私はゼロと名乗ったイネスそっくりの人間を連れてラズハに戻ると、真っ先にケルシーが怪訝な顔で出てきた。
「私は、洞窟の調査に許可を出したはずだ。大人数の軍隊を連れて帰って来いと言った訳ではない」とケルシーはラズハの前で私に言った。「大人数になると統治も難しくなり、情報漏洩の危険性も高まる。それに今は、鉱石病の患者も受け入れないと決めたばかりだっただろう。どういうことだ」
とケルシーから長々とお説教を食らう私だったが、何も考えなしで連れて来た訳ではないのだ。
「彼女たちは、トイフェルにいたブルー生命体だ。過酷なトイフェルから脱走し、パラレルに反乱の機会を伺って洞窟を調査しに来ていたらしい」私はケルシーにそう説得する。「それに、パラレルの力の秘密を教えてくれた。一ヶ月後にトイフェルを壊滅させるために拠点に乗り込むらしい。……協力して欲しいということだ」
と話し終えると、ケルシーの片眉がわずかに動いた。私も最初は驚いた。トイフェルの反乱軍がいたこと、その反乱の機会はもうすぐそばまで迫っていたこと。これがたまたまの偶然ここで会ったことは確かに怪しい部分は残るが、どちらにせよトイフェルを崩すチャンスだと思ったのだ。
「その話をあっさり信じたと?」
「いや、まだ疑わしい部分はある。彼女たちにはトイフェルのマークが残ったままだ」
と私は反乱軍たちを振り向いた。するとそこに、すらりと細身の兵士が近づいてきた。ケルシーの前でその顔まで隠している兜を外すと、イネスそっくりの顔が見えてケルシーは明らかに驚いていた。
「私はゼロ。自分が何者かによって造られたことは知っているわ」とゼロは話し出した。「私たちは別の艦があるから、移動は別行動になるけど……トイフェルに乗り込むのでしょう? 私たちも協力するわ」
イネスと全く変わらない声に、ケルシーはますます違和感を抱いたようだ。ブルーグラスからはイネスのコピー人間はいるかもしれないと忠告はされていたが、まさか本当にいるとは私も思っていなかった。
「しばらくここにいることは?」
ケルシーが訊ねた。
「可能よ」
ゼロははっきりと答えた。
ラズハに別軍隊との協力関係が出来たことで、色々なことが急展開し始めた。
まず、私たちはゼロたちが本当にブルー生命体なのか、ブルーグラスに確認をしてもらった。ラズハにはブルー生命体を作り出すまでの研究施設はなかったが、病気を探す検査機などを改造して(ブルーグラスが引き連れているブルー生命体の中にはエンジニアも何人かいたのだ)出来た機械により、やはりゼロたちは造られた人間だということが分かった。
ラズハとゼロの反乱軍は同盟を組んだ。と同時に、私たちはラズハの正体はロドスの残党集団であることをテラ中に情報を公開することとなり、ロドス奪還のための協力者を募集し始めた。それはラズハを大きくする一方、危険行為でもあった。トイフェルに乗り込む前に攻撃をされる可能性があったからだ。
ラズハに兵士として応募してくる者は意外にも結構な人数がいた。いつかどこかで医療支援したところから、という人たちもいれば、ヘルザルド炭鉱監獄から抜け出してきた囚人や元看守などもやって来たのである。あの時の囚人たちの一部は、あの状況を助けたのはラズハであると知っている者もいるらしく、ぜひ協力したいと言い出してきたのだ。元看守目線からもヘルザルド炭鉱監獄は職場も酷い待遇だったようで、助けてくれたお礼に、と言ってくれた人もいた。
それに、なんと元々ロドスにいた人たちもやって来たのである。ロドスを知っている人、ロドスと関係があった人、皆口揃えて言うのは「ロドスには世話になったから」。そうしてラズハは、どんどんと規模を大きくしていった。
しかし嘘や偽物の経歴でラズハに接触しようとする者もいて、私たちは雇う人々をしっかりと見抜かなければならなかった。内勤オペレーターも出来るだけ最小限にしていたのでかなり忙しく、私自ら人事部に向かうこともあった。
「私も手伝うわ」
そんな時はゼロも一緒に事務作業を手伝ってくれることもあった。やはりイネスと同じ遺伝子を持つからか手先が器用で、少し難しいこともすぐに覚えていった。ブルーグラスいわく、ブルー生命体は記憶がほとんどないので、新しく覚えるための脳の容量が広いのだという。
「……気味悪いわね」
一方、自分の顔をしているからだろうが、イネス自身はゼロとの接触を避けていた。ゼロはイネスとほとんど見分けがつかないくらい同じ顔をしていたので普段はブルーグッピーと同じ兜を被って活動していたが、オシャレじゃないからとそれを頭に被るだけで過ごしていた。服装や話口調にやや違いはあるものの、私もうっかり間違いそうになるからそこは気をつけなくてはと思ってはいる。
「よし、グッピー! 今日も訓練の先生頼むな!」
「お願いしますっ」
そしてマホガニーとツルギはほとんどの時間を訓練室で過ごしていた。ブルーグラスの側近ともなるブルーグッピーは、いつもマホガニーとツルギの訓練に付き合ってくれていた。同じ顔で体型もほとんどブルーグラスと変わらないのに、体力が底をつかないという程ずっと付き合っているのだ。そのことをブルーグラスに聞いてみると、
「肉体改造はかなりしていますからネ。どれもわたしの大事なうちの子ですが、ブルーグラスはわたしの最高傑作です」
と言っていた。
ただ、ブルーグッピーにも欠点があった。ブルーグッピーはアーツを解放して戦い始めると、その場から動けなくなるデバフがあった。確かに、あの時マフィアを片付ける時にはその場から動けないことが条件のように見えた。だからこそあのような絶大な力を使いこなすのだろうが。
とはいえブルー生命体は、例え元の人間が優れたアーツ使いの能力者だとしても、ほとんどアーツの能力は引き継がれないことだった。だから、イネスが心や感情を見抜くアーツに優れていても、ゼロにはその能力は全くの皆無だった。それはマッドグリーンや、スノーグ戦隊、ホーン戦隊のメンバーも同じだ。ブルーグッピーがあれ程強いのも、かなりの年月を修練に費やしたかららしい。
そうして私は、ブルーグラスやゼロから聞いたトイフェルの内部情報を元に作戦資料も作り続けた。私は私の出来ることを。そして、オペレーターたちにはオペレーターたちの出来ることをして日々を過ごしていた。
そして別日。私は、ある人物とカウンセリングの時間を設けていた。
トントン……。
私は、カウンセリング室にやって来た彼女を出迎えた。