といっても、密林は名前の通り上も下も鬱蒼としていて、コータスの少女の足跡どころか、様々な生き物の痕跡が多くて私は思わずぎょっとした。
だが、襲ってくるのはオリジムシくらいで、マホガニーもツルギもサクサクと倒して道中はそこまで危険ではなかった。
そして、コータスの少女をどうやって探していたかというと。
「アイツの臭いがする! こっちだ!」
ループスの特性を存分に活かしてマホガニーが先頭に立ったのだ。ツルギはますます口数が少なくなり、先を行くマホガニーにただただついて行く。多分だが、戦闘態勢に入っているのだ。
私も遅れまいと双子たちについて走っていると、前方から悲鳴が聞こえた。
「きゃあ?!」
マホガニーの耳がピクリと動いた。それから私を振り向き、小声で「あの女の人の声だ」と告げる。私は頷いた。
私たちは急いで悲鳴が聞こえた方へ駆け出した。木々が多くて視界が悪い中、森とは違う何かが視界に映りこんだ。
「もうっ、なんでこんな時に囲まれるのよ!」
と悪態をついているのは……あの茶色い髪のコータスだった。
「あれは……何?」
ツルギは声を潜めて私に訊いてきた。声を潜めたのは、そのコータスの少女を囲っているオオカミのような生物に違和感を抱いたからだろう。
「あれが感染生物だ。誰かの手によって凶暴化していることが多い。あれは、恐らくどこからか逃げ出した生き物だろう」
私はツルギにそう教えたが、隣にいるマホガニーにも聞こえているだろう。二人は用心深く感染生物を観察し……。
「ガウッ!」
その内の一体が飛び出し、コータスの少女に向かって牙を向けた。危ないっ、と私が声をあげるより早く、マホガニーが動いていた。
「お姉さん、危ない!」
ドンッと鈍い音がした。
マホガニーが振り下ろした武器が感染生物の脳天に命中して一撃で倒し切ったのだ。だが感染生物はまだいる。私はツルギに目を向けたが、もう彼女もそこにはいなかった。
「助ける!」
風のように走り抜けたツルギが、敵に行動の余地も与えないまま次々に倒していった。ツルギの隙が出来るとマホガニーがカバーに向かう。マホガニーが武器を落とすとツルギが拾ってそのまま迎え撃ち、代わりにツルギのナイフを借りるとマホガニーが敵に斬りかかっていった。どんなロドスのオペレーターでもそのような戦い方をする人は見たことがなく、私は双子たちの動きに圧倒されていた。
「……やったか?」
「全部倒した」
密林が閑けさを取り戻したところで、双子たちはようやく動きを止めた。私は敵がいないと見るや否や、双子たちに防護コートを羽織らせた。念の為自分の防護コートの内ポケットに常備していて良かった。感染生物の遺体から、鉱石病の原因となるものに感染する恐れがあったからだ。
「強いんだねぇ、ちっちゃいのに」そこでようやく、守られていたコータスの少女が喋り出した。「……食べ物を盗んだのは悪かったよ。今回は返す。はい」
コータスの少女はそう言って、盗品が入っているのだろう皮袋を渡してきた。私が受け取ると、コータスの少女は逃げ出そうとしたのでちょっと待ってと手首を掴んだ。
「な、何……? まだ何か用?」
コータスの少女は余裕そうに笑ってはいるが、声は不安そうだった。
「足、怪我してる」
私は六年間、医者としてこの身を隠してきた。彼女の怪我を見逃すはずがなかったし、それより前は製薬会社のトップだったのだ。私は何度も、鉱石病の患者を見てきた。
「ドクターは医者なんだよ」
「ドクターはお薬も作る」
とマホガニーとツルギも私のことを自慢げに言ってきたのはちょっと恥ずかしかったが、正直なことを言うと嬉しい。私は彼女の手首を離した。彼女は、もう逃げたりはしなかった。
「これくらい大丈夫だって。ちょっと枝が折れて落ちただけだし」
とコータスの少女が見上げた先には、確かに折れた枝があった。見ると彼女の手には鉤爪付きの縄が。なるほど、これで自由に密林を駆け回っていたのだろう。