「ありがとう。こんな時にカウンセリングを受けてくれて」
と私は言いながら彼女を椅子に座るように促す。やって来た彼女はやや居心地が悪そうな顔でおずおずと椅子に腰を下ろした。
「なぁに、ドクター。改まって僕とカウンセリングなんて」
と話し出したのは、ロープだ。
「君と二人きりで話したいと思っていたんだよ」
トイフェルに乗り込む時、ロープはかなり重要な役を任せることが決まっていた。その前に私は、彼女とちゃんと二人きりで話し合いたいと思っていたのだ。
「二人きりでって……いつも話してるじゃん。僕が話すことはそんなに面白くないし」
とロープは言うが、彼女の耳はいつも通り片耳だけ傾くばかりで特段変わった様子はない。私はそれを、大丈夫だろうと見て取った。
「私は、ロープの話を聞きたいだけなんだよ」
私はロープの、淡い銀灰色をした瞳を見つめる。私はラズハにいる時は防護ヘルメットを被っていないので、この目と真っ直ぐ向かい合うこととなる。ロープは大きな目をますます大きく見開いたのち、意味深そうに細めて笑うのだ。
「そんなに見つめたって、僕は照れたりしないよ?」
その通りだ。いつだってロープは人が良さそうな笑みを浮かべていた。それはロドスにいた時から変わらない。
私は、手元にある資料へ視線を落とした。
「君の体内の粒子はロドスにいた時よりは多くはなっているが、六年という年月の割には、鉱石病があまり悪化していないと思っていてね。その話を聞きたかったんだ」
手元には、ロープの感染状況について書かれてあった。ラズハに来てからは薬の処方が出来、定期検査も受けてはくれているが、それより前、彼女が泥棒として過ごしていた六年間の話を聞きたかったのだ。
「カウンセリングってそういう話をするものなの?」
ロープは疑わしげに私の方を見る。
「まぁ、そういう雑談みたいなものだよ」
と私が答えると、ふぅんと相槌を打ちながらロープはやや視線を逸らした。
「褒められた話じゃないけど」ロープが切り出す。「ロドスにいた時に貰ってた薬が、すごくよく効くのはもう知ってたんだよ。体調が悪い時とかさ……ほら、自分だけなら寝ていればいいやとか思ってたけど、レナが、いたから」
そう語るロープはもう、六年前ロドスにいた時のロープではなく、母親の目をしていた。
「あの子、僕が体調悪いとすっごく心配するんだよね。だからさ……色々自分なりに調べて、出来るだけ、ロドスと同じような薬とか探して……それで、盗んでたんだよ。本当にちょっとだけ。ちょっとだけだよ?」と言いながらも、ロープの耳はますます垂れ下がった。「教育には悪いと思ったけどさ、僕にはそれ以外、どうしたらいいか分からなかったから」
「ロープが子ども想いで良かったよ」
私がそう言うと、ロープは後ろめたそうに俯きながら、耳がピクリと跳ねた。
「でもさ、結局あの子も、泥棒になるって言い出しちゃったよね。僕の真似して木登りした時なんか、自分で下りられなくなっちゃってて。あの子はもう覚えてないだろうけど、僕が帰って来た時には木の上でギャン泣き」とロープは薄ら笑いを浮かべた。「だから僕が助けに登ったら、まだ夕方だったのに星が見えてさ、あんなに泣いてたのにすぐ泣き止んで、一番星だって楽しそうに笑うから……ほんと、子どもって変だよね」
「気持ちは分かるよ」
子育てをしていた六年間、似たような経験は私にもあった。今は大人しいけど、ツルギも結構やんちゃで色んなところをよじ登っていたんだよなぁとか思い出して。
「はぁーあ、僕がもっとちゃんとしてたら、あの子はもっと違う人生だったんだろなって思っててさ〜」
とロープがやる気なさそうに机に突っ伏した。
「ネイルはいい子じゃないか」
そんなロープに私がそう言うと、ロープはクスリと笑った。
「ふふ、まぁね。僕の娘にしては上出来」ロープは私を下から見上げた。「僕が監獄にいた時も、しょっちゅう薬は届けに来てくれてたから、それで感染のヤツは抑えられてたのかも」
多分盗んだものだけどね、と複雑な顔をしながらも、ロープは満足そうに微笑むから、私はそれでいいと思った。
「ロドスを奪還したら、薬の研究を再開するよ」私はロープの目を見つめ返す。「今回の任務、ロープとネイルには重要な役割があるけど、緊張するかい?」
最後に、私はロープから聞きたかったことを質問した。
それに対してロープはすっと背筋を伸ばし、またイタズラっぽい笑みを作ってしっかりと答えた。
「大丈夫、いつもやっていたことだしね」
ロープのそんな意味深そうな笑顔に、私は安心するのだ。