来るべき日が徐々に近づいている今日、訓練室を見に行くと、珍しい人たちが向かい合っていた。
それは、スノーグ戦隊にいるガイターと、ホーン戦隊にいるホウライだった。
「じゃあ一丁やるか!」
と明るく切り出すガイターに対し、ホウライは荒々しく声をあげた。
「今日という今日は決着をつけてやる!」
ホウライはホーンバーンの性格にすっかり似た気性の荒い性格をした鬼の青年だった。
スノーグ戦隊とホーン戦隊のメンバーは、度々ああやって対峙することが多かった。スノーグ戦隊のメンバーは穏やかな性格が多かったが、ホーンバーンに影響が強いホーン戦隊メンバーはホウライのようなブルー生命体が多かったのである。
まぁ、ロドスでもしょっちゅうケンカが起こってはいたが。
少し視線をズラすと、近くにはマホガニーとツルギ、イウニとセネトがいて、まるでスポーツを見守る観客みたいに盛り上がっている様子だった。なるほど、経験を積むには大人たちの戦闘スタイルを見ながら学ぶのもいいのかもしれない。
「こっちから行くぜ!」
先攻を仕掛けたのはガイターだった。ガイターのフェリーンらしい動きで大きく跳ね、拳を作ってホウライに飛びかかる。ガイターは闘士だ。接近攻撃が得意なのである。
「そう同じ手に掛かるかよ!」
対するホウライは両端は金属の加工はしてあるが木製の棍棒を武器としていた。彼は少し珍しい戦法を用いていて、前衛教官という職業と職分を持っていた。棍棒の長さを利用して遠目にいる敵を薙ぎ払う攻撃を得意としているのだ。
「うっ……!」
手加減はしているのだろうが、ホウライが振り回した棍棒がガイターの腹にがっつり命中した時はハラハラした。ホウライの棍棒はわずかにしなる。ホウライはガイターをそのまま薙ぎ払って壁に打ちつけようとしたが、ぐるりと回転してその衝撃を流した。ガイターはホウライの棍棒を掴んだのだ。
一瞬でも呆気に取られたホウライの隙をついて、ガイターは拳を振り下ろした。ホウライは接近戦がやや苦手であった。ホウライが防御姿勢を取ったところで、ケンカは決着を迎えた。
「終わり!」
ケンカの審判役をしていたスノーグラウスが声を張り上げた。ガイターはホウライのクロスした腕の前で拳を寸止めしている。どうやら決着はガイターの勝利らしい。
「あー、また勝てなかったかぁ!」
ホウライはカラリと笑ってその場に座り込む。ケンカをしていた時とはまるで無邪気な目をしているホウライに、本当に人らしい表情をするようになったな、と私は関心した。そこに、ガイターが手を差し出した。
「いい勝負だった! 作戦の時までにはもっと仕上がってるはずだぜ!」
と言うガイターは、トイフェルに乗り込む作戦時、ホウライと共に行動することが決まっているからである。お互いの欠点を補える相棒。私はそうなると信じて二人を同じ戦隊に編成したのだ。
「そうだな!」
ホウライはガイターの手を取って立ち上がる。
「すごいよ、兄ちゃんたち!」
そこにマホガニーが、興奮気味に近づいて二人を褒めに行った。ツルギも一緒に近づいてきて、控えめに頷いたりしている。
「あ、いたいた。おーい、マホガニー!」
「んー?」
訓練室に、一人のループスの男が入ってきた。前にラズハとして医療支援をしていた時に、鉱石病の子どもの治療のためにと自ら傭兵を志願してきたあの時の男、ガンレッタだった。ラズハがロドスの残党と名乗り、トイフェルに乗り込む話を他の戦闘員にも伝えたところ、ほとんどのオペレーターたちはこの艦を降りなかった。降りる者も、どうしても避けられない用事があるとかで降りただけで、私たちのロドス奪還という意思に同行してくれる一人が、ガンレッタだった。
「ループスの技を教えてやりたくてな、ちょっと来てくれるか」
とガンレッタがマホガニーに言っている。マホガニーはすぐに飛びついた。
「うん、行く!」
マホガニーはガンレッタについて行き、つられるようにツルギも走りかけて足を止めた。いつもマホガニーの後ろをついて回っていたツルギが、六歳にしてそれぞれの行動を尊重しようとしていた瞬間を私はたまたま目にしてしまい、成長の嬉しさを感じると同時に、寂しさを抱いた。
そうか。二人はそうやって、別々の道を進んで行くんだろうな。
「ツルギ、俺たちと一緒に訓練するか?」
「ワシらが付き合うぜ!」
小さな背中が寂しそうに見えたのか、ツルギにそう声を掛けたのはガイターとホウライだ。ツルギは頷いたが、観戦していたのは彼女だけではなかった。
「イウニとも訓練してくれよ、兄ちゃんたち!」
「セネトも!」
イウニとセネトだ。
「おーし、じゃあ三人でやるか!」
「本気でかかってこいよ!」
いい兄たちに恵まれた子どもたちを見、私はもう大丈夫だろうと監察室から出ようとした時、ゴン!! とすごい音がして振り向いた。
「え、何があったんだ……っ?!」
「う、動けねぇ……っ」
いつの間にか壁に張り付けにされているガイターとホウライ。彼らの周りには、イウニとセネトの術攻撃の特徴である紫光りする黒い鉱石が蔓延っていた。
見ると、イウニとセネトはツルギの両手をそれぞれ繋いでいてもう片方の手を突き出している。突き出している方向には見動きが取れないガイターとホウライ……。
私は、イウニとセネトの未だ知られざる能力に、頭の中に叩き込んでいた作戦資料の書き換えが必要だと感じた。サンドレコナーが言っていたことが、徐々に分かってきていたのだ。