドスってとんでもないところね。

 というか、本当に? 本当に冗談だったのかしら……? 入念な計画を練ったりしてない?

 私はこの場における唯一の第三者にして大人である先生に目を向けた。

 

「ど、どうなんですか……?」

「“大丈夫。アビドスの生徒はみんないい子だよ”」

 

 ……何だかこの大人は、ゲヘナの問題児を引っ立ててきても “いい子” と断定しそうな気配があるけれど。

 ひとまずは、年長者の言葉を信じることにしましょうか。

 

「とはいえ……どうしてお金を稼ぐことに偏ったその、冗談を?」

「それは―――」

『―――!』

 

 アヤネちゃんからの羽交い締めを解かれた私が疑問を口にした時だった。

 彼女の手元のタブレットがアラートを鳴らし、素早く視線を落とした彼女が目を見開く。

 

「アビドス高校より南15km(・・・・)地点にて武装集団が前進中! こちらへ向かっています!」

 

 

 ………あ、そっか。

 

 

 

 

 誰もが、この世の終わりのような叫び声を聞いた。

 夕焼けに染まり始めた遥か上空から、得体の知れない叫び声を。

 

「……? なんだこの声―――」

 

 ―――……ォォォオオオンッ!!

 

 初めは甲高く、か細く聞こえていたソレは、瞬きもできずにいるうちに人外の絶叫として耳を劈いた。

 

「ッ!?」

「近いぞ、伏せ―――!?」

「ひっ、なん―――!」

 

 チカッ、とすぐ傍で何かが光った。

 刹那、地表のコンクリートを舐めるように閃光を広げたかと思えば直後、炸裂。

 爆音が轟き、世界が揺れる。

 

「ほっ、砲撃!?」

「ビルもあるんだぞ!? 一体どこから―――」

 

 運良く被害を逃れた者、辛うじて意識を保っていられた者。

 しかし、またも悍ましい叫び声が響いた。

 

 ―――……オオオンッ!!

 

 二度に飽き足らず。

 容赦など欠片もなく、繰り返し、七度(・・)

 

 そして、最後には静寂が広がった。

 

 

「……傭兵は全滅したみたい。文字通り」

「あっはは! すっごい音だったね!」

 

 双眼鏡で後方の被害状況を確認していたカヨコは、ため息をつきながら簡潔に報告した。

 数キロ離れた地点であってもはっきりと耳に届いた炸裂音に、ムツキは口角を吊り上げる。

 

「アビドス校舎からの砲撃だとして、凡そ12km。あの迫撃砲の射程は知ってたけど、実際にこの距離で撃ってくるのは初めて見た」

「御堂ツグミのサポートに誰かが付いたってことね……」

 

 恐らく私たちの行動は読まれている、と。

 便利屋68の参謀役を担うカヨコの忠告がなければ、便利屋もあの砲撃に巻き込まれて壊滅的な被害を受けていたかもしれない。

 

「風紀委員会の支援を受けているのか、アビドスの誰かが観測に優れていたか……どちらにせよ、目的地に辿り着かないうちからこれじゃ、間違いなく状況は不利だよ」

「よ、傭兵も陽動にしか使えなかったですし……」

「どうする? もう諦めて帰っちゃう?」

 

「いいえ、このまま依頼達成を目指すわ」

 

 従業員たちの声を受けて、アルは毅然とした態度で返した。

 目を細め、砂塵の向こう側を見据える。

 

「この依頼、落とすわけにはいかないの」

 

 たとえ、組んだ腕が体の震えを誤魔化すためのポーズだったとしても。

 彼女の内心はどうあれ、ムツキは笑みを深め、カヨコは肩を竦めることでリーダーの決定を肯定した。ハルカはそもそもアルの意見を否定することなどあり得ない。

 

 そうして、砲撃を警戒しながら砂に埋もれた家屋や倒壊したビルの陰を進み続け、とうとう一行はアビドス高校へと辿り着く。

 

「……待ってたよ」

 

 端的に告げられた言葉には、微かな金属音とともに銃を構えることで応えた。

 

 

 そして。

 

「―――撤退! 撤退よ! 帰るわ!」

「えっ」

 

 アルの判断は早かった。

 撃ち合い始めて数分も経たないうちに劣勢を見極め、尚且つ今の自分たちには逆転の手段も戦略もないことを悟る。

 チームとしての練度が高い。

 その一言に尽きるが、この短時間で趨勢を決定的なところまで押し込んだのは、黒いバリスティックシールドを構えた一人の生徒だろう。弾幕をものともせず突っ込んできてはショットガンを撃ち込んで陣形を乱し、あらゆる攻勢の起点となる。

 正しくポイントマンとしての役割を十全に果たす彼女の存在は、これまで数々の依頼を熟してきた便利屋をして厄介極まりないものだった。

 

「……不完全燃焼だけどまあ、しょうがないか。……じゃあね〜アビドス!」

「うん。ジリ貧だったし、この辺が引き際。少なくとも、依頼を達成しようとする意思は見せられたはず」

「ご、ごめんなさい! 失礼します!」

 

 最後にムツキがバッグを放り投げ、ハルカが空中でこれを撃ち抜くことにより即座に起爆。

 アビドスの面々が爆発に意識を逸らした瞬間を縫って、便利屋はあっという間に姿を晦ました。




オリ主のヘイロー
14の赤い棘が光輪に纏わりついた物理タイプのヘイロー
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