ロドスは壊滅した。
何が悪かったとか、警備が手薄だったとか、そういう次元ではなかった。
最初は出入口付近の襲撃だった。数々の手練れたちが迎え撃っている中、私がいた執務室が急襲された。
それは一瞬の出来事だった。秘書兼護衛として執務室にいたオペレーターたちになんとか助けられながら私の命は助かった。そしてある人に二人の子どもを任されたのだ。
「コイツらを連れて逃げろ」
「でも、ソーンズ……」
「俺たちはあとで追いつく。それでいいだろ」
私一人だけだったらロドスに残って皆の指揮を執っていただろう。だが、私の両腕にはまだ幼い双子を任されていた。私は、双子を安全な場所に連れて行ってからロドスに戻るつもりで、頷いた。
「……分かった」
それから彼らがどうなったか、私は知る由もない──
『双星方舟〜ラズハ・シップ〜』
「ドクター、眠れなくなるお薬作ったんだけど、いる?」
辺境の地、細々と暮らしている私に唐突にそんなことを言ったのはループスの少年、マホガニーだ。
このテラの中では本名を語ることは危険なことが多く、マホガニーも彼のコードネームではあったが……ちょっと待て。さっきなんて言った?
「えーっと、マホガニー、今なんて?」
私が聞き返すと、大きな目を瞬きさせて、
「眠れなくなるお薬作ったからいる?」
はっきりとそう答えたのだ。
「あー、いや、今はいらないかな……」
と私は断りながらマホガニーの手元を見た。彼はこんなに小さいが薬学研究にハマっていて、時々妙な怪しい薬を作ることがあった。その年齢にして薬を自作出来るのは天才児というものだが、そうやってよく分からない薬を私に押しつけてくるから困ったものだ。
「ドクター、これ」
一方、年齢相応に育っているこっちの女の子は、私に花をいくつかプレゼントしてくれた。彼女の名前はツルギで、光を反射するくらい綺麗な銀髪をしたエーギル族だ。
「ありがとう、ツルギ」
私は受け取りながらツルギの頭を撫でた。するとマホガニーも割り込んできた。
「ぼくも撫でて、ドクター!」
「分かったから頭突きしないで……」
こんな平和そうな暮らしをしている私たちだが、彼らこそあのロドスから連れ出した唯一の生き残りである双子だった。彼らの両親は……考えるだけでも背筋が凍る。
ロドスは、壊滅した。一欠片くらいならあったかもしれないが、ほぼその原型を留めないくらい破壊されたのである。
私はまだ赤ん坊だった双子を連れてロドスがあったところより遠い遠いこの辺境の地で小さな診療所を開き、生計を立てていた。
幸いにもロドスで唯一生き残ったこの双子たちは鉱石病には罹っておらず、今も健康的だ。ただ、ここが辺境の地だというのもあり、病院どころか学校もない田舎なので、彼らの教育は私から直々に教えなくてはならなかった。
ロドス急襲事件で他に生き残りはいないかと探し回った日もあったが、音沙汰もないまま六年が経っていた。
アーミヤやケルシーすら失ったのかと思うと心苦しく、何も考えないように暮らしているが、振り返るとこんなにも悲しい。嬉しいことはというと、この双子たちが本当によく育っているということだけだ。
そんなある日だった。名前もないこの集落に、ある小さな騒ぎが起きた。珍しいことに見知らぬ旅人が来たのだと。
この集落は辺境の地で何もないため、わざわざ旅人が来ることはめったになかったのだ。そもそも私がここに初めて来た時からも旅人なんて来ることはなかったので、集落の人々に随分珍しがられたのはよく覚えている。
「なぁドクター、今日変な旅人が宿で泊まっているんだって。会いに行かないのか?」
とマホガニーに言われたが、私には彼の意図が分からなかった。
「なんで会いに行く必要があるんだい?」
私が質問すると、マホガニーが一言。
「知り合いかもしれないだろ? ロドスの」
ドキリとした。
確かに、マホガニーにもツルギにも、両親はカッコよくて強いロドスのオペレーターだったことは伝えた。だから私は、孤児だった双子を引き取った医者だといえば、彼らが私を「ドクター」と呼ぶ理由になるし、集落に住むには充分過ぎる名目だった。
だがまさか、六歳の子どもに「ロドス」の話が出てくるとは考えておらず、私の不意を突いた。ツルギは何も言わないが、マホガニーは父親によく似て賢い少年である。私は彼らを少々甘く見ていたみたいだ。
「そうかもしれないね」
私はそう言い、彼の言う通り旅人に会いに行っていいか思案した。ロドスは壊滅したが、そのトップの座にいた私がそう易々と出ていいものか。ロドスを襲った敵だった場合、それこそ本当の意味でロドスは壊滅したこととなる。
しかし、考える時間はそう長くはなかった。
トントン……。
診療所をノックする音が聞こえたのだ。